2011年度地理B本試験[第2問]解説

第2問 資源と産業。えらい取り上げる範囲が広いジャンルのくくりですね(笑)。ただ、最近のセンターではこのように統計が大変重要視された大問が一つは絶対に登場している。統計命!で立ち向かえ。

 

問1 [ファースト・インプレッション] またこの形の問題かっていうパターン。定番すぎて逆に手を抜いてる気がする(笑)。

 

[解法] 原油に関する問題。こうした世界全図が与えられている問題の場合は、日本に注目するのが基本だと思う。日本が原油の産出国や輸出国であるわけはないよね。日本の値が大きいウが「輸入量」になる。

アとイはデータが似ているんで、決定的に違う場所を探しましょう。それはアメリカ合衆国。アでは円は描かれていないが、イでは比較的大きな円が示されている。アメリカ合衆国は世界最大のエネルギー消費国である。当然、原油の消費量も大きいだろう。国内での産出も多いだろうが、それでは足りないために多くを外国からの輸入に依存している(これについては、ウが参考になる。アメリカ合衆国は世界最大の原油輸入国なのだ)。そんな国が、まさか原油の輸出国ということはないだろう。アが「輸出国」、イが「産出国」となる。3が正解。

 

[最重要リンク] いろいろあるけれど、分析の対照として最も有効と思うので、昨年の例を。

2010年度地理B本試験第3問問1。天然ガスの産出国、輸出国、輸入国が示されている。

日本が含まれているものが「輸入」、残った二つのうち、人口が少ない国が主である方が「輸出」、残ったものが「産出」。このパターン、本年のものと同じでしょ。

 

[ここが新しい!] 問題の形式や内容には目新しいところはひとつもない。でもあえて新しいところを探すとすれば、それは中国なのだ。中国に注目してもらいたいんだが、原油の産出量は少なくない(イを参照)。しかしそれだけでは国内需要を満たせないために、輸入にも頼っている(ウを参照)。もちろん輸出などできないよね(アを参照)。これでも1980年代などは、オイルショック後の日本にとって主要な原油輸入先の一つだったわけだ。経済発展による国内需要の増加によって、現在は原油の輸入国となっている。こうした変化にも注目してほしい。

 

[今後の学習] 統計が重要なのは言うまでもない。ただ、ここではせっかくなので、問題に対するアプローチに留意してほしい。まず日本に注目して、選択肢を絞っておく。そして残った選択肢を比較してみて、その違いを探す。本問の場合ならアメリカ合衆国のように。やみくもに突っ走っても正解にはたどり着かない。問題を解く手順にも注意してみよう。

 

 

問2 [ファースト・インプレッション] 発電の問題は、グラフや表などを用いて出題されることが多かったが、本問は文章による。ちょっと目新たしい。でも、統計を意識しながら解くアプローチは同じなので、落ち着いて取り組みましょう。

 

[解法] 正文指摘問題。消去法で解いてみましょうか。

1;原子力発電について。原子力発電について知っておくべきことは2つ。原子力発電量が最大の国がアメリカ合衆国であること、そして発電の過半を原子力に依存する国がフランスであること。ここではアメリカ合衆国について「原子力発電が総発電量の過半を占める」とある。これはフランスに該当すること。総発電量の規模が大きなアメリカ合衆国においては、原子力発電量そのものは巨大だが、それが過半を占めるまでには至らない。誤り。

2;インドの発電っていうのが結構難しいのかな。インドは石炭の重要な産出国であり、火力発電が主となっている。水力発電が主の国としては、ノルウェー、ブラジル、ニュージーランドを知っておくべき。

4;そのブラジルだが、まさに水力発電の国。エコだよね~。

以上より、正解は3です。

 

