2023年共通テスト地理B[第1問]解説

2023年共通テスト地理B本試験第1問

 

<第1問問1>

 

[インプレッション]

これは意味がわからない問題。共通テストになってから、しょっぱなの第1問問1って変な問題多くない?僕はいつも第2問からスタートするようにしてるけど、君たちも最初にこんな変わった問題にぶち当たって心を折られるより、無難な(統計が中心になっているので解きやすいのです)第2問から解き始めた方が良くない?

 

[解法]

よくわからん。こういった図も初登場だし、言葉の定義も曖昧。「モンスーン」って何?いや、もちろん季節風のことなんだけど、モンスーンは夏は海から冬は陸から吹き出す風で、いつでも常に吹いているものじゃないの?時間スケールって関係ある?正直どうなんだろうね、この問題。気を衒って、変わった問題を出そうっていう妙な執念しか感じないな。

手探り状態ですが、とりあえず解いてみようか。「空間スケール」の方がわかりやすいと思う。例えば「地球温暖化」ってあるよね。地球全体に及ぶ環境問題であり、決して地域限定のものではない。空間スケールの最も大きな4が地球温暖化。「時間スケール」については100年単位のもの。長期間にわたる環境問題である。

逆に地域限定のものを考えてみようか。影響範囲は極めて狭い。これが「低気圧・台風」なんじゃないかな。例えば台風ならば南シナ海やフィリピン周辺の海域で発生し、日本列島や朝鮮半島へと移動する。この範囲は地球全体からみれば決して広いものではない。空間スケールの小さい1がこれに該当。時間スケールは数日間から一週間程度といった感じだろうか。台風の発生から成長はこれぐらいの時間スケールだと思う。

残った2と3がモンスーンか、エルニーニョ・ラニーニャ現象。エルニーニョ現象はわかりやすいと思う。太平洋東部の低緯度海域(南米ペルー沿岸)の水温が上がり、周辺では集中豪雨や海中の栄養分不足などの事象が生じる。そうすると、エルニーニョ現象の空間スケールって小さいことになるね。でもちょっと待って。ここではラニーニャ現象も含まれている。ラニーニャ現象は、エルニーニョ現象の反対だったかな。太平洋西部の低緯度海域(インドネシア付近)の水温が低下し、干ばつなどの被害が生じる。ラニーニャ現象の範囲も考えるならば、太平洋全域の低緯度一帯が該当し、これは比較的広い範囲なんじゃないか。いや、それも違うぞ、それどころじゃない。例えばエルニーニョ現象が生じた時には日本で冷夏?だったかな、気温変化といった影響があるという。これ以外にも、多雨や干ばつ、気温の上昇や低下といった世界各地の異常気象を誘発するものがこのエルニーニョ現象と言われているのだから、空間スケールは実はかなり大きいんじゃないか?2と3を比較し、空間スケールの値が大きい3がエルニーニョ・ラニーニャ現象となる。

残った2がモンスーンなんだが、これはどういうことなんだろう?モンスーンには季節風以外の意味もあり、インドでは季節風によってもたらされる「雨季」をモンスーンという場合もある。つまり「インドはモンスーンの時期に入りました」みたいな言い方をするわけ。雨季の期間は数ヶ月から半年程度であり、もちろん1年は続かない(一年の間に乾季もあるはずだ)。2をモンスーンとすると、時間スケールは妥当。さらにモンスーンの範囲はいわゆる「モンスーンアジア」である。東アジアから東南アジア、南アジアの季節風の影響を強く受ける地域で、夏には多雨となる湿潤アジアである。どうだろう?空間スケールも、エルニーニョ・ラニーニャ現象より狭いとみていいんじゃないか。改めて、2を正解とする。

 

[雑感]

ちょっとこの問題はないなぁ。どうで出題するならもっとわかりやすい「地球温暖化」にするべきだわ。あるいは言葉の定義をしっかりとすること。モンスーンについては「インドにみられる雨季のこと」としたり、エルニーニョ・ラニーニャ現象については「これらが原因となって生じる世界各地の異常気象も含む」としないといけない。地理は理系科目の側面もあるのだから、こういった定義は厳密であるべき。問題としてあまりに不親切。

 

 

<第1問問2>

 

[インプレッション]

海流の向きは定番問題。これは確実に。ただマングローブとさんご礁は難しい。これらはスケールの小さな地形・植生であり、こういった大陸サイズの地図において示されるものではないと思う。ある程度、勘で解かないといけないのかな。

