試作問題・地理総合/地理探究[第1問]解説

<第1問問1>


[インプレッション]

僕はいつも共通テスト/センター試験は第2問からスタートし、最後に第1問を解くようにしており、今回もその順で解いています。だから今回もこの第1問を解く前に他の問題を解いてしまっているんですが、正直どうかな?って感じのパッとしない印象でした。でも、どうなんだろう?この第1問、めちゃめちゃ工夫された良問ばかりではないですか。毎回このクオリティは無理でしょ、っていう力の入った問題が続く。この試作問題、第1問ばかりに重点が置かれ、そこで力が尽きてしまったんだろうか。第2問以降とは全く色合いの違う、良問だらけです。その中でもとくに出色なのが、この問1。僕は今回のテストの中でも一番好きかもしれない。

唯一惜しいのは「GDP1ドル当たりの難民受け入れ数」って言い方がわかりにくいところかな。文章の中で「経済規模の大きい国はより多くの難民を受け入れるべき」といった感じの文を付け加えておくと意味が伝わりやすかったと思うんだけどね。


[解法]

難民に関する問題だが、数字に関する問題(計算問題)になっている点が興味深い。

戦争と難民についての報道が日本ではウクライナにばかり偏っている印象なのだが、僕はずっとそれはおかしいんじゃないかって思ってた。2010年代初頭にシリアで内戦が勃発し、それから10年以上この国では数えきれないほど莫大な人数の難民が流出している。マスコミの功罪や大国の陰謀を語る気はないけれど、あまりに我々は目につきやすいわかりやすいところばかりに気を奪われ、世界ではより深刻で凄惨な状況が生じていることを見過ごしているんじゃないかって、そういうことを思ったりする。本問では、そうしたウクライナ以外の内戦や難民について大きく取り上げており、僕はそういった「世界の見方」こそ地理という科目が提示するもんなんじゃないかって思う。


では各選択肢を見ていこう。

1はまさにシリアのことを言っている。正文。もちろんシリア以外にも難民が生じていることにも注目しよう。

2もその通りだろう。否定するべき箇所はない。これが世界の姿である。

では3はどうだろう?これは判断基準が難しい。難民発生地域から離れたヨーロッパのドイツも一定数の難民を受け入れている。ただ、2000年では「アフガニスタンからイラン」であったり。2010年では「シリアからトルコ」などの、隣国への難民の移動が顕著。人々は自分の足で国境を越え、近隣の国へと逃げているのだ。そういった状況も透けて見える。正文だと思う。


1から3が正文であるので、4が怪しい。この選択肢をしっかり読解しよう。ここで登場する言葉が「GDP1ドル当たりの難民受け入れ数」。これ、どういった意味だろう?考えてみよう。

「GDP」は「GNI」のことなので、馴染みのあるこの言葉に変換して考えた方がいいだろうね。「GNI1ドル当たりの難民受け入れ数」として、この「1ドル当たり」って言い方がちょっと変わっている。「GNI当たりの難民受け入れ数」ならばシンプルに「難民数÷GNI」でいいわけだからね。


でもこの言葉については深く考える必要はないんじゃないかな。例えば「耕地面積当たりの小麦生産量」なんていう言い方をするけれど、これを「高地面積1ha当たりの生産量」という場合もあるし、「人口当たりの肉類供給量」というのを「人口1人当たりの肉類供給量」と言ったりする。つまり、この「1ドル」や「1ヘクタール」、「1人」という部分にはたいした意味はなく、これらはカットして考えて問題ないっていうこと。「GNI当たりの難民受け入れ数」で十分。


では、改めてこの言葉について考えてみよう。GNIは国民総所得のことだが、その国の「経済規模」を表す。イメージとしては、その国が持っているお金の総額っていうこと。難民受け入れ数を考える際に、なぜ経済規模が大切になるのか?これについてはみんなも考えて欲しいのだが、要するに「お金をたくさん持っている裕福な国は、その分だけたくさんの難民を受け入れなさい」ってことなんだと思う。全ての国が平等に「難民を受け入れる」負担を負う必要がある。GNIの小さな国は少ない難民を、GNIが大きな国はたくさんの難民を、それぞれ受け入れる。GNIと難民受け入れ数は、原則として比例するべきだ。って考え方なんじゃないかな。僕はそう思う。


