2018年度地理B追試験[第4問]解説(改定)
<第4問 北アメリカ地誌>
【19】 【インプレッション】 北アメリカ大陸の地形。地誌問題の一発目はこうした地形に関する問題が多い。知識問題ではあるけれど、固有名詞が問われるわけでもなく、丸暗記が必要ということもない。それぞれの地形の意味を理解しておこう。
【解法】 誤文判定問題なのだが、怪しい部分ってどこだろう?例えばAでは「標高が高く急峻な山々」とあり、Cでは「侵食が進んだ比較的なだらかな山々」とある。前者が新期造山帯、後者が古期造山帯っていうのは理解できるかな。北アメリカ大陸で新期造山帯といえば、大陸の西部を走行するロッキー山脈とその周辺の山々。太平洋岸やメキシコ中央部に及んでいる。それに対し古期造山帯といえば、アメリカ合衆国東部のアパラチア山脈。石炭資源が豊富で、北部には鉄鋼都市として栄えたピッツバーグ。このことを踏まえて考えると、AとCは正文となる。
またDについては個別に知っておいて欲しい。プレート境界には「広がる」と「狭まる」と「ずれる」の3つの種類があるが、このうち、ずれる境界に該当するものとして知っておくべきは「サンアンドレアス断層」だけであり、まさにDの場所に位置している。これも正文。
で、残ったのは②だけなのだが、ここで注目するべきは「三角州(デルタ)」である。これは、反対語というわけでもないのだが、誤り選択肢の場合「三角江(エスチュアリー)」と入れ替えて取り上げられるケースが多い。北アメリカ大陸の代表的な三角州はミシシッピ川河口。土砂の堆積によって複雑な形状の三角州(鳥し状三角州)が形成されている。河口をややさかのぼったところにはニューオーリンズの河港がある。しかし、本図で指摘されている場所はミシシッピ川の河口ではない。Bはセントローレンス川の河口であり、図をみればわかるようにラッパ状の入江となっている。河口付近が沈降し、波の静かな入江になった部分で、その奥は天然の良港となる。そう、これは「三角江」だね。これが誤りなのです。
【アフターアクション】 エスチュアリーは日本にはみられない地形なので、イメージしにくいかな?デルタ(三角州)だと低湿地となり、沿岸の水深も浅いので港になりにくいのだが(ニューオーリンズはあくまで河港なので例外)、エスチュアリーは河口付近が沈降した地形なので水深も十分で、ラッパ状の入江であるため波も静か。天然の良港となる。セントローレンス川のエスチュアリーの奥にもケベックの港が立地している。
以下に、エスチュアリーを形成する河川と港湾都市の組合せを列挙しておくので、確認しておこう。
・エルベ川・・・ハンブルク(ドイツ)
・テムズ川・・・ロンドン(イギリス)
・セントローレンス川・・・ケベック(カナダ)
・ラプラタ川・・・ブエノスアイレス(アルゼンチン)
【20】 【インプレッション】 ずいぶんシンプルな気候判定問題。ほぼ同じ緯度であるので、年間の平均気温には大きな差はない(とはいえ、ウが最も暖かいとは思うけれど)。降水量が示されておらず、データは少ないが、だからこそ決定的な要因すなわち「気温年較差は、大陸西岸<大陸東岸<内陸部」のセオリーに基づいて考えよう。具体的な都市名にはこだわらなくていいが、一応「アフターアクション」で取り上げているので、参考までに。
【解法】 気候グラフの問題だが、降水量は示されておらず、気温年較差だけで考えないといけない。北アメリカの気候というより、沿岸部と内陸部、そして東岸と西岸の気候の違いを考えることがポイント。
X〜Zはほぼ同じ緯度上に並び、季節ごとの太陽からの受熱量に差はない。夏は等しく昼が長く太陽高度が高く、冬も同様に等しく昼が短く太陽高度が低い。しかし、ア〜ウをみればわかるように、最暖月と最寒月の平均気温は全く違っているのだ。アは夏の気温は高いのに、冬はシベリア並みの寒冷。ウは夏の気温はアより低いが、冬は氷点下とはならない。
