2017年度地理B追試験[第1問]解説

2017年度地理B追試験解説第1問                   

例年通り、自然環境をテーマとした問題。問1と問2の気候は理論中心の出題であり、問3の大地形は「火山」の位置がテーマになるなど、傾向はいずれもオーソドックス。問4は、見慣れない図に苦戦するかもしれないが、考えれば何とかなる。問5と問6は近年増加してきた「災害」ジャンルからの出題だが、別に災害に関する知識を必要とするわけではなく、簡単に解けると思う(唯一、問5の外れ選択肢に含まれている「液状化」がほとんど初登場のキーワードなのだが)。あれっ、この大問ってかなり難易度低いんじゃない?

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[ファーストインプレッション] なるほど、おもしろいですね。かつて北半球における大気の移動を取り上げた問題があったけれど、その南半球バージョン。「ありがち」な問題であるということは、「センターの傾向に最も沿った」問題でもあるわけですね。

[解法] 地球の風系に関する問題。気候はこうして理論を問うてくることが多い。抽象的な図を理解する能力も重要。さらに、「正文」判定問題である。3つの文章が「誤り」であることを指摘しないといけないのだが、それだけに確実な知識が必要とされる。

ただ、ポイントを絞るのは容易だと思う。それぞれの選択肢において、「上昇気流」と「下降気流」、「同程度」と「少ない」という「反対語」の組み合わせに注目すればいい。

とはいえ、気候(風系)について理論を理解しておかないといけない。太陽からの受熱量の大きな赤道周辺(A)では、大気が膨張し低気圧となる。熱帯収束帯が形成され、「軽く」なった空気は上空へと昇っていく。

この空気は上空を高緯度方向へと移動し、やがて緯度25〜30度付近(B)で下降し、この緯度帯に高気圧の帯をつくる。これが亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)である。高気圧からは風が吹き出し、低緯度方向に向かう風は貿易風(北半球では北東風、南半球では南東風)、高緯度方向に向かう風は偏西風(北半球では南西風、南半球では北西風)である。

一方、太陽からの受熱量の小さい両極周辺では大気は収縮し、高気圧となる(極高気圧)。周囲へと風が吹き出し、極風(極東風)と呼ばれるこの風は北半球では北東風、南半球では南東風である。貿易風と極風が会合する、緯度50〜60度付近(C)には寒帯前線が形成され、これは低気圧である。寒気と暖気がぶつかり、その境界に薄い雲が生じる。

以上。簡単に地球の風系(気圧帯と惑星風)について説明してみました。文章だけじゃわからないって?いやいや、文章だけで理解できるレベルにまで学習を深めてください。この程度の説明、軽く読み流せるぐらいにならないと解答はおぼつかないぞ!

さて、以上のことをふまえて、それぞれの選択肢を分析していこう。

①について。Aは熱帯収束帯。「上昇気流」が発生する。上昇気流は降水と結びつき(空気が上空で冷やされ、雲ができるのです。熱帯収束帯のもとではスコールが降る)、降水量は多い。気温が高いので蒸発量も多いが、それでもバランス的には「降水量>蒸発量」であり、「湿潤」となる。誤り。

②について。Bは「亜熱帯高圧帯」。「下降気流」が発生する。下降気流により上昇気流が抑えられるので、雲は生じにくく、降水量は少ない。気温は高く、蒸発量が多くなる。「降水量<蒸発量」となる。これが正しいんじゃない?正解。

③について。Cは「寒帯前線」。(密度の低い)暖気が、(密度の高い)寒気の上に押し上げられ、その境界に前線とよばれる薄い雲ができる。空気が上方に向かうので、「上昇気流」と考えてよく、文章の最初の部分は正しい。しかし、問題は後半。前線はやや降水がみられる。これに対し、この緯度帯は太陽からの受熱量が少なく寒冷であるため蒸発量は少ない。「同程度」とはいいにくく、誤りとなる。「降水量>蒸発量」の「湿潤」である。