 

[解法]

問題文が興味深い。「海水温」、「海水の塩分」、「海水の濁度」によってさんご礁やマングローブの分布が決定するそうだ。いずれも熱帯域にみられる地形・植生であるので海水温が高いことは共通。他の2つの条件が面白い。

 

さんご礁は「海水の塩分」が濃い(というか、普通の海水。淡水や汽水ではいけない)ことが条件。さらに透明度の高さも必要。濁度は低い。さんご礁は基本的には石灰岩という岩石であり、これが分布するのは岩石海岸。また海水は透明でないといけないので、外海に面する波の高い海岸が適する。泥などの濁りは少ない。

 

マングローブはその逆で「海水の塩分」は薄い、というか汽水が適する。汽水とは淡水と塩水が入り混じったものであり、マングローブは河口の海岸にて成長する。海の水(塩水)と河川の水(淡水)が混じっている。さらに河川が有機物が豊富な土砂を運び、河口に堆積するのだが、その上にマングローブは発達する。つまり泥地の上に木々が広がることになり、透明度は低く「濁度」は高い。泥地には多くの貝類や虫の生活の場となり、それを餌として求める鳥たちも多く訪れる。豊かな生態系が育まれる。また河口であるので、入江に位置することが多く、波は静か。

 

このようにさんご礁とマングローブは全く成立の条件が異なる。これを意識してアとイを判定してみよう。とはいえ、この2枚の図、さほど差異はみられないのだ(涙)。どこに注目すればいい?

 

例えば図の北の方だろうか。北アメリカから突き出したフロリダ半島周辺を見ると、アが比較的点が少ないのに対し、イでは多くの点によって黒く塗りつぶされたような状態。上述したように、汽水が必要なマングローブは陸地に沿った深い入江に分布するのに対し、さんご礁は波の荒い外海に面する海岸。さんご礁の方がマングローブより沖合に発達することが多く(もちろんそれでも海底まで十分な日光が及ぶ浅い海域に限られるが。さんご礁の発達のためには日光が必要なのだ)、その範囲は広範となるはず。アでは島にくっついた形でマングローブが発達するのに対し、さんご礁はそれよりやや沖合まで伸びているので、黒点の範囲も広くなっているのでは。アをマングローブ、イをさんご礁とする。

 

さらに注目するべきは図の北西部。メキシコから中央アメリカにかけての太平洋沿岸。アでは海岸に沿って点が分布するのに対し、イではこの海岸線は空白地帯となる。これ、どういうことだろう?アがマングローブなので、この海岸の入江に沿ってマングローブが分布しているってことなんだろうね。それに対し、イのさんご礁ってどうなんだろう?次の図3で取り上げるけれど、ここは実は寒流のカリフォルニア海流が流れていて、水温が低いんだよね。外海に面する海岸に発達するさんご礁は、その「冷水」の影響を直接受けてしまい、発達が難しくなる。波が荒い海岸であるべきなのだが、その波の水温が低ければさんご礁は形成されない。マングローブはそもそも深い入江に発達するものなので、外海の水温の影響は受けにくい。このように解釈すると何の矛盾もない。やはりアがマングローブ、イがさんご礁なのだ。

 

ここまで来ればあとは簡単だよね。海流の流れは基本中の基本。北半球では大きく時計回り(高緯度側に小さな周回があるので厳密には「8」の字だけど)、南半球は大きく反時計回り。太平洋側ではカリフォルニア海流は北から南へ、ペルー海流は南から北へ流れ、大西洋側ではメキシコ湾流は南から北へ、ブラジル海流は北から南へ流れる。方向はAからB

 

[雑感]

マングローブとさんご礁は対比的なものとして登場するので、問題の出題意図としてはよくあるものだけれども、こういった小縮尺の大陸図でその場所を特定させるのはどうだろう?さすがにちょっと難しいかな。

海流の流れは基本なので、とくに問題ないでしょう。冷たい海水を暖かい海域へ運ぶのが寒流(カリフォルニア海流、ペルー海流)、暖かい海水を冷たい海域へと運ぶのが暖流(メキシコ湾流、ブラジル海流)。

 

 

<第1問問3>

 

[インプレッション]

今回の試験で唯一都市名が登場している問題。地名や都市名ばかり覚えている人がいるけれど、ほら、出たところで1問程度なんです。コスパ悪すぎでしょ?それに本問にしても、オーストラリアとロシアという国名さえわかれば十分に答えられる。要するに「ロシア=北半球」の図、「オーストラリア=南半球」の図を探せばいいんだから。パースやヤクーツクなんていう都市名を知っていると、逆に答えに迷うかもしれない。

