[地理総合・探究]2025年/本試験<第5問>解説
たつじんオリジナル解説[地理総合・探究]2025年/本試験 |
<[地理総合・探究]2025年/本試験・第5問問1解説>
[ファーストインプレッション]あら、また工業の問題! というより大問全体が工業に関するものだなんて。今回の試験ってジャンルがちょっと偏っている?逆にいえば、そもそもジャンルによる区分って意味が無いとも言えるね。一見すると「工業」ジャンルが多いんだけど、内側を見てみれば知識に頼る問題であったり図表読解問題であったり思考考察問題であったり。そのパターンはいろいろあるのです。この問題はどうなんでしょうね。
[解法]日本における工業の問題。日本地理は知識が問われることがあるので注意。中学地理は完璧に仕上げておいて、日本地理に関する話題は整理しておかないといけない。ただ、この問題の場合はそこまで知識が問われる雰囲気もないけれど。どうなんだろう?
資料が用意されているけれど、資料を最初に見たところで問題のポイントはわからない。先にjとkの文章を読解。jには「加工組立工業が成長し、生産工場が地方圏に立地した」とある。kには「基礎素材型工業の基盤整備が臨海部で進められた」とある。それぞれ対比的な言葉は「加工組立工業←→基礎素材型工業」、「地方圏←→臨海部」。これだけではちょっとわかりにくいので具体的な事例を頭に想起してみる。
加工組立工業って何だろう?「組立」っていうぐらいだから部品を組み合わせて製品としての機械をつくる工業だろうか。電気機械工業や自動車工業が具体的には思い浮かぶんじゃないかな。これは労働集約型工業である。生産コストにしめる労働力の割合が高い。多くの単純労働力に依存する。できるだけ賃金水準の安い地域にこそ立地するね。国際的に考えれば1人当たりGNIの低い発展途上国に工場が進出する。なるほど、ここで「地方圏」とあるのは国内において大都市圏よりそれ以外の地方(農村など)の方が経済レベルが低く賃金水準が安いからなんだろうね。安価な労働力を求めて地方圏へと工場が進出している。
これに対し基礎素材工業って何だろう?これ、あまり聞いたことがないかも知れないけれどこの機会にぜひ知っておこう。素材という言葉からイメージできるんじゃないかな。機械などを作る時に必要となる鉄鋼やプラスチックのこと。鉄鉱石や石炭、原油を原料とし鉄鋼やプラスチックを作る。こちらは巨大な製鉄所や石油化がきコンビナートがその生産施設となる。日本の場合、これらの鉱産資源は国内では産出されないので多くを海外からの輸入に依存する。船舶によって輸送し港湾に接して製鉄所や石油化学コンビナートが設けられている。臨海指向型(臨海立地)だね。具体的にこれらの工場がみられるところってどこだろう?鹿島(茨城県神栖市)や水島(岡山県倉敷市)は有名だと思う。それ以外にも市原市(千葉県)や大分市にも臨海型の製鉄所および石油化学コンビナートがみられる。太平洋ベルト地域にこれらの工場が新設された時期は高度経済成長期。つまり1960年代だね。地理は「高度経済成長期の日本」の状況が問われる科目でもあるのだ。
これでjとkの意味は十分に理解できたと思う。では資料1に戻ると二つの空欄がある。一つが「1965~1975年」、一つが「1975~1985年」。どうかな?ピンときたんじゃないかな?より重要であるのは言うまでもなく前者。1960年代は高度経済成長の時代。それまで工業が発達していた三大都市圏(京浜工業地帯、中京工業地帯、阪神工業地帯)の周辺で工業開発が進み、大きな経済成長がみられ地方から人口が流入。急激な都市化が進んだ時代だね。工業生産の拡大とともに過密や公害などの社会問題も生じた。1970年代半ばのオイルショックを契機に高度経済成長は終わりを告げ、日本の産業構造は大きな転換を求められる。
高度経済成長期に当たる( ア )の空欄には鉄鋼業や石油化学工業に代表される臨海型の工業に関する事例が該当するのではないか。資源多消費型の重厚長大工業であり、資源を輸入に依存するので臨海部(とくに埋立地)に大規模工場が設けられる。莫大な資本による巨大工場施設によるこれらの工業種を資本集約型工業(*)ともいうね。当時が原油価格が安かったこともあり、太平洋ベルトの臨海部に次々と石油化学コンビナートが建設されている。アはkとなる。
残った( イ )についてはjが該当すると考える。こちらはオイルショック以降の時代。オイルショックによるエネルギー資源価格の高騰によって日本の基礎素材工業は大きなダメージを食らった。またそれまでは廃棄物の垂れ流しなどに全く無関心であった日本社会であるが、公害が大きな社会問題となり環境保全へと考え方がシフトしていった。資源多消費型の重厚長大工業からの転換が求められたのだ。
