1998年度地理B本試験解説

1998年地理B本試験

平均点が異常に高かったことで悪名高い回。得点調整がかけられてしまい、高得点者にとっては大変不利な事態を招いた。とくに十分な学習をしてしっかり得点を稼いだ浪人生にとっては最悪の結果である。

第3問に代表されるように簡単な問題が並んでいるというイメージがあったのだが、こうやって解説を作り直してみると、実は難しい問題も多くて、意外な印象を受けた。第1問の難度は比較的高いし、第2問も解答に迷う現代社会的な問題が並ぶ。第3問も知識問題が多いので、わからない人は手も足も出ない。第4問の地形図も簡単ではないし、第5問も知識問題あり、あいまいな問題ありで手ごわい。

ではなぜ本年度の平均点が高かったのか。そのヒントは出題の形式にある。図表を用いたやっかいな統計問題が少ないのだ。難易度がもともと低い第2問に統計問題が集中しているが、それらは容易に解ける。それ以外は第1問問3問6、第3問問3くらいかな。図表問題はかなり時間がかかる。よってこのパターンの問題が多い年は平均点が下がる傾向にある。00B本など。図表問題に慣れて、ここで時間を節約できるようになると、高得点につながる。

第1問 問1は容易。問2はイジワル問題。問3は簡単な統計問題。問4は難しいがホイットルセー農業区分は頻出なのでじっくり対策をしないといけないし、だからこそ本問は落としてはいけない。問5もちょっとイジワル問題。問6は難しい。捨て問。問7は難しく考える必要はないので確実に得点する。

というわけで、2~3問のロスは出るかもしれない。比較的難易度は高い。

問1 農作物の問題。簡単。

Xは「せんい」なので綿花。Yは「エチオピアが原産とされる」のでコーヒー。

図1参照。それぞれのプランテーション作物を判定していこう。

わかりやすいのはd。キューバに注目。キューバはサトウキビモノカルチャーの国である。国内経済がサトウキビの栽培とサトウの輸出に依存している。

次はbがわかりやすい。ブラジル南部に注目。ブラジル高原でコーヒーが栽培されている。

aもわかりやすい。アフリカ西部のギニア湾岸。カカオの主要生産国はガーナやコートジボワール。

天然ゴムの栽培で名高いのはタイである。しかしタイは近年とくに栽培がさかんになったところであり、それはプランテーションではない。プランテーションとはあくまで欧米人の資本家がその植民地などに開いた大農園のこと。タイの農園はタイ人によって開かれたものであり、プランテーションの定義からは外れる。よって本図においては、タイというよりも東南アジアのプランテーションで栽培されているものとして天然ゴムをとらえてみよう。東南アジアにはbとcとdがみられる。この内、bとdはすでに判明しているので、残ったcが天然ゴムである。

天然ゴムに関する問題。01B本第1問問6。天然ゴムの生産がとくに多いのはタイである。99B追第1問問6。天然ゴム原産地は南米であり、アマゾン川沿いの河港都市マナウスは天然ゴムの集散地として発展してきた。

最後に残ったeが綿花であろう。綿花栽培のさかんな国としては中国(黄河流域)やインド(インド半島・デカン高原)が挙げられるものの、いずれもホイットルセー農業区分の「アジア式畑作農業」地域であり「プランテーション農業」ではない。欧米の資本家によって設けられた大農園というわけではなく、むしろ伝統的に、中国人・インド人の手によって生産されているのである。綿花プランテーションの代表例は米国南部。本図でも米国南部にeという文字が書かれている。米国人資本家によってひらかれ、黒人労働力を利用して綿花がさかんに栽培されていた地域である。

ただしこの地域は現在では綿花の専業地帯から、大豆や穀物などを含めた多角経営農業地域へと転換している。現在の米国の綿花栽培地域は南部からやや西方に移動し、主生産地はテキサス州やカリフォルニア州などになっている。ただしこれらの州の綿花栽培についてはプランテーションではないので、本図において示されていない。

問2 「企業的穀物農業」という言葉に注目。ホイットルセー農業区分はセンター頻出なので、必ず押さえておくべきキーワードである。

企業的穀物農業とは主に新大陸(北アメリカ・中南アメリカ・オセアニア)で見られる小麦を栽培する農業のこと。例外はウクライナからカザフスタン北部へと広がるチェルノーゼム地帯であり、ここは旧大陸でありながら大規模な企業的穀物農業がみられるところ。

本問を解くカギは「大さん井盆地」。ここは構造平野であり、古い時代に形成された地層が折り重なった大平原となっている。その地層には、水を通さない不透水層と、水を含む透水層の2種類がある。地下水を十分に含んだ透水層が、上下から不透水層にはさまれ、そして地層全体が傾いている。この傾斜によって垂直方向に圧力を受けた地下水のことを被圧地下水という。1リットルの牛乳パックを想像するといいだろう。パックを傾けて、やや下の部分に短いストローを差し込む。ストローの上端が、牛乳パックの最上部より低いところにあるのならば、そのストローからどんどん牛乳があふれてくる。このように大さん井盆地においては、単に井戸を掘っただけで(掘抜き井戸という)地下水が勝手に噴き出してくる(自噴するということ。自噴する井戸のことを自噴井という)。ただし大さん井盆地の地下に蓄えられていた地下水はかなり塩分を含むものである。もちろん地上に噴出するのも塩水である。これは農耕には不適であるし、もちろん人間の生活用水としても使えない。ただし、牧草の生育ぐらいには利用できる。大さん井盆地には非圧地下水があり、掘抜き井戸をつくることによってそれが自噴する。乾燥地域で牧草の生育を助け、そこで羊が放牧されている。羊は乾燥した気候条件と、粗食に耐えるのだ。

ということから、4が誤りとなる。掘抜き井戸を用いた灌漑によって成立するのは「企業的穀物農業」ではない。羊の放牧を中心とした「企業的放牧(企業的牧畜)」なのだ。

一応、他の選択肢についてコメント。

1;米国中央部は大規模な小麦地帯。北部で春小麦(8~10月くらいに収穫)、やや南方で冬小麦(5~7月くらいに収穫)が栽培。

2;パンパとよばれる草原。ここは小麦(「企業的穀物」)だけでなく、混合農業や企業的放牧も行われている総合的な農業地域。南アメリカ大陸は大土地所有制が残存していることで有名であり、アルゼンチンだけでなく、ブラジルや他の国々でも同様の大農園が存在する。

