2017年度地理B本試験[第3問]解説

たつじんオリジナル解説[2017年度地理B本試験]第3問     

 

今回の大問のなかで最も難易度が高かったんじゃかなって思う。とくに問4なんかすごく難しかったんじゃないかな。逆にいえば、この大問でミスを最小限に抑えることができれば、高得点につながるわけです。

 

問1[ファーストインプレッション]写真がわかりにくいですが、こうした問題で写真そのものの判定が必要なものはほとんどないので、大丈夫でしょう(笑)。具体的な都市名より、理論的な部分を強調して考えてみよう。

 

[解法]誤りを一つだけ指摘する問題だから、丁寧にキーワードを探していってね。「対になる言葉」を持つ語に注意しよう。言葉をひっくり返すだけで誤り選択肢をつくれるのだから、おいしい。

例えば、①ならば「郊外」なんていう言葉。どうかな。でも郊外にこのような(っていうか写真がよくわからないんだけど・笑)集合住宅が建設される例は日本にもあるし、とくに問題ないと思う。

だからこそ、選択肢②の「都心部」が気になるのだ。言うまでもなく。都心部は郊外と対になる言葉というか反対語。都市圏(通勤圏と同じ)において、昼間人口が大きいエリアが都心部ならば、夜間人口が大きいのが郊外。都心部には企業オフィスや官庁街がみられ、地価が高いので、住宅も一戸当たりの延べ床面積が小さいマンションなど。郊外は、地価も安く、土地が得やすいため、新興住宅地区となりやすい。この点を意識してみると答えは簡単だと思う。「庭や車庫を持つ低層の戸建て住宅」が都心部にみられるか。それって郊外が中心じゃないか。②を誤り選択肢とする。都心部にみられるのは「高層の集合住宅(マンション)」だね。対になる言葉にとにかく注目してみよう。

選択肢③や④にはここまで明確な「対になる言葉を有する語」は含まれていない。

 

[難易度]ベーシックな都市構造の問題ではあるんだが、そこに気付くかどうか。 ★★☆

 

[参考問題]2009年度地理B本試験第4問問4。これはそのまんまでしょ。内容しっかり吟味してください。

 

 

問2[ファーストインプレッション]エッセンなんて登場していてちょっとビックリ。逆にこういったマイナーな都市名は無視して考えたらいいから問題ないんだけど。一昨年からドイツの都市名がやたら登場しているんだけど、何かの伏線かな。今年はターチンが出ているし。

 

[解法]それぞれの選択肢を検討していこう。

①は誤り。「唐の長安」は正しいが、問題はその形状。「放射・環状」でないね。「直交路型」あるいは「碁盤目状」。平城京や平安京の形を考えればいいね。もっとも「古代」というのは奈良時代までだから、平城京だけを考えるべきかも知れないけれど。平安京の平安時代は中世なのです。

②も誤り。ちょっとした歴史ネタではあるが、徳川幕府の統制が行き届いた封建社会の江戸時代において、自由都市は一般的なものではない。領主の力が及ばず、商人が中心となって自らの財力で都市の防備を固め(兵など雇って)、自由に商業を行なっていた都市。日本では港町である堺がこの例であり、世界的にみるとドイツ北部のハンブルクなどがハンザ同盟都市という自治都市のグループを形成していたことで有名。

③も誤り。そもそも「西部開拓時代」と「タウンシップ制」が符合するかがちょっとした疑問だったんだが、ここでは「集村」が決定的なNGワードになっていますね。タウンシップ制は「散村」です。

以上より、残った④が正解になる。エッセンという都市は知らない方がいいと思う。ここではマンチェスターに注目しよう。イギリスは、ロンドンが位置する南部を除けば、土地が肥沃ではなく(大陸氷河によって土壌が削られたのだ)、古来より農業を基盤とする都市は成立しなかった。産業革命である18世紀後半に、炭田が開発され、各地で工業が勃興すると、これまで居住に適さない地域だったイギリスの中部や北部に多くの都市がつくられるようになった。ランカシャー地方のマンチェスターはその中心的な都市であり、インドから輸入した綿花を利用した綿工業が発達し、産業革命を象徴する街となった。「近代」というキーワードにはさほど神経質にならなくていいと思う。とりあえず「比較的新しい時代」と捉えれば十分であるし、19世紀後半ならそれに十分あてはまるだろう

 

[難易度]正文を選ぶ問題であるだけでも(誤りを3つ指摘しないといけない)難易度が高いことに加え、「自由都市」といった新しい言葉も登場(2015年にハンブルクが問われた際にもこの言葉は用いられなかった)。難しいと思います。間違えても、しゃあないんちゃうかなぁ。★★★

 