④について。極高気圧が形成され、「下降気流」が発生するのは間違いない。ただし、降水量と蒸発量のバランスはどうか。たしかに降水量は極めて少ないと思っていい。北極や南極など極端な寒冷地域では雲は生じず、降水量はゼロである(みんなが北極や南極でイメージする「降雪」は「吹雪」であるので勘違いしないように。山岳部の氷が、激しい風によって巻き上げられ、風下側の地域へと襲いかかる)。しかし、それだからといって「降水量が蒸発量より少ない」と言っていいのだろうか。極めて寒冷であるので(夏ですら平均気温が0℃を下回る氷の世界である)、水分は蒸発せず、こちらもゼロとみていいだろう。明らかに「少ない」とは言いにくく、誤りと判定する。

[アフターアクション] 地球の風系の問題であるが、気候に関してはこうした理論を問うものが中心であるので注意が必要。形式的にも内容的にも、2013年度地理B本試験第1問問1と類似しているので、チェックしておこう。いずれも「湿潤」と「乾燥」という概念が重要となっている。降水量が蒸発量より大きいのが「湿潤」、降水量が蒸発量より小さいのが「乾燥」。地球全体で考えれば、降水量と蒸発量は同じなので、日本のように湿潤な地域があるのならば、同じ分だけ乾燥地域も存在することになる。

蒸発量は気温と比例するので、原則として緯度との関係が大きい。緯度によって太陽からの受熱量が変化するからである。

降水量も気温と比例する傾向があるが(飽和水蒸気量を考えた場合、高温の空気はより多くの水分を含み、大きな雲をつくることになる。低温はその反対)、しかし決して蒸発量と一致しないのは、緯度によって形成される気圧帯が異なっているからである。赤道周辺は低圧帯(低気圧)で降水量が多くなるのに対し、緯度20〜30度付近は高圧帯(高気圧)で降水量は少なくなる。

こうした地球の風系を科学的に理解することが何より大切なのだ。気候は「暗記」より「思考」が重要!

[2]

[ファーストインプレッション] 「災害」という言葉が用いられているが、メインテーマは「自然」そのものだろう。文章正誤問題だが、下線部が施されているので、ターゲットは絞りやすいと思われる。

[解法] ①について。梅雨前線とは、寒帯前線の一種で、日本を中心とした東アジアを初夏に覆うもの。つまり固有名詞と考えるべきで、インド洋に「梅雨前線」は明らかおかしい。誤りである。そもそも前線とは寒気団と暖気団の間に形成されるもの。インド洋付近のような低緯度地域において、寒気団の存在は考えにくい。

②について。文章全体の正誤はよくわからないが(つまり、干ばつの原因が果たしてエルニーニョ現象であるのか否か、ということ)、本問は下線部のみの判定なので、そこにはこだわらない。「太平洋西部の海水温が異常に上昇する」のがエルニーニョ現象であるかどうかが問われている。ポイントは2カ所。一つは「太平洋西部」、一つは「上昇」。エルニーニョ現象は、南アメリカ太平洋岸の低緯度近海(エクアドル〜ペルー)で生じる。この海域は、通常時は寒流であるペルー海流の影響によって海水面の温度は極めて低い。足元が低温であると上昇気流が生じず(これを大気が安定する、という)降水量が少なくなる。「降水量<蒸発量」のバランスより、エクアドルからペルー、そしてチリ北部(*)に砂漠が生まれるのだ。これに対し、エルニーニョ現象という異常な状況がしばしば生じるのだが、通常時が「低温」であるので、この現象については、水温の「上昇」と解釈して欲しい。水温が上昇し、多くの水分が空気中に蒸発し、また足元の空気が温められ膨張することで気圧が下がり、上昇気流も生じる。局地的な集中豪雨も生じることがあり、これがエルニーニョ現象なのである。「上昇」は正しい。そして、もちろん「太平洋西部」が誤っていることに気づいたかな。南アメリカ大陸の「西」側の海域の水温上昇がエルニーニョ現象だが、太平洋全体からみれば、ここは「東部」だね。誤文です。

