2020年地理B本試験[第5問]解説

たつじんオリジナル解説[2020年地理B本試験]<第5問>             

 

[25][インプレッション]第5問は比較地誌。このパターンは最後のセンターでも踏襲されましたね。この比較地誌は毎回「悪問」がいくつか含まれ、難易度が上がってしまっているのですが、今回はどうなんでしょう。

問1では河川勾配と流量の問題。実は今回の問題の中で、僕が一番悩んだのはこの問題です。決め手に欠け、最終的にはカンに頼って解くしかない。

 

[解法]長江とアマゾン川の勾配と流量を問う問題。個人的には本年最大の難問だったと思う。慎重に解かないと。

まず図2から判定していこう。河川勾配の図であるが、もちろん「数字」に注目するのはマスト。

まず縦軸。最大の値でも1500m。意外と高くないのかな。日本でも標高1500m程度の地形はいくらでもあるね。

ただ、日本とスケールが違うのが横軸。こちらは3000kmまである。図1の中国とブラジルの図にはしっかりと1000kmの目盛りがある。長江もアマゾン川も3000kmを遥かに越える長さを持った大河である。つまり、1500mの標高となるのは決して河川の源流ではなく、(上流部には違いないが)あくまで途中の高さということ。例えば、アマゾン川については図から判定するに源流部はアンデス山脈であり、かなりの標高になるはずである。しかし、河口から3000kmならば、ペルーの中央部辺りだろうか。この付近ならば、熱帯雨林に覆われた低地が広がっているはずである。

一方で長江も、図から判定するに源流は中国南西部のチベット高原であるが、3000kmならばその手前だろうか。しかし、中国の地形はブラジル北部と違って、決して低地ではない。険しい山々が走り、山脈と谷が幾重にも連なっている。長江流域でぜひ知っておいて欲しい地形が「スーチョワン盆地」である。長江の中流に位置する巨大な盆地であり、スーチョワン省やチョンチン市を含む。周囲は山岳に囲まれ、中央に平坦な地形という「天然の要害」。三国志の時代には、かの有名な史上最高の軍師である諸葛孔明によって蜀の国が建てられた。周囲の山岳は敵の侵入を防ぎ、その一方で平野に恵まれ、米や小麦の栽培に適し、多くの人口を養うことができる。

こうした盆地そして山岳地形がみられることから、河口から3000km付近の長江はかなり険しい地形を流れているのではないかと想像できる。図2ではアが長江となり、一方のイがアマゾン川となる。広大なアマゾン低地を流れ、勾配は極めて緩やかなのだ。

さらに図3を判定してみよう。AとBのグラフを比べてみる。縦軸の目盛りは共通し、流量という「実数」を表している(「割合」ではなく)。図からそのまま流量が判定できる。それにしてもここまで流量が違うとは。Bで最大である7月の流量でも「5」程度。それがAでは「20」を楽に超えているのだから。いかにAが莫大な水量を誇る河川であるかがわかる。

AもBも最大流量と最小流量の間にかなりの違いがあり、これはそのまま流域の降水量の違いと考えていいのではないか。河川流量に影響を与える要因として、降水のほかに融雪・融氷水もある。シベリアやカナダのような寒冷地域、あるいは日本列島の日本海沿岸のよう多雪地域において、そういった融雪・融氷も考慮に入れるべきである。しかし今回はそれは当てはまらないのではないか。いずれも温暖な地域を流れる河川であり、長江ならチベット高原、アマゾン川ではアンデス山脈など源流に近い場所で多少は雪氷もみられるだろうが、その融解が両河川の流量も大きな影響を与えるとはちょっと考えにくい。

ここで注目するべきはBである。長江が流れる東アジアは「モンスーンアジア」に含まれ、季節風の影響が強い。日本列島を想像すればわかりやすいが、東アジアの夏の季節風の風向は南東である。太平洋高気圧から湿った風が吹き込み、6月から9月にかけての降水量が多くなる。どうだろうか。Aに比べてBの方が「夏のピーク」が顕著なのではないか。降水量の少ない冬は流量が少なく、しかし夏に向けて流量が大きくなる。その値は前述のように7月であっても「5」程度であるが、1月や2月の流量と比べるとその量は5倍ほどとなる。夏と冬の違いが明確。この条件を考えるに、Bが長江であるとみていいのではないか。

