2020年地理B本試験[第3問]解説
たつじんオリジナル解説[2020年地理B本試験]<第3問>
[13][インプレッション]初見の際、めっちゃ悩んだ問題です。でも、今改めて解いてみると、さほど難しい問題でもないかな。開き直ってシンプルに解いてみれば、案外あっさり解ける問題の典型例。「考えすぎ」ってダメなんでしょうね。
[解法]最初に。テストでこういった都市の人口規模が出題される場合、その基準がまちまちであって解きにくいことが多い。具体的には、例えば「人口100万人」と言った際に、行政区分としての「〇〇市」の人口が100万人なのか、それとも郊外も含めた「都市圏」としての人口が100万人なのか、これがはっきりしない。本問についてはとくに絶望的で
注釈として「各時点での各国の統計上の定義による」とある。つまり、年代および国によって基準がまちまちであるのだ。例えば、行政区分としての「大阪市」の人口は250万人程度で本問の「300万人以上」の定義からは外れる。しかし、実質的な都市地域を含めた「大阪圏」と考えると、その人口は軽く1000万人を越える。さて、これはどうしたものか。というより、問題の方で「各時点での各国の統計上の定義による」と開き直っているのだから、こちらも「感覚的」に考えるしかない。共通の定義がない以上(本来、これは統計としては不完全だと思うのだが)、「何となく大都市」ぐらいのフィーリングで考えていく必要がある。
では、そういったことを大前提として、改めて問題を解いてみよう。このような問題の場合、解答を求められているウを直接解くパターンと、消去法によって他を特定してから残った選択肢をウとするパターンとの2つがあるが、本文については後者がいいようだ。なぜなら問われているのが中国の華中から華南、インドのほぼ全体など、極めて特徴的な地域であるから。この地域の人口や都市の特徴についてストレートに考えてみよう。
この地域の特徴。まず絶対的な人口が多いよね。中国の半分、インドのほとんどがウには含まれている。単純計算で中国14億人の50%、インド13億人の80%が集まっているとすれば、それだけで17億人を越え、世界人口の4分の1。他にも人口1億人規模ならば、フィリピンやベトナムの一部、メキシコのほとんどもこのエリアに含まれ、20億人は軽くオーバーしているであろう。
また、これらの国々が発展途上国であることにも注目。発展途上国では「農村→都市」への人口流動がとくに顕著。もちろん日本のような先進国でも農村(非大都市圏)から都市(大都市圏)への人口流動はみられるが、しかしそれはかつてほど極端な動きではない。日本が成長過程にあった1960年代つまり高度経済成長期にこそ、国内の人口移動は活発であり、先進国となった現在ではさほど極端なものではなくなっている。発展途上地域では、人口増加率が高い農村では十分な雇用がなく、人々は都市に仕事を求めてやってくるのだ(しかし、決してそこでも雇用は十分とは言えない。結局仕事を得られずスラムに住みつくことになるのだが)。
「人口が多い=大都市が多い」、「発展途上国=農村から都市への人口流入が著しい=都市の人口が急増=大都市の数が増える」の2点から考察し、選択肢①が答えとなる。
と言いたいところなのだが、同じような条件を選択肢②も満たしている。こっちが本命なんじゃないか。①と②を比較してみよう。
①で気になるのは1975年の「21」という数字なのだ。1975年といえば日本の高度経済成長末期。オイルショックの時期であり、先進国ではこの先、経済成長が鈍化する。
逆に言えば、この時点で十分に「発展」を完了していた国々が日米欧の先進国なのだ。都市化も進み、人口の大きい都市も多くなっていたはず。どうかな、①は発展途上地域にふさわしくないといえないかな。(ここで始めて他の選択肢をみるわけだが)イはどうだろう?中国の北半分を含み、人口は決して小さくない。それどころか、アメリカ合衆国のほとんどや地中海沿岸地域がこのエリアに該当し、むしろ人口規模は(ウには及ばないだろうが)多い方なんじゃないか。アメリカ合衆国やイタリア、そして日本にはこの時点で人口が300万人に達する都市は一つ以上はあったはず(ニューヨーク。ローマ、東京など)。また発展途上地域ではあるが、イスタンブールやソウルなど現在の人口が1000万人に達していることを考えれば、この時期からすでに300万ほどの数字ならクリアしていたとみるのが自然だろう。これに中国の大都市が加わる。1975年の時点でイの大都市(人口300万人以上)が「6」だったとは考えにくいんじゃない?むしろ21ぐらいあったとみて問題ないと思う。最初に述べたように[都市圏人口]ならば、日本国内でも大阪市や名古屋市もそれに該当する。スペインのマドリードやアメリカ合衆国のロサンゼルスやシカゴなども十分その規模に達しているだろう。イを①と考え、ウは②となり、これが正解。
