2017年地理B共通テスト試行調査解説[第1問]

<2021年共通テスト第1日程・第1問問1[1]>

 

[インプレッション]冒頭からマキさん登場。マキさんって昔出てきたことあったかな。あったようなないような。ま、そんなことどうでもいいんですが(笑)問題内容の確認を。図には「土砂災害発生地点」が示されているけど、かなり点が多いね。ちょっと気持ち悪いぐらいに。

 

[解法]災害に関する問題と思いきや、地形断面やプレートテクトニクスに関する問題。比較的オーソドックスな印象を受ける。

アとイの判定から。最も特徴的な地形は、アの400キロぐらいにみられる深い切り込み。これ、何だと思う?高度の0が海水面だよね。この切り込みは海面下8000m程の深さに達する。そう「海溝」だね。DとEのうち、海溝がみられるのは太平洋の外周に沿う、Eの□付近。海洋プレートが大陸プレートの下に沈む混むことで海溝が形成されている。アがEに該当する。

 

地球上の地形は、陸地より海底が重要。とくに海溝の位置は必ずチェックしておこう。基本的に共通テスト地理において地図帳を用いた勉強は有効ではないが、海底地形は例外。海溝の位置は分かり易いので、全て確認しておく。日本列島付近に地球上の半分近くの海溝が集まり。北から「千島カムチャッカ海溝」、「日本海溝」、「伊豆小笠原海溝」、「マリアナ海溝」と南へと続いている。フィリピンの東岸に「フィリピン海溝」。インドネシアのスマトラ島・ジャワ島の南岸に「スンダ海溝」。これはインド洋唯一の海溝である。ニュージーランドの北に「ケルマデック海溝」、「トンガ海溝」。メキシコからチリ、ペルーの太平洋岸に「中央アメリカ海溝」、「ペルー海溝」、「チリ海溝」。ユーラシア大陸と北アメリカ大陸の間に「アリューシャン海溝」。

 

本問ではチリ海溝が問われているわけだが、ここはマグニチュード9を超える超巨大なチリ沖地震の震源ともなったところ。

 

さらにGとH。いずれのキーワードに反応してもいいが、やはりここは頻出のキーワードとして「火山」をチェックしておこう。「南アジアには火山は存在しない」というセオリー。GはDには該当しない。以上より、Dを示す図と文はイとHになり、4が正解。「海溝」と「火山」という非常に重要なキーワードが登場した問題。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第1問問2[2]>

 

[インプレッション]お、これは気圧帯の移動の問題だね。決して災害テーマではない。地理の問題はこのように「嘘つき」が多い。一見するとAというテーマに沿った問題にみえるのだが、よくよく解いてみると実はBをテーマとする問題だったのだというパターン。問題集などで単元別に問題を切り取っているものがあるが、それには十分に注意してほしい。実はこのように異なった観点から解くべき問題が多く存在しているのだ。

 

[解法]「土砂災害」については激しい降水によって生じることを考える。つまり

この図2は「災害の発生地点」というより「降水量が多い地域」を示す図として観察するべきなのだ。

 

そうなるとおもしろいのはアメリカ大陸を示した右側の図。赤道を引いてみよう。カでは点は南半球側に寄っている。ペルーなど。赤道の南側で降水量が多いということ。キでは逆に、北半球側に点が多い。コロンビアやメキシコなど。この時期は北半球側で降水量が多い。

 

これを「熱帯収束帯(赤道低圧帯)」の移動と対応させよう。まずは地球の気圧帯について復習。地球は「熱帯収束帯」、「亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)」、「寒帯前線」、「極高気圧」といった気圧帯がみられる。太陽からの受熱量が大きい赤道付近には熱帯収束帯が形成され、下降気流が生じる北緯・南緯20〜30度付近にはそれぞれ亜熱帯高圧帯、偏西風と極東風がぶつかる北緯・南緯50度付近にはそれぞれ寒帯前線、太陽からの受熱量がほとんどない両極付近にはそれぞれ極高気圧がみられる。

