2007年度地理B本試験[第2問]解説

2007年度地理B本試験[第2問]

 

2007年度地理B本試験[第2問]問1

 

[講評]昨年に続いて工業ジャンルからの出題。工業種についてその生産地域の特徴が問われている。キーワードは「オランダ=ライン川=三角州=掘り込む港=新しい港湾には新しい工業=石油化学工業=プラスティック」なのだ(長い?)。

 

[解法]オランダが最重要。オランダについてはかつて以下のような文章が登場したことがある。「地下資源に恵まれないこの国では、商業や貿易に重点がおかれ、近隣諸国に比べて重化学工業化が遅れた。しかし、現在では、可航河川の下流に築かれた大規模港湾を拠点にして、石油化学工業が発達している」。地下資源に恵まれないかどうかはよくわからないが、商業や貿易に重点が置かれたのは事実。鎖国をしていた日本に無理矢理(?)やってきて貿易を行ったり、香料貿易を独占するがために図体のデカいインドネシアを植民地にしてしまったり、やることが他の国とは違う。ただし工業化が遅れた国であるという側面は無視できない。基本的に砂浜海岸が広がる低地国であり、干拓によって浅い海を陸地化することには適していたかもしれないが、大きな船舶が入港できるような巨大港湾は存在し得なかったのだ。

しかしこの状況が現代になって改められる。ライン川の河口が大きく掘り込まれ人工港が建設された。これがユーロポートである。ヨーロッパ最大の貿易額を誇る商業港であり、同時に石油化学コンビナートが設営された工業港でもある。新しい港湾だから、石油化学工業のような新しい工業が立地するのだろう。もちろん原油の輸入に適しているという事情もある。

とくにこの石油化学コンビナートで生産されているものとして「プラスティック」を必ず押さえておこう。オランダの主要輸出品目の一つにもなっている(統計で確認しておくといい)。オランダは世界的なプラスティック生産国なのだ。

 

以上のことから、プラスティックという言葉が登場した瞬間にオランダを思い浮かべなければいけない。さぁ、図1のア~ウのうちオランダの円が大きく描かれているものはどれか。アにはない。イではドイツやフランスの円が大きいが、オランダはないようだ。ウはどうだろう?イと同様にドイツとフランスの円が大きいが、その間にもやや大きめの円がある。これこそオランダを示しているのではないか!?この図だけみると「小さい」円なのだが、ドイツ8000万人、フランス6000万人、オランダ1500万人という人口規模の差を考えると、いかにオランダがプラスティックの生産に特化した国であるかが分かる。小国でありながら、この生産額はたいしたものだ!ウがプラスティックに該当。

 

パルプは簡単だろう。パルプとは、木材が紙に加工される際に作られる中間材だが(木材→パルプ→紙ということ)これは針葉樹資源と結び付く。軟材であり加工に適する針葉樹はパルプ・紙の原料となりやすい。世界的にみれば、スウェーデン、フィンランド、カナダなどが重要。アが該当。

 

消去法でウが塩となる。岩塩といえばアフリカのサヘル諸国が有名なのだが、世界的な生産量でみるとたいしたことないのかな。それより中国やインド、米国などの人口大国で生産が多いことを見ると、いかにも食料品だなぁという感じがする。ちなみに日本は塩は輸入に頼っているので、生産が少ない。

 

[関連問題]

オランダのユーロポートはヨーロッパ最大の貿易港であると同時に石油化学工業も発達している。

98B追第1問問6参照。オランダに■の点がある。これがユーロポートの石油工業を表している。

05B本第2問問3選択肢③参照。「可航河川」はライン川、「築かれた大規模港湾」はユーロポート。

06A本第4問問6参照。工業に関する内容ではないが、ユーロポートに関する問題は昨年も問われていた。

つまりユーロポートのネタは3年連続だったということ。ある程度はパターンが読める。

 

塩あるいは岩塩について。

96追第5問問3参照。③が塩の自給率。しかしとくに塩に関する問題というわけでもない。塩が出題された例はこれのみ。

 

パルプの問題ってほとんどないんだよね。

02B本第5問問3参照。パルプ・紙工業の立地条件について。

 

[今後の学習]昨年に続いて工業品目の統計を意識する問題が出題されているのは興味深い。昨年が鉄鋼・PC・自動車・衣類、そして今年が塩・プラスティック・パルプ。とくにプラスティックやパルプはこれまでにほとんど取り上げられることがなかった工業製品であるだけに、今後はさらにいろいろな品目が問われるようになるのではないかと予想される。