この時に重要になるのは自動車工業。本来、オイルショックの影響で工業全般が停滞するはずなのだが、日本の自動車生産だけはその例外だった。ガソリン価格の高騰によって低燃費の小型車が中心である日本車が世界的な注目を浴び、その生産を拡大していった。「オイルショックに負けずに」というより、「オイルショックを利用して」日本の自動車工業は活性化したのだ。日本の自動車生産台数はやがてアメリカ合衆国を追い越し、1980年代後半には世界第1位の座に着く。
Jの「加工組み立て工業」が必ずしもジャストミートで自動車工業を表しているのではないかも知れないが、この時期に資本集約型工業から(自動車工業を含む機械工業を中心とした)労働集約型工業にシフトして言ったことは間違いない。
「生産工場が地方圏に立地した」についてはさほど深く考えなくていいと思うよ。加工組み立て工業は労働集約型工業であり、単純労働力に依存する。労働力が安価であるほど収益性が上がり、賃金水準が低い地域へと生産拠点(工場)が移転する。国際分業ならば先進国から発展途上国へ、そして国内ならば大都市圏から地方圏に(なお、この「地方圏」という言い方はおそらく共通テストでは初登場なんじゃないかな。一般に「大都市圏」とは東京・名古屋・京阪神(大阪)の三大都市圏を指すので、日本国内のそれ以外のエリアと考えてみていいと思う)。2016年地理B本試験第6問問4で岩手県の時期ごとの製造品出荷額の割合は示されているので、よかったら注目しておこう。東北地方には意外に電気機械工場が多いけれど、これは高度経済成長期の後に低賃金の労働者の利用を目的としたもの。三大都市圏に比べれば東北地方のような地方圏は賃金が安い。
さらに次の年代には「生産拠点を国外に移す企業が増えた」とあるけれど、一部は80年代前半から工場の海外進出はみられたけれど、本格化したのは1990年代。こちらについては問題ないでしょう。
(*)今さら言うまでもないけれど「資本集約型工業」の反対語が「労働集約型工業」。資本集約型工業は「基礎素材」、「資源に依存し労働力は不要」、「現在でも日本のような先進国に比較的よく残る」、労働集約型工業は「衣服や機械などの完成品」、「資源は不要だが労働力が必要」、「先進国では成り立ちにくく発展途上国に流出」などの特徴があり、これらの2つの工業グループは対比的な存在である。地理テスト番付(?)でいえば横綱が1人当たりGNI、大関が亜熱帯高圧帯ならば、前頭筆頭ぐらいの上位に位置するんじゃないかな。
ではさらにAとBの判定。資料1「工業用地の面積の推移」に注目。1965年は高度経済成長の最中。そこから1975年にかけてAもBも用地が拡大している。まさに工業化が著しい時代である。従来の工業地域(北九州工業地帯も併せ四大工業地帯と呼ばれていたね)の周辺に新たに工業地域が設けられ(関東内陸工業地域、東海工業地域、瀬戸内工業地域など。こちらは「工業地域」です)太平洋ベルトが形成された。先ほど挙げた鹿島や市原、倉敷、大分の臨海部の開発もこの時代。三大都市圏だけでなくそれ以外のエリア(地方圏)でも工業用地が拡大した。
ただし、ここからはAとBとでちょっとした変化が生じている。Aはオイルショック以降は「停滞」。大きく減少しているわけではないが、それまでの急激な伸びに比べれば相対的に数値が減っているともいえるだろう。それに対し、Bは75年以降も順調にその面積を増やしている。これは東京や名古屋、大阪の近隣なのか、それとも東北地方や九州などの地方圏なのか。もう言うまでもないよね。「変化の背景」ですでに1975年以降の( イ )については「生産工場が地方圏に立地した」とある。75年以降の特徴的な動きとして地方圏への工場親切があり、Bを「地方圏」とする。
最後にちょっとおまけ。さらに「付加価値」についても考えてみよう。要するに「値段」のことだと思えばいいよ。例えば鉄鉱石は安いよね。自然の状態から拾ってくるだけだから。それを鉄に加工するとちょっと値段が上がる。鉄鉱石を溶解させて鉄を精錬する。それなりの手間がかかるから若干値段がかかるわけだ。
さらに鉄は機械の部品になってやがて機械製品に仕上げられる。これでさらに値段は上がる。つまり付加価値が高くなる。素材工業(鉄鋼やプラスチックなど)から機械工業(自動車や家電など)へと主たる生産物が変化したということはつまり「付加価値の高い」製品への主要生産物の転換が行われたということ。経済成長がみられる。
さらに言えば、現在はより「付加価値の高い」産業への転換が必要。自動車より付加価値の高いものとは?それはコンピュータであり、そしてハードよりソフトなのだ。先進国の多くではすでに「手」を使う工業から「頭」を使う産業へと産業構造が転換している。付加価値を高めること、それが経済成長であるのだ。