 

これら気圧帯は季節によって北上と南下を繰り返す。北半球側の受熱量が大きい7月は、熱帯収束帯が北半球側に形成され、それに伴い亜熱帯高圧帯なども北上する。南半球側の受熱量が大きい1月は熱帯収束帯が南半球側に形成され、それに伴い亜熱帯高圧帯なども南下する。

 

熱帯収束帯の影響下ではスコールがみられ、降水量が極めて多い。7月は北緯10度付近でとくに降水量が多くなる。1月は南緯10度付近でとくに多雨となる。気圧帯の移動による降水量の差異は、共通テストになってさらに頻出となった気候の鉄板ネタだね。

 

このことを意識して、カとクがそれぞれ何月のものか判定してみよう。ラテンアメリカがわかりやすいと思う。赤道を描き入れてみよう。南アメリカ大陸北部のエクアドルからアマゾン川河口を結んだライン。カでは南緯10度一帯のペルー付近で土砂災害が多い。キでは赤道より北川のコロンビア付近で土砂災害。「多雨=土砂災害」と当てはめ、カは南半球低緯度側に熱帯収束帯が移動する1月、キは北半球低緯度側に熱帯収束帯が移動する7月である。

 

では文章を検討していこう。まず①。カの時期について述べられている。もちろんこれは1月。「南アジアに北西から季節風が吹き寄せて」とある。ん???これ、おかしいんじゃないか?南アジアの季節風の風向は夏が「南東」風であり、冬が「北東」風。カは1月なので、北寄りの風である点は間違いないのだが、あくまで風向は北東。北西ではないよね。①がいきなり誤りじゃないか?そもそも南アジアで北西からの季節風が吹き込む時期はないのだから、図を見るまでもなく、これが間違いだったわけだね。

 

ずいぶん呆気ない問題だったが、いちおう②から④までも分析してみよう。まず②から。カ(1月)は熱帯収束帯が南半球側に移動している。正文。さらに③。キは7月。日本には「海上から吹く暖かく湿った風」が吹き込むとある。夏の東アジアの風向は「南東」季節風。南東側すなわち太平洋から水分をたっぷり含んだ空気が日本列島にもたらされる。降水量は多くなり。土砂災害も増えるのだろう。おっと、よく見たら、日本列島ではカでは全く土砂災害がないのに、キでは西日本を中心に多くの土砂災害が起こっている。「土砂災害=激しい降水」と考えれば、夏にこそ集中豪雨はあるのだから、キを夏の7月と判定することは容易だったね。

最後に④。キは7月。もちろんこの時期には熱帯収束帯はやや北上しているため、南アメリカ大陸北部のコロンビア付近から中央アメリカ、カリブ海にかけての地域は多雨となる。とくに中央アメリカからカリブ海地域ではこの時期、熱帯低気圧が生じるのは日本と同じだね。熱帯低気圧の発生には転向力(地球の自転によって生じる力。北半球は進行方向に対し右向きの力、南半球は進行後方に対し左向きの力。赤道付近では転向力は生じない)が必要。このため、赤道付近の地域では熱帯低気圧はみられないのだが、緯度10〜20度の温暖な海域においてはいくつもの熱帯低気圧が夏から秋にかけて生まれている。フィリピンから中国南部、日本列島が東アジアの熱帯低気圧である台風の襲来に見舞われ、同様に中央アジアやカリブ海地域はこの地域の熱帯低気圧であるハリケーンの被害が大きいエリアとなる。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第4問問3[3]>

 

[インプレッション]問題文が長く、図も複数使用。さらにカード形式を用いた問題ということでいかにも共通テストっぽい感じなんだが、内容的にはどうなのかな。いつもは難しい第1問ながら、問1と問2は比較的簡単だったので、この問3で急に難しくなったりして???

