<[地理B]2025年/本試験・第3問解説>
たつじんオリジナル解説[地理B]2025年/本試験・第3問 |
<[地理B]2025年/本試験・第3問問1解説>
[ファーストインプレッション]
人口に関するオーソドックスな問題のように見えるがどうなんだろうね。タンザニアが登場していることに驚いたが、過去にも登場していない国ではないし、タンザニアというより一般のアフリカの国と考えて問題に取り組めば十分だろう。発展途上国の人口構成について「数字」で考える問題。地理は数字の学問なのです。
[解法]
タンザニアというよりアフリカの発展途上国を考えればいい。あくまで一般論として解いてみよう。具象的にタンザニアという国について考えるのではなく、発展途上国にみられる人口の変化の様子を抽象化して考える。
指標は3つ。「出生率」、「乳幼児死亡率」、「平均寿命」である。この中で最もわかりやすいものは平均寿命じゃないかな。経済レベルの向上によって病院や医療施設の整備が進み、衛生環境が整い食料供給が改善されることで栄養状態も良くなる。今まで失われていた命が救われ、そして人々も永く生きることになる。つまり平均寿命は上がるのだ。A~Cで唯一上昇傾向にあるAが「平均寿命」であろう。そもそも平均寿命が年々下がり続けている国などあるのだろうか(もっとも、日本のように平均寿命が「上がり切って」しまっている国では今後下がる可能性はあるが)。
残るはBとC。乳幼児死亡率について考えてみよう。先に挙げた経済レベルの向上による社会改善の影響が大きい。医療の整備、衛生環境や栄養状態の改善によって人々の健康は守られ、それは妊婦や新生児にも当てはまること。これまでは多くの乳幼児の命が失われていたが、それが死ぬことなく助かるようになる。1人当たりGNIと完全に反比例する指標こそ乳幼児死亡率である。経済レベルが上がれば赤ちゃんは死ななくて済むのだ。1人当たりGNIの上昇つまり先進国になることが必ずしも人々の「幸せ」に結びつくものではないかも知れない。しかし生まれ落ちた赤ちゃんにとっては、どの国に生まれるかということは文字通りの死活問題なのだ。経済レベルの低い国で失われた新生児の命は、もしかして経済レベルの高い国で生まれていたら救われていたかも知れない。
タンザニア(だけでなく世界中の国々で)経済レベルが向上し平均寿命も上がるが、それ以上に乳幼児死亡率は下がる。Cが乳幼児死亡率であり正解は④。
なお出生率はBである。タンザニアのようなサハラ以南アフリカの発展途上国の人口動態はいわゆる「多産多死から多産少死への移行」であり(だから人口増加率が高い)、出生率は高いまま維持されていると考える。ただし、平均寿命の延伸によって高齢者の割合は少しずつ上昇する。老年人口が増えることで相対t形に若年層の割合は減り、人口に占める出産年代は少なくなっていると考えられる。その分だけ出生率がわずかに低下傾向にあるということなのだ。さらに言えば平均寿命の延伸(これは死亡率の低下も意味している)によって人口も増加。母数となる全体の人口が増えている分だけ、割合である出生率もやや下がる傾向を見せる。とはいえ、もちろんこれは計算上の話であり、アフリカの発展途上国において少子化が問題になっているという話ではない。
[アフターアクション]とても面白い問題。3つの指標のうち、Aのみ上昇でBとCが低下。低下している二つの指標についてはその下がり方の度合いで判定せよという問題になっている。
Bについてはむしろ「変化なし」と考え、計算上(つまり「総人口に占める出産年代の割合の低下」や「分母となる総人口の増加」などが作用している)多少その値が低下傾向にあると理論づける。もちろんそれは極端な低下をもたらす要因ではない。
それに対しCについては急低下している。「1人当たりGNIと乳幼児死亡率が反比例する」というセオリーを確実なものとして考えて欲しい。1人当たりGNIの上昇つまり人々の生活が豊かになることによって赤ちゃんが死なない世界となる。1人当たりGNIが下がってもいいじゃないかという考え方もあるかも知れないが、それはいけない。現在生きながらえている我々ではなくこれから生まれてくる新生児のためにこそ経済レベルの上昇は必要なのだ。
<[地理B]2025年/本試験・第3問問2解説>
[ファーストインプレッション]
定番中の定番「大都市圏」の問題。セオリーを覚えておけば再現性の高い問題となる。大都市圏と大都市外、都心部と郊外の違いについて区別して考えよう。
