2016年度地理B本試験[第3問]解説

たつじんオリジナル解説[2016年度地理B本試験第3問]        

 

定番の都市・村落の大問であるが、宗教も一部に含まれている。問1で都市人口割合が大きくピックアップされている点は新傾向。問3は非常におもしろいし、問4も興味深い。問2はどうかと思うけれど、問5と問6はオーソドックスでいいんじゃない?

 

 

<2016年度地理B本試験第3問問1>

 

[ファーストインプレッション]おっ、1人当たりGNIじゃないですか。この辺りは余裕だね。どれどれ、選択肢をみると、明らかに高いイギリス、低いナイジェリアがあって、そしていずれも1万ドルであるアルゼンチンとマレーシアか。そして、えっ!?アルゼンチンを当てるんだって!?ってことは、アルゼンチンとマレーシアの判定は簡単にはできないぞ。意外な難問なのかもしれない。

 

[解法]現在の値に注目しよう。もちろん1人当たりGNIから。最も高いのが①、ついで②と③が同じぐらい。低いのが④。この時点で、①がイギリス、④がナイジェリアとなる。しかし、本問で解答が求められているのはアルゼンチン。つまり、②と③を区別しないといけないというわけだ。これは苦しい。

まずは過去の1人当たりGNIに注目してみようか。1990年の段階で③は低く、②の方が高い(対数表記だから具体的な数値が読み取りにくいなぁ・涙)。実は「1990年」というのがポイントで、マレーシアやタイはこの時期に大きな経済成長をしている。円高や国内の賃金水準高騰を背景に、マレーシアやタイに多くの日本企業が生産拠点を移し、それに伴って両国の工業化が進んだ。このことから、成長率の高い③がマレーシアで、残った②がアルゼンチンっぽいんだが。

ただ、本問の場合は結局「都市人口率」がポイントになっているような気がする。都市人口率は、原則として1人当たりGNIの高い国で同じように高くなっている。都市人口率が高い、つまり都市居住者が相対的に多い国では第2次産業や第3次産業に従事する人々の数が多くなり、第1次産業就業人口割合は低下する。第1次産業のような低所得の仕事に従事する人が少ない分だけ(第2次産業や第3次産業の方が高所得)全体の平均所得は上昇し、1人当たりGNIも上がる。「都市人口→第2次産業・第3次産業→1人当たりGNI」という流れが認識できればいい。

ただ、これには例外がある。一つ目の例外はモンスーンアジア。米作がさかんな地域においては第1次産業人口割合が高く、農村人口も多い。タイのような経済レベルが決して低くない国(1人当たりGNIは5000ドル)でも第1次産業就業人口割合は40%というアフリカの後発発展途上国並みの高い値となる。

さらに逆の例外。中央アメリカから南アメリカのラテンアメリカ地域においては、経済レベルと関係なく、都市人口割合が極めて高くなる。大土地所有制の大規模農業が中心であるため、小規模農家が少なく、農村人口が相対的に少ない。また、植民地支配の際に一部の大都市へと移民が集中したため、都市人口が膨れ上がった。本問においても、同じ1人当たりGNIが10000ドルのマレーシアとアルゼンチンであるが、前者はモンスーンアジアの国、後者はラテンアメリカの国と明確な違いがある。都市人口割合が低い③がマレーシア、高い(イギリスより高い!)②がアルゼンチン。

 

[アフターアクション]これまで実は都市人口率って軽視をしていたんだよなぁ。とくに、最近は日本において都市人口の基準が変化したことで数値がいきなり60%台から90%を超えるようになってしまい、当てにならない統計指標の代表だったんだが。

とりあえずラテンアメリカにおける都市人口率の高さは知っておくべきなんだろうな。熱帯雨林や乾燥地域、高原などそもそも農業に適する地域が限定され、農村人口が多くない。植民地経営の際にまず都市が形成され、そこに移民が集中したため、都市の人口規模が大きくなる傾向が強い。大都市所有制(一部の地主が土地を独占)で大農園や大規模な放牧地などが多い反面、家族中心の零細農が少なく、このことも農村人口が少ない一つの理由となっている。こうした理由を考えれば、ラテンアメリカにおいて都市人口率が高いことには納得できるんじゃないかな。

 

 

<2016年度地理B本試験第3問問2>

 

[ファーストインプレッション]なんだよ、これ?ムチャムチャじゃないか!?捨て問にするしかないのだろうか。

 

