2019年地理B追試験[第3問]解説

2019年地理B追試験第3問

 

都市や生活文化に関する内容は例年と同じ。ただ、今回は村落が大きく取り上げられている点がちょっと異なる。とはいえ、村落に関する問題(問4)は簡単だったので問題ないかな。でも、その一方で問3のような解答不能の悪問もあり、決してパーフェクトが狙える大問でもない。最小のロスで乗り切りたいところ。

 

<2019年地理B追試験第3問問1>

 

[インプレッション]おっと。写真がない!(大学入試センターのホームページからダウンロードしています)でも、説明文があるから全く問題ないね。「壁やフェンス」というネタにはちょっと驚くけれど、問題自体はスムーズに解けるんじゃないかな。ただ、国名や地域名が出てくるので、そこがちょっと厄介。

 

[解法]壁やフェンスがテーマとなっているけれど、民族対立や国際関係に関する問題になっているね。ちょっとマイナーな国名も含まれているが、3つ組み合わせ問題なので、2つの組み合わせが確実にわかればいい。何とかなるんじゃないかなぁ。

ではACを見ていこう。著作権の関係で写真がありませんが(大学入試センターのホームページからダウンロードしています)、文章が付せられているので大丈夫だね。

Aには「北アイルランド」とある。北アイルランドはイギリスの一部で、プロテスタントとカトリックの対立地域。世界中でプロテスタントとカトリックの対立がみられるのは、この北アイルランド地方だけ。というか、そもそもプロテスタントとカトリックが対立しているというより。アングロサクソン(イギリス本島)系とケルト(アイルランド)系との対立であり、前者がプロテスタント、後者がカトリック教徒である。イギリスがアイルランドを植民地支配していた歴史的経緯が背景にある。イが該当。

このAとイの組み合わせは絶対に知っておくべき。残る2つについてはどちらかを知っておいて欲しいな。難度は同じぐらいだと思う。

Bでは「ハンガリー」と「セルビア」ってあるよね。これ、ヨーロッパの国だってこと。わかるかな。サッカーが好きな人ならよく知っているんじゃないかな。ハンガリーは東ヨーロッパの国でかつてソ連の影響が強い社会主義国だった(今のヨーロッパには社会主義国はない)。セルビアは旧ユーゴスラビアの構成国。ヨーロッパがポイントになるので、どちらがEU域内でどちらがEU域外なのかわからないが、アに該当するのは間違いないだろう(参考までに、ハンガリーがEU域内、セルビアがEU域外)。

一方のC。ヨルダンっていう国名、知ってるかな。センターでは完全に初登場の国なので、知らなくても仕方ないかな。これ、西アジアの国なのだ。サウジアラビアの近くにある。「アラブ」がキーワードとみていいんじゃないかな。アラブ民族とはアラビア語を使う人々で、西アジアから北アフリカの広い範囲に居住する。キリスト教徒も少なくないが、やはりイスラム教徒が大半(そもそもイスラム教の経典のコーランはアラビア語で書いてあるのだ)。これをウと判定しよう。

なお、ここには「ユダヤ系住民」とあるが、ユダヤ人の国としてイスラエルを知っておこう。現在、イスラエルが位置するところは「パレスチナ地方」という。3000年前にこの地に古代イスラエルが栄えていたが、やがて滅亡し、ユダヤ人たちは世界中に離散していった。ユダヤ系アメリカ人に、銀行家のロックフェラーや映画監督のスピルバーグ、日本でタレント活動をしているデイブ・スペクターなど、ユダヤ系フランス人が予言者ノストラダムス、ユダヤ系ロシア人にロシア革命の基礎をつくったマルクス、ユダヤ系チェコ人に文学者カフカがいる。

ユダヤ人が去ったパレスチナ地方は、トルコやペルシャに支配された時代もあったが、やがてアラブ人が居住し、彼らはパレスチナ人と呼ばれ、イスラム教を信仰する。しかし、20世期に入り、ユダヤ人の子孫たちが再びこのパレスチナ地方に「帰還」する。彼らは第二次世界大戦後、新国家イスラエルの建国を宣言。そして、そもそもこの地に居住していたパレスチナ人たちは難民となり周辺国へと流出する。

