2016年度地理B本試験[第2問]解説

たつじんオリジナル解説[2016年度地理B本試験第2問]     

非常にオーソドックスな問題が並ぶ。だからこそ、この大問を作った先生(先生方)は力があると思う。奇をてらった問題がいいとは限らない。それでいて「産業用ロボット」の統計など、おいしいネタも使われていてツボを押さえている。個人的には問6が素晴らしいと思う。単なる文章正誤問題ではあるのだが、その外見とはうらはらに、中身は深い。

<2016年度地理B本試験第1問>

[ファーストインプレッション]ずいぶんベタな問題やな(笑)。第5問でもあったんだけど、こうして2つの地域を比較するのが今年の問題のトレンドなんだろうね。でも結局出題されるポイントは従来通り。シアトルなわけですよ。

[解法]シアトルに注目。アメリカ合衆国北西部。暖流の影響で雨が多く水力発電がさかん。安価で豊富な電力を利用してアルミニウム精錬業が興り、航空機工業へと発展した。ウ(□)は自動車工業ではない。③が正解。

[アフターアクション]他にも言いたいところはたくさんありますが、とくにいいでしょう(笑)

<2016年度地理B本試験第2問問2>

[ファーストインプレッション]おっと、またしてもオーソドックスというかベタな問題。本年度は第2問の難易度が一番低そうだね。この大問から取り掛かったら良かったんじゃないかな。

[解法]もちろん正解は④。ビールは製品重量が重くなるので、消費地(市場)付近に立地する。都市型工業の典型例。

[アフターアクション]とくに言うことはありません。大丈夫だよね。

<2016年度地理B本試験第2問問3>

[ファーストインプレッション]こちらもベタな統計問題。「産業用ロボットの稼働台数」は絶対に知っておくべき統計指標であるし、「二酸化炭素排出量」も一次エネルギー供給(消費)量や石炭に関する統計指標を思い浮かべれば十分推測できる。「技術貿易の受取額」は消去法でいいんだが、実はこれも過去に出題例があり、決して高いハードルではない。

[解法]こういった世界全体の図においては日本に注目するといい。日本が最大であるカがやっぱり一番おいしいんだわ。「産業用ロボットの稼働台数」において、日本は世界1位の座にある。カが該当。日本が世界1位の統計ってめずらしいから知っておいていいんじゃないかな。

さらに「二酸化炭素排出量」について。これについては、一次エネルギー供給量や石炭の産出量などと対応させて考えればいいと思う。世界最大の石炭国は中国であり、産出量が多いだけではなく、輸入もしている。世界全体の半分近くの石炭は中国で消費されているのだ。さらに一次エネルギー供給量についても、これは原則として経済規模(GNI)に比例するのだが、GNI世界1位のアメリカ合衆国と2位の中国が、一次エネルギー供給についても上位を占めている(中国が1位、アメリカ合衆国が2位)。中国がダントツに大きな値となっているキが「二酸化炭素排出量」。

そして残ったクが「技術貿易の受取額」である。技術を「輸出」することによって得られた金額であり、研究開発能力の高い先進国で大きな値になっているのは当たり前だろう。アメリカ合衆国や日本、そして(円がごちゃごちゃすぎて個々の国はわかりませんが)ヨーロッパ。とくに矛盾はないと思う。

[アフターアクション]こうした3つ組み合わせ問題については、「2つは絶対、1つは消去法」で考えるというコツがある。本問についても「産業用ロボットの稼働台数」の統計は絶対に知らないといけないし、「二酸化炭素の排出量」については他の統計指標(石炭産出など)との関係性から推理しないといけない。「技術貿易」に関する話題は最近しばしば見るようにはなったんだが、今回については消去法でいいと思うし、今後についても「先進国は技術の輸出も多い」と覚えておけば十分。

なお、中国と石炭の関係については統計で確認しておこう。世界最大のエネルギー消費国の中国において、最も依存度が高いのが固体燃料である石炭であるということ、そして石炭は鉄鋼業に多く利用されるのだが(高温が得られるため、鉄鉱石の融解に用いられる)中国が世界最大の(そして圧倒的な)鉄鋼生産奥であることをチェックする。