[解法]かつて登場したことない都市名ばかり。これ、キツイよ。。。

②;ニースは地中海沿岸の都市。海岸保養地である。誤り。

③;パナマシティはもちろんパナマの首都なのだが、これが近接するパナマ運河は太平洋と大西洋(カリブ海)を結ぶもの。地中海と紅海を結ぶのは

エジプトのスエズ運河。この2つの運河はぜひ知っておこう。

④;カナダの首都はオタワ。英語圏とフランス語圏の間に位置する小都市が、たまたま首都になってしまったパターン。政治都市とはいえるが、計画的に建設されたものではない。モントリオールはフランス語圏最大の都市。

というわけで正解は①。ターチンは中国東北地方の中央部に位置する都市で巨大な油田に接する。「石油関連産業」は間違ってはいないだろう。

 

[アフターアクション]こうした問題の扱いには本当に困るのだ。どうしたもんだろうね。③は一般常識の範囲なのでぜひ知っておくとして、さらに④についても「カナダは首都と人口最大都市が一致しない」という話題はよく出てくるから知っておいていいと思うけど、①と②はどうかなぁ。よかったら地図で確認しておくとして、基本的には放置で構わないと思うけれど。問題を作った側のセンスが悪すぎるわ。

 

 

<2016年度地理B本試験第3問問3>

 

[ファーストインプレッション]階級区分図を利用した問題。考えたらわかる。考えないとわからない。じっくり時間を使って解いてみよう。

 

まず「小地域の境界と鉄道路線」の図を参照。JRの駅が位置し、そこから私鉄が伸びている。この駅付近がこの地域の「都心部」を考えていいだろう。市街地が広がり、毎日多くの通勤者が流入してくる。そして私鉄に沿う地域は(駅も多数みられる)住宅地として開発が進む一方、鉄道がみられない東部においては農村となっており、もしかしたら過疎化も進んでいるのかもしれない。これぐらいの予備地域はもって、それぞれの指標について考えていこう。

まず「人口密度」から。人口密度は「人口÷面積」によって計算される。人口に比例し、面積に反比例。この図からは人口に関するデータは読み取れないので、面積で考えるしかない。「面積が狭いところで高位、広いところで低位」となる傾向が最も明確に表れているのはア〜ウのいずれだろう?

さらに「農業・林業就業者割合」について。これは要するに、第1産業就業者割合ってことだよね。第1次産業には本来なら水産業も含まれているけれど、それについては考慮しないっていうか、そもそも水産業従事者は少ないので、無視していいと思う(図の北西端が海じゃないかっていう気もするんだが。水産業が含まれていれば、沿岸部で値が高いなんているのもヒントになったかもしれない)。農業・林業についてはもちろん農村や山間部でその割合が高いといえるし、逆の見方をすれば、第2次産業や第3次産業の発達した都心部やその通勤圏においては、農業・林業を中心とした第1次産業の割合は低いということ。「小地域の境界と鉄道路線」の図から判定した都心部と通勤圏、そして農村部との区別を考えれば、自ずと答えは導かれるのではないか。

さらに「老年人口割合」について。「若者が移動する」というセオリーがあるのだから、人口増加地域においては相対的に若い世代が多く老年人口立は下がるし、人口減少地域においては若い世代が流出することで高齢者が取り残され、老年人口率が上昇する。人口減少地域は、仕事や雇用の少ない低所得地域でもあり、日本国内ならば農村部や山間部がこれに該当する。なるほど、「農業・林業就業者割合」と「老年人口割合」は比例するものなのだ。ん、ちょっと待てよ!この2つが同じならば、どうやって判定すればいい?

だからここからがポイントになるのだ。人口流出地域で老年人口率が上がるというセオリーがあるならば、農村部・山間部以外で人口が減少する地域を探せばいい。それはどこだろう?ドーナツ化現象なんていう言葉がピンとくるならば話は早いし、都心部の高地価がイメージできれば余裕だよね。そう、古くからの市街地である都心部は地価の高さや居住条件の悪化によって人口が減っているところが多い。再開発によってオフィスビルやデパートが建てられたことによって、転居する人も多いかもしれない。もちろん、最近はタワーマンションの建設などによって都心部でも人口が増えているところはある(都心への人口回帰)。しかし、それは全体としてみればわずかであり、一般的な傾向としては都心部は人口減少地域と考えるべきだろう。都心部から郊外へと人々が転居することで「ドーナツ化現象」が生じる。古くから住んでいる高齢者は、土地や家屋を所有していることも多く、転居する人は少ない。それに対し、一時的に都心部のワンルームマンションなどに住む若者は、結婚などを機により広い住居を求め、郊外に流出する。「老年人口割合は、農村部だけでなく都心部でも比較的高い」というセオリーを理解することで、解答に結びつけることができる。