[アフターアクション]今回は第4問問5と第5問問3、そしてこの第5問問1と「産業構造の転換」に関する問題がダイレクトに出題され、第4問問1でも「脱炭素」がテーマとされるなど、現在先進国で生じている事象をリアルに体感することが我々には求められている。このダイナミックな流れに日本は乗ることができているのか。いつまでも製造業と化石燃料に依存し、先鋭化を進める世界の国々から脱落しているのではないか。1990年代から日本は30年間「停滞の時代」だったが、これからはそれどころではなく「もはや先進国ではない」のかも知れない。地理を学ぶみなさんは、どうすれば日本が最新の経済状況へとアップデートできるのか。そういったことを考えて欲しいと思います。
<[地理総合・探究]2025年/本試験・第5問問2解説>
[ファーストインプレッション]おっと、よく見る形の人口ピラミッドだね。地理はセンター試験以来同じような問題が繰り返し問われることが多いけれど、本問もその典型かな。2つの時代、2つの地域で4つの人口構成が示されている。2つの地域については都市圏内部の特徴的な市区が問われることが多く、時代については具体的な年が示されることで経年の変化を想像しやすい。
[解法]都市人口に関する問題だが、図(人口ピラミッド)を見るに年齢構成が問われているね。「日本の首都圏に位置する二つの市区」とある。首都圏とはもちろん東京周辺のこと。東京は巨大な都市圏を形成し、主に東京特別区部の範囲に相当する「都心部」と、それを取り囲む半径50キロの円にほぼ重なる郊外との組み合わせから成る。本問でテーマとなる二つの地区もおそらく都心部と郊外の典型的な市区を扱っているのだろう。
東京大都市圏における都心部と郊外との人口増減の変化についてまとめておこう。高度経済成長期からバブル経済の頃までは「ドーナツ化現象」がキーワードになる。東京大都市圏へと地方から大量の人口が流流する(中学を卒業した若者たちが「金の卵」として重用され、いわゆる「集団就職」によって地方から東京へと移り住んだ光景こそ高度経済成長の初期にはよく見られたのだ)。面積の限られた都心部の地価は高騰し、過密による居住環境の悪化も相まって人口は郊外に流出する。都心部の人口増加率は低い(あるいは減少)。一方で、この時期鉄道などの交通インフラが敷設されることで都市周辺部の都市化が急激に進む。郊外の形成である。大都市圏の外縁部にあたる郊外ではニュータウンの建設が各地で行われ、人口増加率は極めて高い(そもそも誰に住んでいなかったところなので少しでも人口が増えたら人口増加率は極めて高く計算されるね)。大都市圏においては都心部で人口減少、郊外で人口増加という「ドーナツ化現象」が顕著となる。若年層の流出によって都心部の旧市街地では高齢者の比率が高いエリアも生まれる。その一方で若い世代が中心の郊外のニュータウンでは20~30代への世代の偏りがみられ、これが急激な高齢化の遠因となるのだが、それはまだ未来の話である。
バブル経済が崩壊し、21世紀に入ってくるとこの人口増減のパターンが逆転する。バブル崩壊によって都心部の地価が下落。土地の買収が容易になったことで旧市街地の再開発が盛んに行われるようになった。規制も緩やかになり、タワーマンションに代表される集合住宅の建設が都心部の至るところで行われる。家賃も比較的安くなり、新規の転入者が増加。もちろん「安くなった」とは極端に家賃やマンション価格が下がったわけではないので、ある程度の富裕層が主である。面積は狭いのでさすがに大家族の転入はないが、狭いワンルームでも構わない若者も都心部へ住む人が増えた。人口の都心回帰であり、比較的若い世代が中心となるのは十分に想像できるだろう。
それに対し郊外では何が起こっているのだろうか?いや、むしろ「何も起こっていない」というべきだろか。ニュータウン開発から数十年が経過するも、新規の転入者はほとんどいない。一戸建てがメインであり、一旦このニュータウンに居を構えた当時の若い夫婦はこの町で年をとっていく。彼らがこの町で子供をもうけることで一時的に出生率が上がり子供の数も増えるのだが、子供たちは就職や結婚などで「ふるさと」を去る者も多く、その世代の人口はさほど多くなかったりする。ニュータウン開発時の入居者が経年によって高齢化することで老年人口率は急上昇する。ニュータウンが「オールドタウン」となるのだ。老人に住みやすい建物へのリフォーム(バリアフリーなど)であったり、医療機関や介護施設などの新設であったり、あるいは居住者の退去や亡くなることによる空き家の増加など、新しい問題がニュータウンに生じる。
