2018年度地理B本試験[第4問]解説

<2018年度地理B本試験 第4問 西アジア地誌>

 

えっ西アジア!?つい4年前に出たばかりだぞ???しかもザッとみたところ、小問は変わったものばかりで、しかもとんでもない難問も含まれている。

センター地理B本試験の地誌問題(第4問)って、「ヨーロッパ周辺」→「アジア・アフリカ」→「新大陸」のローテーションで出題されていて、今年は「新大陸」の順だった。さらに、3年前には南米が出題されており、またセンター地理B本試験ではオセアニアは出題されたことがないので、ド本命が「北アメリカ」だったんだが。。。これはどういうことだ?

と思ったら、追試で北アメリカが登場しているんだよなぁ。僕は思うんだが、これっておそらく直前でこの大問については本試験と追試験を入れ替えたんだと思う。この試験って、平均点が高かったんだけれども、おそらくもっと簡単だったんじゃないかな。で、それでゃヤバいっていうので、簡単な大問(それが北アメリカ地誌だったんだと思う)を難しい大問(この西アジアの大問)と交換することで、平均点をやや下げようとした。それで平均点が許容範囲に落ち着いたのだから、これは成功だったのでしょう。社会(地歴)の場合、世界史と日本史、地理の平均点を合わせないといけないから平均点調整のための工夫が必要になるんだわね。でもそのせいで、【13】と【21】で国ごとの宗教構成っていうネタがかぶってしまっている。これはちょっと問題だと思うけどね。

問1は難。かなりカンに頼らないといけない。

問2は確実にゲット。

問3は捨て問でしょう。これは無理だわ

問4はセンター地理の良問。これがスムーズに解ければセンター地理マスター!

問5は何とかいけるんじゃないかな。この大問の「勝敗」を決する問題。ここで得点できるとおいしんだが。

問6も最後でかなり迷うと思う。現代社会や公民分野が得意な人なら解けたと思うが、そもそも地理は理系の受験生が多いので、そこまでカバーできないね。

3問ロスは覚悟しないといけない。上述のように、平均点を低く抑えるための大問であるので、これは致し方ないんじゃないかな。

 

【19】【インプレッション】妙な問題。さすがに本試験でこれはヤバいんじゃない?っていう感じ。この大問がもともと追試験だったって思う根拠の一つ。

 

【解法】大地形に関する問題。とりあえず「標高が高い」ことについては新期造山帯を考えてしまえばいいわけだが、それにしても判断に迷うかもしれない。アラビア半島は、かつてアフリカ大陸などと一体化していた安定陸塊で、古大陸ゴンドワナランドの一部と言われている。高原状の地形ではあるだろうが(アフリカ大陸も高原だ)、際立って標高が高いとは思えない。アは除外できる。

さらにイ。イラクはかつてメソポタミアと呼ばれ、チグリス川とユーフラテ川の潤す沖積平野が国土中央に広がる。「肥沃な三角地帯」と呼ばれ、古代メソポタミア文明の発展を促した。河川の流れに沿って集落が立地する様子は2014年度地理B本試験第4問問1でも問われている。低地であるため、これも解答候補から外せる。

残ったウとエだが、いずれも新期造山帯で標高が高いことが予想される。ウはイラン高原。この高原は、北部をエルブールズ山脈、南部をザグロス山脈に挟まれ、標高が高い。

しかし、ここで注目するべきはエなのだ。アフガニスタン東部からパキスタン北部にかけての地域。実はここ、ヒンドゥークシュ山脈という極めて高峻な山脈が走行する地域。北のタジキスタンには「世界の屋根」とも称されるパミール高原が、東側のパキスタンやインド、中国方面にはカラコルム山脈とヒマラヤ高原が連なる。ア〜エの中どころか、この一帯は地球上で最も標高が高いエリアとなっているのだ。正解はDの④。

さすがにヒンドゥークシュ山脈を知っておけというのは無理なので、パミール高原やヒマラヤ山脈のイメージから、この地域の標高が際立って高いことを想像するしかない。難しかったと思う。難問というより、悪問の類。

 

【参考問題】(2016年度地理B追試験第1問問1)

図1のBの範囲がパミール高原に当たる。パミール高原がセンター試験で取り上げられた過去唯一の例。もっとも、パミール高原についてはヒマラヤ山脈やチベット高原とまとめてセットで覚えてしまって、とにかく「火山がない」っていうことさえ予想できれば十分に解ける問題ではあった。

 

【アフターアクション】これは難しいな。たしかにユーラシア大陸を東西に縦断するアルプス・ヒマラヤ造山帯のことを考えれば、Dの標高が高いことは十分に想像できるのだが、仮にそうだとしてもCのイラン高原もアルプス・ヒマラヤ造山帯に含まれる地形であるわけで、こうした大地形の大まかな分布に関する知識だけでは解けない。

図1の範囲で最も重要な山岳は、個人的にはカフカス山脈だと思う。黒海とカスピ海の間を走行する新期造山帯で、南アジアの山々とは異なり一部に火山もみられる。過去に出題例も多いので、この位置に高峻な山脈があることを地図で確認しておこう。

なお、カフカス山脈の周辺にはジョージアやアルメニア、アゼルバイジャンなどの国が密集しており、それらの接する国境線は複雑に描かれている。このようなパターンの国境線がみられるところは深い山岳地域であることが多く、主要な尾根に沿って国境線が設定されているのだ。なるほど、エの地域も多くの険しい山々が走行するため、やはり国境線が複雑になっている。山を挟んでの交流が困難で、それぞれの地域に独自性をもった民族が分化した歴史背景を感じることができる。