3;旧大陸唯一の企業的穀物農業地域。黒海北岸からカザフ草原まで広がるチェルノーゼム地帯。

問3 農業統計問題。ちょっとマイナーなものが問われているので厳しいかな。これはバナナ。エクアドルやフィリピンといった国名から推理するしかない。

果実の問題は意外としばしば問われているので、さまざまな統計をチェックしておこう。ブドウ、オリーブ、オレンジ、パイナップルなどの生産上位国をまとめておくといい。

問4 まさにホイットルセー農牧業区分そのものを問う問題。こういう問題を落としてはいけない。

1;ともに商業的な農牧業形態である。

2;ともに無畜である。

3;プランテーション農業は近代的な農業形態。企業的穀物は主に新大陸における農牧業形態であり、新大陸に移住したヨーロッパ人が始めたものであることを考えると、伝統的とは言えないだろう。

4;「国営」がキーワードになるとすればそれは社会主義国における農牧業形態。この2つの農牧業については当てはまらないだろう。

問5 ちょっとイジワル問題っぽいけどね。何とかできるんちゃうかな。

答は3が誤り。この選択肢のどこが誤っているかだって?文章自体は合ってる。でもポイントは「南アメリカ」ということ。南アメリカ大陸に冷帯は存在しない。冷帯は高緯度における大陸性気候。日本ならば北海道が該当。最も寒い月の平均気温が-3℃未満であり、港湾や湖沼・河川が凍結してしまう氷の世界。ただし最も暖かい月の平均気温は10℃以上に達し、十分に農耕が可能である。

ケッペンの気候区分は出ないけれども、「気候区」ではなく「気候帯」に関する問題であるので、このくらいは問われても仕方ないかな。気候帯は中学でも勉強するものであるし、とくに冷帯気候が南半球に見られないっていうネタもそこで勉強するものだと思うよ。

しかし本問以外ではセンター地理においては、南半球に冷帯気候は存在しないっていうネタは全く登場していないので、本問はセンター史上かなり異色な問題といっていいのではないか。例えば、南アメリカ大陸西岸の一部に乾燥地域があるというネタや、ノルウェーの沿岸は不凍港であるというネタなどは、しばしば出題されているので、それらと比べれば本問のネタは軽視されている。

問6 これは難しい。土地利用割合の様子を問う問題っていうのは数年に1回のペースで出題されている。例えば00B本第2問問5など。しかし本問はそれらと比べてもかなり難易度は高いと思う。

表を参照し、それぞれの項目について特徴を考えてみよう。

まず「耕地」から。これは原則として人口密度と比例する。人が住んでいれば農作物を作る必要があるわけで、つまり耕地が増えるということ。ちなみに耕地っていうのは「水田」「畑地」のこと。

「牧場・牧草地」について。これは草原のこと。ステップ気候の国はこの数値が高い。半乾燥の気候によって草原が広がっているのだ。

「森林」について。世界の森林の50%は熱帯林であり、35%は冷帯林。温帯林の割合は15%に過ぎず、実は温帯というのは森林の豊かな地域ではないのだ。このことから、熱帯(ちなみに南半球に冷帯はない)の国の森林面積割合が高いと考えていいだろう。つまり赤道直下の国っていうのがポイントになる。

「その他」は「砂漠」「高地」「氷雪地」など。

以上、4つの項目のうちで最も判断しやすいのは「森林」ではないか。表中1と4の国が森林国であり、これが熱帯国であると考えられる。赤道周辺に熱帯気候がみられるので、ここではペルーとブラジルが該当すると考えられる。

残った2と3のうち、どちらかがアルゼンチン。例えば「耕地」を比べてみよう。先に、耕地面積割合は人口密度に比例すると言ったが、チリとアルゼンチンの人口密度なんてわからない。たいして差がないんじゃないか。ここで重要となるのが、両国の主要生産物。どのようなものを生産し、主に輸出しているのか。チリは銅鉱の国、とくに農業がさかんというわけではない。それに対し、アルゼンチンの主要輸出品は穀物(小麦)や植物性油脂(トウモロコシ・大豆)、肉類(牛肉)など。この国には農業のイメージがあるのではないか。このことから、より耕地面積割合の高い3がアルゼンチンと考える。

3についてはさらに「牧場・牧草地」面積割合が高いことにも注意。パンパと呼ばれる温帯草原が広がる国でもある。

2は「その他」が多い。国の北部に乾燥地帯が広がり、砂漠が分布するチリらしいデータである。

1と4については判定不能。

という感じで解答は可能なんだが、それでもかなり難度が高い問題であることには違いない。土地利用割合問題は難しい。

では全く対策がないかといえばそうでもない。実はこのパターンの問題ってたいてい「牧場・牧草地」面積割合の高い国が出題の中心となっているのだ。本年のアルゼンチンしかり、00年のケニアしかり。牧場牧草地の面積割合の高い国を機械的に知っておけば意外に使えるかもしれない。

以下の国について、統計を用いて牧場牧草地割合の高さを確認しておこう。

モンゴル、サウジアラビア、ケニア、南アフリカ共和国、イギリス、アイルランド、メキシコ、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド。

問7 キーワードは「日本」。これからブラジルだと考えていい。日本とブラジルの密接な関係についてはセンター試験の中でもしばしば聞かれているものであるし、本問もそれに類するものと考えていいだろう。写真の読み取りよりも問題文の中からキーワードを探す作業の方が重要ということ。

第2問 生活行動に関する問題。問1は埼玉をテーマとして取り上げている地理Bの頻出パターン。他の年度にもこのような郊外の県の特徴を問う問題は多い。問2・問3・問4などは地理的な思考ではなく、現代社会的な思考方法が求められているという点において異色。かえって難しいかもしれないが、ぜひ全問正解を狙ってほしい。問5も現代社会っぽいけれど、観光ネタは地理の頻出ネタなんで正解しないといけない。問6も得点。本大問は20点満点を取るべき大問である。

問1 埼玉の問題。埼玉と書いて郊外と読め。

郊外とは都心に労働力を提供する場所。都心部で働く労働者たちは郊外に居を定める。

というわけで1が答となる。他都道府県とはあるけれど、これは主に東京だろう。これだけの人口が県外に通勤・通学しているのだから、昼間人口は(夜間人口に比べて)かなり少なくなる。昼夜間人口割合が低いのだ。これこそまさに典型的な郊外の特徴。

