2023年共通テスト地理B[第4問]解説
<第4問問1>
[インプレッション]
土地利用割合の問題は珍しいね。久々な感じ。さらに国別ではなく、(図中に示された)地域別に問われているのは初めてのパターンなんじゃないかな。
[解法]
土地利用割合のポイントは「牧場・牧草地」。本問の場合は「草地」だね。これはいわゆる草原(ステップ)のことで、やや乾燥した気候に対応する。例えば牧場・牧草地面積割合のとくに高い国としてモンゴルがある。ステップの草原国だね。
とくに本問の場合は「裸地」も加えられているが、これは砂漠のことと考えていい。砂漠は(もちろん砂丘ではないのでしっかり区別しよう)「表面に植生がみられない状態」のこと。裸地も「裸の土地」なのだから、同じような無植生の状態と考えていい。乾燥の度合いが高く、植物が繁茂しない。
さて、A~Dのうち、乾燥・半乾燥で砂漠もしくは草原になっているのはどこだろう。まずAは該当するだろうね。中国の北半分は年降水量が1000ミリより少ない少雨地域であり、主に小麦が栽培(集約的畑作農業地域)。そもそもAはモンゴルに近いので似たような気候・植生になると思っていいんじゃないかな。
さらにBのチベット高原も降水量が少なく、草原が広がる。ヤクの遊牧が行われるね。ヒマラヤ山脈が「高い壁」となり、インド洋方面からの湿った風の流入が防がれる。
このことから「草地・裸地」の割合が高い2と4がAとBのいずれかとなる。
残った1と4がCかD。ここからの判定が難しい。カンで解いてしまっていいんじゃないかな(笑)。Cは中国南部のやや内陸部、Dはインド半島のやや西寄りの内陸部。いずれも標高はちょっとだけ高いみたいだね。
選択肢1と3のうち、気になるのは1。耕地が96.3っていうのはビックリ。ほとんど全てが耕地ということ。国別に耕地面積割合の高さに得量があるのがインドとバングラデシュ、デンマーク。このうち、デンマークはやや特殊な事情(大陸氷河に削られた平坦な土地を、協同組合を中心に小麦畑として開発)であるので、意識するべきは南アジアの2つの国。バングラデシュはガンジス川の河口デルタに国土を有し、広い範囲が水田となっている。人口密度も高いのだが、人口密度の高さと耕地面積割合は相関関係にある。耕地の分だけ養える人口も増えるのだ。
インドもやはり人口密度が高く、そして耕地面積割合が高い国。多雨である東部で米、西部で小麦が栽培されるほか、この国はデカン高原における綿花栽培にも特徴があるのだ。綿花畑も立派な耕地(樹木作物ではないので、果樹園や森林にはならないね)。その綿花栽培の中心地こそ、レグール土が分布するDを含む範囲なのだ。どうだろう?インド半島は高原(デカン高原)であり、米や小麦の栽培には適さない。しかし肥沃な土壌や雨季と乾季のある気候(綿花は花が咲いたら雨が降ってはいけないので、乾季の存在が絶対的な栽培条件となる)によってここは世界有数の綿花栽培地域となっているのだ。そのほとんどが「耕地」であったとしてもおかしくない。1をDと判定しよう。
残った3がCとなり、これが正解。どうだろうか、森林面積割合が高く70%を超えているが、日本も森林面積割合は60%代後半であり、同じような感じ。実は耕地面積割合や草地・裸地の値も日本とほぼ同じなのだ。温暖で多雨、森林に恵まれ、稲作が行われている。一方で湿潤な気候であるため、草原や砂漠はみられない。そんな日本と似たような環境が想像できないだろうか。Cは3が該当する。
[雑感]
土地利用割合を問う問題には「牧場・牧草地」がカギとなる問題が多く、本問の場合は「草地・裸地」。乾燥気候に対応するこれらからA・Bが2・4であることを判定し、そこからは2択になる。これなら何とか解けるんじゃないかな。インド半島の綿花についても他の問題(遺伝子組み換えの問題)で登場しているし、イメージは難しくなかったと思う。
なお、Cを含む一帯はユンコイ高原(ユンナン省)というところ。やや内陸部ながらモンスーンによって湿った風が持ち込まれ、降水量は多い。温暖・湿潤の山岳地域ということで日本列島によく似ているんですよね。日本人のルーツがこの地域なんじゃないかって説がある。米(稲)や茶の原産地に近く、日本のような気候(もっとも、ここは低緯度なので気温年較差は小さいんだろうけれど)を想像したらいい。
<第4問問2>
[インプレッション]
中国の農業に関する問題(インドは見なくてもいい)なのだが、中学でも問われる内容であり、これは簡単なんじゃないかな。図の読み取りにちょっと気をつけるぐらい?
