2017年地理B共通テスト試行調査解説[第2問]

<2021年共通テスト第1日程・第2問問1[7]>

 

[インプレッション]見慣れないグラフだな。ちょっと厄介な雰囲気が。。。じっくり考えながら解いてみよう。

 

[解法]問題文確認。「産業の立地と地域の人口は深く結びついている」とある。どうなんだろうね、実際そんなことがあるのかな。ちょっとよくわからない。

さらに読み進める。「都道府県の人口と産業別就業者数」を示したグラフが提示されているようだ。あれ、これ、ちょっとおもしろいよね。産業別就業者が問われる場合、「割合」が示されるのが普通であり、このように「実数」って珍しいような。この点に注意しておかないとダメだね。

産業の種類は3つ。「農林業」と「製造業」、「小売業」。農業、工業、商業なので、それぞれ第1次産業、第2次産業、第3次産業となる。経済レベル(1人当たりGNI)と対応させるならば、1人当たりGNIが低い国で第1次産業就業者割合が高く、第3次産業就業者割合が低い。1人当たりGNIが高い国で第1次産業就業者割合が低く、第3次産業就業者割合が高い。

日本国内で当てはめるならば、「1人当たりGNI」が高いのは東京都。経済活動中心であり、所得水準も高い。東京は最も人口が多い都道府県でもある。人口のグラフにおいて、最も右にある点が東京だろう。おっと、今、気づいたんだが、「人口」の目盛りは対数になっているね。東京が人口規模はダントツなんだが、意外と他の点とグラフ上の値が変わらないのは対数になっているからなのか。

東京の「就業者数」を読み取ってみよう。ウが低いね。数万人ぐらいかな。縦軸も対数表示なので、具体的な数字はわからないが、そんなものだろう。

アとイはどうかな。この2つのグラフは横に並んでいるので比較しやすい。どうだろう?ちょっとだけアの方が値が大きいんじゃないかな。対数表示であることを考えると、このわずかな違いが実が大きい。東京都におけるアの就業者数は多いけれど、イについてはさほど多くなく、東京都を上回る県も2〜3あるように読み取れる。人口規模が圧倒的に大きい東京より就業者が多いなんて、これは特殊な状況じゃないか?

「1人当たりGNI(1人当たり県民所得)が最も高い東京都において、第1次産業就業者率が低く、第3次産業就業者率が高い」というセオリーがあるのだから、アが「小売業」、イが「製造業」となるはず。⑥が正解かな。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第2問問2[8]>

 

[インプレッション]本年度最大の問題作。これ、果たして解答可能なのだろうか? テストという限られた時間の中で、これだけ「めんどくさい」問題が出題されたとして、それを冷静な気持ちで解くことができるか?もちろん問われている内容は興味深いものであるし、地理のテーマとしては適切。しかし、だからこそ例えば1時間の授業の中で学校の先生の指導のもとに深く追求していくべき内容だと思うし、テストという形で紋切り型の解答を用意していいものかどうか。このグラフをみて、授業内であれこれ討論し、その中で地理の理解を深めていくべきものだと思う。問題としては、、、僕は不適切だと思う。

 

[解法]説明しやすいように、まずグラフに目盛りを打っていこう。

 

横軸は「市場からの距離」。「市場」と示されている黒点が「8」、作物Aの直線と横軸との交点が「8」、作物Bの直線と横軸との交点が「16」。

 

縦軸は「農地面積当たり収益」。「市場」と示されている黒点が「0」、作物Aの直線と縦軸の交点が「10」。よって作物Bの直線と縦軸の交点が「5」。

 

よって、作物Aの直線と作物Bの直線の交点の座標は、横軸が「6」、縦軸が「4」。横軸をX、縦軸をYとすると、X Y座標は「6:4」で表される。

 

選択肢①から④について。これらは全て横軸つまりX座標を示すものである。

 

①はAが「0〜8」、Bが「8〜16」。

②はAが「0〜6」、Bが「6〜16」。

③はBが「0〜8」、Aが「8〜16」。

④はBが「0〜6」、Aが「6〜16」。

 

