地理総合サンプル問題[第2問]解説

<第2問問1>

[インプレッション]

おっと、これは定番問題。東大の入試問題でも取り上げられた。東大の入試って問題の質がかなりいいので、今後の入試対策に使えるんじゃないかってふと思った。思考力を鍛えるってそういうことだわ。

[解法]

災害の被害に関する問題。「死者・行方不明者」はどちらかと言えば減少傾向。これって意外かな?最近の雰囲気としては台風や地震の規模が拡大し、死者が増えている(行方不明者も死者に含めてしまっていいでしょう。残念ですが)イメージがあるけど、実際はそんなことないってことだよね。これ、どうしてだと思う?最もシンプルな考えは「救援活動」だよね。日本の自衛隊の任務って最近は外国との戦争(防衛)より、国内の災害の救援活動の方が目立っているし、そういう活動をみて自衛官を目指す人も多いんじゃないかな?外国との戦争は嫌だけと、国内で被災者を救うことには関心がある、みたいな)。迅速かつ的確な救援活動が行われ、さらにハザードマップの利用や避難所の整備などの防災活動、医療の発達によりこれまでなら死んでいた命が救われるなど、さまざまな改善が見られることは容易に想像つくよね。こういった要因が、死者(行方不明者を含む)を抑えることにつながっているのだ。

一方で、「水害区域面積当たりの一般資産被害額」は90年代には低かったのに、2000年以降は急上昇している。「額」なので、例えば物価が上昇すればその分だけ値(金額)が上がるのは当たり前なのだが、みなさんもよく知っているように日本は90年代から現在まで「失われた30年間」という経済停滞があり、1人当たりGNIもあまり上がっていない。物価が上がっていないのだから、この期間の金額の上昇の理由をそれのみに紐づけることはできない。もっと、リアルに被害が大きくなった理由(しかし死者は増えない)を考えないといけない。これについては問題文(会話文)にヒントがあるので、そちらに目を移そう。

ではここからは会話文。選択肢の文章を中心に検討していこう。

アについて。「死者・行方不明者が徐々に減少する傾向にある」理由はなんだろう。これは上述の通り、防災や救援・医療体制が整備されたことが最大の要因。Bの「水害を防ぐインフラの整備が進んだ」がもちろん正解。そもそもAのように「自然減少の頻度が低下した」なんてことがあるんだろうか。君たちの生活の中での肌感覚としてもそういったことなないだろう。台風ひとつ取ってみても、地球温暖化の中で発生頻度の上昇や規模の巨大化などは明らかなんじゃないか。

さらにイを見てみよう。わざわざケイさんのセリフによって「死者・行方不明者がほとんど増えていないのに」と断っていることがポイント。つまり「水害の規模が大きくなった」わけではない。水害の規模が大きくなれば、水害の範囲が増えるだけでなく死者も増えるんじゃない?

結局のところ、死なない程度(?)に被害が拡大している様子をどれだけイメージできるか。Dの文章を読めばピンとくるよね。水害の被害(浸水)を受ける範囲が広がったんじゃなくて、そもそものその範囲の中に「資産」すなわち家屋が増えたってことだよね。今までは河川沿いの低地であるがゆえに、住宅の建設が躊躇(ちゅうちょ)された場所に、都市化の進展により家々が建てられてしまう。見た目は堅牢な建物であっても、地盤は緩く、そして低い。河川の氾濫の際には真っ先に浸水してしまうエリアなのだ。こういった浸水程度で住民が亡くなることは稀だが、床上浸水ともなれば、建物そのものだけでなく家財や自家用車などの損失も大きいだろう。都市化の大きなデメリットの一つである。イにはDが該当。

さらにBとDの文章を検討。災害の頻度や規模には大きな変化はないが(上述したように多少は地球温暖化の影響もあるかも知れないが)、東京圏をはじめとする大都市圏への人口集中が続き、住宅地が本来危険な場所にも拡大。水害を防ぐための堤防工事などもそれに伴って行われており、防災対策も進んではいるのだが、河川氾濫や浸水などの被害から完全に免れたわけではない。現在の日本の都市の状況がはっきりと伺える。

[雑感]

そうなんですよね、これ、東大の問題で出てるんですよ。地理新課程(総合・探求)の対策として東大地理の過去問って有効なんじゃないかって、ふと思ったり。

<第2問問2>

[インプレッション]

なるほど、さらに面白い問題。このサンプル問題って教科書に忠実に準拠している印象。確かに地理総合の教科書って防災を強調しているんですよね。とくに「自助・共助・公助」っていって、それぞれのスケールでの防災活動の重要性が唱えられてる。これは自分の足で避難所まで辿り着く「自助」の考え方ですね。自助だからこそ、適切に自分の頭で考え行動しないといけない。

[解法]

河川が氾濫したからといってやみくもに避難所に逃げるのではなく、あえてマンションに留まることも大事。まずはこういった内容をしっかり読み取ろう。ある程度の国語読解力が必要なのは言うまでもないね(避難も焦らず、そして問題を解く時も焦らずって感じだね。まずは落ち着いて状況を判断し、あるいは文章を読んで)。

祖父の「近くのグランドに避難」という案に対し、母が「あそこは遊水池だよ」と即座に否定しているのがおじいちゃんの気持ちを考えるとちょっと切ない(笑)。そこはやんわりと優しく説明してあげないと。