参考までに、アやイのアラビア半島周辺には直線上の国境線が多い。緯線や経線に沿うものもあれば、単に2地点間を直線で結んだものもある。砂漠など人々の生活がみられない地域においてはこのような機械的な国境線(人為的国教という)が設定される例が多い。国境線の形状からその地域の自然環境を類推することもある程度は可能なのだ。

 

【20】【インプレッション】農業に関するオーソドックスな問題。農作物や畜産物の名称がいずれの選択肢にも登場しているので、これがポイントになりそうだね。

 

【解法】農業と牧業に関する問題。農畜産物に注目して各選択肢を読み解こう。

①について。「夏に乾燥する気候」とは地中海性気候のことであり、「オリーブ」の栽培がみられるのは地中海式農業。地中海性気候は緯度35°周辺の大陸西岸に見られる気候区。Aは沿岸部というわけでもないが、ここなら「西岸」とみて許容範囲なんじゃないかな。緯度的には問題ないので、地中海性気候と考えていい。仮に降水量が十分でなく、乾燥気候に分類されたとしても、やはり夏に雨が少ないことは確実なのだから、厳密に気候区分にこだわることもない。正文とみていい。

さらに②について。Bはサウジアラビアに含まれ、完全な乾燥気候とみていいだろう。亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響によって、緯度25°付近には砂漠が広がる。サウジアラビアは実は農業がさかんな国であると言ったら驚くだろうか。地下水をくみ上げ、センターピボット農法(アメリカ合衆国で行われている灌漑方式。円形の農場が多数みられる)により小麦を中心とした穀物が栽培されている。これも正文とみていいんじゃないかな。一部で野菜も栽培されているのだろう。

そして③。Cはイラン高原南部でザグロス山脈に接する地域だろうか。ここも乾燥気候がみられ、植生はステップもしくは砂漠(植生なし)。イランではカナートと呼ばれる地下水路によって、山麓の地下水を遠方の耕地にまで運んでいる。伝統的な灌漑農業をオアシス農業といい、小麦やナツメヤシ、綿花など乾燥に強い作物が栽培されている。さて、ここで注目は「コーヒー」である。高温湿潤の生育条件を必要とし、熱帯・亜熱帯の高原で栽培される。「高原」であることは間違いなく、「高温」も正しいとして、はたしてこの地域は「湿潤」なのだろうか。灌漑によって栽培されるのは前述の小麦など乾燥に強い作物が中心。河川沿いの水が得やすいところでは米が栽培される例もあるが、ここで話題になっているのはコーヒーである。河川沿いの低地で栽培されるものではない。樹木でも例えばスペイン南部のバレンシア地方では灌漑によるオレンジ栽培も行われているのだが、コーヒーはどうだろう。コーヒーの上位生産国はブラジルやコロンビアなど南米諸国、そしてベトナムやインドネシアなど東南アジア、それから原産地のエチオピアとそれに接するケニアなどが挙げられるが、イランは特徴的な生産国ではない。これを誤りと判定して妥当なのではないだろうか。正解は③。

残った④については判定の必要はないが、参考までに。Dのアフガニスタンは山岳国であり、遊牧が一般的に行われている。イスラム地域であり、豚が飼育されない点は意識しておこう。

 

【関連問題】(2005年度地理B追試験第1問問3)

ちょっと古い問題で、しかも追試だが、南アジアにおけるコーヒー栽培が誤り選択肢として登場している。ヒマラヤ山脈北麓のアッサム地方が取り上げられ、「主にコーヒーのプランテーション農業が行われている」と説明されている。アッサム地方は茶の産地としられており、コーヒーの栽培はみられない。ユーラシア大陸でコーヒー栽培が特徴的なのはベトナムのみ。本来、茶とコーヒーは栽培環境が似ているのだが、両者が栽培されているのはインドネシアやケニアなど。実は少ない。

 

茶のみ・・・西日本・中国南部・インド東部・スリランカ。

コーヒーのみ・・・ベトナム・エチオピア・ブラジル南部・中央アメリカ・コロンビア。

茶とコーヒー・・・インドネシア・ケニア。

 

【アフターアクション】解法ではいろいろごちゃごちゃしゃべりましたが、「イランでコーヒーなんかありえないだろ」と雰囲気一発で解いてしまった方がいいかもね(笑)。他の選択肢もさほど重要ではないと思います。

 

【21】【インプレッション】ん?この試験では【13】でも国ごとの宗教の分布を問う問題が出ている。同じ問題の中で同じネタが2問っていうのはかなり特殊で、地理Bの本試験ではみたことがない。とくに宗教って地理Aが得意にする話題で、地理Bでは数年の一回のペースでしか出題されない。どうしてだろう?直前になって、大問丸ごと差し替えられたってことなんじゃないか。

その一つの証拠として、本問の難易度があまりに高いことが挙げられる。レバノンなんていう特殊な国が登場しているし、イランとアラブ首長国連邦はいずれもイスラームが多数を占める国であり、その判別は困難(もちろん決定的なポイントはあるのだが。それについては「解法」で後述)。平均点が高すぎてしまったので、平均点を下げる意味で大問をそのまま追試験と入れ替えたんじゃないかな。本問のような難問を増やして、平均点を調整する。今回は平均点が高い回だったのだが、そのような調整をしてもまだ簡単だったということ。こうした「応急処置」が必要だったことは想像に難くない。

