共通テスト地理B[2021年第1日程]第3問解説
第3問(都市と人口)
[14][インプレッション]う〜ん、どこかで見たような問題やなぁ。センター試験から共通テストに変わっても、内容的には似たようなものってことだね。
[解法]都市の分布の問題。100万人規模の都市は世界中には多いし、さほど大都市って感じでもない。100万都市が無数にある4が、ウの中国だろうね。さすが人口大国。
ただし、ここで特定しないといけないのがイである点が厄介なのだ。これ、一体どこなんだろうね。
問3の16番の問題に国境線まで描かれた世界地図がある。これ、わかりやすいんじゃない?イの範囲はインド北部から中国南西部(チベット高原)をかすめて中央アジアまで達しているようだ。このうち、チベット高原や乾燥地域である中央アジアには大都市はほとんどみられないはず。ポイントになるのはインド北部。
インドを菱形に見立て、その菱形の中央に横線を引いて上部と下部に分けた場合、イの範囲にはその上部が含まれる。菱形の下部はインド半島に当たり、こちらは全体が高原となっている。大都市ももちろんみられるが(そもそもインド自体の人口が多いからね)、人口密度は低い。その一方で、菱形の上部は北西(ヒマラヤ山麓)から南東(バングラデシュ方面)向かってガンジス川が流れ、巨大な沖積平野となっている。小麦(降水量の少ない上流側)や米(降水量の多い下流側)の栽培もさかんであり、農業が発達すればもちろん人口も増え、多くの都市が成立する。世界で最も人口密度が高いエリアこそ、このガンジス川流域の沖積平野である。
枠線の下方において北西から南東へと都市の列がみられる3がイに該当する。
1と2は判定の必要なし。1がア、2がエかな。アは南西端にラゴスがあるはず。エでは大西洋沿いに植民地時代に開発された都市が並んでいる。エの下辺と、海岸線の交わる付近にリオデジャネイロがあると思う。
[15][インプレッション]このようにグラフを使って、複数の指標を組み合わせて答えさせる問題が共通テストのスタンダードなようだね。これは慣れが必要なんだと思う。いきなりこうした問題に出会ったら面食らうわな。
[解法]年代別人口構成の問題。「0〜14歳」の年少人口、「15〜64歳」の生産年齢人口、「65歳以上」の老年人口の3つに区切られている。一般に年少人口と老年人口は相反する関係にある。年少人口割合が高ければ老年人口割合は低く、年少人口割合が低ければ老年人口割合は高い。これは当たり前のことだよね。子供が多い街は老人が少ないし、老人だらけの村は子供がいない。まずはこれだけ確認(このセオリーが後から非常に重要になるのです。こりゃビックリ)。
ではカ〜クの判定をしよう。目に付くのはキの年少人口率の高さ。年少人口率は出生率に比例し、人口増加率に比例する。アフリカは人口増加率の高いことが特徴の地域であり、これに含まれるケニアももちろん人口増加率が高い。キをケニアとする。
キを基準としてa、bの判定をしよう。一般的な人口の流れとして「農村から都市」への移動があり、とくに発展途上国においてはその傾向が顕著。農村では十分な仕事がなく、労働者として都市に流入する人々が後を絶たない。発展途上国においては特定の大都市のみが成長しプライメートシティを成すことが多く、経済や産業が過度に集中する。ケニアはその典型的な国だろう。ケニア全体の人口増加率も高いのだが、プライメートシティであるナイロビ(首都でもある)は、人口流入による社会増加率も高いはずである。
「人口増加率=出生率=年少人口率」であり、ケニア全体よりさらに高い人口増加率であろうナイロビにおいては、年少人口率もとくに高いと思われ、bをナイロビすなわち「人口第1位の都市」とする。ただ、ここでちょっとおかしいことに気づくのだ。年少人口率と老年人口率が反比例することはすでに述べた。しかし、キのaとbを比べてみて、どうだろう?aは「年少人口率が高く、老年人口率も高い」、bは「年少人口率が低く、老年人口率も低い」のである。これっておかしくないか???
そう、ここで発想の転換が必要なのだ。bは「年少人口率が低く、老年人口率も低い」のではない。「生産年齢人口率が極端に高い」のだ。普通は生産年齢人口については「余り」で考えればいい。その国・地域の人口構成を決定するファクターは年少人口と老年人口である。しかし、おそらくこのグラフは違う。年少人口と老年人口にさほど意味はない。決定的なものは生産年齢人口なのだ。なぜ、この割合が際立って高い?
