1999年度地理A追試験解説
たつじんオリジナル解説[1999年地理A追試験] |
(カテゴリー1;地理A的な問題。単なる用語の意味を問うもの。民族宗教についての難問。意味不明の問題)5
(カテゴリー2;地理A的ではあるが、地理B的な解き方もできる。本来なら地理A的な知識問題としてつくられているのだろうが、地理B的な視点もある)3・4・9・20
(カテゴリー3;地理Bで出題されてもおかしくない。ただしその場合はちょっと妙な問題だなという印象は残る。地理B的な知識問題)1・2・6・7
(カテゴリー4;完全な地理B問題。思考問題になっている)8・10・11・12・13・14・15・16・17・18・19・21
第1問 民族宗教ネタはいかにも地理A的。それ以外にも地理A特有の出題が目立つ。問3や問4などははっきりとした決め手がなく、最後はカンで解かざるを得ない。明確に答が出る地理Bの問題とは異なる。
問1 Xの地域はアンデス山脈。かつてインディオによるインカ文明が栄えた地域。現在でもペルーやボリビアでは人口におけるインディオの占める割合が高い。
問2 ラテンアメリカの民族構成は頻出であるのでまとめておこう。ポイントとなる国は限られている。
白人・・・ウルグアイ・アルゼンチン
インディオ(黄色人種)・・・ペルー・ボリビア
黒人・・・ジャマイカ・ハイチ
メスチソ(白人とインディオの混血)・・・メキシコ・チリ・パラグアイ
かつてインカ帝国が栄えたペルーやボリビアでは、スペインには支配されたものの、現在でも国民の半分くらいは先住民族インディオである。
ラプラタ川の河口は三角形に沈降しており、天然の良港となっている。ヨーロッパからの移民がとくに多く流入し、ラプラタ川に沿う2つの国ウルグアイとアルゼンチンはほぼ100%ヨーロッパ系白人の国である。
ペルー・ボリビアとウルグアイ・アルゼンチンに隣接するチリ・パラグアイでは、とくに混血が進み、国民のほぼ全員がメスチソである。
ラテンアメリカのほとんどの地域はスペインかポルトガルによって植民地化されたが、一部に異なるところもある。ジャマイカは旧イギリス領であり、ハイチは旧フランス領。英仏ともにブラックアフリカに広い植民地を持つ国であり、カリブ海に浮かぶジャマイカやハイチにもアフリカから黒人が送り込まれた。このため両国は現在でも国民のほとんどが黒人である。ジャマイカの音楽レゲエ、ハイチの宗教ヴードゥー教(呪術による宗教)はともにアフリカ文化の影響を大きく受けている。
これ以外にメキシコをメスチソの国と押さえておく。アステカ文明が栄えた国であるが、ヨーロッパからの移民も多く受け入れ、混血が進んだ。
以上が大まかな分け方。しかし実際にはもっと複雑に混血が進み、黒人と白人とインディオという3つの人種の血が一人の体に流れているなんてことも多いだろう。それにブラジルなどには日系人も多いわけで、必ずしも上記のような分類は適切ではないように思う。
とりあえず問題自体はウルグアイとハイチだけ知っていれば解けるので容易だろう。ブラジルについては巨大な国であり、より複雑な民族構成になっている(というか分類不能なのではないか?)ため、全体としては各人種・民族の割合は平均化されると考えよう。ただし、おそらくウルグアイに近い南部は白人、ペルーにつながるアマゾンはインディオ、カリブ海に近い方には黒人が、それぞれ多いことは想像できる。
問3 ちょっと妙な問題。
1;メキシコはNAFTAの一員。米国やカナダとの間で自由貿易が実現しており、物の移動が自由。米国からメキシコの安価な労働力を求め、多くの労働集約型工業(労働力を多く用いる工業。とくに機械組立工業)の工場が進出してきている。そのほとんどは米国との間の交通の利便を考え、国境沿いに立地している。
2;これはわからない。不明。
3;鉄鉱石産出統計と鉄鋼(粗鋼)生産統計を確認。ともにブラジルは上位にランクインしている。
4;ベネズエラはOPECに加盟する産油国。石油精製工業があってもおかしくない。
1と3は正文であると思われるので、答は2か4となる。決め手はないのだが、ボリビアはせいぜいスズ鉱の産出がポイントとなるくらいの国なので、エレクトロニクス産業については大きなクエスチョンである。2を誤りとする。ただ、清浄な空気に加え、水もきれいだろうし、もちろん労働力は安価であるので、今後近い将来こういった工業が成立する可能性はある。