こういった背景を考慮しながら図を解析しよう。まずそれぞれの人口ピラミッドは「割合」を示したものであり、これで実数はわからない。ただ、カとキ(1990年と2015年のいずれか)を比べてみて印象的な箇所がある。それは「高齢者」。とくにわかりやすいのは「80~」だろうか。キの二つのグラフでは80歳以降の老人がほとんどいないのに対し、カの二つのグラフではいずれも際立って高い値となっている。時代の流れを考慮した場合、カが新しい時代とみていいのではないか。日本全体の高齢化の流れを考え、DとEのいずれの市区においても高齢者の割合は上昇しているはずだ。もちろん80歳以上のお年寄りも増えていると思われ、キが過去(1990年)、カが現在(2015年)とみていいだろう。
さらにDとEの判定。キとカの間に25年の差があることがヒントとなっている。ニュータウンにおいては一戸建ての持ち家が中心であり、ニュータウン建設時に入居した人々がそのまま25年後も同じ家に住み続けるケースが主。1990年の段階でボリュームゾーンとなる年代層(おそらくそれは若い夫婦が中心である)が、そのまま25歳だけ歳をとって、ボリュームゾーンが25歳分ほど持ち上がっている。D・キのボリュームゾーンは「20~29」であり、D・カは「30~34」である。これはどうだろう?両者のボリュームゾーンを占めているのは「同一人物」だろうか。そもそもD・キが建設されたばかりのニュータウンだったとしても、一戸建ての入居者としては20代前半はちょっと若すぎるのではないか。まだ大学生や新入社員の年代であり一人暮らしが多いんじゃないか。
Eに注目しよう。E・キでは「35~44」歳がボリュームゾーン。「5~9」にももう一つのボリュームゾーンがあり、これにも着目しておこう。E・カ」では世代間の凹凸は少なくなっているが、一応「60~69」の年代が多いようだ。なるほど、「35~44」と「60~69」とではちょうど25年の差があるではないか。E・キを1990年のニュータウン(郊外)と考えると、25年の2015年にはE・カのように「60~69」歳の人々の割合が高くなるはず。このニュータウンがいつ作られたものかはわからないが、たとえば1980年代前半に一戸建ての立ち並ぶニュータウンが造成され(この時代はまだ日本の人口も増えていたし、大都市圏への人口集中に著しかった。ニュータウン開発が盛んだったとみていいだろう)、30歳ぐらい若い夫婦が転入してきた様子が想像される。そう考えるとE・キで5歳から10歳の小学生低学年児童が多いことも納得。多くの夫婦がこの町に転居し、そこで同じ時期に子供をもうけたので「同級生」が多いということ。幼稚園や小学校の増設や新設もみられたのではないか。当時の小学生たちは25年後には30代になっている。たしかsにE・カでは30代の割合も比較的高いようだ(もっとも、子供世代のすべてがこの町に残っているわけではない。就職や結婚を機にこの町を出た人も少なくないだろう)。Eを郊外の市区と判定し、消去法でDを都心部と判定する。
ここまで来ればxとyは改めて考えるまでもない。xには「都心から約15キロ」とあり、yには「都心から約40キロ」とある。xが都心部でD、yが郊外でEに該当。正解は1。
ただ、本問は大変興味深いのでさらに深掘りしていこう。まずこういった問題のポイントなのだが、大都市圏における二つの地域の違いが問われた場合、必ず「都心部」と「郊外」に区分して考えること。都心部は都心を中心を含むエリアであり昼間人口が夜間人口より大きい。郊外は都心部を取り囲む一帯であり昼間人口が夜間人口より小さい。とくに東京大都市圏がテーマとなる場合が多く、都市圏の範囲は半径50キロの円が目安。「都市圏=通勤圏」なので、東京の都心のオフィスには50キロ先の町から通勤する人が一般的にみられるということ。
人口増減がポイントとなり、都心部では「2000年以前は減少、2000年以降は増加」である。人口の都心回帰が顕著。郊外は「2000年以前は増加、2000年以降は停滞」である。近年はニュータウンの高齢化が問題となっている。都心部は単身世帯が中心で、ワンルームマンションが多い。賃貸物件が主。郊外はファミリー層が中心で、持ち家の一戸建て。
Dの人口ピラミッドがおもしろい。Dに該当するxの文章を読んでみよう。かつては「住宅や工場が混在していた」が、現在は「工場跡地などにマンションや商業施設の建設が進んだ」とある。D・キは1990年の都心の姿。つまり「住宅や工場が混在」していた。図1中の4つのグラフの中で最も偏った世代人口がみられるのがD・キであり、それが20代前半から後半。ニュータウン開発時の入居者(夫婦であることが多い)としてはちょっと若すぎるような気がする。ここでは「工場」がキーワードになっているんじゃないかな。とくにこの世代、男性が多いことも特徴の一つ。都心部に昔ながらの工場があり、そこで働く若い男性が周辺部に住んでいたのではないか。もちろんその中には結婚している人もいただろう(同じ世代の女性の数が多いことからその様子が想像できる)が、一戸建ての持ち家を買う年代でもないのだろう。30代を超えてくると郊外のニュータウンに転居する人も多いだろうが、まだ経済的にそこまで余裕がない人たちが多いので、都心部の工場の近くの賃貸に住んでいるというわけだ。
