2008年度地理B本試験[第3問]解説

2008年度地理B本試験[第3問]問1

 

[講評] 過去問そのまんまのベタ問題。でも、その出題例を知らずとも、容易に解答できる問題でもある。数字として世界を意識できているかということ。

[解法] 「人口100万人以上の都市数」が問われているが、要するに「人口規模の大きい大陸では、大都市の数も多い」と考えればいいんだと思う。

1980年2000年ともに大都市の数が多く、大陸としても人口規模が大きいと思われる1がアジアである。逆に大都市が少ない4がオセアニアである。

残った2と3については判定が難しい。それぞれの地域のキャラクターを考えてみよう。中央・南アメリカは人口規模は約5億人程度であり、人口増加率も約2%と世界平均より高い。一方、CISとは主に旧ソ連のことであるが、全体の人口は3億人程度であり、人口増加率は高くはないだろう(ロシアは「ヨーロッパ」であり、人口増加率は低い)。

このことから、大都市の数が「49」と多く、増加の度合いも「20から49」というように高くなっている2が中央・南アメリカと考え、逆に大都市の数が「24」と少なく、増加の度合いも「20から24」と低い3をCISと考える。とくに矛盾はないよね?

[学習対策] まずは人口に対する基本的なデータを頭に入れておこう。

大陸別の人口分布について。

現在の世界の人口は約64億人であるが、これを「8億人」単位で考える。

アジア;40億人

アフリカ;8億人

ヨーロッパ・CIS;8億人

南北アメリカ;8億人

オセアニア;0億人

さらに詳しく考えてみよう。

アジアは40億人であるが、中国や日本など東アジアに16億人、インドなど南アジアに16億人、東南アジアと西アジアを合わせて8億人。

ヨーロッパ・CISで8億人であるが、ヨーロッパで5億人、CISで3億人。

南北アメリカで8億人であるが、北アメリカ(アングロアメリカ)で3億人、中央・南アメリカで5億人。

さらに大陸別の年人口増加割合について。

3%;アフリカ(経済レベルが低く、出生率が高い)

2%;ラテンアメリカ(中絶を禁じるカトリックの影響)、南アジア(多産を奨励するヒンドゥー教の影響)

1%;東アジア(一人っ子政策の影響。将来的には高齢化問題も)、アングロアメリカ・オセアニア(移民が多い。将来的にはさらに人口は増加するとみられる)

0%;ヨーロッパ・日本(経済レベルが高く、子供の数は抑えられている)

これに加え、今回登場したCISや東ヨーロッパについても、(経済レベルはともかくとして)ヨーロッパの一部であるので、人口増加割合が低いということを知っておきべきだろう。なお、タイなど東南アジアは、2%の南アジアと1%の東アジアの間ということで、1.5%と考えよう。

またこのような問題においては、最初に現在の数値に注目し(本問の場合は2000年のデータ)、選択肢を絞り、それでもわからなければ過去からの変化の割合(本問の場合は1980年から2000年までの変化の様子)に注目し、考えるという手順が非常に有効である。注目する順番は「最初に実数、それから割合」である。

2008年度地理B本試験[第3問]問2

 

[講評] 決して過去に出題例がないわけではないけれど、僕は難しいと思います。ア~ウの文が短すぎてヒントが少ないので、非常に考えにくい。作問者はもうちょっと頭を使って欲しかったなぁ。単なる知識問題となってしまっているような気がする。

[解法] いずれの国も「人口最大都市と首都が一致しない」例である。

ナイジェリアではかつては国土の南西部の港湾都市ラゴスに首都が置かれていたが、特定の民族の分布地域に片寄り、バランスが悪かった。主要3部族の分布地域の中間点でもある国土中央部に新しくアブジャという都市が建設され、こちらに首都が遷されている。

トルコでは古来よりヨーロッパとの境界部に位置する海峡の町イスタンブールが政治・経済・文化の中心地であったが、首都は国土中央の高原上に位置するアンカラに置かれている。

オーストラリアの首都は計画的に建設されたキャンベラであるが、国内を代表する2つの大きな港湾都市メルボルンとシドニーとの間に設けられたものである。

以上のデータをかんがみて、ア~ウに当てはまる国名の判定をしていこう。

アについてはやはり「社会・宗教集団」という言葉が気になる。ナイジェリアが話題に出て、「民族対立」や「内戦」がキーワードにならないわけがない。このことからアをナイジェリアと判定する。