個人的に一押しは「アルミニウム」。非常に重要な工業製品であるのに今まで出題があまりに少なかった。生産や貿易について統計を確認しておいてほしい。

生産上位6カ国は(偶然ではあるが)中国・ロシア・カナダ・米国・オーストラリア・ブラジルといった面積の大きな国であり、分かりやすい。ヨーロッパではノルウェーでの生産が多いが、これはこの国が水力発電国であることと重ねて押さえておこう(ノルウェーは、河川が凍結しない、降水量が多い、急傾斜の地形を持つ、といった水力発電に有利な要素が全て揃っている国である)。

また日本は70年代以降アルミニウム工業が急速に衰退し、現在はほぼ100%を輸入に依存しているが、その主な輸入先としてロシアを知っておきたい。ロシアのシベリア東部には世界で最も深い湖であるバイカル湖があるのだが、豊富な水量を利用して水力発電がさかんに行われているのだが、同時にアルミニウム精錬も行われる。距離的に近い日本へと多く輸出されているのだ。

 

2007年度地理B本試験[第2問]問2

 

[講評]フランスのツールーズ!これは非常に重要です。それとここでは「産業革命」もキーワードになっている。これはイギリスだね。

 

[解法]航空機工業について君たちが知っておくこと。世界の航空機生産は米国が過半で残りがフランス。つまりこの2か国だけが航空機を造っていると考える。航空機工業の発達している都市は、米国の太平洋岸北部シアトルと同じく南部ロサンゼルス。そしてフランス南部内陸部ツールーズ。多雨なシアトルは付近で水力発電によるアルミニウム精錬業が発達し、それを原料とした航空機製造が発達。少雨のロサンゼルスとツールーズは、晴天日数が多いことから屋外での作業に適し、航空機の組立工場が立地。

以上のことを考え、フランス南部のCがクの「航空機の最終組立」のク。ヨーロッパ各地で製造された部品やパーツが運び込まれ、このツールーズで完成品としての航空機となる。まさに国境を越えた生産活動がとくにさかんな地域であるEUを象徴する都市!

 

カは「産業革命」に注目。イギリスである。キは「炭田」に注目。ドイツ西部のルール工業地帯である。

 

上記以外の言葉については考慮する必要はない。「産業革命」「炭田」「航空機」のみに注目せよ!

 

[関連問題]やはり航空工業についてしっかり押さえておいてほしいところ。

98B追第1問問6参照。フランス南部に航空機工業。もちろんツールーズである。

05B追第4問問4選択肢②参照。「ヨーロッパでは、いくつかの国家間で航空機生産の国際分業が行われている」とある。各地で部品が製造され、それらがフランスのツールーズに集められ組み立てられる。

02B本第2問問5参照。シアトル(太平洋岸北部)とロサンゼルス(カリフォルニア州に2つある○のうち、北側の方)などに航空機工業が発達。多雨なシアトルと少雨のロスの両方で同じ工業が成立している点がおもしろい。シアトルでは多雨であることを利用し水力発電によるアルミニウム精錬がさかんで、それが航空機の材料となっている。ロスは少雨であるため屋外での作業に適し、航空機の組立工場がある。

02B本第2問問2参照。米国の輸出品目に航空機がある。航空機産業は軍事産業と結び付いているのだ。兵器をつくる技術は航空機に応用できる。世界最大の武器輸出国である米国は世界全体の過半数の航空機を生産する国でもある。なお「非戦国」日本は航空機の生産もない。

06B本第2問問6選択肢②参照。日本もロシアも航空機生産国ではない。

 

イギリスの産業革命やドイツのルール工業地帯は中学レベルの知識だと思うが、やはりセンターではしばしば問われているので、それに関する問題を挙げておこう。

98B追第1問表1参照。「18世紀後半」に世界で最初に工場における大量生産が開始され「産業革命発祥の地」となったのはイギリスのランカシャー地方である。産業革命がイギリスのキーワードであることを印象付けておこう。ちなみに18世紀後半というのは、イギリスは既に市民革命を成し遂げ近代化へ押し進んでいた時代であるのに対し、フランスや米国ではまだ近代社会は成熟していない(イギリスの名誉革命は1688年、米国独立は1776年、フランス革命は1789年)し、ドイツはまだ国として成立すらしていない。ついでに日本はまだ鎖国中。いかにイギリスが当時の世界で中心的な存在だったを想像しよう。

