共通テスト地理B[2021年第1日程]第1問解説
第1問(自然環境)
[1][インプレッション]みなさん、こんにちは。では2021年共通テスト地理B第1日程の問題解説をしていきますね。とはいえ、実はこの解説、第2問から作り始めてすでに第5問まで終わっているので、この第1問がラストなんですけどね(笑)。
第1問はセンター試験時代から難問が多く、この大問を後回しにするのが試験の必勝法だったわけで、僕も第1問は最後に解くのがクセになっているのです。さて、共通テストになってその傾向に変化があるのか。とりあえずテーマが気候や地形を中心とした「自然環境」である点は変わりないようで。
[解法]気候に関する問題。共通テストになっても理論が重要視されることは変化がなく、ケッペンの気候区分のような知識が問われることはない。しかし、理論が問われるからこそ難しいのであって、慎重に解かないといけない。
まず問題文。問題文が長い場合にはそこに解答へのカギが必ず含まれている。焦る気持ちを落ち着けて、ゆっくり文章を読む。「気候因子」がテーマとなっているようだ。こちらの図は「仮想大陸」であり、実際の大陸を描いたものではなさそうだ。とはいえ、緯度が示されており、気温の高低については想像しやすいと思う。さらに等高線も示されており、それなりに複雑な地形を有しているようだ。もちろん標高による気温の上下もあるだろう。
ア〜カの6地点が示されている。このうちの2地点を選んで雨温図(一般的な気候グラフ)を作る。なるほど、ア〜カの地点配列でおもしろいのは、ア〜ウがほぼ北緯60度、エ〜カがほぼ北緯30度であるように、緯度ごとに並んでいる。緯度が同じということはどういうことか分かるかな?まず基本的には年間の平均気温は同じになるね。一年を通じて考えれば太陽からの受熱量は同じになる。さらに地軸の傾きを考えれば、緯度が同じということは気温年較差も同じになるね。例えば赤道直下ならば、春夏秋冬いずれの季節も昼が12時間、夜が12時間なので気温年較差はゼロとなる。一方、高緯度地域は夏は昼が長くなるが、冬は短くなる。季節による太陽からの受熱量の違いによって気温年較差が生じる。緯度によって、気温の高低、そして気温年較差の幅の大きさが決定することはまず頭に入れておこう。他の要因(気候因子)がなければ、エ〜カの各地点の気温年較差とア〜ウの各地点の気温年較差を比べた場合、前者の方が寒暖の差が小さく、後者の方が季節差が明瞭ということになる。
さらに「海からの距離による影響の違い」という文言も文章の中にあるね。なるほど、北緯60度においてアとウは沿岸部だがイは内陸部。北緯30度においてカとエは沿岸部だがオは内陸部。固体である陸地と液体である海洋とでは比熱が異なる。大陸は比熱が小さく「暖まりやすく、冷めやすい」のに対し、海洋は比熱が大きく「暖まりにくく、冷めにくい」。気温年較差は沿岸部では縮小されるのに対し、内陸部では増幅される。例えばアバウトな数値だが、沿岸部で「÷2」、内陸部で「✕1.5」としてみようか。ア〜ウの緯度帯における気温年較差が30℃とする。沿岸部は15℃、内陸部は45℃。具体的にはヨーロッパでは比較的穏やかな気候がみられるのに対し、シベリアでは冬の気温が極端に下がることなどから気温年較差は極大となる。エ〜カの緯度帯の標準的な気温年較差を10℃とすれば、沿岸部のカやエは5℃、内陸部のオは15℃。カやエでは年間を通じ高温である常夏の気候となるが、オでは比較的寒暖の差がある。それでもオの気温年較差は高緯度地域のア〜ウに比べれば小さいのだが。
では問題を検討していこう。「海からの距離による影響の違いが強く現れ、それ以外の気候因子の影響ができるだけ現れない」となる。国語力が必要だけど(笑)キチンと読解できるかな。
気候(降水量や気温。これらを気候要素という場合もある)を決定する要因が「気候因子」。「海からの距離」によって気候が違ってくるのはみんなもよく知っているよね。海陸の比熱の違いによって夏と冬の気温が変化する。
