2004年度地理B追試験[第4問]解説

2004年地理B追試験[第4問]

実際に解く場合にはこの大問から取り掛かるべきだろう。取り組みやすい問題が並んでいる。問1、問2、問3、問5などはとくに難易度も低く、もしここで失点していたらかなりヤバイぞ!?

逆に問4、問6、問7には手強い印象を持つかもしれない。こちらは形式にも目新しい点がある。問4は日本と難民の関係という一般常識めいた知識が問題を解くカギとなり、問6は統計のセンスが必要(とくに人口大国中国をどうとらえるか)。問7はもしかしたら手も足も出ないかもしれないなあ。1問ロスで乗り切ってほしいところだが、2問ロスの可能性もおおいにありえる。

 

問1 [評価] 文章正誤問題ではあるが、実際には数字を意識した問題となっており良問。また「第4問第5問の地形図問題でない方の、問1は簡単」というセオリーがここでも通用しており、君たちも実際にはこの問題からとりかかるべき。

[解法] 人口増加割合については、おおよそこの数値を目安に考える。

3%;アフリカ 2%;ラテンアメリカ・南アジア 1%;東アジア・アングロアメリカ・オセアニア 0%;ヨーロッパ・ロシア・日本

これからわかるように、おおまかに発展途上国で人口増加割合が高く(アフリカやインドなど)、先進国で低い(米国やヨーロッパなど)ことが明らか。以上より選択肢2を誤りとする。新興工業国とはNIES(新興工業経済地域)と称される韓国やメキシコ、ブラジルなどのことだろう。世界人口の増加が「主として」これらの国の人口増加によるものとは思えない。やはりアフリカなどの人口爆発の様子は無視できない。

他の選択肢については正文でもあるのでとくに検討の必要もないだろう。

[関連問題] 人口増加割合に関する問題は多い。

99B追第5問問1参照。地域別(大陸別)人口の推移が表に示されている。アフリカの人口増加率の高さは圧倒的。

99B追第5問問2参照。こちらは中国とインドの人口増加率の差が問題とされている。

99A本第3問問1参照。「人口200万以上の都市数の推移」を全体の人口の推移と結びつけて解く。

01B追第4問問1参照。アジア、アフリカ、北・中央アメリカ、ヨーロッパの「人口の年平均増加率」がポイント。

02B追第4問問1参照。大陸別の出生率と死亡率の変化が問われている。

[対策・今後の学習] 大陸別人口増加割合は定番のネタなので必ず頭に叩き込んでおくこと。本問のような文章正誤問題パターンよりも図表を用いた問題パターンが多いので、注意が必要。

 

問2 [評価] 問1に比べれば正文指摘問題だけにちょっと難しいかな。3つの文の誤りを探さなくてはいけないわけだし。ただし過去問でしばしば見かける話題でもあるので、過去問研究が十分な者にとってはさほど高い難易度でもなかった。良問である。

[解法] 一つ一つの選択肢を検討していこう。

1;発展途上国においては特定の大都市に人口が集中する傾向が強いが、これはもちろん農村の貧困さを反映してのもの(問1の選択肢4の文中にもある)。とりあえず都市に行けば仕事にありつけるといった「幻想」に支配されているのだ。もちろん発展途上国だけに都市だからといって仕事があふれているわけではなく、実際のところ、農村から流入する労働者たちは都市周辺の低級住宅地に腰を落ち着けることとなる。都市に収容しきれずに、都市からはみ出した形で居を定めるしか仕様がないのだ。

このことを考えれば選択肢1が誤りであることが推測できよう。そもそも発展途上国の都市において「雇用機会が多い」とは思えず、とくに大都市においてはスラムの拡大は顕著な問題となっているはずだ。

2;これはどうだろう。生活環境についての意識が高く、公害抑制に積極的な先進国においても今だに「都市の公害問題が解消」されているとはいえないのだから、発展途上国においては尚更であろう。保留。

