2022年地理B本試験【第3問】解説

たつじんオリジナル解説[2022年地理B本試験]第3問

<第3問問1>

[ファーストインブレッション]

航空写真を使った問題だね。こういう問題こそ、カラーにするべきなんじゃないかって思うけどね。ただ、解像度は高い写真なので判別は難しくなさそう。センター時代からこの手の集落に関する問題はよく出ていたので、傾向に変化はないと思う。

[解法]

この手の問題は選択肢から先に見ていくこと。誤っていそうな言葉をあらかじめチェックしてしまう。また、文章(本問の場合は下線部)の誤りを判定する場合は、基本的には読点以前の部分には誤りはない。文章(下線部)の後半に注目しよう。

選択肢1から。「農業の機械化や効率化」は誤っていないとみなす。ポイントになるのは後半の「広く」や「長方形」。とくに「広く」は「狭く」という反対語がすぐにできるので、これはちょっと怪しいかも。

選択肢2から。同様に「モータリゼーション」は誤りではないと決めてかかっていい。ポイントになるのは「あぜ道」が「舗装されて幅の広い道路に変わった」という部分。とくに重要なのは「ほとんど」という箇所。一つや二つはこのような例があるかもしれないが、ほとんど変わってしまったかどうかはしっかり写真から判定しよう。「あぜ道」が多く残っていたらこの選択肢は誤り。

選択肢3から。「人口増加や核家族化」は問題ないと思っていい。「耕地の一部は住宅地となった」について検討。ただ、これはおそらく正文じゃないかな。都市化が進むなかで、耕地をつぶして住宅にするのはっ普通に見られる光景だよね。

選択肢4か。おっ、ここで数字に関するキーワードが登場しているね。「一戸あたりの敷地面積」は、指揮面積を戸数(世帯というか、家族単位と考えていいね)で割って求める。ただ、本問では数字のデータが示されているわけではなく、これについてはシンプルに写真から判定すればいい。「広い」という言葉があるね。これが「狭い」かどうか読み取るわけだ。

では選択肢4を見ていこう。「伝統的な家屋」とは1963年の段階ですでに作られていた家屋とみていいだろう。高度経済成長期で、今まさに日本が変化しつつある時代。これに対し、「近年建てられた住宅」はどこだろう。新旧を比較してみると、2009年の写真の右手の真ん中ぐらいに新しく家屋が密集して存在するのわかる。これが、新しく作られた家屋だろうね。一戸建ての家屋だとは思うのだが、ひとつひとつの敷地面積は狭く、比較的小さい建物であることがわかる。伝統的な家屋の方は、周囲の庭みたいなところを含めて、面積的には余裕をもって建てられているようだ。選択肢4については正文とみていいんじゃないか。

では次に怪しい選択肢2の判定。今度は「あぜ道」がキーワード。あぜ道って分かります?田んぼの一枚一枚を隔てる盛り土の枠のことで、ここで歩いて農作業をしたりしますよね。僕らの時代は田舎だったので(笑)田んぼのあぜ道はちょうどいい通学路になったりしたものですが。

1963年の図であぜ道を確認してみると、それぞれの田を区切る細い線で表されているね。無数に存在する。さて、これが「ほとんど」舗装されて幅の広い道路になったのか。

2009年の図を確認してみよう。図中に多くの「道路」が張り巡らされたことは分かるけれど、まだまだ多くのあぜ道が残っている。というか、そもそもこれらの道路にしても、あぜ道が舗装されたものではないよね。あぜ道はそもそも自動車などの走行を目的としたものではなく、田の区切りであり、農業用に利用されるもの。この選択肢が誤りであることは明確だね。2が正解。

他の選択肢も検討してみよう。

選択肢1はどうだろうか。1963年にはまだ小さい田も多く、細かく区分けさレテいたことが分かる。形も不規則で、四角形でないものも多い。それに対し、2009年は耕地整備(圃場整備事業というものが行われたのでしょう)され、比較的形も一定で、全体に長方形の田が多くなっている。1枚ごとの面積も大きい。正文。

選択肢3はどうだろうか。選択肢2の検討の際にも確認したが、図の右側の中央部に新しい建物が集まっている。これが「耕地の一部が住宅地になった」例ではないだろうか。都市化が進展しているのだ。これも正文。

[ちょっとひとこと]

