2019年地理B本試験[第4問]解説

2019年地理B本試験第4問                           

 

地誌をテーマとした大問。地誌は「アジア・アフリカ」→「ヨーロッパ」→「新大陸」のローテーションで回っていて、今回はヨーロッパの番。北アフリカを含めた南ヨーロッパ地誌になっているね、2004年や2013年の問題と取り上げられている範囲が重なり、似たような問題が多かった。しかし、2004年や2013年はちょっと解きにくい問題も多く、難易度は高かったが、今回は素直な問題ばかりで解きやすい。満点が狙える大問である。ちょっとやっかいなのはコルクガシが初登場したぐらいかな。

 

<2019年地理B本試験第4問問1>

 

[インプレッション]自然環境に関する問題。大問の第1問にも言えるんだが、自然環境の総合問題って広い知識が問われる文だけ難しい。ただ、本問の場合、「適当でないもの」が正解となる問題なので、明らかに誤っている部分を一つだけ指摘すればいい。難易度は低いんじゃないかな。

 

[解法]自然環境が問われている。選択肢①は土壌、②は地方風、③は気候、④は小地形と、内容もバリエーションに富んでいる。誤文判定問題なので、間違っていそうな言葉に注目しながら考えてみよう。

選択肢①。「テラロッサ」とある。これは間帯土壌の一つ。みんなが覚えるべき間帯土壌は以下の5つ。

 

土壌名

分布

成因

農産物

レグール

インド半島西部

玄武岩の風化土壌

綿花

テラローシャ

暗紫

ブラジル高原南部

玄武岩と輝緑岩の風化土壌

コーヒー

テラロッサ

カルスト地形

地中海沿岸

石灰岩の風化土壌

(地中海沿岸ではオリーブ)

レス(ヨーロッパ0

・・・

ロンドン

パリ

ハンガリー

大陸氷河の末端に集められた土砂が周囲に散布される

小麦

(ハンガリーではトウモロコシ)

レス(中国)

・・・

華北平原

黄土高原から黄河によって運ばれる

小麦

トウモロコシ

 

以上より、色、名称ともに正しい。①は正文。なお、良くある質問で「テラロッサとテラローシャがややこくて覚えられません」といいものがあるが、この2つの土壌が入れ替わって誤文となった例は今まで無い。おおざっぱに「テラなんとか」で覚えておけば十分。本問にしてもそのあたりはアバウトでも大丈夫でしょ(笑)

 

選択肢②。ここではフェーンが問われている。「フェーン現象」って聞いたことがあるんじゃないかな。夏の極端な高温の原因になったりする。例えば日本でフェーン現象が見られるパターンとして、夏の南西季節風が太平洋岸の地域に吹き込むことで多雨となるのに対し、山脈を越えた内陸部や日本海側の地域へと乾いた高温の風が吹き下ろすパターンがある。フェーン現象については「風下側の地域に乾いた高温の気候をもたらす」ことを基本として欲しい。このことから「冷涼」が誤りで、これが正解。なお、フェーンはそもそもはヨーロッパ南部にみられる風についての固有名詞であるが、むしろ「フェーン現象」という一般名詞として知られているね。

残った選択肢は検討の必要はないが、参考までに。

選択肢③。ウはリビア北部。リビアは全域が砂漠であり、ウのような沿岸に近い地点でもやはり砂漠がみられる。緯度は北緯30度ぐらいだろうか。亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響が年間を通じてみられる地域であり、少雨となる。激しく乾燥する。正文。

選択肢④。エはナイル川の河口であるが、三角州がみられる代表的な地域であることをぜひ知っておこう。三角州は浅海に土砂がたまり、新しく陸地となったところ。ナイル川が運ぶ土砂によって三角州が形成。エは、海に向かって半円状にふくらんでいるのがわかるかな。これ「円弧状三角州」というもの。「三角」州なのに「円弧」状とはおかしいじゃないか?とは思わないように。三角州は別に三角形に陸地が広がっているわけじゃないからね。ネーミングセンスの悪い地理用語の代表例です(苦笑)

