2014年度地理B追試験[第2問]解説

第2問 エネルギーに関する大問。これ、やばいよ。センター地理の「反原発」の姿勢が明らかにされている。欧米諸国は原発に慎重的な姿勢である(問1)。日本は火山国であるのに、なぜか地熱の有効利用が進まない(問2)。そもそも日本に薪炭材を利用する文化があったのに、現在それは顧みられていない(問4)。どうなんだろう?将来の日本のエネルギー政策についての提言が、センター地理の問題の中で行われていることには、ボクらは気づかないといけない。

問1 [インプレッション]非常に興味深い!センター地理の基本概念として、あきらかに「反原発」がある。もちろん教科書にはこんなことは書かれていないし、授業でも扱われないだろう。でもセンター試験という舞台においては、根底的に反原発の思考が貫かれているような気がする。本問にしても、能天気に原発の再稼働に一生懸命な日本を差し置いて、既に欧米では古い時期より脱原発の流れは明らかにあり、将来的に原発は廃止されることが確定路線である。日本人が知らないこのことが、センター地理では明確に叫ばれている。

[解法]原油の生産量に関する問題。グラフの読み取りというより、そのような動きがなぜ生じたか、知識が問われている。知識といってももちろん地名や都市名のような地図帳的な知識ではないけれど。
最重要は選択肢①。さて、アメリカ合衆国で本当に「原子力エネルギーへの依存度が高まった」のか。そもそもが、日本を除く先進国において積極的に原発建設に取組む国はない。とくにアメリカ合衆国については、スリーマイル島原発事故という十字架をかかえている。1980年代に生じたこの事故によって、国内の原発推進の世論にかげりがみえ、これ以降は新たな原発の開発に慎重となった。アメリカ合衆国において、原子力エネルギーの依存度が高まるわけはないのだ。①が誤り。
スリーマイル島の原発事故からの原発政策の転換なんていうネタは世界史か現代社会であって、地理的な要素は少ない。でもセンター地理ではこうして真正面から取り上げられているのだ。センター地理の原発に対する見方が伺える、非常に興味深い問題。

[アフターアクション]とりあえず欧米においては原発は縮小の流れにあると考えていいんじゃないかな。ロシアや中国など発展途上国はともかくとして、先進国で今だに原発原発と騒いでいるのは日本だけっていうこと。


問2 [インプレッション]ベタな統計問題の雰囲気。確実に得点し、さらに時間も節約する。

[解法]最初に。アメリカ合衆国や中国、日本のようなそもそもの発電量が大きな国に注目するのは得策ではない。特色ある発電が行われている、比較的規模の小さな国がポイントとなってくる。
最も分かりやすいものが地熱。イタリア、アイスランド、そして環太平洋。火山国で行われている。フィリピンとインドネシアに着目。アが地熱。
風力は偏西風の影響が強い西ヨーロッパの大西洋沿岸諸国。なるほど、イではドイツ、スペイン、ウではドイツ、スペイン、イタリアと判定が難しい。でも、ここで考えてみよう。たしかに西ヨーロッパではあるのだけれど、イタリアは大西洋に面している国ではなく、偏西風の影響は明確にみられるものか?新期造山帯の山岳国であり、さほど風力発電に有利とは思えない。このことから、イタリアが含まれているウを太陽光と判定し、残ったイを風力とする。イタリアがポイントでした。

[アクターアクション]第一印象とは異なり、実は難しい問題だった!絶対的なポイントはイタリアだよね。晴天日数が多いことも太陽光発電にとっては有利な条件となる。なお、日本は世界で最も火山密度が高い国の一つでありながら、地熱発電は有効に行われていない。むしろ世界的にみて降水量が多い国であるのに(つまり晴天日数が少ない)太陽光では3位にランクインしている。どうなんだろうね、日本の発電に対する考え方、ちょっとおかしいような気がするな。


問3 [インプレッション]「農業にも電気やガソリンなど多くのエネルギーが使用される」っていう導入の文章がいいなぁ(笑)。内容的にはベタな農業に関する問題。こういう問題って、北海道や関東地方がポイントになったりするんだよね。これはどうかな。