[解法]
大都市圏を基準とした人口動態の問題。3つの地域のキャラクターを考える。まず大都市圏と非大都市圏(地方圏)に分ける。人口が集まる大都市圏と人口が流出する非大都市圏。ただし大都市圏の中でも人口動態には違いがある。大都市圏は都心部と郊外に分けられる。「昼間人口>夜間人口」となる都心部、「昼間人口<夜間人口」となる郊外。
都心部は高度経済成長期以来過密による住環境の悪化が進み人口が減少。しかし90年代のバブル崩壊による地下下落と再開発の結果、それ以降は転入車が多くなっている。人口の都心回帰。とくに富裕層や若い世代が多く、出生率も高くなっている。東京都の出生率は沖縄県に次いで国内第2位(*)。
一方の郊外は高度経済成長期以降ニュータウン開発が進み人口が急増。しかし以降は人口は停滞。現在は住民の高齢化が懸念されている。世代の偏りが顕著であり、彼らが高齢化する(高齢化した)時期に一気に老年人口割合が急上昇する(した)。彼らの子ども世代(現在の40代)はニュータウンを出て他所に住んでいる。
非大都市圏について。都市圏とは通勤圏のこと。東京大都市圏は東京都心部(目安は東京特別区部)のオフィスに通勤する人が一般に居住する範囲であり、おおよそ東京都心から半径50kmの円。埼玉県南部、千葉県西部、東京都中部、神奈川県東部が含まれ、茨城県は一部の例外を除き東京大都市圏には含まれない。高度経済成長期以降人口流出が進み、高齢化が進む。過疎化が深刻な村落も見られる。ただし、同じ高齢化とはいえ郊外とはやや様相が異なる。早い段階から継続して高齢化が進んできた非大都市圏に対し、現在急激に高齢化が進んでいる(あるいは進むと予想されている)郊外。高齢化が進んだ時期や、現在の高齢化のスピードの違いを考えてみよう。
簡単にまとめてみよう。
都心部・・・(2000年以前)人口減少、(2000年以降)人口増加。出生率も上昇。
郊外・・・(2000年以前)人口増加、(2000年以降)人口停滞。高齢化が一気に進む。
非大都市圏・・・2000年以前より人口減少、高齢化。
これをふまえて問題文を読んでみる。「都心部」のキャラクターは「東京大都市圏の都心に位置する東京都港区」、「郊外」のキャラクターは「東京大都市圏内の郊外に位置する千葉県鎌ヶ谷市」、「非大都市圏(地方圏)」のキャラクターを有するのは「東京大都市圏外に位置する茨城県大子町」。
本問はスタートが1990年であるので、主に2000年以降の人口の動きに注目するといい。ア~ウを判定する前にEとFを決めてしまおう。0~14歳が年少人口、65歳以上が老年人口。人口はアダムとイブの創世記から継続して人口を増やしてきた。その背景には常に年少人口が老年人口より大きかったという人口構成がある。高齢者の割合が低いため、相対的に若年層の割合が高い。人口に占める出産年代の割合が高いのだから、その分だけ出生率が上がる(なお、若い世代が多いので子供が多いという理屈は現在の東京都と同じ。東京は沖縄と並び出生率が高い都道府県である**)。そもそも生物は若い個体が老いた個体より多いからこそその数を増やすことができるのだ。「年少人口>老年人口」が絶対的なセオリー。
しかし、この生物の原則が崩れているのが現在の日本。経済成長により平均寿命が延伸し高齢者が増えた。一方で相対的に出産年代の若年層が少ないため出生率が低い。2000年の日本では両者の数は逆転し「年少人口<老年人口」となっている。そして2010年には日本の人口はついに減少に転じ、現在は年間に100万人近いレベルで人口が削られている。出生数80万人、死亡数180万人。
このことを考えれば値が大きい方が老年人口割合、小さい方が年少人口割合であることがわかるだろう。現在の数値を比べてみるとEは鎌ヶ谷市・ア・イとも10~20の中に収まっている。10万人の自治体ならば年少人口は1~2万人ということ。一方でFではアはともかくとして鎌ヶ谷市では20を越え、イでは50%に達しようとしている。10万人の自治体ならば5万人。低い値のEを年少人口割合、高い値のFを老年人口割合と考えよう。
ここで注目するのはEのアの変化である。このグラフは1990年がスタートなので主に2000年以降の人口動態を考えればいい。全体的に低下傾向にある年少人口割合だが、アは2000年代以降上昇の傾向にある。これ、どういうことだろう?