なお、このナイル川河口の三角州については、近年縮小による環境問題が生じていることも是非知っておこう。アスワンハイダムの建設よる土砂の流下量の減少によって、沿岸は波に侵食されるままとなり、海岸線が後退している。これにより農地の失う農民も多い。

 

[難易度]★★

 

[最重要リンク]フェーン現象については多く出題されている。

2007年地理B追試験第3問問2の例を紹介しよう。ここではヨーロッパ南部の風(つまりフェーン)について「春先に、山を越えて吹き下ろす高温で乾燥した風である。この風のため、山麓部では急速に雪がとけることがある」と説明されている。

 

[今後の学習]土壌、地方風、風系(気圧帯)、小地形と、いずれも非常に重要なジャンルからの出題であった。こうした複合問題が多いのもセンター試験の特徴(だから、ジャンルごとにセンター過去問を集めたような問題集が不適当なことがわかるよね。本問はどの項目に分けられるのだろうか。気候?地形?)。

今回はフェーンがポイントになったわけだが、意外に過去問で良く問われているものであるし、「フェーン現象=高温乾燥」という知識さえあれば十分に解けたと思う。ただし、他の選択肢も非常に重要な話題を含んでおり、それぞれ復習しておいて欲しい。

 

<2019年地理B本試験第4問問2>

 

[インプレッション]海峡ネタも実はよく出る。過去問からしっかり知識を得ておけば簡単でしょう。問1に続いてこちらも誤文判定問題なのも取り組みやすい。

 

[解法]イスタンブールは非常に重要な都市。トルコの人口最大都市で、総人口(8000万人)の1割を超える1000万人以上の人口が集まる。市街地はヨーロッパとアジアにまたがり、海峡には日本の技術資本支援による巨大な橋が架けられている。この橋は本州と九州とを結ぶ関門海峡大橋をモデルにしたもの。かつては東ローマ帝国の都として栄え、後にオスマン帝国の都となった、キリスト教とイスラム教との「文化の交差点」。市内には古いキリスト教の教会や、巨大なモスク(イスラム教礼拝所)も位置し、世界遺産や観光資源として重要である。

このことを考えるに、Dの海峡こそ、まさにイスタンブールの中央に位置するものであり、両岸に市街地が広がる。この海峡がギリシャとトルコの国境となるわけがないね。④が正解。

他の選択肢は検討の必要はないが、参考までに。

①についてはどうかなぁ、これ、ジブラルタル海峡だけど知る必要ないと思う。北岸にイギリス領のジブラルタルがあり、南岸にスペイン領の飛地セウタがあり、いずれも軍港が置かれている。大西洋と地中海を結ぶ海峡であるので、軍事的に重要である(重要だった、というべきか)のは確かだろう。ちなみに、ヨーロッパ大陸では自動車は右側通行だけどイギリスは日本と同じように左側通行でしょ?だからジブラルタルも左側通行。スペインから自動車に乗って、陸続きのジブラルタルに入ったら自動車は右から左へと車線変更しないといけない。ややこしいでしょ?事故りそう(涙)。

②の内容も知らなくていいでしょう。北がコルシカ島でフランス、南がサルデーニャ島でイタリア。だから国境はその間の海峡。コルシカ島はナポレオンの出身地ですね。ナポレオン・ボナパルトはイタリア系フランス人。

③も不要だね。半島はもちろんイタリアだけれども、「つまさき」が接するシチリア島もイタリア。サッカー選手の中村俊輔が活躍したレッジーナっていうチームはここにあるんだね。

 

[難易度]★

 

[最重要問題リンク]ジブラルタル海峡も問われたことはあるけれど、やはりここはイスタンブールの海峡が出題された例を紹介しておこう。2014年地理B本試験第4問問5。イスタンブール市街地を分断する海峡について、「この海峡をまたいで大帝国が成立した歴史があり、当時の首都を起源とする都市は、現在その両側に市街地を拡大しながら発展している」と説明されている。

 

[今後の学習]問1では誤文(つまり正解)以外の3つの選択肢も非常に重要だったが、本問はその反対で誤文以外は全く無視していい。逆にいえば、それだけイスタンブールの重要性が際立っているわけだ。