さらにイとウの判定。トルコについては、イスタンブールという都市は過去に何度も出題例があるので、必ず知らないといけない。ヨーロッパとアジアを分ける海峡に面する港湾都市イスタンブールは、首都ではないものの国内最大の人口を有する。「東西文明の出会った街」として歴史文化的な重要性が高い。このようにトルコといえばイスタンブールが最重要な都市であり、逆にいえば、他にイスタンブールに匹敵するような巨大都市は存在しない。このことから考えるに、「二つの主要都市」という表現がトルコに当てはまるとは思えないのだ。よって残ったイがトルコとなる。「国土のほぼ中央部」に首都があるという点も、国土の端にあるイスタンブールが首都ではないのだから、やはりトルコを表すキーワードの一つといえよう。

[学習対策] 新課程になって都市に関する問題が多く出題される傾向があるが、しかし本問のように特定の都市に対する知識が問われた例は少ない。だから、やみくもに地図帳を開いて手当りしだいに都市名を暗記しまくるだけの勉強法ではやっぱりマズいのだ。今回登場したアブジャやアンカラについても、直接登場したわけではないが、これに関する話題は出題されており、過去問の研究によって対応することは十分に可能だったと思う。

とりあえず今回登場した都市について正しい理解を。

キャンベラ・・・オーストラリアの首都。シドニーとメルボルンの中間の山地に計画的に建設された政治都市。人口規模は小さく、経済や文化の中心というわけではない。

シドニー・・・オーストラリア南東部の港湾都市。人口規模が大きく、経済・文化の中心の一つ。

メルボルン・・・オーストラリア南東部の港湾都市でかつての首都。人口規模が大きく、経済・文化の中心の一つ。

イスタンブール・・・アジアとヨーロッパにまたがるトルコの最大都市。海峡に面し、日本の協力によって橋が建設された。下関市と姉妹都市の提携を結んでいる。かつてはキリスト教文化の中心、現在はイスラム教の勢力圏にあり、さまざまな文化が混在する国際都市となっている。

ラゴス・・・ナイジェリア南西部の奴隷海岸に面する港湾都市。人口規模が大きいだけでなく、その増加率も極めて高く、将来的に世界最大の人口を有する都市になると推定されている。現在は首都ではないものの、国内の経済や産業の中心。

また、今回取り上げられたキャンベラ、アンカラ、アブジャの3つの政治都市であるが、小例外にワシントン(米国)、ブラジリア(ブラジル)もぜひ知っておこう。やはり計画的に建設されたものである。

また発展編としてカナダのオタワがある。オタワは計画的に建設された都市ではないものの、人口規模が小さく政治機能に特化した都市という点では共通している。カナダにおける英語圏とフランス語圏の境界付近に位置することから、この小都市に首都が置かれたという経緯がある。

2008年度地理B本試験[第3問]問3

[講評] 実は「都市人口率」って初めて問われたんですよ!いや、厳密には、都市人口率っていう言葉は過去にも出題例があるものの、これそのものに対する知識が問題を解くポイントになった例はなかったのです。それだけにちょっとビックリな第3問問3だったりするのだ。

とはいえ、問題そのものは「ありがち」といった感じで決して難しくはない。初登場だからこそ、あえてイギリスのような平易な国を問うてきたんじゃないかな。ま、僕だったら韓国を答えさせるけどね(笑)。

おおまかなセオリーとして「都市人口率と経済レベル(1人当たりGNI)は比例する」と考えよう。先進国においては都市人口率は高く、発展途上国では低い。産業が発達し、国民の生活水準が高い国々では都市に住む人口の割合が高い。それに対し、国民の多くが農業に従事するような国では、所得水準も低く、都市に住む人も限られている。どうかな?決して難しいイメージではないと思うけれど。第1次産業人口割合や1人当たりGNIのように、具体的な数字として頭に入れておく必要はないので、簡単なイメージさえ浮かべることができればいい。何とかなるでしょ?