さらに言えば、こういった気候判定の問題において「ケッペンの気候区分」の知識が必要になることも有り得ない。気候は徹底して理論に基づいて考えるべきで、「覚える」ことはマイナスにしかならない。

地名・都市名、ケッペンの気候区分は絶対に出題されない。そこのとこ、共通テストは徹底しているね。

 

[解法]

こういったグラフは雑にみるのではなく、必ず補助線を引いて細かく見ていくことが必要。ボリビアという国は知らないので、オーストラリアとロシアにのみ注目。都市名は共通テストでは出題されないので、無視してください。

それぞれの図では、横軸に月が示されている。これを手がかりにオーストラリアとロシアを探してみよう。オーストラリアは南半球なので、7月の気温が低く、1月の気温が高い。ロシアは北半球なので、7月の気温が高く、1月の気温が低い。

 

縦軸が時刻。12時に沿って横線を引いてみよう。例えば東京では1月の12時は10℃ほど、7月の12時は30℃に近い。

 

カの判定。1月の12時は「+」に近い。この等値線を、例えば標高を表す等高線のようなものだと思えば、ここに山頂があるということ。高い値。それに対し7月の12時は低い値となっている。とくに7月の24時、6時などは「-」の等値線の範囲内にあり、ここはいわば「谷」の部分。気温が低いのだ。1月が高温、7月が低温ということで南半球の性質がはっきりと表れている。オーストラリアに該当。

 

キの判定。全体に等値線が横向きの線となっており、112時の温度と712時の温度がほとんど同じ。これはどこだろう?赤道に近いところなのではないか。オーストラリアでもロシアでもない。

 

クの判定。1月の12時は「-」である。ここに「谷」があり、大きく落ち込んでいる。気温は低いと見られる。7月の12時は「+」の等値線の内側にあり、「山頂」である。気温が高いということではないか。1月が低温、7月が高温なので北半球。これがロシアである。

 

どうだろうか。複雑と思われるグラフだが、見るところをしっかり決めて(つまり同じ時間における1月と7月の気温の違い)しまえば、簡単に読解できる。都市名は「知らない」と開き直って、さらにボリビアというマイナーな国の存在も切り捨て、オーストラリアとロシアだけで判定すればいい。どう?簡単でしょ?そして何てスマートな解き方だと思わない?これが共通テストの気候ジャンルの設問の解き方なのだ。

 

[雑感]

凄い問題だよね。都市名を出しておきながら、それが全く関係ない。普通の地理講師ならば、「オーストラリアのパースは地中海性気候で、、、」とか「ロシアのヤクーツクは気温年較差が大きく、、、」のように冗長な説明を続けてしまうわけだけれど、君たちはそれが全く意味のないことだと気づくでしょ?北半球と南半球の違いさえ明確にすれば簡単に解答に達するのだ。こういった「賢い」解き方をみんなにはして欲しいし、共通テスト地理にはこういった問題がいくらでもある。面白いでしょ?

 

 

<第1問問4>

 

[インプレッション]

第1問の自然環境にはこのように大地形に関する問題がしばしば登場し、その多くは知識問題だったりする。でも全然慌てなくていいよ。出る内容はほぼ決まっているし、過去問をしっかり解いて対策すれば十分に解答できる(その代わり、過去問は20回分ぐらいは分析して欲しいな)。今回も「火山の位置」という定番ネタが出題されている。

 

[解法]

大地形ジャンルで最も重要な話題は「火山の位置」。火山がどこに存在するのか、詳しくチェックしておかないといけない。一覧にしておくので確認しておこう。

 

(1)環太平洋造山帯。新期造山帯の全てに火山が分布しているわけではなく、例えばアルプスヒマラヤ造山帯においては火山分布は限定的。基本的には「火山は海に存在」とイメージすればいい。日本列島だって、海から突き出した火山の島でしょ?太平洋の外周に沿って火山が並んでいる様子を想像しよう。アリューシャン列島~千島列島~日本列島~フィリピン~インドネシア~ニュージーランド~南極~南アメリカ太平洋岸~メキシコ~北アメリカ太平洋岸。ただし、この火山帯は途中で枝分かれして、一部が大西洋側と通過している。カリブ海の島々があるでしょ?日本列島と同じような弓形の島々つまり「弧状列島」になっている。プレート境界(海溝)に沿って多くの火山島が形成されている。

