2021年地理B共通テスト第2日程[第5問]解説

<2021年共通テスト第1日程・第5問問1[25]>

 

[インプレッション]地域調査の舞台は福岡市だね。福岡県は以前、石灰岩の採掘によって大きく削られた山(香春山)や、有明海の干拓地などが取り上げられた地域調査があったが、それから15年ぶりぐらいの登場かな。まずは写真判定問題。ちょっと見にくい感じだけど大丈夫かな???

 

[解法]福岡市の上空から見た写真を用いた問題。これまでは地形図と写真を組み合わせ得た問題が主流だったが、今回はいずれも写真が用いられる。とはいえ、解き方に違いがあるわけではないね。

図1から見ていこう。自分が矢印に沿って実際にその光景を見ていることを想像する。一番わかりやすいのはCじゃないかな。明らかに一つだけ矢印が海の方向を向いている。奥に向かって海が開かれているイが該当すると思う。なるほど、沖合に島も見えるようだ。

残ったアとウもさほど判定は難しくないだろう。ウについては中央に河川が流れているようだが、それ以外にほとんど水域はみられない。それに対し、アでは手前に大きな水域がある。Aの地点に立って矢印の方向に覗き込むと、左側(図1ならば、上の方と言った方がいいかな)に楕円形の水域があるよね。Aをアと考える。Bについては一部に河川がみられるが、ほぼ全体が完全な陸地。ウに該当。正解は②だね。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第5問問2[26]>

 

[インプレッション]GISというのが今ドキの問題っぽいけど、問うている内容はオーソドックスなんじゃないかな。「都市圏」はセンター時代から必須ワードとしてテストには多く登場していた。問題文が長く、図も複数与えられている。「材料」が多い分だけ、しっかり考えれば解ける考察問題だと思う。

 

[解法]こうした問題は先に選択肢を読む。ある程度、正文誤文の見当をつけてから、図を解析していった方が時間が節約できる。

では選択肢①から。これは明らかに誤っているんじゃないか。「福岡市への通勤・通学率」が高い市町村は「郊外」のベッドタウン。市町村内に学校や企業が少ないから、福岡市に通うわけだね。

選択肢②。これは図を見ればいい。そもそも福岡市自体が福岡県の端にあり、他県から通勤・通学してくる人も多いんじゃないか。福岡都市圏が県境を超えて広がっているということ。これは十分に考えられ、正文っぽいな。

選択肢③。これはどうなんだろう?福岡市周辺にはそれなりの人口規模を有する都市は多いだろうし、そういった都市には人口集中地区はあるんじゃないか。あとで図を判定してみよう。

選択肢④。ん?これは当たり前なんじゃないか?福岡都市圏の「都心部」に該当するのは福岡市。そこから鉄道が伸びていれば、それに沿ってニュータウンなど住宅地が開発されているはず。これは正文でしょ。そもそもこういった考察問題って、実は選択肢4が正解ってケースが極めて多い。これが正解の第一候補になる。

 

気になるのは選択肢②。これから検討していこう。あれ、よく見ると、「福岡県外の福岡市に隣接した市町村」には「福岡市への通勤・通学率が上位の市町村」はないじゃないか。福岡市の南端は佐賀県に隣接している。しかし、ここは通勤・通学率は「下位」の市町村ばかりで、福岡市の都市圏には含まれない。たしかに佐賀県の東端の市町村には「上位」のものもあるが、こちらは福岡市に隣接しているわけではない。鉄道が通じるなどして交通のアクセスはいいのだろうが、しかし福岡市との間には他の市町村が存在している。そうか、②は誤文だったのか。

さらに選択肢③。具体的にポイントを絞って見ていく必要がある。例えば、通勤・通学率の図において南方に位置する「中位」の市町村がある。東西に細長い形。これは久留米市なのかな。ちょっとわからないけれど。この市町村について人口集中地区を確認すると一部がグレイで彩られている。この市町村にも人口集中地区はあるわけで、選択肢3も誤文になるね。