[最重要問題リンク] ドイツが環境に優しい国という話題はしばしば登場しているわけだが、それでもやっぱり主な発電方法は火力だったりするわけだ。

2006年度追試第3問問6。風力発電の問題。ドイツは世界最大の風力発電量を誇る国の一つ。西ヨーロッパは偏西風の影響が年間を通じて強く、風通しがいい低平な地形もあいまって、世界で最も風力発電がさかんな地域となっている。しかしそんなドイツであっても風力発電量が国内の総発電量に占める割合は2%にも満たない。

2006年度地理B本試第5問問3では、ドイツのパークアンドライド(都市外からやって来た人が、都市周辺の駐車場に自家用車を停め、市内へは路面電車などの公共交通機関を使って移動する)についても述べられている。

 

[ここが新しい!] 発電の問題は統計がポイントになるわけだが、それが表やグラフではなく、文章の形で出題されていることが新しい。形式的にはここが気になる。内容に関しては、とくに目新しいところはないかな。あえていえばインドだが、これはむしろ水力発電の国を知っておけばインドがそれに該当しないことがわかるし、とくに戸惑うものでもない。ただ、一つだけ気になるフレーズがあって、それが4の「電力の一部は周辺諸国に輸出されている」という部分。そう、ごく稀なことなんだが、実は電力を輸出しているケースはある。フランスなんか実は周辺国に電力を供給しているのは有名な話だし、(統計はないんだが)このブラジルの事例もその通りなのかもしれない。でも、逆にいえばこれは本当に「特殊な」ケースなんだわ。原則として、発電された電力はその国の中で消費されると考えていい。送電する際に一定の割合で電力というものは失われてしまうのだ。電線が銅線であって、いくら伝導率が高いとは言っても100%じゃないでしょ?だから発電はできるだけ都市部で行う方がいいのだ。原油や石炭は遠くから運ばれてきたとしても減ってしまうわけじゃない。でも電力は距離によって激しく失われてしまうのだ(電池にして輸送する?それもコストはかなりかかると思うよ)。だから原子力発電所も大都市圏につくるべきなのだ、っていう議論になったりもするんだが。

 

[今後の学習] 発電のポイントは、原子力発電と水力発電。原子力発電については、上記のアメリカ合衆国とフランスの事例を必ず知っておいて、さらに原子力発電の行われていない国としてイタリア、オーストラリア、ニュージーランドを知っておく。水力発電については、水力主原子力従の国としてスウェーデンとカナダを知っておき、水力主の国としてノルウェーとブラジルを知っておく。さらに水力が過半でありならが、10%近くは地熱によるちょっと変わった国としてニュージーランドを押さえておこう。

 

 

問3 [ファースト・インプレッション] 変わった形式の問題だなぁ。初見ではよくわからなかった。センター試験には必ず今まで目にしたことがないようなグラフが登場する。その典型的な問題。見るべき箇所を決めておいて、見る手順も定めておいて、しっかりと見慣れないグラフを読解していきましょう。内容そのものは韓国の造船業の問題なので何とかなると思う。

 

[解法] 最初に見るのはどこか。グラフの形なんか見てはいけないよ。縦軸と横軸に注目するのだ。単位はいずれも「%」。でもおもしろいのは、縦軸は「20%」がマックスになっているのに、横軸は「50%」がマックス。どう?こうしたちょっとしたところだけでも気づいたら得な感じがするでしょ(笑)。

20%の縦軸は「粗鋼」、50%の横軸は「造船」。両方の生産統計について、日本を意識しながら示すと、粗鋼は1位・中国、2位・日本、3位・アメリカ合衆国、造船は1位・韓国、2位日本。

選択肢の3か国中で、粗鋼については日本が首位である。2007年の日本の値は8%。ABのいずれの点も、日本のこの値を越えるものはない。なるほど、そりゃそうだ。イギリスも韓国も主要な鉄鋼国というわけではない。これは手がかりになりませんね。

