2020年地理B本試験[第4問]解説

たつじんオリジナル解説[2020年地理B本試験]<第4問>             

 

[19][インプレッション]第4問は例年同様地誌。今年のテーマは東南アジアとオセアニアでしたか。東南アジアは予想通り。地誌は一年ごとに「アジア・アフリカ→ヨーロッパ周辺→新大陸」のパターンを繰り返し、今年はアジア・アフリカの番。2001年を最後に全く出題がなかった東南アジアが大本命でした。この間に中国やインド、アフリカは複数回取り上げられていますし、マイナーな地域であるはずの西アジアですら2回も登場。なぜこんなに東南アジアは避けられていたのでしょう。

一方オセアニアがセンター地理Bの地誌問題で取り上げられたのは何と初めて。人口も少なく「マイナー」な地域であるため、追試験や地理Aでは頻出だったんですが、地理B本試験では蚊帳の外だったんですよね。センター最後の回でようやく登場といった感じです。

とはいえ、地誌だからといって特別な対策が必要なわけでもありません。いずれの小問も難しい知識は問われていませんし、とくに地名や都市名は皆無です。そういう意味ではセンター試験における「地誌」はいわゆる教科書的な地誌とはちょっと違うのかも知れませんね。あくまで系統地理を中心とした総合問題といった雰囲気です。

で、この問1にしても系統地理でよく問われるパターンの問題。具体的にいえば「大地形」のジャンルからの出題で、とくにセンターで重要視されてている海底地形ネタ。これは定番中の定番でしょ。解かないとダメっすよ。

 

[解法]大地形ジャンルからの出題だが、とくにセンター頻出の海底地形。

「水深の最も深い」ということから「海溝」を思い浮かべることができればスムーズに解答できたと思う。

主な海底地形としては、「海溝」、「海嶺」、「大陸棚」がある。海溝と海嶺はプレートの移動によって形成される。海洋プレートが、相対するプレートの下に潜り込むことで形成されるものが海溝。海底のとくに深くなっている溝状の低地であり、海底地震の震源となる(*)。

海溝の分布がとくに顕著なのが、オーストラリアを除く太平洋の外周部。とくに日本周辺の太平洋北西部に集中しているので、北から並べてみよう。

・アリューシャン海溝・・・ユーラシア大陸と北アメリカ大陸の間のアリューシャン列島(弧状列島)に沿う海溝。

・千島・カムチャッカ海溝・・・ロシアのカムチャッカ半島から北海道にかけて。千島列島(北方領土など)に沿う。

・日本海溝・・・東北地方から関東地方にかけての本州に並行する。

・伊豆・小笠原海溝・・・本州・関東地方から南に向かって延びる。伊豆・小笠原諸島に沿う。

・マリアナ海溝・・・伊豆・小笠原海溝のさらに南。サイパン島やグアム島はこの海溝に接している。

さて、どうだろうか。日本の南方にあるウってどう思う?関東地方から南に延びるのが伊豆・小笠原海溝で、伊豆諸島や小笠原諸島に沿っている。さらに南につながるマリアナ海溝。そばにはサイパン島やグアム島がある。ウって、そのマリアナ海溝に含まれるエリアなんじゃないかな。海溝は海面下6000m以下の極めて低い地形。4つのうち、「水深の最も深い場所」とみていいんじゃないか。これが正解。

 

海溝は非常に大切であるので、参考までに他の海溝も挙げておくので、地図帳で確認しておくといいだろう。都市や山脈、河川など陸上の地形についてはわざわざ地図業で確認するほどのものではないが、本問のように海底地形については正確な位置をつかんでおかないと解答できないものもある。「地図帳は使わない」のがセンター(共通テスト)地理の鉄則だが、海底地形だけは例外。

 