これって「あぜ道」を知らないと答えられないよね。田舎の子が有利な問題かな。都市生活者のみなさん、どうでしたか。

<第3問問2>

[ファーストインプレッション]

またこのパターンの問題か。これ、よく出るよね。都心部に集まる「買い回り品」と、どこにでも存在する「最寄り品」の違いを意識すること。

[解法]

3種類の施設の分布を問う問題。この手の問題は「買い回り品」と「最寄り品」の違いがポイントとなる。

買い回り品とは高級品や耐久消費財のこと。「回る」とは「選ぶ」という意味。購入に慎重になるので、いくつかの店舗を回って、比較しながら商品を選ぶ。買い回り品を扱う店舗の例として「デパート(百貨店)」がある。高級な商品を扱い、ターミナル駅の周辺などの都市中心部に集まる。鉄道などを利用して周辺地域から客が集まる。広い「商圏」を有するとも言える。

それに対し、最寄り品とは日用品や生鮮食料品のこと。住民の日々の生活に密着した商品(あるいはサービス)のことで、これを扱う店としてはスーパーマーケットやコンビニを考えたらいい。このような店は、人が住んでいるところならどこでもあるね。「都心部=買い回り品」に対し「どこでも=最寄り品」と考える。人口分布に応じて最寄り品を扱う店舗はみられる。

では、ここで問題を眺めていこう。「交番・駐在所」、「ごみ処理施設」、「市民ホール」のうち、典型的な「買い回り品」的特徴、「最寄り品」的特徴を有するものはどれだろう?これ、交番・駐在所だと思うんだよね。町があれば、村があれば、人が住むところがあれば、あまねくそれらをカバーするのがこういった公共のサービスであるし、交番・駐在所はその典型と言える。

図を参照。本図においては人口分布が示されている。「高」から「低」まで示された階級区分図の一種だが、それぞれのエリアの面積が決まっている(底辺が1キロ、高さがそれよりちょっと短いぐらいの長方形かな)ので、これは実際には人口の「実数」を表す図となっている。要するに、直接的に人口の「多い・少ない」が読み取れるということなのだ。

全体的に地域をカバーしながらも、人口分布に大まかに対応しているものって何だろう。それはアじゃないかな。図の北西部の人口密度が低い(つまり人口が少ない)エリアにも分布する一方で、南部の人口密集地域(こちらも同じく、人口が多い地域)には人口に対応して数多く集まっている。イを「最寄り品」と考え、これを交番・駐在所とする。

残るは2つ。でも、これらの判定はそんなに難しくないんじゃないかな。ここからは買い回り品や最寄り品ではなく、自分の感覚で十分に解けるはずだよ。ゴミ処理場の方がわかりやすいかな。小学校の社会科見学でゴミの焼却場って行ったことあるんじゃない?どんなところにあったかな。人里離れた山奥や、あるいは周辺に何もない埋立地とか。焼却した際の煙もすごいだろうし、時には悪臭もあるかも知れない。ゴミを積んだトラックがひっきりなしに道路を走るから騒音や交通事故のリスクもあるかも。もしも近くに住む人がいれば、それは迷惑な話になってしまうね(ただ、ゴミ処理というのは非常に重要なことで、それを「迷惑」と言ってしまうことも問題ではあるんだけどね)。人が少ない地域に存在している施設がゴミ処理場だと思うよ。図の北西部の人口密度が全体に「低位」の地域。先ほどもみたように、交番・駐在所も点在しているけれど、そこにはウの四角形がいくつか見られないか。この四角形は図の南東部の人口密度が全体的に高い地域には一つしか存在しない。本来ゴミは人口が多い地域でこそたくさん出るものだから、人口密度が高い地域にゴミ処理場が立地した方が効率的なんだが(実際、そういうものもいくつかあると思う)、しかし人口過疎地域にこそ特徴的に分布している。ウをゴミ処理場とみていいんじゃないか。

残ったイが市民ホール。そんなに数は多くないが、そもそも市民ホールってそんなにめちゃめちゃたくさんあるわけでもないでしょう。市町村界が示されており、それぞれの市町村の範囲がわかるんだが、一つの市町村について1つ、多くて2つぐらいずつ▲の記号があるんじゃないかな。市民ホールっていうか、町民ホールとか村民ホールもありそうやけど(笑)。

[ちょっとひとこと]