そのように考えると、下線部4の内容を捉えやすい。ドイツとルワンダは同程度の難民を受け入れているのだそうだ。それならば、ドイツとルワンダは同じ程度のGNIであるべきだよね。経済規模が近いから、難民受け入れ数も同じぐらい。でも、実際はどうなんだ?ドイツは経済大国であり、GNIは世界4位(GNI上位国は覚えておきましょう。1位アメリカ合衆国、2位中国、3位日本、4位ドイツ。それに対しルワンダはみんなも名前ぐらいは聞いたことあるんじゃないかな。アフリカの小国でありGNIは小さい。


つまり、難民数をGNIで割った値(GNI当たりの難民数)は、ドイツの方が低く(小さく)なり、ルワンダの方が高い(大きい)計算となる。ドイツは経済規模に比して難民の受け入れ数は少ない。もっと多くの難民を受け入れるべきだ。ルワンダは経済規模が小さいにもかかわらず多くの難民を受け入れている。負担があまりに大きい。こういうことだよね。


選択肢4は「ドイツの値の方が小さくなる」と考えるべきであり、これが誤り。


どうだっただろうか?やっぱりちょっと難しかったかな。1から3が正しいので、4が違っていそうだなっていう感覚的な解答で十分。あるいは、地理の問題って数字や計算が出てきたら、絶対にそれが怪しいから4が誤りだっていう適当な判断で答えてくれてもいい。「大きい」を「小さい」にひっくり返したら、どうせ正しい文になるんやろうなっていう、偏見(?)で解くのも問題ない。どんな形でもいいから正解に辿り着いて欲しかった。でも、上記のように数字としてしっかり考えるととても納得ができるでしょ?さらに言うならば、GNIの大きな国はそれなりの負担を背負う義務があるわけで、難民も多く受け入れるべき。それなのに「GNI世界3位」の国は何もしていないじゃないか?それはどうなんだ?っていう強いメッセージをこの問題からは感じる。ロシアとウクライナの戦争の話題は毎日テレビを賑わせているけれど、その前に10年以上も続いているアフガスにスタンやシリアの状況に対して、なぜこの「GNI世界3位」の国は耳を塞いでいるのだ?なぜいつまでも見て見ぬふりをしているのだろう?そういう強いメッセージを発しているのが、地理という科目なんだと思う。


[解き終えて]

2つの点において素晴らしい問題だと思う。一つは「数字に基づいた問題」である点。経済規模の指標であるGNIについての理解が必要。ドイツが世界4位のGNIを有する国であると言う統計的知識は絶対に必要であるし、そもそもGNIって何なんだっていう理解も大切。「GNI当たりの難民受け入れ数」という指標を考える場合、難民受け入れ数が同じならばGNIが大きい方がこの指標は小さくなる。こういった数字に基づく考え方は地理の本質だと思う。

もう一つは強いメッセージ性。難民受け入れの負担は、難民発生国の近隣の発展途上国で過度に大きくなり、経済的に余裕がある国は積極的に難民受け入れとその保護に努めないといけないが、現状でその理想からは遥かに遠い。経済大国や先進国はなぜこういった状況を無視しつづけているのだろう。世界から見た時に、「日本ってお金持ってるのに、難民に対して何もしない国なんだな」って思われてる。この状況はどうするべきなんだろう。


<第1問問2>


[インプレッション]

これもかなり力が入っている問題だな。普通の共通テストでここまでガッチリとした問題は登場しないよね。とくにこの図はスゴいと思う。詳細な資料やデータをもとに緻密につくられた図。ここまで優れた図は教科書や資料集でも見たことない。このレベルで毎回試験をつくるんだったら、あまりに作問者への負担が大きいんじゃないかって不安になってしまうほど。マジでこのレベルをキープするつもりなのか。


[解法]

1について。数字に関する内容だね。コンゴ民主が「580」、ブラジルが「430」。この2カ国の合計の値が、その他の「838」を越えている。「半分以上」で間違いない。正文。