一方、Aは全体の流量は多いものの、月による流量には大きな差はない。もちろん最小の11月と最大の5月とで2倍近くの差はあるが、その11月を中心とした時期の流量ですらBをはるかに凌駕し、いわゆる渇水期はない。熱帯雨林を流れるアマゾン川の流量としてはこちらがふさわしいように思える。

とくにアマゾン川は「世界最大の流域面積」を誇る河川である。ペルーからブラジルにかけての極めて広大な土地に流れ落ちた雨水が全てこの河川へと注ぐ。地球の面積の何%かを占めるとみられる南米大陸の半分の雨量が一気に押し寄せるのである。その流量は極めて莫大なものになると思って間違いないだろう。

先にもみたように最大流量の月と最小流量の月とで倍ほどの差はあるが、これは巨大な流域の中には雨季と乾季の明瞭な地域も含まれているからではないか。ただ、先程も述べたように、最小流量であっても、その値は「10」に達する大きなものだ。Aをアマゾン川と判定し、正解は②となる。

 

 

[26][インプレッション]おっと、農産物統計の問題。登場しているのは小麦、牛乳、バナナで。さらに中国とブラジルの両方の統計がしめしてある。かなり解きやすそうな気もするのですが、さて、どんなもんなんでしょう。バナナのイメージはつきやすいんだが、残りの2つがややこしいかな。小麦も牛乳も冷涼な地域で生産が多そうな。そもそもブラジルは小麦の栽培に適する国ではないので、中国で判定するのがベストのような気がします。

 

[解法]農産物統計。最もわかりやすいものはバナナなんじゃないかな。熱帯や亜熱帯の気候に適し、高温多雨となる地域で栽培される。中国の北部や中部など冷涼な地域で生産されるはずもなく、中国では最南部(華南という地域だね)に栽培地域が集中するクが「バナナ」。ブラジルでは比較的北から南までの全域で栽培される。中国の東側の地域を沿海部というが、その沿海部についても北から「東北地方」、「華北」、「華中」、「華南」の4つの地域に区分される。東北地方は、北朝鮮やロシアに接する3つの省で冬季にとくに寒冷となる。華北は黄河流域で、ペキンなど大都市も多いが、やや乾燥した気候。華中は長江流域で、シャンハイなど。日本の本州や九州と緯度が近く、似たような気候となる。華南は南シナ海に面する中国の最南部。亜熱帯性の気候がみられる。バナナについてはこの華南地域に生産が集中している。円が示されているエリアが6つ。最も北で内陸部であるスーチョワン省は極めて円が小さい。人口が多い農業地域である。最も巨大な円が示されているのは華南の中心的な省であるコワントン省。広東料理といえば酢豚が有名だね。コワントン省の東に隣接するのがフーチェン省。福建省といえば茶の栽培(烏龍茶)。コワントン省の西に接するのがコワンシーチョワン族自治区、南が海南島からなるハイナン省、最も内陸側に位置するのがユンナン省(ここは茶と米の原産地との説が有力)、いずれも亜熱帯性の気候がみられ、バナナとサトウキビ、パイナップルの生産が多い。

さて、ここからが難関。小麦と牛乳である。正直なところ、牛乳はイメージがつきにくい。ヨーロッパやアメリカ合衆国ならば、ホイットルセー農牧業区分の「酪農」地域で牛乳の生産(そしてそれを原料とした乳製品の生産)が多いとみて妥当。それぞれ北部ヨーロッパ、五大湖沿岸が酪農地域となるが、いずれも冷涼であることに加え、大陸氷河に土地を削られ穀物栽培に適さないことから牧草地として利用されるという共通点がある。さらにあえて言えば、牛乳や乳製品の出荷に便利な都市周辺。

