2005年度地理B追試験[第3問]解説
2005年地理B追試験[第3問]
問1 [講評]問題の形式としては目新しくないのだが、ノルウェー(地形性降雨によって降水量が多い)が出題されたケースは初めて。私大でもほとんど出題例がないところ。そこが難問だったかも。
[解法]まずはベタなやつ(笑)から解いていこう。南ヨーロッパの都市であるジブラルタルは、地中海沿岸特有の気候が見られるはずである(地中海性気候。センター試験ではローマが頻出)。ゆえに7月ごろの降水量が少なく夏季乾燥型の気候を表していると思われるCをジブラルタルとする。
AとBの判定。単純に内陸部のライプツィヒで全体の降水量が少なめと考えたらいいだろう。海から遠く離れていて水分の供給が少ない。逆に沿岸部で降水量が多いと思われるトロンヘイムがBとなる。
ここで一つ疑問があるかもしれない。ヨーロッパは全体としてさほど降水量の多い地域ではないが、なぜトロンヘイムではこんなに雨(雪かもしれないが)がたくさん降るのだろうか。それは偏西風の影響を考える。ノルウェーとスウェーデンの国境にはスカンジナビア山脈が南北に縦走し、トロンヘイムが位置する山脈西麓は、偏西風の風上斜面となって降水が生じ易い状態となる。海上(大西洋))で水分を蓄えた空気(偏西風)が山脈(スカンジナビア山脈)にぶつかることにより、地形性降雨がもたらされる。
問2 [講評]中学の問題みたいだ。それぞれの国のキャラクターがそのまま問われている。
[解法]あえて国名は伏せて解いてみようか。
1;「標高4000mを超える高山」というのは新期造山帯とみていいだろう。ヨーロッパの場合、新期造山帯の南部に対し、北部は安定陸塊や古期造山帯でさほど標高の高い地形はない。このため北部に位置するGは1ではない。
2;「肥沃な平原」「農業生産」「食品加工業」という言葉から、これに該当する国は豊かな農業に特徴のある国だろう。北部で冷涼(というか寒冷)な気候だと思われるG国がこれに該当するか。ちょっと考えにくい。
4;「オリーブ」に注目。この作物のヨーロッパにおける栽培地域はほぼ地中海沿岸に限られる(栽培北限はセンター頻出)。まさかGでは栽培されないだろう。
ゆえに3が該当。かつてヨーロッパの北半分の地域は「大陸氷河」に覆われ、まさにGはその影響を大きく受けている。もともとが凹凸の多い地形(楯状地。ほぼ平坦な地形であるものの、表面にやや凹凸が無数に存在する)であるが、そこに氷河の侵食や堆積作用によってくぼ地が形成され、水がたまって湖となった(氷河湖)。気候は冷帯であり、国土の過半は針葉樹によって覆われ、それを利用した林業や製紙業が発達している。G国すなわちフィンランドは「森と湖の国」である。
さらに他の選択肢についても。
1;スイス。南部のアルプス山脈は新期造山帯であり、標高が高く険しい。山岳氷河もみられ、これによる地形も多い。スイスといえば移牧が有名であるが、これは季節によって放牧地を移動するという高度による気温変化を利用した農業形態であり、酪農の一種である。
2;ハンガリー。中央部を貫く大河川とはドナウ川のことであり、この流れはしばしばセンターでも問われているのでチェックしておくといいだろう。またハンガリーはかつてヨーロッパを覆っていた大陸氷河の外縁部に当たり、氷河によって侵食・運搬された腐植土が堆積し、それが周囲に散らばることによって肥沃な土壌が形成された地域である。これゆえに農業もさかんで、小麦やトウモロコシの生産は、その人口規模に比して、大きいものとなっている。
4;スペイン。国土の中央はやや乾燥している。北東部の山脈はピレネー山脈で、フランスとの国境。オリーブやブドウの世界的な生産国である。
問3 [講評]民族に関する問題。地理B的ではないが、いずれもメジャーなネタであり、ぜひとも知っておいてほしい。とくにバスクはよく出題される。
[解法]ア;フランス北西部ブルターニュ半島のブルトン人。ケルト系の民族である。
イ;ラップランド地方に住むサーミ(ラップ人)。アジア系人種に分類される民族である(ウラル系とはアジア系のこと)。やや難しいかもしれないが、ここは「トナカイ」がヒントになっただろう。
ウ;フランス・スペイン国境のバスク人。人種系統が全く異なる民族で(白色人種でも黄色人種でも、そして黒色人種でもない)、つまり言語系統が全く異なっているということ。独自の文化を持ち、独立国家を求める動きもある。
問4 [講評]農業就業人口割合と牧場・牧草地面積割合とを組み合わせた問題。
[解法]土地利用割合に関するデータは重要で、とくに牧場・牧草地面積割合はポイントとなりやすい。ヨーロッパにおける牧場・牧草地面積割合のとくに高い国はアイルランドとイギリス。大陸氷河によって削られた地域が広く、耕地として利用できる土地が少ない。これゆえにせいぜい草が生えている程度の部分が多く、これらが牧場・牧草地としてカウントされることとなる。
このことから①と④をアイルランドかイギリスと判断する。