インドや中国はもちろん1975年の段階から人口大国であったが、都市化は進まず、多くの人口は農村に居住していた。大都市が「6」のみであるのも納得だろう。しかし、ここからの伸び方がスゴい! 1995年までのわずか20年間でその数は3倍以上となり、さらに20年間で2倍以上となった。次の20年後にはイの地域の大都市の数を超えるだろう。
アとエの判定は不要。ヨーロッパの主要部が含まれるアが④っぽいけどね。
[14][インプレッション]問1に続いて都市の人口規模がテーマになっていますね。地理は数字の学問ですから、都市については人口という「数字」が非常に大事になります。これはちょっとした知識問題とは思いますが、過去にも似たような内容の出題例があり、知っておいてもいいと思います。
[解法]都市の人口の問題。問題文を読解してみよう。「人口第1位の都市の人口が、第2位の都市の人口の2倍未満である」とのこと。つまり上位2つの都市の人口が近接しているということ。国内に複数の主要都市が存在しているということか。
この逆の概念が「プライメイトシティ」だろう。国内でたった一つの都市のみが突出して規模が大きい。発展途上国にとくに多くみられるパターンだったね。発展途上国は経済規模(GNI)が十分ではないので、多くの都市に分散して投資することはできない。唯一の都市に集中して投資し、社会インフラを整備していく。選択肢の中ではエチオピアがこれに該当するだろう。1人当たりGNIが極めて低い貧困国。たった一つの都市しか巨大化しない(それでも極端に人口が大きい都市というわけでもないが。まだまだ都市化が進まず、農村人口の方が大きいのだ)。
発展途上国でプライメイトシティが成り立ちやすい理由はわかっただろうか。ただ、プライメイトシティの定義を単に「その国でとくに人口が多い都市」としてしまうと東京を有する日本も含まれてしまう(東京特別区部の人口は900万人。横浜市の人口は350万人)ので、ある程度、個別にそれぞれの国の主要都市の人口規模を知っておく必要がある。ここで注目するべき国はオーストラリア。
例えばオーストラリアの首都は知っているだろうか。計画的に建設された政治都市キャンベラ。国土南東部の山中に設けられた都市で、人口規模は小さい。なぜこんな辺鄙(へんぴ)なところに首都が作られた?国内の2大都市の間で首都機能を巡って強烈な綱引き合戦が生じ、折衷案(?)として両者の間の山間部に新たな都市が建設された。それがキャンベラ。
国内の2大都市ってどこだ?それが「シドニー」と「メルボルン」。南東部の沿岸部に位置するシドニーは世界三大美港にも数えられる都市。オペラハウスで有名だね。人口は国内最大で450万人。一方、メルボルンはシドニーよりやや南に位置し、こちらもやはり港湾都市。植民地時代より行政府が置かれ、独立当時は首都だった。人口は400万人。両都市にはいずれも夏季オリンピック・パラリンピックの開催地だったという共通点がある。メルボルンが1956年大会、シドニーが2000年大会。この関係はブラジルのサンパウロとリオデジャネイロに似ている。サンパウロは人口最大、リオデジャネイロは旧首都でいずれも人口が多い。ただしこちらはオリンピック・パラリンピックが開催されたのはリオデジャネイロだけだが(2016年大会)。
「人口規模第1位の都市の人口が、第2位の都市の2倍未満」である国はオーストラリアが該当し、②が正解。
韓国のソウルはプライメイトシティの典型的な例。国内総人口5000万人の5分の1が集中し、韓国の経済・文化・産業活動の圧倒的な中心地となっている(もちろん首都なので政治的にも中心)。
チェコはヨーロッパの小国。というか、ヨーロッパは主要5カ国(ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペイン)とロシアを除けば全て小国なのだが。とくに知る必要はない。人口1000万人程度であり、日本で言えば「一つの地方」のようなイメージ。チェコの首都プラハについては、北海道の札幌、東北地方の仙台、中国地方の広島、九州地方の福岡を考えてみたらいいだろう。広い国土においては国内にいくつもの中心地ができるが(東京と大阪のように)、狭いエリアにおいては「1人のリーダー」が誕生する。
