2019年地理B追試験[第4問]解説

2019年地理B追試験第4問

 

地誌問題。地誌とはいえ、地名は全く出ていませんね(あえて言えば問4が具体的な都市の産業をテーマにしているぐらいかな)。問1は農業だが、インダス川流域つまり南アジア西部が乾燥地域であることがわかれば解ける。問2は写真を使った問題で、これは考察問題でしょう。問3は農畜産物の統計に関する問題。問4は上述したように産業。問5は南アジアの宗教。宗教というととっつきにくい印象があるが、南アジアは国別に整理すればいいので難しくない。問6は思考問題として解けると思う。1問ロスぐらいで乗り切って欲しいかな。

 

<2019年地理B追試験第4問問1>

 

[インプレッション]定番の問題だね。インダス川が問われている。名称でも問われるし、本問のように地図上の位置でも問われる。もちろん「外来河川」だね。他の河川はノーチェックでいいでしょう。

 

[解法]河川に関する問題。マイナーな河川も含まれているが、Aのみ当てればいいので問題ないだろう。さて、Aの河川の特徴って何だ?南アジアは全体として「西で少雨、東で多雨」である。高温で蒸発量の多い地域なので、「少雨=乾燥」とみなしてしまっていいね(乾燥の定義は「降水量<蒸発量」)。Aの地域も乾燥していると思われる。「乾燥」がキーワードで、①が正解。

 

インダス川は頻出であり、過去問で取り上げられた例は多いが、今回はインダス川のみでなく、南アジアの農業が総合的に問われた問題を紹介しよう。

 

(2013年地理A本試験第3問問3)

南アジアにおける農業の特徴と自然環境とのかかわりについて述べた文として下線部が適当でないものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

 

① インダス川流域のパンジャーブ地方は、灌漑設備の整備が広くすすめられている地域であり、小麦やトウモロコシが盛んに栽培されている。

② インド半島中央部のデカン高原では、レグールと呼ばれる肥沃な土壌が広がる地域において、大豆やワタ(綿花)が盛んに栽培されている。

③ ガンジス川下流部の三角州(デルタ)は、雨季になると洪水が頻繁に起こる地域であり、稲やジュートが盛んに栽培されている。

④ ヒマラヤ山脈南麓のアッサム地方では、降水量が少ないた地下水を得やすい低平な地域において、茶が盛んに栽培されている。

 

ほぼ今回の問題と重なっている。というか、本年の問題はこの2013年の問題をほぼそのままの内容で再出題したもの(センターはそもそも同じ問題が繰り返し出題されているのだ)。①が本問のA、②がB、③がC、④がD、それぞれの地域を説明したもの。誤りは④。Dの地域はアッサムというのだが、夏のモンスーンが吹き込むことによって極めて降水量が多くなる。世界最多雨地域である。この豊富な降水を用いて茶の栽培がなされている。また茶の栽培は丘陵で行われるもので、そもそも「低平」が大きな誤り。

 

さらに中央アジアを含めた広い範囲であるが、似た問題が出題されたことも。

 

(2005年地理B追試験第1問問3)

図1(省略)中に示した地点AD付近で主に行われている農林業について述べた文として最も適当なものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

 

 A付近(中央アジア)では、焼畑農業とヤクの遊牧が主な生業となっている。

 B付近(中国ウイグル地方)では、灌漑によるオアシス農業が行われ、主に小麦やブドウが栽培されている。

 C付近(中国チベット高原)では、主に針葉樹林(タイガ)を利用した林業と、馬の遊牧が行われている。

 D付近(アッサム地方)では、主にコーヒーのプランテーション農業が行われている。

 

正解は②。ウイグルは乾燥地域であり、伝統的な灌漑農業であるオアシス農業が営まれる。小麦もブドウも比較的乾燥に強い作物である。

①;中央アジアはウイグル同様に乾燥地域であり、オアシス農業。③;チベット高原はヤクの遊牧。④;コーヒーではなく茶。なお、インドは典型的なプランテーション農業地域とは思わないが、イギリスが開いたプランテーションも多く残されていると思うので、この部分については正しいとみて許容範囲だろう。

 

[難易度]★

 