問4 北ヨーロッパ平原(ドイツやポーランド)を中心としてジャガイモが広く栽培されている。ライ麦やカブなどと輪作され、食用となる他、家畜のエサとして利用されている。
写真からジャガイモを探す。しかし僕にはよくわかりません(涙)。
問5 これは難しい。ただし生活や食文化に関係した問題であるので、地理Bではこのようなパターンはないだろう。
2;野球は米国で生まれた。
3;ジャズも米国の音楽。南部のニューオーリンズなどが有名。奴隷として連れて来られた黒人の文化と米国の文化が融合して生まれた。ブラジルの音楽はサンバであるが、これは黒人とは関係ない。
4;よくわからないのだが、ハンバーガーも米国文化だと思う。それにアルゼンチンにドイツ系移民が流入したのだろうか。
問6 インドを植民地支配したのはイギリス。インドネシアを植民地としたのはオランダ。スリナムはオランダの植民地だったのでインドネシアから人が送られたのだろう。
第2問 ほぼ完全な地理Bの問題として通用するだろう。
問1 図1のようなノコギリ状に入り組んだ海岸線をリアス式海岸という。山地が沈んで形成された深い入り江が連続し、天然の良港となる(ただし氷河地形であるフィヨルドとは完全に区別しておくこと。フィヨルドの方が入り江が深く、谷もU字型でさらに深い)。スペインの北西部に典型的にみられ、名称はこの地方名に由来する(リア地方というのだ)。日本では三陸海岸、志摩半島、若狭湾など。
1;正文。山がちな地形であり、大きな都市は立地しにくい。福井県の若狭湾岸は原発銀座といわれるほど原子力発電所が集中しているところだが、豊かな農業地域でも大都市が位置する商業地域でもないのだから、このように原発を誘致するなどして、財源にすることが必要となる。
2;正文。周辺の山地が天然の防波堤になって波が防がれる。台風などの強風も防ぐ。ただし、津波(海底地震による波動エネルギー)はかえってこのような狭い入り江に集中することになり、その被害は極めて大きくなるのだが。
3;正文。三陸海岸の南部に位置する松島は日本三景の一つ。伊勢志摩の海岸線も国立公園に指定されている。
4;誤文。山地が沈降した地形。河川によって刻まれたV字型の断面を持つ谷が海に沈んで入り江となっている。石灰岩とは関係ない。
石灰岩はセンター頻出。火山活動や地殻変動の激しい地域に分布するという特徴がある。ヨーロッパの地中海沿岸に分布する土壌テラロッサは石灰岩の風化土壌。同じく旧ユーゴスラビアのカルスト地方は石灰岩の溶食地形で有名。日本では山口県の秋吉台や福岡県の平尾台など。水に溶け、そして固まるという性質を利用して、セメント工業が成立。
問2 これはちょっと難しいかな。複雑な海岸線を持つのはどこか。
問3 オーソドックな地形図読図。良問。
1;山地は広葉樹が主であるが、一部に針葉樹もみられないことはない。しかしこれが製紙や家具製造に用いられているか。この付近に工場(の地図記号)はみられない。
2;「三陸海岸」というのは岩手県から宮城県北部まで。東北地方なので、はたしてミカンの栽培は可能か。果樹園も土地利用記号も見当たらない。
3;沖積平野とは河川沿いの平野。堆積平野の一種。広い意味では河川の堆積作用によって形成された平坦な地形全てを含み、扇状地、氾濫原(扇状地と三角州の中間にみられる平地。平坦な地形であるため河川は蛇行し、洪水の被害をしばしば及ぼす。自然堤防帯ともいう)、三角州などがある。狭い意味では、厳密には緩やかな斜面であり平地とはいえない扇状地は除外し、氾濫原と三角州のみを指す。日本地理においては普通、狭い意味の方で用いられることが多い。
Bという文字の下部にかかるように河川の線があるのだが、わかるだろうか。実際の地形図ならば青い線となっていてわかりやすいものの、センター試験の白黒印刷では何とも判別しにくくて困ってしまうのだが。
この河川によって形成されたと思われるのが、吉浜や中井の南に広がる低地。ここの土地利用記号は水田であり、選択肢の文章と一致する。
