2023年共通テスト地理B追試験[第2問]解説
2023年地理B追試験[第2問]解説
<第2問問1>
[インプレッション]
統計そのまんまの問題ですね。こういうオーソドックスな問題を確実にゲットすることが大事。
[解法]
まずはアとイの判定。アルミニウムの精錬には大量の電力が必要。ボーキサイトから取り出したアルミナ(酸化アルミニウム)を電気分解することでアルミニウムが得られる。
日本は輸入した化石燃料(天然ガスなど)を利用した火力発電によって電力が得られる国。発電コストが高い国であり、アルミニウム精錬には不利。一般には水力発電による電力がコスト安であり、シベリア地域で盛んに水力発電が行われるロシアがランクインしているアがアルミニウム。ロシア自体は原油や天然ガスの世界的な産出国であり、国全体で考えれば火力発電の割合が高いものの、水力発電の割合も低くない。シベリア地域のバイカル湖は世界最深の湖で湖水が豊富。もちろん冬は凍結してしまうが、夏は気温が上がり(シベリアは大陸性気候で気温年較差が大きい)豊富な水量で盛んに発電が行われ、その電力はアルミニウム精錬に用いられる。現在は戦争の影響でストップしているが、以前は日本にも多くのアルミニウムが輸出され、君の財布に入っている一円玉も「メイド・イン・ロシア」なのかもしれない。
なお、アラブ首長国連邦が上位に入っていることにも注目。西アジアの産油国であり、豊富な原油資源による火力発電が盛んで、コストが安いため電力も安い。安価にてアルミニウム精錬が行われている。
もう片方のイが「粗鋼」。粗鋼とはいわゆる鉄鋼のこと。日本が3位にランクインしているね。日本は高度経済成長機に太平洋沿岸の臨海部に多くの製鉄所が設けられ(茨城県鹿島、和歌山、岡山県倉敷市水島、大分市など)現在も輸入原料を利用した鉄鋼業が盛ん。
さらにAとBの判定。鉄鉱石についてはブラジルを見るのが基本だが、今回はあまり参考にならないかな。ブラジルはボーキサイトの産出も多い国。ボーキサイトは酸化アルミニウムを含む鉱物資源で、不純物として酸化鉄を含むため、赤い色を呈する。熱帯の土壌であるラトソルに多く含まれている。多雨であるため有機養分が流出する一方で金属が地表面に残存し、そして酸化しているのだ。ブラジルにはAとBの両方が分布しているが、とくに低緯度のアマゾン地域にみられるAが「ボーキサイト」である。ボーキサイトはこのように赤道周辺の低緯度地域に広くみられ、南米大陸北部、カリブ海(ジャマイカは重要なのでぜひとも知っておこう)、オーストラリア北部など。
一方のBが「鉄鉱石」。鉄鉱石の産出上位国は中国、ブラジル、オーストラリア。このうちブラジルとオーストラリアはボーキサイトの産出も多いので、中国に注目すればいいかな。多くの鉄山が分布している。なお、オーストラリアにおいては北西部に鉄山がみられる。これは過去問でも出題されたことがあり、ぜひとも知っておこう。
[雑感]
第2問問1は統計に基づいたオーソドックスな出題がしばしば見られ、今回もそのパターンに当てはまっている。僕は毎回第2問から解き始めるのだが、みんなもそうしてみたらどう?ペースが掴めて、緊張が解けるよ。
<第2問問2>
[インプレッション]
缶詰縛りなんやね、この大問(笑)でも缶詰なら表面のメッキがスズやから、そっちを出したらいいのに?ってちょっと思ったり。その缶詰ですが、問2では中身のツナが問われてる。これもシンプルな統計問題とは思うけど、どうなんかな。
[解法]
一応図を使った問題だけど、こういったパターンでは実は図は全く重要ではなく、文章を読むだけで答えが得られる場合が少なくない。文章から検討していこう。
まず1について。なるほど、これは当然なんじゃない?魚は新鮮なうちに加工してしまった方がいいよね。過去問でも工場立地の問題として、「缶詰工場は原料の生産地付近に立地」という話題が登場したことがある。正文ですね。
さらに2について。これは選択肢1とは逆のパターン。例えば腐りにくいもの(つまり輸送が容易なもの)については食料品は市場立地になる。じゃがいもを輸送してポテトチップスに加工することを考えよう。じゃがいもの方が輸送が容易で、製品のポテトチップスは体積がかさばる分だけ運びにくいので、消費地に近いところに工場ができる。でも魚とくにマグロ・カツオはどうだろうね。マグロやカツオを新鮮な状態で市場(都市)まで運ぶのは大変(だからこそマグロの刺身は値段が高いわけだが)。それに対して缶詰は保存もしやすいしサイズも小さいし運びやすいよね。同じ食品でも市場立地と原料立地とでパターンが異なることを理解しよう。誤り。