 

[解法]テーマは「東アジアの土砂災害」だが、直接的に扱われているのは「黄河」。黄河は外来河川の一つであり、乾燥地域を流域に含んでいる。外来河川は共通テスト/センター試験頻出ネタであり、重要だね。

 

では問題を見ていこう。カードの内容から謝っているものを選ぶ誤文判定問題。このパターンの問題は図より先に選択肢の文章を読んで、あらかじめ怪しいものをピックアップしておく。

 

選択肢1から。「人間活動」によって「土砂流出量が増加」したとある。これは何だろうね。例えば上流部で森林を伐採し裸地とすることで、土砂を支える樹木が減少する。結果として河川に流れ落ちる土砂が増加するってことはあるだろう。間違ってはいないようだ。

2について。土砂流出量が減少することで海岸侵食が生じる。この因果関係自体は間違っていない。この話題は。ダムの功罪としてしばしば取り上げられる。河川から流出する土砂が堆積することで河口の三角州が拡大し、やはり土砂が海へと流れ出ることで周辺の砂浜海岸へも十分な土砂が供給される。しかし、ダム建設などによって土砂の流出量が減ると、三角州や砂浜海岸の発達はみられず、むしろ波に削られることによって「三角州の縮小」、「砂浜海岸の後退」といった影響が生じる。選択肢2も間違ったことは言っていないようだ。

3について。「水力発電」とある。これはダム建設を伴うものだよね。選択肢2でも説明しているけれど、ダムをつくればそこで土砂の流れが遮断され、下流側への流出量は減少する。「土砂の流出を促進」するものではないよね。これが誤りなんじゃないか。

一応、4についても検討。なるほど、これは選択肢1の内容と対応しているようだ。心理伐採によって土砂の流出量が増加した時代があったとして、その対応策として「植林」は非常に有効。裸地(表面の植生が失われた状態。砂漠である)に樹木を植えれば、その根が土砂を支える。森林の水源涵養能力(水を蓄える力)によって周辺が領地となり、さらに葉や枝が腐植となり土壌を育くみ、さらに豊かな森林地帯は広がっていく。植林によって土砂の流出は抑制される。正文だね。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第1問問4[4]>

 

[インプレッション]ちょっと変わった問題。文章をしっかり読まないといけないタイプの問題だね。これまでに出題されなかった形なので、ちょっと戸惑うかな。でも落ち着いて考えれば大丈夫。共通テストの典型的な問題とも言えるね。

 

[解法]問題文をじっくり読んでみよう。「森林が密な地域」と「まばらな地域」の組み合わせを、4つの大陸から一つずつ選び出した、とある。図を参照しよう。なるほど、1は北米だが、二つの四角のうち、大陸中央部にあるものが「まばら」であり、南東側が「密」な地域だろう。2は南米。アマゾン地域が「密」であり、ブラジル高原側が「まばら」。3はアフリカ。コンゴ盆地の熱帯雨林が「密」、ケニアのサバンナが「まばら」。4はロシア。シベリア中央部が「密」で、北極海沿岸が「まばら」。

 

問題文より。「下の会話の条件に当てはまる地域」を1から4のうちから選び出せとある。では会話文を見ていこう(図より、最初に会話文をみてしまった方が良かったかも知れないね。その方が時間が節約できそう)。

 

3人のセリフを順に見ていく。

 

1)「森林が密な地域」より「森林がまばらな地域」の方が「標高が低い」。

2)「森林が密な地域」と「森林がまばらな地域」の「降水量の差は小さい」。

3)「森林が密な地域」より「森林がまばらな地域」の方が「気温が低い」。

 

こういうことだよね(サキさんの文章では、「森林がまばらな地域より密な地域の方が気温が高い」とあるけど、(3)のように書き換えてみました。同じ意味だよね)。

 

され、これに当てはまるものを探してみよう。

 