というわけで、ここからが最大のポイント。「韓国の造船」である。2007年における日本の造船の値は30%。かなり値が大きい。Aの点は5つともこれにはかなわない。最大のカの点でも(これが1970年のものか2007年のものかわからないが)、値は5%にとどまる。それに対して注目すべきはBだ。シや、シから2つ目、中央の点においては日本の値より下だが、サとサから2つ目の点は、日本の2007年すなわち30%を越えている。造船世界1位は韓国である。これは絶対的なデータ。それならば、Bが韓国であり、サが2007年になるのであろう。2000年に韓国の造船業は日本を逆転し、2007年は日本も韓国も世界に占める割合は低下しているいものの、韓国は首位の座を明け渡していない。

Bが韓国なので、Aはイギリスとなる。2が正解。

 

ちなみに、日本と韓国の造船における関係を示すと、このような表になります。

 

 

1970年

1980年

1990年

2000年

2007年

日本

50%

48%

42%

38%

30%

韓国

0%

3%

22%

40%

35%

 

こうしてみたらわかりやすいでしょ?グラフにとらわれず、それを表にする技術っていうのも大事だと思うよ。

ちなみに日本の造船業の衰退っていうネタは、本年の別の問題(長崎市の人口減少)でも取り上げられている。同じネタが同じ回の試験に重複して登場するって結構あるんですよ。

 

[最重要リンク] とにかく造船の統計を確実に知っておかないといけない。統計の知識は、ゆらいではいけない。

2005年度地理B本試第3問問7。ボクはこの問題自体すごく好きなんで、いろいろ言いたいんですが、今回はそれを抑えて、あえて造船竣工量だけに注目しましょう。もちろん日本と韓国の値が圧倒的である4がそれに該当。この問題は消去法で解く問題なので、このように一つ一つの統計を確実に知っておくことが非常に需要となる。

 

[ここが新しい!] もうこれは形式的な新しさに尽きるよ!おそらく多くの受験生が形式にとらわれて、問題の本質を見失う。高得点を取る生徒とそうでない生徒の差が最もよく現れた問題だったんじゃないかな。

見慣れないグラフが出てきても慌てるな。いっぺんに理解する必要はない。縦軸、横軸、数字を読み取り、グラフの示す数値にこだわる。「何となく」眺めると間違う。理系的な解析力を持って取り組め。

 

[今後の学習] とにかくグラフの読解が命!漠然と眺めてはいけない。一つ一つの数字に過敏となり、統計を徹底的に意識、時には表に書き出すなどの作業もいとわないこと。この問題って、最も出来不出来の差が激しかったと思う。この問題が正解できた人はかなり自信を持ってください。かなり高いレベルの思考力を有している。逆に間違えた人。しっかりしようね(笑)。

 

 

問4 [ファースト・インプレッション] ありがちな問題。形式的にも内容的にも。でもセメントを問うてくるとはなぁ。いよいよネタ切れか(笑)。

 

[解法] 消去法で解くのが正しい。最も分かりやすいのがパルプだと思う。針葉樹林に恵まれた国で生産が多い。フィンランドやスウェーデンといった森林国が含まれている1が該当。

さらにワインについても何となくいけるんじゃない?例えばわが国がフランスから輸入している最大の輸入品目はアルコール飲料なのだが、これってほとんどワインでしょ。フランスが首位の4が該当。ワインはもちろんブドウの栽培と結びつくのだが、ブドウ栽培に特徴のある地中海式農業が行われている国(つまり地中海性気候が見られる国)であるイタリアやスペイン、アメリカ合衆国がランクインしているのも納得。アルゼンチンは意外だけどね。アルゼンチンならチリなんじゃないかと。ちなみにフランス、イタリア、スペイン、アメリカ合衆国はいずれもブドウの生産上位国。実は中国もブドウの生産がかなり多い国なんだが、ワインには加工されていないんだろうね。

