2019年地理B追試験[第4問]解説

2019年地理B追試験第4問

 

地誌問題。地誌とはいえ、地名は全く出ていませんね(あえて言えば問4が具体的な都市の産業をテーマにしているぐらいかな)。問1は農業だが、インダス川流域つまり南アジア西部が乾燥地域であることがわかれば解ける。問2は写真を使った問題で、これは考察問題でしょう。問3は農畜産物の統計に関する問題。問4は上述したように産業。問5は南アジアの宗教。宗教というととっつきにくい印象があるが、南アジアは国別に整理すればいいので難しくない。問6は思考問題として解けると思う。1問ロスぐらいで乗り切って欲しいかな。

 

<2019年地理B追試験第4問問1>

 

[インプレッション]定番の問題だね。インダス川が問われている。名称でも問われるし、本問のように地図上の位置でも問われる。もちろん「外来河川」だね。他の河川はノーチェックでいいでしょう。

 

[解法]河川に関する問題。マイナーな河川も含まれているが、Aのみ当てればいいので問題ないだろう。さて、Aの河川の特徴って何だ?南アジアは全体として「西で少雨、東で多雨」である。高温で蒸発量の多い地域なので、「少雨=乾燥」とみなしてしまっていいね(乾燥の定義は「降水量<蒸発量」)。Aの地域も乾燥していると思われる。「乾燥」がキーワードで、①が正解。

 

[難易度]★

 

[最重要問題リンク]インダス川は頻出であり、過去問で取り上げられた例は多いが、今回はインダス川のみでなく、南アジアの農業が総合的に問われた問題を紹介しよう。

 

(2013年地理A本試験第3問問3)

南アジアにおける農業の特徴と自然環境とのかかわりについて述べた文として下線部が適当でないものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

 

① インダス川流域のパンジャーブ地方は、灌漑設備の整備が広くすすめられている地域であり、小麦やトウモロコシが盛んに栽培されている。

② インド半島中央部のデカン高原では、レグールと呼ばれる肥沃な土壌が広がる地域において、大豆やワタ(綿花)が盛んに栽培されている。

③ ガンジス川下流部の三角州(デルタ)は、雨季になると洪水が頻繁に起こる地域であり、稲やジュートが盛んに栽培されている。

④ ヒマラヤ山脈南麓のアッサム地方では、降水量が少ないた地下水を得やすい低平な地域において、茶が盛んに栽培されている。

 

ほぼ今回の問題と重なっている。というか、本年の問題はこの2013年の問題をほぼそのままの内容で再出題したもの(センターはそもそも同じ問題が繰り返し出題されているのだ)。①が本問のA、②がB、③がC、④がD、それぞれの地域を説明したもの。誤りは④。Dの地域はアッサムというのだが、夏のモンスーンが吹き込むことによって極めて降水量が多くなる。世界最多雨地域である。この豊富な降水を用いて茶の栽培がなされている。また茶の栽培は丘陵で行われるもので、そもそも「低平」が大きな誤り。

 

さらに中央アジアを含めた広い範囲であるが、似た問題が出題されたことも。

 

(2005年地理B追試験第1問問3)

図1(省略)中に示した地点AD付近で主に行われている農林業について述べた文として最も適当なものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

 

 A付近(中央アジア)では、焼畑農業とヤクの遊牧が主な生業となっている。

 B付近(中国ウイグル地方)では、灌漑によるオアシス農業が行われ、主に小麦やブドウが栽培されている。

 C付近(中国チベット高原)では、主に針葉樹林(タイガ)を利用した林業と、馬の遊牧が行われている。

 D付近(アッサム地方)では、主にコーヒーのプランテーション農業が行われている。

 

正解は②。ウイグルは乾燥地域であり、伝統的な灌漑農業であるオアシス農業が営まれる。小麦もブドウも比較的乾燥に強い作物である。

①;中央アジアはウイグル同様に乾燥地域であり、オアシス農業。③;チベット高原はヤクの遊牧。④;コーヒーではなく茶。なお、インドは典型的なプランテーション農業地域とは思わないが、イギリスが開いたプランテーションも多く残されていると思うので、この部分については正しいとみて許容範囲だろう。

 