ただ、これが中国やブラジルにあてはまるだろうか。農牧業区分で酪農地域に該当するところはない。また、アジアにはインドやモンゴルなど主な動物性タンパク源を乳製品に依存する地域もあり、ヨーロッパや北アメリカとはまた違った食文化がみられるため、中国国内における牛乳生産も見当がつけにくい。ブラジルにはそもそも酪農に適した「冷涼」な地域がなく、酪農のイメージもない。サンパウロやリオデジャネイロなど大都市は南部に集中し、消費地への近接を考えれば南部での牛乳生産が多くなりそうだが、北部のアマゾン地域では熱帯林を開いての牧場開発と「企業的牧畜」がさかんであり、北部にも牛の分布はみられそうだ。判定が難しい。

よって、ここは小麦で考えるのが妥当ではないか。ただし、ブラジルは高温多雨の国で、冷涼少雨を好む小麦の栽培には適さない(ヨーロッパ系白人の多い国でありながら、米の方が小麦より生産の多い国である)。中国の小麦を中心に考えてみよう。

まず中国について、東側の「沿海部」と西側の「内陸部」に分ける。沿海部は比較的降水量が多く、農耕地域となっているのに対し、内陸部は主に乾燥地域となっており、ステップ(草原)や砂漠が広がる。灌漑によって一部で作物栽培が行なわれる以外、農耕に適さない土地である。

その沿海部であるが、中央を東西に横切るライン(チンリン山脈とホワイ川を結んだ線)が「年降水量1000ミリ」の等値線として知られており、これより北側の少雨地域が「集約的(アジア式)畑作農業」地域、南側の多雨地域が「集約的(アジア式)稲作農業」地域である。小麦が主に栽培されているのはこの集約的畑作農業地域の方。なるほど、カもキも中国の東側の、さらに北側半分の地域に多くの円が描かれている。

ただ、明確な違いがあるのが東北地方(前述のようにロシアや北朝鮮に隣接する2つの省)と、その西側でモンゴルに接する内モンゴル自治区。カではこれら4つの地域ではほとんど生産がなされていないのに対し、キでは内モンゴル自治区の値は全国1位であり、東北地方の最も北に位置する省(ヘイロンチャン省)での値も極めて大きい。この違いって何なんだ?

僕はやっぱり「内モンゴル自治区」に注目して欲しいんだよね。内モンゴル自治区っていうか「モンゴル」そのものか。中国は人口の90%が漢民族によって占められているものの、国土の縁辺部を中心に多くの少数民族(とはいえ、かなり人口は多いが。14億人の10%でも日本の人口を越えている)が住んでいる。その主なものの一つがモンゴル族なのだ。ユーラシア大陸内陸部のモンゴル族の分布エリアは、大きく二つの国にまたがっている。モンゴル、そして中国の内モンゴル自治区である。いずれも移動式の住居(モンゴルではゲル、内モンゴル自治区ではパオと呼ばれる、獣の革などを材料としたテント式の住居で分解し運ぶことができる)を利用した「遊牧」の文化があり、草原を馬や羊を連れ、人々は草地や水を求めて移動を繰り返す。モンゴル族の食習慣として、野菜や穀物などの農産物の供給(消費)量が相対的に少ないことは理解できるだろうか。日本の相撲界にはモンゴル出身の力士が多く、彼らは顔立ちは日本人と変わらず、日本語も巧みであるため(日本語とモンゴル語は同じ言語系統にあり、相互に習得が容易い)我々は見逃してしまいがちなのだが、食文化という生活において最も重要な要素において、全く異なっているのだ。野菜や穀物など農耕によって食文化を築いてきた日本民族に対し、家畜の乳や肉を主な栄養源としてきた「草原の民」モンゴル族。さて、このことを考えるに、内モンゴル自治区で圧倒的に大きな値となっているキは、小麦と牛乳、どちらが該当すると思う?たしかにモンゴル方面は草原(ステップ)の広がる乾燥地域であり、牛の居住には適さないかも知れない。でも、やや乾燥しているという気候条件ならば、ペキンを中心とした華北地方も同じである。気候は判定材料にはならない。やはりここは伝統的な食文化で考えるべきだろう。中国の華北地方は、すでに述べているように「集約的畑作農業」地域として小麦の栽培がさかんであり、農耕を基盤として人々が生活をしている地域である。それに対し、内モンゴル自治区を含むモンゴル地域は、農耕より家畜飼育を中心とした「遊牧」地域。どうだろう?「牛」というのが引っかかるが、モンゴル族の伝統的な食文化こそ、家畜の乳を主体としたものではないか。モンゴルの伝統的な飲料に「馬乳酒」というものもある。キを「牛乳」と判定するのは決して無理やりなことではないと思う。