この「パレスチナ問題」は壮大な物語でもあるので、また大学に入ったらいろいろと調べてみてください。センター地理のレベルではこれだけで十分。つまり、「パレスチナ地方においてユダヤ人がイスラエルを建国したため、パレスチナ人が難民となった」ということ。「土地の領有」をめぐる争いではあるが、ユダヤ人がユダヤ教徒、パレスチナ人がイスラム教徒であるため、宗教対立の要素も含まれる。

 

[難易度]★★

 

[今後の学習]必修度としては、ACBだったかな。Aのトピックは絶対に知っておいてね。イギリスの「北アイルランド地方」では「プロテスタント」と「カトリック」の対立がみられる世界唯一の地域である。

Cも非常に重要なんだが、「ヨルダン川」っていうのが手強かったな。「ユダヤ=イスラエル」は絶対なんだが、ヨルダンがイスラエルの近くの地名って分かるかどうか。たしかに最近「死海」がセンターに登場したので、そこで学習する機会はあったのだが。ヨルダンはイスラエルの東に隣接する国で、アラブ系イスラーム。イスラエル建国の際には、土地を追われたパレスチナ難民が多く流れ込んだ歴史がある。死海とヨルダン川は、イスラエルとヨルダンの国境となる。

BはEUの話題なので、他の二つとはちょっと傾向が異なるのだが、セルビアとハンガリーという国名が難しかったかも。ハンガリーはEU域内、セルビアは域外。旧ユーゴスラビアで社会的混乱や周辺国との対立などの問題を抱えるセルビアから、EU圏内へと移住したい人々は多いだろう。そうした不法移民をシャットアウトするためにフェンスが設けられているんだろうね。

 

<2019年地理B追試験第3問問2>

 

[インプレッション]ん、これ、難しいんちゃうか!?難民ネタがそもそも珍しいし、パキスタンとソマリアの違いがわかりにくい。さて、どういう問題なんだろう?見てみましょう。

 

[解法]難民の受け入れ数と発生数から国名を求める。う〜ん、難しそうだな。内戦の影響が大きいわな。

先に表を見ようか。①は受け入れ数がマックスで多いが、発生数も少なくない。②と③はともに受け入れる側の国であり、発生数は極めて少ない。ただ、絶対数として受け入れ数が多いのは③より②。④については発生数が圧倒的に多い。難民を送り出す方の国と思っていいだろう。

さて、ここからが難しい。難民には、政治難民(革命など政治体制の変化によって、旧来の勢力に属していた人々が国を去る)や環境難民(砂漠化で農地を失うなどの理由で故郷を捨てる)などがあるが、やっぱり多いのは戦争が原因。外国軍による攻撃、内戦などの紛争が原因となって国外に流出する。

このような紛争が西ヨーロッパで発生している事例はなく(東ヨーロッパではかつての旧ユーゴや現在のウクライナなど不安定な地域は多いが)、ドイツやスペインは難民の送出国ではありえない。受け入れる側と思われるので、②と③がドイツとスペインのいずれかになる(判定の必要はないが、一応②がドイツ、③がスペイン)。

さて、残った①と③である。ソマリアは政府が崩壊し、内戦が生じている国。パキスタンもカシミール問題(*)でインドと対立し、やはり不安定な状況にある。いずれも難民を送り出す国とみて妥当だろう。

ただ、①と④とで決定的に異なっているのは。受け入れ数。④は極少であるのに、①は莫大な数である。つまり①については隣り合う国に、自国以上の紛争国があるということだ。これってどこだろう?

例えば、パキスタンについてはインドと戦争していたわけで、隣国が不安定な状況にあるという条件にあてはまる。また西に隣り合うのはイランであり、アメリカ合衆国から経済制裁をくらうなど、政治的にも経済的にもひと癖ある国である。そして何より際立っているのは、北に隣接するアフガニスタンである。アフガニスタンは多民族国家であり、現在でも多くの勢力がしのぎを削っている。古くはソ連に、そして近年はアメリカ合衆国に、それぞれ軍事侵攻を受けるなど、世界で最も戦乱という災厄に混迷を極めた国である。地域の多くの国に戦乱地域がまたがるパキスタンこそ①に該当するだろう。