[今後の学習]軽々と解いて欲しい問題だったな。「乾燥」こそ重要なキーワード。

せっかくなので、固有名詞も含めもうちょっと解説しましょう。

Aの河川は「インダス川」。これは覚えておいた方がいいよ。インダス川が流れるのは「パキスタン」。人口世界6位の超大国。世界で6番目に大事な国ってことだからやっぱり知っておかないといけないね。ノーベル平和賞を受賞した17歳の女の子マララさんはパキスタン出身。南アジアや西アジアは女性差別が激しく、そこに宗教的な考え方(ヒンドゥー教やイスラム教。パキスタンはイスラム教の国)も重なり、女性の社会進出は抑えられている。とくに経済レベルの低いインドやパキスタンでは女の子は学校にも行けず、10代のうちに結婚させられることが多々ある。

パキスタンは今年は他の問題にも登場していたね。難民に関する問題で。パキスタン北部にはインドとの係争地であるカシミール地方があり、さらに北に隣接するのは長く紛争や内戦の犠牲となってきた悲劇の国であるアフガニスタンが位置する。

すでに述べたようにAは①に該当するが、「乾燥」は絶対的なキーワード。「灌漑」とは人工的に農地に水を与えることで、やはり乾燥地域のキーワード。パキスタンはインダス川からの灌漑によって、実は農産物の生産は多い。2億を超える人口を支える主穀である小麦(ナンの原料)、そして綿花は世界4位の生産国。河口に近いカラチ(人口1000万の都市なので覚えておくと得。ただし首都ではない)周辺では、灌漑による米作もさかんであり、米はパキスタンの主要輸出品目の一つ。

他の河川は重要でない。

Cはガンジス川。ヒンドゥー教の聖なる河川である。河川に沿って沖積平野(*)が広がり、農業地域となっている。降水量のやや少ない上流部では小麦、多雨である中下流では米の栽培。河口三角州は世界最大のジュートの栽培地である。ジュートは繊維作物で穀物を入れる袋の原料になる(衣類にはならないので注意)。「ジュート」最大のキーワードで④に該当。肥沃であるのは、沖積平野の特徴の一つ。上流から運ばれる土砂(腐植を含んでいる)によって肥沃となる。

Dはブラマプトラ川。チベット高原からベンガル湾に注ぐ。チベット高原は降水量が少なく(インド洋から入ってくる湿った風が、手前のヒマヤラ山脈によって遮られてしまうのだ)、農耕に適さない「遊牧」地域である。ブラマプトラ川はチベット高原を西から東に流れ、そこからほぼ直角に進路を変え、北から南へとヒマラヤ山脈を縦断する。さらに進路を西向きに変え、山脈の南側を通過し、最後は南流しガンジス川などと巨大な三角州を形成する。Dの説明は③だろう。Dの位置をよく見ると、ヒマラヤ山脈の南麓である。季節風が吹き込むことで、この地域は世界で最も降水量が多い地域となっている。アッサム地方である。日当たりのいい斜面では茶の栽培がさかん。インドでは自給的にも茶の栽培がさかんであるが、イギリスの植民地時代に開かれたプランテーションにおいても商業的な茶の生産が行われている(インドは茶の輸出国)。

なお、アッサム地方は世界最大の茶の産地として極めて有名なのだが、なぜかセンター試験においては出題が少ない。本問にしても、外れ選択肢であるし、この地域が直接問われたわけでもない。

(*)沖積平野とは、河川の作用によって形成された(形成されつつある)平野のことで、扇状地、氾濫原(自然堤防帯)、三角州がある。いずれも河川が上流の山地で土砂を削り、下流側へと運搬し、堆積することでできた平坦な地形(扇状地は緩い斜面となっているが)。日本に多くみられ、石狩川、信濃川、淀川、筑後川の流域など。世界で沖積平野を形成している河川としては、インド北部のガンジス川、イタリア北部のポー川が出題される(二次私大レベル。センターでは未出)。とくに中下流の低湿な土地においては米作が行われる。イタリア北部はヨーロッパ最大(というか唯一)の米作地域。

 

<2019年地理B追試験第4問問2>

 

(写真が公開されていないので省略します)

 

 

<2019年地理B追試験第4問問3>

 