通勤時間の長さも納得してくれるだろうか。関連問題は96追第6問問3。選択肢3のグラフが東京であるが、通勤時間がかなり長いことがうかがえる。東京圏は巨大であり、職場の集中する都心と、住居のある郊外との距離が大きいので、どうしても通勤時間が長くかかってしまう。

他の選択肢はどうでもいい。2は大阪府だろう。3と4は判別不可能。いずれも他の都道府県との間の日常的な人口移動が少ない。北海道と沖縄は、海によって他県と隔たっているのでこれは当然のことだろう。

問2 新課程特有の問題。っていうかここまでくると現代社会の問題かな。

日本は他の国に比べて企業の終身雇用が一般的だろう。一旦就職したならば、定年を迎えるまで一つの企業で勤め上げることが一般的。週当たりの労働時間も比較的長い。

2と4の判別は不要。3は重要かな。これがドイツ。日本と同じように20年以上勤続者の割合が高い。ドイツはほとんどの職業が資格制であり、職を転々とする者は少ないようだ。またドイツは週当たり労働時間が短いことも大きな特徴。ドイツ人には働き者のイメージが強いのにこれが一体どうしたことか。ポイントはバカンス。夏季も冷涼なドイツでは人々は長い夏休みを取ってフランスやスペインのリゾート地へとバカンスへ出かけることが多い。このような長期休暇の長さを反映しているので、平均の労働時間は小さくなるのだ(普段は一生懸命働いているんやろけどね)。

問3 関連問題は97B本第3問問2。同じグラフが用いられている。

ただし問題自体はグラフの読み取りはそれほど重要ではない。選択肢をみていこう。

1;「結婚しても就業を続ける女性が増えた」ことは正しいだろう。社会が成熟すれば、女性にとって働きやすい環境が整ってくる。

2;「雇用機会の減少により失業者が増えた」という文自体にはおかしいところはない。しかしこれが「10歳代後半」の年齢層に当てはまるかどうか?ということである。就業率が低下した最大の原因は、進学によるものではないか。大学などへと進む割合が増加した分、就職する者は減少した。

3;「パートタイム就業者が増えた」ことによって「40歳代の就業率が大幅に上昇した」ことは97B本第3問問2において日本のグラフを判定する最大の手がかりにもなっている。

4;「主として」はちょっと気になるが、「農業従事者が減った」ことは時代(高度経済成長期)であることを考慮すれば正しいことだろう。

完全な現代社会の問題であり、かなり手ごわいと思う。しかし近年はこのようなパターンの出題はなく、安心していいだろう。

問4 問2・問3と現代社会的な問題が続いたが、本問もその傾向があるかな。簡単だと思うんでとくにコメントなし。

問5 問2でも触れたが、ドイツ人の観光の形態に関する問題。ドイツ人が長期のバカンスを家族で過ごすことを考えればいいだろう。

問6 1;明らかな誤り。関連問題は96追第6問問3。グラフ3が東京都なのだが、乗用車の値(100世帯当たり普及台数)がたいへん小さい。都市部で自動車保有率が低いことがよくわかる。地価の高さによる駐車場確保の難しさ、公共交通機関の普及が進んでいることなどさまざまな理由が考えられるし、ここは納得だろう。

2;これはどうかな~?さすがにこんなことはないかな。

3;自家用車の普及によって栄えたのはショッピングセンター。巨大な駐車場を備えた郊外型のショッピングセンターに買い物に出かける者が増えた。古くからある商店街はむしろ廃れていくんじゃないかな。

4;「自家用乗用車の普及によって通勤が容易に」なったことが原因なのかはわからないが、専業農家が減って兼業農家が増えたことは間違いないわけで、本選択肢についてもとくに誤りということはないだろう。

第3問 非常に変な大問。世界旅行にテーマをもった設問自体は珍しくないが、なぜか知識問題が多く、地理Bの問題としてはかなり異色。例外的な存在であり、本年以降このような出題パターンが存在していないことから、失敗作として公認された存在なのではないか?

問1は簡単。問2は知っていなければ解けないが、簡単なのでぜひとも正解してほしい。問3はオーソドックスな問題でもあり確実に得点する。問4はちょっと妙な問題であるが、何とかできるかな。問5は図法問題。非常に珍しい。しかも「大圏航路」についての知識が求められているという点でも特殊。無視していいんじゃないか。問6も知識ではあるが、中学でも登場することであるし、何とか得点を拾う。問7は良い問題だと思う。これもゲット。

というわけで、問5以外は十分に解答可能である。ミスしないように。

問1 1;「東南アジアの港」とはシンガポールのことだろうか。シンガポールはかつてイギリスの植民地であった。東南アジアの旧宗主国については必修ポイントであるので確実に。

2;時差は地球と太陽の位置関係によって生じるもの。「当時」だろうが現在だろうが関係ない。

3;赤道の位置は頻出。他に赤道の位置がポイントとなる問題は、00B本第2問問1、99B本第4問問1など。

4;インド半島(ボンベイ付近)は熱帯であるし、米国西部は乾燥帯である。

問2 変な問題。このパターンの出題は本問のみ。

1はシンガポール、2はニューヨーク、3はパリ、4はペキン。とくに言うことはない。簡単な問題だとは思うけれど、知らなくてはできないわけで、そういう意味では難しいかも。

問3 アデンは西アジアに位置するので原油の取り扱いが多いのではないか。イエメンはOPEC加盟国ではないし、原油が産出されない国かもしれないが、それでもアデンには多くの石油を積んだタンカーが立ち寄ると考えていいんじゃないか。

アは機械類が多い。中継貿易港のシンガポール。

イはその他が多い。中国の衣類を表しているのではないか。

ウは石油関係が多いのでアデン。

問4 これも変な問題。

わかりやすいところから考えていこう。

2;聖なる川というのはガンジス川のことだろう。この川で沐浴することはヒンドゥー教徒にとっては重要な習慣。ヒンドゥー教の聖地ベナレスの風景。象っていうのもいかにもインドって感じ。こぶのある牛は水牛かな。インドなど南アジアから東南アジアにかけての地域では水牛が使役用の家畜として耕作に利用されている。