人口1億人未満の国で、1000万人を超える都市があるのは非常に珍しい。それがイスタンブール。しかもこの都市は首都ではない。首都は独立運動の中心地となった国土中央部の高原に位置するアンカラ。

都市名やその特徴を覚えるのは非常に厄介な印象もあるが、センター試験で出題される都市はそもそも多くない。過去問を研究することで、都市に関する知識を固めよう。

 

<2019年地理B本試験第4問問3>

 

[インプレッション]あれ、これ、、以前の問題そのまんまじゃん(笑)。手抜きだなぁ。センターって同じような問題が繰り返し出題されるわけですね。

基本的には農産物の栽培条件の問題。コルクガシが初登場。

 

[解法]農産物の栽培条件の問題。テンサイは冷涼な地域で栽培される作物。ビートあるいは砂糖大根とも呼ばれ、砂糖を抽出することができる。ロシアやフランス北部などで主に栽培。

さらにナツメヤシ。これは乾燥気候に適応するもの。砂漠における伝統的な灌漑農業であるオアシス農業によって栽培される。主な生産国はエジプトやパキスタンなど。

これをふまえて考えてみよう。カがわかりやすいかな。北アフリカの砂漠に多くの点がある。乾燥気候に適応する作物、とくに砂漠で栽培されるものとして「ナツメヤシ」を選ぼう。

さらにキ。これは図の北部まで分布している。意外に涼しいところでも栽培できるものだね。これは「テンサイ」でしょう。正解は⑥。

コルグガシはその中間。硬葉樹の一種で地中海沿岸に分布。

 

[難易度]★★

 

[最重要問題リンク]形式としては2013年地理B本第4問問3と一致するが、問われている作物が違うのであまり参考にならない。ここは2013年地理B追試験第2問問1を参照してみよう。ここではアブラヤシが問われているが、それから得られるパーム油の主な生産国として「イランとパキスタン」が挙げられている。これは誤り。アブラヤシは熱帯の多雨地域で栽培されるものであり、パーム油の主な生産国も「インドネシアやマレーシア」。イランとパキスタンが生産上位であるのはもちろんナツメヤシ。同じヤシであっても多雨と少雨で全く異なっているので、注意しよう。

 

[今後の学習]ヤシ類の出題は多く、テンサイも過去に出題例はある。今回初登場だったのがコルクガシである。これについてはしっかり特徴を押さえておこう。

コルクガシは硬葉樹である。硬葉樹とは常緑広葉樹の一種で、乾燥に強い。尖った小さな葉が特徴的で、オリーブや月桂樹、そしてこのコルクガシが代表例である。ワインの瓶の栓に利用されるコルクはこの樹木を加工したものであり、最大の栽培国はポルトガルである。ポルトガルは地中海には面していないけれど(笑)、「緯度35°、大陸西岸」の条件を満たし、典型的な地中海性気候の地域である。7月を中心とした時期に北上する亜熱帯高圧帯の影響によって少雨(乾季)となり、それ以外の時期は偏西風や前線の影響で一定の降水がある。

ポルトガル自体は出題の頻度が低い国である。首都リスボンの気候が問われたことがあるが、地中海性気候特有の夏季少雨パターンだけでなく、沿岸を寒流が流れていることにより夏の気温が下がり、気温年較差が小さい(10〜15℃程度)。また、かつてブラジルを植民地としていたことから、ブラジルはラテンアメリカ唯一のポルトガル語を公用語とする国である。

 

<2019年地理B本試験第4問問4>

 

[インプレッション]貿易統計の問題。ちょっとマイナーな国が並んでいるが、過去に全く出題例がないわけではない。ユダヤ人国家イスラエルは、アメリカ合衆国との関係が深いなど、他の国とはちょっと変わった産業構造を持っている。アルジェリアはOPEC加盟国であることが重要。モロッコは日本のタコの主な輸入国であるが、それよりヨーロッパとの位置関係に注目して考えてみよう。

 