過去問で同じ問題出てるもん。過去問大事やで。

<第3問問3>

[ファーストインプレッション]

これは難しかったなぁ。最初間違えたんですが、どうもしっくり来なくてねぇ。。。そこでもっとしっかり考えるべきだったな。共通テストの問題って多面的であり、複数の方向から問題へとアプローチできる。一方向からみただけで解いてしまうと、ちょっと不自然なところが残るかも知れない。そういう場合には、異なった角度から眺めてみて、問題の「真実」を追求するのだ。時間はかかるけれど、時間をかけてこそ解く問題が、ある。

[解法]

ジェントリフィケーションに関する問題。ジェントリフィケーションについては問題文の中で「先進国の大都市内部の衰退した地区において、専門的職業従事者などの経済的に豊かな人々の流入と地区の再生が進む現象」と定義されている。「先進国の大都市内部の衰退した地区」というのはスラムのこと。そこを「再開発」することによって低所得者は住処を追われ、高所得者が流入してくる。スラムだった廃墟は取り壊され、高級タワマンに変わる。税収が増えることで公サービスは向上するし、富裕層を当て込んだ商業地区も増え、都市全体が活性化する。

こういったことを頭にいれて図を見ていこう。

まず「中心業務地区付近の概要」。地区2、3、4は市役所の近くにあり、こちらが従来の市街地であることがわかる。「先進国の大都市内部」だろう。それに対し、地区1はちょっと郊外っぽいかな。道路が密集しているエリアからは離れている。一応近くに鉄道はあるから、これが都心部への通勤の足となっているのかも知れない。

では各図を見ていく。こういった図やグラフをみる際に、真っ先に見て欲しいのは「単位」なんですよね。先に単位に赤丸をつけてしまおう。「2000年の居住者の貧困率」を見て、単位をチェックする。みんなは「%」に注目した?でも、もう一つ単位があるよね。わかるかな?それは「年」。この図は階級区分図というものであって、色の濃淡でそれぞれのエリアの割合の高低を示す。なるほど「20%未満」、「20~40%」、『40%以上」とある。その地域の具体的なイメージも伝わってくるんじゃない?そして、実は非常に大切なのは、これが「2000年」のデータであること。これはしっかり念頭において、次の図をみる。

今度は「大学を卒業している居住者の増減」。今度の階級区分図の階級分けは「減少」、「0~20%増加」、「20%以上増加」。全体的に大学への進学率が上がっている現代社会で「減少」っていうのはよほどのことだよ。市役所を含むエリアでこうしたことが起こっているのは、よっぽどのスラムがここにあるってことだね。そして「年」にも注目し、この図が「2000~2015年」の変化を示したものであることを確認。なるほど、先ほどの「2000年」の図は「過去」のものなのだ。現在に至る15年の間にどういった変化があったのか、それを読み取るための図なのだ。地区1、2、4で上昇、3で減少という違いが明確になっている。一般に大学卒の方が社会的地位も高く、所得水準も高いはず。高賃金の仕事に就いて富裕層を形成しているはず。「経済的に豊かな人々の流入」に対応している。

そして「賃料の増減」。要するに家賃ってことだけど、これもジェントリフィケーションに関係するね。再開発によって「家賃の安い」廃墟同然の建物は取り壊され、「家賃の高い」高級マンションに建て替えられてしまった。それまで住んでいた低所得者は住み場所を失い、転居を余儀なくされる。一方で、そもそも都心部で通勤しやすいなどのメリットを有した地区であるので、家賃の高さを気にしない富裕層が移り住むのだ。こちらは「減少(っていうか、低下って言った方が正しいように思うのですが)」、「0~40%増加(こっちも上昇なんじゃない?)」、「40%以上増加」。年代は先の図を同じく「2000~2015年)。賃料ってわずか15年間で大きく変化するもんなんだね。地区によって極端な違いが見られる。ただ、おもしろいと思うのは「大学を卒業している居住者の増減」と「賃料の増減」って、ほとんど同じ傾向を示しているんですよね。片方で高いところはもう片方でも高いし、片方で低いところはもう片方でも低い。要するに「再開発によって家賃が上がったが、そこに転入してくる人は高学歴の富裕層だ」っていうこと。2つの図の高低分布が重なっているのも納得だね。地区1~4についても、2がワンランク下がったぐらい。1と4は高く、3は低い。