残った④はソマリアだが、無政府状態にあり、難民が他国へと流出している。「アフリカの角(つの)」と渾名される地域。沿岸部での海賊行為は国際的非難を受けている。

(*)インドとパキスタンの北部のカシミール地方は、両国の係争地。帰属を争い激しい対立がみられる。藩王(支配者階級)はヒンドゥー教徒、領民はイスラム教徒という複雑な宗教構成を持つ。過去に4回にわたって戦争(印パ紛争)が繰り広げられ、両国が核武装(原爆の保有)をしたという歴史がある。

 

[難易度]★★★

 

[今後の学習]これ、難しかったと思うな。できない人、多かったでしょ。人口6位の大国パキスタンは知っておかないといけないとして(世界で6番目に大事な国やで)、しかしソマリアはわからないよね。過去問に登場している国ではあるんだが、やっぱり知識は十分ではなかったと思う。

「発生数」がないことから②と③がヨーロッパの国であることは容易にわかるとして、①と④の判定が難しいよね。「受け入れ数」が最大である①は周辺に戦争している国が多いということまでは予想がつくだろうけれど、だからこれが「アフリカの国だ」と考えてしまうのは仕方ないように思う。

ポイントはアフガニスタンという国名が思い浮かぶかどうか。1970年代に当時のソ連から侵攻を受け、彼らは「聖戦」と呼ばれる徹底的な抗戦活動を行った、21世期に入ると、タリバーン(イスラム原理主義者による過激派組織)の拠点となり、アルカーイダ(2001年の同時多発テロを起こした組織)が入り込んだことによって、アメリカ合衆国による軍事侵攻が行われた。アフガニスタンは多くの民族が共存する平和な牧業国であったのに。大国や過激派テロ集団の影響の中で。悲劇の土地へと陥っていった。

 

<2019年地理B追試験第3問問3>

 

[インプレッション]水がテーマになること、多いんだよね。で、それが意外と難しい。本問はどういったパターンになるのかな。ただ、幸いなことに5歳未満死亡率もグラフには示されている。これを中心に考えていったらいいんじゃないかな。とはいえ、選択肢がいずれも発展途上国であるのが判断に困るんだな。アジアとかアフリカどかそういった大雑把な分類で考えないといけないのかな。

 

[解法]2つの指標について、年次ごとの変化が示されている。「安全な水を確保できる人口の割合」と「5歳未満児死亡率」。わかりやすいのは「5歳未満児〜」の方。いわゆる乳幼児死亡率のことで、これは完全に「1人当たりGNI」に反比例する。1人当たりGNIの高い先進国で乳幼児死亡率が低く、1人当たりGNIの低い発展途上国で乳幼児死亡率が高い。医療水準や栄養状態、衛生環境など考えれば妥当なことだろう。

本問でちょっと困るのは、選択肢の4つの国にさほど1人当たりGNIの差がないこと。というか、ボリビアはよくわからない(苦笑)。とりあえず一番高いのはチェコ。ドイツに隣接する東ヨーロッパの国であり、EUの中では1人当たりGNIが低い方になるが。それは他の国が高すぎるだけであって、世界全体でみればむしろ平均以上ともいえる。東ヨーロッパ諸国の1人当たりGNIは、1万から2万ドル/人程度。

5歳未満児〜」は低いと思われ、①がチェコとなる。「安全な水〜」の値がほぼ100%だが、これもやはり1人当たりGNIとの相関性で考えればいいんじゃないかな。経済レベルが高く、インフラ(都市施設)も整備されている。水道など利用しやすい状況にある。

さてここからが難しい。選択肢の3つの国はいずれも発展途上国である。1人当たりGNIは低い。どうやってキャラクター付けする?

基本的には「5歳未満児〜」で考えればいいと思う。この値が最大であるのは④であり、さらに③。②の順で低くなる。これは2000年も2015年も同じ順位。人口増加率については、アフリカが最も高く、ラテンアメリカやアジアは世界平均レベル。以下を参考にして欲しい。

 

(年人口増加率)

2%;アフリカ

1.5%;南アジア

1.0%;ラテンアメリカ・東南アジア

0.5%;東アジア・アングロアメリカ

0%;日本・ヨーロッパ

 