<2016年度地理B本試験第2問問4>

[ファーストインプレッション]1人当たりGNIでいいんじゃないかな。それで決めちゃっていいと思う。

[解法]手掛かりが少ない問題ではある。こうした場合、「1人当たりGNI」だけで解いてしまっていい(っていうかそうするしかない!)。

まず「製造業の雇用者1人当たりの工業付加価値額」とある。正直、意味がわからないよね(笑)。付加価値って言い方は知っておいていいと思うけれど、例えば単なる鉄板なら安いよね。でもこの鉄板が日用品などの道具になれば高くなるし、さらに電気機械、自動車、そしてコンピュータに加工されたら、さらに価値は高くなる。より高い技術が必要とされる工業製品ほど、「付加価値が高い」という認識でオッケイ。

それに実は注釈がある。「各国の経済発展と関係している」とはっきりと書かれているじゃないか。ここまで親切に言ってくれているんなら、それに乗っかってしまおう。経済発展とは経済レベルが上昇することであり、要するに1人当たりGNIのことでしょ?

そして選択肢を参照すると、この4カ国って明らかに1人当たりGNIに違いがある国ばかり。日本を含め、高い方から低い方に並べると、「スイス>日本>韓国>メキシコ>中国」。最近はペキンやシャンハイで先端産業の集積地区ができるなど、中国もかなりのもので、メキシコより中国の方が劣っているかどうかっていうのは正直不明。でも、本問の場合は韓国を当てる問題だから、そこは無視してしまっていいよね。①がスイス、日本を挟んで、②が韓国、③と④は微妙な差なので中国とメキシコで判定不可、ということでいいでしょう。②が正解。

なお、GDPにおける鉱工業の割合は重視しなくていい。ただ、韓国ってGNI(GDPと同意とみなしていい)が小さい国じゃない?それなのに、自動車生産が世界5位であったりとか、世界的な工業国となっている。なるほど、工業の比重が高い国というのは納得なのだわ。それに対し、日本はそうでもなかったりするんだよね。第3次産業(商業やサービス業)が経済の中心になりつつあるっていうことなのかな。

[アフターアクション]とにかく、わからなかったら「1人当たりGNI」で決める!

<2016年度地理B本試験第2問問5>

[ファーストインプレッション]日本を中心とした貿易の問題。定番問題なので確実に解こう。ヒントは「貿易相手1位と2位は中国とアメリカ合衆国」、「アメリカ合衆国に対し貿易黒字」、「中国に対し貿易赤字」である。ただ、もう一つの選択肢が「ASEAN」という複数の国々になっている点。10個の国を総合して考えないといけないのはちょっとしんどいかな。

[解法]貿易額は原則としてGNIに比例するもの。GNIは1位アメリカ合衆国、2位中国、3位日本、4位ドイツであり、貿易額(輸入と輸出を合計したもの)は1位中国、2位アメリカ合衆国、3位ドイツ。4位日本。日本にとって最大の貿易相手国は中国であり、とくに輸入においては圧倒的な数値となっているが、輸出については中国とアメリカ合衆国の金額は近接しており、年度によってしばしば逆転している。ただし、日本と両国との関係を考えた場合、日本とアメリカ合衆国との間の貿易は、「日本の輸出超、アメリカ合衆国の輸入超」となっているのに対し、中国については「日本の輸入超、中国の輸出超」であり、黒字と赤字の関係が反対になっている。

このことを頭に入れて、図を読解していこう。

まず、日本を中心として黒字・赤字関係を観察する。日本とPは「日本黒字・P赤字」、Qは「日本赤字、Q黒字」、Rは「日本赤字、R黒字」。この時点で、Pをアメリカ合衆国と絞ることができる。

さらに中国はアメリカ合衆国に匹敵(もしくはそれ以上)の貿易額を日本との関係において有しているので、値の大きいQを中国とし、残ったRがASEAN。経済規模が大きいP(アメリカ合衆国)とQ(中国)との貿易関係が図中で最大であるのも納得なのだ。