さらに砂糖。問題文に最大のヒントがあり、本問における4つの工業種はいずれも「原料産地に立地を指向する」という共通項がある。砂糖についても、主にサトウキビから抽出されるのだから、サトウキビの栽培国と砂糖の生産国が一致する傾向があるはず。サトウキビの栽培に特色がある国といえばキューバが挙げられるが、ただしこの国は規模が小さいのでこうした世界規模のランキングには登場しない。サトウキビの生産上位国はインドとブラジルである。この両国が含まれている3が砂糖となる。なお、なぜか冷涼なロシアも含まれているが、これはテンサイから砂糖を抽出しているから。テンサイは冷涼な地域で栽培される作物で、砂糖の原料になる他、家畜の飼料ともなる。

以上、消去法で2が正解となる。セメント工業は石灰岩産地に立地する原料立地型の工業。日本が4位にランクインしているが、日本は石灰が豊富な国であるので(自給率100%)、セメント工業も発達している。

 

[最重要リンク] 工業立地の問題として考えてみよう。本問は原料立地型の食品工業について触れている。これまでは同じ食品工業でも、市場(消費地)立地型のビール工業が主に出題されてきたが、最近はこちらの原料立地型の側面が強調されている傾向がみられる。

2008年度地理B本試第2問問6選択肢2。「魚介類を缶詰に加工する部門は、消費者の多い大都市やその周辺に立地する傾向が強い」とあるが、これは誤り。鮮度が落ちない内に缶詰に加工する必要があるので、漁港付近など原料立地型の工業となる。

ビール工業や菓子製造業などは市場立地型となるが、今回取り上げられたワイン醸造、製糖、そして缶詰加工などは原料立地となる。

 

[ここが新しい!] いよいよセメントまで来てしまいましたかっていう驚きはあるが、消去法で解ける問題と考えれば、セメントが直接出題されたわけでもないし、さほど驚くことはないかな。

 

[今後の学習] センター試験の統計問題の多くが「統計要覧(データブック オブ・ザ・ワールド)」(二宮書店)から出題されていることは間違いない。今回のセメントにしても当然取り上げられている。

とりあえず「統計要覧」に統計が示されている工業製品について一覧にしてみよう。次は何が出題されるかヤマを張るのも楽しいと思うよ。

 

ナフサ(韓国・中国・サウジアラビア・日本・インド)

ガソリン(アメリカ合衆国・中国・日本・カナダ・ロシア)

エタノール燃料(アメリカ合衆国・ブラジル・中国・フランス・カナダ)

粗銅(中国・チリ・日本・アメリカ合衆国・ロシア)

粗鋼(中国・日本・アメリカ合衆国・ロシア・インド)

アルミニウム(中国・ロシア・カナダ・アメリカ合衆国・オーストラリア)

ニッケル(ロシア・カナダ・日本・中国・オーストラリア)

セメント(中国・インド・アメリカ合衆国・日本)

エチレン(アメリカ合衆国・日本・中国・韓国・カナダ)

プラスティック(アメリカ合衆国・中国・ドイツ・日本・韓国)

合成ゴム(中国・アメリカ合衆国・日本・ロシア・韓国)

パルプ(アメリカ合衆国・カナダ・中国・フィンランド・スウェーデン)

綿織物(中国・パキスタン・インド・ブラジル・トルコ)

毛織物(中国・イタリア・日本・ロシア・トルコ)

絹織物(中国・イラン・ロシア・イタリア・エジプト)

化学繊維(中国・インド・台湾・アメリカ合衆国・韓国)

工作機械(日本・ドイツ・中国・イタリア・台湾・韓国)

冷蔵庫(中国・アメリカ合衆国・イタリア・韓国・ブラジル)

洗濯機(中国・アメリカ合衆国・イタリア・韓国・トルコ)

テレビ(中国・ポーランド・インドネシア・ブラジル・日本)

自動車(日本・アメリカ合衆国・中国・ドイツ・韓国)

オートバイ(中国・インド・インドネシア・ブラジル・日本)

自転車(中国・インド・イタリア・ブラジル・日本)

船舶(韓国・日本・中国・ドイツ・トルコ)

携帯電話(中国・韓国・インド)

パソコン(中国)

 