さて、ここからが本題。ジェントリフィケーションの定義に照らしてみて、どの地区が最もその条件を満たしていたかな?キーワードは以下の通り。(1)大都市内部、(2)衰退した地区、(3)専門的職業従事者の流入、(4)経済的に豊かな人々の流入、(5)地区の再生。このうち、(5)は曖昧なので外すとして、残る(1)から(4)について、もっともそれらしい地区ってどこだろう?(3)と(4)は同じことを言っているんだけど、一応(3)の方は、専門的スキルは大学で学んだ人が多いだろうから「大学を卒業している居住者が増えた地域」と対応するし、(4)は、収入が多いから高い家賃のところに住めるので「賃料の上がった地域」と対応する。っていうか、そもそも「大学を卒業している居住者の増減」と「賃料の増減」の図はほぼ同じなので、まとめて考えてしまっていいけどね。この(3)と(4)に当てはまるのは、「大学~」でも「賃料~」でも高い値となっている地区1と地区4。

同様に(1)と(2)も同じことを述べている。先進国の大都市では、歴史が古い旧市街地で建物の老朽化や荒廃が進み、家賃が下がり、貧しい人々が流入。スラムの形成だね。これがそもそも起きていた地区ということなのだ。都心部で、さらに貧困だったのはどこか?「~貧困率」の図をみれば一目瞭然でしょう。1は値が低く、4は値が高い。スラムが広がっていたという過去を持つのは4なのだ。正解はこれ。1はもともと郊外のベッドタウン的な地域で、富裕層が一戸建てに住んでいるところなんでしょう(おっと、第5問でも都心部と郊外の住宅地の違いが出題されていたね)。

地区2や3は相変わらずのスラムであり、家賃が下がり続けているのです。都市内格差も明確。たしかに現在先進国の大都市では再開発が進められてはいるけれど、当たり前だけど都市全域が再開発されているわけではなく、クリーンアップされるのはごく一部。他の地域には廃墟が残り、相変わらず貧しい人々が集まって住んでいるのです。

[ちょっとひとこと]

物語性がある問題だね。美しい。地区4の再生の様子が想像できれば、それで満点。

<第3問問4 >

[ファーストインプレッション]

今回の試験の中で全体を通じて都市名が登場した唯一の問題。その都市名にしても、パリとマドリードという有名なもの(フランクフルトは消去法でいい)。ヨーロッパ5大国の首都であり、これは一般常識として知っている範囲だと思う。サッカーが特別好きな人でなくても、レアルマドリーやパリサンジェルマンっていうチーム名を聞いたことはあるんじゃないかな。このように地理は地名や都市名について特別な知識は問われないし、わざわざ地図帳で確認しなければわからないようなマイナーなものは登場しないs。「地理=地図帳」では全くないし、地理はあくまで「社会科学」であり、博学や物知りであることは何のメリットもない。

[解法]

都市名が登場しているが、いずれもよく知られたものであり、とくに問題はないと思う。それに都市そのものの知識が問われているわけではなく、都市名から国名を判断し、それらに国の特徴がポイントになっている。

パリはフランス、マドリードはスペイン。これらの両国は、西アジア、東アジア、中央・南アフリカの何の地域と関係が深いのだろう。ここで当然考えるべきは「宗主国と植民地」の関係だね。宗主国とは支配した側で、ヨーロッパ各国がこれに該当する。植民地とは支配された側で、現在の発展途上国の多くは植民地だった時代がある。

フランスが多くの植民地を有した地域に、北アフリカ←西アフリカがある。地中海を挟んでフランスと接するアルジェリア、サヘル地帯のセネガル、ギニア湾岸のコートジボワールなど。アフリカとの関係が深いんじゃないかな。

スペインが多くの植民地を有した地域に中央・南アメリカがある。メキシコのアステカ文明、ペルーのインカ文明はいずれもスペインによって滅ぼされ、またアルゼンチンには多くのスペイン人が植民した。これらの地域ではスペイン語が用いられ(さらにカトリックも信仰される)現在もスペインとの関係が深い。このことから人的交流も活発と思われ、「中央南アメリカ」の割合が高いクがスペインのマドリードと判定する。