都市内部において人々は仕事場に通勤するのだから遠隔地に住んでいるケースも十分に考えられるが、一人暮らしの独身(あるいは子供のいない若い夫婦)ならばワンルームなどの狭い賃貸に住んでも全く問題ない。都心部の工場の近くに多くの労働者が住んでいるといった古い街並みが想像できないだろうか。D・キにみられる世代の偏りはそういった見方で説明ができる。
さらに加えるならば、そもそもこの街区の人口そのものが少なかったのではないか。母数となる人口が少ないので、少しでも人口に偏りがあればこのような著しいボリュームゾーンが形成される。そういった側面もあるかもね。
[アフターアクション]この問題は難しかったと思う。僕も何回も「仮定」しながら解いてみた。これは,●●なんじゃないか。そうなるとこちらが▲▲になるな。でもそれでは矛盾が生じるぞ』みたいにあれやこれやといろいろなパターンを想定しつつ当てはめながら考えた。もちろん時間はめちゃかかるよね。
決定的な箇所のみ注目し、そこから解いていくしかない。文字通り絡み付いた紐の目を解く(ほどく)ように。
言うまでもなくもっとも決定的な要素は「高齢化」。80歳以上の割合が高いカが「現在」であることは絶対であると考え、そこからいろいろと思考実験を試みる。1990年と2015年という「25年」のタイムラグも同じく絶対的な条件だ。人口構成のボリュームゾーンに厳密な「25年」の差があるのはEの方じゃないか。同じ人がずっと住み続けているのだから、こちらが郊外の一戸建てであるというように推理を進める。
一見すると最も人口の偏りが大きいD・キに目が向いてしまうのだが、これを優先して考えるとどうしても矛盾が生じてしまう。これを開発初期のニュータウンとすると、他の点でいろいろと齟齬が生じてしまうのだ。ああでもない、こうでもないと時間をかけてひたすら頭を使って解くしかないね。難しい問題ではあるけれど、それだけに「解く価値」が高い問題とも言えるのだ。
<[地理総合・探究]2025年/本試験・第5問問3解説>
[ファーストインプレッション]都市人口についてはダイレクトに出題されるケースは少なく、本問のように他の関連する指標とセットで登場することが多い。一方で産業構造の変化は極めて重要なトピックであり、とくに21世紀の社会においてその意味が深く問われるケースが増えるだろう。現代の先進国においては製造業を中心とした第二次産業から知識産業を主体とした第三次産業への転換が際立っている。「手」を使う工業ではなく、「頭」を使う産業への進化。
[解法]「GDPに占める製造業の割合」は非常に重要な指標なのだが、今回は都市人口率の方が解きやすい。これに注目しよう。
都市人口率は原則として1人当たりGNIに比例。1人当たりGNIは賃金水準の目安。第1次産業就業人口割合が高い国は平均賃金が低いが、そういった国は農村に多くの人々が居住する。反対に第二次産業や第三次産業就業人口割合が高い国は平均賃金が高くなり、そういった国では都市に住む人々が多い。都市への人口集中を経済成長と結びつけて考えよう。
サに注目して欲しい。1970年から1995年にかけて大きく都市人口率が上昇している。この時期に農村から都市へと大きく人口が流動し、農村人口率の低下と都市人口率の上昇が起こった。1970年代以降といえば日本では高度経済成長がほぼ終わった段階で1980年代には世界最大の自動車生産国の地位へと上り詰める。サの国では1980年代を中心とした時期に大きな経済成長を果たし、産業構造が農業中心から工業中心に転換した。日本よりやや遅れたタイミングで高度経済成長を迎えた国はどこか。そう、それは韓国だよね。1950年代の朝鮮戦争による荒廃から奇跡的な復興を遂げた。東京五輪が1960年代であるのに対しソウルオリンピックは1980年代。現在はほとんど経済レベルにおいて韓国と日本は同じ水準であるが(そういえば2000年代はワールドカップが両国で共催されているね)、20世紀においては明確な差があった。1970年から1995年までに大きな社会変革があった韓国がサとなる。「ハンガンの奇跡」と呼ばれる時期でもある。