3;「多民族共生社会」とはいかにも理想の高いことだが、果たしてこのようなすばらしい社会が実現されているのだろうか。例えばニューヨークなどが典型的なのだが、先進国の大都市は「民族のモザイク」「民族のサラダボウル」とあだ名されることがある。ブラジルなど混血が進んで民族間の差が少ない「民族のメルティングポット」とは明確な差がある。

先進国の大都市は内部が細分化されている。複数の民族が住んでいることが多々あるのだが、彼らはほとんど交流することなく、彼ら自身の居住地区から外へ出ることは稀である。米国の大都市には、白人地区・ユダヤ人地区・黒人地区・ヒスパニック地区・アジア人地区など、明確に民族ごとに住むエリアが自然と区切られていることが多い。ドイツのトルコ人などもその典型例で、彼らは戦後復興期に労働者として多く招き入れられたのであるが、オイルショックによる不況で仕事を失った後もドイツ国内にとどまり、都市内にトルコ人地区を形成しながら、ひっそりと社会的に差別された状況で暮らし続けている。白色人種でキリスト教徒のドイツ人から見れば、黄色人種でイスラム教徒のトルコ人はまさに目の敵とされるべき対象となり、そんな状況の中で、民族・宗教の対立だけでなく、より生活に密着した教育や労働機会の面などにおいても彼らは虐げられてしまっているのだ。

よって3は誤りとみていい。

4;スラム(低級住宅地)のでき方として君たちに知っておいてほしいのが「先進国は都心がスラム化し、発展途上国は都市周辺がスラム化する」というセオリー。農村から多くの人口が流入するものの、都市がそれらを受け入れることができず、外側にスラムが張り付き、さらに拡大を続けるものが発展途上国の大都市。一方、先進国においては、歴史の古い街が多く、建設されてからずいぶんと長い年月が経っている都心部の建物や施設の老朽化が著しい場合があり、そこがゴーストタウン化することも多い。人口が出て行き、産業も出て行く(注1)ことにより真空状態となった都心に、外から移民や低所得者が流入し、スラムが形成されていく。

以上のことを念頭において考えていってほしい。「先進国においては都心にスラムが形成される」は真理であるが、しかし経済力のある先進国がこのような状態を放っておくだろうか。できることならこの地域をクリーンアップし、近代的な都心地域として復活させたいわけだ。ここで「再開発」がキーワードとなる。都心部の老朽化した施設やスラム化した街並みを取り壊し、高層ビルなど建設し、オフィス街や商業地区として生まれ変わらせるのだ。

ここで選択肢の文章参照。「老朽化した商工業地区」とはまさに都心のことであるが、ここを「再開発」することはまさしく正解。若干引っかかるのは「ウォーターフロント開発」かもしれないが、これにしても老朽化した都心の再開発と同じ意味。大都市とはそもそも港湾を中心に発展を遂げているケースが多い。つまり港湾が「都心」となっているわけだ。ウォーターフロントとは「水辺」の意味で、つまり古くから開発されていた港湾地区と考えることも可能。近年こういった地区の老朽化が進みスラムも形成されることもあったが、再開発によって近代的なオフィス・商業地区へと変化するケースも多い(注2)。

(注1)日本のドーナツ化現象とはぜんぜん違うので注意。人間は出て行くが、逆に産業は集中する。ヨーロッパや米国の都心は荒廃・老朽化によって人々は町を捨てるのだが、日本の場合は高地価によって住むことができなくなってしまうだけ。

(注2)やや発展的な内容だが記しておこう。ウォーターフロント再開発の代表例として挙げられるものに、ロンドンのドックランズ地区と横浜のみなとみらい21がある。いずれも都心近くの地域に高層ビルが建設され、オフィス、マンション、商業施設などに利用している。