以上のように数値をはっきりさせてから問題に取り組もう。

 

まず問題文から。「農業の立地には、地域の自然条件のほか、市場からの距離が重要な要因となる」とある。これはその通りだよね。工業製品も同じだけれども、製品価格は「労働コスト+輸送コスト」で決定する。もちろんこれに原料だったり、施設の建設・維持費だったり、地価だったりが加えられるのだが、基本的には上記の2つのコストが重要。その中でもとくに本問では「輸送コスト」が問題になっている。

 

さらに問題文。「市場からの距離と農業地域の形成」とある。なるほど、市場(東京大都市圏など)からの距離によって多様な農産物がつくられている。例えば、市場の近くでは鮮度が重要となる野菜など。関東地方では野菜の生産が多い。近郊農業だね。これに対し、遠方では穀物が栽培される。米は野菜に比べれば保存しやすく、長距離の輸送に適するとも言える。また、米の場合、水田耕作のため、広大な土地を必要とする。東京近郊で広大な土地を確保して稲作を行うことは、採算が取れないね。遠方の東北地方や北海道が稲作の中心になるのは当然とも言える。

 

(土地面積と農業の関係については、農産物の価格を考えるといい。野菜はビニルハウスなど用いて栽培すれば狭い土地からでも多くの野菜が収穫でき、さらにその野菜そのものが単価が高い。収益性が高いわけだ。一方で、米の場合、水田のために広大な土地が必要であり、さらに米自体の値段が安い。地価の高いところでは成立しない)

 

「条件」に注目しよう。

 

「市場が一つだけ存在する」。なるほど、東京大都市圏を中心とした日本全体を考えてみよう。日本各地でつくられた農産物が、東京へと集まってくる様子を想像する。

「自然条件はどこも同じで、生産にかかる費用は一定である」。日本各地でいろいろな気候がみられるが、北海道であっても野菜や米の生産は可能であるし(というか、米についてはむしろ日本の米作の中心地の一つ)、日本国中で「ほぼ同じ」とみても問題ないかと思う。北海道から九州にかけて、米や野菜が生産されている様子を思い浮かべよう。

「作物を市場へ運ぶ輸送費は距離に比例する」。なるほど、例えばトラックで輸送することをイメージしてみようか。これも日本各地で行われている農作物の輸送方法であり、問題ないだろう。

「農地面積当たり収益は、作物の販売価格から生産にかかる費用と輸送費を引いて求める」。これはちょっとわかりにくい。「農地面積当たり収益」は、例えば野菜は高く、米は安いと思うのだが。狭い土地で集約的に栽培される野菜は、面積当たりの収穫物の値段は高い。米は広い水田で栽培するのだから、面積当たりの収益は低い。とりあえず野菜について考えてみようか。野菜の販売価格を1000円としてみる。野菜の生産にかかるコスト(労働力など)を500円とし、市場までの輸送コストを300円とする。そなると「農地面積当たり収益」は「1000―500―300」で200円になるね。二つ目の条件で「生産にかかる費用は一定である」と仮定されているので、ここでの「500円」は固定。そうなると、「農地面積当たり収益」を決定するものは「輸送コスト」のみとなる。輸送コストを考えるならば、鮮度が重要で、しかも体積もかさばる野菜は運びにくく輸送コストは高い。一方、米は粒状であり、袋に詰めて運びやすく、かさばることもない。こちらは運びやすく、輸送コストは低いと考えられる。

 

次は説明文。「横軸に市場からの距離を、縦軸に作物別に見込める農地面積当たり収益を示した」グラフである。「作物Aは作物Bより輸送費が多くかかる」とあるので、例えば作物Aを野菜、作物Bを米と考える。作物Aの方が作物Bより「市場での販売価格は高い」ともあるが、これについてもそれぞれ野菜と米と考えていいだろう。野菜ならば、少量でも高いが、米は5キロや10キロの袋で売られており、値段は安い。

 