先ほど乳幼児死亡率については1人当たりGNIに反比例と説明したし、これが絶対ではあるんだが、あえて他のファクターを探すとすれば、人口増加率に比例する傾向はある。「人口増加率が高い=出生率率が高い」だよね。出生率が高い理由としては、多くの子供も設け、彼らを労働力として利用したいからだ。でも、その背景には、子供がすぐに死んでしまうっていう要因もあるんじゃないかな。せっかく産んでも、その中の何人かはすぐに死んでしまう。それを補うために、さらに子供を産み続ける。それは負のスパイラルでもあるんだが。

そう考えると、人口増加率の高いアフリカ、アフリカに含まれるケニアでこそ。人口増加率が高いし、乳幼児死亡率も同様に高くなると考えられる。④をケニアとする。なるほど、ケニア破熱帯草原(サバンナ)の国であり、雨季と乾季のはっきりとした気候。乾季になると水を得にくくなることも想像される。「安全な水〜」の値が低いのは納得なのだ。

さて、ここからが難しい。②と③。いずれかがラテンアメリカのボリビアであり、いずれかが東南アジアのベトナム。どっちがどっちなんだ???

ボリビアはアンデス山脈の高原国であり、首都ラパスは標高4000mの高地に位置することで知られる(富士山より高い!)。かつてインカ帝国が栄えた土地であり、スズ鉱の産出が多い鉱業国でもある。人口は多くないだろうから、1人当たりGNIは意外に高いんじゃないだろうか。

一方のベトナムは東南アジアの米作国であり、仏教国。日本と似たような条件にあるね。この国の最大の特徴は社会主義であること。ようやく1980年代後半に市場経済化(ドイモイ政策)を進めたが、スタートがそもそも遅いのだから、未だに1人当たりGNIは低く、2000ドル/程度。しかし、この経済レベルの低さが、外国から製造業を引きつける最大の要因ともなっている。安価な労働力を求め、日本などから多くの工場が進出。ベトナムの最大輸出品目は機械類や衣類などの工業製品であり、2010年代、まさにベトナムは大きな経済成長の過程にある。

これらのことを総合して考えたらどうなるだろう?僕が一番気になるのは、③の大きな変化なのだ。わずか16年の間にこれだけ数値が変化したら驚き。とくに乳幼児死亡率はそれまでの80パーミルから40パーミル未満へと劇的に変化している。どうなのかな?ボリビアでそんなに短期間に大きな変化が生じたとは思えない。外国からの工場進出により経済レベルが急激に上昇し、医療や衛生をとりまく環境もそれに伴い大きく改善されたとみるのは妥当なんじゃないか。

それに先にも述べたように、高原に位置し人口が少ないボリビアは1人当たりGNIが案外高いんじゃないか。ベトナムの人口が1億人に達するのとは明らかな違いだ。乳幼児死亡率が低めの値であることに何の不思議もない。

以上より、②をボリビア、③をベトナムと判定する。これでどうだ!

 

(おそるおそる解答を見る)

 

うわっ、正解は②だった!間違えた!これは難しい(涙)

 

そうかぁ、ベトナムは2000年の段階ですでに乳幼児死亡率が低かったのか。。。ベトナムは社会主義国であり、国家による医療の保護が手厚い。従来より、乳幼児死亡率は低い値に抑えられていたということなのか。

ちなみにボリビアの1人当たりGNIは3010ドル/人(調べてみました)。ベトナムと極端に変わるわけでもないんやなぁ。

 

さらに調べてみたんだが、たしかにボリビアの乳幼児死亡率は高くなっている。ただ、南米でこの値が高いのってボリビアだけなんだよね。20パーミルを超えているのはボリビアだけで、他の南米の国はほとんど10パーミル未満、う〜ん、特殊な国といえるなぁ。さらに言えば、わずか16年の間にこれだけ値が変化した理由もわからない。お手上げですな(涙)

 

[今後の学習] というわけで、本問はガチで間違えたたつじんでした(涙)。どうやって考えたらいいんだろうね。ここはやっぱりベトナムの特殊性かな。

 

<2019年地理B追試験第3問問4>

 

[インプレッション]図がややこしいな。さて、図をみるだけで解ける考察問題なのだろうか。それともある程度の知識は必要とする問題なのだろうか。内容を分析してみよう。

 

[解法]いわゆるGIS(地理情報システム)による地図だと思うんだが(要するにコンピュータで描いた地図ってことね)、そのことには触れられていない。形式としてはメッシュマップと呼ばれるものだが、それについて意識する必要はない。点(メッシュマップなので、本当はマス目と言わないといけないのだが、点にしか見えないから点って言ってしまいます)の濃淡というか、色をみていけばいい。