そう、もうわかったよね。これ、農村から都市にやってくる労働力なのだ。農村で家の農地を継ぐことができないような次男や三男が都市へと仕事を求めてやってくる。もちろん彼らに十分な仕事はなく、せいぜいインフォーマルセクターとよばれる非正規労働がある程度だろう。しかし、彼らは農村に帰ることなく、都市において土地を不法占拠しスラムを形成し、そこに住み着くことになるのだ。どうだろう?キをケニアとした場合、bを「人口第1位の都市」と考えて妥当なのではないか。
残ったカとキにおいて。一般に発展途上国は人口増加率が高く、日本やヨーロッパの先進国は人口増加率が低い。しかし、韓国は発展途上国ではなく経済レベルはかなり高い、オーストラリアは先進国とは言えど、移民を多く迎え入れている「若い」国である。さて、人口増加率はどちらがたかい?
ここで、一つ知識として知っておいていいと思うのは、韓国の合計特殊出生率の低さである。合計特殊出生率は、20歳から49歳までの女性を対象に、年齢ごとの出生率(出産率というべきか)を合計したものである。この値が2.1人を上回ると、将来的にも現在の人口が維持されるという統計データがあり(*)、この数値を「人口置換水準」という。少子化が進む日本では、合計特殊出生率が1.4人ほどで極めて低いのだが、実は韓国の方が日本よりも深刻な状況で、この値は1.3人に過ぎない。ヨーロッパではイタリアがこのレベル。
よって、韓国も日本と同様に近い将来人口が減少すると予想され、現時点での年少人口率も低い。高齢社会への突入が予想される中国も含め、東アジア地域は「人口減少」地域となるのだ。
一方で、移民を多く迎え入れているオーストラリアは先進国としては極めて人口増加率が高く(実は世界平均を超えている。これはアメリカ合衆国を遥かに凌ぐ数字)、年少人口率も高い。戦争を経験していない国であるため高齢者も多いのだが、それでも将来的にはさらに人口が増加するだろう。
このことから、カがオーストラリア、キが韓国となり、2が正解。
(*)合計特殊出生率については、その計算方法からもわかるように、子どもの数(出生数)より、年代ごとの女性の数の方が重要なデータである。出産適齢期の20〜30代の女性が多い東京都では合計特殊出生率は低く算出され、同じ年代の女性が少ない宮崎県では合計特殊出生率は高く算出される。出生率は東京都が高く、宮崎県が低いにも関わらず。
このように日本国内のデータとしては出生率と合計特殊出生率は反比例する傾向が強いのだが、これはあくまで例外的なことと考えてほしい。国ごとの人口については、出生率と合計特殊出生率は比例するとシンプルに考えれば十分。要するに、出生率の高い地域では、女性が一生涯にもうける子どもの数の平均も多いのだ。
{16}[インプレッション]さて、手強い問題が続いた後で、この問題はどうなんだろう?図が用意され、それを説明する文章の正誤を問う形。センター試験ではこのパターンの問題は簡単なものが多かったが。おっと、正文判定問題になっているね。誤文を3つ探さないといけない。これは面倒だなぁ。
[解法]インド系住民の問題。この場合のインド系住民には、そのままインドの国籍を有する者(それならば、単なる「インド人」と思うんですが)と、当該国の国籍を得た者の両方が含まれる。なるほど、かつては農園や鉱山の労働力として移住したインド人が多かったが、現在はシリコンバレーで働くインド人技術者が多いということだね。
選択肢を一つずつ読み解いていこう。
1について。「移住先の国籍を有する者」は濃い色の部分だね。イギリスはもちろん、カナダ、アメリカ合衆国など英語を公用語とする国がたしかに多いね。シンガポールもそれに該当するかな。おっ、南アフリカ共和国も。マレーシアは英語を公用語とはしない(マレー語だけ)けれど、旧イギリス領。スリランカ、ミャンマーも同様。あれ?これが正解なんじゃないかな?
