2023年共通テスト地理B[第3問]解説

<第3問問1>

 

[インプレッション]

なるほど、日本国内の人口移動に関する問題なのですね。高度経済成長期に、地方から三大都市圏への人口流動が生じた。ただ、本問は知識ではなく、思考によって十分に解答が得られる問題になっているようだ。

 

[解法]

年号を確認。1960年は高度経済成長期の初期。この時代に地方から大都市圏へと、仕事を求める若年層の大きな人口流動が生じた。そして2018年。現在は人口流動の動きは大きいものではないが、それでも東京大都市圏への人口集中は続いている。東京への一極集中。

アとイの2018年を比較すると、さほど大きな違いは見られないものの、総合するとAへの移動が多いようだ(イについてはわずかだけどBへの動きの方が大きいかな?)。現在の人口移動の特徴として「東京への一極集中」がある以上、Aを東京圏とみていいんじゃないか。東京圏(東京大都市圏)とは、東京都を中心とした通勤圏のことで、都心部(企業などが集中する)の東京値、郊外(都心部へと通勤する人々が住む)の埼玉県、千葉県、神奈川県)。

よって、一方のBが大阪圏となるのだが、そうなると際立つのがイの1960年。東京圏をはるかに超え、大阪圏への移動が大きい。経済規模で下回る大阪圏になぜ多くの人々が殺到したのか?

 

これは距離の近さを考えるべきだと思う。当時はまだ瀬戸内海を通過する橋は建設されていなかったらだろうが、香川県や徳島県からみれば大阪圏までの距離は近い。遠くの東京圏ではなく、とりあえず近くの大阪圏で仕事を探すという考え方はかなりあったんじゃないかな。イを四国地方と考える。

 

それに対し、九州地方は東京圏からも大阪圏からも遠く離れており、航空機を利用するならば、両者の感覚的な距離には大きな違いはない。1960年の段階から比較的東京圏への移動が多く、とくに2018年には圧倒的な割合となっている。アが九州地方。

 

[雑感]

シンプルな問題だと思う。日本地理が重要である点はもちろんだけど、その日本に関する知識も大雑把な東京や大阪、四国と九州の位置関係がわかっていれば十分に解ける。中学生に解かせてみてもかなり正解率の高い問題なんじゃないかな。

 

 

<第3問問2>

 

[インプレッション]

すごいグラフですね。カが中央部で大きく尖っている。なかなかここまで極端なグラフはないよね。

 

[解法]

1970年の値を100とした指数を表すグラフ。ってことはカについては20年で18倍!にまで上昇しているということ。そのすぐ後に急降下しているけどね。

この極端な数値と1990年という年号からピンとくる人は多いんじゃないかな。これ、とくに新聞を読んだりして情報を集めている人でないと答えられないものじゃないよね。みんなも「バブル景気」と「バブル崩壊」って聞いたことがあるんじゃないかな。1980年代の好景気を受けて、日本列島が沸騰した時代。とくに都心部では地価が急騰し、不動産の買い占めや土地の売買などのビジネスが空前絶後の活性化をみた。バブル景気と対応させて考え、カが「住宅地の平均地価」。それにしても18倍とは。。。このバブルも1990年を超えると一気に崩壊する。地価も急激に下がり(それでも指数で800はあるんだが)、90年代から2000年代にかけての都心の再開発のきっかけとなっていく。バブルが崩壊した理由などについては理解する必要はない(僕もよくわかりません)。受験地理のレベルでは「そういった時代もあったんだな」程度の認識で十分。バブル景気がテストで問われた例は今回が初めてだと思う。

残った2つのうちでは「工業地区の面積」が気になる。東京都区部については高度経済成長期以前は臨海部の埋立地を中心に工業用地としての開発もみられたが、やがて工業地区は周辺部に拡散。東京都の臨海地域は都心部にも近く、住宅地区や商業地区、もちろんビジネス地区として大きな注目を浴びる。ウォーターフロント開発が積極的に行われ、かつての工業地区が高層マンションやオフィスビル、アミューズメント施設の立ち並ぶ新しい街区へと再生した。東京ディズニーランドの開園が1983年ですね(もっとも、東京ディズニーランドは千葉県ですけど。。。)。だんだんとその面積を減らしているクが「工業地区の面積」でしょう。

残ったキが「4階以上の建築物数」だね。こちらは継続して増えている。当たり前だけど、いったん作った建物は何十年もそのままなのだから、カのグラフのように値が極端に増減することはないね。

 

[雑感]