・フィリピン海溝・・・フィリピン諸島の東に沿う海溝。この海溝とマリアナ海溝が、フィリピン海プレートの東西の境界となっている。

・スンダ海溝(ジャワ海溝)・・・海溝のほとんどは太平洋に集中しているが、インド洋に形成された例外的な存在。スマトラ島(インドネシアの最も西に位置する、北西から南東に延びる細長い島。面積が大きい)とジャワ島(スマトラ島の南東に接する島でさほど面積は大きくない。しかし人口は多く、人口最大都市のジャカルタも位置する。棚田による米作)の南岸に沿う。スマトラ島北部は、かつて東南アジアや南アジアの広い範囲に深刻な津波被害をもたらした巨大地震の震源となった。なお、スマトラ島の北側のマラッカ海峡は極めて水深が浅い。

・トンガ海溝・ケルマデック海溝・・・ニュージーランドの北に延びる海溝。

・中央アメリカ海溝・ペルー海溝・チリ海溝・・・それぞれメキシコ、ペルー、チリの太平洋岸に形成された海溝。なおこれらの国々の太平洋側には海岸に沿って険しい山脈地形がみられる(アンデス山脈など)。

・プエルトリコ海溝・・・カリブ海には主に火山島からなる弧状列島が並び、これに沿って海溝もみられる。(地図帳ではプエルトリコ海溝という名称が示されていないかも知れないが、プエルトルコの北岸に沿ってプレート境界がみられ、深い溝状の低地は形成されている)。

(*)プレート境界に形成される溝状の低地のうち、水深が6000mまでのものが「トラフ」、それを越えると「海溝」になる。この2つは同じ地形であると考えていい。いずれもプレートの「沈み込み」帯に形成。なお、海溝の中でもとくに深くなっている地点を「海淵」という。マリアナ海溝の中にあるチャレンジャー海淵は海水面より10000m以上低い。

 

 

[20][インプレッション]おっと、気候グラフですね、しかもオーソドックスな雨温図。ん?7月の気温が高い北半球バターンと1月の気温が高い南半球パターンが混在し、さらに気温年較差の小さい赤道直下型も。これ、簡単なんちゃうの?(笑)気温変化だけみれば解ける問題のようにも思います。もちろんケッペンみたいな小難しいネタは不要ってわけですね。

 

[解法]気候グラフの判定だが、コツは「気温」のみ注目すること。「降水量」はひとまず無視していい。

A〜Dの点を確認。赤道の位置はわかるかな?マレー半島の先(つまりユーラシア大陸は完全に北半球側にあるってこと)、カリマンタン島の中央、ニューギニア島の「頭」の先(西部の半島が頭、東部の半島が尾である動物のように見えるよね)を通過。

AとCが北半球、BとDが南半球。北半球は7月の気温が高く、南半球は1月の気温が高い。南半球のBとDは、グラフの①と④のいずれかになる(残った②と③がAとCのいずれか。ただし判定は必要ない)。

BとDは緯度がほぼ同じである。気温を決定する要因として最も大切なものは緯度だったね。緯度によって太陽からの受熱量が決まり、それによって気温の高低が生じる。

グラフの①と④の参照。年間の平均気温はどんなものだろう。①は暑い時期で30℃近く、寒い時期で10℃ほどなので、年間の平均気温は約20℃か。④は暑い(というか夏にしてはかなり涼しいが)月で20℃ほど、寒い月で10℃ぐらい、年平均は15℃程度だろうか。あれ?これはどうしたことだろう?緯度がほぼ同じ2地点間でこれほどまでに気温が違うとは。標高の違い?でもオーストラリアは全体的に標高は低く、とくに西部は安定陸塊の低地が広がっている。むしろ新期造山帯であるニュージーランドのDの方が(パッと見た感じでは海岸に沿っているように思えるが)実は標高が高かったりして?これ、全然わからないよね。

というわけで、ここは素直に「大陸性気候」「海洋性気候」で解くことにしょう。中緯度地域においては(*)海洋性気候と大陸性気候の違いが顕著となる。例えば海洋性の気候がみられる西ヨーロッパは、海流や偏西風影響で寒暖の小さな気候となり、気温年較差(最暖月と最寒月の月平均気温の差)は10〜20℃程度に過ぎないが、ユーラシア大陸の内部ではその値は30〜40℃に達する。倍以上の差があるとみなしていい。