携帯電話とパソコンについては世界全体の統計が無かったので、主な生産国だけ。

ナフサというのは原油の加工品、エチレンはナフサのさらに加工品。エチレンが加工され、化学繊維や合成ゴムなどになる。

 

「地理データファイル」(帝国書院)や「世界国勢図会」まで広げるともっとあるかもしれないが、とりあえずこんなもんで(って言ってもかなり多いけど)。

 

気になるのは、これらかなぁ。

エタノール燃料・・・ブラジル(サトウキビからアルコールを抽出している)

アルミニウム・・・ロシア(バイカル湖の豊富な水力を利用しての発電)

毛織物・・・イタリア(高級衣類)

工作機械・・・日本(工場内の作業用のロボットなど)

オートバイ・・・インドネシア(低賃金の人口大国。偶然だけど米の生産上位国と重なる)

テレビ・・・ポーランド(低賃金であるので、西ヨーロッパ諸国から組み立て工場が進出)

パソコン・・・中国(中身は違うけど、最終組み立てはほぼ100%中国)

 

 

問5 [ファースト・インプレッション] 簡単な問題っぽいんだが。でも確実にセオリーに当てはめて解いていこう。何となく、で解いてしまったら、次へつながらない。

 

[解法] 工業に対する総合問題になっているね。正解(誤文)は4。「誤り方」がおもしろいので分析していこう。

まず一つ目のポイントは、「資本集約型工業と労働集約型工業」の違い。資本集約型工業には鉄鋼業、石油化学工業、セメント工業などがあり、労働集約型工業には繊維(衣服)工業と機械工業がある。資本集約型工業は巨大な工場設備への投資が必要な工業。労働集約型工業は、製造費に占める労働費の割合が高い工業。

重要な点は、両者が反対語であることを意識すること。つまり労働集約型工業が労働力に依存する工業ならば、資本集約型工業においては労働力はどうでもいい存在。労働集約型工業の多くが(*)安価な労働力を求めて発展途上国(1人当たりGNIの低い国)に移動するのに対し、資本集約型工業は先進国内にとどまる。選択肢4では「鉄鋼」が取り上げられているが、これは資本集約型工業であり、海外に進出はしない。日本は現在でも世界有数の鉄鋼生産国である。

もう一つのポイントは、「日本の工場が海外に進出する理由」。これには2つあって、1人当たりGNIの低い国については安価な労働賃金を求めて。選択肢4の「オーストラリア」は1人当たりGNIの高い先進国であり、これに該当しない。一方、もう一つの理由として、先進国に工場が進出する場合もあり、これは現地生産を目的として。アメリカ合衆国やヨーロッパにおける日系の自動車工場など。現地で生産し、現地で販売する。このように現地で販売することを目的に生産活動を行うことを現地販売といい、発展途上国における生産活動と区別すること。現地生産にとって絶対的に必要はことは「国内市場の大きさ」。GNI(経済規模)が大きな国だからこそ、モノをたくさん買ってくれるということ。1人当たりGNIが高いだけではいけない。人口規模も大きいことが条件。GNIの大きさは、1人当たりGNIだけではなく人口規模にも比例するでしょ。

そういう観点でみると、オーストラリアはどうなんだろうか。人口はわずか2000万人程度。1人当たりGNIは高いものの、ほとんど人が住んでいないのだから、現地販売なんて無理だろう。オーストラリアで生産活動を行う日本の工場はありえない。

ちなみに選択肢4には南アメリカについても触れられている。1人当たりGNIが低い国が多いので、現地生産を目的とした工場が進出しない。1人当たりGNIは低いだろうが、いかんせん、遠距離すぎる。商品の価格は労働コストと輸送コストの和によって決められるわけだが、輸送コストが大きくなってしまい、これら南アメリカで作ったものを日本に持って返って販売しようとしても採算が合わない。

(*)機械工業の多くが発展途上国へと進出しているが、これは単純労働に依存する工業種のみ。機械組立など。熟練労働力に依存する工業(精密機械など)は高度な技術の存在する先進国にとどまる。