さらにAとBを判定してみよう。ここでヒントになるのはイギリス。イギリスではAの割合が極めて高くなっている。スペインと同様に、宗主国/植民地の組み合わせで考えてもいいし、共通の言語を使っていることを考えてもいい。これ、アメリカ合衆国やカナダを含む北アメリカでしょ。ともに旧イギリス領であり(カナダは東部のみ旧フランス領)、英語を使用する国々(同じくカナダは東部のみフランス語)である。当然、イギリスとに関係は強いでしょう。イギリスのロンドンで割合の高いAが北アメリカ。

Aが北アメリカとなり、残ったBはアフリカとなる。なるほど、ここで気になるのはキのアフリカの割合の高さだね。これもやっぱり「旧宗主国=旧植民地」の関係で考えれば答えは簡単に定まるね。すでに述べたように、アフリカに植民地を多く有し、現在でも社会・経済的に深い関係にある国はフランス。とくに西アフリカにはフランス語を公用語とする国もある。キをフランスのパリと判定しよう。

カがドイツのフランクフルトになるけれど、これはとくに特徴はなし。ドイツは戦争の敗戦国であり、植民地は広がらなかった。でも、そんな敗戦国であっても現在はヨーロッパ最大のGNIを有する国であり、ユーロ経済圏の中心となっているのだから凄いもんだわ。フランクフルトには共通通貨ユーロを取り扱う欧州中央銀行があるね。

[ちょっとひとこと]

この問題を距離や経済(1人当たりGNI)の問題として考えた受験生もいたみたいで、それはとても鋭いと思った。でもやっぱりこのように「宗主国=植民地」の関係で考える問題なんだよね。でも、それを思いつくかどうかっていうのが、また難しかったりするんだけどね。やっぱ過去問解いて慣れることが大事なのかな。似たようなパターンでは「ODAの供与先」っていうのがあって、やっぱりフランスやアフリカへ、スペインはラテンアメリカに多額の援助をしている。フランスやスペインのように「宗主国=植民地」関係に特色ある国が登場したら注意せよ!って感じかな。

<第3問問5>

[ファーストインプレッション]

うわっ、この手のパターンの問題って共通テストでよく見かけるんだけど、解きにくいんだよなぁ。たしか去年はデトロイトとシアトルでこの形があったよね。縦軸(DとE)と横軸(サとシ)でそれぞれ当てないといけない。ただ、難易度が低いのは間違いないとしても、よく考えれば、一つだけ明確な選択肢があれば、それで縦軸も横軸も自動的に決まる。正しく問題を解釈し、「これだっ!」っていうポイントを探ってみよう。

[解法]

人口ピラミッドの問題。シンガポールとドイツ、それぞれ国全体と外国生まれで、4つの人口ピラミッド。この場合の「人口」がどこまで含まれるのかが不明。国籍を有する者だけなのか、それとも一時的な移住者も含むのか。注釈もない。ただ、これについては先例があって、2020年にアラブ首長国連邦の人口陽見ラッドが登場しており、そこでは男性の割合が極めて高かった。これは間違いなく「一時的な移住者」もj含んでいるよね。出稼ぎ労働者もカウントされているわけだ。低賃金国からやってきた労働者が、アラブ首長国連邦のようなリッチな国の国籍が得られるわけがない。本問についても、そうした出稼ぎ労働者を含むグラフとみるべきだろう。

では、それぞれのグラフを観察してみよう。一番引っかかる部分ってどこだと思う?人口ピラミッドの基本は「子供の数」を見ること。出生率の高低が、底辺の長さ(0~5歳の割合)を表し、これは人口増加率と比例する。1と2は極端に「子供」が少なく、3と4は比較的多い。でもこれだけじゃわからないよね。

では今度は老年人口率を観察してみよう。65歳のところに線を引いてみる。極端に頭でっかちになっている人口ピラミッドが4。でも、それ以外はほぼ似たような感じじゃないかな。決定的な違いはないような。4は何に該当するだろう?高齢者の割合が高いということは、死亡率も高いし(高齢者が多い国はお葬式も多くなると思うよ)、人口増加率(自然増加率)は低くなる。ドイツとシンガポールを比較した場合、人口増加率はどちらが低いだろう。なんとなく見当はつくと思うけれど、まだ決定的ではない。他の部分を観察していこう。

さて、どうだろうか?子供の数でも高齢者の割合でもなく、今度はどこに目をつけようか。ずいぶんと目立つ部分があるんじゃないなか。僕もここに気づいた時は「なるほど」と膝を打ったし、「またこのネタが登場しているのか」ってちょっと呆れたり。そう、わかるよね。それは1の性別ごとの偏りなのだ。男性が少なく、女性が圧倒的に多いじゃないか。これって何だろう?

