2002年度地理A本試験解説

2002年地理A本試験

(カテゴリー1)6・13・15

(カテゴリー2)1・8・10・11・14・16・18・21

(カテゴリー3)7・17・5

(カテゴリー4)2・3・4・9・12・19・20

 

(カテゴリー1;地理A的な問題。単なる用語の意味を問うもの。民族宗教についての難問。意味不明の問題)

(カテゴリー2;地理A的ではあるが、地理B的な解き方もできる。本来なら地理A的な知識問題としてつくられているのだろうが、地理B的な視点もある)

(カテゴリー3;地理Bで出題されてもおかしくない。ただしその場合はちょっと妙な問題だなという印象は残る。地理B的な知識問題)

(カテゴリー4;完全な地理B問題。思考問題になっている)

 

 

第1問 地名(シドニー)や固有名詞(メリノ種)などが問われ、地理B的な地誌問題との違いがはっきりしている。

問1 南回帰線はおよそ南緯23°。中緯度高圧帯の影響によって乾燥地域が広がっている。ちなみにオーストラリア大陸の北端は南緯10°、南端は南緯40°である。

問2 ブラジル・中国・オーストラリアでの産出がとくに多い鉱物資源は鉄鉱石。安定陸塊に分布する。オーストラリアでは北西部に鉄山が集中。

問3 オーストラリアは、かつては旧宗主国イギリスとの関係が深く、現在は環太平洋地域との交流がさかんで、とくに位置的に近いアジアと密接な関係を築き始めた。

Xはイギリス、Yが日本。そしてとくに現在急激な伸びを示しているZが日本以外のアジア。東南アジアなど。

問4 Dはク。低緯度に位置するので、年平均気温が高く、気温年較差も小さい。夏(1月)には赤道低圧帯の影響で多雨、冬(7月)は中緯度高圧帯の影響で乾季となる。

Eはキ。年間を通じ中緯度高圧帯の影響下にあるので降水が少ない。気温年較差が大きい大陸性気候。

Fはカ。気温は年平均で15℃くらいであり、3地点のうちで最低であるが、これは最も緯度が高いからであろう。冬には比較的降水が多いが、南下する中緯度高圧帯におおわれる夏季には少雨となる。このような夏季乾燥の気候を地中海性気候という。地中海性気候が現れる地域は重要。

問5 湿潤=牛、乾燥=羊。Pが牛で、Qが羊である。

説明文はカが牛で、シが羊。

フィードロットというのは集中肥育場のこと。子牛のうちは牧場で放牧し、ある程度成長したらフィードロットに移送し、集中的に飼料を与え、太らせてから食肉にする。かつては米国のコーンベルトのものが有名だったが、現在ではより放牧地に近い米国西部にも多くつくられた。もちろんオーストラリアにも多い。

メリノ種というのはスペイン原産の毛羊種。イギリス人によってオーストラリアに持ち込まれた。

問6 タはシドニー。2に位置。チはグレートバリアリーフ(大堡礁)。陸地からやや離れた浅い海にサンゴ礁が発達。

 

第2問 要領を得た良問がそろっている。基礎的な知識を確認するのに最適。

問1 カナダのケベック州はフランス系住民が多い。カナダは多言語国家の代表例で、英語とフランス語が公用語。

問2 スリランカとケニアは茶の生産国であり、世界的な輸出国である。イギリスの植民地時代にプランテーションがひらかれ、そこでは現在もイギリス輸出用の茶が栽培されている。

問3 サハラ砂漠の南縁に沿う草原地帯をサヘルという。砂漠化が進み世界で最も貧しい地域の一つであるが、この一帯はかつてフランスの植民地とされていた。現在でもフランス語を公用語として用いている国が多い。セネガルやマリなど。

同じ旧フランス植民地でも、アルジェリアなどアラブ国家ではアラビア語が公用語として制定されている。

また図1では旧ベルギー領のコンゴ民主も含まれているが、ベルギーではフラマン語(オランダ語)とワロン語(フランス語)が公用語となっており、その植民地であるコンゴ民主ではフランス語が公用語として採用されているのだ。

問4 表音文字というのは表意文字の反対。漢字は一つ一つの文字が意味を持っているわけで、表意文字なのだが、それに対してひらがなやカタカナは表音文字。東アジアの表音文字にはこれ以外に朝鮮半島のハングル文字などがあるが、いずれもヨーロッパからの影響で作られたわけではない。

問5 良い問題。カナダの貿易構造は出題率が高い。NAFTA加盟国であり、米国・メキシコとの間に自由貿易が実現している。このためカナダの貿易の80%は米国を相手とするもの。

4つの国を比べてみて、先進国といえるのはカナダのみ。このことから貿易額が大きい国こそカナダに該当すると考えていいだろう。4がカナダ。

イギリスの順位が3位となっている。1位は米国、2位は日本かメキシコだろう。米国に対する輸出額が圧倒的に大きいため、イギリス向けの割合はわずか1.5%となっている。

3はマレーシアだろう。東南アジア有数の工業国に発展し、1人当たりGNPも4000$/人に達する。輸出額も少なくないと思われる。イギリスの順位が6位であるが、上位には隣国シンガポールや日本、米国などがランクインしているのではないか。