明らかに海に接し「海洋性気候」と考えられるDでは気温年較差は小さいだろう。Bは、世界全体の地図でみれば海に近いようにも見えるが、しかしこれはオーストラリア大陸が巨大であるためそう思えるだけで、実際かはかなり海から離れている。日本列島と比べてみればいい。海岸とBとの距離は、日本列島に当てはめてみれば本州の幅とさほど変わらない。「大陸性気候」とみなし、気温年較差は大きい。①をB、④をDと判定し、④が正解となる。

降水量については全く見る必要はないだろう。気候グラフ問題は「気温」を絶対的なものとして考える。

(*)ただし、単純に「大陸性気候は気温年較差が大きく、海洋性気候は小さい」と覚えては危険。赤道周辺の低緯度地域においては、そもそもの気温年較差が小さいのだから、大陸内部であってもさほど年較差が大きくなるわけではない。例えば、赤道直下の地域では沿岸部だろうが大陸内部だろうが気温年較差は0℃である。海陸分布による気温年較差の大小を意識するのは中緯度から。緯度35°付近ならば、気温年較差は東岸の東京で20℃、西岸のサンフランシスコで10℃、大陸内部の中央アジアで30℃という感じになる。「西岸<東岸<内陸部」という公式もぜひ知っておこう。(終了)

 

 

[21][インプレッション]おっと、農産物統計の問題じゃないですか。これまたベタな。第2問では米の統計がありましたよね。「コプラ」という作物がちょっと聞き慣れないかも知れないけれど、センター地理ではむしろ頻出の部類。これ、絶対チェックしておかないと。それよりむしろ「茶」と「サトウキビ」の判定で迷うかも知れませんね。僕はあの国で決めましたが、君たちは何を決め手とするだろうか。感覚的に解いちゃっても全く問題ないとは思いますが、統計的な裏付けも重要になっていると思います。

 

[解法]農産物の統計問題。極めてオーソドックスなので、確実に解答しないといけない。

まず「コプラ油」から。注釈にもあるように「ココヤシ」や「コプラ」と関連した生産物である。コプラの統計はマストなので、「データブック オブ・ザ・ワールド」などで確認しておくこと。ココヤシは熱帯の高温多雨の自然環境に適応する樹木で、沿岸部の砂浜海岸によくみられる。我々が一般的に「ヤシの木」と聞いて思い浮かべるヤシがこれであり、ヤシの実もイメージがしやすいと思う。このヤシの実の胚珠を乾燥させたものがコプラであり、これから油脂が得られる(コプラ油)。コプラの生産が多いのは、1位フィリピン、2位インドネシアである。カが「コプラ」。なお、最近のセンター試験で「ココナッツの生産1位インドネシア」という話題が出たことも。ココナッツはもちろんココヤシの果実。

さて、問題はここから。茶もサトウキビもいずれもメジャーな作物だが、この東南アジア/オセアニア地域はいかように栽培されているのだろうか。正確なデータをパッと言える人は少ないと思うよ。

もちろん2分の1の確率でもあるし、カンで決めてしまってもいいと思う。例えばオーストラリア。キではある程度の生産量はあるようだが、クでは円が描かれていない。これを頼りに判断してしまってもいい。

ただ、せっかくなのでここをチェックして欲しいってとこがあるんだなぁ。それは「タイ」。これ、知っておいていいと思う。

どうかな、みんなにはサトウキビとパイナップルの栽培地域が重なるイメージはあるかな。日本でも南西諸島や沖縄ではサトウキビとパイナップルが栽培されている感じがしない?世界的にみれば生産量は多くないだろうけれど。

中国の最南部、南シナ海に面しベトナムと近接する地域が「華南」というのだけれども、温暖な亜熱帯気候がみられ、ここはサトウキビとパイナップルの生産が盛ん。華南にはコワントン(広東)省が含まれ、広東料理の代表に酢豚があるね。パイナップルが食材として使われているが、パイナップルには肉の柔らかみを増す効果があるんだそうだ。

パイナップルもサトウキビもともに高温多雨の熱帯・亜熱帯気候(*)に適するものだが、とくに雨季と乾季のある気候に対応する。乾季を乗り切るために雨季の間に体内に糖分を蓄える。こうした「甘み」の強い作物は雨季と乾季の明瞭な気候下でとくに栽培されやすい。