本問はオーストラリア(というかシドニーとメルボルン)についての知識問題とも言えたのだが、「人口規模第1位の都市の人口が、第2位の都市の人口の2倍未満」である国は実はかなり少ない。パッと思い浮かぶのは、オーストラリア以外では中国、インド、ベトナム、南アフリカ共和国、カナダ、ブラジルぐらいかな。
[15][インプレッション]都市名が登場していますね。ただ、センター地理においては都市自体の知識は問われないのが基本なので、しっかり下線部だけにターゲットを絞って、一般論として考えてみたらいいと思いますよ。「地誌」ではなく「系統地理」的な思考と言いましょうか。
[解法]文章正誤問題だが、見るべきところが決まっており(下線部)、さらに誤文判定であるのでさほど難易度は高くなさそうなのだが、どうなんだろう。
①について。発展途上国の大都市における状況。農村から仕事を求めて多くの人々がやってくるが、仕事にありつけるという「あこがれ」は幻想と散る。実際には雇用はなく(「雇用<労働者」のバランス)、収入のない人々は土地を不法占拠して粗末な小屋を建てて住み着く。そうして形成された不良住宅地区がスラムであり、都市周辺へと拡大していく。正文。
②について。ヨーロッパは環境保全に対する意識が強く、都市内部における交通事情にもその影響は及ぶ。一つが「路面電車」の整備。簡易かつ排気ガスを出さない「エコ」な乗り物として路面電車の評価が高い。日本でも、かつて交通渋滞の原因となるとして廃止が続いていた路面電車であるが、近年は多くの都市で見直しがされている。一つが「パーク&ライド」。パークは駐車。他所から自家用車で訪れた人々は、まず自家用車を市街地周辺に設けられた駐車場にとめる。ライドは乗車。路面電車やバスなどの公共交通機関に乗り換え、市街地へと入る。都市内部の交通渋滞や排気ガスによる大気汚染が防がれ、美しい生活空間が維持される。正文。
③について。先進国の大都市における再開発ではジェントリフィケーションという状況が生じる。「ジェントリファイ」とは「高級化」と訳され、ジェントリフィケーションについても一般的に「高級住宅地化」と考えていい。ただ、文字通りの高級住宅というより、住宅が新しく建設され「ワンランク上の街になったというイメージで捉えて欲しい。それまでの古い街並みが再開発され、綺麗な街区へと整備された。それまでのスラムは一般住宅地に、同じく一般住宅地は中上流の住宅地に、そして中上流の住宅地は高級住宅地へ、それぞれ階層が上がったと考えて欲しい。住民の社会経済階層もワンランクアップし、税収も増え、治安も改善される。消費活動も活発化し、地区全体が活性化する。選択肢③の文章を読み直してみよう。再開発によって高所得者層が「増える」のであり、減少は誤りである。なお、家賃の高騰によって旧住民が立ち退きを強制される例もあるなど、決して再開発はプラスの側面でのみ語られるものでもない。
④について。一般的に発展途上国の都市は大気汚染など公害問題が深刻。日本でも高度経済成長期には様々な都市公害に悩まされた。正文。
[16][インプレッション]これは非常におもしろいですね。僕は今回の問題の中では一番好きかも知れない。経済レベル(1人当たりGNI)に基づいて消去法で最初は解いてみたのですが、なるほど、むしろフィリピンの特殊性に徹底的に拘って解いた方が良かったのかも知れない。興味深い問題だと思いますよ。
[解法]ホンコンにおける外国人(外国籍)労働者に関する問題。出稼ぎを考えてもいいし、本国の企業から派遣されているホワイトカラーを考えてもいい。
労働者の移動は「1人当たりGNIの低い国から高い国」が大原則。人数でいえば「①>②>③>④」の順は1996年も2016年も変わらない。でも変化の仕方が大きく異なっているね。①は大きく数字を伸ばしている。他を圧倒する人数である。②は逆に大きく数字を落としている。1996年と比べてその人数は5分の1である。グローバル化が進み、人々の国際移動が活発化した21世紀の世界において、この人数の減り方は異常である。そう、異常なのだ。よほど特別なことがあったに違いない。それは何だろうか。実は問題文にヒントがあるね。「1997年に中国に返還された」ホンコンなのである。「政治体制」の違いによって大きな変化があったのだ。
③はどうだろうか。こちらはやや数字が減少している。最大の特徴は「労働者総数に占める管理職・専門職従事者の割合」が、②と並んで高いことである。②と③には共通する特徴があるのだろう。