残った二つはどうだろう?こちらも同じく都市人口率で考えてほしい。先ほど都市人口率が経済成長と結びつくという話をしているので、原則として「1人当たりGNI=都市人口率」ということは分かると思う。ただ、オーストラリアとイタリアはどうだろう?いずれも先進国であり、そこまで明確な差はないはずだが(一応オーストラリアの方が1人当たりGNIは高い。これは人口の少なさとも関係しているが)。
ここで考えてほしいのは経済以外の要因。自然環境なのだ。寒冷であったり乾燥していたりあるいは高山であるなど人の居住に適さない(農業に適さないと言い換えてもいいね)国においては、人口は自ずと都市に集まる。例えば砂漠の湧水を中心にオアシス都市が形成されるような状況を想像してみるといいね。地中海性気候とはいえ比較的降水があり人々の居住に適するイタリアに対し、国土の広い範囲が乾燥地域であり砂漠やステップに覆われているのがオーストラリアの特徴。都市以外の地域への居住が困難な国はどちらだろうか。つまり「都市へと人口が集中しやすい」国はどちらだろうか。これは言うまでもないね。オーストラリアが該当。温暖な国ではあるが、国土の半分以上が乾燥地域であり農業に適さない。人々は主に湿潤な沿岸部の都市へと集中する。総人口(2500万人)の割に規模の大きい都市が多い(シドニーとメルボルンはいずれも500万人ほどの人口)のがオーストラリアの特徴だが、経済レベル以外にこういった自然環境による要因も考え合わせるといいね。ヨーロッパでも寒冷な北部より温暖な南部の国(イタリアが典型)の方が都市人口率が低い。オーストラリアと似たような国としてカナダがあるが、寒冷で人の居住に適さない土地が多いためやはり都市人口率は高い。
なお経済レベルと関係なく都市人口率に特徴がある地域を挙げておくので確認しておこう。
・モンスーンアジア・・・高温湿潤で農業に適した気候。農村には零細的な農家が多く、農村の人口が相対的に多い。都市人口率は低い傾向にある。タイは比較的経済レベルが高い(7000ドル/人)国だが、都市人口率は低く50%程度である。
・ラテンアメリカ・・・開発時に都市を中心に入植が行われたため現在でも都市へと人口が集中している傾向が強い。メキシコやブラジルなど都市人口率は先進国並みに高い。乾燥地域や熱帯雨林、高山など農業に適さない土地が多いことも一つの理由。
[アフターアクション]このように都市人口率だけで解ける問題なのだが、せっかくなので重要性が高い「GDPに占める製造業の割合」を主体にして考えてみよう。先進国では産業構造の転換が進み、製造業を中心とした第二次産業から知識産業を中心とした第三次産業が主体の社会構造となっている。一般に「脱工業」と言われる傾向であり、とくにヨーロッパでは顕著。例えばドイツでは近年自動車の生産台数が減少しているが、だからといってドイツの経済レベルが低下しているわけではない。むしろ1人当たりGNIは上昇に日本との差はさらに開いた。1人当たりGNIと人口の積であるGNIも、ドイツの値は日本に迫りつつある(人口規模は日本の方がドイツの1.5倍もあるというのに!)。
図2参照。1970年→1995年→2020年の変化をみるに、シとスはいずれも大きく割合を低下させている。GDPに占める製造業の割合は極めて低いあたりにとどまり、いずれも「脱工業」が志向されていることが分かる。製造業が成立する条件として「高い技術開発力」や「豊かな資本力」が必要なのだが、国境を越えた経済活動が活発になった現在、それらは先進国の企業に任せ、実際の生産活動は発展途上国が請け負うという形が一般化している。製造業が成立するもう一つの条件として「優秀な労働力」があるのだが、今や世界中の至る国で必要最低限の教育(たとえば字が読める、簡単な計算ができる)が普及し、発展途上国でも十分に優秀な労働力が得られるようになった。経済レベルの低さゆえ賃金水準が安いという優位性があり、今や世界の製造業の中心は発展途上国である。先進国で研究開発を行い、発展途上国で組み立てるという国際分業はファブレス企業を取り上げた第4問問5でも登場しているね。もともと羊毛と鉱産資源の国であるオーストラリアは製造業の国ではないので現在の「GDPに占める製造業の割合」が5%でも納得はできるが、フェラーリやランボルギーニの国イタリアでもわずか15%というのは驚き。
さらに言えば韓国でも近年はこの値が低下傾向にある。韓国における状況を想像してみよう。1970年から1995年までは工業化による経済成長がみられ、製造業が発達した。GDPに占める製造業の割合も上昇。1980年代を中心とした経済成長、これが「ハンガンの奇跡」だね。