3はどうなのかな。図を参照してみよう。アメリカ合衆国やスペインは輸入も多いよね。自国生産だけで賄えているわけではない。誤り。
最後に4。こちらも図を参照。サウジアラビアやエジプトなど輸入が多くなっている。かなり消費されているよね。誤り。
[雑感]
図をみて考えるというより、純粋な工業立地の問題だったと思う。食品工業の立地パターン(2つの種類があるよね)について理解しよう。
<第2問問3>
[インプレッション]
缶詰縛りはなくなったけれど、さらに漁業。統計を利用した問題だけど、やっぱ日本の主要品目の輸入相手国って大事なのかなって気がします。エビの問題だね。
[解法]
南米の太平洋沿岸といえばペルーやチリ。ともに漁業に特徴がある国だよね。寒流であるペルー海流に面し、アンチョビーの漁獲が多い。アンチョビは魚粉に加工され、主に飼料用としてアメリカ合衆国へと輸出されている。近年はチリ南部のフィヨルドでのサーモンの養殖も盛んになってきている。
東南アジアはそもそもが魚を食べる文化を持つ地域であり、伝統的に漁獲量が多いだけでなく、インドネシアではマグロが日本へと輸出されている。しかし、東南アジアから日本へと盛んに輸出されている水産物といえばやっぱりエビだよね。ブラックタイガーなど。養殖による安いエビが日本の食卓へとやってきているわけだ。
さて、こういったことを考えながら、地域や指標を特定していこう。東南アジアからのエビの輸入は圧倒的だと思う。日本のエビの輸入先はベトナムやインドネシア。ベトナムが非常に重要で、この国は社会主義国なのだが、1980年代に市場経済化(ドイモイ政策)を進め、とくに2000年代以降は輸出用品目の生産に力を入れ、経済を活性化させてきた。現在でも1人当たりGNIはインドネシアやフィリピンなどと比べても低く、衣類をはじめとした軽工業の工場が外国から多く進出しているね。農産物も輸出用の栽培が増え、近年では米やコーヒーの世界的な輸出国になっている。これはエビにも言えること。2000年代の急激な伸び、これこそベトナムを初めとする東南アジア諸国の養殖生産なのではないだろうか。キが東南アジアであり、Eが養殖生産量。エビの養殖については、沿岸のマングローブ林を伐採し、養殖池をつくるため、環境破壊の側面を持つ。また養殖のため抗生物質や成長ホルモンを用い、周辺環境への影響も懸念されている。
カのD(南米太平洋岸の漁獲量)の大きなアップダウンも気になるところ。この海域は乱獲によってアンチョビーの漁獲が大きく変化しているとのこと。あるいは、君たちはもっとインパクトのある事例としてエルニーニョ現象の影響を考えてもいい。ペルー海流の影響で水温が低いことがこの海域が好漁場となる理由なのだが、エルニーニョ現象によって水温が上がってしまうと海中のプランクトンが減少し漁獲も落ちてしまう。数年サイクルでこういった事例が生じているとすれば、このアップダウンも納得なのだ。
[雑感]
日本がいかにエビをたくさん東南アジアから輸入しているか、それを普段の生活から実感できているかどうかってことだよね。みんなも回転寿司に行って「安い」という理由でエビを食べまくっているんじゃない?市場経済化を進め輸出用品目の生産に力を入れているベトナムの経済や政策が背景になるわけだね。そして、さらにマングローブ林の伐採という熱帯林の減少も、間接的に我々は引き起こしているのかもしれないね。
<第2問問4>
[インプレッション]
小麦カレンダーみたいな図だね。米でこんな図を見たのは初めて。そもそも米は小麦のように冬小麦、春小麦といった区分があるわけでもなく、初夏に田植えをして秋に刈り取るパターンは世界共通なので、こういった図にあまり意味もない。ただ、世界には初夏や秋の概念がない国もあるわけで。
[解法]
米の栽培カレンダー。インドネシアが面白い。赤道付近に位置し年間を通じて高温であるだけでなく、熱帯収束帯の影響で常に降水が見られる。米はそもそも4か月もあれば成長する作物である。年間に3回栽培できる理屈になるよね。3がインドネシア。三期作が行われる。水を入れ替えれば栄養分が補給されるので、土が痩せてしまうような連作障害の懸念はない。
さらに4が興味深い。11月に作付し、4月に刈り取る。北半球と正反対の形だよね。そう、これが南半球。チリに該当。
さて、頭を悩ませるのがここからなのだ。1と2が残っているだが、これ、ほとんど同じだよね。北半球の初夏に作付し、秋に収穫。これ、どこが違うのだ?