[参考問題]2007年度地理B本試験第3問問1。「産業革命期のヨーロッパでは、政治・商業機能を中心とした都市に加え、工業都市が発達した」という正文が登場。この典型的な例こそ、マンチェスターなのである。

 

 

問3[ファーストインプレッション]今年はオーストラリアの出題が多いような気がするね。特徴が多い国でもあるし。本問も、見慣れないデータではあるけれど、オーストラリアの特徴をしっかり把握しておけば十分解ける問題になっている。求められる知識のレベルは中学程度。思考力が重要なのだ。

 

[解法]「人口の偏在の度合い」と「1人あたり総生産の国内地域格差」というかなり変わったデータが取り上げられている。とくに後者については注釈すらないので、想像しないといけない。

もちろん重要となるのは前者の方。注釈を参考に考えてみよう。「総人口のうち、人口密度の高い上位10%の地域に住む人口の比率」とある。なるほど、「人口密度の高い地域」とはすなわち市街化された都市のことだろう。都市に極端に人口があつまり、それ以外の地域(農村など)にほとんど人が住んでいない国ならば、④のような高率となる。日本もかなり「都市への偏在」が高い国ではあるけれど、それでも④には及ばない。オーストラリアを想像してみよう。総人口は2000万人だが、シドニーとメルボルンがそれぞれ400万人を超えるなど、国の規模に比べて人口が大きい都市が多い。砂漠やステップが多く都市以外の地域には居住しにくいし、農業も企業的な大規模化が進んでおりいわゆる農家は少ないと思われる。居住に適した都市に集中して人々が暮らしているというイメージは容易に持てるだろう。④がオーストラリアとなる。

参考までに「1人当たり総生産の国内地域間格差」についても検証。発展途上国は経済規模が小さいため、投資が特定の都市に集中するっていうセオリーはわかるよね。いわゆるプライメートシティができやすいっていう理論。先進国の場合は経済規模に余裕があるから、国内にいくつも大都市ができるが、発展途上国は道路や上下水道、発電所、港湾、飛行場といったインフラについては多くをつくることができないので、「たった一つ」の都市のみにそれらが集中し、国内で突出した存在となる。農村から都市に向かって多くの人々が仕事を求めて移動することからわかるように、こうしたプライメートシティと、そこから離れた農村との経済格差は極めて大きい。「1人当たり総生産の国内地域間格差」が、発展途上国であるインドで大きく、先進国の日本で小さいのも納得なんじゃないかな。大都市圏以外の地方も比較的豊かな日本と、国内の貧富格差が大きいインド。②と④は先進国であり、格差は小さい(オランダとオーストラリア)のに対し、①と③は発展途上国であり、格差が大きい。

なお、①と③については判定の必要はないけれど、③の値の大きさが異常。1人当たりGNIで考えると、メキシコと南アフリア共和国はともに1万ドル程度であるのに対し、インドは2000ドルに過ぎない。「最貧国」ともいえるインドより格差が大きいところってどこだ?これ、おそらく南アフリカ共和国なんだと思う。アパルトヘイトが撤廃され20年以上が経っているのだが、それでもヨーロッパ系とアフリカ系の人たちの格差は埋まらない。政治的には平等であり、選挙においてはアフリカ系の大統領も生まれているのに関わらず、経済はまだまだ不平等なのだ。ヨーロッパ系が住む大都市の都心地域と、アフリカ系が中心の貧困地域との格差がいかに大きいか。

 

[難易度]初登場のデータなので、考えないといけない。でも、オーストラリアでは、国土の半分以上が乾燥地域なのだから、都市部に極端に人口が集まっていることは、十分に想像できるはず。思考問題として解こう。★☆☆

 

[参考問題]2015年度地理B本試験第2問問3。オランダの「狭さ」が問われている。面積に対するイメージも大切だと思うよ。

 

 

問4[ファーストインプレッション]おっと、おなじみの図だなと思ったけれど、問題内容をみてびっくり!これ、めちゃめちゃ難しくないか!?バブル期の「1985年〜1990年」はともかくとして、低成長期に入った「1995年〜2000年」、「2005年〜2010年」の差はわからん???