 

[最重要リンク] 2004年度地理B本試第2問問6。オーストラリアを読みとれ。

オーストラリアに進出している日本企業は少ないが、そういった企業の特徴って何だろう。オーストラリアに何を求めて工場を進出させているのか。

Xがアメリカ合衆国など北アメリカ、Yが中国などアジア、Zがオーストラリアなどオセアニアである。

「進出先での販売を拡大するため」がまさに現地生産である。GNIが大きく国内市場の広いアメリカ合衆国で30%を越える高率となっている。逆に人口が少なく市場の小さいオーストラリアの値は10%で小さい。ここでおもしろいなと思うのは、中国の値が20%を越え、決して小さいものではないなということ。中国への最大の進出理由はもちろん安価な労働力を求めてのものであるが、何といっても世界有数の巨大なGNIを持ち、市場規模も大きくなって来ている中国においては、今後は現地生産のようなものも行われていくのかもしれない。非常におもしろいデータ。

で、その「良質で安価な労働力を確保できるため」の値であるが、まさに中国が最大となっており、高賃金国のアメリカ合衆国やオーストラリアでは低いものとなっている。

他の指標についてはとくにチェックする必要はないと思うが、「品質・価格面で日本への逆輸入が可能なため」でオーストラリアの値が高いのは、国内で売れないので、日本に輸出するしかないということだろうし、「土地・建物などが安価なため」の値もオーストラリアで高いのは人口密度が低く、土地が余っているからだろう。「原料などの現地調達が容易なため」など全体的にどの国も値が低いが、これはそもそも原料が必要な工業である資本集約型工業が進出していないため。

アメリカ合衆国に企業が進出する理由は、現地生産が主。中国については、安価な労働賃金が第一で、これに現地生産が今後は注目される。オーストラリアは、そもそも進出する企業がない。

これをまとめます。

1人当たりGNIが高く、GNIも大きい国(アメリカ合衆国)・・・現地生産のため。

1人当たりGNIが高く、GNIは小さい国(オーストラリア)・・・企業は進出しない。

1人当たりGNIが低く。GNIは大きい国(中国)・・・安価な労働賃金が主だが、将来的には現地生産も。

1人当たりGNIが低く、GNIも小さい国(ベトナム)・・・安価な労働賃金のため。

 

[ここが新しい!] ホントは新しくないんだけど、10年以上ぶりに話題にされたんで、新鮮味を感じざるを得ないのが選択肢3。

10年前のパターンを紹介しよう。

1999年度地理B本試第3問問6選択肢1。「企業の本社のような意思決定部門は、人と人が直接対面することが重要なので、高度通信機器が普及しても大都市に立地する傾向が強い」という正文。この文はとくにIT産業に限ったことではないけれど、企業の管理中枢機能は大都市に集中するということ。インターネットが普及して、日本全国どこにいても同じ情報が得られるはずなんだが、逆に東京へと一極集中していく。とくにそのインターネットを使いこなしている情報産業・IT企業なんてその傾向が強いでしょ。ネット社会になればなるほど、実は「人間くささ」っていうのが求められてくるような気がするんですよ。不思議なもんですよね。

同じく1999年度地理B本試験第3問問6選択肢2。「新製品の開発に不可欠な製造業の研究開発部門は、静かな環境が重要なので、自然環境に恵まれた山間部に立地する傾向が強い」という誤文。これもITに限った話ではないけれど、より情報が集まり、大学等の研究機関も多い大都市圏においてこそ、こういった開発部門は機能する。

ITなんていう言葉が生まれたのがそもそもこの10年であるし、99年の問題も実質的にはIT産業のことを言っているんだと思うよ。ベンチャー企業っていうのは学生などが立ち上げることが多い、小規模で実験的な試みをする企業のこと。頭を使って企業を起こそうとするならば、人と人との関係が密で、情報が集中する大都市圏(とくに東京圏)に限るっていうことなのかな。