その「海陸分布」以外の気候因子として、この図に関連させて考えるならばどんなものがあるだろう。1つ目は「緯度」だよね。低緯度ならば高温、高緯度ならば低温。気温年較差についても緯度の影響は大きい。さらに本図には等高線も描かれている。「標高」も立派な気候因子。標高が高くなるほど気温が下がる(これは問5のキリマンジャロに関連した問題でもテーマとなっているね)。
「海陸分布」、「緯度」、「標高」の3つの気候因子が出てきた。それぞれの選択肢について検討しようか。
選択肢1。アとイ。緯度と標高が同じだが、海陸分布だけ異なる。
選択肢2。イとウ。緯度は同じだが、海陸分布は異なる。これ、標高も違うんじゃないかな。
選択肢3。エとオ。緯度は同じだが、海陸分布と標高が異なる。
選択肢4。オとカ。緯度は同じだが、海陸分布と標高が異なる。
海陸分布だけが気候に影響に与えるたった一つの気候因子となっているのは1の組合せだね。
[2][インプレッション]おっと、著作権の関係で図がカットされていると思ったら「設問の関係上、地点Eの雨温図は示していない」とある。ちょっと変わった問題っぽいなぁ。「ある地点」については地図上で示されていないので、文章から想像するしかない。
[解法]問題文より「大気大循環」がポイントになっている問題だね。大気大循環は、まず地球の気圧帯。赤道付近の「熱帯収束帯(赤道低圧帯)」、緯度25度付近の「亜熱帯高圧帯(中尉度高圧帯)」、緯度50〜60度の「寒帯前線(亜寒帯低圧帯)」、極周辺の「極高圧帯」。さらに巨大な風系である低緯度の「貿易風」、中緯度の「偏西風」、高緯度の「極風(極東風)」。これらについて考えるということ。
会話文より。DとEはいずれも沿岸部。問1で話題とされているような「海陸分布」は差がない。これは考慮しなくていい。ただし「地点Eは地点Dからほぼ真南に約800km離れている」とある。東京〜大阪間がほぼ400kmであり(これ、覚えておくといいよ。排他的経済水域の200カイリが370kmなので、沿岸から「東京〜大阪」間の距離ぐらいまで日本は魚を取ったり海底の資源採掘の権利を有する)、800kmならこの倍。地球レベルで考えるとさほど極端なものではないかな。
南に位置するからといって安易にEが気温が高いと思ってはいけない。赤道を挟んでいる可能性もあるからね(Dは気温の高低からみるに北半球の都市であるので、両方とも南半球ということはないけれど)。
とはいえ「最暖月」はDとEで現れる時期が同じとある。いずれも7月を中心とした時期に最暖月があり、この季節が夏であることからいずれも北半球の都市である。ということは「EがDより800km南にある」とうことは、Eの方が赤道に近く(標高などの要因なければ)気温が高いということになる。
さらに「地点DとEが位置する緯度帯」とある。なるほど、800kmの違いはあるが、地球レベルで考えればDとEは同じ緯度帯とみなしていいのか。地点Dの気候グラフは「夏季にほとんど降水がない」ことから地中海性気候と判断できる。地中海性気候の特徴は「大陸西岸の緯度35度付近」に分布し、「夏は亜熱帯高圧帯の影響でほとんど雨が振らず、冬は寒帯前線や偏西風の影響で一定の降水がある」ということ。(サ)については(偏西風と言いたいところだが選択肢に無いので)「亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯)」となる。いわゆる寒帯前線のこと。激しい降水はみられないが、湿潤な気候の原因となる。