この「熱帯・亜熱帯&雨季と乾季」に該当する地域が、中央アメリカ・カリブ海地域であり、東南アジア半島であり、そしてブラジルである。中央アメリカ・カリブ海地域ではキューバを始め多くの国でサトウキビのプランテーションが開かれ、そして中央アメリカのコスタリカは今や世界最大のパイナップル生産国である(こんな小国が世界ランキング1位なんて極めて例外的!)。

そしてタイとブラジルである。両国ともサトウキビとパイナップルが盛んに栽培されていることをぜひ知っておこう。ブラジルはサトウキビに生産において世界1位、パイナップルは世界( )位。タイはサトウキビが( )位、パイナップルが( )位と、とくにランキングが高いわけでもないが、知っておくと非常に有利。本問においてもその知識が有効に使われる。キとクにおいてタイの値が大きいキこそ、サトウキビの生産量も該当するのだ。①が正解。

サトウキビと茶については他の判定法もあるので、各自最もしっくりくるものを取り入れたらいい。例えば茶についてはアジアに世界全体の生産の80%が集中している。アジア以外での茶の栽培は極めてレアなのだ。ケニアにイギリス植民地時代に開かれたプランテーションがみられる程度。オーストラリアで茶の栽培が行なわれているとは思えず、クが茶となる。

またオーストラリアの北東岸(グレートバリアリーフの沿岸)は植民地時代よりサトウキビの栽培が始められたプランテーション農業地域。サトウキビはオーストラリアでも一定の生産量があると思われ、キがサトウキビとなる。

おもしろいと思うのはフィリピン。この国って茶の栽培はほとんど行なわれていないのですね。コプラ油やサトウキビ、そしてバナナといった商品性の高い作物の栽培が中心で、茶のような自給性の高い作物の栽培はおざなりにされたということなのか。

(*)正式には「亜熱帯」という気候帯はない。ケッペンの気候区分では温帯に区分される地域であっても、沖縄諸島や中国華南は明らかに一般の温帯とは異なり、動植物の分布も熱帯に近い。これらを「亜熱帯」と便宜上呼んでいるだけだと解釈して欲しい。(終了)

 

 

[22][インプレッション]鉱産資源の分布に関する問題って難しいんですよね。人口や気候といった他の要因との関係性が薄く(例えば米や小麦ならば、人口が多い国で生産が多いのではないかという予想は成り立ちますよね)、あえて言えば地形との関係なのですが、それにしても「古期造山帯=石炭」程度の大雑把なものであるし、しかもそのセオリーですらあまり当てにならない。世界最大の古期造山帯であるウラル山脈では石炭は産出されませんし。

その中で唯一例外ともいえる鉱産資源がボーキサイトなんですよね。アルミニウムの酸化物を含む鉱物で熱帯に分布します。降水量が多い地域で土壌中の有機養分が流出し、地表面には金属が残されます。その金属はやはり大量の降水によって酸化し、酸化鉄や酸化アルミニウムとなります。ボーキサイトはその酸化アルミニウムを含む鉱物ですよね。熱帯は低緯度地域に広くみられ、「熱帯=低緯度=ボーキサイト」と考えていいと思います。

 

[解法]鉱産資源の分布を地域(大陸)ごとに示した問題で、これと似たパターンは共通テスト試行調査でも問われていた。難易度の高い統計で今後最作が必要になるかも。

選択肢となる鉱産資源は4つ。すず、鉄鉱石、ニッケル鉱、ボーキサイト。例えばよく知られているところでは、ニッケルの重要な産出地域としてニューカレドニア島がある。オーストラリア大陸の東方に浮かぶサンゴ礁に囲まれた島。「オセアニア(オーストラリアを除く)」に該当するわけで、この値が「9.3」と高い②がニッケル鉱とみていいだろう。

ただし、ここからが難しい。ポイントは何と言ってもオーストリア。オーストラリアは世界最大のボーキサイト産出国であると同時に、世界有数の鉄鉱石産出国である。いずれの輸出量も多い。