③について。Lは日本列島だが、「豪雪」とあるので、日本海沿岸地域だろう。ここで雪が降る原因は、北西季節風の影響。シベリアに発生する巨大高気圧から風が吹き出し(季節風・モンスーン)、この風が日本海上空で水分を十分に含み、日本列島にぶつかる。地形性降雨によって雪雲を生じ、日本海側の山間地域を中心に激しい雪をもたらす。「太平洋からユーラシア大陸」では方向が逆である。誤文。

④について。熱帯低気圧の中でとくに巨大なものを、台風(太平洋北西部)、サイクロン(インド洋やオーストラリア近海)、ハリケーン(北アメリカ大陸)という。寒気と暖気が混じり、前線をともなうのが温帯低気圧だが、熱帯低気圧は低緯度の高温地域にて発生したものであるため、前線をともなわない。いずれも低緯度の水温が27℃以上である高温の海域で生まれ、転向力(**)のはたらきによって成長し、巨大な「渦巻き」となる。渦の方向は決まっていて、北半球では中心に対し周囲を反時計回りに空気が流動し、南半球では反対となる(コマを想像するといいかもしれないね。北半球では反時計回りのコマ、南半球では時計回りのコマ)。Mは「低緯度海域」の条件は満たし、熱帯低気圧は発生し、さらに北アメリカ周辺であるので「ハリケーン」は適切。正文である。

(*)チリ北部の砂漠については、寒流の影響に加え、亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の作用も強い。世界で最も乾燥する大地である。

(**)地球の自転の作用によって生じる見かけ上の力のことで、空気や水のように摩擦力の少ない状態で動いているものはその影響を受ける。北半球では、進行方向に対し右向きの力となり、南半球では同じく左向きの力となる。たとえば、遊園地のメリーゴーラウンドのように回転している物体を考え、外側から円の中心へと真っ直ぐ歩いてみよう。自分は真っ直ぐ歩いたつもりでも、君の軌跡は必ず曲がってしまうはずだ。このように、地球が回転しているため、その表面を移動するものもその影響を受けてしまうことがわかるだろう。巨大な低気圧が発生するためには、この転向力の作用が必須となる。

[発展]さらに熱帯低気圧。低気圧に向かって風が吹き込み、その風が捻じ曲げられることによって中心部を集会する渦がうまれる。この渦が大きければ大きいほど低気圧は巨大化し、台風やサイクロン、そしてハリケーンとなる。低気圧の成長のためには転向力が必要となるのだが、しかし、実は赤道直下の地域では転向力は作用しないのだ。「北半球は右向きの力、南半球は左向きの力、赤道直下では無し」が転向力。そのため、いくら熱帯地域であろうと、赤道直下では熱帯低気圧は発生しない。おおよそ緯度10〜20℃ぐらいの、フィリピンや南シナ海(台風)、ベンガル湾やマダガスカル周辺、オーストラリア北部(サイクロン)、カリブ海やメキシコ湾(ハリケーン)が「台風の巣」となるのだ。

{発展2}さらに熱帯低気圧。上では「赤道直下以外の低緯度海域」において熱帯低気圧は生じると言ったが、実はこれも不正確。海流の流れを考えて欲しいのだが、低緯度海域においては大洋の西部(大陸東岸)を暖流が、大洋の東部(大陸西岸)を寒流が流れる。いくら低緯度海域であっても、寒流の影響により水温が低い場合は熱帯低気圧は生じない。太平洋の北半球においては、フィリピンから日本における海域では発生するが(日本海流)、カリフォルニア州かメキシコの沿岸では発生しない(カリフォルニア海流)。太平洋の南半球においては、オーストラリアの北東岸(東オーストラリア海流)、南アメリカ大陸の沿岸では発生しない(ペルー海流)。大西洋の北半球では、カリブ海やメキシコ湾では発生するが(メキシコ湾流)、ポルトガルやアフリカ大陸北東岸では発生しない(カナリア海流)。大西洋の南半球では、ブラジル沿岸では発生する可能性はあるが(ブラジル海流)、アフリカ大陸南西岸では発生しない(ベンゲラ海流)。