3;ヨーロッパとアジアをつなぐ運河であるので、スエズに該当する。

4;小さな島の貿易港ということで、ホンコンのこと。

というわけで消去法で1がヨコハマとなる。桜っていうのは確かに日本を象徴する樹木である。

本問が特殊なのは、他の年度のセンター試験に類題が見られないこと。例えばスエズ運河なんていうのは他には全く見られない。そもそも運河自体の出題がない。太平洋と大西洋をつなくパナマ運河などはかなり有名なもののはずなんだが、センター試験で話題になったことは全くない。他の運河についても同様。センターでは無視されている。

ベナレスも本問以外での出題はない。っていうかそもそも宗教の聖地っていうネタ自体が出題の対象となったことが本問以外ではない。宗教ネタの多い地理Aですら皆無なのだから、本問のベナレスの出題は異常であるのだ。

問5 さらに異常な事態!何と図法問題が問われている。こりゃおかしい。

大圏航路というのは、最短距離となるルートのこと。直線距離を測ることを考えてみよう。地球儀を持っている人は実験してみてほしい。一本の糸を用意し、それをヨコハマとサンフランシスコに当てて、ピンと張ってみる。その時その糸は地球儀上のどこを通過するだろうか。ヨコハマもサンフランシスコも、おおよそ北緯35度に沿っている。しかしその最短ルートは、北緯35度より北を通過するはずである。図1のようなメルカトル図法においては、aのように高緯度側に円弧のようなラインを描くはずである。これが大圏航路。

図法が出題された例は地理Bでは本問と99B本第5問問3のみ。出題の可能性はたいへん低い。僕が受験生ならノーマーク。図法の勉強はしない。

問6 これはまだマシかな?一応類題はある。99B本第4問問5選択肢4参照。

とはいうものの、ほぼ完全な知識問題であり、知っていなくては解けない。しかしセンターピボット農法自体は中学地理でも話題となるものであり、知っていて当然とも言えることだと思う。

正解は3。グレートプレーンズというのは北米大陸中央の大平原(そもそも「大平原」を英語にすれば「グレートプレーンズ」である)のこと。米国において、西経100度と年間降水量500ミリの等値線はほぼ一致しているが、その西側に沿う帯状の地帯がグレートプレーンズだと考えたらいい。ロッキー山脈からミシシッピ川の形成する低地の間に広がる平原である。降水量は500ミリにちょっと満たないくらい。グレートプレーンズ東部(つまり500ミリの等降水量線に近いところ)では十分に小麦が栽培されうる(第1問図1を参照するとわかりやすいだろう。米国中央部に小麦地帯がある)。しかしこれより西側では降水量が足りないため、農耕には適さず放牧地帯となっている(「企業的放牧」)。牛が羊が大規模に放牧されているのだ。

しかしこれらの地域でも地下水を灌漑することによって穀物などの栽培が可能になっているところもある。その灌漑方式として重要なものが本問の写真にある「センターピボット農法」。中央から地下水を取水し、アームを回転させながら散水するため、写真のような円形の農地となる。選択肢3の文にもあるように、乾燥気候下でありながら小麦、トウモロコシ、牧草などの栽培が可能となっている。

ただし、灌漑による弊害はどうしても生まれてしまうもので、灌漑に付き物の「塩害」はやはりこの地域でも発生している。また地下水の取りすぎで地盤沈下が生じているところもあるそうだ。ともかく、無理矢理な農業っていうのはどこかにそのしわ寄せみたいなものがくるってことなのかな。

問7 おっと、やっとマトモな問題に当たったな。これは意外といい問題。交通を扱っているという点でかなり珍しいけれど、問題自体はオーソドックスな考え方で解けると思う。

1;世界は金で動いているわけで、経済的なつながりは果たしてどちらが強いのだろうかと考えれば、この選択肢が正文であるという事は容易に想像つくだろう。ヨーロッパにとって貿易相手として重要なのはアジアではなく北米だろう。経済的交流が活発であり、その分、航空機の便数も多いと思っていいだろう。

2;これは何とも判断が難しい。例えば日本を考えてみるか。東京と博多の間は新幹線で結ばれているわけだが、それでも羽田空港と福岡空港の間の航空機の便数はかなり多いんじゃないかな。実際に飛行機を利用する人の方が多いくらいだと思う。そのことを考えると、いくらトンネルが開通したからといっても航空機の便数がそれほど減るとは考えられない。

3;「旅客は船舶を利用しない」。関連問題は97B本第1問問2。国内旅行にしても海外旅行にしても、移動手段として船を利用する者はよっぽどの変わり者!?

4;これはちょっと考えればわかるのでは?わざわざバスで移動はしないよね。飛行機が最も一般的な交通手段なはずだ。

第4問 ナオミさんによる地域調査。しかしすごい島に行ったもんやな(笑)。問1・問2・問3はマスト。問4も何とか解けると思う。問5は問題自体はあいまいなので捨て問になってしまう。しかたがない。問6は簡単。問7は知識問題であるが、中学校で学ぶ範囲のもの。というわけで1問ロス、最高でも2問ロスで乗り切る。

問1 セオリー通りの地形図問題と言えよう。選択肢もオーソドックスなものばかりで解きやすいと思う。

1;そもそもこんな小さな島に石油精製工場(つまり石油化学コンビナートっていうこと)があるわけがない。地形図も確認しよう。それらしきものはあるだろうか。

2;空港を確認。島の西端にある。この東側に集落はあるか。赤佐という地名が書かれている付近に、家屋がたくさん見られる。これを集落とみていいだろう。島の他の地域を大ざっぱに眺めて、この赤佐以外にもいくつか集落があるようである。ではこの赤佐を中心集落と判断できるのか。それについてはこの集落内にある施設に注目しよう。「○」の地図記号がある。これは町村役場である。島内の行政の中心がここにあるのだから、中心集落と考えてみていいんじゃないかな。

3;棚田っていうのは山間部にひらかれる水田。関連問題は98B本第5問選択肢3。傾斜地の階段状の水田こそ棚田である。さらに01B本第1問問3参照。棚田の様子が写真で描かれているのでわかりやすい。この写真はインドネシアのバリ島のものらしいが、このバリ島というのは火山の島。よって斜面が多く、水田耕作には不利である。しかしこのように山地斜面に沿って階段状の耕地をつくれば十分に稲作が可能となる。