さて、最もわかりやすいのは内陸部のYではないか。海陸の比熱差(固体は暖まりやすく冷めやすい、液体は暖まりにくく冷めにくいっていうやつね)によって、内陸部では極めて寒暖の大きな気候が出現する。アをYと判定しよう。
その一方で、沿岸部では比較的気温差の少ない穏やかな気候がみられるものの、西岸と東岸とでその様子は異なる。ユーラシア大陸を想像してもいいんじゃないかな。例えば北緯50°のユーラシア大陸西岸にはパリやロンドンが位置するわけだが、年間を通じ偏西風が吹き、さらに暖流である北大西洋海流が沿岸を流れるため、冬でも暖かい穏やかな気候がみられる。気温年較差は小さい(プラスマイナス15℃程度)。それに対し、同じ緯度の大陸東岸を考えた場合、例えば北海道の最北部(稚内)でも北緯45°なので、もっと北になるのだが(サハリン)、とりあえず北海道の札幌で気温年較差はプラスマイナス30℃であり、2倍も違う。また、イギリスやフランスが温帯(冬でも温暖)であるのに対し、北海道は冷帯(冬は凍結する)であり、全く違った風景が広がることになる。
これを踏まえて考えれば、西岸のXが気温年較差の小さなウ、東岸のZがイとなり、正解は⑤。
【アフターアクション】 「解法」では一般論として問題を解いてみたが、上級者向けに具体的な都市名に言及しながら解説していこう。
Xはヴァンクーヴァー。沿岸を暖流であるアラスカ海流が北上し、冬でも暖かい気候がみられる。「世界で最も住みやすい街」と言われているよね。気候区分は、隣接するシアトルと同様、地中海性気候がみられるが、南ヨーロッパなど他の地中海性気候の地域とは異なって、ここは地球上唯一の「降水量が多い地中海性気候」であるため、ブドウ栽培はみられず、森林地帯となっている。ヴァンクーヴァーも木材の積出港として発展した。冬の降水量は多いものの、雪は降らない。沿岸が氷河地形であるフィヨルド海岸であることも考えると、ノルウェーと似たような気候と考えるといいね。
Yはウィニペグ。氷河湖であるウィニペグ湖の南端に接し、おおよそ北緯50°、西経100°(だから年降水量500mmなのだ)に位置する。北アメリカ大陸のちょうとど真ん中で典型的な大陸性気候。最暖月平均気温20℃、最寒月平均気温−20℃、年間平均気温0℃、気温年較差40℃(図2のアのグラフ参照)ってめちゃめちゃわかりやすい数字ばかりだし、覚えておいてもいいかも知れない。ユーラシア大陸だとシベリア最南部のイルクーツクがちょうど同じぐらいなんだよね。だから、降水パターンもシベリアと同じで、夏はある程度の雨が降るけれど、冬は全く降水がない。ヴァンクーヴァーとはまた違った意味で「雪の降らない」地域になっているわけだ。
Zはニューファンドランド島(セントジョンズ)。沿岸を寒流であるラブラドル海流が南下し、近隣には好漁場となるバンクも存在し、漁業のさかんなところ(ただし、カナダの漁獲量自体は意外なほど少ないんですよね)。なお、ラブラドル海流は大洋の北西部を南下する寒流ということで、千島海流(親潮)と共通点がある。ニューファンドランド島についても北海道と似たようなイメージで捉えていいんじゃないかな。本州の太平洋沖合に千島海流と日本海流(黒潮)の会合する潮目が存在するように、ニューファンドラド島の南にもラブラドル海流とメキシコ湾流の会合する潮目がある。ラブラドル海流自体は、タイタニック号の沈没の原因となった流氷を北極海方面がから運んだ海流として知られている。
【21】 【インプレッション】 北アメリカの人種・民族の問題。最近の教科書ではあまり「人種」って言い方をしていないので、意外な問題ではある。人種につては深く知識を貯め込む必要はないが、全く出題されないわけでもないので、おおまかなことは知っておくべきなのかな。ちょっと例外的な問題。