[アフターアクション] 「解法」でいろいろと細かく語ってしまったけれど、そこまで深くは覚えなくていいです。たしかに熱帯低気圧に関する出題は多いけれど、本問の選択肢4にみられるように、難しい内容を問うているわけではない、

他の選択肢についても、注意深く読んでいけば、決して判定は難しくないと思う。とくに選択肢2や選択肢3はたいへん参考になる。選択肢2は「西部:、「上昇」という反対語を持つ言葉(西部は東部、上昇は下降が反対語になるね)が用いられ、誤文を作りやすい文脈となる(なお、「エルニーニョ現象」といったカタカナの固有名詞が誤りである可能性は限りなく低いので、この言葉については正誤判定するまでもない)。同じく、選択肢3には「太平洋からユーラシア大陸」というひっくり返したら誤文にできる部分が含まれているね。こうした「誤文」を作りやすい文章をみつけるのも、とても大切なのです。

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[ファーストインプレッション] 世界地図レベルで「砂丘」や「三角州」など比較的規模の小さな地形を取り上げているのが珍しい、っていうか、判定が難しい。でもポイントはそこじゃないから問題ないかな。いわゆる内的営力が重要なのです。

[解法] 火山に関する問題。とにかくセンター地理で火山が登場したら要注意!火山の存在する場所は限られているのだ。

誤りは①。ヨーロッパでの火山の分布は限定されている。アイスランド島、そしてイタリア半島など地中海沿岸の一部の地域だ。しばしば「新期造山帯=火山」と勘違いしている人がいるが、それは改めて欲しい。アルプス山脈など新期造山帯の多くの山脈は褶曲山脈といい、激しい地殻変動によりプレートがねじ曲がることによって生じたものであり、こうした地形では火山は生じない。火山が存在する地域を一つ一つ個別に覚えていった方がいい。

このことより、①が誤りである。「カルデラ」の有無を問うまでもなく、スカンディナヴィア山脈には火山は存在しないのだから、これが誤りとなる。

②について。「砂丘」とは文字通り「砂の丘」。日本の鳥取砂丘のように、砂浜海岸となる沿岸部によくみられるものだが、単なる砂の丘と考えた場合には、世界中のいかなる場所にでも存在する可能性はある。イは中央アジアの乾燥地域であり、砂漠が広がっている。砂漠の多くは、岩石砂漠であるが、一部では岩石が風や雨の影響によって風化する(粉々となる)ことで、砂となることがある。砂砂漠である。こうした地形ならば、砂丘が生じるとみて誤りではないだろう。正文である。なお、「砂丘」と「砂漠」を混用している人はいないだろうか。砂丘とは何度も繰り返すようだが「砂の丘」のことであり、例えば子どものころに公園の砂場などで砂の山をつくったことを思い出して欲しい。あれが砂丘のイメージ。これに対し、砂漠とは乾燥(蒸発量の方が降水量より多い状態)の度合いが高く、植生が失われた状態。例えば、植木鉢で植物を栽培している時に、水を与えるのを忘れてしまい、干からびてしまったりする。植物が枯れてしまった、その状態を砂漠という。砂丘は地形用語であり、砂漠は植生用語である点に注意してほしい。

③について。ウの地域は環太平洋造山帯に含まれる険しい山脈が連なる。地殻変動によって形成されたものである。なお、この地域には火山が分布する。

④について。「三角州」は沖積平野に含まれる地形で、河口付近に土砂がたまり、陸地となったもの。淀川の運んだ土砂により形成された大阪平野などが典型例。こうした小規模な地形(小地形)が世界地図上で問われることは稀だが、エは重要なのでぜひ知っておいて欲しい。五大湖方面からメキシコ湾へと注ぐ、アメリカ合衆国を北から南に流れるのがミシシッピ川。河口の三角州は、鳥し(ちょうし。「し」は鳥の足)状三角州となっている。沿岸に開かれた河港を中心に発展した都市がニューオーリンズであり、かつて黒人奴隷が運び込まれ、現在でもアフリカ系の住民が多くなっている。2006年には巨大なハリケーン「カトリーナ」の襲来を受け、大きな被害を受けた。