普通に考えれば、これが外国人なわけがない。「外国生まれ」=「外国人」=「出稼ぎ労働者」ならば、それは工業(日本の場合はブラジル人の自動車工業での労働だね)なんだけれど、さてシンガポールの場合はどうなんだろう?

ここで鋭いみんなならもう気づいたよね。先進国が発展途上国から出稼ぎ労働者の受け入れるセオリーは全て共通しているけれど、国によってその内容は異なる。すでに述べたように、アラブ首長国連邦ならば建設業ん労働者であるし、日本ならば自動車工業の労働者。さて、シンガポールはどうだろう?ヒントは「女性

」だよね。そう、フィリピンからの家政婦やベビーシッターとしての出稼ぎ労働者の流入であり、もちろんそれは女性なのだ。

フィリピンは最大の輸出品目が「女性」と揶揄されることもある国。かつて日本にも「興行」目的で多くのフィリピン人女性が出稼ぎでやってきて(単純労働者の入国は認められないので、興行=エンターテインメントのビザが発給されて日本国内で働いたのだ)主に飲食業に就業。若い女性が中心であり、中には日本人と結婚してそのまま永住している人もいる。

フィリピンの特徴は「英語」で「カトリック」であるということ。かつてスペインによりカトリックが布教され、やがて植民地となった。その後、スペインが戦争に敗れるとフィリピンはアメリカ合衆国の植民地となる。英語が広められ、公用語の一つともなっている。英語に堪能であるため、外国に行っても言葉が通じやすい。カトリックであるため、イスラームほどには現地の文化との相違がない。フィリピンはかくして世界有数の「出稼ぎ国」となったのだ。そして、その多くが女性なのである。

フィリンピン人の家政婦やベビーシッターの需要がとくに高いのがシンガポールと香港。シンガポールは英語が公用語の一つとなっており、香港は中国語が使われる国だがかつてイギリスの植民地だったことから英語が通用する。女性の数が大きく男性を上回っている1が「シンガポールの外国人(外国生まれ)」と考えていいんじゃないかな。1が正解。

1が決定しているので他の選択肢も自動的に決まる。2がドイツの外国生まれ、3がシンガポール全体、4がドイツ全体。3と4を比較してみようか。ドイツの方が高齢者の割合が高い国となっている。シンガポールの方が「若い」国と言えるね。

さらに1・2と3・4を比べてみよう。外国生まれは20代や30代が多く、やはり労働者としてそれぞれの国にやってきたことがわかる。ドイツでも日本同様に工場労働者としての流入だと思うのだが、だからといって男性が多いというわけでもない。家族でやってきているのだろうか。とはいえ、子供の数は少ないし、そういう形でもないのかな。ちょっと判断が難しい。この点はとくに突っ込むところでもないのかな。

[ちょっとひとこと]

センター・共通テストってこの「フィリピン人の出稼ぎ」ネタって好きだよね。よく見かける。みんはすぐに「フィリピンバー」とか水商売の女性を思い浮かべるけれど、それはもう過去のことなんだよね。今の日本にもフィリピンからの入国者は多いが、彼ら彼女らは研修生であり、介護士を目指す人が多い。もちろんここでも「英語・カトリック」であることは日本社会に適応する一つのツールになっていることは言うまでもないね。

<第3問問6>

[ファーストインプレッション]

おっ、出生率が問われているね。合計特殊出生率じゃないのがいい(笑)。合計特殊出生率ってわかりにくい指標なんですよ。14歳から49歳までの年齢ごとに女性の出生率(というか出産率って言った方がいいかな)を出して、それを合計する。僕はちょっと意味がわからないし、あまりいい指標ではない。それに対し、出生率は人口あたりの出生数であり、こちらはシンプル。出生数÷総人口で算出される。1億人の国で100万人の子どもが生まれたら1%(あるいは10‰。パーミルと読みます。千分率です)となる。今の日本は1億2500万人に対し、80万人ほどの子どもだから、6~7‰だろうか。少子化であることがはっきりわかるのです。

[解法]