残ったカが「小麦」である。モンゴル方面ではほとんど栽培されていない。こちらは華北地方での生産が圧倒的である。人口が多いスーチョワン省でもそれなりに生産量が多いようだが、裏作として小麦が栽培されているのだろう(いわゆる二毛作。夏の間は米を、秋から翌年の初夏までは小麦を、同じ土地でつくっている)。

 

 

[27][インプレッション]おっと、そういえば中国とブラジルってともにBRICSの一員でしたね。2016年の最初の比較地誌の大問ではやはりともにBRICSに数えられるインドと南アフリカの登場でした。なるほど、そう考えてみると、今回中国とブラジルが取り上げられたのは実に順当というか、ごく当たり前の選択だったわけですね。

問題は製造業について。BRICSの国々って実は意外にキャラクターが明確で、わかりやすかったりします。

 

[解法]南アフリカ共和国を除いたBRICS4か国の「製造業生産額全体に占める品目別の割合」を問う問題。選択肢は「機械類」、「食料品・飲料」、「石油製品」、「繊維品」。さて、どの国がどんなキャラクターを有しているか。

インド、中国、ブラジル、ロシアについて、決定的にキャラクターが違う国が一つ。それはロシアである。他はいずれも製造業が発達した「工業国」と言えるが、ロシアは原油や天然ガスの産出が世界トップ水準にある「資源国」である。安い電力(化石燃料による火力発電、豊富な水量による水力発電など)を利用してのアルミニウム工業は世界的な水準にあるものの(日本にもたくさん輸出されているね)、機械工業などは発達していない。そんな「非工業国」であるロシアにおいて、あえて発達している工業といえば何だろうか。やはりロシア最大のキャラクターは「原油と天然ガスの産出」である。これを利用した化学工業については他の国に比べ明確な優位性があるのではないか。他の3カ国よりロシアで高い値となっているのはシである。ロシアのグラフのみを見ても、サ〜セの中で最も割合が高いとみられるのはシである。どうかな。これを「石油製品」とみていいんじゃいか。日本のように原油や天然ガスを輸入に頼る国ならば、石油関連産業は輸入に適した臨海立地となるが、ロシアの場合は油田やガス田に近接して石油工業が成り立っているのだろう。

さらに「繊維」がわかりやすいんじゃないだろうか。衣服に代表される繊維製品は価格が安く(付加価値が低い)、出荷額は大きくないだろう。衣服といえばやはり「メイド・イン・チャイナ」が我が国においては圧倒的であり、他の国に比べ中国での割合が高いことが想像できる。さらに多くの衣服の材料となる綿織物はもちろん「綿花」から加工されるものである。アメリカ合衆国のように綿花の生産が多くとも綿織物の生産が少ない国もあるが(1人当たりGNIが高い高賃金国なので繊維工業は盛んではない)、基本的には「綿花栽培国=綿織物生産国」である。綿花生産量は、1位インド、2位中国、3位アメリカ合衆国、4位パキスタンであり、綿織物生産国は、1位中国、2位インド、3位インドネシア、4位パキスタンである(インドネシアは綿花栽培国ではないが、低賃金であるため綿織物の生産は多い。アメリカ合衆国などから綿花を輸入)。インドでも割合が高いものが繊維とみていいだろう。④が「繊維」。ロシアやブラジルではほとんど繊維の生産は行われていない。