ここからは農業就業人口割合に注目する。先進国の農業就業人口割合(第1次産業就業人口割合とほぼ同義)については、具体的な数値で知っておかなければならない。イギリス→米国→ドイツ→フランス→オーストラリア→日本→イタリアの順で高くなる。先進国はそもそもこの割合が低いのだが、それでも国によって差異はあることに注意。一般的に米国のような企業的な農業が行われている地域で低く、日本のような家族経営型の農業が行われている国で高い。またヨーロッパにおいては、北部で低く、南に行くにつれて次第に高い数値となっていく。
とくにイギリスは重要で、農業が合理的に行われている国であり、農民の数が少なく抑えられている。わずか「1.8」という低い値に留まっている④はイギリスである。
この時点で②と③が残っているわけだが、農業就業人口割合はそれぞれ「7.4」と「2.5」である。ここはやはり低い値を示している③をドイツと判定していいだろう。スペインに比べてドイツは先進国であり(1人当たりGNIは、ドイツが約25000$/人、スペインが約15000$/人)、さらに北部ヨーロッパに位置する国であるので、農業就業人口割合もより低くなることが想像できる。
消去法で①がアイルランド、②がスペイン。
耕地・樹園地面積割合の指標はとくに参考にする必要はない。ただしアイスランドやイギリスは冷涼であるため(ブドウの栽培限界の北側に位置する)、樹園地はほとんど存在しないことは頭に入れておくといい。
問5 [講評]イタリアがセンター地理Bで取り上げられることは珍しい(地理Aでは大きく取り上げられたことがある)。またこういった特定の国の知識が問われるパターンもあまりない。センター試験としては例外的。
[解法]イタリアは「南北格差」が特徴。豊かな北部に比べ、貧しい南部。
まずクがわかりやすい。「地域間格差の是正」のために「製鉄所」が建設されたのだから、そもそも経済レベルの低い地域なのだろう。よって南部のZが該当。
カとキの判定は難しいが、カは「中小企業」「新たな成長地域」であり、さほど工業がさかんな地域とは思えないのに対し、キは「最大の工業地域」である。さあ、XとY、どちらが工業が発達しているのだろうか。
センター試験ではかつて観光都市としてのベネチアが出題されたことがある。Yの範囲に含まれる都市である。また06年に冬季オリンピックが開催されることで有名なトリノという都市は自動車工業がさかんな都市なのだが、これはイタリア北西部アルプス山脈の麓に位置している。このことから想像するに、Xの方がYより工業が発達している地区だと思われ、ゆえにXがキ、Yがカである。
こういった問題は都市に関するものでもあり、対策が立てにくい。せめて知識を固めるために中学校の問題集を複数こなしておく。またトリノのように国際的な話題がある都市についてもマークしておくといいかもしれない。
問6 [講評]これも定番。とくにノルウェーの輸出品目については過去に問われたことがあり、それが今回そのままの形で再び登場している。
[解法]ノルウェーは世界有数の原油輸出国であり、当然ノルウェーにとっても最大の輸出品目であると考えられる。ゆえに2と4に限定されるが、ここからは2の「鉄鋼」に注目してほしい。ロシアは世界的な鉄鋼生産国であり(粗鋼生産について統計を確認しておこう)輸出額も多いとみて間違いないが、一方ノルウェーはとくに生産は多くないはずで、これが輸出品の上位に来るとは考えられない。よって4がノルウェーとなる。
ここで注意してほしいのだが、「天然ガス」「アルミニウム」「魚介類」は判断のポイントとはならない。天然ガスは原油産出国の多くで採掘されているものであり、原油と天然ガスがともに上位輸出品目となるのは決して珍しいことではない。アルミニウムについては、ノルウェー・ロシアともにアルミニウム精錬業が発達しているため(ノルウェーは水力発電国であり、これを利用したアルミニウム精錬がさかん。ロシアでも、水力発電が行われるバイカル湖周辺はとくにアルミニウム精錬のさかんな地域であり、日本へも輸出されている)、判断基準とはなりにくい。魚介類についても、ノルウェーは大西洋で、ロシアは北太平洋で、それぞれ漁業がさかんであり、これも両者を区別するものとはなりにくい。やはりノルウェーではなく、ロシアでのみ生産が多い鉄鋼に注目するのがベスト。
1はルーマニア。経済レベルが低い(1人当たりGNIが低い)ため、衣類のような価格の安い工業製品がつくられ、西ヨーロッパに向けて輸出される。日本と中国との関係を考えてみたらいい。3は
イギリス。原油を除けば、機械類や自動車などいかにも先進工業国らしい輸出品目となっている。
問7[講評]EUに関する問題は地理Aでよく取り上げられるが、地理Bでは比較的珍しい。ただし本問は容易な部類だろう。
[解法]「加盟国間の所得格差も解消された」が引っかかる。所得格差ということから1人当たりGNIを考える。最も高いレベルの北欧やルクセンブルクの値は30000$/人を超えるのに対し、南ヨーロッパのポルトガルやギリシアはせいぜい10000$/人にすぎない。04年に新たに加盟した東ヨーロッパの国々ともなればもっと低いだろう。このような状況を以って「解消された」とはとても言えたものではない。