試作問題・地理総合/地理探究[第4問]解説

<第4問問1>


[インプレッション]

シンプルな問題。内容もオーソドックスですね。僕はこういった問題、好きですが。


[解法]

ブドウの貿易だが、それには拘らず、シンプルに位置で考えればいいじゃない?貿易の基本は「隣国」。多くの国において最大の貿易相手国は近隣国となっている。例えばアメリカ合衆国の最大の貿易相手国はカナダ。カナダがわずか人口4000万人の小国であったとしても、アメリカ合衆国最大のパートナーであることは確固たる事実なのだ。

ア~ウの図をみると、重なる国が多いことに気づくよね。南アフリカ共和国やインドなど。もちろんこれらは判断の材料にはならない。

特徴的なのはアの中央アジアだろう。この面積の大きな内陸国はカザフスタン。位置的にみてロシアとの関係が深いと思わないかな?周囲が全て陸地なので、船舶を利用した輸出が不可能であり、遠方のサウジやカナダへの輸出は困難なんじゃないかな。アがロシア。そう考えると、アのみアメリカ合衆国が外れていることに納得。アメリカ合衆国とロシアとの関係が穏やかなものではないことは十分に想像できるよね。本問は統計年次が2019年であり、ロシアのウクライナ侵攻より時期が速いが、当時から政治的な対立が両国間にあり、貿易関係は希薄出会ったことを想像しよう。過去問で、ロシアの主要貿易相手国にアメリカ合衆国が含まれていないという問題が出たことがある。世界最大の経済規模を有し、貿易学も極めて大きいアメリカ合衆国だが、貿易関係がほとんどない国も存在するのだ。それがロシア(他には経済制裁下にあるイランなど)。


残ったイとウ。ここで見るべきはエジプトだろうね。アフリカの北東端にあるのでわかりやすいんじゃないかな。さほど農業が盛んなイメージはないものの、ブドウが輸出されているようだ。ここから遠方のカナダへの輸出はないんじゃないかな。近隣のサウジへとブドウが輸出されているはず。イがサウジ。残ったウがカナダだね。こちらはブラジルが特徴的。なるほど、ブラジルからカナダなら輸送しやすい。


ちなみにブドウは比較的乾燥によく耐える作物。世界最大の生産国は中国だが、北西部のウイグル自治区でも栽培が盛ん。中央アジアは乾燥地域だが、だからこそブドウがよく栽培されているんだね。エジプトについてもナイル川の灌漑によってブドウが栽培されているのだろう。

他にはもちろん地中海性気候。チリや南アフリカ共和国、アメリカ合衆国(太平洋岸)が栽培に適するね。

ブドウは天然のポンプとも呼ばれ、根っこを地下深くに張り、地下水を吸い上げるのだ。乾燥地域においては(そして地中海性気候の乾季である夏においては)重要な飲料となる。


[解き終えて]

僕が作った模試に出てきそうな(笑)ざっくりとした問題ですが、これはこれでいいんじゃないかって思います。オーソドックスな問題であり、共通テストっぽさや新課程っぽさが全くないのですが、こういった問題も引き続き出題されるってことかな。



<第4問問2>


[インプレッション]

なんの変哲もない普通の問題のように見えるんだが、実態はどうなんだろう?もしかして深い問題なのだろうか。


[解法]

この問題でちょっと気になるのはわざわざ注釈で国名を挙げているところだよね。西ヨーロッパはヨーロッパの主要国(人口が多いドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペイン)が全部含まれ、さらに小さいながらも貿易立国ともいえる商業国のオランダやベルギーも含まれている。その一方で北米は2カ国だけで、カナダが小国であることを考えればほぼアメリカ合衆国だけ。東アジアも国の数は多くないが、しかしここでは中国が含まれていることに注意。GNI世界2位の大国である中国は、貿易額においてはアメリカ合衆国と双璧をなす。輸出入とも世界の中心の一つ。


さて、図を参照しよう。縦が輸出、横が輸入。この図でおもしろいと思ったのは「斜め」の欄。つまり「輸出カ、輸入カ」、「輸出キ、輸入キ」、「輸出ク、輸入ク」。つまり地域内での貿易なのだ。2つの地域のうち、域内貿易が最も多いのってどこだと思う?それは明確だよね。国の数が多く(とにかく、わざわざ注釈で国を挙げているということは、それなりの意味があるということだよ)、さらにEUの自由貿易圏に含まれる国が並び、域内での貿易は活性化している。域内の国同士の輸出や輸入はかなり多いはずだよね。この値が最大である2270に目を付け、カが西ヨーロッパ。


さらに北米なんだが、これ、ほぼアメリカ合衆国オンリーであることがポイント。アメリカ合衆国の貿易の特色って何だった?そう、「貿易赤字」だよね。世界最大の経済大国であり、1人当たりGNIも極めて高いアメリカ合衆国だけれども、貿易に関しては大幅な赤字国であり、輸入が輸出を大きく上回る。もちろん西ヨーロッパ向けも東アジア向けも貿易赤字となっているのだ。


キのカとクに対する輸出額は「316+272」、輸入額は「508+700」。赤字になっている。クのカとキに対する輸出額は「469+700」、輸入額は「377+272」。黒字になっている。キを北アメリカと考えるべきだろう。


クが東アジア。中国は外貨準備高が世界最大であることから知られるように、大幅な貿易黒字国。東アジア全体でみても黒字地域とみていいんじゃない?


