たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう

試作問題・地理総合/地理探究[第5問]解説

<第5問問1>


[インプレッション]

あ、乾燥指数や。2001年に登場しているから20年以上ぶりか。ただ、この指数やけど、数値が小さいと乾燥、大きいと湿潤なので、むしろ「湿潤指数」というべきちゃうんかなぁ。僕はちょっと違和感のある指標です。


[解法]

乾燥指数が登場。こういったわけのわからない指標については具体的な数字で考えるのがいい。

例えばみんなな日本の気候を数字で表現できるかな。数字ってめちゃめちゃ大切だよ。東京で7月平均気温25℃、1月平均気温5℃、すなわち年間平均気温15℃。日本は世界的にも多雨な国で年降水量1500ミリ。

地中海沿岸のaならどれぐらいかな。中国の小麦栽培地域と米栽培地域を分ける降水量のラインが1000ミリ、アメリカ合衆国のグレートプレーンズを縦断する降水量のラインが500ミリで、ここは草原になっている。「500ミリ=やや乾燥」と考え、地中海沿岸の降水量が多くない地域もそれぐらいかと思う。年平均気温は日本より高いかな。20℃としてみようか。


乾燥指数=P÷(T+10)なので、これに代入して、乾燥指数=500÷(20+10)=500÷30≒17となる。なるほど、アやイがこれに該当するわけだ。


地点aは緯度35度一帯に位置し、夏は亜熱帯高圧帯に覆われる。降水量は極めて少ないね。月平均10~20ミリ程度で、3か月で50ミリとしてみる。夏の平均気温は25℃ぐらいかな、東京と同じ(内陸部でもない限り、月の平均気温が30℃を超えることはない)。こちらも計算してみよう。乾燥指数=50÷(25+10)で、ほとんどゼロに近い。この指標、乾燥するほどに値が下がるわけだ。aのような「夏乾燥」型の気候はグラフ中のイとなる。


これがわかれば残りの判定は楽なんじゃない?アはdほどではないけれど、やや湿潤な気候なのだろう。一方のウは「ゼロ・ゼロ」の座標なので、完全な乾燥気候だね。


これらをE~Fに当てはめる。文章は読まずにキーワードだけ拾い上げるのが問題を解く大原則。Eは「冬に小麦」。夏は農業が難しいとも読めるよね。これが夏に乾燥するイでしょう。亜熱帯高圧帯の影響が強いのだ。

Fは逆に夏に農業ができるようだ。こちらは湿潤なアが該当。

Gは「灌漑農業」とある。これは乾燥地域とくに砂漠の特徴。砂漠においてみられる伝統的な灌漑農業をオアシス農業という。ウが該当。


地図を見ないのがコツ。地図を見ると逆に混乱するよ。君たちは意外かもしれないけれど、地理の勉強において地図は全く重要ではない。日本で一番地理に詳しいたつじん先生が言っているだから信用しろよ(笑)


それよりも数字が大切なのはわかるよね。日本の気候について「北海道;7月25℃・1月マイナス5℃、降水1000ミリ、東京;7月25℃・1月5℃、降水1500ミリ、沖縄;7月25℃・1月15℃、降水2000ミリ」という数字で必ず覚えておくこと。さらに上述したように、中国の小麦地帯と稲作地帯の境界線が年降水量1000ミリであること(つまり米は年降水量1000ミリを超える地域で栽培される)、アメリカ合衆国の中央部を年降水量500ミリの等値線が通過し、一帯では小麦が栽培されること(つまり小麦は年降水量500ミリ程度が栽培条件)など、さらに頭に入れておくべき気候(農業)に関する数字はある。「地理は数字の学問である」ことを認識。


数字を知っておけば、本問のような問題にも対応できるでしょ?式に数字を代入して具体的に考えればいい。地理を教えている先生は文系の人が中心だからなかなかこういった考え方には及ばない。でも君たちの多くは理系であり、理系の思考をもってすれば、こういった数字中心の考え方ってとても親しみやすいものだと思う。地理は数字の学問なのです。


[解き終えて]

本当に面白い問題だね。地図を示しておきながら、地図が全く重要でない点がまず興味深い。これは、地理を教える人たちがやたらと「地理=地図」であることを強調することについての、強烈な皮肉なのかも知れない。それよりも数字と、それを用いた計算がいかに大切かを本問は訴えている。個人的にはE~Gの文章がもうちょっとボリュームがあれば良かったかな(説明が詳しくなれば難易度が下がる)とは思うけれど、非常に面白い問題であることには変わらない。良問です。



