2016年度地理B追試験[第6問]解説
たつじんオリジナル解説[2016年度地理B追試験]第6問
例年通り、地域調査の大問。著作権の関係で消えている図がありますが、地勢図と地形図なので、しばらくしたら権利関係がクリアになって、サイトにもアップされるでしょう。今回のテーマは広島県福山市。広島県は、2008年度地理B本試験で取り上げられて以来、8年ぶり2回目の登場。瀬戸内地域が取り上げられるのも実は珍しくて、広島県2回を除けば、2000年度の小豆島ぐらい(2014年に愛媛県がピックアップされてはいるが、宇和島なので瀬戸内ではない)。ちなみに、今回の登場人物は「カオルさん」。これは2005年度地理B追試験の長野県地域調査でも登場。同じ名前が2回使われるのって、極めて珍しい(どうでもいいか・笑)。
<第6問・問1> (解説は図がアップされてからになります)
<第6問・問2> (解説は図がアップされてからになります)
<第6問・問3>
[ファースト・インプレッション] また気候グラフなんだよね。これで4問目。しかも、降水量が問われているパターンが第1問と第4問と同じ。追試験の問題って寄せ集めなのかな。出題傾向が偏っているね。
[解法] とりあえず、どの季節に雨が多いかがわかれば十分なので、本来から具体的な数字を見る必要はないんだが、今回は第1問問3や第4問問2で同じような問題が出題されているので、せっかくだからそちらのグラフも横に見ながら、数字もチェックしていこう。
まず「8月の降水量」の100と200に沿って、それぞれ横線を引いてみる。100ミリは、まあまあ雨が多いって感じ、200ミリは、かなり多いってこと。Aはとくに夏に多雨となり、BとCはそれなり。
さらに「1月の降水量」の同じく100と200に沿って、今度は縦線を引いてみる。AとBはそれなりで、Cは多い。とくに冬なので、Cの降水量は「降雨」より「降雪」と考えるべきだね。本来、冬は大気が乾き、降水量が少ない。この時期に200ミリなんていう降水量の多さは、極めて例外的ということ。
季節風の向きを考えよう。第1問問3では、南アジアの季節風の風向が重要であった。夏は南西風、冬は北東風というパターン。今度は、日本を中心とした東アジア。この地域の季節風は、夏は南東風、冬は北西風というパターンになるね。とくに冬の季節風については、シベリア高気圧から吹き出すことを考えてほしい。
夏に降水量が多いのは、もちろん太平洋側。南島季節風によって太平洋から湿った風が持ち込まれ、山脈(中国・四国地方なので、四国山地)にぶつかり、太平洋側の地域の雨量が多くなる。「高知市」が含まれるアがAとなる。
冬に降水量が多いのは、日本海側。シベリアから吹き出した風が、日本海上空で水分をたくわえ、山脈(中国山地)にぶつかり、雪雲を結ぶ。「シベリアからの冷たい風」、「水蒸気を供給する温かい日本海」、「空気を持ち上げ雲を生じる日本列島の高い山々」によって、日本の日本海側の地域は世界有数の豪雪地帯となるのだ。「鳥取市」が含まれるイがCとなる。
一方、夏は四国山地に、冬は中国山地に、それぞれ湿った空気を防がれ、乾いた風しか吹かない瀬戸内地方は、日本で最も降水量が少ない地域のひとつとなる。「広島市」が含まれるウがB。
[アフターアクション] 「解法」は長々書いてしまったけれど、悩むまでもない簡単な問題だよね。日本の都市名が登場しているけれど、上記のように「高知市」、「鳥取市」、「広島市」がわかればいいんで何の問題もないでしょう。だから、この問題で君たちに意識してほしいのは、「解法」の冒頭でも触れているように「降水量」そのものなのだ。1ヶ月間で100ミリというのは普通だが、200ミリを超えるとかなり多雨となる。とくに冬なそもそも降水量が少ないのに、この時期に200ミリっていうのは異常。数字でイメージする力を、ぜひ養っておいてほしい。
<第6問・問4>
[ファースト・インプレッション] こうした地場産業と工業立地を結びつけた問題は、数年前に愛知県知多半島がテーマだった際に取り上げられているわな。最近の定番パターン。しかし「い草」は初登場。これ、みんな知ってるのかな?