[解法] まず言葉を知らなきゃ話にならない。「都市人口率」とは、全人口のうち都市部に住む者の割合。たとえば、まだ都市なんてものが存在しなかった縄文時代や弥生時代ならば都市人口率は当然0%になるよね(笑)。時代が流れ、現代社会は都市化の時代でもある。産業が発達した先進国では多くの者がすでに都市に居住し、都市人口率も高くなっている。

都市人口の反対の概念が農村人口率(こんな言葉は本当はないけどさ・笑)。都市以外の地域を農村と考え、全人口のうち農村に居住する割合が農村人口率。都市人口率と農村人口率を合わせると100%になると考えてほしい。

都市人口割合を考える際に、都市人口よりも農村人口をイメージした方が理解が早いと思う。都市人口割合が高い国っていうのはつまり農村人口割合が低い国であり、逆に都市人口割合が低い国っていうのは、農村人口割合が高い国っていうこと。

農村人口については「第1次産業人口割合」と関係があると考えよう。そもそも農業(第1次産業)を営むには農村に住んでいなくてはいけないのだから、第1次産業人口割合と農村人口割合は比例する関係にあるとみなしていい。

で、ここからが重要。すでに君たちは第1次産業人口割合については知っているはず(っていうか、必ず知っとけよ!)。先進国で高く、発展途上国で低い。先進国の中でもイギリスや米国でとくに低い数値となっており、日本はさほどでもない。発展途上国の中でもとくに高い割合となっているのは、タイなどアジアの米作国である。

農村人口割合と第1次産業割合とは比例関係にあることはわかるよね。都市人口割合と農村人口割合は相反するものなんだから、つまり「第1次産業人口割合と都市人口割合は反比例する」という鉄板のセオリーが生まれることになる。ここは絶対に理解して!

第1次産業人口割合がとくに低い国ってどこだった?それはイギリスだよね。っていうことは、イギリスは都市人口割合がとくに高い国っていうことが言えるわけだ。逆に第1次産業人口割合が高い発展途上国では都市人口割合は低くなる。

このことをふまえて図1を参照。最も都市人口割合が高い1がイギリスとなる。

さらにおまけでいきましょう。

「都市人口割合と1人当たりGNIは比例する」というセオリーも実は成立しているんだけど、わかるかな。農業など第1次産業はズバリ儲かる仕事ではなく、これに従事する人の割合が高い国はつまり国民の所得水準も低いということ。つまり1人当たりGNIが低い。

「第1次産業人口割合と都市人口割合は反比例する」そして「第1次産業人口割合と1人当たりGNIは反比例する」のだから、「都市人口割合と1人当たりGNIは比例する」というセオリーにたどりつくわけだ。オッケイかな?

ちなみに、図において2は韓国、3と4はインドかフィリピンのいずれか(判定不要)である。NIEs(新興工業経済地域)の一つである韓国は工業化も進むなど、インドやフィリピンに比べ1人当たりGNIが高く、その分だけ都市人口割合も高くなっている。またとくにこの国については80年代にも注目してほしい。韓国は1980年代に高度経済成長を成し遂げた国であり、この時期に工業が著しく発展し、国民の所得水準も大きく上昇した。都市人口割合も急上昇している。農民の多くが農村を捨て、都市へと流入し商工業を支える労働力となったのだ。

[学習対策] 今年ついに都市人口割合が直接的に出題されたことは注目に値すると思う。要チェックだね。

都市人口割合については、単純に「1人当たりGNIに反比例する」と考え、「先進国で高く、発展途上国で低い」と認識しておけば十分だろう。日本やヨーロッパ、アングロアメリカ、オセアニアで高く、アフリカやアジアで低い。

さらに発展型として、解法でも説明しているように農村人口割合(何度もいうけれど、本当はこんな言葉はないからね)との関係を捉え、自然と緑にあふれた豊かな農村がみられる地域においては都市人口割合が低くなり、それに対し、少雨や低温、標高の高さなど自然環境が厳しい地域においては都市以外に住むことは困難であり、都市人口割合が高くなることを考えよう。温暖な気温と豊富な降水量に恵まれ米作がさかんに行われている東南アジアと、高山や乾燥地域が連続し農村が成立しにくいラテンアメリカとの差異を意識して、「東南アジアは都市人口割合がとくに低く、ラテンアメリカは発展途上地域ではあるが比較的都市人口割合が高めである」というセオリーも成立する。