問題にもどろう。本地形図において水田の土地利用記号を探してみる。ほとんどない。いや、ちょっとはあるかな。「増木名」のやや北東部に多少水田が分布しているようだ。しかしこれは棚田なのだろうか。とくに等高線が込み入っているようでもないし、傾斜地とも考えられないので棚田ではないと思われる。それにこれくらいの規模ならば「広がっている」という表現は不適当だろう。

で、さらにおまけなんだが、実はこの島は石灰岩の島なのである。おそらくサンゴ礁の隆起によって形成されたと思われる。石灰岩というのは水はけが大変良い。サトウキビの栽培にはこういった土質が向くのだそうだ。しかし、水がほとんど土中に染み入ってしまうのだから、水田耕作には適さない。棚田どころか普通の水田すらこの島には存在しにくいのだ。確かに一部に水田が見られるものの、かなり苦労して米作を行っているのではないかな。00B追第4問問7参照。表1においてウが沖縄島に当たるのだが、日本の南方海上に浮かぶ島には隆起サンゴ礁の島が多く沖縄島もその一つ。経営耕地面積率は比較的高い(平坦な地形が広がっているということ)が、「田」として利用されている割合は極端に低い。水はけが良すぎる土壌なのである。その分、畑の割合が高く、こちらはサトウキビやパイナップルを栽培しているのだろう。

4;「高層」っていうのが引っかかるなあ。地価も安そうだし、高層にする必要もないんじゃないのか。とくに東部沿岸っていうのは空港からも中心集落からも遠いわけで、そんな交通の便の悪いところに大きなホテルをつくらなくてもいいんじゃない?

っていうわけで、地形図参照。東側の海岸線を見渡してみてもそれらしきものはないような。少なくとも「林立している」様子はない。

このような離島に大きな工場はないだろうし、高層のホテルもないだろうし、しかも全体的に平坦な地形だから棚田もないだろう。っていう感じで、検討をつけながら選択肢を読んでいけば容易に解答にたどり着けるはず。

問2 オーソドックスな地形図読解。

1;図の最も東に「百合浜」というところがあって、よく分からないが、これは浅瀬に砂が堆積したものなのかな。たしかにこのような「砂州」は存在しているが、このことからこの島を「砂の堆積によってできた島」であると見なしていいのか?

「大金久海岸」という砂浜海岸は一部に存在するがむしろそれは例外的存在。島を取り囲む地形としては岩石海岸が支配的。ゴツゴツした模様が海岸線を描いているね。これが岩石海岸。砂浜海岸と区別しておこう。

さらに沖合いにもゴツゴツした模様がみられる。とくに島の北側のちょっと沖に多いね。一部の砂浜を除き、島全体が一つの岩のような地形から成り立っているということがうかがい知れる。

2;さすがにこんなことはないだろう。それなら海岸線はもっと人工的な感じになるはずである。例えばコンクリートの護岸堤など。与論港の船着場である岸壁を見てほしい。直線に転々が連なった「垂直の壁」の印である。これは人工的にコンクリートで固めてつくったものではないか。天然の地形ではないだろう。

とは言え、このようにごく一部に人工的な海岸線も見られるものの、全体としては決して埋め立てによってつくられた人工島であるとは考えにくい。

3;火山島ならば標高が高くなければいけない。図1を見る限り、とくに等高線も密ではないようだし、火山があるようには見えない。

99B本第5問問7参照。こちらは典型的な火山島。ちなみにこの島はきれいにカルデラができているね。一旦、火山が形成された後で火山が陥没あるいは爆裂して広大な円形のくぼみができる。これがカルデラ。「島青」「島村」と書かれている辺りがカルデラのくぼみに該当。とくにこの島の場合はカルデラの内側に新しい火山が誕生しているようだ。「池之沢」と書かれている付近に小さな山がある。

4;これが正解。小凹地や鍾乳洞は石灰岩の島に典型的に見られる地形であるが、とくにこの島は隆起サンゴ礁による島であろう。標高が低く、つぶれた形状をしているのがポイント。低緯度地域の暖流が流れる浅い海域に多く見られる島の形。有名なものでは、沖縄本島やモルディブ(島の最高標高点が海抜2メートルに過ぎず、地球温暖化に伴う海面上昇の被害を最も受ける国として有名)。

(さらに)火山島と隆起サンゴ礁の島は区別しておかなくてはいけない。

標高が高く、円錐状の形であるため平坦な土地が少ない火山島。平坦で標高が低いものの、石灰岩質であるため水田耕作には適さないサンゴ礁の島。この違いについて問う問題の好例は00B追第4問問7。火山島の屋久島は経営耕地面積率が低い。サンゴ礁の島沖縄島は水田の面積割合がとくに低い。

さらに00本第1問問4も参照してみよう。選択肢に注目。モルディブは標高が低いため、地球温暖化による海面上昇の影響を受け、水没の危険が叫ばれている島であることは前述の通り。火山島ではない(そもそも南アジア地域に火山は分布しない)、サンゴ礁の島。

問3 こりゃ変な問題やな~。作物の名称を調べるのに図鑑を見るのって、そのまんまやん(笑)。素直に考えましょうっていうことなのかな。

問4 消去法で考えてみようか。

2;サトウキビ畑が減少した原因の一つには、まさに価格の下落があるのかもしれない。サトウキビだけの生産に頼っていたら、サトウキビ価格の変動によって経済状況が大きく変化してしまう。しかしそもそも日本国内におけるサトウキビ生産ってそんなにさかんなんだろうか。とくに「九州本島」でサトウキビをつくっているのかと言われればそれはかなり疑問。沖縄はサトウキビの生産が有名であるが、それ以外にはこのような南洋の島々ぐらいだろう。それにもともと日本ってサトウキビの生産量は少ないと思うよ。97B追第2問問1参照。粗糖(砂糖)は早い時期に輸入制限が撤廃された。ということは外国と競合するようなレベルにないっていうことやね。