[解法]
中国を中心に考えてみよう。中学地理でも学ぶ内容なのだが、中国は南北で農業の形態が異なる。黄河流域の華北では少雨気候がみられ集約的畑作農業地域として小麦が栽培される。長江流域の華中では集約的稲作農業地域として水田耕作。中国中央部を横断する(これが華北と華中の境界線となる)年降水量1000ミリの等値線はよく知られているだろう(これこそ中学地理にも登場するからね。最低限の知識として知っておこう)。
中国北半分の地域で目立つCが小麦メイン、南側で広い範囲を占めるBが米メインだろう。図3を参照。アの範囲は米の割合が20~100%と高く、小麦は0~20%で低い。米メインである。bに該当。ウの範囲は小麦が20~100%、米が0~20%で小麦メイン。cに該当。
残ったaは中国沿海部の中部に位置し、ちょうど小麦と米の間の地域。それぞれがほぼ等しく栽培されてるんじゃないかな(あるいは、栽培条件的に小麦と米の中間の性格を有するトウモロコシの栽培が主かも)。aはイになるね。
[雑感]
シンプルな問題。今回は中学生でも解ける問題がやたら多い印象。この問題でちょっと落とし穴になりそうなのが図3の解釈なのだが、これも時間をかけてゆっくり考えれば十分に理解できるので、中学生でも正解できるんじゃないかな。
ちなみにちょっと発展的な内容ですが、中国北部のbのエリアにも注目しよう。こんな北部で米の栽培!?ってビックリする人もいるかもしれないけれど、日本も北海道での米の栽培が多いのだから驚くべきことではない。温暖な地域が原産で(問1図1のC付近が米(水痘)の原産地と言われている)、主に熱帯や亜熱帯に栽培地域が広がる米だが、近年は品種改良によって栽培地域が北へと拡大している。
この中国の最北端の省はヘイロンチャン省というのだが、夏の気温がちょうど良く、米の栽培には適するが、かといって暑すぎないので蒸発量が多くなく、水が足りないということがない。華北の場合は、夏の気温が高すぎて、蒸発量が多いため乾燥してしまうのだ。小麦栽培は可能だが、米の栽培は水が十分でないため不可能になっている。米って、気温より水の存在が重要だってことだね。
<第4問問3>
[インプレッション]
これもちょっと厄介そうな図が登場している。図は無視して文章から判定してしまえばいいと思うよ。文章でわからなければ、そこで初めて図を見る。人口と1人当たりGNIがテーマなので理論で解けそう。
[解法]
1人当たり総生産という指標が登場しているが、中国は省単位、インドが州単位なので、それぞれ「1人あたり省内総生産」、「1人当たり州内総生産」というべきかな。これが国ならば「1人当たり国内総生産」であり「1人当たりGDP」。地理ではGDPとGNI(国民総所得)は同じものと考えるので、つまり省や州ごとの「1人当たりGNI」に関する問題ってことだね。
これと人口指標との関係が問われている。選択肢を検討していこう。まず1から。1人当たりGNIと出生率が反比例するという内容が示されている。これは妥当なんじゃない?一応、図で確認すると、反比例の形になっているよね(点を結ぶと、大まかに「Y=a/X」の曲線になる)。
次は2。なるほど、2018年における中国の1人当たりGNIを見ると、最高で20千ドルを超えるのに対し、5千ドル程度の省も多い。格差は中国でこそ大きくなったとみていいんじゃない?これも妥当。