[今後の学習]軽々と解いて欲しい問題だったな。「乾燥」こそ重要なキーワード。

せっかくなので、固有名詞も含めもうちょっと解説しましょう。

Aの河川は「インダス川」。これは覚えておいた方がいいよ。インダス川が流れるのは「パキスタン」。人口世界6位の超大国。世界で6番目に大事な国ってことだからやっぱり知っておかないといけないね。ノーベル平和賞を受賞した17歳の女の子マララさんはパキスタン出身。南アジアや西アジアは女性差別が激しく、そこに宗教的な考え方(ヒンドゥー教やイスラム教。パキスタンはイスラム教の国)も重なり、女性の社会進出は抑えられている。とくに経済レベルの低いインドやパキスタンでは女の子は学校にも行けず、10代のうちに結婚させられることが多々ある。

パキスタンは今年は他の問題にも登場していたね。難民に関する問題で。パキスタン北部にはインドとの係争地であるカシミール地方があり、さらに北に隣接するのは長く紛争や内戦の犠牲となってきた悲劇の国であるアフガニスタンが位置する。

すでに述べたようにAは①に該当するが、「乾燥」は絶対的なキーワード。「灌漑」とは人工的に農地に水を与えることで、やはり乾燥地域のキーワード。パキスタンはインダス川からの灌漑によって、実は農産物の生産は多い。2億を超える人口を支える主穀である小麦(ナンの原料)、そして綿花は世界4位の生産国。河口に近いカラチ(人口1000万の都市なので覚えておくと得。ただし首都ではない)周辺では、灌漑による米作もさかんであり、米はパキスタンの主要輸出品目の一つ。

他の河川は重要でない。

Cはガンジス川。ヒンドゥー教の聖なる河川である。河川に沿って沖積平野(*)が広がり、農業地域となっている。降水量のやや少ない上流部では小麦、多雨である中下流では米の栽培。河口三角州は世界最大のジュートの栽培地である。ジュートは繊維作物で穀物を入れる袋の原料になる(衣類にはならないので注意)。「ジュート」最大のキーワードで④に該当。肥沃であるのは、沖積平野の特徴の一つ。上流から運ばれる土砂(腐植を含んでいる)によって肥沃となる。

Dはブラマプトラ川。チベット高原からベンガル湾に注ぐ。チベット高原は降水量が少なく(インド洋から入ってくる湿った風が、手前のヒマヤラ山脈によって遮られてしまうのだ)、農耕に適さない「遊牧」地域である。ブラマプトラ川はチベット高原を西から東に流れ、そこからほぼ直角に進路を変え、北から南へとヒマラヤ山脈を縦断する。さらに進路を西向きに変え、山脈の南側を通過し、最後は南流しガンジス川などと巨大な三角州を形成する。Dの説明は③だろう。Dの位置をよく見ると、ヒマラヤ山脈の南麓である。季節風が吹き込むことで、この地域は世界で最も降水量が多い地域となっている。アッサム地方である。日当たりのいい斜面では茶の栽培がさかん。インドでは自給的にも茶の栽培がさかんであるが、イギリスの植民地時代に開かれたプランテーションにおいても商業的な茶の生産が行われている(インドは茶の輸出国)。

なお、アッサム地方は世界最大の茶の産地として極めて有名なのだが、なぜかセンター試験においては出題が少ない。本問にしても、外れ選択肢であるし、この地域が直接問われたわけでもない。

(*)沖積平野とは、河川の作用によって形成された(形成されつつある)平野のことで、扇状地、氾濫原(自然堤防帯)、三角州がある。いずれも河川が上流の山地で土砂を削り、下流側へと運搬し、堆積することでできた平坦な地形(扇状地は緩い斜面となっているが)。日本に多くみられ、石狩川、信濃川、淀川、筑後川の流域など。世界で沖積平野を形成している河川としては、インド北部のガンジス川、イタリア北部のポー川が出題される(二次私大レベル。センターでは未出)。とくに中下流の低湿な土地においては米作が行われる。イタリア北部はヨーロッパ最大(というか唯一)の米作地域。

 

<2019年地理B追試験第4問問2>

 

(写真が公開されていないので省略します)

 

 

<2019年地理B追試験第4問問3>

 

[インプレッション] この問題おもしろいですね。インドは殺生を嫌い、原則として動物の肉は食さないのですが、もともとそれは経済的な理由もあって。要するに「肉は高いから買えない」っていうのもあるんですよね。もちろん保守的な人々は今でも血生臭い肉は嫌悪するし、牛肉についてはもちろんNG。そこは完全に欧米化されたわけでもない。ただ、それ以外の肉については、都市生活者や富裕層を中心に肉を使った料理は少しずつ一般化されつつある。そういった背景を意識しながら解いてみよう。