もうわかったよね。そう、都心部にみられる人口の回帰現象だね。1990年代のバブル崩壊により地価が下落し家賃相場が下がった。再開発による集合住宅建設(当時、法改正によってタワーマンションの建設規制が緩和されたという背景もある)が進み、富裕層や若い世代の転入が進んだ。若い世代の中には夫婦も多く、彼らが子供をもうけることで出生率が上がっている。アを都心部と考えよう。イが非大都市圏であり、継続して出生率が下がり続けている。最低レベルである。正解は①。
(*)「東京都で出生率が高い!」と聞いて驚いた人もいるのでは?東京は若い夫婦が多いことによって子供の数は極めて多くなっている。東京都で低い値となっているのは「合計特殊出生率」であり、これは無視していい。合計特殊出生率はその名前通り「特殊」な計算式によって求められるものであり、正直言って僕も全く意味がわかりません(笑)こんな胡散臭い指標、無視しちゃってください。だって、沖縄以外で圧倒的にたくさんの子供が産まれている東京都で合計特殊出生率が低いって意味わからないでしょ?これ、要らないんです。忘れましょう。
(**)なお沖縄県で出生率が高いのは「老人がすでに死んでいる」から。太平洋戦争の激戦地であったため当時の子供や若者が死んでしまった。そのため現在高齢者が少なく、老年人口割合は低い。相対的に若年層が多いため出生率が上がっている。老人が少ないので死亡率も低く(戦争の時代にすでに死んでいるのだ)出生率と死亡率の差である人口の自然増加率が高い。
[アフターアクション]とてもおもしろい問題だね。せっかくなので「鎌ヶ谷市」もブラインドにして、3つの組み合わせ(あるいは選択肢9つにしてもいい)を問うたら良かったんじゃないかな。郊外の人口動態の変化が最も興味深いと思う。
<[地理B]2025年/本試験・第3問問3解説>
[ファーストインプレッション]どこかで見たような問題だな。っていうかそもそも共通テストって同じ問題の焼き直しばかりだからこの問題が例外っていうわけでもないよね。国の規模が大事であるし、そして首都は知っておくべき。ただ、その首都にしても決して難しいものではなく人口1000万規模に達する巨大なものは知っておけっていうこと。さほど困難なことではない。
[解法]
「巨大企業」に関する問題。巨大企業については純利益が世界上位500位以内の企業とある。500って結構多いね。金額に関する区分けなので、たとえばその国の経済規模に比例すると考えてみるとスムーズなんじゃないかな。経済規模つまりGNIが大きい国にはその分だけ巨大企業が多く集まっている。巨大企業が利益を生み出すからこそ、その国のGNIも巨大化する。
GNIは「中国>イギリス>韓国>オランダ」の順。世界のGNIランキングで「1位米国、2位中国、3位日本、4位ドイツ」は知っておかねいといけないし、他の3カ国については人口からGNIは想像できるだろう。イギリスが7000万人、韓国が5000万人、オランダが1500万人
巨大企業の数については2000年と2020年の2つのデータがあるが、もちろん最新のデータにアクセス。2020年の段階で「124>21>14>13』とあるので、シンプルに④が中国、①がイギリス、②が韓国、③がオランダと代入する。
2000年から2020年までの成長率もチェックしよう。④は4から124へと大きくジャンプアップ。巨大企業の数と経済規模は比例する(と思われる)ので、この時期に大きく経済成長を果たしGNIが世界第2位へと躍進した中国とみていいだろう。さらに①は37から21へと大きく数値を落としている。これについては経済の衰退というより2000年の段階ですでに十分に成熟した国であったと考えるべきだろう。欧州の先進国であるイギリスだろう。②と③については「11→14」、「11→13」と同じような動きであり、これで判別はちょっと難しい。いずれかがオランダで、いずれかが韓国であることは間違いないのだが。