よって正解は④。なるほど、鉄道に沿って人口集中地区が拡大していることが読み取れるね。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第5問問3[27]>

 

[インプレッション]さらに考察問題。2010年代後半のセンター試験の地域調査の大問でよく見かけたバターン。地域調査については、センターから共通テストに移っても、傾向に全く変化がないということだ。

 

[解法]会話文から福岡市の特徴を読み取る。「港町」であって「交通の拠点」である。そして「商品」を供給する企業が多いということは「商業の街」とみていいんじゃないか。九州の経済の一大拠点となっている。この時点で、XYについてはXを正解としていい。「広域に商品などを供給する大企業」ということは卸売業の企業だろうか。九州一円へと多様な商品を流通させている。

そうなると、EとFの判定も簡単だね。もちろんFが該当。商業は第3次産業。製造業は第2次産業。そもそも、大都市だからといって製造業が発達しているわけではない。日本で最も製造業出荷額が大きいのは、人口規模で東京や神奈川に及ばない愛知県。とくに豊田市が最大の工業都市だが、これも人口が大きい町ではないよね。正解はFとXで③となる。

なお、確かに福岡市には「政治・行政の中心地」としての機能もあるだろう。しかし、それならば文章中に「県庁」など行政機関、「裁判所」など国からの官庁についての記述があるはず。本問では考慮しなくていい。

福岡市は九州の中心である「地方中枢都市」の代表例。政治・行政の中心であり、卸売業を中心に商業が発達し、金融業も集積している。大学やメディアなど文化的な機能も集まっている。しかし前述のように製造業については都市の発達と無関係であり、福岡市も工業都市というわけではない。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第5問問4[28]>

 

[インプレッション]なるほど、これはおもしろい問題だね。こういった都市圏における地域ごと(都心部や郊外といった)の人口増減や高齢化の状況は。「なまもの」であり、刻一刻と変化するものである。もちろんある程度の傾向はあるものの、それが福岡市という地方中枢都市に当てはまるものか。地方都市ならば駅前商店街など都心部では人口減少や経済活動の衰退がみられるが、近年の東京の中心部では再開発によって人口が増加し、活気を取り戻しつつある。都市圏構造について「決めつける」ことなく、問題文に沿って柔軟に考えることが大切な問題だと思う。

 

[解法]写真判定問題のように思えるが、下に説明文が書き添えられており、これが明確なヒントとなる。まずJ。「始発駅から数分」、「新しい」とある。Kは「始発駅から3分ほど」、「古い戸建て」。Lはさらに遠く「1時間ほど」であり、もはや住宅はない。

さて、ここで表を参照しよう。人口増加率はサで高く、スで微増。シでは減少しているね。統計年次が2005〜2015の10年間であることを考えると、スは一応増えて入るけれど、ほぼ横ばいと考えてもいいかも。最も特徴的は動きを見せているものはサである。

老年人口については「増加率」となっているのが気になる。これ、おそらく特別な意味があるね。サとスで増加率が高く、シでは変化なし。増加率ということは、もともとの老年人口率が高いところはそれ以上には値が上がりにくく、増加率は低くとどまると思う。逆に、もともと老年人口率が低いところはちょっと高齢者が増えただけで一気に値が上昇するわけで、増加率は高くなりやすい。

 

どうかな?地理は統計学であり、数字の学問である。瞬時にこういった「数字のトリック」を君たちは読み取ることができるだろうか。

人口が減っているシを、おそらく都市圏から外れた(つまり通勤圏ではない)農村部のLと判定してみよう。あれ?「老年」の値が最も低いじゃないか?農村なら若者が流出しあ過疎化が進むから高齢者の割合が高いはずじゃないか?