逆に「絶対違う」っていうものを探してしまった方が早いかな。まず標高。これが最も分かりやすいのは③のアフリカ。というかケニア。

 

アフリカの低緯度地域は高温多雨で熱帯雨林が広がり、極めて衛生環境が悪い。コンゴ盆地やギニア湾岸(コートジボワールやガーナ)などは伝染病が蔓延し、乳児死亡率が高く、平均寿命も短い。熱帯地域で蚊によって媒介させるマラリアが代表例だが、エボラ出血熱もこの地域で発生したもの。不衛生な環境がゆえに、ヨーロッパ人の入植も進まなかった。沿岸部に港湾都市が多いが、内陸部に達するヨーロッパ人はほとんどいなかったため、内陸側には都市がみられない。

 

一方、同じ赤道直下であってもケニアは高原に国土が広がり、気温が若干低い。こちらは熱帯雨林ではなくサバンナ(疎林と長草草原)。「常春」の気候がみられ、衛生環境が良いため伝染病の心配がない。ヨーロッパ人たちがこぞって内陸部まで入り込み、大規模なプランテーション(ケニアは茶の生産国だったね)をつくり、さらに都市を建設した。現在のケニアの首都ナイロビである。ヨーロッパ的な近代的な街並みを有する。このケニアの高原地帯を「ホワイト・ハイランド」すなわち「白人の高原」と呼ぶ。火山であるケニア山の山麓に広がる高原である。

 

③は、左側がコンゴ盆地で標高が低く、右側がケニアで標高が高い。一つ目の「森林が密な地域より森林がまばらな地域の方が標高が低い」は当てはまらない。

 

さらに言えば、これは②にも同じようなことが言えるのではないか。②では左上が「アマゾン川流域」であり、右下が「ブラジル高原」。ブラジルは「低緯度側が低地、高緯度側が高原」がはっきりした国。とくに最南部のブラジル高原南部はコーヒーの栽培地域として知られる。コーヒーは標高1000m程度の高原に適応する農産物。このことを考えれば、こちらも「密=標高低い、疎=標高高い」であり、一つ目の条件を満たさない。

 

①はどうかな。左上の「疎」は北米大陸中央部の春小麦地帯であり、平原が広がっていると思う。それに対し、右下の「密」はアパラチア山脈付近ではないかな。北米大陸の開発の歴史はヨーロッパからの植民者によるもの。アメリカインディアンが住処としていた森林地帯を奪い、樹木を伐採し農地へと転換していった。このため、アメリカ合衆国の平野にはほとんど森林はみられなくなっている。南東部のアパラチア山脈は丘陵地があるがゆえ、農地としての開発から取り残され、森林が維持されているのだろう。こちらは「密=標高い、疎=標高低い」であり、(1)の条件は満たされている。

 

次に(3)はどうだろう。気温を比較してみよう。高緯度の「疎」地域は寒冷であり、低緯度の「密」地域は温暖であると思う。たしかに「密」地域は山地であり、標高の分だけ気温は下がるだろう。しかし、ここに位置するアパラチア山脈は古期造山帯の丘陵であり、さほど標高は高くない。さほど気温が下がるとも思えない。「密=高温、疎=低温」となり、(3)の条件も満たしている。

 

ここまで1については(1)と(3)の条件をクリアしている。では(2)はどうか。アメリカ合衆国の降水量は「西で少雨、東で多雨」だったね。国土中央部の年降水量500ミリ(西経100度の経線とほぼ一致)の等値線を境として、西側が少雨で乾燥気候(ステップ気候など)、東側が多雨で湿潤気候(温帯や冷帯)となる。これをヒントとして、1の左上と右下の降水量についてはどう考えるべきか。北米大陸中央部の「疎」については年降水量500ミリ程度とみていいと思う。それに対し、東部の「密」についてはそれより降水量が多いことは確かだろう。具体的に何ミリかはわからないが、例えば日本の年降水量の平均が1500ミリであり、この「密」地域が日本と同じような温暖で湿潤な気候であるならば、それぐらいの降水があって然るべきなのだ。1の「疎」と「密」の降水量の差は決して小さくないと思う。「4つの組み合わせの中で最も差が小さい」はかなりの疑問。