さらに3。インドで政府主導の家族計画が行われたのは事実。しかし、現在でもインドは人口増加率が高く、その人口抑制政策は奏功しているとは言い難い。インドでは伝統的に多産を求める考え方があり、とくに農業のための労働力として子どもを捉えている。どうだろうか?こうした国において、「農村部」で出生率が大きく低下していると言えるだろうか。例えば、(農村部に対する概念である)都市部において経済成長を背景に出生率が低下していることは考えられるのだが、それが農村に及ぶとは想像しにくいんじゃないかな。「1人当たりGNIと出生率は反比例する」というセオリーを思い出して欲しい。インドにおいても他地域と同様に、1人当たりGNIが高いのは都市部であり、低いのは農村部。出生率も農村部で高いだろう。これが誤りである。
残った4も確認。中国において、西部の内陸部と東部の沿岸部(沿海部)の経済格差が顕著なのはよく知られているだろう。沿海部は経済特区も設けられるなど外国からの投資も進み、21世紀初頭には世界で最も経済成長率が高い地域に成長した。4も正文。
[雑感]
本問はおそらく文章だけで解く問題だね。図の読解は不要。選択肢4は中学地理でも登場する内容であり、受験生ならば必ず知っておくべきこと。これと関連させ、経済格差が大きくなったことを想像し、選択肢2も正文と判定できるよね。選択肢1と3はいずれもセオリーに基づいて考える。「1人当たりGNIと出生率は反比例」という公式を軸にして考えれば、いずれも正誤を判定できる(1が正文、3が誤文)。
<第4問問4>
[インプレッション]
「サービス業」が肝だね。これが何であるのかイメージできれば解答できる。ポイントはもちろん「ICT」。インドがICT大国であることを十分に意識しよう。
とか言ってたら、あれ、これ、間違えたんちゃうか!?勘違いして解いてたわ。今解答確認しました。やっぱり間違えてた。。。ここに「通信業」って書いてあるやん。インドのICT産業について「サービス業」に分類されるかと思っていたけど、これ、通信業のカテゴリーやわ。あぁ、間違えました。面目ないです。お恥ずかしい。
[解法]
そうなんですよ、、、これ、ガチで間違えたんですよ。先ほど気づいて確認しました(ま、答え合わせをする前に自分で気づいただけマシだと思ってください・苦笑)。
以前、インドの貿易にうちて「サービス貿易が多い」っていう話題がテストで出たことがあるんですよ。形のある物品ではなく、形がなく手で触ることもできないサービスの輸出が多い。このサービスってもちろんコンピュータソフトですよね。インドはICT産業が発達していることはみなさんもよく知っていると思いますが、これによりコンピュータソフトの生産が盛んなんですね。
このことから「サービス=ICT産業」と紐づけてしまいました。これが落とし穴だった。。。
だから「サービス」が大幅に伸びたKがインドであり、他の二つについては値の低下が著しいサを「農林水産業」として答えを出してしまいました。これが違ったわけですよね。しっかり読めば「運輸・通信業」の「通信」こそICT産業であることに気づいたはずなのに。。。
というわけで、インドにおいては「運輸・通信業」が大きく伸びているはずで、これを考えるとインドがJ、運輸通信業がシということになるのですね。ゆっくり解けば絶対に正解できたな。決して難しい問題ではなかったと思います。反省。
[雑感]
「サービス」って言葉に飛びついてしまったな。もっと慎重も解くべきやった。やっぱり共通テストは「時間をかけてナンボ」の世界ですわ。みなさんも時間をかけまくりましょう。
<第4問問5>
[インプレッション]
国境を越えた人の流れの問題。他にもイギリスをテーマとした似た問題があったよね。コロナ禍でなかなかこういった問題は出しにくいはずなんだが、地理が好きなテーマでもある。人口移動の基本は1人当たりGNIの高低を考えることだが、本図は実数が示されているのでGNIや人口といった「国の大きさ」にも注目して欲しい。
[解法]