 

【解法】難問。これ、できる必要があるのだろうか。ここまで豪快な「捨て問」はちょっとお目にかかったことがない。それぐらい難しい。

そもそもレバノンっていう国が初登場なんだわ。

その前に一般論から、西アジア地域は民族(言語)的に4つのグループに分けられる。次の表を参照してほしい。

 

モンゴロイド(黄色人種)

トルコ

コーカソイド(白色人種)

インド・ヨーロッパ

イラン

セム・ハム

アラビア語

アラブ諸国

ヘブライ語

イスラエル(ユダヤ)

 

トルコはトルコ語を使用しているが、これはモンゴロイド系のウラル・アルタイ語族に属する言葉。イランのペルシャ語は、コーカソイド系のインド・ヨーロッパ語族。アラブ諸国が使用するアラビア語と、イスラエル(ユダヤ人からなる)が使用するヘブライ語は、セム・ハム語族であり、多くの点で共通する。

 

民族(言語)系統をふまえて宗教について区分しよう。西アジアはイスラム教徒が多いものの、ユダヤ人のイスラエルはユダヤ教が多数。イスラム教は多数派のスンニ派と少数派のシーア派に分かれるが、シーア派の国はイランなど、イラクもスンニ派のフセイン政権が倒れてから、シーア派の政権が誕生した。

とくにアラブ民族についてはほとんど全てがイスラム教徒であると考えよう。イスラム教の経典であるコーランはアラビア語で記述されており、翻訳することが許されない(翻訳によってニュアンスが変わってしまうことってあるよね。日本語ならば「私」、「僕」、「俺」であるのに、英語では「I」だけになってしまうなどなど)。厳密さの求められる宗教の教義において、そういったあいまいなことはできるだけ避けたい。イスラム教徒は、他の地域(インドネシアやサヘル地帯、旧ユーゴスラビアやイランなど)の人々はアラビア語を自主的に学習してコーランを読まないといけない。その点、アラブ人は日常で使っているアラビア語でコーランが読めるわけだからお手軽だね。原則として「アラブ人はイスラム教徒である」で間違ってはいない。

ただ、ここに一つ例外があるのだ。そう、アラブ民族であってもイスラム教徒でない人々が存在する。実はある国においてはキリスト教徒も多くなっているのだ。その国こそ「レバノン」なわけだ。レバノンは純然たるアラブ国家。しかし、宗教構成は複雑で、国民の過半数がイスラム教徒であるが、少なくない割合でアラブ系キリスト教徒が存在する。そもそも人種・民族(言語)と宗教は一致しないものなのだが(日本だっていろいろな宗教の信者がいるでしょ)、イスラム教との関係性が深いと思われているアラブ民族ですら、イスラム教徒以外の人々はいくらでもいるのだ。その代表例がレバノンのキリスト教徒。

以上のことから、イスラエルとレバノンは特定できる。ユダヤ教徒の多い④がイスラエル、イスラム教徒以外に比較的キリスト教徒の割合が高い③がレバノン。

ただし、ここからが難しい。というか、解答できないと思う。アラブ首長国連邦は名称からもアラブ国家であり、イスラム教徒が多数であることは間違いない。イランは、すでに上で説明しているように、民族「言語」系統はアラブとは異なるペルシャであるが、やはりイスラム教徒。せめてスンニ派とシーア派の違いでも示しておいてくれたら解答ができるのに、それがないからどうにもお手上げなのだ。答えを①か②にしぼることができれば、とりあえずオッケイにしておいてください。それでセンター地理のレベルとしては十分です。

ここからはおまけになりますが、一応正解を導かないといけないので、イランを当てましょう。

実はイランって正式名称は「イラン・イスラム共和国」というのです。イスラム革命によって、イスラム勢力が政権を取っています。イスラム教は元来「平等」を旨とする宗教であり、サウジアラビアのように王様がいるっておかしいんですよ。コーランの元に全ての人は平等である。王政を否定し、アメリカ合衆国と結びついた国王を追放し、イスラム勢力を中心に共和国が興った。2014年度地理B本試験第5問問6(つい4年前の地理B本試験なので、君たちはこの内容を絶対に知っておくべきだったのだ)ではイランについて、このように説明されている。「この国は、シーア派の指導者を中心にイスラームによる国家建設をすすめてきた。独自の政策路線により、欧米諸国との間で対立している」。どうかな、いかにイランが純粋なイスラム国家であり、それゆえに欧米とわかり会えない部分があるのです。

また、2014年度地理B追試験第2問問1では原油生産量に関するグラフが取り上げられ、やはりイランについての説明がある。「イランでは生産量が1978年を境に減少しているが、これはイラン革命により外国資本の撤退などの混乱が生じたからである」。外国資本とはもちろんアメリカ合衆国系の石油メジャー。イラン国内の油田を開発し、自社のものにしていたが、これをイランのイスラム勢力が認めず、革命により石油メジャーを追い出し、油田を国有化した。それがきっかけで、イランはアメリカ合衆国により「テロ国家」の指定を受け、さまざまな経済制裁を受けるに至った。