選択肢は「小麦」、「鶏肉」、「モロコシ」。ちょっとモロコシってわからないかもしれないけれど、過去問にも何回か登場しているし、よかったら知っておこう。モロコシはアフリカではソルガムとも呼ばれ、雑穀の一種。粗末な穀物と考えてくれたらいいよ。栄養価は低いが痩せた土地でも育つため、熱帯の焼畑農業地域ではこれを主食とする人々もいる。ただし、他の穀物が手に入る地域では好んで食されるものではない。

グラフに目を移そう。グラフを読む際に最も重要なことは何だった?そう、数字に注目することだね。JとKは縦軸の目盛りが100をマックスとしているけれど、Lはわずか3!これ、極端に少ないよね。

この時点でわかるんじゃないかな。インドはそもそも菜食主義の国なのだ。豊かな自然環境において、穀物や野菜、果物はいくらでも取れ、さらに牛を飼育すれば牛乳が得られるから動物性タンパク源にも困らない。わざわざ動物を殺してまで肉を食べる必要はない。鶏肉だって、伝統的なインドの料理では利用されにくいものだったんじゃないか。たしかにインド料理屋に行けばタンドリーチキンなんかもあるし、インド人ってもしかしたら鶏肉はめちゃ食べてるんじゃないの?って思ったりするけれど、それは例外的なことで、やっぱり肉の消費(供給)量は少ない。

このことを考えれば、値の小さいLが「鶏肉」とみて間違いないだろう。とくに21世紀に入って急激に生産量が増加(とはいえ、「1」から「3」に増えただけで、割合は3倍と凄いが、実数としてはそうでもない)している点についても、インド社会の近代化と結びつければ納得だろう。都市部を中心に新しい考え方が広まり、肉を食べることが必ずしもタブーではなくなった。

さらに小麦だが、これについてはインドが世界2位の生産国であることを考えればいいんじゃないかな。値が小さいわけはないので、Kが小麦である。正解は⑤。

モロコシは、貧困層の中ではまだ主穀としての地位にあるのだろうが、これを積極的につくろうということはないんじゃないかな。近代化が進む(もちろん貧富の差は大きいが)インドの中でその重要性は低下している。

さらに小麦について。「緑の革命」をキーワードに考えてみよう。インドでは食料自給率の上昇を目的として、近代的な農業技術を導入し、穀物の増産を行った。これが「緑の革命」。耕地整備や灌漑施設の建設、化学肥料や農薬の利用、品種改良による多収量品種の導入など。この結果、米は輸入国から輸出国に転換し、小麦の生産はアメリカ合衆国を抜いて世界2位にグレードアップした。ただし、この農業改革のためには多額の資本投下が必要であり、それを行う経済的余裕にある富裕層のみ利益を拡大し、貧困層は恩恵に預かれなかった。貧富の差はさらに拡大した。

このことを考えても、小麦の生産が急上昇しているのは納得だね。グラフから読み取るに、2011年の小麦の生産量は80百万トンすなわち8千万トンに達している。世界全体の小麦の生産量は7億トン。実にインドだけで、世界の小麦の10分の1を生産しているのだ(もっとも、インドの人口は世界全体の5分の1なので、1人当たりの量はさほど多いわけでもないが)。

 

[難易度]★★

 

[今後の学習]肉の増加は近代化の象徴。中国に続き、インドも急速な経済の拡大を達成し、今やアメリカ合衆国、中国に次ぐ大国と言っていいのかもしれない(日本は抜き去られた!?)。一人一人の生活レベルについても、格差こそ大きいものの、向上の一途にある。

ただ、本問の最大のポイントってわかるよね。それはグラフの縦軸の目盛り。それぞれの農畜産物について、量の大小を考えられるかどうか(つまり、肉はやっぱり少ないよねっていうこと)が解答のポイントだった。「地理は数字の学問」ってことだね。

 

<2019年地理B追試験第4問問4>

 

[インプレッション]都市に関する問題と思いきや、都市名が問われているわけでもないので、地域ごとの産業の特徴を考えれば十分に解答可能。唯一、首都の位置だけは大事になってくるので、これはチェックしておかないといけないかな。