で、さらに例外的な部分が「エスキモー」っていう呼称。アラスカ州やカナダの北極海沿岸地方に居住する先住民は、かつてエスキモーと呼ばれていました。エスキモーとは、アメリカインディアンの言葉で「生肉を食べる人」の意味。ヨーロッパからの移民が、アメリカインディアンに向かって、「あいつらは誰だ」と訪ねたところ、「奴らはエスキモーだ」と答えが返ってきたことに由来する。
しかし、「生肉を食べる人」とはいくら何でも野蛮ではないか。だから彼ら自身の言葉で「人間」を意味する「イヌイット」と呼ぶことがふさわしいと呼称が改められた。教科書でも昔はエスキモーだったものが、やがて全てイヌイットに変えられた。
しかし、実は彼ら自身がそのイヌイットという呼ばれ方を好まず、むしろエスキモーと自称するようになった。ま、たしかに「人間」って呼ばれるのは、逆にバカにされているような気がするものね(当たり前やっちゅうねん・笑)。そもそも、生肉を食べるというのは、彼らのような寒冷地域(農業ができない)に住む人々にとっては当然のことであり、動物の肉から直接ビタミンなどの栄養を採っている。伝統的な生活文化であり、もちろん恥じるものではない。それを「野蛮」と決めつけられてしまっては気分が良くないよね。堂々と、生肉を属する彼らの食文化を誇り、「エスキモー」と自称するに至ったのである。
こういった状況が日本ではあまり伝わらず、教科書は依然として「イヌイット」のままだったが、しばらくして「イヌイット(エスキモー)」となり、現在は「エスキモー(イヌイット)」と記載する書籍もある。近い将来、単に「エスキモー」として紹介することが一般的になるんじゃないかとも思っている。
【解法】 北アメリカの人種・民族について包括的に捉えた良問。
①について。人口移動の原則を考えたらいいのではないか。人々が生活の場を移すには理由があり、その最大のものが「経済」。高賃金と十分な雇用機会を求め、若年層を中心とする労働者は、農村から都市へ、発展途上国から先進国へと、移動する。人口移動の大原則は「1人当たりGNIの低いところから高いところへ」だったよね。
この考え方からすると、先進地域のヨーロッパから流出する人口は少なく、現在北アメリカへの移民が多いとは思えない。中国を始めとするアジア地域は全体として1人当たりGNIが低く、経済レベルの高いアメリカ合衆国やカナダへの移民は現在極めて多いはずだ。「アジア系移民の流入人口」の方がヨーロッパ系より多く、これが誤りとなる。もちろん、選択肢④でも触れられているように、メキシコなどラテンアメリカ地域からの移民も多い。アジア同様に1人当たりGNIの低い地域。
なお、アメリカ合衆国への移民人口について、国別ではメキシコが1位だが、2位の中国と3位のインドを合わせるとメキシコを超えるなど、近年はアジア地域からの流入が際立っている。
②について。南北戦争が1860年代(日本の明治維新ごろ)であり、その時期に奴隷解放宣言が発せられ、黒人奴隷に自由が与えられた(しかし、もちろん経済的には貧しい人々が今でも多い)のだが、それまでの長い間、アフリカ大陸の奴隷海岸から多くの黒人奴隷が、ニューオーリンズの港へと連れて来られた。
ニューオーリンズはミシシッピ川の河港を有する都市で、それは「南部」の唯一の大規模港湾である。南部には綿花プランテーションが多く、黒人はそこで奴隷的な労働を強いられた。
現在でも南部にはその子孫たちが多く、アフリカ系の人々の割合が高い。正文である。