[関連問題] 1;センター過去問でスラムの形成がネタとして取り上げられているのは、マニラやバンコク、メキシコシティなど首都も多いが、ムンバイやコルカタ(ともにインド)、ラゴス(ナイジェリア)、リオデジャネイロなど首都ではない人口最大都市(コルカタは人口第2位だが)も多い。過去問を解きながら、これらの都市名が出てきたら確認しておこう。

2;02B本第4問問6選択肢5がわかりやすい。発展途上国の大都市で公害がひどいことが話題とされている。

4;再開発ネタは多い。98B追第3問問4が代表例。

[対策・今後の学習] 都市問題というのは意外に出題率が高い。とくに追試験でその傾向が強いが、本試験でもほぼ例年出題されているとみていい。都市に関する問題というと君たちはまず都市名を覚えようとするが、センター試験ではむしろそれはマイナス。各都市特有の具象的なことよりも、一般論として都市でどのようなことが起きているのか想像することが大事。君たちの多くも都市生活者なのだ。身近な問題として考えていく姿勢が必要となってくる。

 

問3 [評価] 図を見て答えるだけの問題なので簡単。こういった問題を落としてはいけないね。

[解法] それぞれの選択肢を検討していこう。

1;発展途上国というのは一般的にいって、1人あたりGNIが数千$/人に満たない国々のこと。南アメリカ最大の工業国ブラジルで4000$/人ぐらいなので、「大半が発展途上国」という部分には間違いはないだろう。ここで図を確認。「5歳未満児の死亡率が高い国が多い」だろうか。「中」程度の国が多いようだが。

2;先進国というのは、1人当たりGNIが20000$/人を超える国。日本や米国、西ヨーロッパの国々、そしてカナダやオーストラリアがこれに該当するとみていい。たしかに先進国はみな「低」となっているようだ。

これに対し東南アジアであるが、「中」の国が多く、一部に「高」の国(ミャンマーやカンボジア)さえ存在する。決して「先進国と同程度に低い」とはいえない。

3;ヨーロッパを見てみよう。「旧社会主義諸国」がどこかわからなくてもかまわない。ヨーロッパ全域にわたり「高」はみられない。

4;「地中海沿岸のアフリカ諸国」を確認。「中」の国が多いようだ(具体的な国名を挙げれば、リビアやアルジェリアがこれに該当する)。「熱帯アフリカ」とは低緯度の赤道周辺の国々であろう。確かに「高」の国が多く(これも具体的な国名を挙げておこうか。ナイジェリアやコンゴ民主など)、地中海沿岸のアフリカ諸国とは明らかな違いがある。

「1人当たりの所得水準」とは1人当たりGNIのことであるが、これはリビアやアルジェリアの方が、ナイジェリアやコンゴ民主より高いのだろうか。リビアやアルジェリアはOPECの加盟国でもあり、オイルマネーの豊かな国を考えられ、経済レベルは低くはないだろう。これに対しナイジェリアは同じくOPECに加盟する産油国であるが、こちらは1億人を超える莫大な人口を抱えるために、1人当たりGNIはどうしても低くなってしまうのだ。コンゴ民主はダイヤモンド鉱や銅鉱などを産するが、原油に比べれば世界経済に与える重要度は低く、やはりこの国も低所得国である。

[関連問題] 00B本第1問問4が出題形式としては似ているが、とくに類題というほどのものでもないだろう。

[対策・今後の学習] 一般的にいって、1人当たりGNIが20000$/人を上回る国を先進国といい、1000$/人程度ならば発展途上国という定義がある。ただし本問の場合はそこまでの区分は必要ではなく、西ヨーロッパの国々と日本、そしてカナダや米国、オーストラリアが先進国、アジアやアフリカ、南アメリカの国々が発展途上国ととらえておけば十分に解答できたはず。つまりあくまで常識的なセンスさえあれば確実に得点できたということ。もちろん、だからこそ、ミスは許されないわけで時間はいくかかかってもいいから、しっかり取り組むことが必要とされる。

 