 

[今後の学習] 上では選択肢3と4にしか触れていなかったが、ここでは選択肢1と2にこそ注目しよう。正文であるので、これをそのまま覚えてしまえばいい。

1については、「1980年代」に「貿易摩擦」が生じたので、その解消のために、「北アメリカyやヨーロッパ」に「自動車」工場が進出したことを絶対に知っておく。「現地生産」である。

2については「1980年代半ば以降」とあるので、1990年代から現在にかけてと考える。その方が選択肢1の時期と対比しやすい。「電機・電子関連の工場」についてはソニーやパナソニックの工場を考える。マレーシアなどにさかんに進出し、現在もタイやマレーシアでは日本の電気機械製品の工場が生産活動を行っている。実は昨日買った携帯音楽プレーヤー(ウォークマンですね)に Made In Malaysia と書いてありました。おっと!

 

 

問6 [ファースト・インプレッション] ボストンが来ましたね。海岸に沿う都市っていうのは、白地図で位置を示しやすいので出題率が高い。2010年度地理B本試でニューオーリンズが登場、2010年度地理B追試験でシアトルとロサンゼルスが登場。北西のシアトル、南西のロサンゼルス、南東のニューオーリンズが取り上げられたわけだから、次は北東のボストンが出てくるはずだと思っていたらビンゴ!ですよ。でも、「大学」とか「先端技術産業」で判定できるとはいえ、「毛織物」っていうのはちょっと難しかったな。

 

[解法] 3点止め問題で、2つが特定できれば解答できる問題であるのは有利点。こうした3点止め問題の多くは、2つの組合せがわりと簡単で、その2つを特定すれば最後の3つ目の組合せは消去法で解けるっていうパターンとなっている。つまり「2つの簡単な組合せ+1つの難しい組合せ」っていう形。でも本問の場合は、3つとも難易度は同じぐらい。簡単な選択肢もない代わりに、無茶な選択肢もない。MLから考えてもいいし、LKでもいいし、KMでもいい。自分の好きなところで解きましょう。

タ~ツからキーワードを拾っていく。文章と図が与えられている問題は、まず文章から解析していくのが手順。しかも、現代文の問題ではないのだから、文章のニュアンスみたいなところまで読み込む必要はない。明確なキーワードだけを単語としてピックアップしていくだけだ。

タは「繊維工業」、「大学」、「先端技術産業」。

チは「石油化学」、「航空宇宙産業」。

ツは「鉄鋼業」、「自動車工業」、「IT産業」。「機械工業」と「鉱産資源」は具体性が弱いので消去。

ただし、タの「先端技術産業」とツの「IT産業」はかぶっているので、消してしまおう。タはあくまで「繊維」と「大学」で、ツは「鉄鋼」と「自動車」。

 

どれで解いてもいい。チとツで行った人が多いんじゃないかな。チには「石油化学」とある。世界3位の原油産出国アメリカ合衆国最大の油田地帯はメキシコ湾岸である。これに接するKがチに該当。ツには「自動車」とある。3大メーカーの本社があるデトロイトを含むLがこれに該当。よって5が正解。2002年度地理B本試第2問問5でも

ただし、ボクの個人的な考えとしては、やっぱりボストンに注目してほしいのだ。ボストンはニューイングランド地方の中心都市で北アメリカで最も早い時期に開発された都市。イギリスからの移民を受け入れ、ヨーロッパ的な雰囲気の残る街。南部で栽培された綿花がニューオーリンズ港からボストン港へと運ばれ、この地に綿工業が成立した。タの文では「毛織物など繊維工業」とあるので、綿工業も含まれていると考えていいよね。いわば南部の犠牲のもとに発展した都市であり、南北戦争時には「豊かな北部」の象徴だった。アメリカ合衆国最古の大学でもある名門ハーバード大学があり、高い技術力で知られるマサチューセッツ工科大学もある学術都市。ニュ−イングランド地方や五大湖沿岸などの北部は近年衰退の傾向にあるものの、大学など研究機関が多いことを利用し、先端技術産業が発達しているボストンは例外的に現在でもアメリカ合衆国の科学技術をリードしている。伝統と風格に満ちた、セレブな街なのである。タがMとなる。