これも中学生でも十分解けるんじゃないかな。今どきの中学生でもバブル景気のことは知っているでしょ(親からそういった話も聞いてるんじゃないかな。お母さんが当時ワンレンボディコンで大活躍していた、みたいな・笑)。

ただ、センター試験時代を通じて、バブル経済がこのように直接出題された例はなく、極めて珍しい問題と言える。これからバブル経済やその崩壊に関する問題って出題されるのかな。あ、そういえば最近バブリーダンスって流行ったよね。バブル時代の女性をネタにした芸人もいるし。今でも全然身近な話題なのかな。

 

 

<第3問問3>

 

[インプレッション]

地形図問題というほどのものでもないかな。大雑把な地図を用いた問題。E~Dの地点は特徴が全く異なるし、判定に迷うことはないんじゃないかな。

 

[解法]

簡略化された地図を用いた問題。D~Fの各地点の特徴を判定。Dは駅や市役所に近い。比較的早い段階から開発が進んだ都心部でしょう。Eは都心部からは離れているが、区画整備された土地がみられ、住宅地なんじゃないかな。一戸建てが立ち並ぶニュータウンって感じかな。Fは幹線道路で、周辺には何もない。しかし地方都市では案外とこういったところに人が集まる。人というより自家用車っていうべきかな。大型駐車場を備えた郊外型のショッピングセンターがあるのかも知れない。

サについて。「幹線道路」、「広い駐車場」からFが該当。ここでは「全国チェーン」にも注目しておこう。旧市街地の地元資本の小型店の経営を、これら郊外の全国チェーンの大型店が圧迫している。地元経済の破綻、そして駅前にみられるシャッター通り。

シについて。「近年は人口が増加」、「開発が進んで住宅地」からEが該当。やはりここはニュータウンなんだね。

スについて。かつて賑わっていたということで駅前の商店街だろう。Dが該当。ただし、サの説明で述べたように、郊外の大型店に客が流れることによってこれら旧来の商店街は経営が圧迫されている。日本各地の中小都市の駅前にはシャッター通りがみられる。

 

[雑感]

これも簡単な問題だったと思う。中学生にも解かせてみたいな。ただ、先ほどのバブルの話とも重なるんだけど、今の小中学生ってかつての日本の光景って知っているのだろうか。駅前が栄え、デパートには休日には買い物客が殺到し、商店街も賑わっていた様子を。たしかに1980年代まではそういった風景が一般的だった気がするけれど、今はほぼ完全に失われてしまったよね。地元の店舗がなくなり、どこに行っても全国チェーンの大型店ばかり。味気ない気もするんだけどね。

 

 

<第3問問4>

 

[インプレッション]

これは非常に重要なテーマを扱っているよ。現在社会において、有効な交通手段を有さない交通弱者の存在は大きな問題となっており、とくに近くに商店が存在しない買い物難民が増加している。人間が「自動車」という便利なものを追い求めるがゆえに、逆に利便性が取り残される人たちも増えてくるという皮肉。こういった現在にみられる事象を解析する科目こそ、地理なのだ。

 

[解法]

階級区分図を用いた問題。階級区分図は相対的な値(割合)を表す統計地図。いずれの指標も相対値であることをまず確認しておく。

それぞれの選択肢を検討していこう。まず1から。過疎地域が広い都道府県は、三大都市圏から離れた地方に多いのはその通りなんじゃないかな。若年層の流出によって高齢者の割合が上がる。これは正文だと思う。

さらに2。ん?これはおかしいんじゃない?セオリーに反している。人口移動の鉄則として「若者が移動する」というものがあるよね。人口は経済レベル(1人当たりGNI)の低いところから高いところへ動いていく。高い賃金と豊かな雇用を求めて、労働者としての移動であり、その主役は「働き手」となる若者(若年層)である。高齢者が移動することはない。これが誤り。

では、なぜ三大都市圏における老年人口の増加傾向(割合なので増加はおかしいよね。上昇って言わないと)は高いのだろう?これはよくわからないのだが、一つの理由として「元々低いから」っていうのがあるんじゃない?すでにマックス値まで高くなっている地方の老年人口割合に対し、三大都市圏ではそこまで顕著な高齢化はみられなかった。しかし、日本全体の少子高齢化によってどの地域でも老人の数が増えてくれば、元々老年人口が低かったはずの三大都市圏でこそ、その上昇の度合いは目立ったものになるんじゃないかな。とくに郊外のニュータウンなんかこういった傾向が強いって言うよね。開設時は若年層の流入で「若い」住宅地だったはずのニュータウンだが、経年によって居住者がそのまま歳を取り、やがて老人だらけの町になる。