 

というわけで④を検討しよう。シベリア地域である。北側の「疎」は北極海沿岸に近く、ツンドラ地域ではないか。ツンドラとは、寒冷地域にみられる荒地。一年のほとんどの期間は氷雪に覆われているのだが、短い夏の間のみ氷雪が融解する。地表面に地衣や蘚苔がみられ、一部でトナカイの遊牧が行われる程度。非居住地域である。

南側の「密」はシベリアの中央部。シベリアは冬の気温こそ極めて寒冷となるが(そのため、地下には年間を通じて融解しない氷の層がある。永久凍土)、夏の気温は高く、気温年較差が大きい。穀物栽培など農業も行われ、一帯はタイガと呼ばれる針葉樹の純林で覆われている。

 

④について(1)から(3)の条件を検討してみよう。まず(1)だが、標高についてはよくわからない。シベリアは一部に高原はみられるものの、それが④の「密」地域に当てはまるかどうかは不明。基本的には平原が広がっている。しかし、「疎」地域は海岸に近い。どうかな?こちらの方が標高が低いとみるのが自然なんじゃないかな。ほとんど平坦な地形ではあるが、沿岸部で低く、内陸部でやや高い。こう考えるのは問題ないと思う。標高は「疎」で低く、「密」で高い。(1)の条件は満たされている。

 

気温については判別は容易だろう。両者ともさほど標高に差はないので、高度による気温の逓減(低減)は考慮する必要はない。単純に緯度のみ考えればいい。高緯度の「疎」の方が低緯度の「密」より気温は低いだろう。もちろん沿岸部と内陸部で海洋性気候や大陸性気候の違いはあるだろうが、海洋性気候は「夏は涼しく冬は暖かい」わけで、大陸性気候は「夏は暑く冬は寒い」となるのだが、寒暖差が異なるだけで、年間を平均した気温については、海陸の差を考えなくていい。シンプルに緯度だけが問題となる。(3)の条件も満たす。

 

では(2)はどうだろう?降水量の関するデータがないので、想像するしかないのだが、両者とも寒冷地域でありそもそもの降水が少ないのではないだろうか。低温ならば空気が収縮し上昇気流が生じにくく雲はつくられない。大気中の水蒸気量も少ないのだから、雲ができたとしても分厚いものにはならないはず。薄い雲で降水量は微小だろう。と国シベリア高気圧の影響が強い冬の内陸部では全く降水はみられない(つまり雪が降らないということ。シベリアや北極海沿岸は雪が降らないのだ)。2地域はいずれも降水量が少なく、その差も小さいとみていいんじゃないか。(2)も妥当。どうかな、①の2つの地域の降水量差の方がおそらく大きいよね。以上より④が正解となる。

 

なお、寒冷地域は蒸発量も少ないので、降水量がいかに少なくとも乾燥気候とはなりにくい。④で示された両地地域とももちろん湿潤気候である。湿潤だからこそ森林が生育するし、そしてツンドラ地域も極端な低温であるので湿潤となる。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第1問問5[5]>

 

[インプレッション]専門的な知識が必要な高度な問題だと思う。これをスムーズに理解することができれば、君の地理能力というより、科学的な思考力は十分ということ。スペシャリストを目指そう。

 

[解法]素晴らしい問題。これは傑作なんじゃないか。難しくはあるんだが、科学的な思考力が問われており、それは決して無駄な「難しさ」ではない。

選択肢の文章から検討していこう。

 