[アフターアクション] 火山の場所は頻出なので、必ずチェックしておこう。

意外に「新期造山帯=火山」って覚えている人が多いんじゃないかな。でも、新期造山帯であっても内陸部に形成された褶曲山脈(アルプス山脈やヒマラヤ山脈、チベット高原)には火山は形成されないなど、例外が多すぎるので、直接場所を覚えてしまった方がいい。

火山がみられる地域は以下の通り。

1)オーストラリアを除いた環太平洋地域

そのものスバリ環太平洋造山帯と考えていい。シベリア東部、日本、フィリピン、インドネシア、ニュージーランド、アンデス山脈、北アメリカ大陸の太平洋岸。ただし、太平洋岸であってもオーストラリアには火山はないので注意。

2)カリブ海の島々

カリブ海には日本列島と同じように弧状に並んだ小さな島々がみられる。これは火山島。カリブ海の島々も、環太平洋火山帯から派生した火山帯の上に成り立っているのだ。

3)アイスランド島

アイスランド島は、プレートのひろ大西洋中央海嶺の上に形成された火山島である。

4)イタリア半島

ヨーロッパは北部で古期造山帯、南部に新期造山帯の地形が広がるものの、火山は少ない。イタリア半島など地中海沿岸地域にいくつか見られる程度。

5)キリマンジャロ山

アフリカ東部の赤道付近に位置する成層火山。プレートの広がる境界であるアフリカ大地溝帯に沿って形成。

6)ハワイ

プレート中央部のホットスポットに形成。他の火山と違って、プレート境界に形成されたものでないことに注意して欲しい。

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[ファーストインプレッション] 今までに見たことのないグラフだが、その意味がわかるかどうかが合否の境目じゃないかな。10万年っていえば、人類の歴史からすればはるかな昔。そこから何回か気温が大きく低下した時期があり、その中でも最も現在に近いものがP。気温低下の時期あ氷河期であり、Pは今から数万年前の「最終氷期」なのだ。

[解法] 見慣れないグラフ。横軸は年代。「10万年前」っていったら、今の人類が生まれたぐらいの遥か古代。縦軸が気温。地球の温度は年代によって大きく変動してきたのだ。グラフから判読するに、大きいものだけでも3回の気温低下期つまり氷河期があったようであり、その中でもつい数万年前のPの時期は最終氷期に当たる。地球全体の平均気温が下がり、高緯度の広い範囲を大陸氷河が覆っていた。その分、海水面は低下し(陸上の氷が増えたので、海水は減ったってことだからね)、日本列島と朝鮮半島が陸続きになっていた。

さて、基礎的な知識を確認して、選択肢の文章を確認していこう。

まず①について。海岸線が現在より沖合に存在していたということは、陸地の面積が広かったってことだよね。海水面が低下していたのだから、当然こうしたことは言えるはず。これは正文でしょう。

②について。高山における森林限界って意味がわかるかな?例えば、ほぼ赤道直下であるアフリカのキリマンジャロ山を例にとって説明してみよう。この山においては、標高の低い山麓部は「熱帯」気候がみられ、ジャングルに覆われている。それがやや標高が高くなると気温が低下し、「温帯」気候となるのだから、温帯林が広がる。さらに高所では寒冷な気候、つまり「冷帯」となり、この気候に適した樹木である針葉樹林がみられる。そして、さらに標高が上がると極めて寒冷となり、森林すら生育できない荒れ地となる。標高6000メートルを越えるような山頂付近は、氷の世界となり、山岳氷河や万年雪に年間を通じて閉ざされている。