山ろくの傾斜地には畑の土地利用記号もみられ(エの矢印の先など)、本選択肢は正文である。
4;図の北東部に港はみられるが、遠洋漁港ならもっと大きな港になるのではないか。また、大規模な工場らしきものもみられない。
問4 これは簡単。右下の海岸部分に注目。
問5 前述ように、深い入り江は風による高波は防げるが、海底地震による津波には弱い。威力を集中される結果となる。
本問については単純に最も標高が高い地点を選ぼう。それにしても26メートルの高さの波とは我々の想像を超えている。
問6 1;等高線から判断して、家屋は標高20m以上の土地に集まっているようだ。
2;家屋の周りに林があるのならば、建物を表す黒い四角の周りが薄いグレーで囲まれているはずである。00A本第2問図2がわかりやすい。これは屋敷森(屋敷林)である。
3;主要道路としてはグレーに色づけされたものを見るといい。これは国道なのだが、たしかに高いところを通っている。鉄道はそれよりは標高が低いものの、これも高台とみていいだろう。少なくとも低地というわけではない。Aの西方で低地部分を横切っているが、ここは鉄道の周りに斜面がみられ、この部分だけ盛り土が施され、やや高くなっている様子が読み取れる。津波や水害を防ぐ工夫がされている。
4;沖合30mとある。この地形図の縮尺は25000分の1なので、30mならば1.2mmで表されることになる。海岸から1.2mm離れたところに沿って防波堤はみられるだろうか。イやウのところに海に突き出た黒い棒状のものがあるが、これは船着場だろう。さんばしと思われる。
5;BとCの間に、北東から南西にかけて、何かがある。Ⅱ東側が垂直な壁となっており、西側は斜面。盛り土状になっており、もちろん「土」ではなくコンクリートで固めたものかもしれないが、とにかく周囲より高い人工物が造られているのは確かである。これが防潮堤であろう。これにそって針葉樹も植えられているようで、これにも波や潮の勢いを和らげるはたらきがある。
第3問 人々の移動は地理Bでも頻出ネタ。さらに本大問には興味深い問題も多い。
問1 人間の移動は金で説明がつく。金があるところ、つまり仕事があって高い賃金が得られるところに、人は吸い寄せられていく。とくに現代はこの傾向が強い。貧しい労働者が金を求めて移動するというセオリー。
1;「農業」はもうかる仕事ではない。どうせなら金がもうかる工業の方がいい。
3;「工場を経営」するほどの金持ち(資本家)がわざわざ移動するだろうか。移動するのは(移動せざるを得ないのは)常に貧しいものばかりである。
以上のように1と3は簡単に消せる。2と4についてはあるキーワードに注目。それは「一国二制度」。これは現代中国を表す言葉。中国は社会主義国である。80年代以降は改革開放が促進され、むしろきわめて「資本主義」的な国になってしまっているのだが、建前としてはあくまで社会主義を貫いている。ただし90年代に返還されたホンコンとマカオについては、完全な資本主義地域となっている。イギリスとポルトガルの植民地であった時の経済原理が維持されているのだ。このことにより中国は世界でもきわめて珍しい(というか唯一の)社会主義と資本主義が混在する国となり、これを「一国二制度」という。選択肢4参照。一国二制度はドイツを表すキーワードではない。よってこれは誤り。東ドイツはかつては社会主義国であったが、東西ドイツ統一(実際には西ドイツが東ドイツを併合した)後は、西ドイツと同様の経済システムを導入した。つまり資本主義化した。
問2 簡単に消せるのは3。現代の移動が農業目的ということはない。4も怪しい。ドイツは産油国なのだろうか。そんなことはない。1についてはドイツの鉄鋼地帯としてルール工業地帯が頭に思い浮かぶが、これは南部なのだろうか。ドイツ西部、オランダとの国境に近い地域である。消去法により2が誤り。
問3 具体的な事例としてドイツ国内におけるトルコ人労働者を考える。