さらに(シ)についても判定しよう。「月降水量30mm以上の月が続く期間」についてDとEでは違いがあるようだ。EはDより南にあるようだ。例えば、Dが(地中海性気候が典型的にみられる)南ヨーロッパであれば、Eは北アフリカである。同じく北半球で地中海性気候が典型的にみられるところは北アメリカ大陸の太平洋岸であり、バンクーバーやシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルスがある。これら地域は、南下するほど降水量が少なくなる。イタリアやスペインも降水量が多いとは言えないが、北アフリカのモロッコやアルジェリアはさらに降水量が少ない。北アメリカ大西洋岸にしても、シアトルでは年間の降水量が1000mm近いのに対し、サンフランシスコは500mm程度、ロスは300mmしかない。南に向かうほど降水量が減る、すなわち乾季の期間が長くなるとみていいんじゃないか。ということは、「月降水量30mm以上」の多雨(というほど多くはないけれど)の時期は、南ほど短くなる。(シ)は「短い」と考えられる。北アフリカやロサンゼルスの気候である。2が正解。亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響を受ける時期が長いのだ。
[3][インプレッション]カードを使った問題形式だね。この形、共通テスト特有のものみたい。特殊なものではないけど、とりあえず慣れておくのは大事だね。問題全体も会話文が取り入れられていたりして、分量の多いものとなっている。こちらも慣れておかないと。
[解法]こうした問題は漠然と取り掛かっても時間がかかって効率が悪いだけ。直接解答に結びつく部分を先に読んでしまう。「災害に対する弱さ」に対応するものを探す問題だね。タイの洪水、東アフリカの大かんばつに関するものを探してみよう。ただ、ここでポイントになっているのは、その前に書かれている「災害のきっかけ」という言葉。なるほど、自然災害について「災害のきっかけ」と「災害に対する弱さ」に区分して原因を挙げているわけか。カードのそれぞれがいずれかに対応すると考えていいんじゃないかな。
タイの洪水については「a 河川上流での森林減少による水源涵養機能の喪失」と「b 低緯度地域で発生した熱帯低気圧の襲来」がその原因。どちらが「きっかけ」で、どちらが「弱さ」なのだろう。これは明確だね。熱帯低気圧の発生がきっかけとなって豪雨に見舞われ、水害が発生する。河川上流部に森林があれば、それが水を蓄えることとなり、下流側への急激な流量の増加は緩和されることになる。しかし現在は森林が失われ、雨水が一気に下流域へと押し寄せ、洪水被害が拡大する。(タ)にはaが該当するとみていいだろう。「涵養」という言葉の意味がわかりにくいけれど、とくに問題ないだろう(*)。
同じように東アフリカについても検討。要領はつかめたね。「きっかけ」は自然現象であり、その「弱さ」を生むのは環境破壊など人為的なもの。「c 貯水・給水施設の不足や内戦に伴う農地の荒廃」、「d ラニーニャ現象を一因とした大気の循環の変化」とあるが、きっかけとなる自然現象がdで、災害に対する弱さを生む人為的な行為はcであることは明白。(チ)にはcが入るね。ラニーニャ現象がどういったものか、またこれが本当に干ばつの原因になるのかどうかについては確実なことは言えないが、問題を解く上では細かい知識は必要ではないね。
さらに(ツ)について。こちらは「比較する」ことで災害のきっかけを考えるのそうだ。なるほど、片方が「タイの雨季に降水量が多かった事例」なのだから、その逆を考えればいい。「雨季に降水量が少なかった」ことがもちろん反対の事例となり、両者の「気圧配置や気流」を比較することで、降水量の大小をある程度予測できる。Gが該当し、正解は1。
本問はある程度の文章読解力というか、国語力が必要。地理の問題でありながら、国語の力が問われるというのはどんなもんなんだろう。僕はあまり好かないな。
(*)涵養とは字の通り「養う」ことをイメージすればいい。「地下水の涵養」とは、雨水を地下に浸透させ、それを蓄えることで地下水が養われる。樹木自体が水分を蓄え、あるいは木陰をつくることで水分の過度な蒸発を防ぎ、地域内の水分が多くなる。樹木が枯れることで腐植土をつくり、土壌内へと浸透する雨水も増える。この「涵養」による最大の効果が、河川下流側へと一気に大量の雨水が流れ出すのを防ぐことにある。涵養の反対語は「流出」。涵養によって雨水は地面にキープされ、そこから長い時間をかけてゆっくりと下流側に流出する。このことで洪水のリスクは軽減される。