しかし、経済成長とは1人当たりGNIが上がることであり、つまり「賃金水準が上がる」ことである。労働者のコストが上がったのだから製造業(とくに自動車など機械工業のような労働集約型工業)の収益性が落ちる。収益性を高めるため低賃金の労働力が求められ、1人当たりGNIの低い発展途上国へと進出する工場が増える。製造業の流出によって工業生産力が落ちるがそれは一時的なもの。第二次産業から第三次産業への産業構造の転換(高度化)が生じ、生産性は向上する。要するに「儲からない工場での仕事をやめ、より儲かる研究開発の業務に就く」ことになる。1人当たりが稼ぐ金額が大きくなるのだから賃金も上がる。つまり1人当たりGNIはさらに上昇するということ。製造業というマイナス要因を国外に出すことにより、さらなる経済成長が見込まれるということなのだ。1980年代までは韓国はむしろ日本などから工場を受け入れる側だった(そしてこれが韓国の工業化および経済成長の基礎となっている)。しかし現在は韓国から周辺国へと工場が進出している。現状で日本は韓国より経済レベルが高い国なので工場進出はみられないが、将来はわからない。実際、台湾から日本の九州へと工場が進出している。TSMCの半導体工場が熊本に作られているね。もちろんこれは半導体を中心としたサプライチェーンの確保(国産の半導体を増やす)ことも理由の一つだが、やはり日本の地方における賃金水準の低さを狙ったものでもある。TSMCの工場での賃金は九州の水準より高いそうで、熊本ではちょっとした経済特需が生じているそう。日本企業より台湾企業の方が賃金が高いなんて、ちょっと昔には考えられなかった。
こういう問題を目の当たりにすると何だか心に寂しいものがあるよね。日本はいつまで製造業にこだわるのだろうか。日本はとっとと自動車工場を海外に出してしまい、研究開発など知識産業に特化するべきなのだ。たとえば「産業の空洞化」という言葉があるよね。この場合の産業とは「製造業」のこと。経済成長による高賃金を背景に日本では労働コストが上がったため、収益性を上げるため工業を国内から海外へと転出される。その結果、日本の工業都市の多くでは工場がなくなったことにより雇用が減少し、都市経済が衰退する。これが「産業の空洞化」。でも、これってネガティブなことなのか?製造業の流出を勝手にネガティブ要素としているのは日本社会の大きなミスなんじゃないか。むしろ収益性の低い製造業を諦め、先端技術産業の研究開発など知識産業に特化した産業構造に転換するチャンスとするべきだったのではないか。
<[地理総合・探究]2025年/本試験・第5問問4解説>
[ファーストインプレッション]今回工業とくに立地に関する問題が多く出題されているね。この偏りって何だろう?尤も、工業立地は地理の学習範囲の中でもとりわけ理論が重視される箇所である。共通テスト新課程がいかに「理論」を重視しているのか。そういったことも本問の出題パターンより推理することはできる。
[解法]選択肢は「出版業」、「新聞業」、「ソフトウェア業」の三つ。いずれも東京都に集中しそうなものだが、その度合いが異なる。
まず新聞業であるが、これについては朝日新聞や読売新聞のような全国紙だけでなく、北海道や東北地方、近畿地方、九州地方などの地方紙の存在も忘れてはいけない。それら地方紙ならば札幌や仙台、大阪、福岡などにも本社機能が集中しているはずだ。決して東京都だけではなく、その傾向はテレビ局(放送業)とも類似しているのではないか。ツを「新聞業」とする。ネット社会において従来の紙媒体は地位が低下している。ツにおいては従業者数が大きく減少していることも、これが新聞業であることの証拠になるだろう。
タとチについてはその「従業者数の増減率」でわかるんじゃないかな。タは大きく減少する一方で、チは増加している。増えているチをソフトウェア業、減っているタが出版業だろう。
研究開発が主体であるソフトウェア業が、企業の研究施設や大学が多い東京都に集中している様子は十分に想像できるね。出版業もやはり東京都に集まる。これは従来からの傾向であるが、今でも変わらないのだろうね。
[アフターアクション]第4問問3に似た問題だなと思った。いずれもオーソドックスな理論(卸売業は三大都市圏と地方中秋都市で発達。印刷出版業は東京で発達)をメインとしながら、生活感覚から得られる「知性」こそ問題を解く決定打となる。第4問問3ならば、衣類は外国から輸入され三大都市圏の港から全国に運ばれるためむしろ北海道や九州の値は低くなる。本問ならば、地方紙が存在する新聞業と、より東京に集まる傾向の強い出版業の違い。知識だけでは解けない。みんなが普段生活している中で経験則として得られる「知性」こそ、問題を解くカギとなるのだ。
<[地理総合・探究]2025年/本試験・第5問問5解説>