なんていう「文系」的な考え方にとらわれている人はいないかな。さっき、言ったじゃないか。分母となる「もともとの老年人口率」の値が大きければ、分子となる変化の度合いが多少大きかろうと、割合である「増加率」は低い値にとどまる。例えば、2005年の段階での老年人口率が50%であり。それが10年後には62%になったということ。すでに高齢化が進行している地域であり、その傾向がこの10年間でさらに強まったことが想像できる。

 

サとスは福岡都市圏(つまり通勤圏)に位置する地域であり、その点でシとは全く状況が異なっている。「増加率」がともに40%を超え高い値となっているが、もちろん分母となる2005年の老年人口率が低いということ。例えば、10%が15%に、あるいは20%が30%に、など。こういった変化だったんじゃないかな。

いずれにせよサとスで老年人口増加率の値はほぼ同じなので、人口増加率で考えてみよう。でも、そうなると話は早いね。Jには「新しい」とあり。Kには「古い」とある。人口が大きく増えているのはJだろうし、停滞しているのはKなはず。正解は②。

 

なお、福岡市でもやはり東京と似た傾向として、都心部付近で再開発が進み、新たなマンション建設によって人口の増加がみられる。一方で、郊外では住宅開発はすでに過去の話であり、ニュータウンが古びていく。東京とは異なり、まだ「ニュータウンにおける高齢化問題」は顕著ではないようだが、今後は一気に高齢化の波が押し寄せることが十分に予想されるね。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第5問問5[29]>

 

[インプレッション]あ、百道じゃないですか。椎名林檎の歌にも歌われた百道浜ですね。おっと、室見川もある。最新の地形図はカラフルになった分、こうした白黒印刷だと細かいところが読み取りにくくなってしまうんだが、本問はどんな感じなんだろう?スムーズに解けるのかな?

 

[解法]地形図問題。選択肢を先に読んで、ある程度の見当をつけてから図を見るのが大原則。とくに本問は誤文判定問題であり、4つの選択肢中から1つだけ怪しいものを炙り出せばいい。これは簡単なんじゃないかな。

まず①から。なるほど、寺社の歴史は古く、これらを含む集落は成立年代が古いことが予想されるね。

さらに②。「河道の形状」とある。蛇行でもしているのかな。なるほど、文章中に「カーブ」とある。そうか、人工的につくられた河川ならば河道が直線化されているはず。それがカーブしているのだから、古い地形がそのまま残されている場所なのかもしれない。正文っぽいね。

そして③。なるほど、こちらは2とは反対。新しい地域であるので、道路が直線化されているなど、人工的で整備された街路区画がみられるということ。これも納得。

最後に④。これが怪しいんじゃないかな。「公共施設」や「学校」とあるね。学校がわかりやすいんじゃないかな。学校は学区があるから、人が住んで入れば必ず近隣に学校は存在するはず。それが「古くからの土地」だろうが「埋立地」だろうが、関係ないね。④が誤りで、これが正解でしょう。地形図をみなくても解けましたね(笑)。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第5問問6[30]>

 

[インプレッション]あれ、もう最後の問題か。えらくシンプルな地域調査の大問だったね。いつもならもっと凝った問題が多いはずなのに。でも、これぐらいでちょうどいいんじゃないかな。実はセンターや共通テストの問題って、模試や予想問題よりはるかにシンプルな問題が多い。そして、シンプルであるがゆえに。真理を捉えている。

 

[解法]人口移動に関する問題。問題文をしっかり読解し「地方中心都市」という言葉を取り出す。なるほど、福岡市が九州の中心であるがためにどういった人工流動がみられるかがテーマの問題なのだ。

これも選択肢から読んでいこう。問5と同様、誤文判定問題なので怪しいものを一つだけ見つければいい。問1でも問5でも答えが4だったので、まさかもう4ってことはないよね。