④も人数が減少している。そもそもホンコンとあまり関わりのない国なのだろうか。こちらは「〜管理職・専門職〜」の数字が①と並んで低い。管理職と専門職がホワイトカラー(事務部門などの労働者)であるのに対し、その反対語であるブルーカラー(生産現場で働く労働者)が多いということだろう。発展途上国から流入し、単純労働に従事する出稼ぎ労働者を考える。
まず②はイギリスではなかろうか。19世紀以来ホンコンはイギリスの植民地であった。イギリスが直接支配をし、例えば軍隊もイギリス軍が駐留していた。1997年に中国の特別行政区となった。資本主義の自由(市場)経済のシステムは残ったものの、イギリスの統治を離れ、その影響は最小限となった。これから考えるに、大きく数字を減らした②がイギリスと考えられる。
なお、②については「〜管理職・専門職〜」の割合が高いが、これはイギリス系の企業が多くホンコンに進出しているからであろう。先進国(1人当たりGNIが高い)イギリスから、例えば工場で単純労働に従事する「出稼ぎ労働者」は少ないと思う。
そうみると、③もはっきりするのではないか。②と同様に先進国と考えるべきだろう。日系企業(日本企業の現地法人)が多くホンコンに進出し、そこで事務作業などに就いているホワイトカラー労働者が多く日本から派遣されているのではないか。人数が減少しているが、やはりイギリス時代より中国の一部となった現在の方がやや経済活動に不自由があるのかも知れない。
残りは①と②であり、いずれかがフィリピン、いずれかがタイである。ともに1人当たりGNIが低い発展途上国(タイが6000ドル/人、フィリピンが3500ドル/人)であり、1人当たりGNIが高いホンコンに出稼ぎ労働者を送り出しているとみて問題ない。ただし、人数が圧倒的に違う。
ここで両国を比較してみよう。
距離・・・フィリピンの方がホンコンに近い。南シナ海の対岸である。一方のタイは陸続きではあるが、中国との間にベトナムが挟まれる。
人口・・・フィリピンが1億人、タイが7000万人。より多くの労働力を有するにはフィリピンである。
経済レベル・・・前述のようにフィリピンが3500ドル/人、タイが6000ドル/人。国内の賃金水準が低く、外国への出稼ぎがより必要となるのはフィリピンの方であろう。
どうだろうか。これら比較を通じて、ホンコンにより多くの出稼ぎ労働者を送り出している国としてフィリピンが挙げられるのではないだろうか。①がフィリピンであり、これか解答である。
なるほど、そういえばたしかにフィリピンは出稼ぎがとくに多い国である。1980年代には「興行」の名目で多くのフィリピン人女性が日本へと出稼ぎにやってきた。彼女たちの多くは飲食店で働き、稼いたお金の多くは本国へと送金された。現在は介護や看護の研修生としての受け入れが多くなっている。
シンガポールやホンコンへは、家政婦やベビーシッターとしての出稼ぎが多い。フィリピンは英語を公用語とする国である。シンガポールでも英語は公用語の一つとなっており(シンガポールの公用語はマレー語、英語、中国語、タミル語の4つ),とくに公的な場においては英語が使用されることが多い。ホンコンは中国の一部であり、中国語が公用語だが(中国の公用語は中国語一つである)、19世紀から20世紀の間はイギリスの植民地であり、英語を理解する人々も多い。
こういった側面からも、ホンコンにフィリピン人の出稼ぎ者が多いことが容易に想像できるだろう。正解は①である。今回は第4問の地誌でも東南アジアが取り上げられていた。東南アジアへの注目度は高い。
[17][インプレッション]うわっ、一瞬「」めんどくさそうだな〜」思ってしまった問題です。でもよく見たらそうでもないかも。鳥取県が主役の問題です。「人口」という数字が主役の問題です。日本の各県の人口に対する感覚、みなさんは持っていますか。
[解法]表の読解が重要。直感的に雰囲気で「見る」のではなく、一つ一つの数字について「読む」ことが大切。
「都府県間における1年間の人口転出入雛」に関する表である。縦軸が「転出前」、横軸が「転入後」。
例えば、東京都から大阪府へと移動した人口は「17439」人。それに対し大阪府から東京都へ移動した人口は「25390」人。東京都へと人が集まる様子は、東京都と大阪府の関係をみただけでも理解できる。
ではカ〜ケについて考えてみよう。東京都を基準にして、東京都からカが「6483」、キが「2163」、クが「1872」、そしてケが「655」。おっと、ケが極端に少ないではないか!