現在のこの状態よりさらに気温が低い時代のことを考えてみよう。山麓付近ですでに温帯であるかもしれない。針葉樹の高度隊も低くなるはず。山頂付近の「氷の世界」もその範囲を広げ、標高4000〜5000メートル付近まで山岳氷河や万年雪が拡大していたとも考えられる。どうだろうか?森林が生育できる範囲が狭ばり、つまり森林がみられる限界の高度は下がっている。森林が「現在より標高の高い地域に分布していた」とは思えないのだ。これが誤りでいいと思う。正解は②。

③について。現在の大陸氷河やグリーンランド内陸部(沿岸部の氷は夏には融けるのだ)と南極大陸。最終氷期にはヨーロッパ北部や北アメリカ大陸北部、ニュージーランド南部や南アメリカ大陸南部に及んでいたことを考えると、「大陸氷河が現在より低緯度側に広がっていた」のは確かだろう。なお、「大陸氷河」と「大陸氷床」は同じもの。分厚い氷が大陸の上に乗り上げているのだ。

④について。ツンドラというのは北極海周辺にみられる荒れ地のことで、短い夏の間のみ表面の雪氷が融解し、一面にコケ(地衣・蘚苔)が繁茂する。氷河の周辺にみられ、氷河が低緯度方面にまで拡大すれば、ツンドラの範囲もそれに引きずられて広がる。

[アフターアクション] グラフがちょっと読み取りにくいんだよね。ただ、本問についてはグラフの読解は問題とされず、文章をしっかりと読むことが大切となる。「森林が少なくなるなんてヤバいじゃないか」なんていう直感だけで解くのではなく、「地球全体の気温が下がることで、もしかしたら湿潤地域が増えるんじゃないか」っていう冷静な判断もして欲しいのだ。決して難しいことではないと思うよ。

[5]

[ファーストインプレッション] 災害に関する問題かぁ、最近のトレンドですね。とはいえ、災害に特化した問題というより、地形や気候がメインの内容になっているんじゃないかな、過去の出題例を考えると。本問はどうなんでしょう。

[解法] 災害に関する問題であるが、自然環境との関係を考えないといけない。

①について。「液状化」は地盤が水分を含んだ、湿った地質であることが重要。「旧河道」はかつて河川であった低地であるので、この条件は満たす。正文とみていい。

②について。「断層」仁杏する事例が問われている。「震源が浅い」ことが絶対的ではないが、「ずれが現れる」ことは間違いない。正文とみていい。

③について。「沖積平野」と「台地」が比較されている。このような『比較の構造』を含む文章は誤文となりやすい。重点的にチェックしていこう。「地盤が強固」とある。沖積平野とは、主に河川の堆積によって形成された平坦な地形であり、扇状地、氾濫原、三角州が含まれる。このうちとくに氾濫原や三角州は低湿地であり、地盤に水分を多量に含む。台地は高燥であり、こちらは水分が少ない。たしかに、地震による土砂崩れなどの災害はみられるかもしれないが、「地盤が強固であるか否か」を問う場合には、台地が強固、沖積平野が軟弱(強固の反対語は軟弱)であることは間違いないだろう。これが誤文となり、正解となる。

④について。こちらも沖積平野と台地との比較。沖積平野は先にも述べたように、扇状地、氾濫原、三角州を含むものだが、氾濫原以下の低湿な地形を考えるのが普通。とくに三角州は沿岸部に位置し(そもそも、元々浅い海底だった部分に土砂が溜まって形成された低湿地が三角州なのだ)、津波に限らず、水による被害は受けやすいのである。これに対し、台地は標高が高く、水害は及びにくく、津波の際もその被害からは免れるだろう。正文である。