 

[解法]都市に関する問題。しかし、そのうち二つについては農業の問題として解くことができる。まずケだが、これはスリランカの都市。スリランカでは近年衣服工業なども発達しているが、やはりこの国の特産物は茶。イギリスの植民地時代につくられたプランテーションで、現在も商業的の茶が栽培されている。③がケとなる。

さらにカ。インド半島のデカン高原西部は綿花の栽培地域。綿花土とも呼ばれるレグール、乾季のみられる気候(綿花は開花したら雨が降ってはいけない)を利用しての綿花栽培が非常に盛んだね。カが④に該当。もちろん、インド半島西岸に位置するカの都市は有名だから知ってるね。そう、ムンバイ。石油産業や自動車工業なども発達したインド最大の工業都市でもある。

そして①。ここには「首都」というキーワードがある。残ったキとクはいずれもインドの都市であるが、首都はどちらだろう?インドの首都はデリー。北部のガンジス川沿いに位置する。①がキとなる。デリーは、ムンバイとコルカタに並ぶ巨大都市で人口は1000万に達する。1000万人級の大都市はやっぱり覚えておいてほしいもの。その位置も含め、必ず知っておいて欲しい。デリーは北部の都市であり。キに該当。ガンジス川のやや上流部であり、降水量が比較的少ないので、小麦が周辺では栽培されている。

以上より、残ったクが②に該当。この都市について詳しく知る必要はないだろう。

 

参考までに。。。この都市はジャムシェドプル。2007年の地理B追試験で問われたことがある。「豊富な鉱産資源と水力をいかして、イギリス植民地時代に製鉄所が建設され、鉄鋼業が発達している」と説明されている(ただし、こちらの問題でも地図中の位置が示され、都市名は問われていない。また他の選択肢と合わせて、消去法で解答することはできる)。インド東部の地域では鉄鉱石と石炭資源が豊富であり、鉄鋼業が発達。20世紀初頭の独立以前、民族資本(タタ財閥)によってジャムシェドプルに製鉄所がつくられた(日本の八幡製鉄所と同じ時期)。インドの鉄鋼生産が急増したのは21世紀に入ってからだが、鉄鋼業の歴史そのものは古い。

 

[難易度]★★★

 

[今後の学習]今回の問題で唯一個別の都市が話題とされた例。ただし都市名は重要ではない。

ムンバイとスリランカの都市の判別は簡単だったと思う。問題は残った2つだね。ここはデリーを特定し、残った方を消去法で選ぶというパターンが最適だったと思うな。

デリーはインド第2の都市で、1000万人クラスの大都市。こうした巨大都市は位置とともに覚えておくこと。

 

意外に覚え方は簡単なので、以下に一覧にしておく。基本的には1億人を超える人口大国に一つずつ巨大都市が含まれ、中国とインドという極端に人口が大きい国は3つの巨大都市が位置する。位置を確認しておこう。

 

まず人口1位から10位まで

 

中国 シャンハイ・ペキン★・チョンチン

インド ムンバイ・デリー★・コルカタ

アメリカ合衆国 ニューヨーク

インドネシア ジャカルタ★

ブラジル サンパウロ

パキスタン カラチ

ナイジェリア ラゴス

バングラデシュ ダッカ★

ロシア モスクワ★

メキシコ メキシコシティ★

 

以外に首都が少ないでしょ?インドネシアも新首都を建設中なので、ジャカルタも外れる。人口上位7カ国は全て人口最大都市と首都が一致しない。

 

さらに1億人の国

 

日本 東京★

フィリピン マニラ大都市圏★

エジプト カイロ★

 

マニラだけ大都市圏になっているけれど、これは行政区としてのマニラ市の範囲がごく狭いため。実質的な市域人口は1000万人を超え、テストでもこの数字で出題。

 

これに加え、人口が1億人に達しなくても1000万人級の都市を持つ国

 

韓国(5000万人) ソウル★

イラン(8000万人 テヘラン★

トルコ(8000万人) イスタンブール

アルゼンチン(4000万人) ブエノスアイレス★

ペルー(3000万人) リマ★

 

最も重要なのはわかるでしょ?もちろんイスタンブール。ヨーロッパとアジアにまたがる海峡の街で、キリスト教文化とイスラーム文化の交わる文明の交差点。首都ではないのに人口は極大!