よく見ると、ケについては大阪府からの移動が「1038」とそれなりに多い以外、いずれも小さな値となっている。とくにクからの移動は「13」。
さらにみれば、ケが転出前の移動についても、数字が極めて少ない。一年間でケからクに引っ越した人は4人!これ、一つの家族が引っ越しただけじゃないの?
どうだろう?ここでピンと来ないかな。そう、ケはそもそもの規模が小さい県なのだ。だから、この県から出ていく人も少ないし、入ってくる人口も小さい。選択肢中で最も人口が少ない県はどこか。っていうか、そもそもこの県は選択肢中どころか日本で最も人口が少ない県なのである。そう。ケこそ鳥取県になるね。④が正解。
他の都府県についても検討してみよう。まずカであるが、そもそもの値が大きい。カから東京都への移動数は1万人近い。地方中枢都市であり、人口が100万人に達する仙台市を有する宮城県ではないだろうか。なるほど、東北地方と関東地方(東京大都市圏)との距離の近さ、同じく東北地方と近畿地方(大阪大都市圏)との距離の遠さを考えれば、「宮城県→大阪府」への移動数が少ないのは納得だろう。
さらにキ。これは東京都と大阪府への移動数がほぼ同じ、というかむしろ大阪府への転入が多い。西日本に位置する県なんじゃないかな。ということでこれが岡山県。政令指定都市である岡山市を有し、人口は鳥取県より多くなっているため、全体の移動者数も多い。
クは極端に大阪府への移動が少ない。その一方で、カへの移動が多く、東京都とさほど変わらない。宮城県と同じく東北地方に位置する秋田県だろう。秋田県も決して経済的に恵まれた県ではなく、やはり仕事を求めて県外へと流出する人口も多い。しかし、そんな場合でも東京都だけでなく、宮城県への移動も彼らの選択肢には十分に含まれている。仙台で仕事を探すのもいいじゃないか。東北地方の人々の精神性みたいなものが現れているような気がします。(終了)
[18][インプレッション]うわー、厄介そうな問題(涙)。何せ、図が細かくて判別しにくい。さて、どうしたものか。指標にも注目してみましょうか。まずは「第1次産業就業者世帯割合」ですが、これは簡単だね。農業就業人口割合のこと。都心部より郊外、そして都市圏外でこそ割合が高いでしょう。これはわかりやすいと思います。
さらに「総人口に占める居住基幹が5年未満の人口割合」。なるほど、最近どれぐらい多くの人が転入してきたかってことか。伝統的な地域には何十年も暮らしているような人が多そうだから、それとは対照的な地域ということですね。農村にはそういった転入者は少なそうですね。都心も古い街並みが多いってことは、昔ながらの住民が多いのかな。でもマンションなど建設されて、学生や単身赴任者など一時的な居住者も多かったりするからその点はちょっと考えないと。
最後の「総世帯数に占める核家族世帯割合」ですが、これ、かなりわかりにくい。核家族の反対は大家族ですよね。「親と子」だけならば核家族になり、親の親、つまり子からみれば祖父母が同居すれば「大家族」。なるほど、各家族の割合が高い地域、大家族の割合が高い地域、それぞれを考えればいいのか。。。と言いたいところなんですが、ここでちょっと頭を悩ませる。ん?1人ぐらしはどうなるんだ?これって核家族?例えば、子どもがいない夫婦だけの家族ならばこれはおそらく核家族って考えていいように思うんだが、一人暮らしはそもそも「家族」じゃないぞ。問題文にも注釈がない。さぁ、これについてはどう考えたら良いんだろう。その場でフレキシブルに考えないとあかんような。とりあえず解いてみましょう。