本問で真っ先に思ったのは、中国・インドとオーストラリアの規模の違い。前者2つは人口・GNIとも巨大であるが、オーストラリアは小国に過ぎない。このことはとくに人口の大きさが一つのヒントとなる移民の送出に大きく関係するだろう。
PとQの判定。Qではオーストラリアから比較的太い矢印が他の国に向かって出ているのに対し、Pでは細い矢印のみ。おそらくPが人口に関するものだろう。つまり「移民の送出数」。とくに移民というか人の流れは「1人当たりGNIの低いところから高いところへ向かって移動する」がセオリーであり、1人当たりGNIの高いオーストラリアから他国への移動はほとんどないと思っていいんじゃないかな。
さらにタとチだが、いちおう中国(10000ドル/人)の方がインド(2000ドル/人)より1人当たりGNIが高く、考えうる人口移動の流れは「インド→中国」なのだが、本問の場合は他にもヒントが多いので結論は後にしよう。
Qの「輸出額」に注目。ここで最大のポイントになるのはオーストラリアからチへの流れなのだ。さて、オーストラリアの主な輸出品目って何だかわかるかな?そう、鉄鉱石と石炭だよね。そしてこれら資源を世界で最も必要としている国はどこ?鉄鉱石と石炭は「鉄鋼」の原料。石炭を燃やして得た熱で鉄鉱石を溶かし、鉄(鉄鋼)を得る。世界で最も鉄鋼生産が多い国はどこだろう?それは中国だね。多いどころか、世界全体の約半分の鉄鋼を生産しており、もはや地球上で鉄をつくっているのは中国だけじゃないか、ぐらいの勢いがある。圧倒的な存在。
中国は国内で鉄鉱石や石炭が産出されるにも関わらず、海外からの輸入にも大きく依存し、鉄鉱石と石炭ともに世界最大の輸入国である。そしてその輸入先については、同じ環太平洋経済圏であるオーストラリアが筆頭なのだ。オーストラリアにとっても現在圧倒的な輸出先1位の国こそ中国である。
このことを考え、オーストラリアから太い矢印が向かっているチを中国と判定し、もう片方のタがインドである。中国は世界最大の貿易額を誇る国でもあり、チからはオーストラリア、タ(インド)ともに輸出額が大きくなっている。
先ほどの移民について、中国からインドへの矢印が太く、それに対しインドから中国への矢印が細いのがちょっと意外なのだが、これもよく考えてみると簡単な理屈。インドの場合は移民に出るとしたら中国以外の国々なのだろう。今回の他の問題でも取り上げられていたようにインドからはイギリスへの移民が多い。旧植民地と旧宗主国の関係であり、さらにインド人の多くは英語を喋ることができる。同じく英語圏でありアメリカ合衆国への移民も多いね。こちらはシリコンバレーでの研究者・技術者など。いまやインドは世界最大のICT技術者の供給国なのだ。
逆に中国については世界中に華僑・華人のネットワークが存在し、とくに東南アジアや南アジアについてはそういった中国系住民の経済的な地位が高い。インドで活動している中国人・中国系住民のネットワークを頼って、多くの人々が移住しているのではないか。こういった世界を股にかけた中国人のネットワークは、日本人にはちょっと想像しにくいものかも知れない。
[雑感]
基本的には1人当たりGNIとGNIの問題。その中でオーストラリアと中国の貿易関係を考えるという重層的な構造を持っている。オーストラリアから中国への輸出が多いという話題は近年のセンター試験でも出題されている。かつてのオーストラリアにとって最大の輸出相手国はイギリスだった。旧宗主国であり経済的なつながりが強い。羊毛などが輸出されていた。それが1970年代に日本へと変化する。高度経済成長期の日本であり、今度は鉄鉱石や石炭などの資源が中心。70年代はイギリスがEC加盟、オーストラリアが白豪主義撤廃など、社会的変化も大きかった時代。そして2000年代に入ると中国の工業力の台頭を受け、中国が最大の貿易相手国となる。鉄鉱石や石炭が輸出され、現在その割合は圧倒的。こういった世界情勢の変化にも注目しよう。