<第5問問2>


[インプレッション]

この問題もいいですね。君たちはやたらと「地誌」にこだわるけれど、この第5問が決して「アフリカ地誌」でないことには気づいているかな。問1は地図は用いない。問2も文章のみの出題でむしろ高知県の問題。問3は民族・宗教ジャンル。問4は中国の貿易の問題(アフリカじゃなく、中国の問題だよ)、問5は1人当たりGNIを軸として考える統計の問題。

教科書をみればわかるように、地誌っていうのは地名や都市名、さらにその国の歴史的背景や現在の政治的状況を扱う学習分野のこと。この第5問ってそういったこと全く問われていないでしょ?だから地誌なんて出題されないし、地図帳だって全く不要なんです。


[解法]

まずカについて。日本でも行われているって書いてあるよね。日本は夏に降水量が多い。そもそも農業が行われるのは高温多雨である夏が中心。「夏雨」でいいでしょう。ここまでは簡単。

問題はここから。キはかなり考えた。文章から読解するしかない。ここの最大のキーワードは「里山が果たすような役割」であり、とくに「役割」という部分。人間にとって、何らかのメリットを与えるということ。里山が何らかの役割を果たし、人間に利益をもたらしてくれる。そう考えると、「肥料の散布」はむしろ人間が土地に対して与えることとなり、ちょっとニュアンスが異なる。「森林産物の採集」が該当するんじゃないか。里山はさまざまな産物を人間に与えてくれる。それと同じことを森林は人間に対し成してくれるんじゃないか。具体的な森林産物って言われてもわからないけれど、例えば筍(たけのこ)やキノコの類などは豊富に得られるんじゃないかな。

ラストはどうだろう?これも悩むのだが、同様に文章読解によって答えを得る。「農業が成り立たなくなった」のである。例えば「森林破壊」ってあるよね。でも、「森林」に覆われているところはそもそも農地ではない。むしろ森林を伐採して農地を開くのだ。森林と農業は噛み合う言葉ではない。

そうではなく、「成り立たない」理由として労働者の不足と考え、人口(とくに若年層)の流出によって生じる「過疎化」こそ答えなんじゃないか。

そもそも日本って森林減少ってそんなに深刻か?伐採が続く熱帯林に比べれば、日本は森林が維持されている地域であるし、日本の面積に占める森林面積の割合も70%近い。過疎化こそ深刻な問題なのだ。


[解き終えて]

そもそも共通テスト・地理の試験に「地誌」ジャンルは存在しないのだが、本問を見ればそれがわかるよね。「うわっ、アフリカ地誌だ」って思った人も多かっただろうけれど、本問は農業ジャンルであり、さらに言えば知識ではなく文章読解によって答えを導く問題。地域もアフリカどころか高知県。

地誌に神経質になるのはやめようよ。地図帳を使った勉強がいかに無駄かってことはわかるよね。



<第5問問3>


[インプレッション]

地理は「イスラーム推し」なのです。イスラームについては偏見で捉えられることが多いけれど、地理では冷静な分析によって「いかにイスラームが優れた生活文化であるのか」を徹底的に論じている。おっと、ここであえて生活文化と言ってみましたが、地理では宗教はあくまで生活文化として語られることが多いのです。神様の存在なんか関係ない、そこにあるものは生活そのものなのだ。僕はこういう考え方、スマートで好きですよ。そしてイスラームに関しても「都市で信者が多い」、「交易によって伝播した」という側面が強調されている。いかに先進的な宗教であるか。そのメカニズムが分かれば、本問もスッキリ解ける。


[解法]

1について。北アフリカ(サハラ以北)はコーカソイドに分類されるアフロ・アジア語族のアラビア語(アラブ民族)、中南アフリカはネグロイドに分類されるスーダンニグロ語族やバンツーニグロ語族の言語。アフロ・アジア系は同じコーカソイドであるインド・ヨーロッパ系と近いが、ネグロイドはそれとは全く異なる。誤り。


2について。キリスト教とイスラームだよね。いずれも西アジア発祥。同じく西アジア発祥のユダヤ教から派生した「兄弟」宗教である。そもそもアフリカにルーツのある世界宗教はない。