[インプレッション] この問題おもしろいですね。インドは殺生を嫌い、原則として動物の肉は食さないのですが、もともとそれは経済的な理由もあって。要するに「肉は高いから買えない」っていうのもあるんですよね。もちろん保守的な人々は今でも血生臭い肉は嫌悪するし、牛肉についてはもちろんNG。そこは完全に欧米化されたわけでもない。ただ、それ以外の肉については、都市生活者や富裕層を中心に肉を使った料理は少しずつ一般化されつつある。そういった背景を意識しながら解いてみよう。

選択肢は「小麦」、「鶏肉」、「モロコシ」。ちょっとモロコシってわからないかもしれないけれど、過去問にも何回か登場しているし、よかったら知っておこう。モロコシはアフリカではソルガムとも呼ばれ、雑穀の一種。粗末な穀物と考えてくれたらいいよ。栄養価は低いが痩せた土地でも育つため、熱帯の焼畑農業地域ではこれを主食とする人々もいる。ただし、他の穀物が手に入る地域では好んで食されるものではない。

グラフに目を移そう。グラフを読む際に最も重要なことは何だった?そう、数字に注目することだね。JとKは縦軸の目盛りが100をマックスとしているけれど、Lはわずか3!これ、極端に少ないよね。

この時点でわかるんじゃないかな。インドはそもそも菜食主義の国なのだ。豊かな自然環境において、穀物や野菜、果物はいくらでも取れ、さらに牛を飼育すれば牛乳が得られるから動物性タンパク源にも困らない。わざわざ動物を殺してまで肉を食べる必要はない。鶏肉だって、伝統的なインドの料理では利用されにくいものだったんじゃないか。たしかにインド料理屋に行けばタンドリーチキンなんかもあるし、インド人ってもしかしたら鶏肉はめちゃ食べてるんじゃないの?って思ったりするけれど、それは例外的なことで、やっぱり肉の消費(供給)量は少ない。

このことを考えれば、値の小さいLが「鶏肉」とみて間違いないだろう。とくに21世紀に入って急激に生産量が増加(とはいえ、「1」から「3」に増えただけで、割合は3倍と凄いが、実数としてはそうでもない)している点についても、インド社会の近代化と結びつければ納得だろう。都市部を中心に新しい考え方が広まり、肉を食べることが必ずしもタブーではなくなった。

さらに小麦だが、これについてはインドが世界2位の生産国であることを考えればいいんじゃないかな。値が小さいわけはないので、Kが小麦である。正解は⑤。

モロコシは、貧困層の中ではまだ主穀としての地位にあるのだろうが、これを積極的につくろうということはないんじゃないかな。近代化が進む(もちろん貧富の差は大きいが)インドの中でその重要性は低下している。

さらに小麦について。「緑の革命」をキーワードに考えてみよう。インドでは食料自給率の上昇を目的として、近代的な農業技術を導入し、穀物の増産を行った。これが「緑の革命」。耕地整備や灌漑施設の建設、化学肥料や農薬の利用、品種改良による多収量品種の導入など。この結果、米は輸入国から輸出国に転換し、小麦の生産はアメリカ合衆国を抜いて世界2位にグレードアップした。ただし、この農業改革のためには多額の資本投下が必要であり、それを行う経済的余裕にある富裕層のみ利益を拡大し、貧困層は恩恵に預かれなかった。貧富の差はさらに拡大した。

このことを考えても、小麦の生産が急上昇しているのは納得だね。グラフから読み取るに、2011年の小麦の生産量は80百万トンすなわち8千万トンに達している。世界全体の小麦の生産量は7億トン。実にインドだけで、世界の小麦の10分の1を生産しているのだ(もっとも、インドの人口は世界全体の5分の1なので、1人当たりの量はさほど多いわけでもないが)。

 

[難易度]★★

 

[今後の学習]

肉の増加は近代化の象徴。中国に続き、インドも急速な経済の拡大を達成し、今やアメリカ合衆国、中国に次ぐ大国と言っていいのかもしれない(日本は抜き去られた!?)。一人一人の生活レベルについても、格差こそ大きいものの、向上の一途にある。

ただ、本問の最大のポイントってわかるよね。それはグラフの縦軸の目盛り。それぞれの農畜産物について、量の大小を考えられるかどうか(つまり、肉はやっぱり少ないよねっていうこと)が解答のポイントだった。「地理は数字の学問」ってことだね。