まず選択肢1。熱帯雨林において「落ち葉などの分解が速いため」とあり、その正否が問われる。高温で湿潤である熱帯地域では微生物の活動が活発であり、有機物の分解速度はスピーディ。ここでは「早い」ではなく「速い」となっている点にも注目してね。時期が「早い=アーリィ」ではなく、スピードが「速い=ファスト」である。微生物が落ち葉を分解して「腐植」をつくる。腐植は有機養分となり植物の成長を促す。チェルノーゼムなどの黒土が肥沃なのは、この腐植が地表面に積み重なっているから(腐植の色が黒なので、黒土となるのだ)。しかし、分解のスピードが速すぎると、腐植がさらに分解されてしまい、無機物となってしまう。例えば、バナナで考えてみよう。樹木から採ったばかりの緑の状態では食べられないよね。しかし、それが次第に熟してきて皮が黄色くなるとそろそろ食べられるようになる。さらにちょっと時間が経つと、表面が黒ずんできて、中身もちょっと腐った感じになる。この瞬間が最も「おいしい」と思わない?食べ頃になるね。まさに微生物のはたらきによって腐植となった状態なのだ。農産物にとって、この「ちょっと腐った」腐植こそ、最高の栄養源となる。

しかし、そのままバナナを放置しておいて、完全に腐ってしまい、皮がペラペラになって中身もスカスカ。これが分解が過剰に行われ、有機物が無機物へと変質してしまった状態。熱帯地域は微生物の活動が過剰に活発であるため、「ちょうどいい」腐植の状態である時間が短く、すぐに無機物へと分解されてしまうのだ。熱帯の土壌が肥沃ではない(腐植に乏しい)のはこれが原因。

逆に言えば、適度に温暖で、適度に降水量がある気候環境ならば、微生物の活動も「適切」なことになり、腐植が長い間キープされるよね。これが黒土であり、半乾燥の気候(つまりちょうどいい気候)において形成されるわけだ。チェルノーゼムやプレーリー土。

以上より、この選択肢が正文だと思う。正解は1。

 

さらに選択肢2。温帯林において「近年の人為的な開発の影響を強く受けている」とある。開発は温帯地域に限らないし、さらに「近年」になって急に開発が始められたわけでもない。人々の生産活動・経済活動が活発な温帯地域(東アジアやヨーロッパ、北米)では比較的早い段階森林が伐採され、農地や都市地域に改変されていった。おそらくこれは誤りとみていいんじゃないか。

 

そして選択肢3。亜寒帯というのは冷帯のこと(最近は亜寒帯という言い方の方がメジャーなようだ)。北海道のような地域において、「降水量が少ないことによって成長が制限」されているような状況があるかということ。地球上の森林には熱帯林、温帯林、亜寒帯林(冷帯林)がある。いずれも湿潤な気候環境であり、湿潤気候においてこそ森林が生育できるのだということがわかるね。一方で、乾燥帯や寒帯には森林はみられない。寒帯に森林がないのは当たり前だね。寒帯というのは極付近の氷雪地域のこと。さすがに低温すぎて森林どころは植物も生育できない。一方で、乾燥気候はどうだろうか。「乾燥」は「湿潤」と反対の概念。乾燥は「降水量<蒸発量」、湿潤は「降水量>蒸発量」。「降水量が少ない」または「蒸発量が多い」ことによって乾燥の状態となり、樹木が生育できない(なお、乾燥の度合いが高いところが「砂漠」となり植生がみられない。やや乾燥の度合いが低いところは「草原(ステップ)」となり、短草草原が一面に広がる。いわゆる半乾燥気候であり、土壌は肥沃な黒土。企業的穀物農業地帯となり、大規模な小麦農業が行われている。

 

さて、こういった乾燥の定義を考えると、この選択肢3の下線部の文章の正誤がわかりやすいと思う。乾燥地域が乾燥する理由は「降水量が少ない」あるいは「蒸発量が多い」。では湿潤地域が湿潤である理由はどうだろう?「降水量が多い」、そして「蒸発量が少ない」だろう。