[解き終えて]

後から出てくる問4もこういったパズル的な要素を持った問題。なお。問3は資本集約型工業と労働集約型工業という工業の理論に基づいた問題であり、極めて理知的。さらに問5は図と表、そして説明文を有機的に組み合わせた「立体」感のある問題。問1もテーマが興味深い。第4問、いい問題並んでるよ。新課程特有の問題って感じはしないんだけど、いずれも「頭を使う」感覚はある。パズル的であり図表をフル活用し、さらにテーマも面白い。この大問、かなりいいんじゃない?



<第4問問3>


[インプレッション]

パルプ材と古紙の再生紙の問題は23共通テストでも出題されていましたね。定番ネタなのかな。逆にいえば、この試作問題特有の個性というものは感じない。もっと極端なオリジナリティを示してくれないと、特徴が見えてこない。あくまで「普通」の試験なのかな。


[解法]

製紙・パルプ工業がテーマとなっている。原料の木材がまずパルプに加工される。パルプは木の繊維部分だけを取り出したもので、「綿」のようなもの。これを固めて、薄く伸ばして紙になるわけだが、この際に水(製品処理用水)が大量に使用される。さらにこの際に廃棄物も排出されるのだが、これが水を汚染することがある。高度経済成長期の日本では、富士市(富士山からの湧水を使い製紙工業が盛ん)の近くの田子の浦港に「ヘドロ」が溜まってしまい、港が使えなくなった。ロシアのバイカル湖や北欧のバルト海も、周辺で製紙工業が発達しているため、その廃液によって水質汚濁が深刻な地域がある。


さて、本題に入ろう。日本各地の製紙・パルプ工業の分布。本来なら「パルプ工場」と「紙工場」(あるいは両方の設備を備えた工場)は分けるべきだが、ここではそうなっていないよね。AとBは地方に、CとDは大都市圏に、それぞれ立地。


工業は「資本集約型」工業と「労働集約型」工業に分けられるのはわかるかな。地理ではこの2種類の工業群については対立する概念として捉える。つまり、資本集約型工業に労働集約型工業の特徴はみられず、労働集約型工業に資本集約型工業の特徴はみられない。


資本集約型工業とは大資本を投下した巨大な工場施設によって生産がなされる工業種。鉄鋼業や石油化学工業、セメント工業、そして製紙・パルプ工業が該当する。いずれも資源を製品に加工する工業であり、資源産地との結びつきが重要。鉄鋼業や石油化学工業のように原料(鉄鉱石・石炭、原油)を海外に依存する場合には臨海型の立地となり、セメント工業のように国内で自給できる場合には原料産地付近に工場が立地する。製紙・パルプ工業については、国内産の木材を使う場合もあり、輸入材を用いる場合もある。Aのような原料産地付近、Bのような港湾に工場が立地することは納得。


一方の労働集約型工業は、製品に占める労働費の割合が高い工業種であり、その多くは単純労働力に依存している。衣類工業や機械組み立て工業など。国内なら東北地方や九州地方など大都市圏から離れた地方へと工場が進出する。賃金水準が低い(地価も安い)。九州ではIC(集積回路)の工場が空港の近くに立地していることがよく知られているね。ICも機械部品であり、その製造には単純労働力が必要。軽量高付加価値であり航空機で輸送が可能なので、臨空港立地の工業種となる。もちろん、衣類や機械組み立てなどの工場が1人当たりGNIの低い発展途上国へとさかんに進出していることを思い浮かべる人もいるだろう。経済レベルが低く、安価な労働力が得られる。内戦や政情不安などを抱える国は論外としても、社会が安定し、ある程度の教育水準を有し、道路などのインフラが整備された国には多くの労働集約型の工場が進出している。中国や東南アジアなど。近年ではタイの自動車工業やベトナムの衣類工業がイメージしやすいね。


この資本集約型工業と労働集約型工業を対立した概念として捉えること。資本集約型工業を特徴づけるものは「資源」の存在。労働集約型工業は資源を必要としない工業なのだ。そして労働集約型工業を特徴付けるものはもちろん労働力。資本集約型工業は労働力は必要としないのだ。