ちなみに、チの「NASA」の本部があるのはヒューストン。

 

[最重要リンク] そのボストン。1999年度地理B本試第2問問4。選択肢2がボストンの説明である。

「農業に適さない」・・・大陸氷河の影響で地力に乏しく、酪農地帯となっている。

「海運業」・・・海に面した港湾都市である。

「織物工業」・・・南部の綿花を利用した麺工業。

「ハイテク産業の集積」・・・大学が多いことから研究開発がさかん。

 

[ここが新しい!] ボストンの「毛織物」も気になるんだが(何の毛なんだ?北米に羊はいないんだが)、ここはやっぱりデトロイトに注目しよう。実はデトロイトってすごくメジャーな都市なのに、センターでこれまで全く出題されたことがなかったのだ。すでに「デトロイト=自動車」の知識はあると思うので、ここでは位置を覚えてしまおう。Lの位置、2つの湖(ヒューロン湖とエリー湖)の間でカナダとの国境沿い。なお、カナダ最大の自動車工業都市は、五大湖の最も下流側に位置するオンタリオ湖に沿う。デトロイトから、低賃金労働者が得られるカナダのトロントへと自動車工場が進出している。

 

[今後の学習] せっかくだから、アメリカ合衆国の都市名を覚えてしまおうか。おもしろいよ。

 

ボストン・・・アメフトのニューイングランド・ペイトリオッツ。ニューイングランドの愛国者たち。アメリカ合衆国最古の街っていう感じがするでしょ?

ピッツバーグ・・・アメフトのピッツバーグ・スティーラーズ。ピッツバーグの鉄の男たち。鉄鋼都市なのです。

デトロイト・・・バスケのピストンズ。ピストンは自動車エンジンの部品だね。

シカゴ・・・バスケのブルズとアメフトのベアーズ。農産物取引所がある都市だが、穀物市場で「買い」のことをブルといい、「売り」のことをベアーということにも引っ掛けたチーム名。

ニューオーリンズ・・・アメフトのセインツ。ジャズの名曲「聖者が街にやってくる」に掛けている。かつてそのものずばり、バスケのジャズというチームもあった。

ヒューストン・・・野球のアストロズ、バスケのロケッツ。いかにもNASAの本部があるっぽい。またもう移転してしまったけれど、アメフトはオイラーズ。石油の人々。

シアトル・・・移転してしまったが、バスケのスーバーソニックス。超音速だなんて航空機っぽいでしょ。

サンフランシスコ・・・アメフトのフォーティーナイナーズ。49年の人々っていうのは、1849年に大陸横断鉄道が通じて当時カリフォルニア州に殺到した金鉱掘りの人々のこと。同時に中国からも移民が入り込み、サンフランシスコは世界最大のチャイナタウンがある都市となっている。

ロサンゼルス・・・新しい都市だけあって、野球のドジャーズもバスケのレイカーズも他から移転して来たチーム。ドジャーは「避ける人」。ニューヨークから移転してきたのだが、路面電車が多く、人々は道路を通る時、電車を避けながら歩いた。レイカーは「湖の人」。もともと五大湖沿岸のミネソタ州にあった。大陸氷河の影響で五大湖周辺は湖が多かった。

でもおもしろいと思うのは、ロサンゼルスは「ドジャー」や「レイカー」とは真逆の街なんだよね。ロサンゼルスは鉄道が未発達で、人々は自家用車で移動する。世界最大の大気汚染の街の一つとして、光化学スモッグもひどいが、これは自動車の排気ガスによる。また、湖どころか、そもそも雨が少ない都市だね。外来河川のコロラド川から生活用水を引っ張ってきて、300万人の人口は生き伸びている。