人口増加のセオリーを考えよう。人口増加率は、自然増加率と社会増加率の合計。自然増加は出生と死亡の差、社会増加は転入と転出の差。国の人口については、主に自然増加率を考える。国の人口増減は、主に出生と死亡によるものであり、移民の流入や流出の占める割合は低い。

さらに死亡率はいずれの国でもさほど差はない。そもそも人間はせいぜい生きたとしても最大で100歳ほど。人間は誰でも100年に1回、死を経験するのだ。平均すれば死亡率は100分の1つまり10‰であり、この値を大きく外す国はない(これは図6からも読み取れるね)。社会増加率が大きな意味はなく、死亡率に大差がないのならば、結局ある国の人口増加を決定する要因は唯一「出生」だけになる。

さて、ここで地域ごとの年人口増加率を考えてみよう。世界全体の人口増加率は年間におおよそ1%。現在は80億人の人口で年に1億人ずつ増えている。

2%;アフリカ

1.5%;南アジア

1%;ラテンアメリカ

0.5%;東アジア・アングロアメリカ

0%;日本・ヨーロッパ

こういった数字で覚えておくといいよ。一般には、人口増加率は1人当たりGNIに反比例し、つまり発展途上国で高く、先進国で低くなる。ただし、先進国であっても移民の流入が多く、その移民の出生率も高いアメリカ合衆国では高めの値となり、発展途上国であっても一人っ子政策の影響で結婚・出産年代の人口が少ない中国では低めの値となる。

選択肢となる国をみていこう。カナダ、韓国、バングラ、マレーシア。1人当たりGNIで並べれば、バングラ<マレーシア<韓国<カナダ。地域別に先ほどの表に当てはめるならば、バングラ=南アジア=1.5%、カナダ=アングロアメリカ=0.5%、韓国=東アジア=0.5%となる。マレーシアは東南アジアの国で表中にはないけれど、世界平均の1%と考えればいい。ここでは、カナダ=韓国<マレーシア<バングラとなり、出生率もこれに一致すると考える。

図を参照。最新(2019年)の数字をみようか。出生率は、2<1<3<4の順。2000年は、1<2<3<4、1980年は同じく、1<2<3<4 の順。出生率が1人当たりGNIと反比例関係にあることを考えれば、常に出生率が最高である4が最も1人当たりGNIの低いバングラ、次点の3が次いで1人当たりGNIの低いマレーシアになる。3が正解。

1と2はちょっと微妙な感じになっているね。だからこそ、今回の問題で(1と2ではなく)3が問われたというわけ。1と2の判定は必要ではない。ただ、何となくわかるんじゃないかな。1980年の段階では韓国はまだ十分に経済成長していない。朝鮮戦争で国が荒廃した韓国は、そこから奇跡的な復興を遂げた。1960年代より工業化が起こり、70年代から80年代にかけて急激な経済成長。「ハンガンの奇跡」と呼ばれているね。80年代には韓国は、香港・台湾・シンガポールとともに「アジアNIEs」の一つに数えられるようになった。同じく80年代にはソウルオリンピックも開催されている。経済成長(つまり1人当たりGNIの上昇)と出生率の低下を結びつけ、この変化が大きい2を韓国と考え、残った1をカナダとする。

現在の値は韓国の方がカナダより出生率が低いわけだ。日本と同様に少子化に陥り、近い将来の人口減少が予想されている韓国(日本はすでに人口が減少している)に対し、アメリカ合衆国同様に移民の流入がみられるカナダは比較的出生率が高い。

死亡率については特筆するところはないね。どの国も0.6~0.8の間に入っており、大差はない。あえていえば、古い時期から出生率が低く、その分だけ高齢化が進んでいると思われるカナダでやや高く、子どもが多く高齢者の割合が低いバングラやマレーシアで低い値となっている。とくにバングラについては、この数十年間で平均寿命が急激に伸び(衛生環境や栄養状態の改善、医療の発達など)、死亡率もそれに伴った大きく低下している。

[ちょっとひとこと]

せっかくだから死亡率をみておいてください。あまり差がないよね。あえていえば、高齢者が少なく、平均寿命が現在進行形で伸びている発展途上国で死亡率がやや低く、すでに高齢化が進み、これ以上は寿命は伸びない先進国で高めの値となっている。日本の死亡率はかるく1%を超えています。