2006年度地理B追試験[第6問]解説

2006年度地理B追試験[第6問]

本試でも06年は第6問は難しかったが、その傾向は追試でも共通している。なかなか難しいと思うよ。マイナーな国名も登場しているし、文章問題のニュアンスもちょっと今までとは違った印象を受けるのだ。

問1や問6のルワンダ、問2のハンガリー、問4のトンガなどいずれもセンターではあまり登場しない国。問5の淡水資源量なんていうのもセンターでは初登場(とはいえ、この問題については人口がわかれば解けちゃうんだけどね)。

問1 [講評] 一瞬戸惑った。簡単じゃないぞ。ある特定の国に関する知識が必要となってくる。もちろんそのネタは過去にも登場しているけれども。っていうか、問6の問題とカブっているんじゃないかって思うんだけど、気のせい?

[解法] 選択肢1~4まで、実に「それっぽい」んだよね。はっきりと消せる選択肢はない。だから特定の国に対する知識で解答を求めないといけないんだが、図1において最も「目立っている」のはどこかな。「60万人」の円を持つ国がいくつかあるんだが、その中でも特徴的な国は赤道直下に近い小国だろう。こんな小さな国なのに60万人だなんて!?ってビックリするわけだけれど、この国こそ「ルワンダ」という国である。ルワンダといえば、内戦(この話題は問6でも登場。ネタがカブってるじゃない?)が勃発し、多くの難民が発生した国。その多くは先進国には救済されず、隣国であるコンゴ民主(この国だって危ない国だぜ)に避難した。このことを考えれば「ルワンダ=難民」と結び付けられるんじゃないかな。3が正解となる。

[学習対策] 単なる知識が問われているだけであり、どうもおもしろみはない。センター試験の作り方の基本線(アウトライン)から外れているような印象を受けるのだ。

せっかくなので外れ選択肢についてコメントしていくと。。。

選択肢1についてはよくわからん。英語が使えるケニアや、白人の富裕層が存在する南アフリカなんかが多そうな気はするんだけどね。

選択肢2については、おそらくアルジェリアとモロッコの値が大きくなると思う。ともに旧宗主国はフランスであるが、フランスにとってもアフリカからの移民の流入は顕著である。

選択肢4については全然わからないや。そもそもアフリカに世界的な企業なんてほとんどないんだから、先進国に派遣される駐在員も少ないと思う。

問2 [講評] ちょっと変わった問題。選択肢3や4を見ると、地理っていうより現代社会的な問題であるような印象を受ける。あくまで地理的な視点から問題文を検討していく姿勢が最も重要だと思う。

[解法] そもそも選択肢3のようなわけのわからない内容が解答なわけはないよ。これは除去しましょう。「犯人」じゃありません。

さらに選択肢4。これもよくわからん。センター地理で時事ネタが出ることはありえない(*)ので、これも除去。

残ったのは選択肢1と2。1は随分ネガティブな内容になっているね。たしかに世界はネガティブな方向に向かっている。ここでポイントになるのは「情報化の恩恵を受けられない人々も多い」という点。前半の「インドでは~増加しているが」については正しいことはわかるだろうが、問題は最後の部分なのだ。インドに関する問題ではしばしば「緑の革命」という農業改革が問われるが、「食糧増産には成功したが、貧富の格差はむしろ拡大した」というのがこのネタの肝要なところ。インドは「持つ者」と「持たざる者」がはっきりと分化されており、利益は全て「持つ者」つまり富裕層が独占し、「持たざる者」すなわち貧困な農民などは省みられることがない。

この定義にあてはめていくと、この選択肢1の正誤の判定は容易なのではないだろうか。貧富の差が極端に大きい格差社会のインド。富裕層はネットを利用する現代的な生活を送るのに対し、そういったものに触れることもできずに「情報化社会の恩恵」を受けられない人々はおそらく総人口の大半を占めているのだろう。1が正文で解答。「インド=貧富の格差が大きい」は鉄板だぜ!

というわけで2は誤文となるわけだが、どこが誤っているかわかるかな。結構簡単なんじゃない?「多くの外国企業が生産拠点を設けた」という点がまず大嘘。生産拠点っていうのは要するに工場のこと。外国のメーカーが日本に工場を進出させているって?冗談じゃない。そんなことがあるわけがない。高賃金国の日本に工場を進出させて生産活動を行うなんて、そんなアホなことをする企業があるかいな?ちゅうわけで、これは誤文です。

(*)ちなみに、センター地理で時事ネタが出た数少ない例として「ニューヨーク=同時多発テロ」があった。でもこんなん誰でも知ってるでしょ?センター地理で問われる時事ネタのレベルはこんなもんなので、逆に新聞なんて読まない方がいいよ。

[学習対策] センター地理に時事ネタや政治の話題は出ません。そのくらい決めつけておいた方がいいよ。逆に「経済ネタ」は徹底的に出る。選択肢1には「貧富の格差」という経済ネタが登場している。選択肢2には「工場は、1人当たりGNIの高い国から低い国へ」という経済に関するセオリーが登場している。地理は「お金」の学問なのだ。がめつい奴が勝利する(?)。

