2020年地理B追試験[第5問]解説
[25]2020年地理B追試験[第5問問1]
まずDとEの判定。「500」未満の値はともに高いのでこれは判定材料にはならない(しかし、実はこれ、めっちゃ大事!後ほど説明します)。高い方に注目しないといけない。Eがほぼ「3000」台で終わっているのに対し、Dでは「4000」を越える高所にも国土が広がっている。これ、何だと思う?
例えば日本も新期造山帯の山岳国だが、それでも最高峰は3776mの富士山。4000mに高度が達するというのはよほど極端な高山地形がそこにあるということ。これを「アンデス山脈」と捉えていいんじゃないかな。メキシコも新期造山帯の国ではあるけれど、みんなはそこに走っている山脈の名前を知っているかな。とりあえず有名な山脈がないのだから、無視してしまっていいと思う。一方、アンデス山脈は中学地理にも登場するような有名な山脈だね。「知名度」で考えてしまっていい。標高が高いのはアンデス山脈の方であり、4000m以上の地形を含むDがペルー。
さらにアとイの判定をしよう。これはわかりやすいんじゃないかな。ペルーは沿岸を寒流が流れ、その影響で海岸には砂漠が広がっている。寒流により地表面付近の空気が冷やされ、大気が安定する。上昇気流がみられず雲が発生しにくい状態となり、降水量が少ない。スタート地点が「砂漠・灌木」となっているイがペルーであると判定。よってメキシコは③が正解。
ちょっと発展ポイント。みんな、ペルーのイメージってどんなかな?アンデス山脈のインカ帝国?それとも海岸付近に広がる砂漠?もちろん両方とも正解なんだが、実はペルーは「砂漠」国、「高原」国である以上に「森林」国なのだ。国土全体に占める森林の割合は50%を超え、これは日本(60%以上)に迫る。ペルーで砂漠となっているのは海岸沿いの狭い範囲のみ。アンデス山脈も海岸に近く、面積的には広い範囲を占めているわけではない。ペルー中部から東半分の広い範囲はアマゾン川流域の低地であり、熱帯雨林(セルバ)となっている。ペルー中部のアンデス山脈西麓はアマゾン川の水源となっている。アマゾン川はペルーからブラジルへと流れる複数の国を流域に含む国であり、さらに沿岸国の自由航行が条約によって認められた国際河川でもある。大西洋からさかのぼってくる大型船舶はブラジルを通過し、ペルーのイキトスまでやってくる。
[26]2020年地理B追試験[第5問問2]
ラテンアメリカの人種・民族構成についてまとめておこう。
(アフリカ系が主)ジャマイカ・ハイチ
(先住インディオが主)ペルー・ボリビア
(ヨーロッパ系が主)アルゼンチン・ウルグアイ
・ジャマイカ・ハイチ・・・それぞれ旧イギリス植民地と旧フランス領。先住のインディオが死に絶えてしまい、サトウキビプランテーションの労働力として西アフリカから奴隷が連れてこられた。現在の住民の多くはその子孫。
・ペルー・ボリビア・・・かつてペルーからボリビアの高原地帯にインディオによる巨大な帝国であるインカが栄えていた。現在でも両国ではの割合が高い。
・アルゼンチン・ウルグアイ・・・ラプラタ川エスチュアリーに面する大きな港湾を有する。ヨーロッパからの移民を多く受け入れ、人口のほとんどがヨーロッパ系で構成されている。
さらに、アフリカ系とインディオの混血が「サンボ」、アフリカ系とヨーロッパ系の混血が「ムラート」、インディオとヨーロッパ系の混血が「メスチソ」。
(サンボが主)該当なし
(ムラートが主)ドミニカ共和国
(メスチソが主)メキシコ・チリ・パラグアイ
・ドミニカ共和国・・・ハイチに接する。スペインからの移民とハイチから流入したアフリカ系の人々との混血が多い。
・チリ・パラグアイ・・・ヨーロッパ系の多い国々(アルゼンチン・ウルグアイ)、インディオの多い国々(ペルー・ボリビア)に接し、その混血が多い。
・メキシコ・・・アステカ文明が栄えた国で高原を中心にインディオが多いが、大西洋にも面し、多くのヨーロッパからの移民を受け入れたため、混血が進んだ。
以上のことから判定しよう。ペルーで割合が高くなっているカが「先住民」、メキシコで過半を占めるキが「メスチソ」。正解は①。
[27]2020年地理B追試験[第5問問3]