<第4問問6>
[インプレッション]
これも悩んだなぁ。インドに注目すれば何とか解答できるんだが、ちょっと中国で悩ましいところがあるんだよね。かなり頭を使います。というか、かなり無理やり答えをこじつけたところもある(笑)
[解法]
マについてはインドを見たらいいと思う。南アジアではモンスーン(季節風)の風向は、夏は南西風、冬は北東風。
夏の南西風によって大気汚染物質は北東の内陸側に追いやられ、1月はTが該当。冬は北東風により大気汚染物質は南西のインド洋側に拡散。Sが7月。これでいいと思う。
ただ、ちょっと悩むのが中国。東アジアのモンスーンは、夏は南東風、冬は北西風。たしかに沖縄付近を見ていると、冬に「5~10」となっており、これは大陸からの風によって大気汚染物質が吹き流されてやってきたと解釈できるのだが、他のエリアについてはさほど顕著な違いはない。むしろ、Sにおいて中国内陸部で「50以上」の地域があったりする。これって何なんだろう?
ここ、考えてみたんだが、PM2.5って結局空気中の細粒であり、その発生要因はいろいろ。ここでは「工場からの煤煙や自動車からの排ガス」ってあるけれど、もちろん他にも多種多様なものがある。おそらく僕は思うんだけど、これって、暖房用に薪炭材(木炭)や石炭を燃焼させ、その排煙が空気中に撒き散らされることによって生じたPM2.5なんじゃないかな。中国内陸部は未だに電気やガスの普及が進まないところが多く、燃料を樹木や石炭に依存する家庭も多い。蒸気機関車の煙を想像すればいい。あれが各家庭から排出されているとすれば、かなりの大気汚染物質になるよね。インドは暑いので冬にも暖房の必要はないけれど、中国はそうはいかない。人口も莫大であり、使用する燃料も莫大。排煙が空気中に撒き散らされるのは冬の方が夏より顕著なんじゃないだろうか。
さらにミの判定も。「複数の国にまたがって」が重要。第1問問1でもこういった問題があったよね。空間スケールが大きいということ。地球温暖化のように地球全体に影響が及ぶものもあれば、こういったモンスーン地域では強い風によって大気汚染物質が国境を越えて拡散する場合もある。
選択肢は2つ。海洋ごみの漂着と土地の塩性化。
まずは土地の塩性化から見ていこう。土地の塩性化ってどうやって生じるんだ?それは「過度な灌漑」による。農地に人工的に水を与えることを灌漑っていうよね。もちろん雨水に頼れない(降水量より蒸発量が多い)乾燥地域においては、灌漑に頼らなければ不可能であるし、河川(外来河川)や地下水(地下水炉によって遠方より水を運ぶ)を利用した灌漑が行われる。
ただ、この灌漑も過剰に行ってはいけない。農産物が吸収し切れなかった水はそのまま地下に浸透し、土壌中の化学物質を溶かし込む。過度な蒸発によって、その「水溶液」が地表面にまで持ち上げられ、さらに水のみが空中へと蒸散すると地表面には化学物資つまり「塩」が残されることになる。この化学物質には食塩(塩化ナトリウム)や硫酸マグネシウム、さらには水酸化カルシウムなどがあり、土壌が強いアルカリ性を呈することになる。これが土壌の塩性化(塩類化)。これにより農産物の栽培ができなくなるどころか、草すら生育できない裸地となり、砂漠化の原因となる。塩害である。
これを防ぐための方策として、点滴灌漑に代表される節水農法がある。点滴灌漑とは、灌漑の量を調節し、農作物の根本に少量ずつしか水を与えない方法である。これにより農作物は十分に生育できるが、土壌は乾いた状態が保たれ、「水溶液」はつくられない。地下の化学物質が地表面に持ち上げられることもなく、土壌の塩性化は免れる。