まず①について。これはそうなんじゃないかな。福岡市には企業も多いし、大学も九大はじめ多くの大学がある。

さらに②。「転入超過を示す地域」は「人口増加率が高い」とある。これ、どうなんだろう?ちょっと保留にしておこうか。

そして③。これは文章の意味がよくわからない。後からじっくり考えてみよう。

最後に④。これはその通りだと思う。東京圏への一極集中は日本の人工流動の最大の特徴。

以上より、①と④は正しいと思う。怪しいのは②と③。このうち、図から読み取りやすそうな②から検討してみよう。

中国・四国地方で転入超過を示す地域ってどこだ?広島県もあるけれど、特に山口県だよね。山口県って人口増加が高い県か?いやいや、そんなことはないよね。現在の日本で人口増加率が高いのは東京都と沖縄県(*)だが、とくに東京都の人口増加率が際立って高い。都心部で再開発がなされ、集合住宅が多く建設されている。「都心への人口回帰」だね。東京に引っ張られるように、東京大都市圏全体でも人口は増加傾向にある。郊外である神奈川県や埼玉県、千葉県も人口増加率は高めと考えていいと思う(千葉県南部など東京から離れている地域では過疎化も進んでいるが)。

それに対し、地方はどうだろう?経済レベルが低い大都市圏以外の「地方」は全て人口が減少している。そもそも日本全体で人口が減少しており、その中で東京圏のみに人口が集中するのだから、それ以外の地域の衰退は想像できるだろう。

中国・四国地方も例外ではない。地方中枢都市である広島市を含む広島県は、人口が微増もしくはほとんど減少していないが、それ以外の県は人口減少が著しい。山口県もその例外ではないだろう。この選択肢②が誤りとみていいんじゃないかな。

 

(参考)日本の人口増加地域のイメージ

「全体としては人口が減少しているが中心的な地域のみ人口増加」というイメージを作っておこう。

日本全体・・・日本全体の人口は減少しているが、東京大都市圏の人口は増加している。とくに東京都の人口増加率は高い。東京都特別区部では再開発によって集合住宅の建設が続く。都心への人口回帰。

地方・・・北海道は人口が減少しているが、札幌市は増加している。東北地方は人口が減少しているが、宮城県は増加している。中国・四国地方は人口が減少しているが、広島県は増加している。九州地方は人口が減少しているが、福岡県は増加している。

県内・・・日本のほとんどの県で人口は減少しているが、県庁所在都市など中心的な市では人口増加。例えば岡山県は人口が減少しているが岡山市は増加。

市内・・・人口が減少している市においても、交通アクセスがいいような都心部においては人口が局地的に増加している。不便な農村部から、便利な市街地への人口移動。

 

最後に。選択肢③は結局どうだったんだろうか。これ、どういう意味なんだろう?「転出者数と転入者数が均衡」しているのは間違いない。愛知県や岐阜県、三重県(名古屋圏)、大阪府や滋賀県、京都府、奈良県、和歌山県、兵庫県(大阪圏)では丸が小さく描かれており、転出者数と転入者数の差が小さいことがわかる(色はグレーっぽいので、やや転出者が多いということだろうが)。選択肢の3の下線部は間違っていないようだ。

「大阪圏と名古屋圏の転出超過や転入超過が少ない」とある。円が小さい、つまり「転出数マイナス転入者」あるいは「転入者マイナス転出者」が少ないことが図から読み取ることができるね。「転出超過や転入超過が少ない」のは、当たり前でしょ。そりゃそういうことでしょ?って感じなんだけど。選択肢の文章が、あまりに当たり前のことを述べていて、かえって意味がよくわからない。ま、深く考えなくていいのかな。釈然としないな。

 

(*)沖縄県は戦争の影響で当時の若者が多く死んでしまい、現在の高齢者が少ないため、死亡率が低い。相対的に若年層が多いため出生率も高く、出生率から死亡率をマイナスした自然増加率は極めて高い、一部の人口は流出するが(沖縄県は経済レベルが低いため、仕事を求め人々は東京圏や大阪圏に転出する)、トータルとしての人口増加率は高い。