Lが分かりやすい。メキシコの値が極めて高い。トウモロコシは現在世界各地で主に家畜の飼料として用いられているが、メキシコではタコスやトルティーヤなど主穀として人々に食されている。1人当たりの供給量も大きい。Lがトウモロコシ。
さらにトマトとジャガイモについては「気候」で考えるのが適当。ジャガイモとトマト、寒い気候に適応するのはどちらだろう?日本国内で考えれば簡単なんじゃないかな。ジャガイモの生産地はもちろん北海道。耕地に恵まれない長崎県でも生産されているが、やはり圧倒的な生産量を誇るのは北海道であり、寒冷な地域に適応する作物であることは十分に想像できるだろう。一方でトマトは例えば高知県や宮崎県のビニルハウスで栽培されるイメージ。促成栽培だね。温暖な気候に適応するもの。っていうか、寒冷地域では栽培不可能だろう。
ここで注目するべきはドイツ。JとKを比較し、Jの値は低く、Kの値は大きい。冷涼な気候であるドイツにおいて、主に食されている作物はどちらだろう。もちろん輸入すればトマトは手に入るだろうが、やはりメインに料理に使われている作物といえば、ドイツ国内でも多く栽培されていると思われるジャガイモの方じゃないか。Jがトマト、Kがジャガイモとなり、正解は④。
[28]2020年地理B追試験[第5問問4]
これはメキシコを当てる方が楽なんじゃないかな。今やメキシコは1人当たりGNIが10000ドル/人に達しようという工業国。もちろんこれはアメリカ合衆国との経済的なつながりがあってのこと。
アメリカ合衆国とカナダ、メキシコの間で締結された自由貿易協定がNAFTA。現在はUSMCAに発展しているが、この3カ国間では自由貿易が実現し、経済的な結びつきがとくに強い。アメリカ合衆国から機械組み立てなどの労働集約型の工場がメキシコ国内に進出し、安価な労働賃金で工業製品が生産され、完成品がアメリカ合衆国へと送られている。「自動車」や「電気機械」などの機械工業製品が輸出品目の上位にあるのが、現在のメキシコになる。シが「2016年」、Pが「メキシコ」となり、ペルーと2016年の組合せとしては④が正解。
[29]2020年地理B追試験[第5問問5]
XとYの判定は容易だろう。地理的に近い国を考えればいい。ペルーにとってチリは国境を接する国であり、アルゼンチンは同じ南米の国である。Xをペルーと判定。またメキシコにとってカナダはNAFTA(現USMCA)を調印する経済的に強い関係性にある国であり、もちろん地理的にも同じ北米大陸の国で遠いわけではない。Yをメキシコと判定する。
タとチはどうだろうか。メキシコについては1人当たりGNIが比較的高い工業国というキャラクターを意識する。日本からアメリカ合衆国に多くの日系企業が設立されているが、そこからさらにメキシコへと工場が進出している様子は容易に想像ができるだろう。日系企業の事業所数が圧倒的に多いタをメキシコと判定。正解は③。
チはペルーとなるが、こちらは工業化が進む国でもなく、日系企業の進出数は少ない。そもそも人口も「メキシコ>ペルー」であり(メキシコは世界10位の人口大国)、1人当たりGNIも「メキシコ>ペルー」である。メキシコは1人当たりGNIが約10000ドル/人であり、発展途上国としては比較的高い値である。よって人口と1人当たりGNIの積であるGNIについてももちろん「メキシコ>ペルー」。経済規模が大きいのだから、日系企業の進出数はメキシコの方がペルーを大きく上回ることは十分に想像できる。
ただ、ここで一つ興味深いデータがある。それは「日本における在留外国人数」。ペルーは比較的日系人の人口が多く、彼らが日本国内での製造業(自動車工業など)に従事するために日本へと入国している。ブラジル人の人口が日本国内で多いのと同じ理由による。
ブラジル同様に、ペルーにもかつて日本から多くの農業移民が生じた。彼らはペルーで家族をもち、その子孫たちは「日系ペルー人」となる。1990年の移民法の改正によって日系人に限り外国人であっても日本国内での単純労働への就業が認められ、この際に日系人人口が多いブラジルと、そしてペルーからの入国者が増加したのだ。日本の製造業の不振によって現在はやや減少傾向にある日系人の人口だが、それでも表のように高い水準であるのは間違いない。