[解法] 地場産業と工業立地を組み合わせた問題パターン。まず(カ)から。「畳」の原料ということで「い草」が該当。本来なら熊本県がい草では有名なんだが、福山って僕は畳表が特産品とは知らなかったな。備後表って言うんやね。なお、い草を知らなくても、「桑」でないことがわかれば十分に解答は可能。桑はカイコの飼料となることから、絹織物工業と結びつく。絹織物工業は、第2問問5で登場しているね。「養蚕」、「繭」、「製糸」などのキーワードを用いて、群馬県の絹織物工業が説明されている。
さらに(キ)について。「繊維工業」のタイプを問うているのだが、選択肢は「資本集約」と「労働集約」。これについてはとくに言うまでもないと思う。「集約」は「大切である」程度の意味で。資本集約とは資本すなわち「お金」が大事で、多額の資金をかけて巨大な工業設備を建設することを考える。鉄鋼業や石油化学工業などが典型例で、「資源が重要である工業」と解釈してもいい。これに対し、労働集約は労働力が大切となる工業で、衣服縫製業や機械組み立て工業のような「単純労働力」に依存する工業種を考える(*)。「繊維工業」なので、もちろん労働集約型工業となり、②が正解。なお「紡績」という言葉も、繊維工業のこと。
(*)労働集約型工業には、単純労働に依存するタイプと熟練労働に依存するタイプの二つがあり、後者の例としては精密機械工業がある。ただし、一般的には単純労働タイプを考えればよく、すなわち「安価な労働力を求め、発展途上国へと工場が移動する」ことを、労働集約型工業の最大の特徴と考える。
[アフターアクション] 問題としてはシンプルだと思う。労働集約型工業と資本集約型工業の違いは基本中の基本なので、とくに問題ないとして、カギになるのは「い草」である。これは完全に日本地理(上述したように熊本県特産のもの)なので、中学地理をしっかり勉強しとけっていうことだね。
<第6問・問5>
[ファースト・インプレッション] 福山市には巨大な製鉄所があって、そのことについての知識が問われているのかと思いきや、そういった内容は全てヒントとして与えられているという思考問題でした。これなら簡単だね。
[解法] 製鉄所の街、福山。埋め立てにより製鉄所と石油化学コンビナートを備えた総合的な工業都市都市となった水島(倉敷)。そして国際的な貿易港を備える神戸。知識ではなく、グラフを読み取る思考問題になっている。
①;いずれも「太平洋ベルトの臨海部」に位置する都市であることが述べられている。もちろん、原料である鉄鉱石や石炭の輸入に便利だからである。鉄鋼業の立地条件。
②;「企業城下町」はどうかはわからないけれど、グラフを見る限り「鉄鋼業」が突出している。まさに「依存度が高い」のである。
③;もちろん、ヤバ目のキーワードがあるよね。そう、それは「内陸部」。石油(原油)も輸入に依存するのだから、臨海型の工業になるはず。これが誤り。
④;これは確かにその通りだね。神戸はより総合的な工業都市なのだ。
[アフターアクション] 倉敷市の水島地区は、埋め立てによって造成された工業地域であり、臨海型の製鉄所や石油化学コンビナートが位置している。何度も言うようだけれども、やはり中学地理を固めて、こうした日本地理に関する知識は完全にマスターしておこうよ。今回は、工業の立地傾向を問う(つまり石油化学工業が臨海立地である)思考問題であったけれども、多少は知識も入れておいた方がいいと思うよ。
<第6問・問6>
[ファースト・インプレッション] 最後にこういった簡単な問題が取り上げられているのだから、第1問から順序よく解いていくっていうのは、あまりいい方法じゃない気がする。最後に時間が足りなくなって、この問題をやり残してしまったらもったいないでしょ。大問を解く順番も考えてみないとね。
[解法] 地域調査の方法に関する問題。かなり出題率は高いので、過去問をしっかり解いておけば、それが十分な対策となる。逆にいえば、慣れておかないと、初見では面喰らうと思うよ。パターンに慣れておこう。
で、こういう問題でとくに大切となるキーワードは「空中写真」なのだ。もちろん、その地域を正確に映し出す写真には非常に重要な価値があるのだけれども、しかしそこから得られるのは限定的な情報だけである。「見る」異常のものは分かり得ない。
選択肢②に注目。写真で眺めるだけでは、まさか「石材の産地」はわからないよね。空中から見ても仕方ない。石材を直接観察し、さらに歴史書などの飼料を読んで、どういった経路でこれらの石材が運ばれたのかを調べないといけない。
①の「聞き取り調査」、③の「観測記録」、④の「現地で観察」などは、非常に重要かつ確実な(その代わり、かなりめんどくさいけれど)地域調査の方法なのである。
[アフターアクション] これ、鞆の浦(とものうら)っていうところなんだよね。ほぼ同じ写真が1990年代のセンター試験でも登場したことがある。たしか、ジブリのアニメの何とかって作品の舞台になっていたよな(スンマセン、アニメは詳しくないので。。。)。この美しい伝統的な漁村の風景を損なうような大規模な開発が計画されていたのだが、地域住民などの反対によって頓挫したという経緯がある、実は、タイムリーな場所だったりするのです。
おっと、問題とは直接関係ないことを(笑)。とにかく、こうした地域調査の方法に関する問題は、数が多い。過去問を研究し、このジャンルの問題にば慣れておいてください。パターンが読めれば、解答は簡単。