[ファーストインプレッション]いきなり世界の都市に関する問題でちょっと驚いた。こういった大問ごとのジャンルにこだわらない出題が最近の傾向になっているね。かなり細かい資料のようで、さらに興味深い指標ばかりが取り上げられているのでこちらの図から判読したい誘惑(?)にかられるのだが、定石(定跡)通り文章から読んでいくのが必勝法。
[解法]詳細な図が与えられている問題だが、図を漫然と眺めてみても埒(らち)が明かない。文章から直接アプローチし、まずは正解(誤文)になりそうな箇所を探してみよう。
選択肢1から。「高度な経営・専門業務の従事者割合が高位の地区の分布と、失業率が高位の地区の分布は異なる傾向にある」とある。一般に低学歴で社会的地位が低い人こそ失業者となりやすい。高度な経営・専門業務の従事者が多く働いている地域の失業率は低いのではないか。「異なる傾向」はまさにその通りだと思う。正文じゃないかな。
選択肢2から。「外国で生まれた人の割合と、高度な経営・専門業務の従事者割合とが両方とも高位の地区」について「インナーロンドンの方がそれ以外の地域より多い」とある。インナーロンドンとはどこだろうか。図から参照し中央部であることがわかる。これ、ちょっとおもしろいと思うんだが、インナーロンドンはいわゆるCBD(中心業務地区)であり、企業のオフィスや官公庁、研究開発機関などが集中していることが想像される。「高度な経営・専門業務の従事者」は多いように思う。東京など日本の都市でも都心部にはそういった光景が広がっているね。ただ、日本の都市と欧州の都市が違うのは欧州の都市の方が歴史が古いこと(日本の都市は戦争で一回焼けているので100年以上の歴史を有する都市は少ない)。そのため都心付近の旧市街で老朽化が著しく、その一部は富裕層や産業(商業施設など)の流出によってスラム化している。古い空き家へと貧困層が流入し不良住宅地区(スラム)となる旧市街も多い。近年は再開発が進むとはいえ、まだそういったスラムは都心部には残されているだろうし、とくに社会的地位の低い移民が移り住むことが目立つ。そうなると(貧困層である)「外国で生まれた人」は実はインナーロンドンで割合が高いんじゃないかとも想像できるよね。インナーロンドンでこそ「外国で生まれた人の割合」と「高度な経営・専門業務の従事者の割合」がともに高いんじゃないか。再開発が進むオフィス街の一方で、昔ながらの旧市街も放置されている。そういった光景は想像できる。選択肢2ははっきりと正文とは断言しにくいが、だからといって誤文とみなされるわけでもない。なお、欧米の大都市におけるスラム化の問題をインナーシティ問題と呼ぶ。インナーシティつまり都心付近でスラムが目立つというわけだ。
選択肢3について。「失業率は、シティを中心に同心円状に高位から低位へと分布する傾向」があると述べられている。これはどうだろうか。図からシティがロンドンの中心であることがわかる。シティで失業率が高く、周辺で低いと言っているわけだ。これはどうなんだろう?選択肢2で取り上げた都心部の光景であるが、もちろんインナーシティ問題の発生によって失業率が高いエリアはあるだろう(十分な教育を得ていない移民や社会的地位の低い人々が住んでいる)。しかし再開発も活発に行われており、CBD(中心業務地区)では「高度な経営・専門業務の従事者」も多く、彼らの多くは職を得ている。失業者は少ないだろう。都心部におけるこういった状況を考えるに、シティ周辺だからこそ失業率が高いということはないんじゃないかな。同心円状で中心部で高いということはない。これが誤りなんじゃないかと思う。
選択肢3が答えと思われるので選択肢4は検討の必要はないが一応。ドックランズという場所において「倉庫業や造船業が衰退した後に、ウォーターフロント開発が行われた」とある。これは図からはちょっと読み取れないが、一般的な都市における再開発のセオリーを考えた場合に、とくに否定されるべきものでもないと思う。横浜市のみなとみらい21が似たパターンになっているね。高度経済成長期まで造船業が盛んだった地区が横浜市の沿岸部にあったが、新興国の台頭(韓国や中国)によって国内の造船業は衰退。横浜においてもかつての造船地区が再開発され、オフィスや商業施設、集合住宅などの高層ビルが立ち並ぶ近代的な街区へと変貌している。選択肢4についてはとくに否定する箇所もなさそうだ。
[アフターアクション]第5問はずっと日本に関する問題だったのにいきなり最後の問題だけロンドンの問題でちょっと面食らった。こういったジャンルレスが新課程の特徴なんだろうね。問題そのものも、図の読解による考察問題の側面だけでなく、ウォーターフロント開発(ロンドンのドックランズや横浜のみなとみらい21など)についての知識も問われており、多面性がある。