[解法]西アジアと北アフリカ諸国の貿易統計。あまり目にしない国が並んでいる印象だが、いずれもキャラクターのはっきりした国なので、とりたてて難問というわけでもないと思う。

それぞれの国について特徴を整理しよう。

まずイスラエル。地中海の東岸にパレスチナ地方に位置する西アジアの国だが、他の西アジア諸国とは異なりユダヤ民族国家である。そもそも3000年ほど前に古代イスラエル王国が存在し、やがてその崩壊によって世界中にユダヤ人たちが分散していった。「空き家」となったパレスチナ地溝に住み着いたのはアラブ系の人々であり、彼らはパレスチナ人と呼ばれた。

20世紀になってユダヤ人の子孫たちがこの地へと「帰還」し、第二次世界大戦後の1948年に独立国家イスラエルの建国を宣言した。その際に

それまでこの地に住んでいたパレスチナ人たちは住処を失い、周辺国へ流出し難民となった。「国の奪い合い」に起因するユダヤ人とアラブ人(パレスチナ人)との対立は21世紀の現在も続いている。

イスラエルはとくにアメリカ合衆国との関係が深い。アメリカ合衆国の財界にはユダヤ系が多く、銀行家としてアメリカ経済を支配している。このため、政治的にもユダヤ国家=イスラエルを無視するわけにはいかず、経済的に、そして軍事的にもアメリカ合衆国はイスラエルを支援している。経済レベル(1人当たりGNI)も高い。

そんなイスラエルであるが、西アジアの国としては例外的と言っていいだろうが、原油などの鉱産資源には恵まれない。最大の貿易品目はダイヤモンドであり、世界のダイヤモンド流通の中心地の一つとなっている。ダイヤモンド鉱石が産出されるわけではないが、加工されたダイヤモンドに関しては取引量が多い。

さらにアルジェリア。地中海を挟んでフランスの対岸に位置する、アフリカ最大の面積を誇る国。沿岸の狭い範囲に地中海性気候がみられるが、国土のほとんどは砂漠である(亜熱帯高圧帯の影響が強い)。ただ、砂漠とは言っても「砂」をイメージするのは間違いで、「砂漠=植生なし」なので、植物がみられない荒地を考える。実際、アルジェリア内陸部のサハラ砂漠は岩石砂漠であり、またアハガル高原など険しい地形もみられる。

そのアルジェリアであるが、OPEC(石油輸出国機構)に加盟する産油国である。ガス田の開発も進み、天然ガスの産出も多い(2013年に天然ガスのプラントを建設するために派遣されていた日本企業の作業員がゲリラに襲われ、皆殺しにあってしまったというネガティブな事件もありましたが。。。)。アラブ民族から構成され、アラブ国家によって結成されるOAPEC(アラブ石油輸出国機構)にも加盟している。言語はアラビア語、宗教はイスラム教とが多数。

そしてモロッコ。こちらもアラブ民族の国であるが、原油は産しない。しかし、リン鉱の世界的な産出国であり、これを利用した化学肥料の生産もみられる。日本との関係はタコ。モロッコの大西洋岸を寒流(カナリア海流)が流れ、栄養分豊かな海域となっている。タコが多く漁獲されるが、「経典の民」(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教がルーツが同じであり、これら三つの宗教の信者は「経典の民」と総称される)はあまりタコを好まず、日本に多く輸出されている。大阪名物タコ焼きの中身はモロッコで水揚げされたものなのですね(笑)。また、ヨーロッパとの距離の近さから、EUから多くの工場が進出している。安価な賃金を利用した労働集約型の工業(衣類や電気機械など)の発達がみられるのは、トルコと同じ状況。

以上のことを踏まえて図を読解しよう。サは「原材料と燃料」が多い。というか、ほとんどこれしかない。鉱産資源の輸出に偏っている国はどこか。それはアルジェリアだね。OPEC加盟国はいずれも原油が最大の輸出品目になっている。そしてこの国は天然ガスの輸出も多い。