3;「地方は人口が減少する」のだから、このような離島で人口が増えるとは考えにくく、宅地造成の必要もないと思われる。

4;日本は食料輸出国なのだろうか。野菜は新鮮さが求められるので自給率は高いものの、それでも輸出しているとは考えにくいだろう。

野菜の統計については、99B本第3問問5表2の中の2に注目。むしろ日本が韓国から輸入する立場(マツタケなどだろうか)。

さらに本選択肢においては「人口が急増する」とある。東アジアの人口増加率は年間約1%程度であり、韓国もそれに近い数値。これは「急増」ではないだろう。

というわけであいまいではあるが1が正解となるだろう。花の方が価格が高いし、軽量なので航空機(選択肢の文中にある「輸送方法の改善」というのは航空機を使った輸送方法だと思われる)で輸送しても、採算が取れなくはないのだろう。サトウキビは外国から砂糖を買った方が安くつくと思うよ。

問5 あいまいな問題。近年はここまであいまいな問題は出題されないので安心なんだが。

1;「地方では人口は減少する」。このような離島も人口が減っていると考えていいだろう。というわけでこの1の文章についてはとくに否定すべきところもないような気がする。

2;「円高」は80年代のキーワードである。日本の経済レベルが上昇し、外国に出かけやすくなったことが事実であろう。そして外国への交通手段としてはやはり航空機が一般的であろう。この選択肢についてもとくに誤りはないようだ。

3;漁業のような第1次産業が現在の日本においてさかんになるということはないだろう。漁業の収入が増えるという点は多いに疑問。水産物の輸入量も増えているわけであり、国内の漁業は停滞もしくは落ち込んでいるのだ。01B追第4問問7参照。漁業・養殖業の就業者数と生産量は減少している。

4;これも微妙やなぁ(涙)。しかしそんな法律あるんかな~。

というわけで、おそらく3はあきらかに誤文なんだが、1・2・4で悩む。ここからはカンに頼って解くしかないんだが、とくに80年代に入ってからの減少が著しいところに注目してみよう。2が正解と考えていいんじゃないかな。

問6 「人口の多い地区」の中には中心集落(問1の選択肢2で登場)も当然含まれるだろう。空港の東の赤佐。ここが自然保護地区になっている3は消える。

空港としてすでに開発が成されている地域が自然保護地区となっている2もおかしい。

というわけで1と4が残る。4はあまりにも開発促進地区の面積が広すぎないか。島の北側と東側の海岸は人家も少なく自然も多く残されているはず。むしろ自然保護地区になるだろう。

というわけで、1が正解。空港から赤佐にかけての地区だけが開発促進地区であり、海岸線の広い範囲が自然保護地区となっている。きれいな島なんやろね。

問7 知識問題かな~。このパターンの問題は珍しい。旧課程でもこんな問題は見当たらない。

沖ノ鳥島の話題は中学地理で学ぶと思う。日本の最南端の島であり、侵食などにより沈んでしまいそうなので、護岸工事をほどこし何とか存在を保っている小島。たしか気象観測施設だけが置かれているんじゃなかったかな。一般人は居住していないし、もちろん観光の島でもない。200カイリ漁業千巻水域(200カイリ排他的経済水域ともいう)を保持するために、この島が沈んでしまってはまずいのだ。

類題というほどではないが、グアムやバリはセンター試験内で何回か登場している。

グアムは米国領。ハワイとは異なり州ではない。日本から近距離であり、観光客が多い。ミクロネシアに属し、付近のマリアナ海溝は世界最深。

バリ島の出題例。01B本第1問問3参照。火山島であり、斜面が多いのだが、そこに棚田をひらいて水田耕作がみられる。02B本第3問問5選択肢4参照。このお札で描かれている火山がバリ島のものかどうかはよく分からないが、そこ可能性もある。このようにバリ島の自然環境に関連した出題が多いのだが、この島の最大の特徴は文化的な側面。イスラム教徒が多数を占めるインドネシアにおける宗教の孤児、それがバリ島。インドから伝えられたヒンドゥー教を信仰している。ガムランやケチャなどの民族音楽も有名で多くの観光客を集めている。位置的な条件からオーストラリア人観光客が多いようだが、日本からも少なくない。

第5問 問1が難しいが、他は解答可能だと思う。失点は1問だけに抑える。

問1 これは完全な知識問題やな(涙)。しかも時事っぽいし。問3では神戸の地震の時に話題になった「液状化」って言葉が登場していたりして、ちょっとこういった災害ネタっていうのはきちんとチェックしておかんとあかんのかな。

1;「都市域」っていうのだから、都市が近くにないといけない。この都市っていうのはCの神戸のこと。1995年の阪神淡路大震災。

2;「火山活動」なんやなあ~。Dの島原が該当。雲仙普賢岳の火山活動のこと。99B追第3問問1問2問3参照。

3;「津波」被害ということで奥尻島が該当。Aの島。

4;三宅島のことかな。東京に多くの住民が避難した(まあ、三宅島も行政上は東京都なんやけどね)。B地域。

というわけで、難しいと思う。1は外せると思うんで、残りの3つのうちからカンで当てないとあかん。しかし奥尻島のネタは今後一切出題されていないわけで、本問は例外的な存在というわけだ(前述のように、神戸や雲仙のネタは出題されている)。むしろセンター試験問題としては失敗作の部類だろう。

問2 図を見ればわかるが「0m」の等高線がある。ということは0mより標高の低い部分があるわけで、かなりの低地地域であることが読み取れる。

2の地すべりは、土砂くずれや崖くずれのことであり、山地斜面などで発生する災害。このような低平な地形ではみられない。

明らかに2が誤り(地理の問題っていうより国語の問題みたいなもんや)なので、他の選択肢については検討の必要もないが、意外に大切な言葉もあるのでチェックしておこう。

1;地下水のくみ上げすぎによって発生する。このような海の近くで地下水をくみ上げると、なくなった分の地下水を補う形で海水が浸入してくるのだそうだ。塩水は生活用水・工業用水・農業用水などには不適当なものであるので、この地域は地下水を利用できなくなってしまう。

3;これも地下水のくみ上げすぎによって発生することが多い。地下水をくみ上げすぎてしまうと、地下にすき間が生じ、その分だけ地盤が沈んでしまう。東京湾や大阪湾岸では工業用水としての地下水の利用が極端に多く、地盤沈下の被害も大きい。海岸地域の低地、とくに工業地域においてとくに顕著にみられる災害であると考える。