他の選択肢はとくに検討の必要もないが、一応みてみようか。3について。このようなことは行われているだsろうね。交通弱者、買い物難民のための処置である。

さらに4。これこそまさに先ほど述べたニュータウンの現状だね。1970年代に20代だった者ですら、2020年には高齢者となっている。自家用車の利用が困難になる人も多くなってくると思うよ。また、こうしたニュータウンは住環境の保全を理由として食料品などの商店の進出が制限されていることもある。ニュータウンの多くが「●●台」や「●●が丘」などの名称通りに丘陵地や高台にあり、離れたスーパー(こういった地域には比較的大きなスーパーはみられたりする)に出かけるにも自家用車がないとかなり困難な場合も。

 

[雑感]

あら、図は全く見ないで問題が解けちゃいました(笑)。良い子のみなさんは真似しないで、しっかり図をみてくださいね。ただ、こういった問題が実はかなり多かったりするのも共通テストの姿。図と文章が与えられている問題の場合は、意識としては「図:文章=2:8」ぐらいでいい。図の読解はたしかに興味深いのだが、それに時間をとられると問題を解く時間がなくなる。直接的に問題を解いてタイムパフォーマンスを上げないといけないので、図を参照するのは最低限にしておかないと。

 

 

<第3問問5>

 

[インプレッション]

これは苦しんだな。「従属人口指数」っていうのがよくわからないのだ。いや、説明されているから、計算方法などはわかるんだが、だからといってこの数値の高低をどう捉えればいいのかがわからないのだ。子どもが多くても、老人が多くても、従属人口指数は上がるんだわ。これをいかように解釈するか。難しい問題だと思う。

 

[解法]

従属人口指数というものを初めて聞いた。「(年少人口+老年人口)÷生産年齢人口×100」によって算出される指数なんだそうな。

でも、ここで大問題が生じるのだ。これ、結局何を表す指数なの?ってこと。エチオピアのような年少人口割合が極端に高い国、日本のような老年人口割合が特に高い国、いずれも従属人口指数って大きくなるんじゃない?従属人口指数から、その国の人口構成を読み取るのは実はかなり困難。

 

さぁどうすればいい?例えば具体的な数値に落とし込んで考えてみよう。現在の日本の老年人口割合は25%ほど。年少人口はその半分で13%ほど。生産年齢人口は全体の人口からそれらを差し引いた数で、60%強といったところか。従属人口指数を計算すると、(1325)÷62×10061.2 となる。たしかにグラフの1と2は2020年の値が60近辺である。この辺りが日本なんだろうか。

 

逆に極端な値のものがあるね。グラフ4は2000年ぐらいに値が100を超えている。これってどういうこと?要するに 50÷50×100 ってことでしょ?生産年齢人口割合が50に対し、年少と老年を合わせた割合も50。ただし、日本ほど高齢化が進んでいる国もないわけで、その日本でも現在は60ぐらいの数字が目安となる。4の国の場合、老人じゃなくて、子どもが極端に多いんじゃない?年少人口割合が40%、老年人口割合が5%、そして生産年齢人口割合が55%ならば、こういった指数になるのも納得。4はエチオピアだと思う。出生率が極めて高く人口増加率も高い。年少人口割合も同様に高くなるね。

 

それに対し他の国は2000年ごろに指数が50程度と低い値にとどまる。例えば年少人口割合20%、老年人口割合15%、生産年齢人口割合65%ならば、ちょうどこれぐらいの値になる。これ、普通の国ってことだよね。

 

これ以降、日本では超高齢社会に突入し、老年人口が年少人口を超えるようになる。これは人類の歴史上、極めて異例なことなのだ。年少人口が老年人口より多いのが普通の状態であり、そして人口は増加する。これが逆転すると将来的に人口減少社会となり、実際日本は21世紀に入りその状態にある。

 

将来の日本ってどうなるんだ?老年人口が40%、年少人口が10%なんてことが考えられるかもしれない。その場合は生産年齢人口は50%であり、従属人口指数を計算すると100となる。なるほど、2050年の日本の姿がこれなのかも知れない。指数が大きく上昇している1が日本なんじゃないか。

 