これを踏まえて選択肢をみてみよう。

1について。国内で木材が得られる場合には、原料地付近に工場が立地する。原料である木材にくらべ、製品であるパルプは綿状であり運びやすい。原料に比べ製品が軽い(輸送しやすい)工業は「原料立地(原料地指向)」型の工業となる。セメント工業と同じだね(石灰岩は重く、セメントは軽い)。北海道は木材産地であり、Aの工場立地には疑問はない。

2について。木材は自給率が高いわけではなく、輸入も多い。原料を輸入に依存する工業については臨海立地となる。輸入に適した港湾に工場が作られる。鉄鉱石と石炭を輸入する鉄鋼業、原油を輸入する石油化学工業。製鉄所や石油化学コンビナートはいずれも臨海立地(臨海指向)型の工業である。輸入木材を使用するパルプ工業も同様であるだろう。

3について。「安価な労働力」は労働集約型工業のキーワード。衣類や機械組み立てなど。製紙・パルプ工業は資本集約型工業であり、労働力はNGワード。これが誤りだね。そもそも東京のような大都市圏に安価な労働力は存在しない。

4について。こちらも大都市圏だが、こういった大都市でこそ「原料」となる古紙が得られるのだ。古紙とはちょっと異なるけれど、都市で廃棄される電気製品などには多くのレアメタルも含まれており、その回収と再利用も進んでいる。「都市鉱山」と呼ばれる所以。紙についても都市は重要な「資源産出地」と言えるのだろう。


[解き終えて]

オーソドックスな工業立地の問題であり、僕は好きです。良問だと思う。この問題が難なく解けた君は地理的なセンスがある。労働集約型工業と資本集約型工業の違いがわかり、この二つが対立する概念であることをキチンと理解している。ただ、やっぱり本問についても思うんだけど、図が立派すぎるんだわ。細かいところまで工夫して描かれており、とてもわかりやすい。でも、問題を解く上ではこの図はほとんど利用されていないんだよね。図表と問題そのものの噛み合わせが悪いのが、この試作問題の特徴。ブラッシュアップが足りないような気がするんだよね。時間が足りなかったのかな。



<第4問問4>


[インプレッション]


これはパズルみたいな問題だね(笑)そもそも地理の問題ってパズルなんだけれど、本問はとくにそういう雰囲気が強いかな。日本の地名が登場しているので、中学生でも十分解ける(小学生でも!)。弟さんや妹さんに解かせてみると面白いと思うよ。きっとできるはず。


[解法]

国内の交通手段の問題は23年の共通テストでも登場している定番問題。ただ、こちらの方が問題としては面白いかな。パズルのように理詰めで解く。


まず気になる数字。東京を起点して考えた場合、サではBに向けて「24」、シではAに向けて「38」というそれぞれ小さな数字。この2つ、何だと思う?


一つは東京都から北海道への「鉄道」だと思う。北海道新幹線は通じたけれど、時間的な面でもコスト的な面でも飛行機を使うのが一般的であり、北海道にわざわざ鉄道で迎う人はいないんじゃないかな。さらにもう一つは東京都から愛知県への「航空」。東京都と愛知県は距離が近く、航空機を使うと空港へのアクセスを考えるとかえって時間がかかってしまうよね。新幹線なら東京駅から名古屋駅までさほど時間もかからない。


ということは、AとBが北海道か愛知県となるので、Cは大阪府となる。東京都から大阪府は、サでは「655」、シでは「2054」である。さて、これはどちらが鉄道、どちらが航空だと思う?


東京都と大阪府は新幹線によってつながれているよね。愛知県のところでも触れたけれど、航空機は確かにスピードは速いものの、空港へのアクセスまで考えれば、意外に時間はかかってしまう。これに対し、新幹線は東京駅と新大阪駅を直接繋ぎ、航空機より手軽名乗りものといえる。この2都市間を結ぶ交通手段としては新幹線つまり鉄道の方がメジャーなんじゃないかな。とりあえずシを鉄道、サを航空と置いてみよう。


シが鉄道ならば、東京都から北海道への鉄道は少ないのだから、Aが北海道となる。残ったBが愛知県。これで矛盾はないだろうか。大阪府と北海道は「1」、愛知県と北海道は「1」。なるほど、北海道から遠く離れた2府県からは新幹線などを利用するより、航空機を利用した方が早くてコストも安い。数値が1となるのは納得だね。


一方で、大阪府と愛知県の間は鉄道の値が大きいが、距離が近いことを考えれば妥当だろう。新幹線以外の路線もある。


サに戻って、こちらが航空機。なるほど、愛知県と大阪府の間はゼロになっている。ここは鉄道の方が便利。東京都からみると、北海道との間の方が大阪府との間より人数が多い。ただ、航空と鉄道の和を比べると、東京都・北海道が「1254+38」、東京都・大阪府が「655+2054」で、やっぱり大阪府との間の方が値が大きい。