ちなみに新潟市や佐賀市などもともと地盤のゆるいところでは建物の重みだけでも地盤沈下するらしい。よく考えてみると、これってものすごくおそろしいことやね(涙)。

4;「高潮」は重要なキーワード。「低気圧による海面上昇」のこと。低気圧の中心では上昇気流の作用が大きい。それに引っ張られるように、海水面も上昇する。せり上がった海水が、低気圧の上陸に伴い、沿岸域を襲う。山地や台地など標高が高いところなら多少海面が上昇しても平気だが、低平な地形、とくに三角州などではその被害は甚大。

図2を参照してみよう。ここに盛り上がった海が迫ってきたらどうなる?とくに標高が0メートル未満のところすらあるわけでかなり危険な状態になることが予想される。

このような高潮の危険性が最も多い国としてはバングラデシュが挙げられる。ガンジス川など大河川の河口に位置する三角州(デルタ)の国である。国土の多くが低湿地であり、米(浮稲も多い)やジュートの栽培に特徴がある国である。ただしインド洋で発生する熱帯低気圧であるサイクロンの上陸がしばしば見られる地域でもあり、風雨の被害も大きいが何といっても高潮によって失われる人命は甚大である。バングラデシュは99B追第1問問2、99B本第1問問3で登場。バングラデシュで水害の犠牲者が多いということについては00A追第2問問1を解く際に重要となる。

問3 カギになる言葉は「液状化」。

00A追第2問問5でも問われている。神戸の地震が95年の1月。本問が98年の1月。この試験を受けた者の多くは地震当時は中学3年あるいは高校1年。高校3年になるとさすがに勉強に専念しないといけないので、テレビなどを見ることもなくなり、時事的ニュースには疎くなってしまうものだ。しかしそれでも構わないっていうこと。時事問題っていうても本問のような3年くらい前のネタが出題されるわけで、高校3年生になってからいきなりニュースを見始めても遅いっていうこと。時事問題が弱いって嘆く者もしばしば見かけるけれど、少なくとも地理では最新のニュースは出題されないので、心配する必要はない。

1;「後背湿地」とは何か。「後背」っていうのは「背後の」っていう意味だからたいした意味はない。ここは単に「湿地」として考えればいい。湿地ならばそこは水田として利用されるような低地なわけで、洪水の危険性は当然あるだろう。

2;問2の地すべりとも関連しているね。斜面や山麓ならばがけ崩れの恐れがある。

3;「液状化」の危険性が最も高いのは埋め立て地。それ以外にも河川沿いの低地でも発生するのだそうだ。地震による振動によって、土壌に含まれる水の分子も細かく振動する。そして地盤の表面が軟弱となり泥状となる。

土壌中に水分を多く含む地域において発生するわけで、河川沿いの低湿地(谷底平野、三角州など)や、埋立地や干拓地など海や湖の近くでとくに液状化の危険性が高い。

扇状地は乏水地であり、土壌中の水分は少ない。

4;これはどうかな。ちょっと想像しないといけないが、「盛り土」の時期が新しかったり、手抜き工事(!)があったりしたら、地盤が安定していないわけでそんなそんなところに家を建てたらちょっと怖いよね(涙)。盛り土による宅地造成の話題が出題されているのが99B追第3問問5。

問4 日本に大規模な氷河はないので、ここでは当然4が誤りとなる。高山地域には一部に山岳氷河がみられるようであるが、急激に解けるものでもないし、下流に洪水の被害をもたらすものでもない。

問題自体はこのように「氷河」ネタの問題として簡単に解ける。ここではさらに「砂防ダム」の役割にも注目してほしい。つまり選択肢1・2・3は正文なわけで、これらを読んで砂防ダムの役割をじっくり考えてほしい。

砂防ダムについては翌年、翌々年と連続して出題ネタとなっている。

99B本第4問問7参照。砂防ダムは日本でも見られるもの。防災施設としての機能があるものであり、砂漠化とか関係ない。

00B本第3問問3選択肢1参照。たしかに砂防ダムをつくることによってこのような状況にはなってしまうだろう。

砂防ダムという言葉は教科書に登場するものでもないし、Y川出版の用語集にももちろん載っていない。でもそういう言葉がこんな感じで3年連続で登場するわけやから、いかにセンター試験過去問の研究が大事かがわかるね。

問5 土壌の中でも気候帯に沿って広範囲に分布するものを成帯土壌というが、本問はその成帯土壌に関する問題。

熱帯;ラトソル。湿潤土壌で酸性。錆びた金属を多く含んでいるので赤色。

乾燥帯;砂漠土。乾燥土壌でアルカリ性。黄色。灌漑によって塩害の被害が発生することがある。

冷帯;ポドゾル。湿潤土壌で酸性。分解が進まず灰白色。ヨーロッパ北部や五大湖沿岸のポドゾル地域は酸性雨の影響が強いところでもある。

この3つが代表的なところ。これ以外のものとしては、ツンドラ地域に分布するツンドラ土(01B本第3問問4で出題されている)や、プレーリー土・チェルノーゼムがある。プレーリー土とチェルノーゼムは名称が違うだけで、性質は全く同じ土壌。プレーリー土は北米大陸の温帯からステップ地域に分布する。

成帯土壌は、プレーリー土・チェルノーゼムを除いて、不良な土壌である。酸性度やアルカリ性度が強すぎて農耕には適さない。

ここで図3を見てみよう。D地域に該当する大陸を当てる。ラトソルの割合が高い。ということは、熱帯の割合が高い大陸ということになる。選択肢よりどれが該当するか。ヨーロッパは論外であろう。北アメリカ大陸も一部に熱帯は分布するかもしれないが、全体から見れば広い面積を占めているようには見えない。アフリカと南アメリカはともに赤道が大陸中央部を通過し、その周囲には熱帯気候が広がっている。

ここで注目するのは、Dと同様に熱帯の割合が高い(ラトソル分布地域の割合が高い)Bのグラフである。BとDの違いに注意してみよう。Bは砂漠土の割合も比較的高い。これはどういう意味か?この大陸にはかなりの面積の乾燥地域(とくに砂漠)が広がっているということ。このことからBをアフリカと判断する。世界最大のサハラ砂漠などを想像すればいい。このことよりDが南アメリカとなる。熱帯の割合が非常に高く、しかし乾燥地域は少ない。