左が「総人口の推計値」。日本全体の人口が減っているのだから、全体的には白地やグレーの点が大半を占めているのだが、広島市や岡山市など一部の地域では増加しているところもある。

右が「65歳以上人口の推計値」。こちらも白地やグレーが多いのだが、しかし黒の部分も多くなっている。左の図と比べたら一目瞭然。広島市や岡山市、松山市、高松市を含むエリアで、65歳以上人口は増加している。

では選択肢を検討。

まず①から。65歳以上人口が減少する地域をチェック。白地は「データなし」なので、これは無視して考えないと(でも白地の部分が実に広いのだ)。「65歳〜」を見ると、増加である黒地、減少であるグレー、その分布はどうだろう。全体として黒地は沿岸部に集まり、内陸部には少ない。内陸側はグレーが主になっている。誤りとみていいね。

さらに②。これはどうなんだろうね。岡山市も広島市も面積は広い。たしおかに黒地の部分が多くなっているけれど、だからといってグレーの部分がないわけではない。誤りかな。

③について。高松市と松山市の範囲を確認。なかなか広いね。なるほど、「65歳以上〜」を見るとたしかに黒地の部分が広くなっている。増加するわけだ。それに対し、総人口はどうだろう?黒点はほとんどみられず。全体にグレーが多くなっている様子。濃い方のグレーがメインかな。「0〜50%減少」といった感じ。なるほど、たしかに「ほとんどの地域で減少」で間違いないと思う。これが正文なのでは?

とはいえ、しっかり④も検討しよう。「総人口〜」を参照。「増加する」のだから黒点を探す。広島市や岡山市を中心に黒点は決して少なくない。それに対し、四国側にはほとんど黒点がない。これも誤りでしょう。

以上より、③が正解となる。図をみるだけでわかる考察問題でした。

 

[難易度]★

 

[今後の学習]正文を選ぶ文章正誤問題。誤った文を3つ探さないといけないのだが、なるほど誤文はいずれもちょっと「クセ」のある文章になっている。

①には「比較の構造」が含まれている。農村部と沿岸部を比較している。これをひっくり返すことにより、文章の正誤もひっくり返る。「より」という表現に注目しよう。

②は「完全否定」。「みられない」と言い切っているね。逆に一箇所でも該当する部分が存在すれば本選択肢は誤りとなる。

④も「比較の構造」。本州側と四国側を比べている。

確かに、いずれの選択肢も明確に誤り選択肢を作りやすい文章だったことがわかる。こうした「クセ」に注目して文章を読み込んでいかないといけない。

それに対し③はには比較の構造も含まれていないし、さらに「広く」や「ほとんど」といった曖昧な表現が用いられていることが特徴。広くって言ったって、具体的にどれぐらい広いのかわからない。ほとんどって実際のこと、どれぐらいの割合なんだ?こうした文章って否定しにくいでしょ。単なる知識問題ではない、考察問題であるからこそ文章の細かな表現にまで気を配ろう。

 

さらに。解法では淡々と問題を解いてしまい、その内容にまで迫らなかったが、よく見ると、これ、凄いデータだよ。

まず「総人口〜」に注目すると、その減少のしかたがヤバい。「50%以上減少」ってただ事ではないよ。30年の間に人口が半減以下となる。こんな地域が山間部にはいくらでもみられるってこと。人口の増加地域は都市部のわずかなエリアだけで、ほとんどの地域で減少。日本全体で人口が減少しているから仕方ないとも言えるんだが。都市以外の地域に住む人はいなくなってしまう。

そして「65歳以上〜」も凄いデータだ。人口が増加するとみられる都市部だが、結局増えるのは65歳以上の高齢者。新たに流入したきたというより、そこに住む人が30年の間にそのまま歳を取ったということなんだろうけど。高齢者に関する問題(医療や福祉など)は近い将来都市問題の一つとなるのだ。農村では高齢者が減少している地区も多いが。そう言った地域はそれ以上のスピードで人口減少が進む。過疎化どころの話ではなく、廃村が増えていくのだ。

わずか20年後の日本を想像するだけでも、危機的な状況がすぐそこに迫っている。

 