 

アルゼンチンとペルーの出題例はありませんが、ラテンアメリカ地域ではこのように特定の都市に人口が集中する傾向が強い。チリが首都に人口が一極集中するというネタが問われたことが。

 

それからヨーロッパは特別に。ヨーロッパでは「人口最大都市=首都」という共通項がありますが、その規模は大きく異なります。

 

イギリス(6000万人) ロンドン★(1000万人)

フランス(6000万人) パリ大都市圏★(1000万人)

スペイン(4000万人) マドリード★(300万人)

イタリア(6000万人) ローマ★(300万人)

ドイツ(8000万人) ベルリン★(300万人)

 

やはり特徴的なのはイタリアやドイツですね。人口最大都市に総人口の1割ほどが集まるのが一般的なパターンなのですが、この両国はその割合が極端に低い。総人口に占める人口最大都市の割合はイタリアで5%、ドイツでそれ以下。これ、かなり低いですよ。かつて小国が分立し、それぞれが独自の発展をみせたヨーロッパにおいては、現在でも国内のさまざまな地域の独自性が強く、一つの都市だけが突出して発達するというケースが少ないのでしょうね。

 

さらに興味深い国にカナダとオーストラリアがあります。カナダは人口3500万人、オーストラリアは2500万人の「小国」。人口最大都市はカナダが600万人のトロント、オーストラリアが450万人のシドニー。国内人口の2割程度が集まり、これは極端な集中度です。

 

その一方で、両国には面白い傾向もあり、首都の人口が少なくなっています。カナダの首都オタワが100万人、オーストラリアの首都キャンベラが40万人。

 

カナダもオーストラリアも、最大都市の人口が総人口に占める割合は20%ほど、首都の人口が総人口に占める割合は2〜3%と考えてください。これ、かなり特殊!

 

<2019年地理B追試験第4問問5>

 

[インプレッション]ネパールの観光とは、ニッチなところをついてきたな、と(笑)。話題が特殊であるだけに、逆にオーソドックスなネタが問われていることを期待するのだが。

 

[解法]「ネパール」も「観光」もセンターでは問われにくい話題。だからそこにはポイントはないんじゃないかな。

誤文判定問題なので、一つだけ明らかに違っているところを探せばいい。

まずなるほどと思うのは選択肢②。ここには「夏」という言葉が含まれている。対義語である「冬」に入れ替えるだけで簡単に誤文を作れてしまうのだ。判定してみよう。

「モンスーンの影響で悪天候の多い」とある。なるほど、南アジアは夏は南西モンスーンの支配下となり、海から風が吹き込むことによって多雨となる。このことを言っているんじゃないかな。冬は北東モンスーンの影響で乾季となり、晴天が続く。天候に恵まれるのは冬である。旅行者数はわからないけれど、悪天候が多いのは夏で間違いない。正文。

他の選択肢はどうかな。なるほど、④が怪しいね。「割合が最も高い」なんていう数字に関する表現はわかりやすい。明確に誤り選択肢となることができる。さらに言えば、インドとスリランカの宗教について問われているわけで、ネパールは全然関係ない。そりゃ、普通に考えて、センター試験がネパールの知識を問うわけがないんだわ。メイン国であるインドとスリランカに関する事項なら出題されて当然。

南アジアの宗教について。重要なのはイスラム教の国。パキスタンとバングラデシュ。そもそもこの国はかつては連邦を組んでいた。

インドはヒンドゥー教徒が多い。そもそも「ヒンドゥー」って「インドの」って意味だからね。ただし、東部のバングラと隣接する地域にはイスラム教徒も多い。さらにパキスタンと接する北部のカシミール地方ではヒンドゥー教徒とイスラム教徒が混在し、インド、パキスタンの両国で帰属が争われている。

そしてスリランカ。この国は仏教徒の国。南伝仏教といって、インドから南回りでスリランカからタイなどに仏教が伝えられた(上座仏教)。ただし、北部にはインド半島から渡って来た人々がいて、少数派ではあるがヒンドゥー教を信仰する人々もいる。両者の対立により内戦が発生したことも。

以上より、パキスタン・バングラデシュ→イスラム教、インド→ヒンドゥー教、スリランカ→仏教がそれぞれ多数派。どうかな?「ともにヒンドゥー教徒の割合が最も高い」わけではない。これが誤り。