98B追第1問問1参照。産業革命発祥の地となったランカシャー地方についての説明。ランカシャーは、本問の図2のA地域のやや北側で、イギリス中央部を縦断する山脈であるペニン山脈西麓一帯の地方。中心都市はマンチェスター。固有名詞はあまり出題されないセンター試験だが「ランカシャー地方」「マンチェスター」という地名は知っておいてもいいかもしれない。キーワードは「産業革命」「綿工業」など。

98B追第1問問6参照。「炭田」がキーワードとなる工業地域(□)としてドイツ西部のルール工業地帯が挙げられているので場所を目で確認しておこう。なおイギリスにも□がみられるが、これはミッドランド地方。バーミンガムを中心とした工業地帯で、かつてはブラックカントリーとも呼ばれ、国内最大の鉄鋼業地域を形成していた。このミッドランド地方の位置が、本問におけるA地域である。

04B追第3問問1参照。アがイギリスに関する文章。首都であるロンドンについての記述も見逃せないが、ここでは「人口第2の都市」に注目してみよう。これが実がバーミンガムなのだ。産業革命発祥の地はランカシャー地方のマンチェスターであるが、こちらもほぼ同時期に発展を開始した都市。とにかく「イギリス=産業革命」とインプット!

 

[今後の学習]ツールーズの航空機工業は必須アイテムなんで今さらとくに問題ないでしょう。やはりここでポイントになるのは中学レベルの知識だと思う。産業革命の発祥地のイギリス、炭田中心に発達したヨーロッパ最大の重工業地域ルール。これらを確実に印象づけておくことが大切。

上でも触れているが、98B追第1問問6図1は大変参考になる図版なので、拡大コピーなどしてどこか目につくところに貼っておいたらいいんじゃないかな。本問で取り上げられている、ドイツ西部のルール工業地域、フランス南部のツールーズ、そして問1でポイントとなっているオランダの石油工業など。同じく石油工業のフランスのマルセイユや、ヨーロッパを代表する巨大都市で工業も発達しているロンドンやパリなども出題例がある。

 

2007年度地理B本試験[第2問]問3

 

[講評]都市名が細かく問われている印象があるが、実はそんなに難問ではない。ピッツバーグが重要な「登場人物」である。キャラがはっきりしているぞ。

 

[解法]「ピッツバーグ=鉄鋼」というイメージをどこまで君たちは持てているだろうか。それだけの問題なんだが。

米国の主要な鉄鋼業地域は北東部である。とくに五大湖からやや太平洋側によった内陸部に位置するピッツバーグは、古い時代から米国の鉄鋼業の中心地として発展し「スティールシティ」とも呼ばれていた。アパラチア山脈の北端に位置し、炭田に隣接する(アパラチア山脈は古期造山帯であり、石炭資源を豊富に埋蔵する)。鉄鉱石については五大湖西岸のメサビから、湖・河川・運河などの水運によって運搬した。

選択肢③参照。ピッツバーグは鉄鋼業であり「毛織物工業」ではない。おそらくこの文章はイギリスのヨークシャー地方の説明だろう。米国に毛織物工業が発達していた地域はない。

参考までにヨークシャー地方の説明を。イギリスを縦断するペニン山脈の東麓に広がる一帯で、偏西風の風下斜面側に位置し、降水量が少ない。牧草地が広がり牧羊がさかんな地域で、伝統的に毛織物工業が発達。イギリスが「牧場牧草地面積割合の高い国(国土の半分近く)」「羊の飼育頭数が多い(ヨーロッパ最大)」であることを知っておこう。

 

他の選択肢の都市名も重要なのでチェックしていこう。

選択肢①参照。サンノゼはカリフォルニア州のサンフランシスコに隣接した都市(サンフランシスコ都市圏に含まれる)。「シリコンバレー」とよばれ、電子産業が集積している。

選択肢②参照。シアトルは米国太平洋岸北部の港湾都市。木材の搬出港として発展し、製紙工業がさかんだが、近年は航空機工業も成立している。

選択肢④参照。ヒューストンはテキサス州のメキシコ湾岸の都市。この地域で採掘される原油を利用した石油工業が発達しているが、それよりもNASA(米国航空宇宙局)の本部があることで有名だね。人工衛星を赤道上空に打ち上げることが多いので、宇宙産業はこういった低緯度地域で発達することが多いのだ。