他の選択肢も見ていこう。
2について。東南アジアはマレーシアが典型だと思うよ。天然ゴムプランテーションやスズ鉱山の労働力としての移動。誤りだね。
3について。うわっ、これ、おもしろい選択肢だな。たしかに一瞬そう思ってしまうよね。でもドバイをイメージしたらいいと思う。都市インフラの建設だね。そもそも油田開発はすでになされているものであるし、今さら労働力は要らないと思う。それより現代の人口移動でキーワードとなるのは「工業」。工業による高い賃金を求めて人々は出稼ぎ労働力として国境を越えるのだ。「工業=製造業+建設業」であることに注目。例えば日本のように製造業が集まる国では、主に自動車工場における労働力として外国から出稼ぎがやってくる。しかし、西アジア地域では状況が異なり、この地域はそうした労働集約型の工業はない(石油精製やアルミニウム工業など労働力を使わない工業はあるが)。労働力を必要とするものは「街づくり」なのだ。都市インフラやビルディングなどの建設用の労働者として彼らは求められ、アラブ産油国には超近代的な都市が誕生する。
4について。なるほど、これもちょっと考えないといけないね。インドは今や世界有数のICT大国。「インドのシリコンバレー」と呼ばれるベンガルール(旧名バンガロール)はあまりに有名だが、むしろ現在はこの都市に限らず、デリーやムンバイなど国内の多くの都市がICT産業の集積地となっている。その中で多くの優れた技術者が輩出され、しかも彼らは英語に堪能で、そして安い!アメリカ合衆国のシリコンバレーでは、アメリカ人経営者(ベンチャー企業)が多くのインド人技術者を雇って世界最先端の研究開発をしている。インド国内の情報通信技術産業が「衰退」したわけではないよね。
[17][インプレッション]よくあるパターンの問題。都市圏における人口変化。こういう問題は、都市圏について「都心部」、「郊外」、「都市圏外」の3つのキャラクターを分け、それぞれの数値から当てはめていけばいい。本問もそういったスムーズな問題であることを祈るのですが。
[解法]ありふれたパターンの問題と思いきや、問題文が結構長いぞ。注意して読み進めよう。「人口分布の時系列変化」とはなかなか難しい言葉。ただ、年代ごとに人口の増え方(減り方)が違うって意味だろうから、深く考えなくていいかな。さらに本問では「1925年の人口密集地」が示されている。これ、かなり古い年代だね。昭和元年なのかな。太平洋戦争の前であり、この年代がテストで取り上げられるのは珍しい。逆にいえば特殊な知識が求められているわけでなく、図表から読み取ることのできる範囲で考えたらいい。1925年の人口密集地の中心にあるのがAであり、当時から市街地であったことがわかる。一方、Bについてはその外縁部で、いわゆる郊外的な地点だったんじゃないかな。Cははるかその外側であって、当時は農村や原野だったことが想像される。
取り上げられている年代は「1925〜1930年」つまり「戦前」、1965〜1970年」つまり「高度経済成長期」、「2005〜2010年」つまり「現在」。さて、これに沿って考えてみよう。
実は一番簡単なのはAだと思うよ。21世紀の日本における人口のキーワード、それは「都心への人口回帰」。再開発や集合住宅建設、ウォーターフロント開発によって都心部の人口が急増している。富裕層を中心に比較的若い世代の移入も目立つ。ジェントリフィケーションが生じている(住民階級の高度化。ワンランク上の所得層が主な住民となる)。現在人口増加率が極めて高いシがAだろう。なるほど、高度経済成長期には大きく人口を減らしている。高地価や居住環境の悪化(騒音や大気汚染など)により住民が郊外に転居した。ドーナツ化現象の時代だね。
さらにサについて考えてみようか。ここ、戦前に大きく人口が増加している。この時期に住宅地として開発されたのだろうか。1925年の様子は図から推察するしかない。Aを中心とした旧来の市街地に対し、Bはようやく開発の手が及んだ段階。しかし、だからこそ「郊外」として宅地開発がなされ、人口の流入があったのでは。もともと人口が少ないところだったので、人口増加率も大きく跳ね上がったのだろう(人口増加率を計算する際の分母は「人口」である)。
残ったスがC。この地点は、1925年の段階では農村や原野だったのだろうが、1965年の高度経済成長期はどうだろうか。図のそばに距離を測る目盛があるね。東京大都市圏の大きさの目安は「半径50kmの円」。「都市圏=通勤圏」なので、都心(Aを都心とみていいと思う)から50kmの円を設定し、その内側で人々が日常的に流動する様子を想像しよう。東京区部を「都心部」とするならば(昼間人口が夜間人口より多い。会社のオフィスがある)、都心から30kmほど離れたCは典型的な郊外である(こちらは昼間人口が夜間人口より小さい)。高度経済成長期にニュータウン開発がなされ、人々が転入してきた。この時期の人口増加率が極めて高い。