[アフターアクション]中国すごいね。アメリカ合衆国を中心としてみても、日本とASEANの地位にはたいした違いがないのに、中国との貿易関係(とくに中国からの輸入)は極めて太いものとなっている。これが国際関係というものなのだ。経済は軽々と国境を越えていく。

<2016年度地理B本試験第2問問6>

[ファーストインプレッション]地味ながら、素晴らしい問題と思う。これ、かなり好きだな。「輸出加工区」や「輸出指向型工業」などの言葉の正確な意味を把握しておかんと解けない問題。本年度のベスト問題かもしれない。

[解法]言葉の意味が非常になる素晴らしい問題。とくに選択肢②と③が秀逸。

まず選択肢②について。「輸出加工区」とある。発展途上国に設けられた工業地域で、安価な労働賃金を目的に先進国から労働集約型の工場が進出する。機械組立工業が一般的で、これらは単純労働に依存する労働集約型工業である。

このことを踏まえ、選択肢②の誤りを指摘するならば「ベンチャービジネス」が気になる。ベンチャービジネスは一般名詞であり地理の専門用語でもないので、君たちにも意味はだいたいわかるだろう。IT系の企業が多いことは想像できるよね。コンピュータソフト開発や通信技術など知識集約型の産業であるわけで、ここに発展途上国の単純労働力の出る幕はない。まず②は誤り。

さらに選択肢③について。「輸出指向型」と「輸入代替型」は反対語。たとえば、ある国が工業化を進める場合、これまで輸入に依存していた工業製品(衣類など)を国内で作り、いわゆる「自給率(工業の場合は自給率とは言わないけれど、わかりやすいのでこの言葉を使ってみました)」を高める努力をする。これが「輸入代替型」工業。国内市場向けの工業化なわけだ。

輸入代替型の工業を押し進めるうちに、工業製品が国内市場に飽和するようになり、今度は輸出を目的としての生産活動に切り替える。要するに、余ってしまうから外国に売りましょうっていうことだ。これが「輸出指向型」工業。東南アジアや韓国など、国内市場(マーケット)が小さい(経済規模すなわちGNIが小さい)国の場合は、すぐに国内だけで販売していたらあまり儲からないので、外国へと新たな市場を求めるしかない。この点が日本と違い、日本の場合は経済規模が大きくマーケットも巨大であるため、国内向けの商品だけでも経済が成り立つのだ。日本は、貿易額をGNIで割った貿易依存度が低い国なのだが、そもそもさほど輸出をしなくても問題ない(しばしば日本が輸出大国であるように誤解されているけれど、それは間違いなのだ)。

ちょっと話が逸れた。③については、キーワードを入れ替えて「輸入代替型から輸出指向型」とする。ベクトルの方向は「輸入代替型 → 輸出指向型」であり、その反対はありえない。

残った①と④については、①は感覚的に消せると思う。④が正解となる。まさにクールジャパン。僕は個人的にはゲームもしないしアニメもみないけれど、おそらく日本の将来を背負っていくのはこういった産業なんだろうな。

参考までに①についても。「重化学工業のコンビナート」については具体的に石油化学コンビナートを考えたらいいと思うのだが、こうした石油化学工業は「資本集約型」の「重工業」であり、とくに豊富な資本力や高い技術水準を必要とするため、先進国に立地する傾向が強い。日本でも、高度経済成長期に多くの石油化学コンビナートが臨海部に建設され(原料の原油は輸入)、オイルショックのダメージは受けたものの、現在もさかんにプラスティックなどの化学製品の生産が行われている。発展途上国の原料産地において発達する工業種ではない。

[アフターアクション]ほんと、いい問題だと思うんですよ。選択肢①〜③がそれぞれ意味を持ち、そして希望をもたせる選択肢の④が正解である。こうした地味な問題の良さっていうのに、みんなも気づいて欲しいなぁ。