こうしたイランであるからこそ、イスラム教徒以外の居住は少なく、国民のほぼ全てがイスラム教徒であると考えていいんじゃないかな。①がイランとなるのです。

残った②がアラブ首長国連邦なのだから、比較的他の宗教の信者も多いね。アラブ首長好連邦には、今世界で最も注目を集める都市「ドバイ」が位置している。巨大な国際空港が位置し、外国人が頻繁に訪れる都市であり、さらに近年は観光地としての開発も進み。別荘を所有してこの地に住む欧米の人々も多い。そういった外国人の多さが、多様な宗教構成に反映されていると考えよう。

 

(追加解説) アラブ首長国連邦は産油国の一つであり、人口が少ないこともあり、1人当たりGNIは極めて高い。日本の主な原油輸入先でもある。

 

こうした地域については1970年代のオイルショック以降、莫大なオイルマネーを利用して建設ブームが起こり、都市インフラの整備が積極的に行われるようになった。

 

ただし、本国の人口は少ない。当然、他の地域から多くの出稼ぎ労働者を招き入れることになる。その際に主な労働者の流入先としてインドがある。インドは経済レベルの低い国(1人当たりGNIが低い)であり、さらに人口が多い。安価な労働力が豊富な国であり、海外への出稼ぎも多い。旧宗主国であるイギリスをはじめとするヨーロッパへも多くの労働者が流出しているが、近隣の西アジアへの移動も当然多い。アラブ首長国連邦の建設現場において多くのインド人が働いていることを想像しよう。

 

もちろんこうした出稼ぎ労働者に国籍が与えられることはない(つまりアラブ首長国人になれないということ)。しかし、本問で興味深いのは問題文の注釈として「外国籍の住民を含む」とある。インド人など外国からの出稼ぎ労働者も当然含まれている。

 

インド人の多くはヒンドゥー教徒である。アラブ首長国連邦はアラブ人から構成される国であり、イスラム教徒が多いと考えられるものの、そうしたインド人労働者の存在を考えるとヒンドゥー教徒もそれなりに多いことが想像される。アラブ首長国連邦は②に該当するが、なるほど、ヒンドゥー教徒の存在は目立っている。

 

【関連問題】(2016年度地理B追試験第5問)

すでにみんなも気づいているとは思うけれど、ここ数年、イランの出題がたいへん多くなっている。その極めつけがこの大問。トルコとの比較地誌である。

問1は気候グラフであるが、イランの高原状の地形と乾燥した気候はチェック。問2では民族(言語)と宗教・宗派が問われている。もちろん「ペルシャ語」であり「シーア派」である。西アジアで多数を占めるアラビア語、スンニ派ではないので注意。問3では、トルコと比較してイランがいかに厳格なイスラム教国であるかが問われている。イスラム教は本来女性に対して優しい宗教であるのだが、その解釈の仕方によっては女性の自由を縛るものになってしまう。問4は1人当たりGNIの高低を問う問題だが、工業国トルコの方が高いのだ。問5が極めて重要で、日本との貿易を問うている。ほんの10年前まで日本はイランの最大の輸出相手国であった。それが、現在は日本とイランの間にほとんど貿易関係はない。これはどうしたことなのだろう?イランは代表的な親日国であったはずなのだ。東日本大震災の影響で日本経済は混乱し、とくに原子力発電が止まったことで原油や天然ガスの授業が拡大した。そういった時こそイランとの友好関係を見直し、輸入量を増やすべきだと思うのだが。たしかにイランは核濃縮問題(核兵器の原料になる)を抱える国ではある。しかし、だからこそ友好国の日本が仲立ちをして、イランと欧米とを交渉のテーブルに誘うべきなのだ。それが率先して、経済制裁に加担し、結果として日本経済にもダメージがあるのだから、もはや言うべき言葉がない。イラン革命によって追い出されたアメリカ合衆国がイランを逆恨みしているのは確かなのだが、日本もそれに追随する必要はない。

 

【アフターアクション】繰り返すが、本問は平均点調整用の「捨て問」であると思う。センターにはこうした問題が多い。「誰にも解けない問題」と「誰でもできる問題」をバランスよく配置し、平均点を調整するのだ。地理は他の科目に比べ偏差(得点のばらつき)が狭い科目であり、0点もほとんど皆無である代わりに、満点も少ない。

しかし、だからこそ「捨て問」に出会ったらチャンスと思わないといけない。捨て問があれば、逆に簡単な誰でもできる問題もその分だけ含まれているということになる。地理は難しい問題も簡単な問題も1問3点である。コスパを考えるならば、難しい問題を必死に解いてようやく得点するよりも、簡単な問題で確実に加点した方がいい。とくにこの2018年度地理B本試験はその傾向が強かった。難しい問題を捨て(どうせ難しいんだから、カンで4分の1の確率で得点を狙った方がいいよ)、簡単な問題を絶対に落とさないという意識を持とう。

それにしてもレバノンって。。。知らんでも全然いいですが、余裕があったら地図帳で場所でも見ておいてください。

 

【22】【インプレッション】定番の1人当たりGNIに関する問題。原油産出地域であるだけに、原油の輸出状況を絡めて出題されている。でも、これってあまりにも2014年に出題されたネタと内容がかぶっている。これでいいのかなって思うなぁ。

 

【解法】「1人当たりGNI」は必須項目なので、必ず知らないといけないが、ちょっとおもしろいと思うのは、「輸出額に占める石油・石炭製品の割合」っていうやつだよね。西アジアは産油国が集まり、オイルマネーに潤う国が多い。そもそも「1人当たりGNI」と「輸出額に占める石油・石炭製品の割合」の高い国って、そのまま重なるんじゃないか?原油をたくさんほって、石油産業の栄える国は経済レベルが上昇する(1人当たりGNIが上がる)。