さらに「より収益の高い作物が選択されるならば」とあるが、これはよくわからない。誰が、どこで選ぶのだろうか。農家が、市場からの距離によって、その栽培する作物を選ぶということだろうか。そして「横軸の線上で生産される作物の分布は( カ )のようになる」で文章が締めくくられている。

 

とりあえず、ここからは具体的に図と選択肢を対応させて考えていこう。

 

図について解釈する。市場からの距離が「0」の地点においては、作物Aが「10」、作物Bが「5」。東京の都心に農地を作ってこれらの作物を栽培するならば、Aの方が儲かるということ。Aの方がそもそもの値段は高い。説明文に「市場での販売価格は高い」とある。

 

では市場から「2」ほど遠ざかったところの農家はどうだろうか。縦軸の目盛りは作物Aは「8」、作物Bは「4」。東京大都市圏で考えれば埼玉県ぐらいかな。東京の都心部からはさほど距離はなく、輸送コストはあまり考えなくていい。作物Aを作った方が利益(単位面積当たり収益)は大きい。

 

では逆に遠方に離れてみよう。「12」の距離で作った場合、作物Bは「0」となり、作物Aは圏外。さすがにここで農業をしても輸送コストが大きすぎて利益は出ない。ではちょっと近づいて、「10」ではどうか。作物Bなら「1」であり、作物Aはまだ圏外。広い土地が得られるなどの条件があれば、この地で作物Bを作ることは可能ではある。それに対しAは不可能。例えば北海道で米と野菜(とくに鮮度が重要な葉野菜。レタスなど)を作ることを考える。米ならば収穫して袋に詰め輸送する。時間はかかってもいいし、保存しやすいので、痛むことを気にせず輸送できる。その一方でレタスやキャベツならばすぐに傷んでしまうし、北海道からは輸送できない。北海道でこうした鮮度が重要な葉野菜が栽培されないのは、こういった鮮度や輸送の問題が大きい(反対に、ニンジンやジャガイモなど鮮度が落ちにくいね野菜については北海道が主生産地になっているね。こちらは保存が用意で輸送しやすい)。

 

さらに近づいて「8」まで来る。作物Bは「2」であり、作物Aは「0」。ようやく圏外からは脱したが、まだ利益は出ていない。そして「6」。今度は作物Aの直線と作物Bの直線が交わり、縦軸の値はともに「3」となる。この地点ならば、米を作っても野菜を作っても同じだけの利益が出るっていうことだね。高い野菜を作って高い輸送コストで運ぶ。安い米をつくって安い輸送コストで運ぶ。この採算が合致するということ。

 

ここからもう一歩市場に近づき、「4」地点ならどうだろうか。縦軸の目盛りは作物Aが「7」、作物Bは「4」。関東地方の北部といったところだろうか。東京大都市圏までは近く、この地点ならば野菜をつくって市場に持って行った方がいい。距離が近い分だけ輸送コストの負担は小さい。逆に、米をつくったところで、大きな利益は上げられない。

 

どうだろうか? このようなグラフの読解で正しいと思う。丁寧に図を読み取っていかないといけないが、要するに「近郊農業」は市場の近くで野菜をつくる農業であるし、一歩いうで遠方ならば米を大規模に栽培する農業がみられるということ。これは農業のセオリーとしては当たり前だよね。そして、その「分岐点」がどこにあるかといえば、それはAとBとが交わるところであり、「市場からの距離」は「6」である。これより市場に近いところで栽培するならば作物Aの方がより収益性は高く、遠いところならば作物Bの方が収益性は高い。②が正解となる。

 

正直なところ、僕はこの問題は好きではありません。テストの中で「ワン・オブ・ゼム」として取り上げるべき内容ではないと思う。学校の授業で、1時間じっくり使って、みんなで討論して、掘り下げるべき内容だと思う。軽々しく試験の1問として片付けてしまっていいのだろうか。「テストにふさわしいテーマ」と「授業で扱うべきテーマ」が地理の学習において存在するならば、本問は間違いなく後者である。

 