シとスはいずれも「工業製品」の割合が高い。ただ、シは「食料品」が比較的多いんだよね。これ、タコじゃないかな。たかがタコではあるけれど、日本はタコ焼きはじめ、かなりタコの消費量が多い国だよね。もちろん輸入が多い。経済規模が大きい日本からみればわずかなものかもしれないけれど、決して大きな国ではないモロッコからみれば主要輸出品の一つには間違いなくランクインするよね。シをモロッコとし、正解は②。シは原材料と燃料も比較的多いが、これを鉱産資源と解釈すれば、リン鉱がこれに該当すると判断し納得。

一方、イスラエルは工業製品オンリーだが、ダイヤモンドについては資源としてのダイヤモンド鉱ではなく、製品としてのダイヤモンドなのだから、当然これは工業製品とみなされるでしょう。西アジア、北アフリカ地域でありながら全く資源のないイスラエルの特徴が明確に現れている。資源がなくても経済レベルの高いイスラエルでもあるんだけどね(やっぱりアメリカの支援なんだろうね)。

 

[難易度]★★

 

[最重要問題リンク]2003年地理B本試験第3問問6でイスラエルの貿易統計が登場している。貿易相手国としてはアメリカ合衆国が圧倒的で、他にはダイヤモンド加工が盛んなベルギー。輸出品目としては、機械類の他、ダイヤモンドが目立つ。

 

[今後の学習]西アジア、北アフリカというマイナーな地域だからといって、全ての国がマイナーなわけではない。とくにイスラエルについては非常に特徴的な国なので絶対に覚えておこう。新国家、パレスチナ地方、ユダヤ人、ヘブライ語、ユダヤ教。そしてアメリカ合衆国からの支援、ダイヤモンド貿易。唯一無二の個性的な国なのだ。

アルジェリアについてはOPEC加盟国である点が重要。ちなみにナイジェリアもOPECに加盟しているので、まとめて覚えておけばいいんじゃないかな。ナイジェリアの方が原油産出量は多く、石油はナイジェリアの方が「ある」というのがややこしい(?)。

ちなみに、両国はたまたま日本語にすると「ある」と「ない」でセットみたくなっているけれど、もちろん国名の由来はそんなところにあるわけはない。アルジェリアという国名は、港湾都市で首都でもあるアルジェから付けられた。アルジェは正式には「アル・ジャー」。アルはアラビア語の定冠詞(英語でいえばtheだね)、ジャーは「島」。沿岸の島を中心に発達した都市であるので、ここは「the island」と呼ばれ始めたわけだね。砂漠に大きな国土を有する国の名称が「島」とは面白いもんだ。

ナイジェリアは「Nigeria」すなわち「Niger」。ニジェール川を含む国であり、ニジェールの英語読みの「ナイジェル」に由来する。ナイジェリアはイギリス領であり、英語を公用語としている、ニジェール川の上流側にニジェールという国があるが、これは旧フランス領。ニジェールの発音のまま国名となった。だから。ナイジェリアと国名が近い国は、アルジェリアではなくニジェールの方なんだね。ナイジェリア北部からニジェールにかけてはイスラム教とのハウサ族が居住。サヘルの遊牧民である。

ちなみに、ニジェールとはそもそも「河川」の意味。サハラ砂漠やサヘル地帯を流れる外来河川であり、周辺には河川はこの一本しか存在しない。ニジェールという川を表す一般名詞が、ニジェール川を示す固有名詞としても用いられているということ。

モロッコは北アフリカの西端の国であり、アラブ民族の分布する最も西のエリア。内陸は乾燥気候だが海岸沿いは地中海性気候がみられ、かつてセンターでもモロッコの都市について夏季乾燥型の気候がみられることが出題されていた。沿岸を新期造山帯のアトラス山脈が走行している。主な輸出品目としては、衣類や機械類などの工業製品(ヨーロッパから工場が進出しているのだ)、タコなど魚介類、リン鉱など鉱産資源。

 

<2019年地理B本試験第4問問5>

 

[インプレッション]文章正誤問題。問1問2に続いてこちらも誤文判定問題であり、さほど難易度は高くないのではないか。都市という知識に偏った内容が出題されているだけに、逆にシンプルな内容が問われている可能性が高い。ひるまずに解こう。