なるほど、オーストラリアの値が高い選択肢に③と④があり、これがボーキサイトと鉄鉱石だろう。残った①がすず。

問題はここから。さて③と④のうち、どちらがボーキサイトでどちらが鉄鉱石だろう?非常に悩むところだが、ここからは「理論」に基づいて解いていこう。「科学的思考」が重要なのである。

ボーキサイトの化学式は「Al・HO」。酸化アルミニウム(アルミナ)を含む物質で、これを精錬することでアルミニウムが得られる。ボーキサイトは熱帯地域に分布する。熱帯は降水量が多く、土壌中の有機養分が流出する一方で、(水に溶けない)金属が地表面に残存する。熱帯の土壌であるラトソルは、酸化鉄や酸化アルミニウム(つまりボーキサイト)によって表面が覆われている。

「ボーキサイト=熱帯」と考えるならば、東南アジアのとくに島しょ部においてボーキサイト資源が乏しいことがあるだろうか。インドネシアやマレーシアでは高温多雨の熱帯気候の範囲が広く、もちろん土壌はラトソルである。これらの国々でボーキサイトの産出が多いことは十分想像できる。③と④を比較し、③は「11.8」、④は「0.2」。どうだろう?③をボーキサイトとみて妥当ではないか。これが正解である。

一方の④が鉄鉱石であるが、オーストラリア1国だけで世界全体の「34.7」を産出しているのがかなり意外。鉄鉱石は中国、ブラジル、オーストラリアが産出上位を競っており、それぞれの産出量は拮抗しているはずなのだが。ただ、東南アジアや他のオセアニア地域で鉄鉱石の産出国がみられないのは確実。「0.2」や「0.1」といった極めて低い値になっているのは納得なのだ。

農産物や工業製品に比べ、鉱産資源の統計はマイナーで学習の盲点になっている受験生も多いと思う。しかし、実はダイレクトに統計がそのまま出題される頻度が高いのも鉱産資源の統計なのだ。この機会にしっかり確認しておこう。(終了)

 

 

[23][インプレッション]ラオスって!? 驚いた人もいるかも知れませんが、でもラオスって( )年の問題で登場しているんですよね。センター試験は「同じ国は連続して出る」傾向が強く、ラオスも一回取り上げられたので、今回十分に再登場は予想できた。

もっとも、東南アジアは国の数が少ないので(10カ国)、ラオスやカンボジアのようなマイナーな国でも知っておかないといけない。これはアフリカ(50カ国)やヨーロッパ(40カ国)ではマイナー国はほとんど話題にもならないんですけどね。東ティモール合わせても11カ国である東南アジアの宿命みたいなもんでしょう。

さて、問題のテーマは貿易。国の経済規模(GNIの大きさ)と貿易額がおおよそ比例することがわかれば難しくない問題だと思います。ここでも中国の値が圧倒的なのです。

 

[解法]貿易に関する問題。世界全体の貿易ではなく、あくまで特定の国同士の貿易であるけれど、さほど複雑に考えなくていいんじゃないかな。貿易額と経済規模(GNI)が比例することを頭に入れておこう。

候補の国は4つ。全てブラインドとなっている(国名が隠されている)のが厳しいかな。この手の問題では、1か国だけオープンになっていて、他の3つを特定するというパターンもよくあるよね。

ただ、オーストラリアだけを当てればいいから、そこは楽だと思う。オーストラリアは先進国(1人当たりGNIが高い)であるが、主な輸出品目は鉱産資源や農産物。国内市場が小さい(人口が小さい)ので輸入は多くなく、「輸出>輸入」のバランスであることが想像できる。とくに世界有数の鉄鉱石の輸出国なのだが(鉄鉱石の生産量が多いことは問4でも取り上げられている)、一方で中国は世界最大の(そして圧倒的な)鉄鉱石輸入国。この図において「オーストラリア→中国」という大きな貿易の流れはあるはず。

図中で目立つのは「61012」。サからスへの輸出額。例えば、これをオーストラリアから中国への鉄鉱石の輸出と考えてみようか。つまりサがオーストラリア、シが中国。これで矛盾はないだろうか。