最悪、これは捨て問にしてしまっていい。60分で30問ならば、1問あたり2分の猶予がある。本問に取り組み、30秒ほど問題を読んで意味がわからなければ飛ばして、他の問題に進んだ方がいい。テストの限定された時間の中で解くのは困難な問題だと思う。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第2問問3[9]>

 

[インプレッション]なんだか図1と似たような図だね。さらに問題内容も農産物の収益や市場(東京)からの距離という点において、問2と重なっている。問題同士が補い合って、ヒントとなっているのだろうか。よくわからないが。

おっと、ここで図4があることに気づいた。こちらは東日本の階級区分図。こちらから考えるのが楽そう。

 

[解法]図4から見ていこう。東日本の階級区分図になっているね。階級区分図は「割合」を示すものだが、この表で示されている「指数」は「各都県の農地面積に占める田、畑、樹園地の構成比を、それぞれ全国の構成比で割ったもの」とある。「比」を「比」で割るという特殊な指標のようだが、ここはシンプルに考えていいんじゃないかな。田は稲作であり、畑は野菜(日本では小麦など米以外の穀物は少ない)、樹園地は果樹。米の生産が多いのは新潟県であり、Dが「田」。青森県はリンゴの生産が多く、Eが「樹園地」。関東地方は近郊農業で野菜の栽培がさかんで、Fが「畑」。ここまでは簡単だね。

 

ここからは図3の解析。「農地面積当たり収益」とは「作物別農業産出額を田、畑、樹園地の面積で割った」値のこと。要するに土地生産性に類すると考えていいんじゃないかな。サ〜スのグラフの縦軸の単位も「万円/ヘクタール」となっていて、イメージしやすいね。目盛りは0〜700となっており、いずれのグラフも共通。サのみ格段に価格が低いことがわかる。これは「米」だろう。野菜や果樹に比べ、米は値段が安い。

 

残ったシとス。こちらはいずれも価格が高い。具体的に考えるのが大切だね。例えば、東京からの距離が最小である、最も左側の点(縦軸と重なっている)は東京を表しているのだろう。シが330、スが200。これだけでもなんとなくわかるのだが、東京はそもそも農業がさかんな都道府県ではないし、あえてこれは無視しようか。その右から3つまとめて、これが埼玉県、千葉県、神奈川県のいずれかに該当する。2つの県は「シ>ス」だが、一つだけスが飛び抜けて高く「シ<ス」になっている。これ、なんだろう???

 

100付近に3つまとめて点がある。これは北関東の3県かな。数値的に大きな特徴はない。

 

右寄りの7つが東北地方6県と新潟県。どうかな?全体的にスの値が高い。とくに一つ際立ってスの値が高いものがあるね。最も右側の点が青森県を表していると思うのだが、シは270、スは350。スの方が高い。これをどう捉えるか。青森県は野菜も生産も多いだろうが、やはりこの県の農業を特徴づけるものはリンゴであり、果樹栽培だね。図4でも青森県をカギとして判定できた。青森県でこそ「野菜<果樹」となると考えられ、シを野菜、スを果樹と判定する。シとFの組み合わせで⑥が正解になる。

 

なるほど、関東地方においては基本的に「野菜>果樹」となっているね。鮮度が重要な野菜(とくに葉物野菜)は、大消費地である東京の近くで生産するということ。近郊農業だね。逆に、東北地方では「野菜<果樹」。果樹の方が保存しやすく、輸送が簡単。東京からの距離の遠さはハンデにならない(これは米も同様。米も保存しやすい)。前述の青森のリンゴ、福島のモモ、山形県のサクランボなど特定の果樹の生産が名高い県も多い。スで一つだけ値が飛び抜けた点があるが、これは山形県なんじゃないかな。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第2問問4[10]>

 

[インプレッション]またしても距離がテーマとなった産業立地の問題。こちらは問3までとは異なり工業ジャンルだが、あまり変わらないよね。似たような問題を連発するのはどうなんだろう?この傾向は次年度以降は改善されると思うけどな。

 