②と③の判定については「首都」から判定。オランダの首都ってどこか知っているかな?知らないよね。小さい都市は知らなくていい。一方で人口が1000万人に達するような巨大都市は必ず知っておくこと。
人口上位2カ国には複数の1000万都市がある。インドがムンバイ、コルカタ、デリー、ベンがルール。中国がシャンハイ、ペキン、チョンチン、ホンコン・シェンチェン。人口3位から10位までは1つずつ。ニューヨーク、ジャカルタ、カラチ、サンパウロ、ラゴス、ダッカ、メキシコシティ。
これ以外は、東アジアでは東京とソウル。東南アジアではバンコク。西アジアではイスタンブール。ヨーロッパではロンドンとパリ大都市圏、モスクワ。
どう?さほど難しくないよね。国別人口ランキング10位までは知らないといけないし、それらを記憶する際に都市名もセットで頭に入れたらいい。
それ以外の都市もほぼ知られたものばかり。最重要なのはイスタンブールで、人口11位以降の国では巨大都市はほとんどが首都なのだが(日本=東京など)、唯一イスタンブールのみ首都ではない。「人口があまり大きくないのに、首都ではない巨大都市」が存在する国がトルコであり、その都市こそイスタンブールなのだ。
問題に戻ろう。②と③を比較した場合、②により多くの巨大企業が集まり、③はわずかである。巨大企業の数は経済規模(GNI)に比例するはずなので、都市そのものの規模を考えた場合、韓国の首都ソウルは極めて巨大であるのに対し、オランダの首都は名前も知られていない。どうかな?1000万都市のソウルにこそ多くの巨大企業が本社を置くと考え②を韓国とみていいんじゃないか。これが正解。残った③はオランダ。
韓国全体で14の巨大企業があるのだが、そのうち12がソウルに集中している。ソウルは韓国総人口の20%が集まる都市であり、政治機能のみでなく経済活動も一極集中している。
[アフターアクション]ヨーロッパ諸国の人口規模は頻出。これは絶対に知っておく。こんなことを「暗記
」しないといけないのかって文句を言わないよウニ(笑)。地理は数字の学問なのです。数字はひたすら頭に叩き込んでいく。今回の問題だって首都の規模も含めやっぱり数字ばっかり問われているでしょ?ソウルやアムステルダムなんていう名称は問われない。韓国の首都は人口1000万人規模の巨大都市であるというネタが出題される。名称なんてどうでもいい。「地図帳が大事」なんていう歪んだ人気を改めなさい。
<[地理B]2025年/本試験・第3問問4解説>
[ファーストインプレッション]これ、変わった問題だな。要するにパリに関する問題っていうことでいいのかな。パリは京都のイメージ。都心部の旧市街地に歴史的な建造物が多く観光地となっている。高層ビルが作られている副都心は市街地の外縁部にある。
[解法]都市に関する問題。「都心から都心周辺部へ向けて」の写真か、「都心周辺部から都心へ向けて」の写真か、いずれなのだろうか。登場している都市は3つ。ナイロビとメルボリンとパリ。
パリについては近年出題例があるので、それを参照するといい。2019年地理B本試験第3問問1。直近10年以内の問題であり、しかも地理Bの本試験。必ず知っておかないといけない問題だね。今回の問題と全く同じネタ。
2019年地理B本試験第3問問1を参照してみよう。図のうち、Cが都心でAやBが周辺部に当たる。なお都市圏の大きさが分からないので、都心部と郊外の区分は難しい。都心部の定義は「昼間人口>夜間人口」、郊外の人口は「昼間人口<夜間人口」。本図からではそれは判定できない。とりあえず「都心=C」、「周辺部=A・B」と考える。