 

(2)イタリア半島。イタリアも日本と同じく変動帯の国だが、北部のアルプス山脈には火山がないので注意。やっぱり火山が存在するのは「島」なのだ。イタリア半島っていう「半分が島」の地域に火山が分布する。これ以外にギリシャの島々など地中海には火山は少なくないが、テストで問われるメジャーなものはイタリア半島とその南に位置する島(シチリア島)の火山だけなので大丈夫。一般的に火山がほとんど分布しないアルプスヒマラヤ造山帯の中ではイタリア半島は例外的な地域。

 

(3)アイスランド。上記の2例がプレートの狭まる境界に沿って形成された火山ならば、こちらはプレートの広がる境界の火山。大西洋の中央を走行する海嶺の上に形成された火山島がアイスランド。

 

(4)キリマンジャロ。アフリカ東部の大地溝帯は海嶺が陸上に現れたもので、プレートの広がる境界。この大地の裂け目に沿って形成された火山がキリマンジャロ。標高6000mに達し、赤道直下ながら山頂付近は年間を通じ氷に閉ざされる。

 

(5)ハワイ諸島。例外的な火山。プレートの境界部ではなく、その内側に形成された火山。地下のマントル対流が海洋プレートを突き上げ、火山が形成されている。ホットスポットである。プレートがぶつかる圧力がないので、ハワイの火山は爆発力が弱い。標高4000mの山頂には天体観測所が設けられているが、普通の火山ならば火山灰で視界が悪いから天体観測なんか無理。溶岩は河口から流れ出すだけで爆発を伴わない。

 

どうだろうか、火山ってこれだけだから覚えやすいでしょ。たまたま日本列島に火山が多いから地球全体に火山が分布するイメージがあるかも知れないけど、それが全然違うのだ。日本は世界で最も火山が過密な地域。この小さな島々に世界全体の7%の火山が集まっている。

 

このことから火山の場所はわかるよね。5のイタリア半島、それから1のカリブ海の島々。とくにカリブ海の島々は形にも注目してね。日本列島と同じような弓形の島々。弧状列島なのだ。プレートの狭まる境界に沿う。

 

では次は熱帯低気圧に話を進めよう。これも意外に出現する地域(海域)は少ない。熱帯低気圧の発生する条件としては2つあり、まずは温暖な海域。低緯度の海域であって、さらに寒流が流れていないことが条件。例えば図5で言えば、1は該当。ここは低緯度であり、暖流であるメキシコ湾流の影響が強く、水温はかなり高い。5は緯度が高く水温が十分でないので不可。4は一応低緯度といえるが、沿岸を寒流のカナリア海流が南下し、熱帯低気圧は発生しない。3も同様。こちらも緯度は低いものの、寒流のベンゲラ海流が流れ込み水温が低い。2は微妙なのだが、ここもやはり熱帯低気圧は発生しない。緯度的には問題ないのだが、ここを流れるブラジル海流は一応暖流ではあるものの、さほど水温が高くない。大西洋の南半球側では反時計回りの海洋循環がみられ、アフリカ南西岸を北上するベンゲラ海流(寒流)が、赤道の手前で左に向きを変え、南赤道海流となる。それがさらに南米大陸に達すると左に曲がり、ブラジル海流。そのブラジル海流も南極周辺で西風海流となり、ベンゲラ海流に連結する。このような「反時計回り」の海流の流れが南半球にはみられる。ただ、太平洋に比べ大西洋は幅が短く、南赤道海流の流れる距離も短い。赤道付近で十分に海水が温められないため、その延長上にあるブラジル海流も暖流としては比較的水温が低い。このことが、ブラジル沿岸で熱帯低気圧が発生しない一つの要因となっているのだ。

 

この時点でJとKの二つの条件を満たす地域として1が正解となっているのだが、せっかくなので熱帯低気圧が発生するもう一つの理由にも触れておこう。それが「赤道直下ではない」こと。つまり低緯度海域ではあっても、赤道直下の海域は含まれない。緯度10~20度ほどの海上に発生場所は限定されるのだ。その理由が「転向力」。転向力とは地球の自転によって生じる力で、風や水は進行方向に対し、北半球なら右向きの、南半球なら左向きの、それぞれ力を受ける。熱帯低気圧は周囲から風が強く吹き込み、水分供給を受けることによって巨大化するわけだが、この際に空気が強い渦を巻かないといけない。空気の流れは転向力を受けて方向を変え、渦を巻くことになる。北半球は低気圧の周囲を反時計回りで風が周回する渦が生まれ、南半球では時計回り。この力によってこそ低気圧は巨大化し、台風やサイクロン、ハリケーンに成長するのだ。例えば赤道直下のシンガポールでは年間の降水量は多いが、それは夕方に降るスコールによるもの。年間を通じ熱帯収束帯に含まれ上昇気流の作用が活発なのだ。熱帯低気圧によるものではない。