ちなみに、「工場の進出」と同義誤に「直接投資」という言葉もあるので知っておくといいね。日本は海外に多くの工場を進出させている。つまりわが国の「対外直接投資額」は大きいということ。逆に外国から工場は進出してこない。つまりわが国の「対内直接投資額」は小さいということ。良かったらこの言葉も知っておいてください。

さらにもう一点。選択肢2で気になる文脈が「国内雇用が拡大して産業が活性化した」とある。これに関連するものとして「産業の空洞化」という言葉を意識しよう。日本から海外へと工場が移転することにより、国内の製造業が衰退する。製造業従事者の失業率も高くなる。むしろここは「国内雇用が縮小して産業が停滞した」と改めるべきだろう。

問3 [講評] オランダとハンガリーが登場。ハンガリーの出題率って結構高いような。要チェックや!

[解法] ハンガリーに関して君たちが絶対に知らなくてはいけないこと。それは「肥沃な土壌」の存在である。ハンガリーは、かつてヨーロッパを覆っていた大陸氷河の末端部(外縁部)に当たり、腐植に富んだ肥沃な土壌が集められた場所。この土壌を「レス」というのだが、これを利用してハンガリー盆地は豊かな農業地域となっている。小麦の栽培だけでなく、ハンガリーは温暖なのでトウモロコシの栽培もさかんとなっている。

さらにオランダの農業について。オランダは「園芸農業」の国である。ホイットルセー農業区分による園芸農業とはどういった形態なのか。それは「穀物を作らないこと」である。都市周辺など面積が限られた耕地では、穀物のような収益性の低い作物の生産はなされず、他の収益性の高い農産物の生産が優先される。具体的には近郊農業をイメージしたらいい。ビニルハウスを使って野菜が栽培され、あるいは都市近郊の畜産農家が牛乳や鶏卵を生産する。

まさにオランダはそういった国なのだ。国ごと園芸農業のキャラクターを有し、「農業国」のイメージを持ちながら、実は穀物の生産には消極的で、野菜や花卉、球根や酪農製品などの生産と輸出に特徴がある国なのだ(*)。それらを販売することで利益を上げ、外国から小麦などの穀物を買っている。つまり、穀物自給率は極端に低い国なのだ。

以上のことから考えていくといい。「穀物自給率」にのみ注目しよう。わずか「24%」に過ぎないイが「園芸農業」国のオランダである。穀物以外を生産し、穀物は輸入に頼る国。何と銭ゲバな国なのだ!

逆にこの値が100を超え(っていうか「230」もあるけどさ)、穀物の輸出がさかんに行われているウが「肥沃な土壌」に覆われた国ハンガリー。人口規模わずか1000万人という小国であるため、小麦やトウモロコシの生産統計の上位には入ってこないが、非常に農業のキャラクターが強い国なのだ。

残ったアがスペイン。乾燥の度合いがやや高い国であり、穀物については自給が達成できていないのだろう。オレンジなど果樹の生産はさかんなんだけどね(スペインは世界最大のオレンジ輸出国)。

(*)園芸農業には、米国フロリダ半島のオレンジ栽培など果実の栽培も含まれるのだが、オランダは寒いので果実の生産はほとんど行われていない。

[今後の学習] ハンガリーが出てきましたね。この国についてポイントを整理しておきましょう。

「肥沃な土壌」;ハンガリーは、ヨーロッパ北半部を覆っていた大陸氷河の外縁部に当たり、肥沃な土壌であるレスが集まっているところ。「東欧の穀倉」として豊かな農業地域となっている。

「小麦とトウモロコシ」;肥沃な土壌を利用し小麦が栽培されているだけでなく、ハンガリーは温暖な国なのでトウモロコシの栽培もさかんである。小麦とトウモロコシの両方がキーワードとなる国は珍しいので、知っておくといいだろう。

「ドナウ川沿岸」;ハンガリーが農業国である一つの要因として、国土が低平で、耕地に恵まれているということがある。内陸国ではあるが、ドナウ川に沿う大きな盆地となっており、広い範囲に耕地が広がっている。なお、首都ブダペストはドナウ川を挟んで向かい合う二つの都市(ブダ市とペスト市)が連結して形成された双児都市である。

「アジア系民族」;豊かな農業地帯であるため、古い時代から多くの民族の侵略にあって来た地域でもある。とくに遠くアジアからモンゴル人がヨーロッパに進出してきた際には、ハンガリー一帯は侵略され、現在でもその子孫であるマジャール人が人口の大部分を占めている。ハンガリーはアジア系人種の国である。

またオランダの穀物自給率の低さについてもテーマとなっているので、この数値(約30%)は必ず知っておくべきだろう。先進国は一般的に穀物自給率が高いが、オランダとイタリア(約80%)、そして日本(約30%)は重要な例外である。とくに日本は米の自給率は高いが(約95%)、小麦やトウモロコシがそれぞれ約10%、約0%と低いため、総合したら約30%という数値にとどまっている。

問4 [講評] いきなりトンガなんて出てきてビックリだよね!でもこういった問題ではこんなマイナーな国名には騙されず、しっかりマレーシアとコートジボワールっていうメジャーな2国のキャラクターで勝負すればいい。簡単だぞ!