パリは京都とイメージが重なる。両者は都心部(旧市街)に歴史的な価値を持つ建造物や文化施設が多く観光地としての魅力が高い。世界中から多くの観光客を迎え入れ、そのための都市整備が進む一方で建物や都市施設も保全のための努力kがなされている。分かりやすい例としては建物の高さ制限だろうか。一部の例外はあるものの(パリにはエッフェル塔がある!)伝統的な歴史景観を見出すような巨大な建物の建設は認められておらずとくに高層ビルは認められていない。京都の都心部は消防車が入ることのできない路地がそのまま残されているなど防災上ちょっとマズいところもあるのだが、やはり歴史的景観の保全が優先されている。2019年のパリの問題では図のAがこれに当たる。
これに対し、都市周辺部はどうだろう?例えば京都市の場合、旧市街地(都心部)からやや離れたところに新幹線も乗り入れるJR京都駅があり、高層の建物が並んでいる。京都タワーが有名だね。元々の市街地とは離れているとは言っても鉄道などのアクセスは良く、都市機能の利便性は失われていない。清水寺や平安神宮など歴史的建造物が集まる旧市街地(祇園や河原町)は観光地として整備される一方で、京都駅周辺はビジネス街として栄えている。
こういった図式をパリ市についても考えて欲しい。パリはもともとセーヌ川の川中島(中の島)に築かれた要塞を基礎として作られた都市であるが、多くの歴史的建造物や美しく整備された美術館などが集まる旧市街地(都心部)は世界的な観光地となっている。しかし、その一方でそういった観光地は美しい景観が保たれ多くの観光客を集めるものの、京都市同様にCBD(中心業務地区)的な開発は制限され高層ビルはみられない。
都市機能の都心部への集中を緩和するため、(やはり京都市と同様に)都心部からやや離れたところに頭に「副都心」となるビジネス街が整備され、高層ビルが林立する地区となっている。集合住宅も多くつくられ、もちろん商業施設も設けられている。パリ市の都市機能の一部を十分に補うだけの存在になっているのだ。それが「ラ・デファンス」と呼ばれる地区。先ほどの2019年の問題ではBがこれに当たる。都心部であるC周辺の地域と幹線道路や鉄道によってつながっており、アクセスのいい地区であることが一目瞭然だね(なお、この図においてA地区は郊外の住宅地である)。
この2019年のパリの地図を参考に、2025年のパリの写真を見てみよう。手前には比較的階層の低い建物が並んでいるのに対し、視線の先には多くの高層ビルが林立している。中央には「口」の字に似た特徴的な建造物(モニュメント?)も見られる。どうだろうか?これこそ先ほど挙げたラ・デファンス地区であると考えられないだろうか。2019年の図ならばC方面からBに向かって視線が伸びている。この方向に沿って写真が撮影されたのだ。「都心から都心周辺部」への写真と思っていいんじゃないかな。手前が観光地化された旧市街地で「都心」、奥が新たに副都心として開発された地区で「周辺部」である。パリ特有の形態ではあるが、京都市をイメージすれば想像しやすいと思う。
残った二つについてはとくに問題ないんじゃないかな。一般的に都心部にこそ高層ビル群が並んでいる。これは東京や大阪など日本の一般的な都市においてもみられるもの。正解はaとcで③が正解。
[アフターアクション]本問のポイントとしては「解法」でクローズアップしたバリの事例がマスト!あまりたくさん覚えようとしても混乱するだけなので、とにかくパリだけは必須で。都心部の高さ制限、外縁部に副都心。
参考までに他の2都市についても取り上げておこう。ナイロビは「発展途上国の大都市」の例であり、メルボルンは「新大陸の大都市」の例(同じ先進地域でもヨーロッパとはちょっと違う)。
まず発展途上国の大都市だが、国全体の経済力が大きくないので都市建設が制限される。国内の特定の大都市のみが突出して大規模化し「プライメートシティ」となる。タイのバンコク、メキシコのメキシコシティ、ナイジェリアのラゴスが例。過度に経済活動や産業、そして人口が集中する。首位都市。