シで目立つのはスとの貿易額も大きく、4カ国間の貿易において、最大の貿易額を誇るのはシであるという点。世界2位の経済規模(GNI)を有し、アメリカ合衆国と並んで貿易額も世界最大レベル。この4カ国中でも間違いなく貿易額は最大である。シを中国とみるのは妥当である。

サはオーストラリアで問題ないだろうか。サについてはシとの貿易額に比べ、スやシとの間の貿易はさほど盛んではない。タイなどはオーストラリアと比較的距離も遠く、経済的なつながりはさほど強くないのだろう。納得できる数字である。オーストラリアをサと判定し、①が正解。

スとセについては判定の必要なし。おっと、ラオスは登場したけれど、ラオスのことを考える必要はなかったね。(終了)

 

 

[24][インプレッション]ラストは宗教に関するネタですね。バリ島とはちょっとマイナーなネタにも思えますが、知っておいていいと思いますよ。東南アジアは国の数が少ないだけに、ちょっと深いところまで問われることがあります。気をつけないといけませんね。

 

[解法]

東南アジアの旧宗主国・宗教・言語について整理してみよう。

 

 

旧宗主国

宗教

言語

フィリピン

スペイン

アメリカ合衆国

カトリック

(南部はイスラーム)

英語

ピリピノ語

ベトナム

フランス

仏教(大乗)

・・・

ラオス

フランス

仏教(上座)

・・・

カンボジア

フランス

仏教(上座)

・・・

タイ

(独立を維持)

仏教(上座)

タイ語

ミャンマー

イギリス

仏教(上座)

・・・

シンガポール

イギリス

(多様)

マレー語

英語

中国語

タミル語

マレーシア

イギリス

イスラーム(国教)

マレー語

ブルネイ

イギリス

イスラーム

・・・

インドネシア

オランダ

イスラーム

(バリ島はヒンドゥー教)

インドネシア語

東ティモール

ポルトガル

カトリック

・・・

(言語の・・・はテストでは出題されないので知る必要はない)

 

・フィリピン・・・まずスペインに占領され、やがてアメリカ合衆国の支配となった。宗教カトリック、公用語英語という世界的にも稀有な国。このため、出稼ぎが多い国となっている。かつて日本に「興行」を名目として多くの女性がやってきた。ホンコンやシンガポールに家政婦やベビーシッターとして出稼ぎに出る女性も多い。

・ベトナム・・・インドシナ半島の東部はフランス領となった。ベトナムでは茶以外にコーヒーが一般的に飲まれている。宗教は大乗仏教。これは北伝仏教とも呼ばれるもので、陸伝いで中国に伝わり、そこから東アジア地域やベトナムに広がった。世界で大乗仏教が主である国はベトナムと日本のみ。

・タイ・・・インドシナ半島中央部を占め、東部のフランス勢力圏と西部のイギリス勢力圏との間の緩衝地(クッションのように、両者の間に対立を和らげる)となり、独立を維持した。宗教は上座仏教。南伝仏教と呼ばれ、海沿いに伝えられた。

・マレーシア・・・イギリス植民地時代に鉱山(すず)やプランテーション(天然ゴム)の労働力として中国人やインド人が流入し、現在は多民族国家となっている。しかし、マレー系住民を優遇するブミプトラ政策が施行され、マレー系住民に対する公的な支援が行なわれている。公用語もマレー語のみ、宗教もイスラームが国教とされている。もちろん中国系住民は中国語を母語とし、仏教や儒教、道教を信仰しているし、インド系住民はタミル語(彼らの出身地であるインド半島南部の言語)を母語とし、ヒンドゥー教を信仰している。多民族国家であり本質は多言語国家なのだが、あくまで公用語は一つ。

・シンガポール・・・太平洋戦争後にマレーシアの一部としてイギリスの支配から離れた。やがてマレーシアとも連邦を解消し、独立国となる。住民の4分3は中国からの移民の子孫で中国系。「中継貿易港」を有する国際都市として、マレーシアとは別の路線を取る。公用語は、マレー語と旧宗主国の言語である英語の他に、移民の言語である中国語とタミル語も。