[アフターアクション] なるほど、最近模試をつくった際に「洪積台地」という言葉を入れたら、最近の教科書では洪積台地という言葉は使われず、全て単なる「台地」と言いかえられていますよと指摘を受けたんだか、たしかにそうなんだろうね。こちらも「台地」という言葉が用いられている。「沖積平野」の反対語としては「洪積台地」の方がピッタリくるけれど、その言葉が使われなくなった以上、本問のように「台地」という言葉に特別な意味を持たせないといけない。もっとも、沖積平野も厳密には扇状地も含まれるので、その全てがそうというわけではないけれど、一般的な傾向として「沖積平野=低湿」と考えないといけない。それに対し、洪積台地すなわち「台地」は「高燥」と考えるべき。高燥とは低湿の反対の概念で、周囲の地形に比べ標高が高く、地盤も水分を含んでいない。水が得にくいため、土地利用としては「田」より「畑」や「樹林」が一般的となる。

[6]

[ファーストインプレッション] 簡略化した地形図を用いた災害に関する問題。最近このパターンが多いね。定番化した印象。例年、難問は出題されていないが、今年はどうか。

[解法] 図の読解を正しくしないといけない。まず「平野」であることは絶対的な事実であるが、図中に示された等高線より、やや傾斜のついた地形であることがわかる。北で「20」メートル、南で「4」メートル。点線で描かれた等高線の間隔は、高度差2メートルごとである。

平野のほぼ中央を河川が流れている。一見すると道路のように見えるからややこしいね(笑)。両岸を堤防によって囲まれている。北から南に向かって流れ、等高線が上流側に向かって凸となっていることから、やや低い谷状の地形に沿って河川が流れていることがわかる(つまり天井川ではないってことね)。

激しい洪水が生じ、カの地点で堤防が決壊する。カは標高10メートルの地点である。これより標高が低いところに水が溢れ出し、浸水に見舞われるのだが、Xは標高12メートルに位置し、洪水被害は免れる。これに対し、YとZは流れ出る河川水の被害を受けることになるのだが、とくに深い浸水となるのは、より低地に位置するZであろう。Yは斜面上に位置し、河川水はすぐに流れ落ちる。これに対し、Zは水浸しとなり、洪水の被害は大きい。

よって正解は、「高」がZ、「中」がY、「低」がXで、⑥となる。

今までになかった内容の問題だが、図の読み取り、「堤防が決壊」、「浸水する可能性」といった言葉に注意すれば、解けない問題ではなかったんじゃないかな。

[アフターアクション] 地形図問題の一種ととらえるべきだろうね。知識ではなく、図の読み取りが重要。数字を読み取り、土地の傾きを想像する。立体視が重要であるのは、他の地形図問題と変わらない。

[間違えました!] いや、これ難しいでしょ。正解は⑤だって!?「浸水する可能性の高い」であって、浸水の深さが問われているわけではないのが要注意って感じなんかな。

なるほど、言われてみれば、Yってすごく危ないところにあるわけよ。等高線から判定するに(等高線が上方に向かって出っ張っているよね)、ここは「谷」であり、周りから水が集まってくる。もしかしたら、図には示されていないけれど、そもそもYには川が流れているのかも知れない。

カて堤防が決壊すれば、濁流な谷に沿って流れ、Yを猛烈な勢いで水流が流れ落ちることになる。たしかに最も「浸水する可能性の高い」のはYで間違いないのだろう。

Zは等高線の様子からみて、単なる緩やかな斜面といった感じ。「尾根」ではないが、決して「谷」というほどの地形ではない。Yでは谷に沿って水が集まるのに対し、こちらは周辺に比較的広く水が分散し、さほど浸水の被害は大きくならないだろう。カより標高の高いXが浸水被害から免れるのは間違いないとして、「浸水する可能性」は。Y>Z>Xの順番になると考えて妥当だろう。

[言い訳] 「浸水する可能性」っていう言葉があいまいすぎるんだわ。過去問で、浸水した際の水の深さを問う問題があって、その類似問題と思って解いてしまったというわけなのです。でも、それでは端に土地の高低(つまり標高)だけを見ればよく。問題として単純すぎるもんね。もっと深読みしなあかんかったってことなのかなぁ。いやぁ、難しいっす。