[解法]問題文をしっかり読もう。「市場からの距離の近さが立地に強く影響」とある。市場すなわち、その地域で売るってことだよね。輸送するわけではない。作って、その場ですぐに売る。東京という巨大な市場において、書籍を作って売る。出版・印刷業が東京に集中する理由としては、このような輸送コストが主ではないが、「生産地」と「市場」が近接していることは間違いない。④が正解。

 

他の選択肢も検討。まず①から。シアトルは沿岸を暖流が流れ、大気中の水蒸気量が豊富であるため、降水量が多い。アメリカ合衆国の太平洋岸な地中海性気候がみられる地域であり、地中海性気候は一般に年間の降水量は少ない(そのため、ブドウが栽培され、果汁が飲用とされるのだ)のだが、北部のシアトルは例外。地球上で唯一の「降水量が多い地中海性気候」である。地中海性気候では植生は夏の乾燥に強い硬葉樹(オリーブなど)になるのだが、シアトル付近は落葉広葉樹や針葉樹などの混合林となっており、森林資源に恵まれる。豊富な降水に加え、傾斜が多い地形でもあり(周囲は新期造山帯)水力発電がさかん。水力による安定した安価な電力はアルミニウム精錬に利用され、アルミニウムを材料とした航空機工業がこの地域に誘因された。

ただし、航空機はシアトルの「市場」で「消費」されるものではない。シアトルはさほど人口が多い街でもなく、市場は小さい。ここで製造された航空機は、世界の至る国々へと輸出され、重要な交通手段を担っている。

フィレンツェという地名より、イタリアという国名だけに注目すればいいね。イタリアと言えばなんと言っても高級衣類の生産地。「付加価値の高い」というのは要するに「価格が高い」と解釈すればいいので、「高級」衣類のこと。世界のファッションの中心地ミラノだけでなく、北東部のサードイタリーでは伝統的な技術をいかした「一点もの」の比較製品や品質の高い衣服がつくられている。でも、イタリア人のみがイタリアの服を着るわけではないよね。これらの衣服は世界中の人々が購入して着る。イタリア国内のみが市場となるわけでなく、むしろ市場は世界全体である。

インドのバンガロールにはコールセンターが置かれているが、これはアメリカ合衆国の企業によるもの。本国が夜の間に、時差が約12時間であるインドのオペレーターが電話対応をするのだ。「市場」はアメリカ合衆国であり、「距離」はむしろ遠いよね。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第2問問5[11]>

 

[インプレッション]1人当たりGNIが直接出題されているね。地理においては1人当たりGNIと1人当たりGDPは同じものと考えよう。この2カ国の1人当たりGNIの判定は簡単なんじゃないかな。

さらに貿易品目が問われている。これもさほど難しいものではないと思うよ。「先進国=農業、発展途上国=工業」とスムーズに考えられるかどうか。

 

[解法]3か国の貿易を中心とした経済状況が問われている。国名ではなく、表1のJL、表2のタ〜ツという記号の組み合わせを答える問題。

 

まず表1から見ていこう。1人当たりGDPは1人当たりGNIと同じ。具体的な数字を覚えておくといいが、本問ではそこまで厳密な数値の知識は必要とされない。おおざっぱに「先進国」と「発展途上国」のイメージさえつくることができれば十分。

 

まずカナダ。先進国であり、1人当たりGNIは高い。およそ5万ドルほどで、日本を超える高さ。

 

さらにシンガポール。この国についてはあまり先進国という区分のされ方はしないが、もちろん発展途上国ではない。1980年台にはNIEs(新興工業経済地域)の一つとされた。1人当たりGNIは高く、4万ドルに達し、やはり日本より高い。カナダ(人口4000万人)、シンガポール(500万人)ともに人口が多くないことも1人当たりGNIが高くなる一つの要因。

 

両国の輸出依存度はどうだろうか。輸出依存度とは「輸出額をGDPで割った値」である。GDPはGNIと同じ。輸出依存度はGNIに反比例する数値であることがわかるね。「輸出依存度=輸出額÷GNI」。

 