なお、「南部」という言い方には十分に気をつけてもらいたい。良かったら地図で確認しておこう。アメリカ合衆国の南東部の限られたエリアが「南部」であり、南側の地域全体を指すのではないことに注意。南部の範囲にはテキサス州以西は含まれず、ジョージアやアラバマ、ミシシッピ、ルイジアナが主な南部の州である。州としてはルイジアナ州(形がLの字をしているので覚えやすい)を知っておいて欲しいし、都市としては前述のニューオーリンズと、ジョージア州のアトランタを知っておこう。アトランタは1996年の夏季オリンピック(史上唯一の黒人オリンピック)の開催地であり、コカ・コーラ社の本社があることで有名。コカ・コーラのコーヒーのブランドが「ジョージア」というのはもちろん州名に由来。
③について。アラスカ州やカナダの北部に居住する先住民が「エスキモー」。これまではイヌイットと教科書では記述されていたが、近年は彼ら自身もエスキモーと自称するなど、こちらの呼称の方が一般的となった。なお、エスキモーはアメリカインディアンの言葉で「生肉を食べる人々」。農業ができない寒冷地域においてアザラシなどの狩猟生活を営む彼らにとって、生肉を属することは当たり前位のことであり、彼らの伝統的な食文化なのだ。正文。
④について。「ヒスパニック」を直訳すれば「スペイン語」という意味であり、これがメキシコなどラテンアメリカ地域からアメリカ合衆国へと移住してきた人々やその子孫を表す語に転用された。その名の通り、彼らはスペイン語を母語とし、中には英語を解せない人々もいる。メキシコから国境を越えてアメリカ合衆国にやってくりわけだが、もちろんその目的は「金」である。豊富な雇用と高賃金を求めるのだが、現在の先進国において十分な教育を受けていない彼らが高賃金の職種に就業することは不可能で、ほとんどが低賃金の労働に従事することになる。現在の人口移動において「農業」のための人口移動は、通常ならあり得ないのだが、ヒスパニックの場合はそれも致し方なしということか。選択肢①が明らかに誤りなので、この選択肢については検討する必要もない。下線部の「農業」がちょっと気になるのだが、そういったこともあるのだなと納得してほしい。
【アフターアクション】 こうした文章正誤問題ってとくに慣れが必要なんだと思う。例えば、「最も長い文章が正解である」なんていう俗説があるけれど、さすがにそんなことはない(笑)。ただし、「最も短い文章が正解であることはない」というパターンはかなり信憑性があり、めちゃくちゃ困った時はそれで答えを選んじゃってもいいかもしれない。でも本問の選択肢2のように、「文章は一番長いけれど、下線部は一番短い」ってパターンもあって、全てのパターンに対応して法則性を探していく(そしてそれを覚える)のもかなりややこしいから、結局普通に考えて解くのが一番いいと思うよ(笑)。
また「あいまいな表現は、否定しにくい」というセオリーもあって、逆に「絶対的な表現は怪しい」というセオリーもある。具体的には「赤いものもある場合がある」っていう選択肢は否定しにくいけれど(他の色も含まれていたとしてもこの選択肢は正しい)、「全てが赤い」となると一つでも別の色があればこの文章は間違っていることになり、誤文とみなしやすい。
でも本問の場合は、正解(誤文)である1の中に「傾向がみられる」なんていうあいまい表現がみられたりして、やっぱりこのセオリーも信用ならないね。不確かなセオリーに頼るんじゃなくて、しっかり自分で確信をもって問題文を読み進めて欲しいな。
でも。その一方でやっぱり「反対表現を持つ言葉に注目」とうセオリーは絶対的に有効なのだ。その選択肢1でいえば、「下回る」がそれに該当するね。「上回る」という反対表現が容易に思いつく。
もっとも、そういう意味では選択肢2の「南部」(北部や東部が反対表現)、選択肢3の「狩猟や漁労」(農業などが反対表現)、選択肢4の「低賃金の単純労働」(反対表現は高賃金の熟練労働)って、全部あてはまっちゃうんだけどね(笑)。ま、安易なテクニックは存在しないから、諦めて正面からガチンコで解いてくれ!
