2013年度地理B本試験[第5問]解説

<2013年度地理B本試験第5問問1>

 

[インプレッション]

東アジアから中国を連想し、そして一人っ子政策に結びつけることができるかどうか。そこが関門となっている。

 

[解法]

原則として合計特殊出生率は人口増加率に比例している。大陸ごとの人口増加率を下に示す。

 

年平均人口増加率

大陸・地域

2%

アフリカ

1.5%

南アジア ラテンアメリカ

0.5%

東アジア アングロアメリカ オセアニア

0%

ヨーロッパ(ロシア含む) 日本

 

合計特殊出生率が最も高い1がアフリカ、それに次ぐ2が中央・南アメリカ(ラテンアメリカ)であるのは間違いない。問題はここからなのだ。

東アジアと北アメリカ(アングロアメリカ)は人口増加率は同じなので、合計特殊出生率からの判定は難しい。ここでちょっと考える。

そうすると妙なことに気づく。本来、人口増加率と老年人口割合(65歳以上人口の割合)は反比例する。人口増加率と合計特殊出生率は比例するのだから、合計特殊出生率と老年人口割合は反比例すると言い換えてもいい。たしかに1(アフリカ)は合計特殊出生率が高く、老年人口率が低い。一方、ヨーロッパは合計特殊出生率が低く、老年人口率は高い。その通りである。

しかし、3と4はどうだろうか。合計特殊出生率は(大きな違いではないけれど、あえていうならば)3が高く4が低い。それなのに、老年人口割合についても3が高く4が低い値となっている。これはどうしたことだろうか?3については、子どもも少ないし、老人も少ないということ。このような特殊な状況、キミはどう考える?

ここで、人口構成を特殊なものにする、とある状況を考えてみよう。それが「一人っ子政策」。そもそも東アジアが問われている時点で「あぁそうか、これは中国の一人っ子政策について尋ねてんねんな」って見当を付けられたんじゃないかな。中国は発展途上国である。医療水準も低く、全国民が高い医療サービスを受けるわけにはいかないだろうから、平均寿命にしても長寿国ということはないだろう。現時点での高齢者の割合は、先進国に比べ低いものと想像される。4を中国を主とする東アジアと考えてしまっていいのではないだろうか。もちろん東アジアには日本も含まれるが、中国の人口は圧倒的であり、中国だけを考えれば十分。

 

(追記)一人っ子政策が実施されるようになったのは今から30年ほど前のことなので、現在の40歳以上の人々はその影響を受けておらず、その年代までは人口が多い。彼らが65歳以上となる20年から30年後には中国の高齢化は一気に進む。

 

[ひとこと]

大陸別人口増加割合は数値として確実に頭に入れておく。

 

 

<2013年度地理B本試験第5問問2>

 

[インプレッション]

今回はこの手の問題が多い。キャラクターの違う国を対比させるパターンの問題である。主なキャラクターの違いはどこに現れるか。それは「1人当たりGNI」である。1人当たりGNIが高いアメリカ合衆国、やや高いサウジアラビア、低いインド。

 

[解法]

1人当たりGNIで考えていいと思う。アメリカ合衆国は約40000ドルで極めて高い。サウジアラビアは産油国であり、20000ドルというやや高めの値となる(極端に高いわけではないから勘違いしないように)。インドは約1000ドルという発展途上国。

「5歳未満児発育不良率」がおおよそ1人当たりGNIに反比例することは想像できるよね。1人当たりGNIと乳幼児(5歳未満児)死亡率が反比例することは鉄板で知っていかなくてはならない。で、5歳未満児発育不良率と乳幼児死亡率は当然比例するだろうから、1人当たりGNIと5歳未満児発育不良率は反比例ということになる。

これを表にあてはめる。アがインド、イがサウジアラビア、ウがアメリカ合衆国で妥当だろう。他の指標は見る必要はない。

 

(追記)実はここから後日談(?)があるのです。この問題はさほど難易度が高くない。君たちもすんなりと5を正解にできたと思う。でも、逆に地理に詳しい人はここから考えすぎてしまうんじゃないかな。実はボクがそうで、問題を解き終わった後で、「いや、これはちゃうんちゃうかな」ってすごく悩んだ。最も気になったのは喫煙率。サウジアラビアにはイスラム教っていうキャラクターもあるよね。で、イスラム教ってアルコールは禁じられているけれど、喫煙については容認されている(そもそもムハンマドがイスラム教を開いた時には、新大陸原産のタバコは西アジアには伝わっていなかったので。コーヒーも同様)。だから意外とイスラム圏の女性にもタバコは広まっているんじゃないかって、マジで悩んでしまったわけ。でもよく考えたらイスラム社会は男性社会で女性の権利は制限されている、それならやっぱり嗜好品であるタバコをたしなむ習慣は、女性には普及していないのかなとも思ってみたり。この辺りで実は考え込んでしまったんやなぁ。「糖尿病患者の割合」もアメリカ合衆国の方が高そうな気もするし。そんなことまで考えたら、ホント、粉kの問題解けなくなるよ。