 

[関連問題]ピッツバーグといえばやはり米国の鉄鋼業に関連して登場してくるわけだ。

06B本第4問問3参照。②が米国の鉄鋼業を示すグラフであるが、80年代に大きく落ち込んでいる。ピッツバーグを中心とする内陸部の鉄鋼地域が衰退した。その後に臨海部の鉄鋼業が発達するとともに米国の鉄鋼業も復活した。

02B本第2問問5参照。米国の工業分布。非常に重要なのでこの図でビジュアル的に米国工業を理解する。北西端に位置する○はシアトルの航空機工業。暖流に面し降水量が多いのだが、それにより水力発電とアルミニウム精錬がさかんで、それを材料とした航空機工業が成立。テキサス州(南に位置する面積の大きな州)に複数みられる▲は、ヒューストンを中心した地域みられる石油精製工業。メキシコ湾岸は米国最大の産油地帯であり、テキサス州は州別の原油産出量第1位。五大湖に接して4つ鉄鋼業(■)がみられ、大西洋に接する臨海部にも2つみられるが、その中間の内陸部に一つだけ■がある。これがピッツバーグ。アパラチア炭田の北端に位置し、付近で採掘された石炭と五大湖方面から輸送された鉄鉱石とを結びつけ、鉄鋼業が成立した。なお、臨海部の2つの■のうちの南側がボルチモアのスパローズポイント地区。ピッツバーグの衰退とともにこちらが近年急成長を遂げている新しい鉄鋼業の中心。ピッツバーグからボルチモアに向けて矢印でも書いておいて、鉄鋼業の移動を表しておきましょう。

98B追第1問問2参照。ピッツバーグは内陸部。「鉄鋼業が臨海部に発展した都市」ではない。

04B追第3問問5参照。ピッツバーグとサンノゼが登場。ピッツバーグについては「鉄鋼業が衰退した」とあり、サンノゼについては「シリコンバレーの中心地」として説明されている。

03A追第2問問3参照。米国における先端産業の発達には「大学や研究所などの研究開発機関」の存在が重要な要素となっている。サンノゼの近くには有名な大学(バークレー大学など)があり、そこでの技術力がコンピュータ産業に生かされた。

05B追第1問問1参照。A地点がサンノゼ。地下水汚染などのハイテク汚染も生じてしまっている。先端産業だからといって公害が生じないというわけではないことを知っておこう。

 

[今後の学習]ピッツバーグが問われたことについてはさほど意外性はないのだが、それにしてもやや傾向を読みきれないところがある。それは問2と比べてみると顕著なのだが、都市については「名称」と「位置」、どちらが重要なのかということ。いや、おそらく両方とも重要なのだろう。

問2では「位置」が問われている。問3では「名称」である。僕の見解であるけれど、例えば問2で「名称」が問われる可能性もあったし、問3で「位置」が問われてもおかしくはない。両方とも知っておくことが受験生にとって必要なわけだ。

 

というわけで問2問3を合わせての教訓として、以下の事例を押さえておこう。

「マンチェスター(ランカシャー地方)=イギリス西部=産業革命発祥の地」

「ルール工業地帯=ドイツ西部=炭田を基盤とした鉄鋼業」

「ツールーズ=フランス南部=航空機」

「サンノゼ=米国太平洋岸中部=先端産業」

「シアトル=米国太平洋岸北部=航空機」

「ピッツバーグ=米国東部=鉄鋼業」

「ヒューストン=メキシコ湾沿岸(テキサス州)=石油化学」

 

教科書的な勉強だとどうしても都市名を優先して覚えてしまうけれど、その位置もビジュアル的に印象付けておくことが大切!

 

2007年度地理B本試験[第2問]問4

 

[講評]凄いね、センター試験って。昨年のネタがそのまま出題されているもの。こういった「カラクリ」を読み解くことが高得点のコツなのだ。野球でいえば、相手ピッチャーの決め球なんて同じなんだ。それをひたすら待って、打ち崩せばジャストミートできるってことだぜ!