 

ただ、本問の場合は赤道直下の地域は含まれていないのでこの2つ目の条件は無視していい。JとKの両方の条件を満たす地域がカリブ海の弧状列島であり、Jのみがイタリア半島や島嶼部となる。

 

[雑感]

火山の場所はこれでもかってぐらいに出題されるので、簡単に解けるようにしておいてね。今回取り上げられたカリブ海地域は盲点になりますいけれど、その形(弧状列島)が日本と共通しているので、わかりやすいとは思うよ。

 

熱帯低気圧についてはその名称(太平洋北西部が台風、インド洋とオーストラリア北東岸がハリケーン、北アメリカ周辺がハリケーン)といったことをやたら気にする人がいるけれど、そんなん出題されないから大丈夫で(笑)。そんな一問一答式の暗記より、「なぜ熱帯低気圧が生じるか」のメカニズムの方が大事。「水温が高い」こと、「転向力を受ける」こと、この2点が重要なのだ。

 

そして日本は世界でも稀な「火山」と「熱帯低気圧」の被害を受ける国。そういう意味では1のカリブ海地域と共通するが、しかしカリブ海地域には考えられない災害も日本では生じるね。そう、それが冬の「豪雪」なのだ。日本は世界でも稀な積雪に見舞われる国であり、地球上でも最も自然災害を受ける国なのだ。客観的にみて、どうしてこんなところにこんなにたくさんの人が住んでいるんだろうって思うよね。世界の国々の教科書では、日本について「巨大地震が起こり、世界の1割近くの火山が集中し、夏は多くの熱帯低気圧に襲われ、冬は豪雪に見舞われる国」として紹介されているはず。

 

 

<第1問問5>

 

[インプレッション]

過去に類似した問題が出題されていますね。過去問研究の重要性がよくわかる問題。

 

[解法]

似たような問題が過去にいくつも出題されているので、その中でも最も参考になりそうなところで2019年地理B第1問問4を参照して欲しい。とくに重要なのはアの図で、これが南米太平洋側のHに該当。震源を表す点が、表面から地下に向かうにつれて、右肩下がりで傾いている。これが2枚のプレートの接する面であることがわかるかな。東側の大陸プレート(南米プレート)の下に西側から海洋プレート(太平洋プレート)がぶつかって沈み込んでいるのだ。プレート境界では激しいストレスが生じ、それが地震を引き起こす原因になっている。この斜めに沈むこむ形、重要だよ。とくにこの南米の太平洋岸には海溝がみられることもチェックしておこう。プレートの狭まる境界で、海洋プレートが大陸プレートの下へと沈み込んでいる。海溝の地下ではこのような震源分布となり、大きな圧力がかかっているのだ。

 

これを頭に入れながら本問を紐解こう。先ほどの図アと同様に、斜めに地下へと伸びる震源の分布がいずれの図でもみられるのが特徴的。東西は逆転しているけれど(タ~ツの図では、震源分布のラインは左に向かって傾いている。太平洋の東西の違いだね)、アと同様に、ここにプレート同士の接する断面があるのだろう。

一つ一つみていく。タでは2つのライン。西側では震度200キロまでに地震分布がみられる。東側では深いところにも震源。おそらく2つのプレート境界が存在するのだろう。プレートの数でいえば、東のもの、中央のもの、西のもので3枚。

チでは1つのはっきりとしたライン。それもかなり深くまで達している。東にプレート境界が存在し、おそらく海溝だろう。海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込むことによって、震源のラインが上方(東)から地下深く(西)へと続いている。