1と4は不明。

問6 よくわからない。地理の問題というより現代社会の

問題だろう。4が正解である。ナショナルトラストという言葉だけ知っておくといいだろう。この活動はイギリスで生まれた。

問7 東西ドイツ統一は、実質的には西ドイツによる東ドイツの併合。旧東ドイツの社会主義的な考え方は今や消え去った。社会保障制度はもともと西ドイツで発達したもの。このような福祉制度は、経済レベルの高い国(1人当たりじGNPの高い国)でこそ成立しやすい。平均賃金が高い国だからこそ、高い税収が期待でき、それが公的な福祉に活用されるのだ。とくに1人当たりGNPの高い北欧の国に福祉の進んだ国が多い。

 

第3問 いかにも地理A的なクセのある問題が並ぶ。

問1 きわめて珍しい大圏コースを問う問題。98B本でも同じ問題が出題されており、過去問さえマスターしておけば、特別な勉強は必要ではない。

問2 交通ネタは地理A特有。

航空機の割合が高いのが米国。日本とドイツで迷う。「旅客」であるので、通勤電車が混雑する日本で鉄道の割合がイのように低いとは考えられない。アと日本とし、残ったイがドイツ。

問3 北から南への移動。1人当たりGNPの高いドイツやイギリスから、低いイタリアやスペインへの移動。かなり珍しいパターン。

2;就業ならばより賃金水準の高い国へと労働者は向かうはず。EU結成により労働力の移動が自由となったが、とくに近年はポルトガル(10000$/人)からフランス(25000$/人)への出稼ぎが増加しているそうだ。

3;留学も就業と同様、より高い経済レベルの国へと向かい傾向が強い。1人当たりGNPが高い国、つまり先進国の方にこそ、より学ぶべきことは多い。

4;紛争による難民は近隣の国に流出する傾向がある。とはいえ、ドイツやイギリスは紛争国であろうか。ヨーロッパでは旧ユーゴから流出する難民が多い。

よって答は1。バカンスを考える。ヨーロッパ北部の夏は涼しい。明るい太陽と美しい海岸を求めて、地中海沿岸地域に移動し、そこでゆっくりと休暇を過ごす観光客。とくにドイツからフランス南部コートダジュールを訪れる家族連れが多い。

世界で最も多くの観光客を集める国はフランス。2位は米国だが、3位にスペインが食い込んでいる。ヨーロッパにおける観光のパターンが見えてくるだろう。

ドイツの特徴としては、労働者の年間労働時間が少ないことが挙げられる。勤勉なドイツからは想像できないデータであるが、これは夏に長期の休暇をとることと関係している。普段はまじめに働き、夏の間だけ長い休みをとって、涼しいドイツを脱出する。

問4 アラビア語を使用するのはアラブ民族。アラブ民族のほとんどはイスラム教信者ではあるが、だからといってイスラム教徒の大半がアラブ人によって占められているわけではない。イスラム教は世界中に広がっている世界宗教であり、実に多様な人種・民族によって信仰されている。サヘル地帯の黒人、中央アジアのトルコ系、イランのペルシア人、東南アジアのマレー系など。

(参考)最大のイスラム教徒人口を持つインドネシア。インドネシア人はマレー系の民族であり、インドネシア語を用いている。発音や文法上の性質は全くアラビア語と異なるものであるが、表記については共通点がある。つまり同じアラビア文字(アラビアアルファベット)を使用するのだ。現在はこれは改められ、インドネシア語はローマアルファベットを用いて表記するようになったが、宗教的に共通項がみられる言語ではその表記に共通する文字が使われる典型的な例。トルコも全く同様で、アジア系のトルコ語が使用されているが、現在はローマ文字で表記されるトルコ語はかつてはアラビア文字で書かれていた。日本において、言語系統が全く異なる中国の文字(漢字)が使われているのと同じ。選択肢1にもあるように、仏教の伝来とともに日本に漢字が普及し、それが現在でも広く使われ続けている。

問5 貿易統計に関する問題。良問。

1;エビの輸入先1位はインドネシア。暖かいところで養殖されるものであるので、アジアやオセアニアからの輸入が多いのは十分考えられる。

2;小麦の輸入先は米国・カナダ・オーストラリア。収穫時期の異なる地域からそれぞれ輸入している。

3;大豆の輸入先1位は米国。これ以外にも食料品の多くをわが国は米国から輸入している。商業的で大規模な農業が行われ、価格が安い。ただし新鮮さが求められる野菜については近隣国である中国からの輸入が多い。

4;トウモロコシの輸入先1位は米国。

とくに大豆とトウモロコシについては、生産量・輸出量ともに米国が世界をリードしており、このことは統計で確認しておこう。

問6 1位が中国となっているカは、日本への留学生。米国はむしろ留学生を受け入れる側である。

キは輸出。経済的なつながりは北米やアジアなど環太平洋地域で強く、ヨーロッパとの貿易額が小さい。1位米国2位中国をしっかり押さえておきたい。

残ったクがテレビ番組。文化的な交流がさかんな米国からの番組が多いようだ。日本からみてヨーロッパとは、経済的な交流ではなく、文化的交流の対象といえる。

問7 1が誤り。海底ケーブルは光ファイバーが用いられ、デジタルによる通信が可能であり、現在でも重要なコミュニケーション手段である。