第二次世界大戦後の建設ブーム(60年代くらい)に国内での労働者不足を補うため、ドイツ政府は外国から積極的に労働者を募った。とくにトルコなどからの流入者が多かったのだが、彼らはよく働き、ドイツの繁栄を支えた。しかし70年代のオイルショックにより世界経済が停滞すると、ドイツでも経済成長は止まり、同時に多くの失業者が街にあふれた。とくに外国人労働者が真っ先にクビを切られ、彼らは路頭に迷う。今さら母国に帰るわけにもいかず、都市内に民族地区(トルコ人地区など)を形成し、そこで貧しく差別された生活を送りつつ現在に至る。
1;石油危機時には母国への帰還を命じられたが、実際にはドイツ国内にとどまり、そこで再び雇用を探した。また80年代90年代もかつてほどではないが、外国人労働者の流入は続く。
2;キリスト教(プロテスタント)で白人(ゲルマン系)のドイツ人からみれば、黄色人種でイスラム教徒であるトルコ人は敵以外の何者でもない。現代でもみられる激しい対立と民族差別。
3;貧しい移民が現地で成功して、経済的に大きな力を得た例としては東南アジアの中国系住民などがあるが、それはかなり特殊なケース。普通はそこまで移民が優遇されることはない。
4;トルコは西アジアの国である。
問4 ベッド数はどうでもいい。GDPに注目。これはGNPと同じもの。1人当たりGNPと人口との積によって求まる。計算してみよう。
ヨーロッパの主な国の人口を挙げてみる。ドイツ8千万、イギリス・フランス・イタリア6千万、スペイン4千万。それに次ぐのがオランダの1500万で、それ以外の国は1000万あるいはそれに満たない程度。
1人当たりGNPは、北欧の国で高く(30000$/人以上)、フランス・ドイツ・イギリスで25000$/人、イタリアで20000$/人、スペインで20000$/人。
この2種類のデータより、その積であるGNPを考えよう。イギリスはイタリアと人口が同じで、1人当たりGNPにもあまり違いはないので、GNPもほぼ等しくなる。このことから図2のDがイギリスに該当。スペインは人口がイギリスの2/3、1人当たりGNPもほぼ2/3。よってGNPはイギリスの半分程度ということになる。これよりCがスペイン。
残ったAとBについては、どちらがどちらなのかははっきりしないが、オーストリアとスウェーデンである。人口が少ない国なので、GNPもあまり大きくない。
問5 1;イタリアの北部国境はアルプス山脈である。正文。
2;ローマの位置がポイント。イタリア半島中央部西岸に位置。半島を脚とみなせば、ひざの部分に当たる。都市全体が遺跡ともいえるローマへの観光客もやはり多い。
3;イタリアの大原則は「北高南低」。工業がさかんで経済レベルも高い北部、貧しい農家が多く経済レベルの低い南部。
4;西海岸は偏西風の風上斜面になるのだから降水量が多いはずである。
というかこの選択肢そのものが全くのデタラメ。アドリア海はイタリアと旧ユーゴスラビアの間であり、この海に面するのは「東海岸一帯」。また、海水浴を楽しむような季節(つまり夏)には南ヨーロッパ一帯は中緯度高圧帯におおわれ、偏西風の影響は少ない。乾燥する。
問6 フィジーというマイナーな国名が登場するので手ごわい。
この3つの国の中で、人口規模が最も大きいと思われるのはマレーシアである。グアムは米国領の小さな島であるし、フィジーはそもそも名前すらあまり知られていない国、たくさんの人口を抱えているとは思えない。このことから、絶対数としてたくさんの観光客を受け入れているAがマレーシアである。日本人の占める割合が小さいが、これはシンガポールなど近隣の国からの流入が大きいからではないか。
Bはグアムだろう。日本人からみておなじみの観光地であり、日本人が多そうだ。それに比べてマイナーなフィジーは数値が低いCであると思われる。
問7 なかなか難しい問題だと思う。ヨーロッパに位置し、日本とさほど関係の深くない国イタリアが4に該当する。これ以外の3つの国は、みな環太平洋地域に位置し、貿易など経済的な交流も活発であるため、判定は難しい。
オーストラリアの特徴は人口が少ないこと。1500万人で、韓国や台湾より少ない。このことから3をオーストラリアと考えていいのではないか。日本にやってくる外国人100人のうち、2.3人がオーストラリア人、そして海外に出かける日本人100人のうちオーストラリアが行き先である者は4.6人。これくらいの数字が適当ではないか。
1はとくに日本と近く関わりの深い韓国。残った2は台湾。