 

熱帯地域ならば高温であるため間違いなく「蒸発量が多い」よね。それでも熱帯が湿潤となる理由は何だろう?そう、「降水量が多い」からだよね。

 

では冷帯地域はどう考える?こちらは何より「蒸発量が少ない」ことが湿潤であることの最大の理由になるんじゃないか。そもそも低温であるため、大気中の水蒸気量は少なく(飽和水蒸気量の値が低い)、また上昇気流の作用も弱い。降水量は決して多くない。むしろ「降水量は少ない」と考えていいと思う。それなのに湿潤になる理由は何かといえば、それは間違いなく、それ以上に「蒸発量が少ない」からなのだ。

 

このことから下線部の判定をする。亜寒帯の植物の成長が制限されている理由として「降水量が少ない」は正しいのだろうか。いや、降水量が少なくとも、それ以上に蒸発量が少ないのだから、十分に湿潤な気候は保たれ、このことは植物の成長を阻害するものではない。

 

そもそも亜寒帯において植物が成長しない理由って何だ?それは間違いなく「気温が低い」からじゃないか。気候要素の主なものとして「気温」と「降水量」がある。この両者が揃ってこそ。動物も植物も生活を営めるわけだ。ただし、冷帯地域においては気温があまりにも低いことから、熱帯や温帯ほど生物の生育環境としては理想的な状態とは言いにくい。下線部については「気温が低いことによって」と書きあらためてみよう。3も誤り。

 

4も確認。これは選択肢1の内容が理解できていれば判別が容易だったと思う。「緯度の低い地域の森林」は、赤道周辺の熱帯林。微生物の活動が活発であり、有機物の分解速度は速い。「有機物を含む土壌層」は厚くないね。誤り。

「有機物=腐植」を含む土壌層が厚いのは半乾燥土壌である黒土。チェルノーゼムやプレーリー土。緯度は40〜50度ほど。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第1問問6[6]>

 

[インプレッション]カナダの森林火災とはなかなかレアなネタじゃないか。ここからどういった問題が作られているのだろう。おもしろそうだね。

 

[解法]図と写真が与えられ、会話文も長い。焦らずにじっくり取り組まないといけない。まずPの判定。「森林火災の発生や拡大」に影響する要素は何だろう。選択肢は「雨が降っていない日数の多さ」、「風が弱い日数の多さ」。さて、どちらだ?

問題文より、森林火災の主な要因として「気温の高さ」が挙げられている。なぜ、気温が高いと火災が発生するのだろう。

 

「気温が高い=蒸発量が多い」だよね。つまり地域全体の水分が失われ、乾いた状態になる。だからこそ火災が発生しやすい状況となるわけだ。この「空気の乾き」をキーワードにして問題を解いてみたらいいと思うよ。

 

そう、空気が乾く条件としては。「気温が高い=蒸発量が多い」もあるけれど、「雨が降らない日の多さ=降水量の少なさ」があるよね。地域内に十分に水分が与えられないのだから、空気中の水蒸気量は少ない。絶対湿度が低いわけだ。空気が乾いている。この状態でこそ火災は発生しやすいと考え、Pはサが該当する。

 

Qは簡単に考えてしまっていいんじゃないかな。「焼畑」とあるが、焼畑農業はホイットルセー農牧業区分の一つ。熱帯雨林地域において樹木や草地を焼き、その灰を肥料として行う農業形態。「熱帯雨林」地域限定と考えるべきで、カナダは該当しない。チは誤りなので、タが該当すると観ていいだろう。組み合わせはPがサ、Qがタで①が正解。

 

「乾燥;降水量<蒸発量」、「湿潤;降水量>蒸発量」という数値を用いた言葉の定義が常に意識できているかどうか。そういった統計的センスが問われる問題だったと思います。