選択肢はイタリアとコートジボワール。この二つって何が違う?米の場合、作付(田植えだね。苗を田に植える)の時期に十分な水がないといけない。日本の太平洋側の地域では梅雨の6月に田植えがなされるのはそれが理由。以前、ゴールデンウィークの時期に福井県に行ってビックリしたんだけど、すでに田植えが終わっているんだよね。なぜこんなに速い時期?と思ったけれど、日本海側の地域は春は雪解けの水が豊富なんだよね。これを利用して春のうちに田植えをしてしまうんだろうだ。豪雪はたしかに人間の生活を制限してしまうものだけれど、春には豊かな農業用水を供給し、稲作に役立てられているのだ。生活と気候が強く結びついているんだね。
これを考えた場合、7月っていうのがキーワードになると思う。ここ、イタリアでは全く雨が降らない時期だよね。夏になると緯度35度一帯の地域は北上する亜熱帯高圧帯に覆われほとんど降水がみられない。地中海性気候。このような「渇水」期に米の作付けなんてできるだろうか。水が足りないのに、水田に大量の水を張るなんてことは不可能だと思う。7月まで作付け時期が伸びている2は少なくともイタリアではない。イタリアは1に限定され、残った2がコートジボワール。
コートジボワールは西アフリカのギニア湾岸の国。世界で最も雨の多い地域の一つだが、とくに夏になると海洋から湿った風が吹き込み多雨となる。高温多雨の自然環境に適応するカカオ栽培が多い国として知られているね。夏(というかそもそもここは年間を通じて気温が高いので、夏も冬もないのだが)に作付の時期がある2がコートジボワールがある。おそらく雨季とも対応しているのだろう。夏の降水量の多い時期が作付の時期。
アフリカは近年、米の栽培が拡大している。アフリカの自然環境に適応した品種改良米のネリカ米の栽培。ネリカとはNerikaと書き、New rice for Afrika の略。
[雑感]
これと似たニュアンスの問題を思い出した。小麦カレンダーを使用し、インドの栽培時期を当てる問題。インドって5月ぐらいから激しい雨季となり、その前までに小麦を刈り取ってしまうことが条件となる。気候パターンと栽培時期の関係を考える、そちらも難しかったけど良問だったな。地理の奥深さを感じる問題です。
<第2問問5>
[インプレッション]
結局農業の基本はホイットルセー農業区分ってことですね。集約・粗放、自給・商業、家族中心の零細経営・企業といった区分から農業を分類する。本問は輸入と輸出なので、自給的農業地域と商業的農業地域の違いがテーマとなっている。
[解法]
GとHは北アメリカとヨーロッパ。いずれも商業的な農業地域で輸出量が輸入量を上回っている。
まずはサとシの判定だが、自給的農業地域のアジアやアフリカではサの値の方がシより大きく、商業的農業地域であるGやH、中央南アメリカ、オセアニアではシの方が大きい。サが輸入、シが輸出となる。
さてここからはかなり考えないといけないのだが、実は大きなヒントが問題文の中にあるのがわかるかな?こういった注釈がわざわざ示されているということは、これに注目しないと問題が解けないってことでもあるんだろうね。そう「同一地域内の各国間の輸出量量も含まれる」という但し書きなのだ。これ、どういうこと?わかるよね。「同一地域」であるヨーロッパにおいて、例えばフランスからオランダへの穀物輸出もこれにカウントされるということなのだ。そもそもヨーロッパのほとんどの国の間では貿易が自由化されており、輸出量輸入量とも多い。近所のスーパーに買い物に行くぐらいの感覚で、農産物も輸出入されている。とくにGにおいては90年代の値に比べ2010年代の値が大きくジャンプアップしている。これ、EU拡大の影響なんじゃないかな。EUに多くの国が含まれるようになり、自由貿易の範囲も広がった。穀物のみならず貿易額そのものが急増しているのだと思う。Gをヨーロッパと判定し、正解は2。