ってことはどこに注目すればいい?僕は2つの特別な国を思いついた。一つはトルコ。この国はEUから工場が進出することで工業化の著しい国なのだ。主な輸出品は衣類や機械類であり、近年は自動車工業も発達しつつある。この重工業化を支えるための鉄鋼生産も活発となり、アジアでは中国・日本・韓国・インドに次ぐ鉄鋼生産国となっている。1人当たりGNIが低いわけはない。実際に10000ドル/人という、発展途上国としては高めの値となっている。1人当たりGNIが10000ドル/人の国々は覚えておくと得だよ。トルコのほか、ロシア、マレーシア、ルーマニア、メキシコ。ブラジル。アルゼンチン。最近になって工業が発達してきた国が多いでしょ?もちろん西アジアの産油国には、サウジアラビア(25000ドル/人)を始め、いくらでも高所得国は存在するわけで、トルコが「高」のカテゴリーに含まれるとは思いにくいけれど、少なくとも「低」にはならないと思うのだ。工業国トルコの値はポイントになる。なお、トルコの位置は図1で【A】と記されているところ。しっかり確認しておいてね。北は黒海、南は地中海に挟まれた半島国で、西部の海峡には人口1000万に達するイスタンブール、東部の山岳地帯には少数民族のクルド人。

さらにもう一つ、資源は産出されないものの、高い経済レベルを有する国がある。それがイスラエル。西アジアの非産油国としては例外的に高い1人当たりGNIを誇り、その値は30000ドル/人に達し、サウジアラビアと同じレベル。この国は人口の少ない小国ということもあるのだが、それよりも国家としての特別な事情による。イスラエルはユダヤ人によってパレスチナの地に建国された新国家である。20世紀に入り世界中からユダヤ系の人々がこのパレスチナ地方に移住を始め、第2時世界大戦後には先住のパレスチナ人を追い出し、イスラエルが成立した。アメリカ合衆国では銀行家など富裕層にユダヤ系の人々が多く、独立以降イスラエルを経済的そして軍事的に支援した。まだ世界的なダイヤモンド流通の中心地の一つであることもイスラエルの経済的な基盤となっている。これといった主産業もない軍事国家ではあるが、1人当たりGNIは先進国並みに高いという特徴的な国なのだ。なお、イスラエルの場所も確認しておこう。図1を参照。アフリカ大陸と陸続きになっている、細長い国がイスラエル。国内に点線で区切られた場所があるが「かなり見にくいけどね」、地中海やエジプトに面した方が「ガザ地区」、東側のヨルダンに接する方が「ヨルダン川西岸地区」。いずれもパレスチナ人の自治区である。

このことを踏まえて、カ〜クの図を解析していこう。カとクは比較的似ているが、クのみ大きく異なっている。「仲間はずれ」のクを「GDPに占める農林水産業の割合」と考えてみていいんじゃないかな。なるほど、サウジアラビアは「中」であるが、ペルシャ湾岸諸国(アラブ首長国連邦など)は「低」である。原油資源の豊富な国なので、農業に依存する割合は低い。なお、イスラエルが「低」となっていることにも注目。ダイヤモンドを中心とした商業と、そしてアメリカ合衆国からの支援で成り立っている国なのだ。

残った2つが「人口1人当たりGNI」と「輸出額に占める石油・石油製品の割合」のいずれか。前述のようにこの二つの指標には共通項が多いはず。しかし、決定的に違うのはトルコとイスラエルである。キはこの両国が低い値となっているのに対し、カではトルコが「中」、イスラエルが「高」。「どうだろうか。カを「1人当たりGNI」、キを「石油・石油製品の割合」と考えるのは自然だろう。正解は⑤。

ちなみに、アラブ首長国連邦がちょっとおもしろい。カでは「高」だが、キでは「中」、クは「低」となっている。ペルシャ湾岸に位置しもちろん原油の産出もみられるのだが(日本の原油輸入先2位。1位はサウジアラビア)、決して原油だけに依存しているわけでもない。ドバイは中継貿易港として発展し、西アジアの船舶輸送の中心地となっている。観光地としての魅力もあり、世界中から多くの人々が訪れている。

 

【関連問題】(2014年度地理B第4問問3)

 

西アジア諸国の1人当たりGNIが問われている。表には1人当たりGDPとあるが、1人当たりGNIと同義と考えていい。西アジア諸国の一人当たりGNIに関してはいくつかのグループに分けられる。

 

極めて高い(50000ドル/以上)

クウェート・カタール・アラブ首長国連邦

原油を産する人口小国

高い(20000〜30000ドル/人)

サウジアラビア

原油の産出がとくに多い(人口はやや多い)。

やや低い(5000〜10000ドル/人)

イラン

原油を産する(人口はやや多い)。

低い(1000ドル/人程度)

アフガニスタン

資源を有さない。

 

これに加えて、イスラエルが25000ドル/人(サウジアラビアと同じ水準)であり、トルコが10000ドル/人(マレーシアやメキシコ、ブラジルなどの新興工業国と同じレベル)。

 

やや複雑かもしれないが、サウジアラビアは何回も出題されており、必ずチェックしておくこと。また、イスラエルは特別な国なので、こちらも知っておくと使えると思う。

 