[解法]「農業産出額当たりのエネルギー使用量」っていうのがキテるね。おそらくビニルハウス栽培を考えたらいいんだろうけれど、宮崎県や高知県では野菜の促成栽培にビニルハウスを利用し、当然電気代やガス代がかかる。カとキのどちらかが「農業産出額当たりのエネルギー使用量」。
さらに北海道に注目。「農家1戸当たりの耕地面積」は絶対北海道が広いでしょ?カとクのいずれかが「農家1戸当たりの耕地面積」となる。
「耕地面積当たりの農業産出額」っていうことは要するに土地生産性なわけだ。「収穫量÷耕地面積」であり、北海道のようは広い土地で農業を行う地域ならば、この値は必然的に下がる。また、農産物の種類で言うならば、穀物など比較的安い作物を栽培している地域ならばこの値は低くなるし、野菜など高価格の作物が中心なら値は高くなる。近郊農業がイメージしやすいんじゃないかな。都市周辺は地価も高いし、価格の高い野菜を生産して、東京のような大都市に出荷する。関東地方で典型的な農業。このことからキを「耕地面積当たりの農業産出額」と考える。
以上より、カが「農業産出額当たりのエネルギー使用量」、クが「農家1戸当たりの耕地面積」となる。なるほど、北海道の農家って機械化も進むし、電気とかガスは結構使っているんだね。

[アフターアクション]これ、おもしろいね。歯ごたえがある問題だった。頭をスゴく使う。こうした問題を通して、センター地理のおもしろさに気づいてほしいな。


問4 [インプレッション]バイオマスを正面から取り上げた問題。本当に最近のセンター地理はこうしたエコに関する問題が多い。とくに追試で。逆にいえば、本試験ではないのは何か意味があるんだろうか。

[解法]正解は③だね。これは結構ベタな問題だと思う。ブラジルで主にバイオエタノールを採取しているのはサトウキビである。世界最大のバイオエタノール生産国であるアメリカ合衆国(そもそも母数である全体のエネルギー生産・消費量が大きいので、割合としては小さいが)では主にトウモロコシが使用されているようだが、それにしても栽培時に多くの燃料(石油など)を使用しているので、効率は悪いんだそうだ。それに対し、ブラジルのサトウキビによるバイオエタノールは効率が良く、模範的なエネルギーともいわれている。
①のネタなんか良いよね。バイオマスは植物性と動物性があるんだが、植物性に関しては成長時に光合成によって取り込む二酸化炭素が、燃焼時に発生する二酸化炭素とある程度相殺される(これをカーボンニュートラルという)ので、①のような状況となる。
②も結構好き。最近はバイオマスについても要するに薪炭材のことだよねっていう考えがセンター地理でも大きく取り上げられている。森林のこうした効能にもっと注目してもいいかな。
また、たしかに④のようなこともいえるので、良かったら知っておいて。でも、個人的な見解としてはこうしたリスクもありながら、それでもやっぱりバイオマス(バイオエタノール)には未来があると思う。

[アフターアクション]ちょっと前の問題で、アラル海の縮小の話題が取り上げられた。アラル海周辺では灌漑によって綿花が栽培され、そのことで湖水減少という環境問題が生じている。この綿花が「サトウキビ」と取り違えられ、間違い選択肢として出題されている。農作物の種類の違いって本当に頻出なので、最重要チェック項目としてください、


問5 [インプレッション]ブリックスはともかくとして、製造業の中の内訳を聞いてくるとはぶっ込んでくるね〜(笑)。例えば西アジアにおいて、建設業が製造業より多いっていうネタは結構出題されているんだけど、さらに製造業を区分してくるのだから、これは手強い.幸いブリックス諸国は個性派揃いなので、取りつく島は多いとは思う。