[4][5][インプレッション]キリマンジャロに登るなんてアクティブな先生には驚いたが(笑)それより問題そのものが厄介な印象。一筋縄では解けないんじゃないかな。
[解法]「変動帯」についてはおおまかにプレート境界を考えればいい。狭まる境界に該当し巨大な山脈がみられる新期造山帯、同じく狭まる境界である海溝、広がる境界である海嶺、そしてアフリカ大地溝帯。
あれ?最初の印象とは異なり、これ、簡単なんじゃないかな。Jはアルプスヒマラヤ造山帯、KやLは環太平洋造山帯で新期造山帯。J〜Mには該当しないが、キリマンジャロもアフリカ大地溝帯で同じく変動帯。これに対し、オーストラリアには新期造山帯の地形はなく、変動帯もない。東部の走行する山脈は古期造山帯であり、侵食が進みなだらかな丘陵となる。(マ)は3つ。
さらに氷河だが、これは標高が高い山脈を考えればいいと思うよ。キリマンジャロの標高は約6000mで、山頂付近の気温は氷点下となる。これより標高の高いJ、K、Lはいずれも山頂に氷河を有するとみていいだろう。反対にMは標高が低い。例えば日本列島は標高3000mを越える山岳がいくらでもあるが、氷河はみられない。日本の最暖月平均気温は30℃に近い。標高100mで0.5〜0.6℃ほど気温は下がるのだが、例えば低地で気温が25℃として、富士山の山頂(約3800m)の気温はそれより19.0〜22.8℃低い計算となり、氷点下とはならない。雪や氷河は溶けてしまう。
オーストラリアも中緯度に位置し、比較的温暖な点は日本と共通する。標高2300m程度の山ならば、山頂付近の気温は夏には0℃より高くなり、氷河は存在できないはず。こちらの答えも3つである。
[6][インプレッション]写真が読み取りにくいが、解答は可能かな。問題形式がちょっと厄介だが、科学的事象を問う問題であるし、白黒はっきりとした正誤判定はできると思う。
[解法]森林の有無だが、地球上で森林がみられるのは熱帯、温帯、冷帯であり、乾燥帯と寒帯は森林が存在しない。乾燥帯とはもちろん「乾燥」している気候なのだが、これは「降水量<蒸発量」というバランス。乾燥帯において森林の有無は降水量のみでなく、蒸発量によっても決定する。蒸発量は気温に比例するので、「降水量と気温」によって決まると言っていいかな。
寒帯は南極大陸やグリーンランド内陸部の氷河や、北極海沿岸のツンドラなど。極端に寒冷であり、森林とならない。こちらの決定要因も「気温」。
「降水量のみで決まる」のではなく、ヤは誤り。
さらにユについてだが、これは問題ないんじゃない?一般的に標高が100m上がるごとに気温は0.5〜0.6℃ほど下がる(これは湿った空気の場合。湿潤断熱減率という。乾いた空気は1.0℃変化する。乾燥断熱減率。この2種類の空気の気温変化の違いによってフェーン現象が生じるのはよく知られている)。正しいと思うよ。正解は2でしょう。
[7][インプレッション]図がややこしいね。じっくり読まないと。問題内容は難しくないのだから、こういった問題で確実に得点する。
[解法]「氷河縮小からピーク期」ってことはそれだけたくさんの水が融け出すってことでしょ?Xで問題ないと思う。図についても「氷河が融けた水」が多いものを考えればいい。gとhがその候補になるけれど、春と秋に融水が多いgってちょっとおかしいんじゃないかな。やはり気温が上がる夏の融水がマックスになって当たり前でしょ。これ、図の読解がちょっと手間取るけど、内容的にはシンプルで簡単な問題だと思う。正解は5。この問題がスムーズに出来れば、キミの地理力はかなり高いと思う。簡単な問題を簡単に解く。これが地理という試験の真髄だと思うし、僕はキミたちにそういった力をぜひ持って欲しいと思っているのだ。