2016年度地理B本試験[第5問]解説

たつじんオリジナル解説[2016年度地理B本試験第5問]      

第5問 妙な大問。問1についてはプランテーション農業の定義がちょっとおかしいように思う。問2はグラフが間違ってるんちゃう?問4は、イギリス連邦なんてセンターどころか共通一次時代まで振り返っても問われたことないぞ。問5はかろうじておもしろいと思えるんだが、全体を通じ違和感がぬぐえない。

<2016年度地理B本試験第5問問1>

[ファーストインプレッション]農産物に関する問題だが、気候環境が実は大きなポイントになっている。ただ、個人的には

[解法]①;カカオは極めて高温多雨の栽培環境が必要で、主な生産地域は西アフリカのギニア湾沿岸。乾燥地域で「灌漑(かんがい)」程度の水量で栽培できるとは思わない。誤り。

②;Bは夏に雨が多い。南東モンスーンの影響。誤り。

③;綿花は開花・結実期に乾燥した気候が必要であり、乾季は必要。綿花は商業的な作物であり、プランテーションとよばれる大農園で栽培されるのは妥当。正文。

④;ライ麦は冷涼な気候環境で栽培される。ポーランドやドイツなど北ヨーロッパが主な栽培地域。誤文。

[アフターアクション]あっさり解ける問題ではあるのだが、釈然としない点は残る。インド半島西部はたしかに綿花栽培地域なのだが、ここの農業区分は「集約的(アジア式)畑作農業」なのだ。商品作物として綿花が栽培されているものの、あくまで農業地域としてはそういった区分となる。決して「プランテーション農業」ではない。プランテーション農業のみられる典型的な地域は、東南アジア(天然ゴム)、ケニア(コーヒー・茶)、ギニア湾岸(カカオ)、アメリカ合衆国南部(綿花)、キューバ(サトウキビ)、ブラジル南部(コーヒー)、オーストラリア北東岸(サトウキビ)など。問題文では単に「プランテーション栽培」となっているので問題ないんだが、気になるところではある。センター地理なのだから、厳密にホイットルセー農牧業区分に従って設問を作って欲しかったところなのだが。とにかくこの第5問全体にいえることなのだが、センター地理の問題というより、普通の高校の定期試験の問題のような雰囲気がある。

<2016年度地理B本試験第5問問2>

[ファーストインプレッション]この大問で唯一おもしろい問題なんじゃないかな(他の問題が雑すぎるっていうわけだけど)。しかし、それにしても「1人当たりGDP」が登場している点は第2問問1と同じだし、貿易ネタも第2問問5ですでに登場。それらの問題の下位互換でしかないような気もするが。

[解法]1人当たりGDPは、1人当たりGNIと同じと考える。4カ国中最も1人当たりGNIが低いのがインド。正解は①。

[アフターアクション]いわゆるBRICSがネタとして使われているけれど、ちょっと古い感じがするね。1人当たりGNIだけで解く問題なのは間違いないです!

[アフターアフターアクション]というわけで、ここまでの説明で何の問題もないし、答えも②で正解なんだが、ちょっと気になったんで調べてみた。これ、1人当たりGDPって正しい?④なんか2万超えてるんだけど。

下に2012年度の1人当たりGNIと1人当たりGDPをまとめて並べてみました。両者が誤差の範囲で収まる統計指標であることをまず理解して欲しいんだけど(地理においては1人当たりGNIと1人当たりGDPは同じです)、それよりも何より、本問の図2が正しいかどうかって、判断して欲しい。やっぱりこの第5問っていう大問はおかしいんじゃないか?

         1人当たりGNI  1人当たりGDP

②インド         1501      1516

①中国          5989      6070

南アフリカ共和国     7173      7336

③ブラジル       11169     11347

④ロシア        13711     14178

やっぱ違うよね。。。

<2016年度地理B本試験第5問問3>

[ファーストインプレッション]ここ数年、鉱産資源に関する出題が増えているような。すずについては昨年登場したけれど、クロムは初めて。理系の生徒たちならニクロム線でわかると思うんだが。ダイヤモンドに関してはパブリックイメージで問題ないと思う。

[解法]クロムはレアメタルの一種。ニッケルとの合金がニクロムであり、精密部品などに利用されている。一方、すずは缶詰の表面のメッキとしての利用が主。アは「クロム」となる。