 

[解法]都市に関する問題。都市名が問われて入れば知識に偏り、かなり手強いと思ったが、よく見ると、個々の都市はあまり関係ないみたいだね。一般的な思考で十分解ける感じがする。

さらに誤文判定問題なので、一つだけ誤りを指摘すればいい。誤りが明確な一つの選択肢と、3つの曖昧な選択肢。判定が難しい、分かりにくい選択肢はカットしていけばいいね。

こうした正誤問題では「誤っていそうな言葉」に注目するのが大切。反対の概念を持つ言葉、他の言葉と入れ替えることが容易な言葉、それはどこにあるだろう。なるほど、選択肢①にそういった語があるね。それは「新」という形容表現。「新市街」に対し「旧市街」は反対語となるだろう。「迷路型の道路網」は確かに西アジアや北アフリカの乾燥地域の都市によくみられるものだが、それは伝統的な街路区画であり、決して新しいものではない。つまり「旧市街」にみられるのだ。これが誤り。

 

[最重要問題リンク]西アジア、北アフリカの都市における旧市街地の街路はよく出題されている。最近では2015年地理B本試験第3問問3で登場。迷路とはいえ、行き止まりの多い、細く入り組んだ街路。「イスラームの都市の特徴を示すモロッコの都市である」という説明文が付されている。

 

[難易度]★★

 

[今後の学習]結局間違っていたのは「新」の一文字だからね。まるで間違い探しだね(笑)。「新しい」の反対の概念は「古い」。形容詞は誤文判定においては美味しいキーワードになるから注目だね。

なお、今回は①がいきなり答えだったので、他の選択肢はどうでも良かったが、一応参考までに。

まず②。これはどうでもいいでしょう(笑)。国際問題や時事に関するもので地理とは関係ない。たしかにギリシャは債務危機にあったんだけどね。失業率が高い国になっております。

③について。これもどうでもいいかな。モナコの隣のニース(フランス)がリゾート都市の例として登場したことはある。

④について。これ、教科書的な地理ではメジャーな話題だが、センターでは初登場。イタリア北東部は工業地域であり、自動車工場のトリノ、ファッション産業のミラノ、そして臨海部には鉄鋼業や造船業のジェノバ。とくにチェックの必要もないでしょう。

 

<2019年地理B本試験第4問問6>

 

[インプレッション]おっ、最後は国際関係だね。人口移動ネタだけど、国同士の関係が重要。位置や歴史(植民地など)を考慮に入れつつ、国の規模と人数も意識しながら解いてみよう。

 

[解法]イタリア、ギリシャ、スペイン、フランスの「それらの国の国籍を新たに取得した人の、取得前の国籍の上位3か国とその人数」が問われている。意味、わかるかな?他の国で生まれて、それからその国に移住して、しばらく住んでから国籍を変更したってことだよね。結局、人口移動を考えればいいし、例えば出稼ぎ労働者がそのままその国に居ついてしまった様子をイメージすればいい。

最初に注目するべきは、移住者の人口。上位3カ国だけの数字しか示されていないけれど、これで全体の移住者の数を想像することは可能だろう。

①;54904+774+665

②;86894+69953+25231

③;86181+60686+57367

④;53823+45927+18861

さて、どうかな。①が圧倒的に少ないね。国の規模が小さい(だから受け入れる容量が小さい)と考えていいと思うし、あるいはそもそも十分な仕事がないとも考えられる。

西ヨーロッパ各国の人口は、ドイツ8000万人、イギリス・フランス・イタリア;6000万人、スペイン;4000万人までは絶対に知っておき、他は1000万人未満。東ヨーロッパはポーランドが4000万人、ルーマニアが2000万人で、他はやはり1000万人未満。

また1人当たりGNIは、北欧が最高、イギリス・ドイツ・フランスが高く、イタリアもそれに次ぐ。スペインがそれらよりやや低く、ポルトガルとギリシャの南欧はさらに低い。