宗教の発生地域としては、ユダヤ教・キリスト教・イスラームが西アジアの乾燥地域、ヒンドゥー教と仏教がインドの湿潤地域という覚え方。


3について。そもそも宗教と言語は対応するものではない。例えば上述した「北アフリカ=コーカソイド(アフロ・アジア語族)、中南アフリカ=ネグロイド(スーダンニグロ語族など)」だが、宗教についてはサハラ砂漠を超え、ネグロイドの分布地域まで広くイスラームが浸透している。サハラ砂漠を越える交易路が存在し、サヘル地帯(サハラ南縁の草原。現在のセネガル~マリ~ニジェール~ナイジェリア北部)へと岩塩を交易するアラブ商人たちが多く訪れたため、イスラームが広められた。アフリカ系のムスリム(イスラーム教徒)は少なくない。「宗教の分布と語族の分布」は対応していない。

ただし、アフリカの地中海沿岸諸国はどうだろうか。ここはアラビア語の使用地行であり、アラブ民族の居住地域と言えるのだが、アラブ民族のほとんどはイスラームを信仰している。つまりこの地域に限っては「宗教の分布と言語の分布」が対応しているのだ。


それに対し「西アジアの地中海沿岸諸国」はイスラーム地域であるが、トルコ語(アルタイ語族)とアラビア語(アフロ・アジア語族)が分布。どうだろうか、「あまり対応していない」と言っていいのではないだろうか。なお、イスラエルはヘブライ語(アラビア語と同様、アフロ・アジア語族)だが、こちらはユダヤ教。「民族(言語)と宗教が対応」している国。


語族に関してはこのようにまとめておくといいだろう。


(1)コーカソイド(白色人種)

   1-1 インド・ヨーロッパ語族 ヨーロッパやイラン、南アジアの言語

   1-2 アフロ・アジア語族 アラビア語とヘブライ語


(2)モンゴロイド(黄色人種)

   2-1 ウラル・アルタイ語族 トルコやモンゴル。朝鮮半島、日本

   2-2 シナ・チベット語族 中国語

   2-3 アメリカインディアン語族 南北アメリカ大陸の伝統的な言語


(3)ネグロイド(黒色人種)

   3-1 スーダンニグロ語族 中部アフリカなど

   3-2 バンツーニグロ語族 南部アフリカなど


4について。マダガスカルはマレー系の言語を使用する。東南アジアとの関係が深い。マダガスカルの人々はマレー半島から移住してきた人々の子孫であり、稲作の文化を有する。貿易風の影響で国土の東部で雨が多く(湿った空気が吹き込む)、稲作に適する。誤り。ただし、宗教はフランスに植民地支配された影響でキリスト教であり、「宗教=ヨーロッパ」は正しい。


[解き終えて]

ちょっと曖昧だった気がするな。一応正文は3なんだが、西アジアの地中海沿岸地域については「言語はトルコ語とアラビア語だが、宗教はイスラーム」ということで「宗教の分布と語族の分布が対応していない」ということなのだが、むしろここには「宗教=言語」の代表的な国であるイスラエルが位置していたりするんだよね。宗教に関する問題は知識に依存する傾向が強く、あまりいい問題が少ない(悪問=平均点調整用の捨て問)であることも多いので、本問ももともと高いクオリティの期待できるものでもないのかな。

とりあえずネタとしてはアフリカではなく、西アジアの問題でした。



<第5問問4>


[インプレッション]

中国を主体とした貿易の問題。世界最大の資源輸入国である中国は、原油の輸入も多い。アフリカの産油国であるアンゴラとの関係を考えてみよう。


[解法]

「アンゴラ」に注目。実はアンゴラは共通テスト/センター試験初登場の国。アフリカ最大の原油産出国であり、原油の輸出が多い。世界最大の資源輸入国である中国との関係が深いことを想像しよう。

アンゴラの値が大きいのはチのJ。チが輸出額、Jが中国。


[解き終えて]

中国とアンゴラの関係が問われている。中国はアフリカ地域へとさかんに投資をし(中国が世界2位の経済大国であることを忘れないように。GNIはアメリカ合衆国に次ぐ)、資源開発に大きな援助をしている。とくにアンゴラでその影響力が強く、原油の輸入量が多くなっている。日本もこういった「生きた」お金の使い方ができないかな。経済規模が小さいアフリカ諸国へと、経済規模が大きい国が援助をするのは悪いことではないし、そこで得られた資源を「独占」するのも当たり前のことだ。

地理の経済ジャンルにおいて主役の国は中国であるので、中国に関する貿易統計は必須。



<第5問問5>


[インプレッション]

合計特殊出生率にたいした意味はない。統計は「1人当たりGNI」を軸にして考えるべき。


[解法]