以上より。アが「人口密度」、イが「老年人口割合」、ウが「農業・林業就業者割合」となる。実は、2003年度地理B追試験や2007年度地理B本試験でほとんど同じ解き方の問題が登場しているので、機会あったら解いてみてくださいね。

 

[アフターアクション]意外によく出るネタなんだわ。上でも言っているように同じネタの問題は過去にも多く出題されている。

例えば人口密度については「狭いところで高く、広いところで低い」と言い切ってしまっているけれど、狭いところでも過疎地域なら人口密度は低いし、広いところでも大都市があれば人口密度は高くなる。必ずしもこのセオリーは通用しないんじゃないか。でも、それを百も承知で、あえてそう言い切ってしまっているのだ。だって「この図からは人口に関するデータが全くわからないじゃないか!」。人口がわからない以上、開き直って面積だけで考えてしまっていい。出題者の側も、人口規模を提示していない時点で「君たちには面積だけで人口密度を推察しなさいよ」というメッセージを発しているのだ。そこは開き直ってしまっていい。

また、老年人口割合についても「人口減少地域で高い」というセオリーは確実にせよ、それが都心部に当てはまるかについては結構迷うところ。上でも述べているように、最近は「都心への人口回帰」も顕著で、例えば最も人口増加率が高い都道府県は東京都だったりする(東京都はそもそも人口規模も最も大きいので、割合が最高ということは、実数ではそれ以上に圧倒的な増え方なのだ)。でも、それはあくまで個別の特殊な状況と考える。やはり一般的な傾向として、都心部は地価が高く住みにくいのは絶対敵なことだし、人口減少地域とみなし、老年人口率が意外に高いと考えるのは妥当なことなのだ。東京都心部だって、ここ10年ほどで考えればたしかに人口は増加しているのだろうが。高度経済成長からの数十年の期間で考えれば、やはり人口は減少しドーナツ化が顕著であるはずだし、住民の年齢層も上がっているはず。現実の状況と理論(セオリー)が食い違っている可能性もあるけれど、そこはうまく折り合いをつけて、思考を進めてみてほしい。

 

 

<2016年度地理B本試験第3問問4>

 

[ファーストインプレッション]砺波平野はかつて出題例もある(2007年度地理B追試験)し、散村がみられることもしばしば出題されている。しかし、本問で問われている内容なもう少し深く突っ込んだもの。応用力が問われるという点においては、難易度は高いかもしれない。

 

[解法]写真は砺波平野。広い扇状地に近世(江戸時代)に開かれた計画的な耕地と集落の配置がみられる。新田集落の代表例。家屋が分散しており、これを散村というのだが、家屋の周囲に耕地が広がり農作業に便利であること、火災の際に延焼が防がれることなどのメリットがある。

正解は④。そもそもこういった「小さい」など反対語(もちろん「大きい」が反対語なわけです)が含まれている文には要注意なわけで、本問についても果たしてこうした集落において「農家の経営規模が小さい」かどうかを疑わなくてはいけない。

写真をみれば納得できると思う。広々とした耕地が広がり(水田か畑かは判別できないが、富山県のような水田単作地帯であるので、水田の可能性が高い)、家はその中にポツンポツンと点在するのみ。それぞれの家の周囲が自分の耕地ならば、経営規模はむしろ「大きい」んじゃないか。とくに稲の場合は価格も安く、さらに機械化も導入しやすいため、一般に経営規模が大きくなる。大都市圏近郊の野菜農家をイメージして、比較してみればいい。採算の面を考えても、こうした米作農家は経営規模が大きくなって当たり前なのだ。④が誤り。

他の選択肢については、もちろん写真からも判定して欲しいが、知識としても知っておいて欲しい。①については、計画的につくられた新田集落であるので、直線状の街路や土地区画に特徴がみられる。②については。日本海側の季節風が強い地域ということもあり、家の周囲を防風林で囲む形が一般的。③については、これが最も重要なのだが、散村形態の最大の特徴。奈良盆地の条里集落に典型的にみられる塊村(集村)においては、住居と耕地が遠く離れるので耕作に不便であるが、こうした散村の場合、扉を開けたら目の前に耕地が広がっているのであり、非常に効率的である。集村と散村を対比的に捉えておこう。

 