EU内で最低レベルはポーランドなどの東欧。旧共産圏である。

 

(ヨーロッパ人口)

1億4000万人

ロシア

8000万人

ドイツ

6000万人

イギリス・フランス・イタリア

4000万人

スペイン・ポーランド・ウクライナ

2000万人

ルーマニア

1000万人未満

それ以外

 

(ヨーロッパ経済レベル)

とくに高い

50000$/人〜

北ヨーロッパ

高い

40000

ドイツ・イギリス・フランス・イタリア

やや高い

30000

スペイン

やや低い

20000

南ヨーロッパ

低い

10000

東ヨーロッパ・ロシア

 

どうだろうか?ギリシャはそもそも国が小さく、1人当たりGNIも低い。要するにGNIが小さいということなのだが、こういった国に多くの出稼ぎ労働者が移民として流入するだろうか。さらに問5でも話題とされていたが、債務危機による経済の混乱もみられた。最も人数が少ない①がギリシャとなるだろう。

 

それに対し、イタリア、スペイン、フランスは経済規模にさほどの大きな違いはない(あえていえばスペインがやや小さい国となるが)。②から④はいずれもモロッコが首位なので、これは判断材料にはならず、2位以下で考えてみよう。ここで興味深いのは③。エクアドルとコロンビアが含まれている。これ、どこにある国かわかるかな?そう、南米大陸だね。南米はかつてスペインが広く植民地支配していた土地で、スペイン語を公用語とする国も多い。エクアドルとコロンビアもそうした国の一つ。言語が同じならば出稼ぎにも来やすいし、移住先の国の社会にも適応しやすいはず。国籍も比較的得やすいだろう。③をスペインとする。

同様に植民地との関係で考える。ここで注目は選択肢④のアルジェリア。地中海を挟んでフランスの対岸にあるアルジェリアは、旧フランス領。アラブ系の国であり公用語こそアラビア語であるが、フランスに支配された歴史があり、現在もフランスとの関係が深い。例えば、サッカーフランス代表の選手にアルジェリア系が多いのは有名だね。ワールドカップ優勝に導いたジダンは、フランスの英雄であり、そして移民たちの英雄でもある。

というわけで、アルジェリアが含まれる④がフランス。チュニジアもやはり旧フランス領(言語はアルジェリア同様アラビア語だが)。

以上より、残った②がイタリア。アルバニアはバルカン半島(旧ユーゴが含まれる半島)の西部に位置し、イタリア半島からみてアドリア海を挟んで対岸に位置する。ルーマニアは東欧の国だが、ラテン系の言語が用いられている。

 

[難易度]★★

 

[最重要問題リンク]2008年地理B本試験第5問題問5が近い。4カ国の外国人労働者の国籍を問う問題だが、以下のようになっている。

 

スウェーデン

フィンランド、デンマーク、ノルウェー

スペイン

モロッコ、エクアドル、コロンビア

ドイツ

トルコ、イタリア、ギリシャ

フランス

ポルトガル、アルジェリア、モロッコ

 

スペインの統計が、本問と全く同じなのが面白い。モロッコやエクアドル、コロンビアから出稼ぎ労働者がやってくるのだが、そのままスペイン社会に馴染み、国籍を得て住み続けるというパターンが一般化しているのだろう。ヨーロッパは我々が思う以上に移民社会となっており、それに伴う問題点も多く生じているのだが、しかし移民の受け入れは不足する労働力を補う方策としては極めて有効であるし、将来的には国籍を与えることも含め、日本社会は真剣に向き合うべき事例になっていると思う。

 

[今後の学習]アルバニアやジョージアが登場してちょっと驚いたけど、そこは注目ポイントではなかったね。オーソドックスな解き方で十分に解ける。エクアドルとコロンビアが旧スペイン領であることを必ずチェック。スペイン語を使用し、宗教はカトリック。アルジェリアも重要でこちらは旧フランス領。ただし、公用語はアラビア語で宗教はイスラム教。いずれも名前ぐらいは聞いたことがある国ばかりだと思うので、この機会に周辺知識まで固めてしまおう。