【22】 【インプレッション】 うわっ、これはキツいな(涙)。感覚的に解かないといけないのかも知れない。
【解法】 難しい問題と思う。選択肢の3つは、全米人口1位のニューヨーク、2位のロサンゼルス、そしてヒューストン。その違いをどれだけ意識できるかという問題。
まず、最もわかりやすいのがキではないか。通勤手段の割合をみるに、自家用車が低く、公共交通手段が高い。人口が多く過密が進み、渋滞を避けるため地下鉄などの利用が中心となっているニューヨークがこれに該当すると考える。
カとクについては通勤手段に目立った違いがないので、住宅の月平均賃料で考えるしかない。カはキと同様に高く、クは安い。ここでポイントになるのって「平均」って言葉だと思うんだわ。要するに、クにしても全体が低いっていうことじゃなくて、高級住宅地区においてはカやキと同様に家賃は高いんだろうが、都市住民の少なくない人々が不良住宅地区すなわちスラムに住んでおり、その分だけ平均賃料が引き下げられてしまっているのではないか。スラムのイメージは、廃墟や不法占拠。移民や少数民族など社会的地位の低い人々が、経済的に苦しいため、古びた家を安く借り、もしくは勝手に住み着いたりしている。そういったスラムの家賃を計算に入れた場合、平均賃料が際立って低い値となる。
さて、そうしたスラムがはっきり見られる都市ってどこだ?いや、もちろんニューヨークこそスラムは多いよ。でもそれ以上に、明らかにスラムの住人が多い都市ってどこなんだって話。
上述したように、スラムに住み着くのは移民など。国境を越えてヒスパニックと呼ばれる移民がとくに多い都市って、やっぱりロサンゼルスなんじゃないか。ヒューストンもテキサス州なのでヒスパニックが少ないことはないのだろうが、ロサンゼルスはカリフォルニア州南部のメキシコ国境に近い街。貧しいメキシコ人はまずロサンゼルスを目指し、家賃の安いスラムで生活を始める。こう考えるとスムーズだと思う。正解は③。
【アフターアクション】 というわけで解いてみたわけだが、解答に自信がない。こわごわ正解を確認してみるのだが、、、正解は④だって!!!こりゃ全くわからないぞ。。。
というわけで、すいません、ガチで間違えました(涙)。カ・ヒューストン、キ・NY、ク・ロスと思っていたのですが、カとクが逆だったようです(正解は4).人口過密で地下鉄が発達するNYで「公共交通」の割合が高いのは簡単にわかるのですが、残り2つが難しい。ロスは移民の流入により都心付近にスラムが拡大しているのでは?と考え、平均した家賃が安くなるんじゃないか。また、ロスは多核構造といって郊外に業務地区が分散し、それらに通勤する人が多いのだから、自家用車の割合が高いんじゃないか?とくに自動車の排ガスによる光化学スモッグの発生が頻繁にみられることに象徴されるよう似、世界で最もモータリゼーションが進んだ都市でもあるのです。これらを理由にして、自信をもってクをロスとしたのですが、違っていたようですね。スイマセン、全くわかりません。。。ヒューストンの方が家賃が安そうやなっていう、感覚的なもので解かないといけない問題だったようです。お手上げですね(T_T)
【23】 【インプレッション】 「先進国ほど農業がさかん」というセオリー。ただし、これはあくまで農産物の生産についてのもので、第1次産業就業人口割合については先進国の値は極めて低い。1人当たりGNIと第1次産業就業人口割合は反比例するからね。つまり、先進国については「少人数で大量の農産物を生産している」ことが重要。労働生産性(1人当たりの収量)が天文学的に高いっていうこと。こんなイメージが持てれば、アメリカ合衆国とカナダは削ることができる。