問4 [評価] 難問。難民の数を話題とした問題はセンター初出であり、私大の問題でもほとんど見かけない。さらに考える手がかりとなる材料が少なすぎる。決定的なものがないだけに、勘に頼って解くしかない。落としてもやむを得ない問題だと思う。 

[解法] まず表を見ながら分析していこう。米国(人口2.8億人・1人当たりGNI35000$/人)はさすがに大国だけあってかなりの申請・受入人数。率はやや低いものの、これは受入が少ないというより、申請が多いことの裏返しだろう。

イギリスも健闘している。6千万人・25000$/人というヨーロッパの大国の一つでもあり、難民問題には積極的。申請も多く、受入も多い。

フランスはイギリスと同じサイズの国(6千万人・25000$/人)であり、難民申請も受入もやはりイギリスに匹敵する大きな数字。

カナダには驚かされる。3千万人・20000$/人という先進国としてはかなり小さい規模の国であるが、それでも難民問題には積極的で、とくに受入人数はビックリの多さ。

さてここからである。選択肢参照。A・B・Cに該当するのはイタリア・ドイツ・日本のいずれか。表中の米国とカナダは外して考えるしかなかろう。この2カ国は選択肢の3つの国とあまり関係がない。注目すべきなのはEU。共通通貨ユーロが使用されているなど経済統合ばかりが際立つが、さらにこのグループは将来的な政治統合までを視野に収めている(いつか「ヨーロッパ国」が実現するのだ!)。

このことを考えれば、イギリス・フランスとドイツ・イタリアが現時点で全く異なった政策をとっているとも思えない、もちろん難民についても。つまりたった一つだけ難民問題に消極的な政策を施行していると思われる(数字が極端に低い!)Cを、EU圏外の日本とみなしていいのではないだろうか。

さらにAとBであるが、これについては国の規模や経済レベルを考えればいいだろう。ドイツは8千万人・25000$/人の国、イタリアは6000万人・20000$/人の国。さあどうだろうか。イギリスやフランスの数字を元に考えれば、ヨーロッパ最大の国ドイツが多くの難民を引き受け、むしろ中堅国に過ぎないイタリアについてはこのぐらいの数値にとどまっても別に不審な点はないだろう。よってAがドイツ、Bがイタリア。

今回、申請人数と受入人数という「実数」にのみ注目し、受入率という「割合」は考慮しなかったが、それで別に構わないだろう。受入率にさほどの意味が(この問題を解く上では)あるとは思えない。

[関連問題] 全く思い当たらないのだが。誰か教えてくれ!

[対策・今後の学習] こんな感じで僕はドイツやイタリアの国の大きさを基準に解いてみたのだが、それで十分正解できたので、おそらくこれが作問者の意図通りの解き方だったと思う。君たちもこうやって人口や経済レベルを当てはめながら考えていくという習慣をつけてほしい。

しかしどうなんだろうね、日本。もちろんこの申請と受入の少なさについてはさまざまな

う~ん、作問者の意図としては問題が解ける解けないうんぬんよりも、こうやって我々日本人の意識に訴えることが目的だったんじゃないだろうか。そうしてみると何とも深い問題ともいえるなぁ(嘆)。

 

問5 [評価] 人口を知っとけってだけの問題だね、カンタンカンタン。

[解法] 人口だけで判断したらいいでしょう。人口1億7千万人のブラジルがP、同じく1億4千万人のバングラデシュがQ、1億人のメキシコがR。

[関連問題] さまざまな国の人口規模を話題としたものは多いが、とくに本問については関連問題どうのこうのということもないような。

[対策・今後の学習] 人口は知っておけということで。

ついでなんで他のこまごまとしたことも解説しておこうかな。

まず人口について。これはこの3カ国については絶対知らなくてはいけないのだから今さら言うことはない。ただしちょっと気になるのはエジプトの人口。完全な砂漠の国(つまり植物が存在しないのだ!)としてはかなり人口多い方だよね。ナイル川の存在がいかに大きいかがわかる。天水はこの国を救ってはくれない。5千万を超える人口は全てナイル川が支えているのだ。