[アフターアクション]散村の特徴を問う問題ではあるけれど、ちょっとひねった内容になっているとは思う。散村の話題で「経営規模」に関する話題は今まで問われなかったのでは。日本の農業の問題点として経営規模の小ささによる非効率性があげられるのだが、最近のセンター試験の中でそうした日本の農業の問題点をえぐり出すような出題もしばしば見られるので注目しておこう。2015年度地理B本試験第2問問6及び第3問問5が最もわかりやすい。小規模農家が多い中で、民間企業の進出も促して大規模化が推進されるものの、実際には耕作放棄地も増加している、という日本農業の現状。

新田集落の形態については、2009年度地理B本試験第4問問1で、路村が典型的なものとして登場しているが(ただし、路村も住居と耕地が近接するという点においては散村と同じ特徴をもつ)、今回の問題のような散村も広くみられるということ。富山県砺波平野の新田集落(散村)については2007年度地理B追試験第6問問2で地形図問題が登場しているので、こちらも参照しておこう。

 

 

<2016年度地理B本試験第3問問5>

 

[ファーストインプレッション]これはずいぶんとオーソドックスな問題。しかも誤文指摘問題というのが優しいし、易しい。本来、センター地理の問題はこういったものでいいと思うんやけどね

 

[解法]正解(誤文)は②だね。とくに問題ないと思う。気をつけて欲しいのは、下線部の前半の「石や土を建材に利用し」という部分は正しいということ。誤っているのは後半。窓などの開口部は「大きく」はない。できるだけ小さく作り(数も少なく)高温である外気が室内に入ってこないような工夫がされている。乾燥地域とくに北アフリカや西アジアのアラブ世界の特徴。こうしたところでは昼の気温が50℃近くに達することもあるからね。

他の選択肢はとくに問題ないでしょう。①はエスキモー(イヌイット)の家屋であるイグルーの説明。秋田県などでみられる「かまくら」に近いんだけど、かまくらは雪を固めたものだからね。日本の日本海側地域などを例外として、基本的には寒冷地域であっても雪は降らない(降水量が少ない)。エスキモーの住むカナダの北極海沿岸もそういうところで、氷を切り出して住居が作られているのだ。

③はオンドルの説明。朝鮮半島の伝統的な暖房方式。オンドルについてはこれまでも出題例は多かったが、「炊事の煙を床下に通して」という説明は初登場。煙やススがひどいという問題もあるんだけれどね。

なお、①のイグルー、②のオンドル、ともに名称(カタカナ言葉)が問われているわけではなく、その中身が問われている。教科書をチェックするとき、太字で強調されたこうした用語を覚えるのではなく、むしろ意味を確認しないと。

さらに④。高温多雨の地域においては、地面からの湿気を防ぐことや、通風性をよくするなどの理由で、高床式の家屋がしばしばみられる。その典型的な地域が東南アジア。

 

[アフターアクション]本当、オーソドックスな問題。よかったら「日干しレンガ」という言葉も知っておこう。乾燥地域においては天日乾燥させただけのレンガが建築材料として用いられる。雨が降ったら溶けてしまうけれど、こういった地域ならばその心配がないからね。

 

 

<2016年度地理B本試験第4問問6>

 

[ファーストインプレッション]今回は宗教に関する問題はこれだけかな。しかも、教義内容といったことではなく、単なる分布が問われている。いかにも地理的といった問題。逆に珍しいような気もするが。

 

[解法]南アジアの宗教分布は非常に出題率が高い。インドはヒンドゥー教が主であり、一部にイスラム教。パキスタンとバングラデシュに関してはイスラム教国である。そしてスリランカは仏教が多数を占める国であり、少数派としてヒンドゥー教とが存在する。

このことに照らし合わせて表を参照するに、③がスリランカであることは自明であろう。正解は③。

参考までにそれ以外の国について。①と②がパキスタンとバングラデシュのいずれかに該当することは明らか。ただ、両国の違いとして、パキスタンの場合は、独立時にヒンドゥー教とはインドに移住し、イスラム教徒はパキスタンに移住したように、住民と宗教の構成については境界線が厳格化されている。ほぼ完全なイスラム国となっている①がパキスタン。

これに対しバングラデシュは、ガンジス・ブラマプトラ川デルタの人口稠密地帯を国土とする。イスラム教徒とヒンドゥー教徒が混在している地域であり、バングラデシュ国内にも比較的ヒンドゥー教徒は多い。②がバングラデシュ。

残った④がネパール。ヒンドゥー教の国である。

 

[アフターアクション]第5問でもインドがテーマとなっているのに、ここでも南アジアがテーマとなっていて、さすがにこれはカブりすぎなんじゃないかとも思うのだが、逆に言えば、それだけ南アジアの宗教分布は大切だということ。今どき珍しいぐらいのベタな問題なんだが、要チェックですね。