[解法]今回のクライマックス問題の一つだね、これは。かなり手強そうな気がする。
こういった問題で先に図を見てしまうとパニックになる。最初に指標に注目して、目安をつけてから具体的に考えていかないと。漠然と考えていても混乱するだけ。
指標は3つ。「総人口に占める居住期間が5年未満の人口割合」(以下「5年未満割合」)、「総世帯数に占める核家族世帯割合」(以下「核家族割合」)、「第1次産業就業者世帯割合」(以下「第1次産業割合」)。この中でもっとわかりやすいものは「第1次産業割合」。いわゆる農業就業人口割合だが、都心部で低く、郊外で比較的高く、都市圏外でとくに高い傾向があるとみていいんじゃないかな。第1次産業に対立するのは第2次産業や第3次産業であり、これらは都市圏で割合が高い。また都市圏内においても地価が高い都心部ではほぼ農地としての利用はないだろうし、農業に従事する人もほとんどいないはず。同じ都市圏内でも郊外は都市出荷用の野菜や生乳、鶏卵などをつくっている場合もあり(近郊農業)、農業に従事する人が全くいないというわけでもないだろう。都市圏外は広大な土地があり、こちらは農家が多いはず。
ただ、残った2つが難しいのだ。「5年未満割合」の分布にはどういった傾向があるのだろう。「出生時からの居住者は含まない」とあるが、これは0〜5歳児のことだろう。考慮の必要はない。例えば、大学があれば当然こういった一時的な居住者が多いのはわかるよね。大学を4年で卒業するならば、下宿生ならばそれに合わせて居住する。ただ、図を参照する限り、「都市の概要」に大学の位置は示されていない(というかそもそも大学があるかどうかわからない)。ただ、そうした一時的な居住者には「単身者」が多いのではないだろうか。就職の際に勤務地(その多くは都心部だろう)に近いところに部屋を借りて住む。ワンルームマンションを考えれば、若い世代を中心とした単身者こそ一時的な居住者に多く、彼らは結婚を機会に、より広いマンションやあるいは戸建ての住宅に転居する。それらは広い分だけ地価の高い都心部には成り立ちにくく、地価の安い郊外に多くみられるはず。ただ、一方で、都心部への通勤が困難な都市圏外も避けられるわけだが。
では「核家族世帯割合」はどうだろう。これも難しい。そもそも核家族って何だ?核家族の反対語は「大家族」。3世代が同居している家族のことで、「祖父母・親・子」からなっている。核家族はこれに対し「親・子」のみ。まさに家族の基本的な単位であり「核」である。
ただ、ここからが悩むのだが、例えば子がいない夫婦の場合はどうなんだろう?これは百歩譲って核家族に含めるとしても(たまたま子どもがいないだけであり、家族の単位としては基本であると思う)、一人暮らしってどうなんだ?これこそ「核」なんじゃないか。いや、そもそも「家族」ではない?