「工業は比較的さかんなのに都市人口割合が高いタイ」と「農業国でありながら都市人口割合の低いアルゼンチン」のような覚え方をしておいてもいいかな。

2008年度地理B本試験[第3問]問4

[講評] いやぁ、いいですね!今年のベスト問題はこれでしょう。新課程以降こういった都市の内部構造に関する問題っておもしろいのが多いんだけど、今年のこれはマジですばらしい。学術的にすばらしいっていうより、シンプルで、むしろコミカルでさえあって、僕はスゴくいい問題やなぁと感じ入る。君たちも本問のおいしさを味わいなさい。

[解法] 問題文参照。正文指摘問題である。つまり、4つの選択肢中3つの選択肢が「クロ」であることを証明しないといけないわけで、1つの「クロ」だけを判定すればそれがそのまま答えとなる誤文指摘問題よりも3倍難しいわけである。このことはまず最初に意識して、心して取りかかること。

さらに問題文に注目し、この図が「大都市の内部構造」を示した図であることにも注意。しばしば都市についてこういった同心円の図が示されることがあるが、それらは多くが「都市圏(大都市圏)」のモデル図であり、本図とは異なっている点に注意。都市圏モデル図ならば、内側の円が「都心部」、外側の円が「郊外」である。本図はむしろ全体が「都心部」であり、さらにその内側が細かく描かれているに過ぎない。本図に郊外を書き加えるならば、Cの円の外側に大きく円を描かないといけない。

図に注目。上でも述べているように、これは「都心部」のみを取り出した図なのだ。君たちが住んでいる都市を考えてほしい。Aはまさにターミナル駅周辺地区である。駅前の区画でビルが建ち並び、その多くはオフィスや百貨店(デパート)などに利用され、もちろん地価も高い。

それを取り囲むBの地域であるが、ターミナル駅から徒歩で行ける範囲とイメージしたらいいだろう。バスならばせいぜいバス停1つか2つ分ぐらいだろうか。A地域ほど再開発が進んでいるわけではなく、昔ながらの商店街や、古くから立地している中小工場(小さなs部品などを製造している町工場をイメージする)なども混在しているエリアである。

その外側のC地域であるが、ターミナル駅から自転車で行動できる範囲と考えてみたらいい。郊外というほどではないが、A地域やB地域ほど建物が密集しているわけでもなく、住宅地が広がっているようなイメージ。

その突端にくっついているのがDの港湾地区。みんなが住んでいる全ての街が海に面しているわけではないので、ちょっと具体的にはイメージしにくいかもしれないが、できる範囲で想像してみよう。街外れに製鉄所や石油化学コンビナートの工場群が立ち並び、船舶が接岸できる埠頭のそばにはいくつもの倉庫群がある。刑事物のドラマではたいがい悪い組織が密輸品の取引きなんかに使っていて、クライマックスシーンになると正義の刑事が乗り込んできて、派手な銃撃戦が繰り広げられるって感じ(どんなイメージや?笑)。

さらにこの図には描かれていないものの、この外側に「郊外」が広がっている。鉄道の先にいくつものニュータウンを描いて、そこでの人口増加率が高いことをイメージしよう。

では、上記のことを意識しながら、それぞれの選択肢を検討していく。

選択肢1について。A地区についての話題である。「官公庁と企業の本社」と書かれている。このような都心の中心部には、中枢管理機能が集中した「CBD(中心業務地区)」が形成されることが多い。よってこの部分は正しい。さらに読み進むと「昼間人口と夜間人口の差が小さい」とある。これはどうだろう。官公庁や企業(さらには商業施設)も多いので、当然昼間の人口流入は著しい。しかし都心部は地価が高いので、夜間人口はむしろ減少傾向にある。昼間人口は極めて多いが、夜間人口は少ないので、「差が小さい」とは考えられない。「差が大きい」と改めよう。この部分が誤りなので、文全体も誤文。