さらに①であるが、中国の値が極めて高い。中国は今や世界最大の工業国である。自動車やPCにおいてその生産量は圧倒的である。中国でこそ機械製品の生産が多いとみていいだろう。サを「機械類」と判定する。機械製品は付加価値が高い(価格が高い)わけだが、ロシアを除く3カ国においてサの値が最大となっている。いずれの国も機械類の生産額が首位となっているわけだ。

以上より、残った③を「食料品・飲料」とする。ブラジルでの値が高いことが最大の特徴である。ブラジルは自動車や鉄鋼など重工業の発達もみられるが、農畜産業もさかんな国である。コーヒーや牛肉、大豆やサトウキビなど食品に関連した産業はブラジルの特徴的なものである。中国におけるセの値が他の国に比べ低いが、これは全体の製造業生産額が極めて大きいので、相対的に食料品・飲料品の割合が低くなっているだけのことだろう。

 

 

[28][インプレッション]うわっ、交通ネタ!これは苦手やなぁ(涙)。交通ネタて地理Bではあまり出ないんですよね。地理Aの得意ネタ。さぁ、どんなもんなんでしょう。思わぬ難問の予感がしますが。

 

[解法]地理Bでは珍しい交通ネタ。しかも「貨物」をテーマとして、「鉄道」による輸送量と「航空」により輸送量が示されている。これ、ちょっと手強そうだな。

例えば「旅客」ならば人口規模がヒントになるはず。旅客輸送量の単位は「人キロ」だったりする。距離(キロ)にも比例するけれど、人数(人)にも比例するわけだ。

今回の単位は「トンキロ」。貨物の重さと距離に比例。距離についてはとりあえず選択肢中の国はいずれも面積が大きな国なので、ちょっと判別が難しくはある。貨物は、ちょっと見当がつかないな。

というわけで単純に鉄道網や航空路が発達している国を考えればいいような気がする。アメリカ合衆国は明確なんじゃないかな。巨大な国土に多くの都市が分散し、それらを多くの航空路線がつないでいる。航空機の便数が多いことを考えれば、貨物輸送量だって多いんじゃないか。①をアメリカ合衆国とする。鉄道については、アメリカ合衆国においては人員を輸送することより石炭資源など貨物輸送が中心であり、それなりに大きな値となる。

残るは中国、インド、ブラジルである、さて、どの国がどの選択肢に該当するだろう。鉄道貨物については「石炭」産出と結びつけたらいい。大都市圏では通勤に利用されるので鉄道による旅客輸送量は多くなる、ただし、本物で問われているのは「旅客」ではなく「貨物」である。人口は関係ない。国土面積は関係するかもしれないが、今回取り上げられている国はいずれも面積が大きな国ばかり(小さい国が混ざっていれば判定は簡単なんですけどね)。

貨物についても高価格なものは「自動車」での輸送が中心になるだろう。ドア・トゥ・ドアで荷物を届けられるという有利点もある。IC部品のように、軽量でありながらとくに高価なもの(軽量高付加価値)ならば「航空機」が使われることすらある。

なので「鉄道」については価格の安いもの。言い換えれば、付加価値の低いもの。つまり加工する前の原料の輸送に用いられるはずだ。しかし、原油や天然ガスはパイプラインで輸送することが一般的で、鉄道でそれらを輸送するなど聞いたことがない。原油や天然ガスと並ぶ重要な資源といえば、それはやはり石炭だろう。

日本の島国で、さらに資源の供給をほぼ完全に海外からの輸入に依存している国ならば「船舶」での輸送が最もコスト安になるが、選択肢の国々は資源の産出が多い国であり、資源産地と工業地域を結びつけるものは海路より陸路が中心であろうし、船舶より鉄道の方が用いられやすい。

世界最大の鉄鋼生産国である中国。粗鋼(鉄鋼)の生産は中国が世界全体の半分を占めている。石炭の産出は圧倒的であり、もちろん輸送量も多いはず。鉄道貨物輸送量がアメリカ合衆国に次いで多い(ちなみにアメリカ合衆国も石炭産出も多い国である)②が中国と考えていいだろう。もちろん鉄鋼生産には鉄鉱石など他の資源も必要であり(そういえば第2問1問1では鉄鋼生産にマンガンが必要であると述べられていたね)、それらの多くも鉄道で輸送されているはず。なお、鉄鉱石の産出量が多いのは中国、ブラジル、オーストラリア(これも第4問問3で扱われていた話題)。資源の輸入量も圧倒的だが、もちろん産出量も多い国、それが中国なのだ。