で、ここで考えるんだが、先に上げた「5年未満」については単身者が多いんじゃないかって言ったよね。この「5年未満割合」と「核家族割合」を判定するわけだから、この2つが全く同じ傾向を見せていれば解答は不可能になる。ってことは、これ、お互いに「反対」の概念になるはずなんじゃないか。「5年未満」が主に単身者で決まりならば、「核家族」には単身者は含まれない。核だけど家族じゃない。この2つの指標を明確に区分しないといけないわけで、「単身OR 家族」という判定基準は必須だと思う。
ここで図をみてみよう。メッシュマップというもの。ただいずれの指標も「割合」であり、さらに色の濃淡で値の高低が示されている。実質的に階級区分図である。「都市の概要」より、地価最高地点の周辺が都心部とみていいだろう。主要道路もこの地点から放射状に外側に発しており、さらに環状路も何重にもみられる。間違いなくこの都市の中心部である。
サがはっきりしている。都心部でこそ高い値となっている。そして周辺部で低いエリアが多い(ところで北西部(左手が北となっている点に注意。図の左下が北西)に「データなし」のエリアが目立つがどうしたことだろう。幹線道路の密度も低いところであり、もしかして誰も住んでいないのか)。これ、「単身者」だと思うのだ。地価の高い都心部に集合住宅がつくられ、ワンルームマンションに住む人が多い。面積は限られているが、都心部への通勤を考えると住むには便利。
問題はここから。シとスは似た傾向をみせる図であるため、区別ができない。最初は判定が容易と思った「第1次産業割合」だが、ここで引っかかるとは。かなりひねった問題になっている。クオリティは高い。
感心しているヒマはないので、さらに問題を解析していこう。これ、よくみると明確に異なっている部分がいくつかある。その最大のものは地価最高地点の西側(図でいえば下側)の一帯だろう。シでは「高」や「中」に覆われたこの地域だが、スでは「低」になっている。この違いって何だ?さらに都市の南東端(図でいえば右上)にも違いがある。スではやたら「高」が集まっているのだ。シではばらつきがあると言うのに。
悩んだら基本に帰ろう。最初に「この中で最もわかりやすいものは第1次産業割合」と僕は言い切った。結果として、それは後回しになり、先に「5年未満割合」を判定してしまったわけだが。でも、やはり「第1次産業割合」は考えやすいと思うよ。農家が多いのは間違いなく農村部であり、都心部ではない。都心部は地価が高く、十分な農地を確保できないだろうし、仮に農地があったとしても住宅地や商業施設などの開発によってそれらは失われているはずだ。本図で「農村」ってズバリどこなんだろう?
それはちょっとわからない。でも都心だったらわかるよね。というか「地価最高地点」というべきか。地価最高地点こそ都心であり、この周辺エリアが「都心部」となる。サが5年未満人口割合である決め手として、この都心部の地価の高さがあった(だから単身者用のマンションが主となる)。都心部を含む一帯で全体として「低」となっており、都心部から遠く離れた、つまり通勤圏ですらなく、明らかに「農村」と考えられる地域で「高」となっているのはシとスのいずれかであろうか。
この条件を満たしているのは、どちらかといえばスなんじゃないか。地価最低地点から半径5キロ以内の範囲はほぼ「低」となっており、これはサでこのエリアが全体として「高」となっているのと対照的。マンションが並ぶような高地価の「都心部」では農業は行なわれないのだ。一方で、南東部(図の右上)ではほぼ全体が「高」となっている。縁辺部で高いという傾向がはっきりしており、このエリアは「農村」なんじゃないか。主要道路の密度も比較的高く、もしかして通勤圏なのかも知れないが、それでも都心部から離れていることは確実で、ここが農業地帯であることは想像できる。シが「第1次産業割合」で、正解はス。
残ったシが「核家族割合」である。「5年未満=単身者」としたので、おそらく「核家族」には単身者は含まれない(単身者も核家族にしてしまったら、「5年未満割合」と「核家族割合」の区別ができなくなる)。一戸建てに住むような一般的なファミリーを考えればいいと思う。こうした一戸建てが多いのは「郊外」だよね。地価が高く、ファミリー層にとっては決して居住環境の良くない都心部を避け、土地が安く、それでいて都心部への通勤が比較的容易な「郊外」へと居を構える。ニュータウンの開発も進むのかも知れない。
シについては、都心部を取り巻く一帯で割合が高くなっている傾向があるようだ。地価最高点を含む都心部で「低」となっているが、そこから5〜10キロの範囲には「高」が目立つ。
都市構造を考えた場合、「都市圏=都心部+郊外」であることは大丈夫だね。昼間人口が多い都心部と夜間人口の多い郊外を合わせて都市圏すなわち通勤圏。そしてその外側に「都市圏外」とも言える農村地域が広がり、人口流出地域であり、一部で過疎も進行している。都心部でとくに「高」が目立つのがサ。地価が高くマンションが多い。その周囲の都心から5〜10キロ離れたところで「高」が目立つのがシ。郊外のニュータウン。
さらにその外側の縁辺部(南東部=右上がわかりやすい)で「高」となるのがスであるが、これは「都市圏外」で、都心部への通勤者は居住が難しい(だから農村となっている)。どうかな、これでつじつまは合っていると思う。一見ややこしい問題に見えるが、「都心部」→「郊外」→「都市圏外」を意識させる都市構造のオーソドックスな問題であり、だからこそ「名作」と言えるのだ。