[解法] 基本的には農産物の統計一発でいける。

カは「パーム油」。これは油ヤシから採れる油脂で、生産第1位はマレーシア。

キは「カカオ」。コートジボワールが世界最大の生産国。

クは消去法。

[学習対策] とにかく農産物統計だけは徹底的にマスターしておくこと。それだけなんだよ。センター試験は統計が命なのだ。

ちなみにトンガは知らなくていいと思うよ。野菜の中でも比較的保存が効くカボチャについては南半球のニュージーランドからの輸入が多いわけだが、トンガはそのニュージーランドの近隣に位置する国。ま、問題ないでしょう。

問5 [講評] 「アクセス率」なんていうわけのわからない言葉が出てきて、一見すると難解な印象を受けるんだよなぁ。慎重に時間をかけて取組みましょう。

[解法] 問題文が長く、「アクセス率」なんていう意味不明の言葉も登場している。表も何だかごちゃごちゃしてるぞ。まずはしっかり読まないとなぁ。

選択肢の国をチェックしよう。エジプト、中国、ブラジル、ロシアだ。エジプトは乾燥した国土をもつことがポイントになるんだろうな。中国についてはとにかく人口規模が大きいことがポイントになるはず。ブラジルとロシアはどうでもいいかな。中国さえわかればいいんだからね。

ちゅうわけで、問題をゆっくり解釈していきましょう。

「淡水資源量」ってあるよね。おそらくこれは湖とか河川のことかな。これが最も少ない4がエジプトであることは間違いないと思うよ。

おっと良く見たら「1人当たり淡水資源」なんていう言葉があるぞ!?何やぁ、簡単じゃない?「淡水資源量」と「1人当たり淡水資源量」のデータがあるんでしょ?「人口」が簡単に計算できるじゃないですか。(計算省略)というわけで3が中国でした。終わり。

[学習対策] なんだ、おもしろい問題だと思って期待していたんだが、単に中国の人口の多さがポイントとなっただけのシンプルな問題じゃない?「1人当たり」という数値があったら、とにかく計算して人口を求めなさい。それだけの問題だね。

あ、でもこういった計算の手順を含む問題、僕は嫌いじゃないよ。いや、むしろ大好きだな。センター地理っぽい。

問6 [講評] 民族・宗教の問題。難しいね~。でもセンター試験ではマイナーな国の話題は基本的には問われない傾向がある。また、特定の民族名など固有名詞は「誤り」ではないという法則もある。それを考えれば自ずと「誤文となりえるキーワード」は見えてくるんだが。

[解法] それぞれの選択肢から誤っている可能性がある言葉を探してみよう。ちなにもこれを「地雷原」といいます。誤っていない可能性もあるが(地雷が埋まっていない可能性もあるが)、思いっ切り地雷の可能性もある(誤っているっていうことね)。爆発しないように注意して探そうぜ。

選択肢1。地雷原は「クルド人」。

選択肢2。地雷原は「フツ人」「ツチ人」。

選択肢3。地雷原は「コソヴォ」「アルバニア人」。

選択肢4。地雷原は「ヒンドゥー教」「タミル人」「イスラム教」「シンハラ人」。

しかし、固有名詞の地雷原には地雷は埋まっていないので、怪しいのは「ヒンドゥー教」と「イスラム教」しかあり得ない。誤文となる可能性がある(つまり本当に地雷が埋まっている)のは4のみ。よってこれが正解。

ちなみに「イスラム教」に触れたら大爆発する!「イスラム教」を「仏教」にチェンジすれば地雷は解除されるのだ。

「ヒンドゥー教」には地雷は埋まっていません。こちらはそのままで正文。

[学習対策] 南アジアの宗教分布はわりとベタなネタなので、知っておいてもいいんじゃないかな。

とりあえず国別に、「インド・ヒンドゥー教、バングラデシュ・パキスタン・イスラム教、スリランカ・仏教」というように頭に入れておく。

これに加え民族宗教対立が激しいところとして、「インド北部のカシミール地方ではイスラム教徒も多く、パキスタンとの係争地となっている」ことと「スリランカでは多数派の仏教徒に対し、北部に少数派のヒンドゥー教徒が存在し、対立している」ことを知っておけば完璧だろう。

さらにおまけ。「講評」でも述べているように、新課程になってやたら民族・宗教ジャンルは難化が激しく、どうにもやっかいである。しかし、センターなど所詮はマイナーなネタは出題されないのだから、開き直って自分の知らない話題はどんどんカットして考えてしまったらいいと思う。「解法」にもあるように、誤っている可能性のある語を含む部分を「地雷原」とすると(本当に地雷すなわち誤りワードが入っているかどうかはわからないけれど)、本問の選択肢の場合、あまりに「地雷原」の数が少ないのだ。固有名詞は地雷原にならないと思っていいので、地雷原が「ヒンドゥー教」と「イスラム教」しか見当たらず、解答は4しか考えられないということ。どうなんかな、ちょっと強引な解き方ではあるんだけど、意外と本問についてはこれが正統派な解法のような気もするよ。