選択肢2について。B地区についての話題である。「中小工場」という言葉がある。決して大規模な工場地域ではないことに注意してほしい。古い時代から家族で経営しているような小さな部品工場や自動車の修理を請け負う整備工場などはみられて当然と思われるがどうだろう。

さらに「問屋」とある。問屋とはいわゆる卸売業者のことであるが、卸売業は大都市に集中するものであるため、このような都心部付近に問屋が多いことはおかしいことではない。そして問屋は、工場などから大量の商品を仕入れて来て、それを1つ1つの小売店へと運ぶ役割を持っているのだが、その商品を置いておくためのスペースも当然必要となってくる。駅前ターミナルのようなとくに地価の高いところを避けて、その周辺のやや地価の低いところに問屋やその商品倉庫などが立地するのは間違いないと思う。

続けて「住民の高齢化がすすんでいる」とある。住民の高齢化が進むのは、人口流出地区である。わが国においては、過疎化が進む農村と、ドーナツ化現象によって人口が減少する都心部付近において、老年人口割合が高くなる傾向が強い。Bの地区はもちろん「農村」ではないが、「都心部」と解釈することは可能だろう。古い時代からの住民が多く、街並も古いB地区は、A地区ほどに地価が高くはないものの、周辺地区(C地区や、本図の外側に広がっていると思われる「郊外」)に比べれば、若い世代の流入は少なく、「高齢化」が進んでいるとみて問題ないだろう。おそらく正文であると思われる。

選択肢3について。まず「スプロール現象」についてその意味をとらえよう。「郊外における無秩序な乱開発。農地の中に住宅地や工場が虫食い状に混在することによって、さまざまな問題を生じる。ただし近年は、計画的な都市開発を押し進める様々な法制の強化によって、この被害は軽減されつつある」というのがスプロール現象について君たちが知っておくべきこと。

これをふまえて文章を検討してみる。まず気になるのが「都市計画にもとづくスプロール現象」という言い方。スプロール現象は無秩序なものであるので、そもそも計画的になされるものではない。むしろ逆に、計画的な開発によって防がれるものがスプロール現象である。「法律に従う無法者」みたいな言い方だよね。これはおかしい。

さらに「鉄道に沿って連続的に商業施設が立地」というのもどうかと思う。スプロール現象の定義の中に「鉄道」も「商業施設」も含まれない。全く関係ないんじゃないか。

さらにダメ押しをするならば、「郊外」である。スプロール現象の絶対的なキーワードは「郊外」なのだ(これは知っておいた方がいいよ。このネタを使って作られる問題は多い)。Cの地区は「郊外」なのだろうか。

上でも説明しているように、図2で描かれたAからCまでの3重円の部分は、都市圏における「都心部」を示しており、「郊外」はこの外側に当たる。都心部であるC地区において、本来郊外でこそ生じるスプロール現象が発生するものだろうか。もちろん、否である。

選択肢4について。都市圏において地価が高いのは、都心部の中央部である(図2においてはA地区)。都心中央部から離れれば離れるほど、地価は次第に低くなっていく。このことを考えれば、D地区の地価は「高い」ということは適切だろうか。それにここには「大規模な工場や倉庫群」などが立地しているとある。それらの施設は、収益に対し、敷地面積を広く必要とするものであり、「地価が高い」ところにはそもそも立地しえない。よってこの選択肢も誤り。

以上より、選択肢1・3・4がいずれも誤りを含んでいるため、選択肢2が正解となる。

なお、選択肢4については、センター試験において「工場は地価の高いところには立地しない」というセオリーが登場することと関連づけて考えてほしい。

[学習対策] 本当におもしろい問題なんだよね、何度も言って悪いけどさ(笑)。解法もバッチリ書いたし、関連問題もたくさん挙げておいたんで、これらをしっかり読み込んで、都市圏に対する考え方を確実に君たち自身のものにしてください。僕は個人的には、この都市圏に関する話が地理という科目の中で最もおもしろいと思う。そしてそのおもしろさをぜひ君たちにも感じてほしいと思っている。それだけの価値があるジャンルだよ。

2008年度地理B本試験[第3問]問5

 