ただし、その首位都市にしてもやはり十分な開発のための予算がないことは問題点となり、都市の中心の一部のみが開発され、他の地域にまで開発が及ばないことが多々ある。発展途上国の大都市によく見られるパターンとして、都心部の限定されたエリアのみあたかも「未来都市」のような超近代的な街並みが形成され高層ビルが林立するのに対し、その周囲には都市施設もまともに整備されていない低級住宅地や不良住宅地(スラム)が広がる。
Aのナイロビの写真を見てほしい。手前に細々とした建物が並んでいるが、これが一般の住宅地であり中にはスラムとなっているものもあるだろう。低所得尾労働者や失業者が住み着いている。それに対し、奥の方には超近代的な高層ビルが林立しており、タワーを伴うものもある。このような最新鋭の街区が都市の中心部に集中するのが発展途上国の大都市の典型的なスタイルであり、その周囲には貧困な人々が住みその多くは農村から都市へと仕事を求めてやってきた出稼ぎ者である。都市周辺部から都心部へと撮影した写真。
続いて新大陸の大都市。2012年地理B本試験第3問問2の問題がダイレクトに参考になるのでぜひ見てもらいたい。こちらの問題では3つの都市の光景がイラストで示されているのだが、それぞれに特徴が異なる。
パリについて「中心部には土地利用や景観の観点から中・低層の歴史的建造物が保全されている。周辺部には高層ビルからなる副都心が形成されている」とある。都心部の高さ制限、外縁部の副都心がポイントになっているね。
「新大陸の都市」としてシカゴが取り上げられている。「中心部には中心業務地区をなす高層ビルの集積がみられる。郊外には一戸建ての住宅地域が広がる」と説明されている。アメリカ合衆国やオーストラリアなど新大陸の大都市は建設の時期が新しく、パリなどヨーロッパの都市とは歴史的経緯が異なる。とくにオーストラリアは新しい国であり、メルボルンやシドニーなどの大都市でも老朽化が見られない。中心部には高層ビル群が立ち並び、近代的な街区を形成している。それを取り囲むように広大な範囲が住宅地となる。発展途上国の大都市(ナイロビ)と形式的には似ている。
ただ、経済力(国全体のGNI、さらに個人の所得水準である1人当たりGNI)は大きく発展途上国を上回り、都市構造としては大きな違いがある。中心部と周辺部とを結ぶ交通インフラ(幹線道路や鉄道など)が整備され、明確な都市圏が形成される。都市圏とは都市の影響範囲のことだが、具体的には「都心部と郊外」の組み合わせと考えてほしい。中心の都心部にはCBDが形成され多くの通勤者が集まることによって昼間人口が大きい。都心部を取り巻く郊外には住宅地が広がる。鉄道や自家用車によって人々は通勤し(日本の大都市は鉄道による通勤が一般的だが、米国やオーストラリアの大都市ならば自家用車が主に使われるだろう)、昼間人口は夜間人口(常住人口)より小さい。郊外の住宅地は土地に余裕があるため一般に面積が広く、一戸建てが多い。「高層ビルからなる都心部」と「一戸建ての住宅地からなる郊外」がはっきりと「都市圏」を構成している。こういった光景が新大陸の大都市では広がり、メルボルンもその典型。写真は周辺から中心方向へと撮影したものである。
というわけで都市に関する問題だったのだが、地図帳を見ないと分からないような高度な知識が問われているわけではない。我々が本問を通じて得られる教訓は「過去問は重複して出題される」ということ。過去問の内容に習熟してこそ解ける問題があり、その典型がこの問題だった。
<[地理B]2025年/本試験・第3問問5解説>
[ファーストインプレッション]おっと、これはどういった問題かな。図を見ただけで解ける考察問題なのだろうか。一回既に解いているはずなんだが(初見で解いた後、改めてこのテキスト解説をつくっています。だから正確には「ファースト」インプレッションではなく、「セカンド」インプレッションなんですけどね・笑)、全く印象に残っていない問題だな。頭を悩ませるほどの問題ではなかったってことかな。