 

[解法]それにしてもよく見る図だよね。ただし、本問の場合はかなり最近の時期の人口増減の様子が問われている。かなりの難問。

東京大都市圏については、高度経済成長期初期には都心部から30キロメートル程度の範囲にニュータウンが多く建設されていたが、やがてその範囲が50キロメートルという遠隔地に拡大。その一方で、都心部の人口が減少するドーナツ化現象が進行していた。

高度経済成長が終わり、1980年代に入ると人口流動は一旦落ち着きをみせるが、現在に至るまで東京大都市圏全体の人口自体は増加の一途である。

おおまかに以上のような流れが意識できていれば十分。ただし、非常に重要なトピックが一つあり、それが「都心への人口回帰」。ウォーターフロントで工業地域が再開発され住宅地になったり、高層マンションの建設について規制緩和があったり、あるいはライフスタイルの変化によって一戸建て信仰が崩れ都心のマンション人気が高まったり、いろいろな理由が合わさり、東京都心部の人口が急増している。もちろん、1960年代からの長いスパンで考えれば、ドーナツ化現象によって大きく人口が減少したことによる「リバウンド」と考えることも妥当だが、とにかく現時点で「東京都が最も人口増加率の高い都道府県である」ことは絶対に知っておいて欲しい。

本問についても、この一つのネタだけで解いてしまっていいと思う。まず、最も古い年代は(古いといっても、感覚的には最近なんだが)、クである。東京23区の範囲が「白」となっており、人口が減少していることがわかる。地価の高騰と居住環境の悪化によるドーナツ化現象が継続している(地価が高いのがバブルっぽいね)。

それに続くのがカ。東京都心部に「黒」の地域がややみられるようになり、一部に「白」は残っているものの、次第に人口が増加してきたことがわかる。

最も新しいのがキ。「黒」の部分はあまり変化していないが。「白」が消え、山間部を除く東京都全体が人口増加地域となってきた様子が伺える。正解は⑤である。

なお、千葉県にも注目してみようか。「郊外」の代表的な県として長い間高い人口増加率を誇ってきた千葉県ではあるが、いよいよ最近になって人口が減少傾向にあるようだ。カを見る限り、また「黒」の地域がみられ、成田空港の周辺地域などではこの時期でも住宅開発がさかんだったことがわかるが、2000年代に入ると開発も終わり、南部や東部など広い範囲で人口減少が目立ち、県全体でも人口は停滞(あるいは減少)していることが想像できる。

現代の人口変化については、徹底的に「東京」にこだわること!

 

[難易度]これは難しいでしょう。東京都心に注目すれば何とかなるかな。 ★★★

 

[参考問題]2012年度地理B第3問問4。ほぼ同じ問題(ちょっとだけ年度がズレているんだが)っていうのがビックリ。ただ、同じ階級区分図とはいえ、階級の区切り方がちょっと違うので注意してね。2017年の問題は「10%以上」を「高」としているけれど、2012年の問題では「20%以上」が「高」。1980年代までの人口移動の方が規模が大きかったということがわかる。ただ、それよりも本当に東京都心部の変化に注目して欲しい。高度経済成長期からバブル時期までは一貫して東京都心部の人口は減少し、顕著な「ドーナツ化現象」がみられた。それに変化がみられるのが1990年代後半。東京都心部における人口減少地域が狭まり、一部では人口の増加がみられた。2000年代に入ると、東京都心部で人口減少地域は無くなり、逆に増加傾向が明確になった。再開発によるジェントリフィケーションを伴う「都心への人口回帰」の時代となったのだ。

 

 

問5[ファーストインプレッション]統計指標と階級区分図の組合せを問う問題と思ったけれど、実はそうじゃなかったのね。「みるだけ問題」でもあるし、難易度は高くないでしょう。

 

[解法]図をみながら文章の正誤を判定する問題であり、特別な知識は不要。それぞれの文章を検討していこう。

①;三大都市圏は、東京大都市圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)、名古屋大都市圏(愛知県)、大阪大都市圏(大阪府・京都府・兵庫県)。たしかに三大都市圏の老年人口率は全体に低位と中位であり、非大都市圏(三大都市以外の地域)で高位が目立つのとは対照的。正文。

②;老年人口の増加率を参照。たしかに三大都市圏の都府県は高位ばかり。正文。北海道も高いね。今まで老年人口割合が低かっただけに、急激な高齢化が目立っているのだ。

③;老年人口1000人当たりの養護老人ホーム定員数については、三大都市圏では低位が目立ち、高位はない。③が誤りである。都市部では急激な高齢者の増加に対応できていない。

④;この選択肢は検討する必要はないが、参考までに。高度経済成長期とは1960年代を中心に、1950年代後半から1970年代前半まで。現在より40年以上前の時代であり、このj期に流入した20歳代や30歳大の若年層も、現在は60歳代や70歳代となっている。

 

[難易度]「みるだけ問題」。もちろん三大都市圏の意味を知っておかないといけないけれど、それは何とかなるんじゃないかな。★☆☆

 

[参考問題]2010年度地理B本試験第4問問4。かつてのニュータウンで世代が高齢化し、「オールドタウン」となっていく。かつて若者が多かった街もやがて高齢化問題に直面するのだ。