[雑感]
いやぁ、おもしろいね。インプレッションでも述べたように基本的には農業区分の問題。商業的か自給的かっていう。でもそこからはEUの問題となる。EU域内では貿易が自由化されており、その拡大によって貿易額も急増しているということ。もちろんアメリカ合衆国もUSMCAという世界最大の自由貿易圏を有しているが、加盟国は3カ国だけであり、20カ国を超えるEU各国の貿易を合計した値には敵わない。一つ一つの国としては小さいが、それらが集まることによって中国やアメリカ合衆国にも匹敵する(あるいはそれ以上の)経済勢力になっていることがわかる。
<第2問問6>
[インプレッション]
最近いろいろなところで話題になる固定電話と携帯電話の関係。共通テストでも出題されましたね。普及した時期を考えれば何の問題もなく解けると思うよ。
[解法]
まず見て欲しいのは、2017年のJ~Lの「百人当たりの携帯電話契約数」。いずれも100を超え、大きな違いはないね。今や世界中で携帯電話の普及率は高く、人口を超えるほど。この数字はあまり参考にならない。
では1997年を振り返ってみよう。この時期の携帯電話の普及率は「J>K>L」と明確な差があり、これはヒントになりそう。この時期は先進国で携帯電話が普及し始めたのに対し、発展途上国ではまだまだだったんじゃないかな。1人当たりGNIを比較してみると、「オーストラリア>ブラジル>モンゴル」となる。ブラジルが世界的な工業国であり、発展途上国としては1人当たりGNIが高い方だってことに注意してね(10000ドル/人程度)。これに従って、Jがオーストラリア、Kがブラジル、Lがモンゴルと仮定してみる。
ここで固定電話に目を移そう。Jでは全体的に高い値。1997年には100人当たり50も契約数がある。2人に1台ということは、ほとんどの世帯(家族)が固定電話を家に引いていたんだろうね。日本でも固定電話が広まったのは高度経済成長期。20世紀後半の早い段階から経済成長した先進国において固定電話の普及率が高いのがわかる。
一方で経済成長が遅れた発展途上国では固定電話は広まらない。Kのブラジルでも1997年の値は10程度。そして21世紀に入り、十分に経済成長した頃にはもはや固定電話は時代遅れで、携帯電話が主流を占めている時代となったため、人々は固定電話は顧みず携帯電話を所有するようになる。一気に携帯電話が広まっていくね。
この状況はモンゴルも同じ。とくに人口密度の低いモンゴルでは有線の電話網を国土の広い範囲に敷設するのはあまりにも無駄が多い。コスト高。それならば電波塔をつくって、無線で携帯電話網を整備した方がいい。モンゴルではテレビの衛星放送の契約数の割合が極めて高いと聞いたことがあるが、やっぱり有線はコストがかかってしまうんだろうね(日本の相撲を見たいっていう需要があることも衛星放送が広まった理由のようですが)。今や携帯の契約数は先進国を上回っている。
[雑感]
発展途上国の方が携帯電話の普及率が高い時代。上述のようにそもそも固定電話が普及していないので、携帯電話が一気に広まったいうのが理由なんだね。もちろんモンゴルのような国は人口密度の低さもポイントになるわけだが。
共通テストではかつてケニアの携帯電話の普及率が問われたことがあり、固定電話契約数に対する携帯電話契約数の割合(携帯電話÷固定電話)が圧倒的に高い。携帯電話契約数が多いっていうより、固定電話契約数が極端に少ないってことなんだけどね。携帯電話の問題、これから増えそうだね。