ま、それはともかくとして、そのグランドはおそらく低い場所にあるんじゃないかな。会話文にもあるように堤防が低くなっていて、真っ先に河川水がそこに流れ出るかたちになっている。農村地域においては河川沿いの水田が同じような遊水池機能を持っているね。住宅地への河川水の流出が防がれる。

さらに妹のセリフ。ハザードマップがあるんだそうな。小学校は高台にあるのだろうか。こちらが避難所になっている。しかし、ここでちょっと考えてほしいんだが、確かにその避難場所そのものは安全なんだろうが、果たしてそこまで安全に着くことができるんだろうか。避難に自動車は使わないにしても、歩いて行く間に深みがあったり、水流の強い場所があれば、それによって怪我などをしてしまう可能性もある(最悪の場合は命に影響)。いたずらに避難すればいいわけではない。そもそも外出自体が危ないのだ。さらに「高齢の家族がいる」という事情もある。

そうなるとせっかく「鉄筋コンクリート造のマンション」に住んでいるのだから、その高層階に避難するという手段はかなり有効なんじゃないか。津波と違って、何十メートルと水流が押し寄せることもない(その津波にしても、津波タワーなど高い建造物への避難はかなり有効)。「2階」ならば確実に浸水を逃れることができる。もちろん救助隊の到着を待たないといけないが、水や食料など最低限のものを運ぶのにも自宅に近いことは便利な条件となる。

こういった状況を考えるならば、正解は4になるよね。避難場所まで安全にたどり着けるかどうかが問題となり、そうでない場合はマンションから出ないことが正解となる。他の選択肢は今回は関係ないだろう。

[雑感]

ちょっとほのぼのとした問題ですね(笑)。即座に発言を否定されるおじいちゃん、しかも「高齢の家族」としての扱いを受け、そのせいで遠方まで避難ができないんじゃないかって思われている。こうしたおじいちゃんの気持ちを考えると、問題に集中できないです。。。

<第2問問3>

[インプレッション]

登場人物ってナツさんだったんですね。今、気づいた(笑)。では先ほどの問題に登場していた妹さんはアキさんだったんだろうか?

今度は津波の問題だね。「20メートル」なんている等高線の近くまで津波が到達していることから想像できるように、極めてスケールの大きな災害であることがわかる。津波の際には、洪水とは違って「2階建のマンション」では死にますよ(涙)。

[解法]

図を用いた問題。こういった問題の場合は、図は後から参考程度に見るに止め、あくまで文章(選択肢)中心で判定していく。

サから。「集落を標高の高い場所へと移動させたことで、昭和8年の津波では被害を受けなかった」とある。明治29年に津波被害を受けている。この時の集落は海域の近く、標高4mより低い。ところで、この海域の形にも注目しよう。半円形となっており、これが深い入江であることが想像される。そう、リアス海岸だね。周囲が山地で(なるほど、等高線も明確に示されており、起伏の大きな山がちの地形であるようだ)複雑な海岸線が続いているのだろう。入江の奥に狭い平野があり、人々の生活の場となる。波が静かで水深が十分であるため、港に適し、漁業が盛んに行われているのだろう。そのためには港に接して(港は示されていないが、沿岸のどこかにあるはず)、集落が立地した方が有利であり、明治29年にはたしかにそのような集落がみられる。しかし、標高4m未満の低地であるために津波によって建物は破壊されてしまったのだろう。

そのため、津波の後、家屋は移動している。濃い黒で示された(しかも規則的に配置されている)建物群で、こちらは標高4mから6mの高所。ここまでは納得。でも、よく見てみよう。これ、昭和8年の津波の被害から免れてる???昭和8年の津波の到達点って標高6mをはるかに越え、20mにまで達しようとしている。多少高いところに建物を作ってもあまり意味がない。これらの濃い黒で示された家々はこの津波においても押し流されてしまったのはないか。「被害を受けなかった」という部分が不整合で、「誤」となる。

次はシ。これはちょっと想像してもらうしかないんだが、実際にこうった高所移転は多くの地域で見られている。震災復興の典型的な事例の一つ。「正」です。同じく復興として、沿岸に「防波堤」が建設されることが多く、この地域でもそれが行われているね。

最後にス。高台移転のメリットとデメリット。昭和8年以降はずいぶんと高所に建物がつくられているようだ。図の西部、標高20mを超える高所だね。急な坂道を登らないといけないけれど、昭和8年規模の津波の被害は避けられる(逆にいえば、「想定外」の津波の被害はやはり受けてしまうのだ。そして「想定外」の津波は決して想定されないものではない)。ただ、港から遠くなったことはどうだろう?そもそも港に近い(そして漁業に有利)であることから、沿岸部の低地に家屋が集中していた漁業集落である。港と家が遠くなり、さらにその間に高低差のある斜面が存在するならば、その「遠さ」は不利な条件となる。「住」である家屋と「職」である港が分離し、漁業従事者の負担が増加する」ことは十分に想像できる。「誤」である。

以上より正解は5。

[雑感]

津波のスケールの大きさを実感する問題。問2の洪水は「2階建て」でも被害を免れたが、この地域ではそうはいかないよね。津波は巨大な水流であり、海から谷沿いに海水が押し寄せ、その範囲にあるものを全て破壊し尽くす。リアス海岸にみられる入江では海水のパワーが狭い湾奥に集中し、そしてさらに周囲が山地で区切られた谷間であるからこそ(図の地域についても等高線の様子から「谷」であることがわかるよね)、水流は巨大化し20メートルの高所まで押し寄せる。そういった津波の破壊力を想像するに足る問題なのです。