そしてGNIは1人当たりGNIと人口の積である。「GNI=1人当たりGNI×人口」。上でも述べたようにカナダもシンガポールも人口大国ではない。ただし、それでも両国にはそれなりの差はある。カナダが4000万人、シンガポールが500万人。カナダとシンガポールの1人当たりGNIを同じ値と考えると、GNIはカナダの方が8倍大きいということになる。

 

どうだろうか?輸出依存度が高くなる可能性がある国はどちらだろうか。GNIは国内の市場の規模である。カナダはそれなりに国内の経済規模が大きく、内需(国内での消費)もそれに対応して大きなものとなるはず。一方、シンガポールは国内市場が小さく、内需も小さい。輸出に回す分が多くなると思っておかしくないんじゃないかな。

 

輸出依存度については、シンガポールがカナダより大きくなると考え、Lがシンガポール、Kがカナダと考えてみよう。

 

残ったJはベトナム。発展途上国であり、1人当たりGNIは低い。

 

ここからはタ〜ツの判定。「先進国は工業、発展途上国は農業」という間違った決めつけをしていると足を掬(すく)われてしまう。これ、決定的なミスとなるので気をつけてね。基本的に「先進国は農業、発展途上国は工業」という考え方を優先させてしまっていいと思う。もちろん例外はあるけれどまずはこのセオリーを元にして問題を解いた方が的確なアプローチだと思う。

 

タ〜ツのうち、2つが工業製品、1つが一次産品(鉱産資源と農畜産物)。真っ先に考えて欲しいのは「1人当たりGNI=賃金水準」であるということ。ベトナムは1人当たりGNIが極めて低いわけだが、だからこそ安価な労働力が得られ、高い国際競争力を有している(「国際競争力が高い」というのは要するに「安い」ってこと。安ければみんなその商品を買うし、「競争」に勝つよね)。

 

低価格の衣類ならば、ベトナムのような安い労働力が得られる国で生産しないと採算が取れない。日本がベトナムから主に輸入しているものは労働集約型の工業製品であり、とくに価格の安いもの。これ、間違いなく「衣類」だよね。チがベトナムであり、これがJに該当。

 

ここでカナダについて考えてみようか。カナダは1人当たりGNIが日本より高い先進国。ただ、「先進国=工業」ではないのはみんなも認識してくれたよね。オーストラリアのように工業(製造業)は全く発達していないが、1人当たりGNIは高い先進国であり、農産物や鉱産資源の輸出に特化した国もある。カナダはオーストラリアほどではないけれど、やはり「非工業国」とみていいと思う。トロントを中心に自動車工業は発達しているが(アメリカ合衆国から自動車工場が進出)、しかしそこで組み立てられた自動車はアメリカ合衆国へと輸出されている。日本への輸出品目としては、やはり鉱産資源や農産物など一次産品と考えるべきだろう。小麦や肉類、木材、そして石炭など。ツがカナダでKになる。

 

残ったタがシンガポールでLに該当。正解は④。シンガポールこそ「非工業国」の典型で、この国は中継貿易が発達した商業国である。さまざまな品目を輸入し、港湾や倉庫の使用量や手数料でお金を稼ぎ、そしてそのまま商品は輸出されている。マラッカ海峡の要衝に位置し、世界の物流の中心地の一つとなっている。タには「機械類(集積回路など)や医薬品」とある。これらはシンガポール特有の工業製品ではないだろうが、世界中からこうした付加価値の高い商品が集められ、シンガポールの港から積み出されているのだ。

 

かなりいい問題でしたね。この問題がスムーズに解ければ、君の「地理力」はかなり高いと思うよ。

 

(注)尤も、1人当たりGNIの数字のみ考えれば、この値が高い国が全て「先進国」というわけでもない。第4問問3で取り上げられているように、西アジアの産油国でこそ、1人当たりGNIが極めて高い国が存在する。原則として「1人当たりGNIが高い=先進国」と捉えていいが、その内容についてはそれぞれの国の状況も考慮してほしい。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第2問問6[12]>

 