「合計特殊出生率」と「出生率」は意味が全く異なるので注意。

合計特殊出生率は15歳から49歳までの女性の出生率(人口当たりの出生率。もうけた子どもの数)を合計したもの。これは文字通り「特殊」なものであり、例えば日本の都道府県ごとで考えた場合は


ここまで整理しておこう。


・世界の国々や大陸ごと・・・出生率と合計特殊出生率は比例

・日本の都道府県や市町村ごと・・・出生率と合計特殊出生率は反比例


今回は国がテーマであるので、出生率と合計特殊出生率は比例すると考える。こういった統計は「1人当たりGNI」つまり経済レベルを中心として感がるといい。出生率と1人当たりGNIの関係はわかるかな。1人当たりGNIは賃金水準で所得の平均。女性が社会進出せず「無給」ならば平均賃金は下がるよね。女性が社会進出して高い給料を得るようになれば平均賃金は上がる。ただし、家庭に留まる女性が多い方が子どもも増え、出生率も上がるのだから、女性が家庭から解放され社会進出すれば出生率は下がる。つまり「1人当たりGNIと出生率は反比例する」のだ。出生率と合計特殊出生率は比例するのだから、1人当たりGNIと合計特殊出生率は反比例するといえるよね。


図5を参照。全ての国で合計特殊出生率が低下しているのだから、これについては全ての国で出生率も下がり、そして1人当たりGNIが上昇していることを考える。選択肢に「経済発展」があるね。1人当たりGNIは経済レベルのことであり、この上昇はまさに「経済成長」なのだ。Mについては「都市化や経済発展が入る。


さらにNについて。図6を見てわかるように、合計特殊出生率とNの指標は比例関係にある。「Y=aX」のグラフ。Nの解答候補に「乳児死亡率」がある。乳児(1歳未満)のうちに亡くなってしまう子どもの割合だが、これは発展途上国で高く、先進国で低い。例えば日本ならば乳児死亡率は1.8パーミルに過ぎないが(1000人の赤ちゃんのうち、2人が死ぬ)、アフリカ諸国は図6にあるようにこの値が30にも40にもなる。


1人当たりGNIの高い先進国は医療体制も充実しており、栄養状態や衛生環境も発展途上国に比べ整備されている。乳児のうちに亡くなる子どもの数は少ない。「1人当たりGNIと乳児死亡率は反比例」することを考えよう。


合計特殊出生率と1人当たりGNIは反比例するんだったね。だから、「合計特殊出生率と乳児死亡率は比例」するのだ。Nに該当するのは乳児死亡率であり、4が正解。


なお、乳児死亡率は満1歳までになくなる子どもの割合、乳幼児死亡率は満5歳までになくなる子どもの割合。似た統計であり、データブック オブ・ザ・ワールドなどで確認しておくといいだろう。日本の場合、前者が1.8、後者が2.5。1歳から5歳までの間に亡くなる子どもの数は少ないと言えるね。


[解き終えて]

どうだっただろうか。合計特殊出生率については地理では全く重要な指標ではないので、上記のように出生率と置き換えて考えるのがベスト。とくに1人当たりGNIとの関係を考えよう。

ちょっとおまけ。日本については乳児死亡率(乳幼児死亡率)が低いことは理解できるよね。でも「死亡率」は極めて高いことは理解できるかな?高齢者が多いため、亡くなる人が多いのだ。日本は世界で最も人が死ぬ国なのだ。


これを表にしておく。


日本;1人当たりGNIが高い。出生率が低い。乳児死亡率が低い。老年人口率が高い。死亡率が高い。

アフリカ諸国;1人当たりGNIが低い。出生率が高い。乳児死亡率が高い。老年人口率が低い。死亡率が低い。


このように、1人当たりGNIを軸として、それに対してそれぞれの指標が「比例」や「反比例」することを考えながら、それら指標の関係性を理解して欲しい。


1人当たりGNIを中心とした思考が展開できるという点において、本問は極めて優れている。


参考までに外れ選択肢についても一言コメント。「食の欧米化」はよくわからない。一応1人当たりGNIが上がると肉や油の摂取量が増えるとは言われているけれど、直接の関係はないでしょ。「「がん死亡率」は平均寿命の長い国。がんは高齢者になってから罹患する人が多く、逆にいえば若者が多い国においてはがん死亡率は低い。日本のような高齢者の割合が高い国では、死因の多くは老衰であり、がんである。



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