【アフターアクション】こうした階級区分図の問題は。まず指標から確認していくこと。いくつかの指標同士が関係し合っている場合があり、図を読解する大きなポイントになることがある。とくに「1人当たりGNI」は重要な指標で、産業の発展、人口増減や年齢構成、都市化の様子などさまざまな指標と関係しあっている。今回は。「原油の輸出国は1人当たりGNIが高いんじゃないか」という思考から「人口1人当たりGNIと輸出額に占める石油・石油製品の割合」が比例関係になることを考え、さらに「1人当たりGNIが低い国には農業に頼って生活している人が多いんじゃないか」という思考から「1人当たりGNI」と「GDPにしめる農林水産業の割合」が反比例することを推理する。

さらに、これは決定的なことなんだが、やっぱり1人当たりGNIは知っておいた方がいいよ。今回については、例えば産油億の1人当たりGNIが高いことは重要であったとしても、それだけでは正解にたどり着かない。やはりイスラエルの値を確実に知っておくべきだったのだ。できればトルコも覚えておくとさらに便利だったかも知れない。1人当たりGNIは、これを@根拠としてさまざまな理論に結びつけることができる「地理の柱」だが、本問のように直接出題されることもあるのだから、単に「高い、低い」という覚え方ではなく、数字としてきちんと整理しておくべきだろう。非常に教訓的な問題だったと思う。

 

【23】【インプレッション】 特殊な地域、西アジア。さらに地理Bでは出題率の低い交通(航空)ネタ。これも難しいでしょ。。。あることに気づけば簡単にできるのかもしれないけれど。

 

【解法】航空交通に関する問題だが、取り上げられている国が特殊で難しいと思う。イラク、カタール、サウジアラビア、トルコ。カタールはペルシャ湾岸の小国で、原油産出が多い。OPECに加盟する産油国だが、2022年のサッカーワールドカップの開催で知られているだろうか。日本のサッカーファンには「ドーハの悲劇」で有名。1人当たりGNIが極端に高い国である。

さて、表を読解していこう。イラクは湾岸戦争に続く多国籍軍による侵攻によって国の機能が大きく損なわれた。アメリカ合衆国の支援のもとに国の復興が図られているが、社会的には安定していない。日本からの観光客が多いとは思えない。

さらにサウジアラビア。この国が本問のポイントだと思う。サウジアラビアは専制君主国であり、厳格なイスラーム国家(イスラーム自体が女性差別ということはない。「アフターアクション」参照)。イスラーム以外の人々の入国は制限され、日本からも政府関係者や研究者が派遣されている程度。一般人の観光は皆無と思っていいだろう(もちろん外国人でもイスラームならば聖地メッカへの巡礼は義務付けられているのだから、むしろウェルカムだろうが)。

こういった観点から考えて、「外国から年間訪問客数」が極端に少ない③と④が、イラクとサウジアラビアのいずれかである。どちらがどちらかの判定は不要だろう。

残った①と②がカタールとトルコ。っていうか、そもそもカタールって国、知られてるの? 2022年にサッカーのワールドカップが開催されるのでサッカーファンならば名前ぐらいは聞いた事があるかもしれないけれど、少なくともメジャーな国ではない。トルコには1000万人都市であるイスタンブールもあり、こちらはかなりメジャーな国といえる。どうだろうか。①と②を比較し、表中の2つの数値がいずれも大きいのは①である。こちらをトルコと考えていいんじゃないか。「外国からの年間訪問者数」が約4000万人もいることに驚くのだが、トルコは規模の大きい国でもあるし、ヨーロッパに近接し、多くの観光客をヨーロッパから招き入れているのであろう。もちろん、キリスト教文化とイスラーム文化の会合するイスタンブールは世界でも人気の高い観光スポットの一つである。そういえば、トルコ料理は世界三大料理の一つに考えられるほどで、食の面からも非常に魅力的な文化を有している。

残った②がカタール。全く直行便がないのが意外なのかな(もっとも、①や③にしても週に14便というのは1日に2本ということで、決して多くはないけどね)。近隣にペルシャ湾岸地域の航空交通の拠点であるドバイ(アラブ首長国連邦)があるので、直行便はそちらに行ってしまうのかな。

 

【関連問題】(2018年度地理A本試験第4問問4)

地理Aの問題だが、興味深いので、入手できる人はぜひ参照しよう。アメリカ合衆国、アラブ首長国、日本、ドイツの「代表的な航空会社による国際線運航便」を取り上げた問題である。航空(というか交通ジャンルそのもの)に関する話題は地理Aでは頻出なのだが、地理Bでは珍しい。地理Aの問題から交通ネタを探してその問題だけ解いてみるっていうのは面白いかもしれない。

 

【アフターアクション】本問のポイントはどこだったのだろう?トルコは1人当たりGNIが約10000ドル/人である近代的な工業国であり、大都市(そして世界的な観光都市である)イスタンブールを有し、ヨーロッパを始めとする世界各地から多くの人々を迎え入れている。こういったイメージ一発で解ける問題だったのかも知れない。キミはどう思考して解答にたどり着いただろうか。

本問で興味深いと思ったのは、「解法」でも触れたけれど、サウジアラビアについてはイスラーム国家であることがポイントとなっているのだが、実はその観点からすると、本問の4か国は全てイスラーム国家なのである。同じイスラームを信仰する国々の中でも、その程度や社会に対する影響については大きな違いがあるということを我々は認識するべきなのだろう。