1人当たりGNIについて。かつては1人当たりGNP(1人当たり国民総生産)という言葉で登場していたんだが、04年からはこのGNIという言い方が目立つ。今後はこれで統一してくるのかな。

それはさておき、メキシコとブラジルの数千$/人に達する経済レベルは統計でもチェックしておく。目安として1人当たりGNIが20000$/人を超える国を先進国、数千$/人に満たない国を発展途上国というのだが、発展途上国の中でも近年工業化を成し遂げたことによって経済レベルが数千$/人を上回るようになった国々のことをNIES(新興工業経済地域)とよび、それ以外の発展途上国とは明確に区別するようになった。このカテゴリーに当てはまるのが、韓国やシンガポール、ホンコン、台湾といったアジアの新興国家、さらにポルトガル、そしてメキシコやブラジルなのだ。メキシコは米国に隣接するという位置的優位点を生かし近年は電気機械工場の進出が目覚しく、ブラジルは南半球最大の工業国として機械・自動車・鉄鋼などが代表的な輸出品目となっている。

一方、バングラデシュは非常に1人当たりGNIが低いようだが、とくにこれといった工業も発達しておらず、世界で最も貧しい国の一つとなってしまっている。

平均就学年数についてはどういう意味なのかもよくわからないのでパスしていいでしょう。1人当たりGNIに比例しているような気もするが。

 

問6 [評価] 単なる統計問題ともいえるのだが、どうだろう。意外に苦戦したかな。でも候補となる国が限られていることもあり、何とかなった人も多いんじゃない?

[解法] 「二酸化炭素排出量」に関する統計であるが、これはあまりおなじみではない。むしろこれを「エネルギー消費量」の表だと思って解いたらいいと思う。二酸化炭素はもちろん人間が呼吸しただけでも増加していくのだが、主たる発生源はやはり燃料の使用による。「エネルギーの使用量の多い国で、二酸化炭素の発生量も多い」と考えていいだろう。

このことからアを米国とする。世界一の無駄遣い国であり、エネルギー使用量もかなり多い。当然二酸化炭素も多く排出する。この国は世界のエネルギーの約4分の1を使用しているのだが、二酸化炭素もそれに応じた排出量になっているようだ。

イは中国。発展途上国でありながらこれだけの排出量を疑問に思う者もいるかもしれないが、確かに経済レベルは低いものの、人口が巨大であるため、総合的にみればかなり工業のさかんな国といっていい。エネルギー使用量も米国に次ぐ世界2位である。またこの国の二酸化炭素大量排出の原因の一つとして挙げられるものが、石炭に過剰に頼るエネルギー事情である。石炭は他の燃料資源(原油や天然ガス)に比べ、不純物(硫黄など)を多く含むため燃焼効率が悪く、どうしても二酸化炭素の排出が多くなってしまうのだ。燃えにくいため、一定のエネルギーを獲得するためには長く激しく燃焼させる必要があり、無駄な二酸化炭素を発生させるというしくみ。

そして残ったウがロシア。人口もさほど多くなく、経済レベルも低い貧しい国なのでせいぜいこんなものだろう。工業力もないし。それでも日本より上の数値というのには驚かされるが(それだけわが国が二酸化炭素の排出には注意しているということなのかもしれないが)。

それにしても、米国2.8億人、EU4億人、日本1.2億人という人口規模を考えると、EUと日本については1人当たりの排出量にさほどの違いはなく、まぁこんなもんかなとも思えるのだが、米国の配慮の無さには今さらながら驚かされる。米国がより効率のいいエネルギー利用を進めれば、多少は二酸化炭素によってもたらされる地球温暖化の心配も緩和されるとは思うのだが。

もちろん中国やインドなど発展途上国の排出も見逃すことはできず、これらについては人口の多さや石炭に頼っているなどの要因もあるものの、やはり今後の改善が求められる部分ではあると思う。