・インドネシア・・・マレーシアを含む東南アジア島嶼部はイスラーム地域である。かつて香料交易で栄え(インドネシア東部のモルッカ諸島は「香料諸島」と呼ばれる)、アラブ商人たちが盛んに訪れたことでイスラーム化された。やがてイスラームの勢力が衰え、ヨーロッパ人が世界を支配する時代になると、香料交易ルートはオランダの治めるところとなり、インドネシアもその植民地となった。しかし、オランダは植民地経営には積極的でなく、言語や宗教は従来のものが維持された。インドネシアではオランダ語は公用語ではなく、現在は共通語であるインドネシア語の全国的な普及に尽力している。イスラーム人口は世界最大。

 

ここで重要になるのはバリ島。インドネシアの中央に位置する人口最大の島であるジャワ島(面積はさほど大きくないが)の、東に隣接する小島である。風光明媚な火山地形、美しいビーチで知られる島であるが、港湾を持たず、商人たちには無視されている。アラブ商人の寄港地とならなかったことでイスラームが広まらず、元々信仰されていたヒンドゥー教が残された(イスラームは比較的新しい宗教であることに注意。東南アジアの広い地域はイスラーム成立以前は、ヒンドゥー教が広まっていた)。インド以外では極めて珍しいヒンドゥーの島なのだ。イスラーム地域ほど厳格な制約があるわけではなく(飲酒など)、リゾートを楽しむ観光客にとっては魅力的な土地となっている。ガムランやケチャなど祭典を楽しむ民族音楽も豊かである。

選択肢①に注目。「バリ島では、ムスリムが人口の多数」とある。インドネシア全体ではほとんどがムスリム(イスラム教徒)であるが、バリ島はその例外。本選択肢が誤文で、正解となる。

 

他の選択肢については検討の必要はないが、一応確認してみよう。

②について。オーストラリアでは独立以降「白豪主義政策」が長い間実施されてきたと認識しておこう。実はオーストラリアは妙な国で、実は正式に独立は果たしていないんだそうだ。独立宣言のような明確なものがあったわけではない。イギリスの植民地支配から脱した1900年頃をとりあえず独立年として考えておけばいいと思う。この時点ですでに白豪主義政策はオーストラリア社会の中心にあった。

白豪主義政策で知っておくべきことは2点。一つは「移民の制限」。ヨーロッパ系白人以外の移民は原則として禁止されていた。19世紀にオーストラリア大陸で金鉱が発見された。この独占をもくろむヨーロッパ系の人々は、中国などアジアからの移民を禁じた。

もう一つは「先住民の迫害」。オーストリアの土地と資源を奪うため、ヨーロッパ系の為政者は先住民であるアボリジニを狭い居留地に封じ込めてしまった。

白豪政策は1970年代に撤廃される。きっかけはイギリスのEC(現在のEU)加盟。それまではドイツやフランスなどの大陸諸国とは距離をとり、オーストラリアを始めとする旧イギリス植民地との関係を重視していたイギリスだったが、EC加盟によって他ヨーロッパ諸国との連携に方向転換し、一方で旧植民地の国々との関係性は薄れた。

オーストラリアも環太平洋地域とくにアジア地域との経済や人的交流を活性化させるために政策を転換し、白豪主義に関する法律は撤廃された。戦争によって生じたインドシナ難民流入に端を発し、「白人」以外の移民の受け入れが開始された。先住民のアボリジニの権利も復活し、土地は彼らに返還され、そして居留地を離れ都市生活を送るアボリジニも現在は多い。

とくに近年のオーストラリアでは多文化主義が標榜される。近年はとくに中国の富裕層の移民が増加している。東欧からの移民も多く、多くの言語に対応すべく、多言語放送も行なわれている。

③について。シンガポールの公用語は、マレー語、英語、中国語、タミル語(インド南部の言語)の4種類。とくに公的な場では英語が主に使われている。

④について。上の表にあるように、ベトナムの旧宗主国はフランスである。