逆に、大規模施設などを用いて粗放的に灌漑が行われるならば、大量に散水されるため、塩害の危険性が急激に高まる。アメリカ合衆国で行われているセンターピボット農法などはその典型。地下水を汲み上げ、開店するアーム式の散水器によって円形の農地を灌漑する。この際、大量の水が与えられるため、地下にも多くの水が浸透し、土壌の塩類化が生じる。アメリカ合衆国だけでなく、オーストラリアでもこのような大規模灌漑が行われているが、これによる砂漠化や土壌劣化(土壌流出・土壌侵食)は大きな環境問題となっており、農業生産にも打撃が与えられている。
さて、どうだろうか。もちろん「土壌の塩性化」は農業が不振となるばかりではなく、砂漠化の原因ともなり、大きな環境問題を引き起こすものであるが、それが果たして「原因となる物質が複数の国にまたがって拡大する」環境問題といえるだろうか。塩性化を引き起こす物質自体はその地域の土壌に含まれている化学物質である。ナトリウムやマグネシウム、カリウム、カルシウムなど。これが灌漑によって地表面に持ち上げられるだけなのだから、例えば酸性雨の原因物質(硫黄酸化物や窒素酸化物)のように空中を飛んでいくものでもない。「複数の国にまたがる」とは言い難いのではないだろうか。対策についても、その地域における塩害ならば、点滴灌漑のような局地的な対策で間に合うものである。多くの国が共同して行うものでもないだろう。ミには土壌の塩性化は該当せず、海洋ごみの漂着が該当する。
[雑感]
こういう問題、絶対に君たちは苦手だよね(苦笑)。おそらく極端に正解率は低かったと思う。君たちの多くは「直感的」に問題を解く習慣が身についてしまっているので、この問題を見た時に「あ、土壌の塩性化がヤバい環境問題って聞いたことあるぞ。これが絶対正解や」とばかりに解答をマークしてしまうのだ。僕にはその光景が手に取るように見えるよ。
これ、塾に行っていた子の弊害なんだけれど、そういった子って問題を雑に解くクセがついてしまって、なかなかそれが治らない。小中学校で塾に行くでしょ?たくさんの宿題が与えられるわけだ。でも、君たちは遊びに行きたいわけじゃない?本来なら3時間ぐらいかかる宿題を1時間で終えてしまって、それでオッケイとなる。国語の問題でも小説の傍線部だけ読んだら解ける問題が多かったり、算数でも何も考えず公式に当てはめるだけで答えを出してしまったりする。でも、それって本当の勉強じゃないよね。小説は問題文の全体を読んで意味を解釈するべきだし、なぜそういった公式が求められるのか理由を考えないといけない。でも、早く遊びに行きたい君たちは「スピーディ」に問題を解く技術ばかりが増強され、問題に対し十分な時間をかけその本質に迫るという勉強法ができなくなってしまう。
小さい頃から塾に行っていた受験生ほど、実は大学受験において成績が伸びないってそういうことなのだ。小中学校までは成績が良かったとしても、高校になったら伸び悩み、大学受験では失敗する。そういったパターンを僕はたくさん見てきた。逆に、今まで勉強が大嫌いだったのに、高校時代にゆっくり取り組むことで正解に辿り着くという経験を重ね、結果的に勉強が好きになった子ってのもかなりいる。
僕は小中学生に過剰な勉強をさせることには反対であるし、好きなことだけを時間をかけてじっくり取り組むという習慣を身につけることこそ大切なんだと思っている。君たちにとって勉強は「手っ取り早く終わらせたいもの」になっていないか?
本問も土壌の塩性化のシステムがわかっていれば、決して難しいものではない。しかし君たちが「考えないでスピーディに問題を解く」ことでこれまでの学校生活をクリアしてきたならば、ここで大きな壁にぶち当たってしまう。勉強って、雑に片付けるものではないと思う。身も心も深く沈めて、時間を忘れて集中するべきものだと思う。