2020年地理B本試験[第1問問1]解説

[1][インプレッション]さぁ、いよいよ2020年地理B本試験の開幕です。とはいえ、僕の場合、第2問→第6問→第3問→第4問→第5問→第1問の順で解くので、実は8割がたテストが終わった状態でこの第1問に入っているわけですが。

例年通り、自然環境ネタの大問。地形や気候が中心となり、難易度は例年高いのですが、さて本年はどうなることか。この第1問を苦手とする受験生は多く、それはもちろん難しい問題が多く含まれるからだけど、だから後回しにするのは一つの手だと思いますよ。難易度が低く、しかし解答に時間を要する第6問などを先にゆっくりと片付けてしまい、第1問は最後に。「できなくて元々」だと開き直ってもいいし、ある程度の失点は計算に入れておきましょう。

さて、その第1問の問1ですが、毎回「大地形」からの出題が多くなっています。大地形は地理のジャンルとしては例外的に「知識」が重要視されるジャンル。だからかえって簡単とも言えるし(覚えておけば解けるので)、適切な受験対策をしていない人にとっては最難関ともなります。過去問を研究すれば出題される箇所はほとんど決まっているし、「経験値」がモノを言うんちゃうかなぁとは個人的には思います。過去問への習熟が大事。

 

[解法]冒頭の問題は「大地形」ジャンルからの出題が多く、とくに海底地形(海嶺や海溝など)は頻出。ただ、今回は地形ジャンルであることは間違いないけれど、それとはちょっと違ったパターンかな。まず陸上の地形であること、さらに「氷河の削った侵食地形」や「ワジ」など小地形が登場していること、そして「永久凍土」という地形と関係ない言葉が含まれている(あえていえば「オアシス」も地形とは関係ないかな)こと。

しかし、それでもやっぱり規模の大きな地形が主題なのは間違いない。具体的には標高だよね。標高を表す数字こそが最大のポイント。まさに「地理は数字の学問」であるし。「立体視」が重要ということ。

ではそれぞれの選択肢から数字を読み取り、土地を立体視していこう。①は「500〜1000」と低め。これは地球規模では平原と思っていいレベルじゃないかな。「安定陸塊」と考えてみよう。

②は「900〜3000」とはずいぶん半端な(笑)。ちょっとした高原で、低地でも高山でもない。この選択肢は「オアシス」がポイントになりそう。

③は「2000〜3000」で4つの選択肢中では平均的。

④は高い。「4000〜5000」ならば富士山を軽く凌駕する。「新期造山帯」の山脈だろう。

図を参照。なるほど、最大のポイントはBだね。ここ、どこかわかるかな。経度(縦軸)はインド東部からバングラデシュと同じ(インド半島とインドシナ半島の間のベンガル湾。その大きく湾曲した部分に位置するバングラデシュ)、緯度(横軸)は中国の華中と同じ(中国南部の大きく弧状に張り出した部分。長江河口やシャンハイなど)。この位置関係からみて、この位置が「チベット高原」であることは間違いない。インド半島を含むプレートがユーラシアプレートへとぶつかり、大きく土地が持ち上げられた巨大な褶曲山脈がヒマラヤ山脈であり、その北側のチベット高原も同様の成因にて形成された高峻な地形。新期造山帯であり、火山こそないものの、日本列島の標高を軽く越える高地。これが④とみて妥当だろう。

なお「永久凍土」という言葉にも注目しておこう。地下に「氷の層」がある状態で、夏でもこれが解けない。シベリアの広い範囲に永久凍土層がみられることはよく知られている。冬季に強烈な低温となるため、夏の気温が上がったとしても、地下の氷の層は完全にはなくならないのだ。チベット高原の場合、緯度が低いので冬の気温はシベリアほどには低下しないが、しかし標高が高いため夏の気温もシベリアほど高くならない(*)。地面の下の氷の層は、夏の間も保存されるのだ。

さらにAに注目して欲しい。ここ、サハラ砂漠のド真中で、亜熱帯高圧帯の影響によって極度に乾燥する。選択肢中に乾燥に関する言葉が含まれているね。そう、「オアシス」。一般には砂漠の中の湧き水のことだが、地理の場合は、砂漠地域で行われている伝統的な灌漑農業である「オアシス農業」という言葉で知られているね。いずれにせよ、砂漠のキーワードであり、Aが②だろう。

ちなみに「砂漠」というのは地形用語ではなく、植生用語である点も確認しておこう。[砂漠=植生なし]として認識しておいてほしい。乾燥の度合いが高く、樹木どころか草すら育たないのだ。地表面を覆い尽くす植生がみられない状態を「砂漠」と呼ぶ。日本のような湿潤な国は「森林」が生育。サハラの南縁に沿うサヘル地帯は半乾燥であり「草原」が広がる。Aのサハラは強く乾燥。植物がみられず「砂漠」となる。

残りはCとD。これが①と③のいずれかとなる。ここで気になる言葉はないかな。やはり「氷河」ではないだろうか。氷河には大きく2種類あり、一つが「大陸氷河」、一つが「山岳氷河」。大陸氷河は現在は南極大陸とグリーンランド内陸部にしかみられない。「氷床」と呼ばれるもので、巨大な氷の塊が大地を覆い尽くし、そして土地を押しつぶしている。現在より気温が低かった数万年前の時代(最終氷期と呼ばれているね)は、両半球の高緯度地域が大陸氷河で覆われ、その範囲は「ヨーロッパ北部」、「北アメリカ大陸の五大湖より北側」、「南アメリカ大陸南端」、「ニュージーランド南端」。これらの地域には氷河の作用による地形が多く残されている。フィヨルドや氷河湖など。

一方の「山岳氷河」。現存するものは、低緯度では標高6000mを越える高山(キリマンジャロ)、中低緯度では標高4000mを越える高原。Bのチベット高原にも(そしてそれが接するヒマラヤ山脈にも)山岳氷河は分布している。アフリカ大陸北東岸のアトラス山脈、ヨーロッパ南部のアルプス山脈も山岳氷河の分布地域。日本にはみられない。ただし、最終氷期は現在より気温が低かったことにより、3000m級である日本の高山にも山岳氷河は存在していたようである。カールやU字谷など氷河による地形が北アルプス(飛騨山脈)には形成されている。

さて、選択肢①では「氷河の削った侵食地形」とあるので、現存する氷河にこだわらず、過去(最終氷期)に氷河が存在していたことも含めて考えていいだろう。CとD、それはどちらの地域だろう。

上述のように「北アメリカ大陸の五大湖より北側」は大陸氷河に覆われていた地域である。五大湖は氷河湖(氷河の侵食により土地が削られ、さらに氷河が運搬した土砂が河川をせきとめることで湖が形成された)であり、さらにカナダやアラスカ州の沿岸部にはフィヨルドがみられる。Cの部分は、そんな大陸氷河地域のド真中に当てはまるんじゃないか。大陸氷河の作用による地形も多くみられるはず。これを正解としていいだろう。

残った③がDに該当。

(*)チベットの中心的な都市であるラサ(標高3600m)では、最寒月(1月)がマイナス3℃、最暖月(7月)は17℃。富士山と同じ標高であるが、低緯度であるため、極端な低温とはならない。草地が広がり、ヤクの遊牧が行なわれる。