[講評] いわゆる「見るだけ」問題なのだが、このグラフ自体もセンター試験でしばしば登場してきたもの。オーソドックスなツボを押さえた良問ですね。

[解法] それぞれの選択肢を検討しよう。

1;こういった「見るだけ」問題でいきなり1が正解ってことは少ないんだよね。どうせこれも正文でしょう。あ、たしかにその通り。「1960~1970」の実線の動きを追ったらいい。

2;1960年代後半から1990年代前半にかけてとは広い時期やなぁ(笑)。まぁ、たしかに減少傾向にあるとは思う。

3;ん、どうなのかな。ピークは「1970」年だよね。1980年代の方が小さいと思う。誤りであり、よってこれが正解。

4;すでに3が正解なので、これは読む必要もないかな。一応確かめますが、点線はおおよそ「40万人」、実線はおおよそ「20万人」。確かに約2倍になってますね。

[学習対策] 問題そのものは「見るだけ」で解ける簡単なものなんだけれど、グラフから読み取れる日本全体の人口流動の様子が非常におもしろいので、じっくり観察してみよう。

言葉がややこしいんで、「東京大都市圏以外の国内から東京大都市圏郊外へ」をA、「東京都区部から東京大都市圏郊外へ」をB、「東京大都市圏以外の国内から東京都区部へ」をCと置いて、説明していきます。

最初に、都市圏構造について簡単にとらえよう。都市圏は2つの同心円から表される。内側の円は「都心部」を表し、官公庁や企業のオフィスが集まるなど、昼間人口の方が夜間(常住)人口より大きい。外側の円と内側の円との間の一帯が「郊外」で、新興住宅地の開発が進むなど、昼間人口の方が夜間人口より少ない。人々は郊外に住み、都心部へと通勤するのだ。本問においては、「東京都区部」という語で示されてはいるがこれはすなわち「東京大都市圏都心部」のこと。例えば、Bは東京大都市圏の内部の移動であり、AとCとを合わせると「東京大都市圏以外の国内から東京大都市圏へ」の移動全体を表すことになる。さらにAとBを合わせれば、日本全体から東京大都市圏郊外に流入する人口の合計となる。

では、まず「1960年代」の人口移動を観察してみよう。これは高度経済成長の時期であり、まさに日本中が躍動していた。60~65年はCの値が最も大きい。高度経済成長初期であり、地方の人々が東京圏にさかんにやって来るのだが、東京都区部であってもまた土地の余裕があり、その内側に住居を定める人が多かったということだ。

しかし60年代後半からこの状況は一変する。Cは急激に低下し、AやBの値が急上昇する。地方から東京大都市圏に入ってくる人は多いのだが、60年代前半のように東京都区部に住める人は少なく、彼らの多くは郊外に住むことになる。また東京都区部においても、郊外へと流出する人々がとくに目立つようになる。とくに70年に注目してほしいのだが、AもBもピークを迎えており、両者の合計は約100万人にも達する。これだけ多くの人々が郊外に転居したということであり、郊外型のニュータウンの建設が相次いだのであろう。東京大都市圏の郊外における人口増加率が急激に上昇した。

さらに「1970年代」に注目。上でも説明したように、70年の郊外における人口増加率は極めて高い。しかし興味深いのはそれ以降である。高度経済成長も終わりに近付き、A・B・Cの値はともに急激に低下する。日本全体の人口流動の勢いも弱まり、同時に東京大都市圏の人口増加率も落ち着きを取り戻す。

そして「1980年代以降」であるが、いずれもグラフもほぼ横ばいとなり、かつてほどの極端な人口移動はもはやみられないことが分かる。しかし、わずかずつではあるが、東京大都市圏の人口は増加傾向にあることはかわらない。

高度経済成長期において、初期は都心部での人口増加率が高かったが、やがて人口増か地域の中心は郊外へと移動していく。しかし70年代以降の低成長期になると、東京大都市圏全体への人口流入の勢いは弱まり、現在に至っている。

このような日本における人口移動のすがたを理解しよう。

2008年度地理B本試験[第3問]問6

 

[講評] サル問だよ。サルでも解ける問題っていうこと。これはできるやろ。

[解法] 解法っていうほどのもんでもないね。エアコン使ったらますます外気温は上がるでしょ。

[学習対策] 特別なものは何もナシ。誰でもできる問題だからこそ、細心の注意を払って解きましょう。