<2019年度地理B追試験第4問問5>

 

[インプレッション]よくあるパターンの問題だね。大都市圏の都心部、大都市圏の郊外、大都市圏外の3つの町が比較されている。問題文が長いから、そこに必ずヒントはある。これはしっかり読んで。データは3種類用意されているけれども、必ずしも全部見る必要はない。ターゲットを絞ってデータを解析しよう。

 

[解法]都市構造に関する問題。具体的な都市名が登場する場合もあるが、本問のように都市は匿名でその状況だけが説明されている場合もある。こっちのパターンの方が時やすいかな。

 

「大都市圏の都心部」、「大都市圏の郊外」、「非大都市圏」の3つにキャラクターがわかれているのがわかるかな。もっとも、日本で大都市圏といえば「東京大都市圏」、「名古屋大都市圏」、「大阪大都市圏」の三つだけなので、本来は本問には該当しないのだが、ここでは県内の中心都市であり、他に比べ広い都市圏を有している都市について「大都市圏」を言っちゃってます。ご了解をば。

 

というわけで、カの都市がまさにそれに当たるわけだね。「県庁が所在する中心都市であり、県内で最も多い人口をかかえる」。日本の都道府県では一部の例外(*)を除き、県庁所在都市が県内で人口の最も大きな都市と重なっているので、イメージはしやすいんじゃないかな。多くの企業も集中し、県内の他の都市にくらべ通勤圏も広い(遠くから通勤する人も多いってこと)。ここ「大都市圏の都心部」とみていいだろう。

次はクに注目してみよう。「大都市圏の都心にアクセスしやすい」とある。「大都市圏=都心部+郊外」だったね。大都市圏を二重丸で表すとしたら、中央の円の内側が「都心部」で昼間人口が夜間人口より多い。その外側(小さな円と大きな円の間)が郊外でこちらは夜間人口の方が大きい。

「都心」というのは「都心部」のさらに中心。要するに都市圏の中心となる点なわけだ。都心を含むエリアといえばもちろん都心部なのだが、同じ都市圏の一部と考えれば「郊外」も都心にアクセスはしやすいよね。さらにここには「住宅地」というキーワードもあり、それが「急速に拡大」とある。21世紀の日本において、このような急速に拡大する住宅地が存在するのかどうかっていう疑問があるのだが、「理論科目」である地理は多少フィクションを含む場合もある。高度経済成長期を典型として、郊外には多くのニュータウンが開発され、まさしく「住宅地が急速に拡大して」いた。ここを「大都市圏の郊外」とみなす。

そしてキ。大都市圏の都心から「遠い」位置にあると説明されている。これはクの「アクセスしやすくなり」とは反対の状況と言っていい。大都市圏に含まれない「非大都市圏」。大きな都市から離れた農村をイメージしたらいいだろう。「地場産業」という言葉はあまり地理には登場しないのだが、ここでは伝統工芸のようなものを考えてもいいし、「産業」なのだから農業や水産業も該当するだろう。いずれにせよ、工業製品の大量生産のような景気のいい話ではないだろうし、もちろん商業でもない。

これらを頭に入れて表2を読解していこう。最もわかりやすいというか、ダイレクトであるのは「人口増減率(%)」じゃないかな。先にも述べたように、21世紀の日本において郊外でそんなに人口が増えているとは思えない(かつて人口増加率がとくに高い県の代表例であった千葉県ですら、今は人口が減少している)。とは言え、地理あ理論科目であり、フィクションとして考えることも必要。そもそもキには「住宅地が急速に拡大」とある。人口が増えていないわけがない。人口増加率のとくに高いFがクに該当。

一方、Gでは人口が減少している。高度経済成長期以降の日本において、継続的に人口が減少した地域はどこだろう。農村部が主である非大都市圏においては、第1次産業の衰退、都市部に仕事を求める若い世代の流出によって人口が減少を続けている。キがこれに該当するとみていいだろう。

Eはどうか。ここでは特徴的な指標として「人口1人当たり卸売販売額」に注目してみよう。卸売業販売額は、日本全体で考えた場合、三大都市と地方中枢都市に集中する。以下のような数字で覚えておくといい。

 

1位;東京(全国の卸売業販売額の40%が集中)

2位;大阪(同じく20%)