結局結論としては「1人当たりGNI」一発で解きましょうっていうことなんだろうな。それがセンター地理の鉄則なのだと思う。

 

[ひとこと]

やっぱり1人当たりGNI!(しつこい?笑)

 

<2013年度地理B本試験第5問問3>

 

[インプレッション]

(問2で述べたことを受けて)逆に今年はこういった形式の問題が少ない気がする。誤文指摘問題っていうのは「何となく誤っているような」選択肢を一つ選べばいいので、結構おいしんやけどね。

 

[解法]

でも本問は意外と難しかったりする。インドの家族計画(子どもは2人までにしましょうという運動)はセンター初出なんだわ。本問については「インドはめちゃくちゃ人口増えてるし、人口抑制策とかやってたんちゃう?」ぐらいの軽い気持ちで正解を導きだしてくれるとボクとしては嬉しいです。

 

[ひとこと]

誤文判定問題は何となく(笑)。

 

 

<2013年度地理B本試験第5問問4>

 

[インプレッション]

クルドはしっかり授業で扱っておいた。問題形式としては難しいところもあるけれど、思考問題としてクリアして欲しいなと願うのだけれども。

 

[解法]

クルドについて。トルコ東部の高原地帯を中心に、イランやイラクなど周辺諸国にまたがって分布する「国を持たない」民族。宗教的にはイスラム教であり周辺国との違いはなく、民族・言語的にも大きな違いはない。しかしそれぞれの国において少数派であるため、迫害や弾圧の対象となっている。

「一つの民族(クルド)が、複数の国(トルコやイランなど)にまたがって分布」という部分をしっかり読解できれば素直に3を正解にできると思う。

1のパターンはアフリカにしばしばみられるパターンで、民族の分布域を無視して国境が引かれてしまったもの。ナイジェリアが典型か。ナイジェリアの主要民族(部族)は北部のハウサ族、西部のヨルバ族、南東部のイボ族だが、ハウサ族はニジェールの主要民族であるなどサヘル地域に大きく広がっている。ヨルバ族はナイジェリアからトーゴやベナンに広がる奴隷海岸の主要民族であり、やはりその分布域はナイジェリア国内に留まらない。「諸民族(ハウサ族やヨルバ族など)の分布域が国の内外に錯綜し、一つの国(ナイジェリア)の中で主導権を争う」ということ。

2はあまり思い当たることのないパターンなのだが、具体的にはどこなんだろう?例えば中国において、チベット民族とウイグル民族が力を合わせて、中国政府に対抗するということ。ないことはないんだろうが、特殊かな。

4は朝鮮半島が典型例。一つの朝鮮民族が、韓国と北朝鮮に分断され、対立している。かつてのドイツやベトナムもこのパターン。冷戦構造が作り出した悲劇。

 

[ひとこと]

問われている知識は容易。しかしそこから求められる思考力は困難。

 

 

<2013年度地理B本試験第5問問5>

 

[インプレッション]

言語がこの形で出たかぁ。。。そうなんだわ、先住民の言語が公用語の一つに定められている国は多い。(英語と並んで)マオリ語を公用語としているニュージーランドはその代表例。そのことは授業でもすごく強調しているから大丈夫だと思う。でも、そうでない国も実は多いんだなぁ。多文化主義を掲げるカナダやオーストラリアではあるが、先住民であるイヌイット(エスキモー)の言語やアボリジニーの言語も尊重されてはいるものの、公用語までは至っていない。本問はその「隙間」が問われたわけで、これはハードルが高いな。

 

[解法]

ニュージーランドでは先住民族の言語(マオリ語)が英語と並んで公用語の一つとされているが、カナダやオーストラリアでは先住民の文化こそ尊重されているが、彼らの言語が公用語とされているわけではない。

しかしこんな微妙なところを問うてくるかね?オーストラリアではかつて迫害されたアボリジニーであるが、現在は(白人に占領されていた)土地が返還されるなど、彼らの権利が回復されつつある。カナダにおいては北極海沿岸にヌナブト準州が設けられ、そこではイヌイットが自治を行っている。しかし、オーストラリアの公用語は英語だけであるし、カナダは英語とフランス語のみ。

近年公用語に関する問題がしばしば出ているのでちょっと注意が必要かな。先住民の言語が公用語の一つとされている例としては、フィリピン(英語とピリピノ語)、ケニア(英語とスワヒリ語)、ペルー(スペイン語とケチュア語など)を知っておくといい。

また「ドイツではトルコ語も公用語とされた(誤文)」や「ニュージーランドでは中国語も公用語とされた(誤文)」という選択肢も誤文指摘問題で登場しており、移民の言語はその国の公用語とはなりえないことも知っておこう(*)。

(*)シンガポールが例外。そもそも移民によって国家が成り立っている。旧宗主国の言語(英語)、先住民の言語(マレー語)以外に移民の言語(中国語、タミル語)も公用語。

 

[ひとこと]

先住民の言語は尊重されるべきである。わが国でなぜアイヌ語と琉球方言が公用語にならないのか?