さらにダイヤモンド鉱石の産出は、国別ではロシアやオーストラリアが上位だが、大陸別ではアフリカ大陸での産出が最も多い。代表的な国はコンゴ民主やボツワナであり、南アフリカ共和国もその一つ。それに対しインドは、ダイヤモンド鉱石の産出はほとんどないが、カットなどの加工がさかんであり、ダイヤモンド流通の中心地の一つ。イは「ダイヤモンド」。

[アフターアクション]クロム初登場。これはちょっと厳しいな。これからは授業でも扱わないと。ダイヤモンドに関しては、産出地域としてのアフリカ、そして加工業の発達するベルギー、インド、イスラエル。この辺は定番だね。

<2016年度地理B本試験第5問問4>

[ファーストインプレッション]ずいぶん雑な問題だな(笑)。珍しい出題パターンと思う。文章が短いからポイントになる部分は限られているし、確実な知識をもって解答しましょう。

[解法]①;これは違うでしょう。かつて植民地だったとはいえ、それも古い話。同じアジアには中国のような世界最大の貿易額を誇る国もあるし、アメリカ合衆国系のIT企業がインドに多く進出しているという背景もあるよね。

③;いずれの国でも英語歯公用語の一つ。とくにインドを知っておいてほしいかな。インドは10を超える民族言語が各地でそれぞれ公用語とされている上で、英語も準公用語として全国で通用している。

④;これは難しい?南アフリカの独立は早いのだが、インドは第二次世界大戦中まではイギリス領だった。戦後、宗教の違いによってインド、パキスタン、スリランカなどが独立を果たした。

以上より、正解は②。「イギリス連邦」がセンターに登場したのは初めて。「連邦」といっても厳密なものではなく、かつてイギリス植民地だった国々の一部によって構成されている、ゆるやかな国家グループ。特に政治的共通点や経済的なつながりはなく、単なる名前だけと思っていい。例えば、アメリカ合衆国はイギリス植民地であったがイギリス連邦とは全く関係ないし、カナダもすでに外れている。オーストラリアはイギリス連邦の代表的な国で、国旗にイギリスのユニオンジャックが描かれ、国家元首はイギリスのエリザベス女王(シドニー五輪の開会挨拶はエリザベス女王が行った)。

[アフターアクション]さすがにイギリス連邦は不要と思う。対策が立てやすいのは言語じゃないかな。英語が公用語とされている国(準公用語だが、公用語と考えること)としてインドを知っておく。

<2016年度地理B本試験第5問問5>

[ファーストインプレッション]そもそもこの第5問が違和感バリバリなんだが、その中でも本問はとくにちょっととっつきにくい印象がある。無理矢理解いたら解けなくはないし、正解率も低くはないんだろうが、それでも論理的な説明をせよといったら困ってしまう。

[解法]誤っている箇所をいきなり指摘してしまおうか。これって、④が番っているんじゃない?ここで登場するのは「発展途上国の大都市における都市構造」なのだが、インフラの整った都心部にCBDが形成され高級住宅地がみられる一方、河川沿いの低湿地や線路わきなど劣悪な場所を不法占拠することでスラムがつくられ、さらに都市周辺へとそのスラムが拡大していくという構図。「郊外から都心部への商業施設やオフィスの移転」とあるが、そもそも商業施設やオフィスは中央に集まり(CBD。中心業務地区なのだ)、郊外にあったわけではない。郊外、というか都市の周辺部は農村から流入した失業者が住み着くスラムが広がる地域なのだ。④の文章をどう直せば正解になるのかはわからないけれど、これが誤りなのは間違いない。

[アフターアクション]都市構造とくにスラムの形成される位置については非常に出題率が高いので必ず確認しておくこと。先進国のスラムは都心部に形成され(旧市街地で都市施設が荒廃しているのだ)、発展途上国のスラムは都市周辺に拡大していく(農村からの人口流入が激しい)。また、発展途上国においても当然高級住宅地区は形成されるのだが、それはCBDの位置する都心部近くである。都市全体に道路や下水道などのインフラ整備が間に合わず、さらに治安の問題もあって、富裕層は中心部に集まって住む傾向が強い。