[解法]カナダのトロントが話題になっているが、都市名は無視してしまっていいだろう。図中のカ~ケの4つの地域について2つの階級区分図によって特徴が示されている。左が「トロント市への通勤率」である。すべての通勤者についてトロント市へと通勤する人がどれぐらいの割合を占めているかを示している。値は30%以上、20~30%、10~20%である。右が「トロント市への通勤者増加率」である。10年間の間に通勤者はどれぐらい変化しているか。注目すべきは意外に「減少」したところが多いということだ。階級は20%以上増加、0~20%増加、そして減少である。
文章を検討していこう。まずはカから。通勤率は低く、さらにそれだけでなく通勤者も減少している。トロントとの関係性はそもそも弱いし、さらに薄まっているように感じられる。「トロント市に立地する企業の社員向け住宅」が多く建設されたならば通勤者は多いし(増加もしているだろう)関係性は強くなっているはず。①は誤文だろう。
次にキについて。キはトロント市に接する地区。トロント市への通勤率は高い。ただし左側の図ではマイナスとなっており、通勤者は減少している。なぜ減ったのかその理由はわからないが(高齢者が多いのだろうか?)、少なくとも「減少」という事実をもって「トロント市との結びつき」が強まったとは考えにくいだろう。②も誤文。
さらにク。これはトロント市の西の地区だが。トロント市の通勤率は低い。しかし増加率は極めて高くなっている。2006年の段階ではトロント市の通勤率が極めて低く、この10年間の増加率は大きく上昇しているものの、2016年も通勤率も10~20%と低水準である。どういった地区なのか想像してみようか。交通インフラが整備されていない、他の都市への通勤者が多かったなどの理由でク地区の人たちはもともとトロント市に通勤する人はほとんどいなかった。ただし、近年はその状況は変化しトロント市への通勤者は急増している。しかし、それでも全通勤者に対する割合は最新のデータでも10~20%の低い値にすぎない。
どうだろうか。二つの資料からはこういった状況が浮かび上がってくる。通勤率の数値そのものは低いけれど、通勤者は急増しているし「トロント市のベッドタウンとして成長した」と考えることは妥当なんじゃないか。クについての記述は正しく、正解は③でしょう。
この時点で④は誤りとなるわけだが、一応確認してみよう。「通勤率」についてはトロント市に接する地区で30%以上と高く、一方で遠隔の地区では10~20%と低い。「通勤率の高低」と「距離の長短」の間には密接な関係があるとみていいんじゃないか。やはりこれは誤文だね。
[アフターアクション]2つの図が与えられ、一つは「現状での値」を示し、もう一つが「変化の度合い」を表している。立体的な思考が必要となる。「現状の値は低いものの、10年間の伸び率は極めて高い」という数値的な動きを「ベッドタウンとして成長した」という状況に結び付けられるか、実はかなり高度な思考力を要する問題なんじゃないかって思えてきた。最初に「印象に残らない」といってしまってゴメンなさい。これ、深い味わいのある超良問なんじゃないですか。
<[地理B]2025年/本試験・第3問問6解説>
[ファーストインプレッション]おっと、これはちょっとオールドスタイルの問題だな。古い時期によくみられたパターンっぽい。この試験はこれまで30年ほど続いていた地理Bのラストを締めくくる試験。最後に全部の総集編としてちょっと懐かしめの出題パターンにあるってことなのかな。時代の切れ目を感じ、灌漑深いものがありますね。
[解法]集落形態に関する問題。地形図が利用されているが文章から読み解いていこう。
まずJから。「周囲よりわずかに高い場所」ということは微高地であり自然堤防だろうか。氾濫原に見られる地形。全体が低湿地となっている中、河川に沿った場所だけがわずかに盛り上がっている。洪水時に河川から流出した土砂が堆積したものだ。この土砂は周囲より目が粗く水捌けが良い。乾いた土地の上に家屋が設けられ、周囲が浸水してもこの微高地は水没しない。河川沿いがキーワードでありサが該当する。