[インプレッション]これ、難しい。っていうか、悪問だと思うよ。Covid-19の世界で、もはや国際観光は存在しない。もちろん年次は2017年であって、まだまだ海外旅行がさかんだった時代のデータではあるんだが、これからまだどれぐらいコロナ禍が続くかわからない世相の中で、こういった海外旅行ネタを突っ込んでくるのは、流石に無神経なんじゃないかと思う。問題内容そのものも難しいので、捨て問の部類だと思う。今回は、通常なら平易なはずの第2問に厄介な問題が多かった。これは「新傾向」なのだろうか。今回だけの例外的な事象として切り捨ててしまっていいのか。それとも第2問の難化が今後のスタンダードになるのだろうか。

 

[解法]「観光」も「人口移動」の一つだよね。人口移動の大原則は「1人当たりGNIの低いところから高いところへ」。観光にこのセオリーを当てはめると、以下のようになる。

 

・日本人が主に訪れるのは、アメリカ合衆国である。

・日本を訪れるのが多いのは、韓国人と中国人である。

 

どうだろうか?人の流れとして、あくまで「1人当たりGNIが低いところから高いところへ」というセオリーに則って、人の移動の方向が決まっているのがわかるだろうか。日本人が海外旅行先として訪れるのは、高所得国のアメリカ合衆国である。実際には本土のみでなく、ハワイやグアムが多いわけだが、それでも数字上はアメリカ合衆国を訪問する人が最も多いのである。

 

その逆で、日本にやってくる人の出身国は経済レベルの低い国々である。中国や韓国など、日本より1人当たりGNIが低い国々からの観光客が多い。どう?このセオリー、納得でしょ?

 

このことを頭に入れて、図5を参照してみよう。マ〜ムはそれぞれどこの国だろうか。

 

図を読み取る際に最も重要なのは単位であり、具体的な数値。「訪日観光客数」にはかなりのバラツキがある。マとムは極めて大きいが、ミは少ない。さらに「1人当たり旅行消費額」。これ、実はビックリなんだよね。みんなもじっくり数字(というか金額)を読み取ってみよう。ちょっと驚くというか、あり得ない数字がそこにないかな?

 

ムに注目しよう。金額を読み取ると、、、7万円だって!? 海外旅行で7万円って極端に少なくないか?往復の渡航費(自分の国から日本までの航空運賃)は別かもしれないけれど、海外旅行としてはこれは極めて少ない。さすがに日帰りということはないだろうけれど、せいぜい2〜3泊なんじゃないか。PとQのいずれかが「宿泊費」なのだが、ムの場合、PとQの値は近く、それぞれ2万円程度。これ、ちょっといい観光地だったら1泊分だよね。短期型の海外旅行ということ。

 

これを考えると、日本から距離の近い韓国がムに該当するんじゃないかって思う。韓国から九州の温泉地(別府など)に飛行機でやってきて、1泊か2泊して、すぐに帰ってしまう。こんなお手軽な海外旅行が成立してしまうのは、やっぱり距離の近さゆえだよね。韓国には火山がないので(朝鮮半島は安定陸塊なのだ)日本の温泉地は旅行先として大人気なんだそうだ。ムを韓国としよう。人数が多いことにも納得。人口移動のベクトルである「1人当たりGNIの低い国(韓国)から高い国(日本)への移動」にも適合している。交通費が数千円というのも、日本国内の観光地をあれこれ巡るわけではないということ。ピンポイントで温泉地を訪れ、数日の滞在を楽しむ観光パターンなんだと思う。

 

さて、マとミはどうだろう?中国人の観光客といえば「爆買い」という言葉が君たちの頭に思い浮かんだのではないかな。中国の富裕層が団体で日本を訪れ、家電量販店やドラッグストアなどで「爆発的」なほど大量の買い物をする。むしろ観光ではなく、買い物自体が旅行の目的であるかのように。

 

このことを考えると、不自然なほど高い割合を示すマのPこそ、「中国」人の「買い物」の消費であるとみていいんじゃないか。1人当たり旅行消費額の総額23万円のうち、何分以上の12万円がPに使われている。ミやムと比べてみて、この圧倒的な偏りは何か特別なものであるに違いない。マを中国、Pを買い物と考える。アメリカ合衆国はミとなり、正解は③となる。