まさか今どき「イスラーム=テロリスト」なんて思っている人はいないとは思うけれど、イスラームも本当に多様であり、それぞれに個別の理解が必要。

もちろん、センター試験レベルでそこまで複雑な事情は知る必要はないが、大学に入って、そして社会人になって。多様なイスラーム文化に触れる中で、国や地域、民族や宗派によって決してそれは一面的なステレオタイプで解釈するものではないことを、勉強してほしい。

 

とりあえず、西アジアの代表的なイスラーム国家について簡単に分類しておこう。

 

サウジアラビア・・・専制君主国。厳格なイスラーム主義を唱え、女性の社会進出は全く進まない(経済レベルは高い国なので、教育水準は高いが)。

イラク・・・共和制であり、少数派であるシーア派の政権が成り立つ。ただし、湾岸戦争の後遺症も残り、社会体制は不安定。

イラン・・・「イスラム共和国」を冠する共和制。アラブ系ではない(ペルシャ系である)が、厳格なイスラーム国家となる。欧米勢力を一掃し油田を国有化した経緯から、アメリカ合衆国からテロ国家に指定され、経済制裁を受けている。10年ほど前までは最大の貿易相手は日本だったが、現在は日本との貿易はほとんど行われていない。

レバノン・・・アラブ系国家であるが、イスラーム以外にキリスト教徒も多い。イスラームから大統領が選出され、首相がキリスト教徒がから選出されるなど、政治的なバランスが考慮されている。

トルコ・・・共和制の穏健イスラーム国家。政教分離が徹底し、政治におけるイスラームの影響は小さい。現在の大統領であるエルドアンも欧州への接近を意識するなど、イスラームを意識しない政治を志向している(ただし、それが若者から反感を買う原因ともなる)。

 

とりあえずサウジアラビアだけしっかり覚えておけばいいと思うよ。イスラームはコーランのもとに全てのイスラム教徒が平等である宗教。だから身分差別もないし、偶像崇拝も行われない。しかし、世界で最も厳格なイスラーム国家であるサウジアラビアが、専制君主制を敷き、王が絶対的な地位にあるというのも不思議な話。だから、この辺は本当に難しいんだけどね。

 

例えばイスラームは原則として男女平等。仏教ならば出家の義務を負うのは男性に限られるけれど。イスラームは聖地メッカへの巡礼はもちろん女性にとっても守るべき戒律。もちろん経典コーランの中には「男性は外で仕事をし、女性は家庭を守る」程度のことは述べられているけれど、それは納得できる範囲のことでしょ?男女の役割の違いは「区別」であって、それは「差別」ではない。

しかし、それが拡大解釈されてしまう。為政者にとって都合のいいように捻じ曲げられてしまうのだ。「女性は外で働く必要はなく、家事をしっかり行うことが大切だ」という教えが本来のものだとしても、それを「女性は家の中にとどまり、社会で仕事は与えられない」というように解釈されてしまう。

有名なところでは「一夫多妻」があるね。南アジアや西アジアではそもそもが一夫「無限」妻。例えば「ハーレム」なんていう言葉を聞いたことがあるでしょ?王侯貴族や裕福な男性は、多くの女性を囲い込み、妻とした。時には幼児婚といって、年端もいかない幼い子どもが成年(ときには老人の男性の場合もある)のもとへと嫁がされることもある。これほど女性の権利が蹂躙されることはない。

そういった不条理な事態を否定するために、「1人の男性に対し妻は四人まで」としたわけなんだよね。え?だったら4人だってダメじゃないか?やっはり一夫一妻制こそが尊重されるべきだ。

いや、この一夫多妻も極めて女性に優しい教義なのだ。これには戦争未亡人の救済の意味がある。砂漠は不毛の地であり、時には食料の奪い合いによって戦争が生じることもある。もちろんその際に多くの男性兵士が命を落とす。一家の稼ぎ頭を失った妻や子供はどうやって暮らして言ったらいいのか。

そうした未亡人や残された家族については、集落の有力者(彼は富裕であり、経済的な余裕がある)が引き取って養うことが当たり前のように行われているのだ。一夫一妻ならば特定の女性しか救われない。一夫多妻であることで、逆に女性にとって優しい社会が実現するわけだ。もちろん、戦争をしないのが一番だけれども、勝手に植物が繁茂し農作物が得られる湿潤地域とは違う。人々はギリギリの中で生きているのだから、日本に住む我々の常識では考えにくいような社会的セーフティネットが必要になるのだ。

 

おっと、余談が長くなってしまったようだ。イスラームは砂漠の人々にとっては生きることそのものがイスラームであり、生活行動や行動規範は全てイスラームの中にある。イスラームではコーランのもとに人々は平等である。本来、貧富の格差、女性差別そしてテロリズムとは最も遠い場所にある宗教なのだ。それを捻じ曲げて解釈し、自分の都合のいいように利用している人々もいる。ここでは深い事例については説明できないが、また大学に入ったらイスラームに関する本など読んで、さらに興味を深めて欲しいなと思います。

 

(スイマセン。。。修正です)

 

すいません、こちらの問題、ちょっと違ってました。いえ、正解(トルコ)が①であることは間違いないのですが、他の判定をミスってました(解答に関係ないから許してくださいな)。

 