なお、②については「国内航空貨物輸送量」も比較的多くなっている。高付加価値の工業製品の輸送に航空機が用いられているのだろうか。中国は世界一の工業国であり、とくにPCやタブレット、スマートフォンなどの組み立ては圧倒的なシェアを占めている。これらの高付加価値の製品ならば航空機を使っての輸送も採算が取れる。

③と④については不明。

 

 

[29][インプレッション]それにしても日系ブラジル人の話題、センター試験って好きですよね。1990年の移民法(出入国管理法)の改正によって、日系人に限り外国人であっても日本国内での単純労働への就労が解禁されました。この影響で、90年代前半に一気に国内のブラジル人が急増しました。そもそもブラジルに日系人が多い影響ですね。

なぜ、日系人が多いか。それはかつて多くの農業移民が日本からブラジルに送られたからですね。「日本人」である彼らはブラジルに永住し、そこで家族を持ち、子どもを設けました。それが日系人なのですね。日本人の血は引きますが、もちろん彼らが話すのはポルトガル語であり、国籍はブラジルです。親世代の「日本人」は今は高齢化し、亡くなる人も多くなりつつあります。

このネタさえ知っていれば、決して難しい問題ではなかったと思いますよ。

 

[解法]「国外の移住」に関する問題。その国の「歴史」や「社会経済状況」と強い関係がある。

図6は「日本における中国またはブラジル国籍をもつ居住者数の推移」。つまり国内における外国人の数のことで、ある程度の想像はできるんじゃかな。1980年に始まる改革開放政策によって、20世紀後半より中国は目覚ましい経済成長を遂げる。日本との経済交流も活発になり、入国する中国人の数は年々増加している。

ブラジル人については日系人の出稼ぎ労働者の流入を考えよう。1990年に移民法(出入国管理法)が改正され、日系人に限り外国人の国内での単純労働への就労が認められた。時はバブル期である。日本の製造業はさらに発達するが、日本人はいわゆる3K労働(キツい・汚い・給料が安い)を嫌い、工場では多くの外国人労働者が雇用されていた。しかし、外国人の単純労働者の就業は本来許されていない。とはいえ、彼らに依存じなければ工業生産はおぼつかない。折衷案というか、苦肉の策として「日系人」という外国人に限っては、単純労働力の受け入れが容認されたのであった。

この結果、90年代前半に一気に国内のブラジル人の人口が急増する。そもそもの日系人人口がブラジルには多い。世界最大の日系人社会が形成されている国である。この背景には、かつて日本からブラジルに多くの農業移民が渡っていった。彼らはあくまで国籍は日本でありながら、ブラジル社会に深く根を下ろし、永住者となった。現地で家族をつくり、多くの子孫をもうけた。彼ら子孫たちは、日本人の血を引きつつも、国籍はブラジルであり、「日系ブラジル人」と呼ばれる。日本では、日本国内で生まれた子どもでも親の国籍を原則として引き継ぐが、ブラジルではブラジル国内で生まれた子どもは、親の出身地にかかわらず皆ブラジル国籍を得る。

以上より、図6については90年代前半に急激に数字を伸ばしているタを「ブラジル」と判定する。2000年代以降はやや減少傾向にあるようだが、これは日本国内の製造業の低迷が原因であろう。日本においても仕事が減ってきてしまっている現状、ブラジルに帰る日系人も多いはず。

さらに図7の判定も。ブラジルに住んでいる日本人(日本出身の居住者)の多くは、農業移民として太平洋を越えた人々。その多くは高齢者となり、亡くなる人も少なくないだろう。かつてより人数が減少しているYが「ブラジル」である。2010年以降やや増加傾向にあるが、これはよくわからない。日系企業の進出によるものだろうか。あまり気にしなくていいだろう。

ブラジルはタとYに該当し、正解は②である。