 

[解法]06B本第2問問6参照。「日本とロシアの企業が、共同で最先端の航空機開発を行っている」とある。そもそも日本もロシアも航空機工業なんて発達していないのだが、それ以外の点として「ロシア=先端」という点に不信感を持ってほしい。原則として「発展途上国では先端産業は発達しない」というセオリーがある(ただしインドがこの例外なのはみんなも知っているよね)。ロシアは工業国のイメージもあるかもしれないけれど、やはり経済レベル(つまり1人当たりGNI)を基準として考えれば、発展途上国に過ぎない(1人当たりGNIは約2000$/人)。こんな国で「最先端」なわけはないよね。よってこの文は誤りとなる。

これを前提として本問に当てはめてみる。選択肢④参照。「2000年代に入り、政府は沿岸部との格差是正を目的に、西部大開発を推進した結果、内陸部では自国資本による先端技術産業の集積が進んでいる」とある。中国のような発展途上国で「先端技術産業の集積」は進まないよね。

 

ちなみにこの選択肢、上に挙げた以外にもツッコミどころ満載で、この選択肢を作った人間は天才なんじゃないかって思うぐらい(笑)。「2000年代に入り」って部分はいいと思う。2008年オリンピックのペキン開催を前に中国政府もかなり息巻いているだろうし。しかしここからは見事に「外し」ている。「政府は沿岸部との格差是正を目的に」って、中国政府はこんなことするかい?今でも莫大な労働者の移動が貧困な内陸部から富裕な沿岸部へと生じているんだぜ。むしろ沿岸部の労働力確保のために内陸部は貧しいままの方がいいんじゃないか。建前はともかく、本音ではそう考えてると思う。

さらに「西部大開発」ってあるけど、具体的にどこなんだ?北西部の乾燥地域だろうか。南西部の高原だろうか。北西部のウイグルでは近年油田開発もさかんに行われているそうだ。しかしそれが中国全体からみたらどんな価値があるのだろう。南西部のチベットには鉄道が敷設され、観光開発もなされているようだ。でもそれはチベット人に対する漢民族の支配を強化する以外の何ものでもないだろう。そもそもこんな厳しい自然環境を持つ人口過疎地域、大規模な開発など行いようがない。

さらに「自国資本」と来た。中国で自国資本だなんて思わず笑ってしまうキーワードだね。中国世界第6位のGNIを有する経済大国である。しかしその実態は、そのGNIの4割が外国資本によるもので、もし外国企業が一斉に中国から撤退したら中国の経済力は今の半分近くに落ち込んでしまうのだ。ここまで外国資本に依存する国はないよ。そんな国が「自国資本」中心で開発できるとは思えないのだ。

今の日本人には「中国は凄い国」だなんて妙な誤解があるんじゃないか。僕はそんなことは全然ないと思います。外国に依存しなければ成り立たない国、それが中国なのだ。

 

[関連問題]「発展途上国では、コンピュータなど先端産業は発達しない」というセオリーを重視。

03B追第3問問4選択肢4参照。ロシアに関する事柄として「情報通信網」が「コンピュータソフトウェア産業の発展を促した」とある。もちろん誤文。

01B追第1問問7選択肢4参照。「ロシアのハイテク関連企業」と述べられている。そんなものは存在しない。また「周辺諸国への進出が活発化した」とあるが、ロシアのような低賃金国から外国へと工場を進出させることにメリットはあるのか?例えば日本にロシア企業の工場があるかい?

06B本第2問問6参照。解法の部分を参照してください。

 

インドのみ例外と考える。経済レベルは極めて低いが、今や世界的なハイテク産業国として有名で、コンピュータソフトの開発は米国に次ぐ世界第2位のレベル!

03B本第3問問7選択肢③参照。インドにおけるコンピュータ産業発展のことが述べられている。

 

ただし、実はちょっと頭をひねらざるを得ない選択肢も存在するのは事実。

03B追第4問問3参照。アが中国なのだが「この国の首都では、ハイテク産業の育成が政策的に進められる一方」とある。問題自体は他のキーワードや消去法によって正解が得られるので大丈夫なのだが、「発展途上国でハイテク産業」という部分にはやっぱり引っかかるんだよなぁ。でもよく考えたら「育成」とあるのだから、まだ日本など先進国に匹敵するレベルまでは成長していないと読むこともできる。まだまだ未完成の国なのだ。また「政策的」なんていう部分も社会主義国として政府が産業に与える影響が強い中国ならではのことだよね。とくにおかしい文章とは思わないように。

 

[今後の学習]過去問重視!