2について。これはちょっと内容が判断しにくいよね。保留。あとから検討しよう。

3について。「最も」が気になるんだよね。こういう言い方が誤りになるケースが多いことは、君たちも体感的に理解していると思う。図中に「完成品メーカー」とある。メーカーだけでも「素材メーカー」や「部品メーカー」がある。完成品メーカーが提供する「最終製品」が我々の手元にわたる。この図のさらに下には「消費者」があるはずなのだ。消費者である我々はそもそも製品にタンタルが使われていることすら知らないし、ましてやそれが紛争鉱物であることなど知るはずもない。消費者に近い位置にある完成品メーカーがそうした事情をどこまで理解しているだろうか。

部品メーカーですらその辺りは怪しい。タンタルが利用されていることについては素材メーカーは理解しているだろうが、それに紛争鉱物が含まれていることについてはどれだけ意識されているだろう。

やはりこうした鉱物のルーツについてよく知っているのは、産出地に近い(つまりこの図の上の方に近い)貿易業者なんじゃないか。少なくとも、図の最も下に位置する完成品メーカーが


[解き終えて]

これだけ丁寧につくられたボリュームのある問題をこうした試作問題で使ってしまうのはもったいないなって印象。逆に言えば、試作問題だからこそこういった力の入った問題を提示できたのかも。本当に、このレベルで毎年問題を作るつもりなんだろうか。それはちょっとキツいような気がするけれど。

ただ、本当に問題のクオリティは高いので、みんなもこの問題のエッセンスを十分に味わって欲しい。そしていろいろなことを考えて欲しい。今、世界で何が起こっているのか。


<第1問問3>


[インプレッション]

ザンビアなんて登場してて驚いた! でも問題をちょっと見たらザンビア全然関係ないね(笑)マイナーな国は全く知らなくていい。地図帳なんか見なくていいよっていうメッセージだね。


[解法]

オーストラリアだけ特定すればいい。イに該当するね。まず「移民国家」である点。現在のオーストラリアで多数を占めるのはヨーロッパ系の人々であり、移民の子孫である。先住のアボリジニの人口は少ないね。

「1970年代」もキーワード。かつてオーストラリアは白豪主義政策がとられていたが、1970年代に撤廃され、多文化主義へと転換した。それまでは旧宗主国イギリスとの関係がとくに深かったが、イギリスのEC加盟によってこの旧宗主国と旧植民地との関係は薄れ、日本を始めとするアジア地域との連携が深まった。さらにアジアからの移民を多く迎え入れ、アボリジニの権利を回復させるなど、多様な文化が尊重されるようになった。現在では、特に中国との関係が深くなるなど、新たな段階へと入っている。


このことを考えると、Bがオーストラリアなんじゃないかな。1970年データはないけど、1980年の値が大きいことが参考になる。「1970年代のベトナム戦争で発生した難民」である。以降は、経済規模の小ささ(問1で触れたように、経済規模(GNI)の小さい国は難民を受け入れる余力が小さい)や、難民の流出先である紛争発生地域から遠く離れている(こちらも問1で扱ったけれど、難民は近隣の国へと流出する)などの理由で、難民の受け入れは比較的少ない。中国などからの移民は多そうなんだけどね。


アは「2002年」がキーワードとなっており、この時期の受け入れ数が多いA。ウは「2010年以降」とあり、Bが該当。


[解き終えて]

ザンビアが登場していてビックリしたが、問題を解く上では全く関係ない。オーストラリアだけ分かれば十分で、その内容も難しくない。ア~ウとA~Cの対応も、ア~ウに年号が示されているので簡単。


<第1問問4>


[インプレッション]

ちょっと現代社会や政治経済っぽい問題とも思うのだが、これこそ「地理」なんだろうね。総合/探究ではこういった雰囲気の問題が増えそう。


[解法]

Eは内戦が生じている国の中で、争いをしずめ、国家体制の安定を図る活動。bが該当。

Fは国外に流出した難民を、自国に受け入れてからの保護。aが該当。


カとキについては、キに「文化」って書いてあるもんね。これが「多文化共生」でいいと思うよ。受け入れ国の中で、多様な文化的背景を有する難民に対し十分なケアを与える。yが該当。

だからもう片方のカはxとなる。例えば国連のような国際組織が世界各国に支持を与え、役割を分担させる。


[解き終えて]

これも丁寧につくられた良問に思います。文章読解力が最も重要な点で国語(現代文)の問題っぽいとも言えるのですが、共通テストではこうしたパターンの問題が増えているのも事実だよね。