あ、それから言うまでもないけど日本もね。さらに省エネを進め、環境国として世界をリードできる立場になっていくことが求められているわけです。

[関連問題] 環境問題ネタ自体がそもそも地理Bでは珍しかったりするのだが、とくにこのような統計の形で出題されたことはないんじゃないかな、ちょっと記憶にない。

[対策・今後の学習] 二酸化炭素排出量というデータはないかもしれないが、統計資料を探れば、エネルギー消費量に関する表はみつかるはず。そこでいかに米国が圧倒的なエネルギー多消費国であり、それだけ二酸化炭素の排出量も多いということを知っておこう。

それ以外にはやはり人口規模ぐらいをもう一度確認しておいて、いつでも問題を解くカギとして使えるよう頭の中にスタンバイさせておくことが大事かな。

 

問7 [評価] とにかくこの大問って今までに見かけなかったタイプの問題が並んでいて、これもその一つ。年表と使うという出題形式も異例だが、この原発ネタも(原発自体の出題はないことはないが)この手のものは見たこと無い。かといって捨て問になるような悪問という気もしないし。追試験は本試験に比べて実験的な性格が強いということなのだろうか。

[解法] 原発についての問題。現在原子力発電所の新規開発をさかんに行っている国はヨーロッパにはない。よって1が誤りとなる。どうかなあ、ちょっと知識に偏った印象もあるけれど、何となくでも解けるような気がするんだが。

ここから後はやや複雑な説明になるので、面倒な人は読み飛ばしてください。

表2参照。このような年表が問題として取り上げられるのは初のケース。今後もこのような出題形式があるかもしれないが、現時点ではとくに意識しなくていいだろう。

一応解説。

1972年にスウェーデンの首都ストックホルムで国連人間環境会議が開催された。国連が主導となって、人間と環境について考える会議ということで、まだこの時点ではあくまで人間が主役として考えられていたのだろうか。北欧が舞台とされたのは、この時期に酸性雨の被害がとくに深刻化しつつあったからだ。

この国連人間環境会議によって設立が決定されたものが国連環境計画という組織。略称はUNEPで本部はケニアのナイロビに置かれている。アフリカに本部があるというのも珍しいが、人口爆発とそれに伴う環境破壊が深刻な大陸であるだけに、このような組織の本部がこの地に存在することには意味があると思う。この表にあるように1982年に会議が開かれているようだ(僕は知らなかったけどね・涙)。

国連人間環境会議から20年後、場所を南米リオデジャネイロに移して開催されたものが国連環境開発会議で、これを地球サミットという。熱帯林の喪失が進むブラジルではあるが、例えばこういった発展途上国においては「開発」が最優先課題なわけだ。それに対し、先進国の人々は「環境」の大切さを訴える。環境か?開発か?という問い掛けは、我々現代に生きる人々にとって最大の命題でもある。「持続可能な開発」というスローガンが掲げられ、この会議は締めくくられたのだが、なんともあいまいなスローガンのような気もする。バランスを保ちながら開発を進めるという意味だろうが、英語の「サスティナブル・ディベロップメント」の直訳でもあり、日本人にはどうもピンとこない言葉となってしまっている。

国連環境開発サミットというのはよく知らないが、2002年にヨハネスバーグで開催されたようだ。南アフリカ共和国を代表する都市で、金鉱などで有名なところ。

簡単にそれぞれの事項について解説してみたがどうだろう。たしかに1992年の地球サミットは有名であるが、それ以外はとくにメジャーなものでもない。72年の国連人間環境会議はまだ名前を聞いたことあるものの、82年と02年の会議は僕も全く知らなかった。不勉強で申し訳ないが、少なくとも地理で話題にされるようなものではないだろうし、君たちもチェックの必要はない。

