2019年地理B追試験第5問解説

<2019年地理B追試験第5問問4>

 

[インプレッション]変わった問題ですね。マイナーな国も含まれていて。国ごとのデータというより、一般的な経済(1人当たりGNIの高低)、自然環境(農地面積割合)の問題として取り組んだ方がいいんじゃないかな。

 

[解法]ちょっと読み取りにくい図だね。こういう問題は、「国」より「指標」に注目するのがコツ。

この表には3つの指標が取り上げられているね。縦軸が「公的支出に占める公衆衛生の割合」、横軸が「農地面積割合」。そして円の大きさが「1人当たりGNI」。

 

ん、待った!!!

 

1人当たりGNIって割合じゃないですか。「高低」で表される。それをこうした円の大きさのような「大小」で示すのは適切ではない。う〜ん、このグラフの醸し出す違和感ってこんなところにあったのか。

 

でもしゃあない。文句を言っても始まらないので、これで解くしかない。

さて、まずは1人当たりGNIを見ていこう。①>ニュージーランド>日本の順。①ってめちゃくちゃ1人当たりGNIが高いじゃないか。これ。北ヨーロッパのアイスランドと思っていいんじゃないかな。北欧の国はいずれも1人当たりGNIが高い。ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク。いずれも人口が少なく、GNIはわずかだが。アイスランドもその仲間だね。

さらにこのグラフを見ると、1人当たりGNIが高い3か国がいずれも「公的支出に占める公衆衛生の割合」が高く、「農地面積割合」が狭い。先進国であり公衆衛生への関心が高い反面、農業には力が入れられていないってことなのかな(最も、北欧にはデンマークという農地面積割合が極めて高い(50%以上)の国もありますが)。ひとまず一つは決定。

さらに1人当たりGNIに注目していくと、③>ジャマイカ>スリランカ>②>④の順。ただ、この順位付けに意味はないかな。いずれも1人当たりGNIが低い発展途上国ということになる。

よって他の要因に注目するしかない。され、それはどこだろう?問題ではキューバを答えさせようとしている。では(アイスランドを除く)他の2つの国とは決定的に異なるキューバのキャラクターっ何だ???

 

そう、それは「社会主義」だね。たまたま今年キューバが社会主義でることをテーマとした問題を模試で作ったところだったので、それを紹介してみよう。

 

問題 次の表2は、いくつかの国におけるGDP(国内総生産)に占める公的教育支出の割合と高等教育(大学・専門学校以上)の就学率を示したものであり、①〜④はカンボジア、キューバ、スウェーデン、日本のいずれかである。キューバに該当するものを、図2中の①〜④のうちから一つ選べ。

 

表2

 

GDPに占める公的教育支出の割合(%)

高等教育の就学率(%)

12.8

41

7.7

62

3.6

63

1.9

13

統計年次は2016年、キューバのGDPに占める公的教育支出の割合のみ2015年。『世界国勢図会』により作成。

 

解けたかな?以下は解説。

 

解説 まずは高等教育の就学率に注目。1人当たりGNIの高い先進国において、この値が高い傾向がある。日本とスウェーデンが②と③のいずれかである。

残った①と④が発展途上国のキューバとカンボジアだが、ここではキューバが社会主義国であることに注目しよう。社会主義は「平等」を中心理念とし、基礎的な教育に関しては経済的な水準を上回る普及が図られている。このためキューバはGDPに住める公的教育支出の割合が高い。①がキューバとなり、残った④がカンボジア。

 

どうかな?極端なデータでホンマかいな?と思ってしまうのだが、福祉国家として名高い北欧のスウェーデンよりも、キューバの方が「〜公的〜」の割合が高いのだ。これには驚くんじゃない?

キューバはもちろん発展途上国で、1人当たりGNIも8000ドル/人程度。中国と同じぐらいの低さで、スウェーデンには遠く及ばない。

でも、国家(政府)が国民を支えるという意識は先進国並みに(むしろそれ以上に)高いのだ。社会主義とは言っても実際には激しい競争社会となっている中国やインドもあるし、独裁国家となってしまっている北朝鮮もあるので、こうした公的サービスへの高い意識が全ての社会主義国にあるわけではない。しかし、キューバこそ典型的な社会主義国であり、それが「公的」の値の高さに現れているのだと思っていいだろう。

なお、もう一つ代表的な社会主義国としてベトナムがあり、ドイモイ政策による市場開放化は進むものの、やはり公的な意識は強い。かつて(経済レベルは低いものの)ベトナムの就学率・識字率が先進国並みに高いというデータを用いた問題がセンターでは出題されている。特別な国ということだろう。

 

以上より、どうかな。キューバはどれなんだろう?そう、一つ目立つ国があるじゃないか。先進国並みに「公的支出に占める公衆衛生の割合」が高い国が。③こそ、キューバなのである。

 

残った②つはよくわからないが、フィリピンって極端に1人当たりGNIが低いわけではない(3500ドル/人。東南アジアではタイより低く、インドネシアと同じ。ベトナムより高い)。一方、マダガスカルは後発発展途上国の多いアフリカの国である。これは1人当たりGNIが低そうだ。また、問題文の注釈に注目して欲しいのだが、「経営耕地外にある採草地・放牧地を含む」とある。なるほど、「牧草地」か。

土地利用で牧草地とあった場合には、基本的にはステップというか短草草原を考えて欲しい。乾燥気候における草原であり、湿潤地域には見られない(湿潤地域では森林となってしまう)。マダガスカルは、南半球の低緯度地域に位置し、年間を通じ貿易風の影響下にある。風上斜面側の東部では多雨となり水田耕作も行われるのに対し、風下斜面側の西部では少雨気候となり、やや乾燥した土地となる。砂漠とはならないが、半乾燥の草原が広い面積を占めている、どうかな?「やや乾燥=草原=牧草地=農地」ならば。マダガスカルでその割合が高いことは納得なんじゃない?④をマダガスカルと判定し、残った②がフィリピン。フィリピンは日本同様に山がちの地形であり、耕地として利用できる範囲は限られている。

 

[難易度]★★★

 

[今後の学習] 嫌いな問題じゃない。丁寧につくられた力作だとは思う。ただ、ギリギリ悪問だったかな。これで難易度が低ければ、まだ納得もできるんだが、難しいからね。捨て問というわけではないんだが。こちらもギリギリって感じかな。

解法でも述べたように、割合である1人当たりGNIを円の面積という実数で表したことは大きなマイナス要素。また、他の2つの指標も。あえてこれを取り上げた理由がわからない。「公的〜」は社会的指標であり(なるほど、1人当たりGNIには比例しているようだ。キューバを除いて)、「農地〜」は自然的指標。テーマも絞り切れていないな。

そもそも「島嶼国」というくくりもよくわからない。島であること以外に共通点ってないし、比較できるような部分もない(だから本問は難しかったんだが)。変な問題だなって気がします。力作とは思いし、苦労して丁寧につくられている雰囲気はあるんですが、ギリギリ悪問&捨て問かなぁ。ま、「キューバ=理想的社会主義国家」ということで。

 

でもそんなキューバも2015年にそれまで断交していたアメリカ合衆国と国交が回復し、悪い意味で自由主義経済の洗礼を受けてしまうこともあるかもしれない。