 

というように、解答してみましたが。。。

 

実は本問については、僕は問題として成立していないんじゃないかって思うわけだ。その理由は法律の改正にある。

 

例えばみんなは、1人当たりGNIの低い中国人が、なぜあんなに日本で莫大なお金を使えるのか、疑問に思ったことないかな?実はこれにはカラクリがあって、そもそも日本に旅行できる中国人は富裕層に限られていたのだ。日中間の条約によって、日本へと渡航できる中国人には高い所得制限が課せられていた。ある程度の所得がないと、日本にやってくることはできない。もちろん「ある程度」どころか、この所得制限は極めて高いレベルに設定されていた。超大富豪しか日本にやってくることはできなかったのだ。しかし、中国はそもそも14億人という巨大な人口を持つ国。超大富豪だけに入国を絞っても、図5にあるように年間に700万人を超える人々が日本にやってきていた(それでも、人口5000万人で中国の30分の1の人口しかいない韓国と同じぐらいの人数と考えると、やはり限定されているよね)。本問が取り上げている2017年はこういった状況だったのだ。

 

しかし、この2017年に法律が改正されることになる。この所得制限が一気に緩和され、それまでは歯牙にもかけられなかった中レベルの所得者層、いわゆる「中間層」にも一気に門戸が解放されるようになった。それまでは大金持ちがリッチなホテルに泊まり、爆買いに勤しんでいたという中国人の旅行スタイルが一変し、むしろ民泊などを利用したリーズナブルな旅行を楽しむ中国人が増加した。もちろん爆買いも収束し、それまでは見ることもなかった中国人バックパッカーも多く日本を訪れた。

 

うちの近所にも外国人相手の簡易宿泊所や民泊があるのだが、たしかに2018年以降は多くの中国人をみかけるようになりましたね。実は僕はなぜかやたらと人から道を尋ねられる人なんですが(笑)駅で中国人によく話しかけられ、宿まで道案内をよくしていたmのです。

 

だから、中国人の日本への観光において「爆買い」が叫ばれたのはすでに過去の話になっている。2017年以前と以後では全く違う。さらに言えばコロナ禍で海外旅行が実質不可能になっているのだから、それからさらに状況は変わった。こういった時代の変化を反映せずに、「過去の観光行動」をテーマとしてつくられた本問については、果たして2021年の共通テストの問題として妥当なものなのかどうか。僕はそうは考えないのだ。問題そのものの難易度の高さも合わせ、不適切な問題だったと思います。

 

(追記)

というわけで何とか解いてみたが、みんなは納得してくれたかな。「解法」ではスムーズに解けた感じになっているけれど、実はこれ、めちゃめちゃ悩みました。上記のように、中国からの観光客については所得制限が緩和されたことを知っていたので、この問題もそれを反映したものとして考えてしまったわけだね。それまでの富裕層限定の入国から、中間層やそれ以下の階層の人たちもさかんに日本にやってきて、その中にはバックパッカーも多いだろうし、あまりお金は使わないんじゃないかと想像したわけだ。ムを中国と最初に考えてしまったため、ドツボにハマってしまいました。。。

 

ただ、やっぱりそうなると、マのPが全く意味がわからなくなるのだ。マをアメリカ合衆国と考えてしまい、しかしアメリカ人が「買い物代」と「宿泊費」のいずれかについて、全旅行消費額の半分程度をつぎ込むような極端なことをするだろうか???悩みに悩んだすえ、ようやくこれが「爆買い」であることに気づいたのだ。

 

そうなると、そこからは話が早く、すっきりと解答に辿り着くことができたのだが、それにしても難しい問題だったと思う。とにかく、2017年というのは法改正のギリギリのタイミングなわけで、そんな微妙なところを出題するっていうのがさすがに無理があると思う。さらに、最初にも言ったけれど、Covid-19で実質的に海外旅行が不可能になっているわけだよね。かなり「空気の読めない」問題だったと僕は思うよ。