AとCはどちらがどちらだろう?Aは一部分にラトソルが分布(つまり熱帯気候がある)することから、こちらを北アメリカと考えていいのかな?よくわからないが。

とりあえず「熱帯大陸南アメリカ」だけ考えれば解ける問題。ちなみに図中にはないが「乾燥大陸オーストラリア」では砂漠土の割合が高いと思われる。

問6 カンで解いてほしいが、それでも十分なんじゃないかな。

1;長江中下流域の平原地帯は、温暖で湿潤な気候を利用して米作がさかんに行われている。土地生産性の高い集約的な農業が行われている。このことからこの地域に分布する土壌は肥沃であると考えていいだろう。河川が上流から肥沃な土壌を運び、この地に堆積させているはず。

2;東南アジアは東アジアに比べれば、土地生産性は低いがそれでも大河川のデルタ地域(三角州。河口付近に形成される堆積地形。低湿地である)ならば、上流から有機養分が豊富な腐植土を含んだ土壌が流れてくるであろうし、ここも肥沃と考えていいのではないか。当然、東南アジアの低湿地ということで米作地帯でもあると思われる。

ちなみにメコン川という地名が取り上げられたのは本問のみ。

3;デカン高原はセンター頻出であるし、知っておいてほしいところ。関連問題は02B追第1問問2。

ここには間帯土壌(局地的に分布する土壌)のレグール土が分布している。玄武岩の風化した黒色土壌で、水はけがよく綿花栽培に適する。

4;ホイットルセー農業区分でいうならば、チベット高原は「遊牧」地域となる。選択肢1と2が「アジア式米作」、3が「アジア式畑作」であるのと対照的。アジア式農業は土地生産性が高い集約的な農業が行われているのが特徴。それに対し、遊牧は土地生産性の低い粗放的な農業形態(本当は「牧業」なので「農業」と言ってしまってはいけないが、ここではややこしいので便宜上「農業」に統一してしまうよ)である。だだっ広い草原でヤクなどを連れて、牧草を求めて移動するのだから、まさに典型的な粗放農業である。このことから考えても、チベット高原に肥沃な土壌が分布していないことは想像できるだろう。

問7 1;灌漑によって塩害が発生するというシステムが理解できているか。乾燥地域において農作物に人工的に給水することを灌漑という。このことだけ考えれば、大変素晴らしいことなのだが、常に塩害の危険性が付きまとっていることを知っておこう。灌漑によって植物に水が与えられる。しかし水を余分に与えすぎてしまうと、植物が吸収しきれなかった分は地表に残ってしまう。乾燥地域であるので、この水分は激しく蒸発する。この時、毛細管現象によって地下水を地表面に持ち上げてしまうのだ。地下水は多少の塩分を含む。また、地下から地表に達する間に地中の塩分を含み、それらも同時に地表面に持ち上げる。地表に現れた水分はさらに蒸発するが、その際、塩分はもちろん地表に残されることとなる。このような行程を経て、地表面の塩分濃度が凝縮によって極端に高くなる。農耕不適地となってしまう。これを塩害という。農業不振だけではなく、砂漠化の進行をも助長する恐ろしい環境問題なのだ。

というわけで、選択肢1の文章を参照してみよう。「灌漑農業によって、土壌の塩類化を防いできた」が明らかな矛盾(「土壌の塩類化」というのはもちろん「塩害」のことだよ)。

乾燥農法というのは灌漑の反対で、天水(天然の降水。つまり雨のこと)に頼って行う農業方法。乾燥地域ではあっても時々まとまった降水に見舞われることがある。雨が降りそうになると、耕地に溝を掘る。そして雨水をその溝にためて、上に土をかぶせて蒸発を最小限に抑えるというもの。子供だましのような原始的な農法ではあるが、塩害を招くこともなrく、土壌にやさしい農業ではある。もちろん大規模な農業生産には適さないので、人口密度の高い地域や商業的な農業が行われている地域では灌漑による農業が中心となっているものの、こういった伝統的な自然と調和した農業の重要性というものについて我々は考えていかなければいけないね。

1が確実に誤りなので。2・3・4についてはどうでもいいが一応コメントを。

3;先に3についてコメントを。「棚田」はセンター頻出ワード。出題例は98B本第4問問1、01B本第1問問3。山地斜面を開いてつくられた階段状の水田を棚田という。英語でいえば、ライステラス。段々になっているので、土壌の流出を防ぐ。自然と調和した水田である。その景観もエキゾチックで美しい。機械化しにくいなどの不利点もあるが、棚田を保護しようという動きもある。

また「高い土地生産性」と書かれているが、これについてはとくに気にしなくていいだろう。そもそもアジアの農業形態(アジア式米作農業、アジア式畑作農業)は土地生産性が高いのである。

2;棚田の米国バージョンである。穀物や大豆の畑が等高線にそって縞状に開かれる。上空からみるとあたかも大蛇がのたうち回っているような特殊な景観となるのだが、丘陵部において、標高の変化が少ないようにできるだけ水平に耕地を開いた結果なのである。

棚田と同様、土壌の流出を防ぐ役割がある。機械化しにくい点も棚田と同様であるが、こちらは米国である。そもそも農業においては省力化と効率の良さが求められている。近年は大規模な農業機械による作業を進めるため、この等高線耕作が放棄されるところが増加している。そして、土壌流出という環境問題が深刻になっているところももちろん増えている。

等高線耕作については写真でその風景を確認しておくといい。センターピボットや棚田が写真問題で出てきたのだから、今度は等高線耕作の番かもしれない。米国のトウモロコシ地帯(コーンベルト)や小麦地帯にしばしばみられる。肥沃なプレーりー土に恵まれた地域でもある(そしてそのプレーリー土が雨や風によって流出してしまうのだ)。

4;肥沃な土壌に恵まれないヨーロッパでは中世まで三圃式農業が行われてきた。耕地を三分割し、それぞれ冬作地・夏作地・休閑地として、それを1年ごとにローテーションしていく。土地を休ませながら農業を行うことで地力を回復させ、連作障害をも防ぐ。

ただし休閑地をもうけるやり方では生産性は上がらず、近世以降の人口増加に対応できない。よって休閑地に牧草を植え家畜を飼育したり、当時新大陸から伝えられたジャガイモなどを穀物の裏作作物として同じ耕地に栽培する輪作とよばれる農業方式を導入したりして、収穫量を増やしていった。このように三圃式農業は、混合農業や酪農などに進化していった。01B本第3問問7選択肢3参照。