 

2007年度地理B本試験[第2問]問5

 

[講評]非常にオーソドックスな問題。過去にもこのような問題はあったし、確実に得点したい。

 

[解法]3種類の工業が挙げられている。「食品」「精密機械」「鉄鋼」。この中でも最も出題頻度が高く、確実にその分布地域を知っておくべきなのは「鉄鋼」。わが国における製鉄所の立地については「太平洋に面した臨海部」が最大のポイントであるが、これ以外に古い鉄鋼地域としてかつて炭田を中心として鉄鋼業が発達した「北九州」と「北海道(室蘭)」を意識することが大切。

この条件に最も当てはまるものとしてシが「鉄鋼」である。茨城県から大分県まで太平洋沿岸地域が中心であるが、福岡県や北海道でも生産されている。内陸部の群馬県や日本海側の新潟県などでも生産が行われている点がやや疑問だが、こちらは鉄鋼そのものよりもその加工品などを製造しているのではないか。それでもサやスに比べれば、シの内陸部の円は小さく描かれており、これぐらいなら「誤差」と思ってしまっていいのでは。

 

「食品」工業はセンター初出であるが、これぐらいなら想像できるだろう。例えば缶詰を作る工業や食肉やその加工品を作る工業。農畜産業や水産業のさかんな北海道や九州でこそ発達しやすいのではないかと考える。スが該当。また、スでは農業地域以外に、関東地方や近畿、宮城県や広島県そして福岡県でも円の面積が大きいことに気付く。これは、人口が多いため彼らの胃袋を充たすための食品加工業が成り立っているのだと解釈すればいいだろう。ビール工業のように消費地に近いところに立地する食品工業種はいくらでもある。

 

「精密機械」とは、電気を使わない機械のことで、いくら精密な部品を使っていようとコンピュータは含まれない(コンピュータは「電子機械」である)。具体的には時計やカメラなど。熟練した労働力こそが重要となる工業種である。とはいえ、機械工業の一種には違いないので、原則として「内陸立地」であることを考えよう。資本集約型工業の鉄鋼業や石油化学工業は臨海部に立地するのと対照的に、労働集約型工業の機械工業は内陸部に立地しやすい。消去法でサが該当。長野県(どこかわかるかな?)の円がとりわけ大きいことからも分かるように、サの工業は内陸部に成立する傾向が強い。

 

[関連問題]日本の都道府県別の工業分布について。

06B本第4問問6参照。ポイントは工業種別の平均賃金だが、あまり出題されない「食料品」についてイメージをつくっておくといいだろう。決して収益性の高い工業ではないが、北海道や九州など農畜産業の発達した地域でさかんになっている。

05B本第2問問3選択肢②参照。「臨海部」に「重化学工業」、「内陸部」に「電気機械・電子工業」という傾向がおおまかにある。

04B本第5問問2選択肢③参照。諏訪湖周辺におけるエレクトロニクス産業や機械工業について説明している。長野県のような「内陸部」では時計など精密機械を中心とした「機械工業」なのだ。

99B追第2問問2参照。ブラジル人の分布だが、これはそのまま自動車工業の分布と一致する。群馬県など内陸部の県に円が多い。愛知県や静岡県など海に面した県でも円が大きいが、これにしても臨海部に自動車工場があるのではなく、豊田市や浜松市など内陸部の都市に立地している。

00B追第1問問4参照。北九州・豊田・倉敷の工業。

99B本第3問問3参照。日本の工業分布。九州や東北地方など遠隔地でも成立するIC、東京など大都市圏近隣に立地するコンピュータ、石灰岩産地である山口や福岡に多いセメント、石油化学コンビナートの立地と一致する傾向が強く輸入に適した臨海部に分布する化学繊維。

98B追第1問問4参照。日本の工業地域の変化について。とくに鉄鋼業に注目。原則として太平洋ベルトに集中(古くからの鉄鋼地域は北九州や北海道にもみられるが)。

97B本第3問問7参照。日本の主な製鉄所の分布。とくに最も新しい92年のものに注目しよう。

 

[今後の学習]オーソドックスだとおもう。製鉄所の分布についての知識は必須事項であるし、これを誤ってはいけない。食料品は目新しいが、これについても前年に出題があるので、十分にマークすることはできた。