最初、②がカタール、③がサウジアラビアと判定していたのですが。これ、逆ですね。ドーハという西アジアの中心的な空港(ハブ空港とみていいと思います)を有するカタールは日本からの直行便があるはずなんですよ。それに対し、小国ですから訪問者数は少ない。③がカタールです。

それに対し、サウジアラビア。原則としてイスラム教徒以外は入国できないという厳格なイスラム国家。貿易以外の日本との関係性は薄いです。おいそれと観光で行ける国でもない。直行便はゼロですね。

でもサウジにはイスラム教最大の聖地メッカがある。世界12億人のイスラム教徒は一生に一回、この聖地へと巡礼する。訪問者数は世界全体で考えれば多いはずですよね。②がサウジだったのです。

 

【24】【インプレッション】国際情勢に関する問題だが、公民分野ほど深い内容が問われているわけではなく、逆にいえば地理ではこの程度の浅い知識で大丈夫であるということを示した好例である。シの選択肢が重要で、民族・宗教に関連する話題として出題率が高い。

 

【解法】紛争(戦争)に関する問題。サとスはいわゆる現代史に関する内容だが、さほど難しくないだろう。シは民族・宗教に関する話題で、これは絶対に知っておいてほしいな。

図1参照。Xはキプロス、Yはクウェート、Zはアフガニスタン。名前だけはよく聞くけれど、場所はよくわからなかった国が多いんじゃないかな。たしかにあまりこれまでに出題例が多い国とはいえず。この機会に確実に名前と場所を一致させておこう。

まずシから判定。これはキプロスにおける状況である。キプロスはギリシャ系住民(彼らはキリスト教徒である)が多数を占める国で、観光業がさかんで西ヨーロッパから多くの旅行者を受け入れており、すでにEUに仮名している。しかし。北部には対岸から移住してきたトルコ系住民が居住しており、彼らはイスラム教徒である。両者は激しく対立し、トルコ系住民あ支配する「北キプロス」は実質的な独立国である。キプロスについては「多数派のギリシャ系住民と少数派のトルコ系住民が対立」と覚えておこう。シがXに該当。

さらにサとシ。どうかな?いずれも我々ば直接ニュースで見聞きした事例ではあるけれど、君たちは歴史や公民の教科書で勉強した内容かも知れない。スの「資源」に注目してみよう。西アジア地域で資源といえば、ペルシャ湾岸地域の原油だよね。YのクウェートはOPECにも加盟する産油国であり、豊かな経済レベルを誇っていた。イラクのフセイン政権が軍事量を蓄え、国教を侵犯し、クウェートに襲いかかった。1989年のことだ。こんなフセインの暴挙を世界が許すわけがない。アメリカ合衆国を中心とした多国籍軍が組織され、翌年、ペルシャ湾岸地域へと派遣された。圧倒的な軍事力を有する多国籍軍は瞬く間にイラク軍を排撃し、クウェートを解放した。これが湾岸戦争。やがて多国籍軍はイラムの首都バグダッドに迫り、フセインを確保。イラクには新しい勢力(シーア派。フセイン政権はスンニ派だった)による新米政権が成立し、フセインは裁判にかけられ処刑された。現在のイラクは欧米の支援を受けた政権により、社会の安定化に努めている。このことからスをYのクウェートに関する事例と判定する。

残ったサがZのアフガニスタン。2001年にイスラーム過激派のアルカーイダによる同時多発テロによってニューヨークやワシントンが攻撃された。アルカーイダはアフガニスタンに逃げ、アメリカ合衆国はその壊滅を狙い軍を派遣した。アフガニスタン戦争である。

以上より、正解は⑤である。どうだろう? クウェート侵攻からの湾岸戦争、同時多発テロからのアフガニスタン戦争についてはある程度の知識はあるんじゃないかな。「地理」の範囲とは思わないのだが、何とか正解にたどり着いてほしいな。

 

【関連問題】(2012年度地理B追試験第5問問1)

キプロスが取り上げられている。「ギリシャ系住民とアラブ系住民との間で、国を二分する対立がみられる」。キプロスはギリシャ系キリスト教徒とトルコ系イスラム教徒が対立する国。「アラブ系」を「トルコ系」に改める。

 

【アフターアクション】クウェートとアフガニスタンに関する事項は世界史(現代史)や公民(現代社会)に冠する内容とも言え、対策はしにくい。ここはキプロスについての知識はしっかり固めておこう。マイナーな国ではあるが、出題される話題は一つだけなので、覚え得の国であると思う。

キプロスは、ギリシャ系キリスト教徒(東方正教)が多数派を占める国であるが。国土の北部には対岸から移住してきたトルコ系のイスラームが居住し、両者は対立している。地中海東部の観光地として西ヨーロッパ地域から多くの観光客を招き入れていたキプロスは、2000年代に入りEUに加盟した。しかし、実質的に南キプロス(ギリシャ系)と北キプロス(トルコ系)の分裂国家であるキプロスにおいて、EUの勢力圏は南キプロスに限定され、例えばパスポートを必要としない観光客や労働者の移動についても南キプロスの範囲に限定されている。

この「キプロス問題」は、トルコがEUに加盟できない最大の理由と言われている。トルコはもちろんキプロスについては北キプロスを支援し、こちらがキプロスの正統な政権と考えている。EUの中に北キプロスと南キプロスが並立し、その対立は激化する可能性もある。こうした複雑な民族対立をEU内に持ち込まないために、トルコのEU加盟が先延ばしになっているのだ。