選択肢の文章を検討していこう。

1;W国とはスウェーデンのことであるが、先にも述べたようにこの国に限らず現在原子力発電の建設をさかんに行っている国はヨーロッパには存在しない。例えばヨーロッパの原子力発電国としてはフランスが有名であるが、少なくとも最近は新たな原発はつくられていないし、将来的には次第に廃止の方向にあるのだろう。スウェーデンにしても水力発電と原子力発電によって電力を得ている国なのだが、他のヨーロッパ諸国同様に原発は削減の動きにある。

一方、日本では現在も原子力発電所の建設が、さかんとは言わないまでも、なされている状況である。ただし世界有数の地震国家日本がこれでいいのかという疑問はやはり大きいのである。わが国にとどまらず米国や中国などでも原子力発電は行われているものの、これらの資源大国(あるいは中国ならば巨大ダムの建設が進められている)ならば将来的な脱原発も容易かもしれないが、日本の場合はどうだろう?そう簡単に原子力発電を捨てきれないところに我々のジレンマはある。

2;X国はケニアであるが、この国でとりわけ砂漠化が進行しているというわけでもなかろう。まあ、選択肢1が決定的に誤りだから、この選択肢2については一般論として「アフリカで砂漠化が顕著である」というように納得するしかないのかな。

ただちょっと気にかかる点がなくはない。砂漠化というのはステップ(草原)から植生が消える状況のことをいい、原則として乾燥気候下でしか生じないものなのだ。それに対し、サバナというのは気候区分としては熱帯気候に含まれ、その見地からすると「熱帯気候でなぜ砂漠化が?」という疑問にぶち当たってしまう。そうなるとこの選択肢はやっぱり誤りになるのだが。そこまで気にするなってことかな。ちょっとあいまいやなぁ(涙)。

3;ブラジルの熱帯林減少の話。これは否定するところはないね。アマゾン川流域に道路を建設し、周囲に牧場や農地、鉱山などを開いていく。

4;Zの南アフリカ共和国は94年に人種隔離政策(アパルトヘイト)に基づく法律を全廃し、黒人の政治的な権利を保障した。ただしだからといって自動的に「経済的な平等」まで実現されたとみていいだろうか。むしろここで実現されたのは「経済的な自由」であり、それは自由な経済活動によって「豊かになる自由」であると同時に「貧しくなる自由」でもある。参政権などは認められたものの、やはり黒人の社会的地位は低く、それゆえに未だ貧困にあえぐ者も多いのだ。スラムとよばれる低級住宅地に住む彼らは、貧困ゆえにその「居住環境の改善」など程遠い話である。

[関連問題] 1;原子力発電に関する問題は00B本第3問問2ぐらいしか思い当たらない。ただしこれからはもっとたくさん出題されるんじゃないかな。カンだけど、そんな気がするよ。

2;ケニアや砂漠化に関する問題は過去問多数。ここでは省略。

3;ブラジルの熱帯林に関する問題も多数。02B追第1問問5、99B追第1問問6などが典型例。

4;南アのアパルトヘイトに関する問題は97B本第5問問7。アパルトヘイトが廃止され、政治的な権利は保障されるようになったが、人種間の経済格差は未だ大きく、経済的な平等には程遠いことが延べられている。

[対策・今後の学習] 統計を参照すれば、原発の開発状況に関するデータは登場している。例えば二宮書店統計要覧2004ならば90ページの左上の表。おもな国の原子力発電所開発状況とあり、現在でも積極的に開発を進めようとしている国は日本と韓国ぐらいであることがわかる。

ただしこういった細かなデータを自分の力でチェックしておこうにも限界がある。センター過去問にもとくに登場していないし、教科書や参考書でも強調されているわけでもない。だからこそ、こういったデータを君たちに意識的に紹介できる存在として講師の力が重要になるのだろうなあ。センスのある講師ならば、こういった事柄は確実に授業の中で取り上げていくと思うよ。君たちは講師の一挙手一投足に注目し、その発言に耳を傾けてください。う~ん、責任重大やな(笑)。