[解き終えて]

三大都市圏と北海道との交通をテーマとしただけのシンプルな問題なんだけど、地域ごとに明確な特徴がはっきりあって面白いよね。東京都からみて、航空の北海道、鉄道の愛知県、両方の大阪府。これ、パズル的に頭を使えば解けるので、ぜひ小中学生に解いて欲しいよね。って言うか、今思ったんだけど、この問題って中学受験で問われそう。中学受験対策をしている小学生なら軽々解いてしまいそう。むしろ逆に、大学受験生こそ中学受験の問題を解けなかったりするよね(小学生の問題やのに・笑)



<第4問問5>


[インプレッション]

単に図を見るだけの問題と思いきや、精緻な表も付されており、なかなかに考える問題になっていますよ。でも、それだけに解けた時の快感は素晴らしい。僕はかなり好きな問題。ネタとしては地理A=地理総合に偏っている印象です。


[解法]

通信の問題。これは地理総合の範囲だね。地理探求では出てこない。

1について。図を参照。ヨーロッパ付近をしっかり見て欲しいのが、イギリスに入り込んでいる線は少ない。多くがヨーロッパ大陸部へとつながっている。誤り。英語圏であるイギリスこそこういった通信については重要かと思っていたけれど、そうでもないんだね。これが正解です。

2について。これは図をみてもわかりやすいよね。南アメリカからアジアやヨーロッパへと直接つながる線はなく、北米へと集中している。北米を経由して世界と繋がっているのだ。

この様子が表からも判定できるので確認してみよう。ブラジルの通信先は、同地域(ラテンアメリカ)以外はほぼ全てが北アメリカ。ブラジルから一旦北米に繋がり、そこから世界へと発信している様子が数字上からでもはっきりわかる。

さて、ここで図だけでなく、表でも確認したことが伏線になっているんだね。うまくできた問題だと思う。このことは選択肢4で登場するので、まずは先に選択肢3をチェックしよう。


図でアメリカ合衆国とアジアとの間のケーブルを確認してみてほしい。そのほとんどが「アジアの入り口」である日本に最初に達しているよね。そしてここからさらに大陸部へとつながる。朝鮮半島へ向かうケーブルもあるけれど、中国沿岸の中央部(シャンハイ付近)や南部(ホンコン周辺)へとつながっているものが多い。太い束になっているね。とくにホンコン付近の束はそのまま東南アジア方面へとつながっている。このホンコン~東南アジア間のケーブルが最も本数が多そうだ。ここでホンコンを中国と見なすかどうかで判断が分かれるのだが(表ではホンコンは中国とは別に扱われている)、国としてはホンコンは中国の一部であることには間違いないし、そもそもすでに選択肢1が誤り(答え)であることは分かっているので、この選択肢が正文であることは間違いない。ホンコンも中国の一部であり、下線部3の内容は、確かにその通りなのだ。


最後に4。ここではそのホンコンが主役となっている。「シェア1位」であり「アジア域内と複数の海底ケーブルで結ばれ」ている。下線部ではないのでこの箇所が正しいことは判定の必要もないのだが、一応表や図から確認しておこう。そして下線部であるが「日本や韓国。ASEAN諸国との国際データ通信が多い」とある。この部分こそ図でアバウトに見るのではなく、表でしっかり数値として捉えてほしい。ホンコンの通信先の割合はアジアが「82.9」%と極めて多い。しかもホンコンのシェアは世界全体の14.3%なのだから、「0.143×0.829」で、ホンコンのアジア向けの通信の割合は世界全体の10%を超えている。


ただ、その一方で興味深いのは中国のアジア向けの通信先の割合。これ、意外なぐらい低く「25.6」なんだよね。中国からは北米の割合が最も高い。それに対し、日本はアジア向けの割合が過半数に達し、もちろん北米向けも多いものの、おそらくホンコンとのつながりもかなり多いはず。アジアの海底ケーブル網の中心にあるホンコン。日本との関係が深く、さらに(韓国やASEANは表似ないので、こちらは図から想像するしかない)図を見る限り、朝鮮半島(韓国)やASEANとも多くのケーブルが繋がれているようだ。もちろん正文だね。


[解き終えて]

地理は「中国アゲ」の科目であり、中国に関する統計はポジティブなものが多い。本問もその代表例だろう。アジアのデータ通信の拠点ホンコンであり、言うまでもなくホンコンは中国の一部。中国を中心として日本や韓国、ASEANのデータ通信編は整備されている。中国について色々な感情を持つ人もいるだろうけど、そうした主観は脇に置いておいて、「地理は中国の凄さを体感する科目なのだ」と割り切るぐらいでいいと思うよ。