一方で4がエチオピアだとすると、2050年にかけて値が大きく低下している。これはどういったことだろう。エチオピアでも経済成長がみられ、それに伴って出生率が低下する(1人当たりGNIと出生率は原則として反比例することを考えよう)。年少人口割合は落ち着きをみせ、30%程度に低下するだろうか。そして2020年の段階で子どもだった世代が成長し、2050年には生産年齢人口として社会を支える。この辺りの人口がボリュームゾーンとなり、生産年齢人口割合は高い。一方で平均寿命も伸びるため、ある程度は老人も増えるだろうが、それは極端な値ではないだろう。仮に10%とする。生産年齢人口は60%となり、従属人口指数は 40÷60 60~70の間に収まる。どうだろうか?これは考えうるエチオピアの未来の姿であり、従属人口指数の低下するシステムとしては何の疑問もない。

 

2と3については不明。従属人口指数については、年少人口と老年人口が合計されて分子となるので、この値が高ければ子どもが多いであったり、低ければ老人が多いなどのように単純に紐づけることができない。上記のように具体的な数字を用いて、その国特有の状況を想像して算出してみないといけない。実に厄介な指標であり、実用性は低いと思う。

 

[雑感]

上記のように大変苦労しました(涙)。具体的な数字を用いて計算するしかないんじゃないかな。グラフの大まかな動きだけで判断はできない。しかし、このように数字について厳格に考えることもまた地理の学習には必要であり、そういった意味では本問は実に典型的な地理の問題と言えるんじゃないか。簡単ではないけれど、この問題について理論的に解釈できるならば、君には地理のセンスが十分にあるということ。地理のリトマス試験紙というか、試金石のような問題だったと思う。パワフルな良問です。

 

 

<第3問問6>

 

[インプレッション]

イギリスはすでにEUを離脱しているわけだが、本問で扱われている統計年次はまだEUに籍を置いていた時代。だからどうだってことはないんだけど、東欧の存在は意識してほしい。ポーランドについてはEUに加盟した年次ってのは結構重要だと思う。

 

[解法]

イギリスにおける移民の出身国の問題。選択肢は隣国アイルランド、旧植民地インド、EU内の低賃金国ポーランドとキャラクターがはっきりしている。理論的な思考ができる良問。

これ、実はパキスタンが最大のポイントなんですよね。ただ、先にポーランドを片付けてしまおう。

ポーランドのEU加盟は2000年代。経済レベルの低い東ヨーロッパ諸国のEU加盟は、域内の人口流動に革命的な変化を及ぼした。低賃金の東欧諸国から高賃金で雇用の多い西欧諸国への労働者の移動が特に顕著となった。こちらの表においても2005年にいきなり登場し、2019年には2位にランクインしてい国があるね。そう、このムがポーランドなのだ。EU加盟を果たし、域内の移動が自由になったため、多くの東ヨーロッパ人が西ヨーロッパへと流入した。とくに東欧諸国の中で最も規模の大きいポーランド(人口4000万人)からの労働者の移動が目立った。

これに対しマとミは古い時代からイギリスへの移民がみられた国。人数が減少しているマ、増加し続けているミの違いがある。これ、どっちなんだろう?

ここでヒントになるのがパキスタンなのだ。インドに近接する南アジアの発展途上国であり、インド同様にイギリス植民地だった。パキスタンからの移民の増え方ってかなり凄くない?2005年から2019年までの15年ほどの間に1.5倍以上に増加している。この増え方ってミと共通していると思わないかな。ミも同じ間にやはり1.5倍近く移民が増えている。パキスタンとミは同じような条件を有する国と思っていいんじゃないかな。そう、ミこそインドなのだ。イギリスへの労働者の移入は、かつては同じヨーロッパ地域からの移民が主だった時代があったが、近年はその規模がグローバル化し、遠方の南アジア(とはいえ、旧植民地だったという強い関係性はあるが)からの移民も積極的に受け入れるようになったのだ。

 

ちなみに、現在のイギリスの首相はインド系ヒンドゥー教徒であるし、ロンドンの市長はパキスタン系ムスリム。イギリスはすでに移民系の人々が深く根付く国になっているのだ。

 

[雑感]

決して難しい問題ではないが、すでにEUを離脱したイギリスをあえて出しているところが疑問だったりする。でも、解法でも触れたけれど、イギリスの場合、国のトップがインド系、首都の首長がパキスタン系であったり、他のヨーロッパ諸国以上に移民中心の社会が進行している。「未だに移民を認めない」っていう勢力も見られる日本って国はどうなんだ?っていう問題提起の意味があるのかも知れない。人口減少社会の日本において移民の受け入れは真剣に考えるべき課題だと思うよ。