他の選択肢も実はネパールに関するものではなく、さらに言えば観光に関するものでもない。「経済原則」が問われている。選択肢①について。ヒマラヤ山脈で伝統的な生活を送る少数民族であっても、すでに自給自足の経済体制は崩れ、貨幣経済へと移行している。現金収入を得て、それで商品を買うことで生活が成り立っている。地球上の人口の99%は貨幣を媒介とした経済体制の中にいるんだね。

選択肢③は言うまでもないだろう。インドも中国も、めざましい経済成長を遂げている国である(GNIの増加)。もちろん中国ではいまだに共産党による一党独裁が継続し、インドでは貧富の格差はさらに深刻にはなっているけれど、富裕層は増加し、経済的繁栄を享受する人々は増えている。

 

[難易度]★★

 

[今後の学習]これ、いい問題ですね。気に入ったな(笑)

「ネパールの観光について」とあるけれど、ネパールの問題でも観光の問題でもない。気候のベーシックな理論が問われ、南アジアの宗教という重要テーマこそ最大のカギとなっている。それに加え、経済セオリーまで登場し、思考力が問われ、複合的な問題となっている。本当、いい問題。こうした問題を軽々と解くことができれば(そしてその魅力に気づけば)、キミもセンター地理マスター!(だと思うよ・笑)

 

<2019年地理B追試験第4問問6>

 

[インプレッション]えっ、またオマーン?やたらオマーンが出てるような気がするんですけど。。。センター試験上層部にオマーン関係者がいて、その人に忖度して一連の問題が作られているとかちゃうやろなぁ???

 

[解法]インドからの移民数とはまたマニアックなところからの出題ですね(笑)。もちろんそのまんまの知識はないので、関連事項を頭の中で整理しながら、考えて解く。オマーンというマイナーな国(知ってる?)が出てるので戸惑うが、3つ組み合わせ問題なのいで、他のメジャーな国2つを特定すればいいよね。ではやってみよう。

1970年と2000年のデータが示されている。そもそもの移民の数自体が増加しているのはわかるよね。世界は狭くなったものだ。人的交流が活発となり、国境を越えて移動する人の数も増えている。

1970年の段階ではPが首位だったが、2000年にはQへと変化している。移民の原則は「1人当たりGNIの低い国から高い国へ」。1人当たりGNIの低いインドは当然移民を送り出す側である。その行先が、PからQへと移り変わった。この二つの国はおそらく1人当たりGNIの高い国すなわち先進国だろう。アメリカ合衆国とイギリスのどちらかだと思う。この時点でオマーンはRとなる。

この30年間にインドはどう変化した?貧困な発展途上国であったが、外国へと門戸が開かれ、工業化が進んだ。古い時代に結びつきが強かった国はどこだ?移民の方向に関するもう一つのセオリー、それが旧宗主国と旧植民地の関係。「かつての植民地から宗主国へ」と移動する移民は多い。言語が同じである場合も多く、それ以上に文化や経済の面において強く結びつく。インドを植民地としていたかつての宗主国はイギリスである。インドは多くの言語を公用語とするが、準公用語として英語も採用されている(でもイギリスもアメリカ合衆国も英語の国なので、言語から選択肢を絞るわけにはいかないか・笑)。どうかな、古い時代にはインドからの移民の主な行先ってイギリスだったんじゃないか。

それが工業化が進み、「経済大国」となりつつある現在のインド。世界最大のGNIを有する大国アメリカ合衆国との関係性が21世期になり(2000年は21世紀じゃありませんが、直前ということで)大きくなり、移民の数も増加した。そういう流れは十分に考えられるよね。Qがアメリカ合衆国なのです。

さらに、IT産業と関連させて考えた人もいるんじゃないかな。インドではIT産業が近年発達し、シリコンバレーへと技術者として移り住む者もいる。そうした背景を考えると、近年インドとアメリカ合衆国との関係がより緊密化されたことが想像できるね。

 

[難易度]★★

 

[今後の学習]いちおう難易度は★★としているけれど、オマーンという特殊な国が含まれていただけのことで、問題そのものはシンプルでよくあるものだと思うよ。このネタでは、1970年代に「白豪主義の撤廃」という大きな転機を迎えたオーストラリアがよく登場するわけだが、そういった明確な転機がなくとも、全体的に旧宗主国との関係性は薄れていく傾向にあるのだろうね。