[解法]製造業の中の内訳を問う問題。選択肢は機械、食料・飲料、繊維。
製造業についてはとりあえず1人当たりGNIを中心に考えるのがセオリーなわけだ。労働集約型工業については、賃金水準の目安となる1人当たりGNIの高低によって特色づけられる。
さらに工業種が問われているわけだから、統計を中心に考えてもいいだろう。機械については範囲が広すぎるだろうか、しかし繊維ならば衣類の生産に対応させればいい。食料・飲料は(ビールなどを除けば)比較的原料立地になりやすいものであるし、農業や畜産業と関連させて考えられるだろう。
では、これだけのことを頭に入れて、表を観察し、推理する。
サについて。ブラジルが高く、中国が圧倒的に低いのだ。
シについて、これは中国が高い。インドがやや低いかな。
スについて。インドが飛び抜けていて、逆にロシアやブラジルは皆無に近い。
まず最も明確なものとして繊維を考えてみよう。衣類の2大生産国は中国とインド。いずれも低賃金(1人当たりGNI)で安価な労働力が得やすく、衣類工業には有利。また綿花の世界的な生産国(中国1位、インド2位)であり、これを利用した繊維工業は発達しやすいはず。比較的賃金が高いロシア、ブラジル(ともに1人当たりGNIは約10000ドル)では衣類工業つまり繊維工業は成立しにくいだろう。スが繊維となる。
さらに機械について。先に具体的なものは考えにくいとは言ったが、とりあえず自動車や電気機械全般をイメージするべきだろう。現在世界最大の自動車生産国は中国。もちろんインドやブラジルも世界10位までに入る自動車生産大国ではあるが、中国には及ばない。それ以外の機械類についても日本などから多くの工場が進出し、中国は世界で最も製造業の集積した国となっている。このことから、シを機械と考えて妥当だろう。
残ったサが食料・飲料。どうだろう?ブラジルで割合が高くなっているが、これには納得じゃない?ブラジルはサトウキビやコーヒーのような工芸作物(加工が必要な作物)の生産が多いし、さらに牛の飼育等数も世界一であり、食肉加工業も発達しているはず。もちろん他の国も農業の盛んな国ではあるけれど、こうした状況を考えればブラジルに一日の長があるんじゃないかな。とくにつじつまの合わないところもないし、これで正解と思います。

[アフターアクション]実に歯ごたえがある問題だった。模試でこのレベルの問題は(難易度的に)作りにくいとは思う。ブリックス4か国の1人当たりGNIは覚えておいて(ロシアとブラジルが約10000ドル、中国が5000ドル、インドが2000ドル)、それぞれの賃金水準と工業種を結びつける。さらに今回は衣類生産国としてインドが2位であることがポイントとなったように、工業製品の統計については深くコミットしておくこと。1位の国は当然必須なのだが、できれば2位以降の特徴的な国も知っておこう。そもそも中国が1位の工業製品統計が多すぎるからね(笑)


問6 [インプレッション]地味な問題(笑)。日本企業の立地の変化。1人当たりGNIなど、経済を中心に考えてみよう。

[解法]①;自動車工業は、単純労働力に依存する労働集約型工業。安価な労働賃金を求め、中国やタイ(いずれも1人当たりGNIは5000ドル程度であり、賃金水準は低い)へと生産の拠点が移動することは妥当。ここでは「新たな市場開拓」とあるが、あまり気にしなくてもいいかな。現在中国は世界最大の自動車販売台数を誇る国であり、市場としての魅力も大きい(人口が大きい、つまりGNIが大きいからね)。
②;研究施設はたしかに大都市圏に集まりやすいんだわ。でも、生産施設はどうだろう?「集積回路の工場」とあるけれど、集積回路(IC)のような軽量高付加価値の機械製品というのは、遠方から輸送してもコストがかからないため、九州や東北地方の空港・高速道路の近くで生産が行われることがある。誤文とみていいね。
③;たしかに原油価格は高騰しているのだが、だからといって国内の石油化学コンビナートが閉鎖しているだろうか。例えば日本はプラスティックについては世界5位の生産国であり、石油価格工業が衰退しているわけでもない。統計に基づいて考えればいいんじゃないかな。これも誤文。
④;情報が集積する東京周辺に、出版・印刷業は集まる。地方には分散しない。誤文。
以上より、①が正解。いきなり①を正文としてしまってもいいけれど、②〜④の誤文判定も確実に行うと、正解率が上がる。

[アクターアクション]やはり第一印象通りの地味な問題。特殊な事例が問われているわけではなく、とくに①や④の内容などは絶対に知っておくこと。③はちょっと悩むんだが、製鉄所については戦前から稼働していたような古い施設は取り壊されているものの、石油化学コンビナートはそもそもそういった古い施設は存在しないしね(高度経済成長以降につくられたものばかりなので)。若干②の話題が古いような気がして悩むのだが(最近は大都市周辺に工場も多いように思う)、あくまでセンター地理の中での真理として「IC工場は地方に立地」で覚えておいていいんじゃないかな。