ツも似たような形。東部に海溝がみられ、そこから西へ向かってプレートの接する面が沈み込んでいる。ただ、チと異なっているのは中央から西にかけて、地表面付近にも少なくない数の点がみられるということ。震源の極めて浅い地震が頻発しているのだ。これって何だろう?ここで思い出して欲しいのは、地震には2つの種類があるということ。一つが「海溝型」。プレート境界で生じる地震であり、とくに海溝に沿っている。プレートの大きな動きが原因であるため、震源が深くなる場合が多い。先ほどの問題のアの図、本問のタ~ツの図ではいずれも地下の深いところでプレートの接する面に沿って震源が分布しているが、これらは全て海溝型だろう。それに対し、プレート境界から離れた場所(プレートの内側、プレートの中央部ともいう)で生じる地震があり、それが「内陸直下型」。これは地表面を走行する断層に沿って震源が分布。断層活動によって地下の浅いところで地震が発生するのだ。阪神淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震が典型的な例。地震の規模(マグニチュード)はさほど大きくないが(兵庫県南部地震はマグニチュード7.8。海溝型の東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.1)、震源が浅く、さらに内陸部で人の居住地に近いため、都市部で観測される震度が大きく大きな被害が生じやすい。ツでは広くこの内陸直下型地震が生じているのがわかる。

 

さて、それぞれの図をP~Rに対応させよう。やはり気になるのは内陸直下型地震の存在。本州を縦に貫く巨大な断層である糸魚川静岡構造線や、長野県から発し九州まで伸びる中央構造線など日本列島には巨大な断層がいくつもみられる。先に挙げた兵庫県南部地震にしても淡路島には中央構造線が通り、周辺にも小規模ながら多くの断層(とくに過去の比較的新しい時代に活動していた活断層)が存在する。日本列島は内陸直下型地震の発生が多い地域であり、この西日本に相当する部分に震源が多いツがQに該当するだろう。

 

さらにPについては日本海溝の存在を考えて欲しい。太平洋北西部には、北から「アリューシャン邂逅」、「千島カムチャッカ海溝」、「日本海溝」、「伊豆小笠原海溝」、「マリアナ海溝」が並んでいる。東日本の太平洋岸に沿って日本海溝が走行。まさにチの東側の表面付近に位置するのが日本海溝であり、そこから西の方向に地下深くまで震源が斜めに分布している。巨大な海溝、そしてプレート境界を意識すれば、Pがチであることは明確なんじゃないかな。

 

(地理の学習には地図帳は基本的に必要ではないが、海底地形は例外。陸上の地形に比べ海底の地形が問われるケースは多い。地図帳で上記の海溝については位置と名称について確認しておこう。かつてセンター試験で海溝名が問われたこともある)

 

残ったタがRなんだが、これは2か所に震源の集中しているところがあるよね。東側が伊豆小笠原海溝に沿う震源域だと思う。そして西側のもの、Rを参照すればわかるように沖縄や南西諸島に近いところ。ここ「南海トラフ」が走行しているのだ。トラフについては海溝と全く同じと考えてください。深度が6000mを超えたら海溝、それより浅いとトラフなのですが、いずれも海底にみられる溝状の低地であることには変わりなく、もちろんプレートの狭まる境界。海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいる。だから震源の分布も地下に向かって斜めに傾いている。Rの範囲は東から太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレートと並び、それぞれの間に伊豆小笠原海溝、南海トラフが走行。これらの周辺で地震が発生していることを意識しよう。

 

[雑感]

もちろんある程度の知識は必要であるが、これは大地形ジャンルの問題の宿命でもある。少なくとも、プレートの分布のイメージは持っておかないといけないし、地震も海溝型と内陸直下型の2つのタイプがあることは知らないといけない。でも、それ以上に大切なのはやっぱり過去問分析だよね。

 

 

<第1問問6>

 

[インプレッション]

これ、東大入試で全く同じ問題が出題されているんですよね。他にも東大に似た問題があった。共通テスト対策として、東大入試問題の分析ってかなり有効なんじゃないかって思い始めてます。

 

[解法]

「都市化」とは人口が増えること。つまり住宅地が増えることであり、当然道路なども整備されるからアスファルトやコンクリートで地面が覆われてしまうよね。ミについては「森林や田畑が減少し、地表面が舗装された」が該当。

雨水は地下に浸透せず、そのまま河川へと一気に流入したり、都市内部へと溢れ出る。降水直後に激しい増水を見せ、水位は激しい上昇のXが該当。雨水が地面に浸透すれば、そこから少しずつ下流側に排出され、水位上昇はゆるやか。Yのパターンは「森林や田畑」が多かったかつての形。

 

[雑感]

簡単な問題とは思いますが、都市化による環境の変化という命題は地理の本質であり、だからこそ東大入試でも問われているんだろうね。この辺りの問題を軽々とクリアできると地理の総合力がアップすると思うよ。