3位;名古屋(同じく10%)

 

以下、福岡、北海道(札幌)、広島、宮城(仙台)など。

人口で言えば最大の県は神奈川で、最大の市は横浜だが、東京大都市圏の「郊外」であり、卸売業は発達していない。

 

本問で取り上げられているのはこれらの都市ではないものの、カに「県庁が所在する中心都市」とある。この地域の中心地であり、卸売業が集中しているとみていいだろう。カはEであるので、「1人当たりの卸売販売額」が圧倒的であるのも納得だろう。その一方で、郊外に位置するクはFであるが、こちらは値が小さい。卸売業販売額は、都市圏において都心部に過度に集中するため、郊外は空白地となるのだ。

「卸売業販売額=昼間人口」と考えていいと思うよ。都市圏で考え、都心部に極端に集まるため、郊外では少なくなる。

「人口10万人当たり大型小売店数」は注目するべきデータではない。一人一人が使う金額はほぼ同じであり、小売業についてはそこに住民がいる限り、等しく発達する。「1人当たり小売業販売額」については地域ごとの差は明確ではない(それでもちょっと差はあるみたいだけどね・笑)。

 

(*)福島県福島市(郡山市といわき市の方が人口が多い)、静岡県静岡市(浜松市の方が人口が多い)、三重県津市(四日市市と松坂市の方が人口が多い)、山口県山口市(下関市と周南市の方が人口が多い)が例外。かつて、埼玉県浦和市(当時。大宮市と川口市の方が人口が多い。現在は大宮市などと合併してさいたま市となり、人口は最大)と合わせてセンター試験で出題されたことがある。結構マイナーな話題でしょ?センターって日本地理は結構突っ込んで出題されるんですよね。

 

[難易度]★

 

[今後の学習]都市圏構造は地理でも最も理論的に考える必要があるジャンルであり、本問もその典型。「都市圏=都心部+郊外」の組み立てを考え、さらに「都市圏外(非都市圏)」を合わせて分析する。地理は理論科目であるので、本問を簡単に思ったキミは、地理の本質を理解している。

 

<2019年地理B追試験第3問問6>

 

[インプレッション]オマーンが登場したことがシンプルに驚きなんですけど!今回は他の問題でもオマーンが登場していますね。とくに本問はそのオマーンが問われている!これはちょっと驚きだな。消去法で解ければいいのだが。

 

[解法]世界遺産がテーマとなっているが、それについての知識が問われているわけではないね。とくに自然に関するキーワードについて考えていけばいいと思う。

候補の国はオマーン、コロンビア、フィリピン、フランスで、オマーンを当てる。よりによって最もマイナーな国を当てないといけないのが厳しいが、消去法で考えてみようか。

こうした問題では「文章全体」を読んではいけない。単語だけ拾っていく。

まず①から。これは「コーヒー」で楽勝でしょう。コロンビアは世界的なコーヒー栽培国(統計は必ずチェック!)。①がコロンビア。

③には「棚田」とある。そもそも米を作っている地域って、ほぼ東アジア〜東南アジア〜南アジアに限定されるからね。これ、フィリピンでしょう。

④は「ブドウ」。これは問題なくフランス。フランス北部のパリ盆地までブドウの栽培地域は広がっており、フランスは世界的なブドウ生産国であると同時に、世界最大のワイン生産国でもある。

消去法で②が正解ですね。

 

[難易度]★

 

[今後の学習]難易度が低かったので(あえていえば「コロンビア=コーヒー」を知らない人もいたかな)問題なかったんだが、さすがにオマーンには驚かされた。

オマーンはアラビア半島の南東端に位置し、ペルシャ湾(世界の原油の3分の1が埋蔵されているのだ!)の出口に位置する。ただし、OPEC加盟国でもなく、原油の産出量は少ない。アラビアンナイトの物語「シンドバッドの冒険」の主人公シンドバッドはオマーン地方の出身。インド洋航海の中継地として、交易の盛んな地域なのだ。

もちろん今回の問題ではそんな特別なことを知る必要もなく、単に「アラビア半島=乾燥地域」だけわかればいい。選択肢②の内容は乾燥地域における農業の様子を説明している。蒸発量が多いので、水路は地下に設ける。これはよくあるパターンだね。世界中の乾燥地域で行われている。