 

あるいは日本の問題だからこそ、君たちの「経験」が生きてくるものであるとも思う。自分が住んでいる都市、あるいは行ったことがある都市でどんな工業がさかんなのか。そういった日常的な事柄から正解を導き出すことも出来たと思うよ。

 

2007年度地理B本試験[第2問]問6

 

[講評]過去問そのまんまじゃないですか!?過去問を研究しておけば解ける。そうでなくても経済レベルすなわち1人当たりGNIを寄りしろに考えていけば解答に達する。

 

[解法]まず基本的な言葉の定義から。「直接投資=工場」のことである。この考えを徹底させることが大事で、「投資」という言葉のイメージから銀行や株式の売買などを考えてはいけない。問題文に「ある国の企業が~企業買収を行うこと」と注釈が加えられているが、こんなのは無視する。そもそも分かりにくい。

 

例えば日本は、自国から他国への直接投資である「対外直接投資」額は大きいのに対し、外国から自国への直接投資である「対内直接投資」は小さい。その理由は何か。それは日本の経済レベル(1人当たりGNI)が高いからである。日本のような高賃金国へ工業を進出させようなんて企業は存在するか?逆に日本企業の方が海外の安価な労働力を利用するために経済レベルの低い国へさかんに工場を設立しているではないか。このイメージを厳格に持つことができれば本問の解答は容易い。

 

アジアNIEsの代表として韓国を考えよう。アセアン4の代表としてマレーシアやタイを考える。

1人当たりGNIについて。韓国は約10000$/人、タイとマレーシアは数千$/人程度、中国は約1000$/人。日本が工場をこれらの国々に進出させる場合、最初は韓国に工場を建てるかもしれない。しかし韓国は高賃金国であるので、やがて東南アジアに立地移動を起こす。しかしさらに中国という低賃金国が登場し、現在はここへの工場進出がさかんである。こんな風に考えたらいいのでは?

 

最初(1985~89)に最も対外直接投資額が大きかった(つまり日本からの工場進出がとくにさかんだった)チが韓国を含むアジアNIEs。次(1990~99)に投資が集まったタがタイやマレーシアを含むアセアン4。そして最も新しい時期(2000~04)に投資が伸びているツが中国である。

 

イメージとしてはこんな感じかな。国内の産業基盤が整い海外からも多くの企業を受け入れることで80年代に韓国は高度経済成長を果たした。しかし同時に経済レベルが上昇したことで賃金水準も上がり、外国企業は韓国への進出を見送るようになった。この時に注目されたのが東南アジア。90年代になり、タイやマレーシアなど比較的政治の安定した国では道路や港湾などのインフラ(社会資本)も整備され、外国企業を受け入れる準備が整った。この時期に韓国から撤退した日本企業はこれらの国々へとさかんに工場を進出させるようになった。さらに近年注目を浴びるのは中国である。政治的にはやや不安定であるものの、莫大な人口に支えられた安価な賃金水準はやはり魅力的で、巨大な工場規模を持つ機械工業はリスクが大きいとしても、比較的簡易に工場を建設できる衣類工業の分野などは中国出の生産が中心となった。ペキンオリンピックを控え、さらに政治が安定し社会基盤が整ったならば、より一層中国に進出する企業数は増え、直接投資額も増加するだろう。

 

[関連問題]過去問にそのままズバリのものがある。

99B本第3問問4参照。80年代には韓国に投資が集中し、90年代前半には東南アジア、90年代後半以降は中国へと移っている。1人当たりGNIを考え「10000$/人 → 5000$/人 → 1000$/人」のように、低賃金を求めて工場の主な進出先が移転していく様子を思い浮かべよう。

 

直接投資がキーワードとなっているものについて。

01B本第2問問3参照。日本から海外へと工場が進出する様子、中国へと外国から工場が入ってくる様子を読み取る。

 

中国や東南アジアへの日本企業の進出について。

02B本第2問問3参照。90年代におけるタイやマレーシアなど東南アジア諸国、そして中国への日系企業の増加率の高さに中も注目しよう。

 

[今後の学習]過去問に徹底的に習熟することが重要だと思う。過去問は君たちの教科書である。例えば日本史や世界史は「教科書を隅から隅まで読む」ことが重要であり、地理は「過去問を隅から隅まで読む」ことが大事なのだ。