ただし、こうしたニュータウンはいつしか「古い町」になるのだ。住民構成が偏っているために、開発時に若年層だった入居者が数十年後にまとめて高齢化する。ニュータウンは一気にオールドタウンと化すのである。現時点で人口は減少していないものの、かといってはっきりと増加しているわけではなく、近い将来は減少に転じるのではないか。
[18][インプレッション]何だか似たような問題が多い印象。ハマれば連続して正解できるけれど、チンプンカンプンの人もいるだろうね。まとめて点数を落としてしまう。身近な話題を扱っているだけに、日々キチンと「生活」している人が、しっかり得点できる問題になっている。
[解法]「居住者のいない住宅」に関する問題だが、このテーマは地理のテストとしては初出。しかし、普段生活していて、こういった状況は見聞きしているし、あるいは実体験としてあるかも知れない。生活の中で、想像力をはたらかせて解いて欲しい。
まずE〜Gから、それぞれの市区町村の特徴を把握しよう。Eは「観光やレジャーのため多くの人々が来訪する」とある。地方の都市なのだろうが、観光地として栄えているのだろう。みんなもこういったところには旅行に行ったことがあるんじゃないかな。具体的な町を思い浮かべるといいね。
さらにF。こちらは「高齢化や過疎化によって人口減少が進んでいる」とある。過疎の村を考えればいいんじゃないかな。転出する人が多いし、もちろん高齢者の割合が高いので亡くなる人も多い。
Gは「転出者や転入者の多い大都市圏に含まれる」となる。「都市圏=通勤圏」であり、もちろん大都市圏とはその通勤圏の規模が大きいものであるが、国内では「東京大都市圏」、「名古屋大都市圏」、「大阪大都市圏」の3つがある。人口流動が激しい町なのだろうか。
さて、タ〜ツに注目。あれ?これはわかりやすいんじゃない?思いっきり「別荘地」ってあるね。これは間違いなく観光地でしょう。とくに具体例を挙げるまでもないし、君たちがこれまでに行った観光地を思い浮かべればいい。タがE。
さらにチとツについて。ここでは「賃貸用・売却用の住宅」とある。賃貸の方に注目すればいいと思うよ。アパートや公団、マンションなどだろうね。「転入・転出」が多い町ならば、当然こうした住居の需要は大きいし、そこに住む人も多いだろう。チがG。
残ったツがF。あぁ、そうかぁ、そういうことか。過疎の村だからみんな出ていってしまうんだろうね。高齢者だけの世帯も多いだろうし、都会に住む子の家族に引き取られて、村から引っ越すケースも増えているね。もちろん亡くなってしまい、それから住み手がいなくなることもあるだろう。最近は「廃村」ブームとやらで、肝試しをかねてこういった打ち捨てられた村や家屋を訪れる人も多いみたいだね。こうした「廃村」や「廃墟」は決して珍しいものではなく、むしろ今後の日本においては増えていくのだろう。
[19][インプレッション]おっ、タイペイですか。こうした複数の図やグラフを重ね合わせて読解するっていうパターン、共通テストの王道だと思うんですよね。確実に正解に辿り着こう。
[解法]資料読解。2つの文の正誤を判定する形式はちょっと厄介。誤文判定問題ならば、一つだけ誤りを探せば他の選択肢は無条件に正解。正文判定問題ならば、3つの誤文を指摘すれば消去法で残った一つが正文となる。しかし、本問のような形式だとXとYの文がそれぞれ独立しているので、Xの文の正誤がYの文の正誤を判定するヒントとなりえない。2つの別々の問題を解いているような雰囲気。これ、嫌だよね。
とか何とか愚痴っていても仕方ないので、問題に取り掛かろう。まずXだが年代が問われている。「タイペイ駅」、「市役所」をそれぞれ確認しよう。図がかなりわかりにくい(そもそも色の区別が全然わからんぞ)けれど、雰囲気でもいいかな。「都心部=タイペイ駅」、「副都心=市役所」なのだが、これらと郊外を結ぶ道路「から」整備されたとある。ん?果たしてそうだろうか?郊外へ向かうレーンは点々で示されており、これは「1996〜2005年」だね。それより前に都心部と副都心を結ぶようにレーンが整備され、その時期は「1989〜1995年」。これは誤りと判定していいんじゃないかな。
さらにYについて。これはそのまんまじゃない?地下鉄路線が拡充してきたのはその通りだと思う。ん?もしかして「大量輸送の可能な」が違う?でも、この場合の比較対象ってバスだよね。バスに比べれば地下鉄(というか鉄道)の方がたくさんの人を運べるのは間違いないでしょ。都市部の地下鉄ならば、10両編成みたいなものも珍しくないし。正文でいいでしょう。正解は3ですね。