さらにK。ここでは「道路沿い」がポイント。道路に沿って家屋が並ぶのは「路村」である。路村は一般的に新田集落に見られる。新田とは主に江戸時代(近世)以降に開発された開拓地。この時期、人口増加や農作物の増産に対応するために全国の村々はそれまで耕地として利用されていなかった土地へと開発の手を伸ばした。この土地には高燥な乏水地である台地や扇状地の扇央、浅海に堤防をつくって設けられた干拓地などが含まれる。
Kはシに該当するのがわかるんじゃないかな。中央を道路が走りそれを両サイドから囲むように家屋が並んでいる(最近の地形図(地理院地図)では建物がピンク色で示されているのでテストのようなモノクロ印刷だと判別しにくくなってしまっているのだが)。家屋の背後には(というかほぼ全体的に)長方形の区画がみられ、これが「短冊状の耕地」に該当するのだろう。「台地」については無理に判定する必要はないが、図の左の方に「52」という数字がみられ、これは標高を表す。小高い土地になっていることがわかるだろう。さらに土地利用記号にも注目すると、こちらも全体に畑の記号がみられる。畑は一般に水が得にくい高燥な地形において分布するものであり、こちらも「台地」であることの証明になるだろう。正解は①とある。
最後に残ったLがスとなる。「湧水がを得やすい」とはちょっと分かりにくいかも知れないが、これは扇状地の扇端を示している。扇状地とは山地と平野の間にみられる緩斜面のこと。目の粗い土砂が堆積し、地表面を流れる河川水が地下に浸透する。河川は水無川となり、水が伏流する。
本図においては左端に等高線が密集しているところがあり山地になっていることがわかる。反対側の右端では田の土地利用記号がみられ、低地であることが想像される。その間の地域(本図の広い範囲を占めている)ではまばらに等高線が走行し、全体として西から東へと傾く緩い斜面であることが判別できる。山から平野に出る河川によって土砂が運ばれ、山麓部へと堆積している。扇状地である。扇状地は扇頂、扇央、扇端に分けられる。扇頂とは山に接し、ここから扇状地がスタートする「点」。本図ならば左下の「0ー300m」の表示で隠れてしまっている部分か。
扇状地の本体となる「面」が扇央。広くみられるまばらな等高線。緩斜面となっている。目の粗い土砂(というか小石・砂利をイメージしてほしい)で覆われ、水は地下に浸透する。扇央を流れる河川は表面に水流のみられない水無川となる。
扇状地の末端であり平野と接する「線」状の地域が扇端。扇央で伏流した地下水がこのラインで湧水となる。水が得やすい(そして下流側の水田地帯に接している)ため集落がつくられる。スの集落がそれに該当する。形状としては「列村」に分類されるだろうか。同じく列村としてはサの自然堤防上の集落があるが、いずれも自然発生した集落であるという共通点はあるものの、サが「水が豊かな地域における水を防ぐことができる地形」が成立条件であるのに対し、スは「水が乏しい地域における水が得やすい地形」という成立条件である点が対照的。なお、同じような形をしているがシは形態としては「路村」である。さらにいえばこちらは計画的な集落であり、成立条件としては自然要因より人為的要因(道路が通じている)ことが大きい。
[アフターアクション]解答の組み合わせもサ~スがそのままJ~Kに当てはまり、あまりにも単純な問題だったね。とはいえ、従来のシンプルな集落ジャンルの問題というわけではないように感じられる。自然堤防や扇状地が「自然発生した集落」であるのに対し、新田集落は「計画的な集落」であり、内容的には単独のジャンルから出題されているわけではない。マルチジャンルである点が今っぽいかな。簡単な問題だからこそ再確認し、集落についての広い理解を得るための適切な教材になる。