キューバについてはどうかな。社会主義国であり、長い間アメリカ合衆国と断交していたことから想像できるように、経済レベル(1人当たりGNI)は高くないね。とくにこの国については「サトウキビ」を考えて欲しいな。かつてアメリカ合衆国の保護国だった時代に、アメリカ人の手によってサトウキビプランテーションが作られた。革命によってアメリカ人を追い出し、社会主義政権が成立することでそれらプランテーションは国有化された。サトウキビから得られた砂糖は、当時の同盟国であったソ連へとさかんに輸出されたのだ。そう、プランテーション農業ってやつだね。そしてプランテーション農業の問題点には「モノカルチャー経済」がある。ここまで考えられたら、本問も決して難しくない。
【解法】 「穀物自給率」と「第1次産業従事者率」が示されている。「先進国は農業がさかん」というセオリーが意識できるかな。欧米豪の先進国の多くは、企業的な農業によって、穀物や肉類などの商業的な生産が行われている。穀物自給率が100%を越えている①と②がアメリカ合衆国とカナダなのだろう。カナダは小麦の輸出国であるし、アメリカ合衆国は小麦に加え、トウモロコシの圧倒的な生産国であり、輸出国でもある。少量ながら米も輸出している。
なお、本来不要であるが、①と②の判定もしておこうか。自給率が「生産量÷国内消費(供給)量」で算出されるわけで、人口が大きく、国内市場が大きいアメリカ合衆国でこそ、分母(国内消費量)が大きくなることから、割合としてはあまり大きくならないと思う。それに対し、カナダはわずか3500万人の人口。分母も小さく、200%というような極端な値にもなりやすいはず。①がカナダ、②がアメリカ合衆国。ただし、実際の小麦やトウモロコシの輸出量は間違いなくアメリカ合衆国の方が多いと思うよ。あくまで割合では「カナダ>アメリカ合衆国」となっているだけで。
さらに「第1次産業従事者率」にも注意。この値は1人当たりGNIに反比例する。つまり「農業がさかんな先進国」ではあるが、農業に従事する人は少ないということ。少人数で大規模な農業を行い、大量の農産物を生産しているのだ。1人当たりの収量は莫大なものと成り、労働生産性は極めて高い。①も②も第1次産業従事者率は低く、いずれも先進国とみて間違いない。具体的な数値は読み取れないけどね。
では、話をもとに戻して、メキシコの判定に進もう。残った選択肢は③と④。いずれかがメキシコで、いずれかがキューバなわけだが、どうだろう?1人当たりGNIは、メキシコの方が高そう。メキシコはNAFTAにも加盟し、アメリカ合衆国系の企業が多いことから工業化が進み、1人当たりGNIは10000ドル/人程度と、発展途上国としては高い水準。新晃工業国なのだ。
一方キューバは社会主義国。最近になって国交は回復したものの、何十年もの間、アメリカ合衆国と断交し、工業力は小さく、経済もさほど発展していないと思われる。1人当たりGNIが「メキシコ>キューバ」ならば、第1次産業従業者率は「メキシコ<キューバ」だろう。③がメキシコ、④がキューバとなる。
さらにダメ押しで。③の「穀物自給率」は比較的高く、60%ほどある。グラフをちょっと見ただけだとかなり低く思えてしまうが、数字をキチンと読み取ろう。それに対し、④は20%程度でこれはかなり低い。日本の穀物自給率は30%であるが、それより低い。かなり特殊な事情があるのだろう。
その事情って何だ?それって、「モノカルチャー経済」だと思うんだわ。特定の一次産品の生産と輸出に過度に依存した経済構造がモノカルチャー経済。キューバはサトウキビの国として知られているが、彼ら自身で好き好んでつくりはじめたわけでもない。アメリカ合衆国の保護国時代に、アメリカ人の資本家(企業)によってプランテーションが開かれ、サトウキビ栽培が始められた。アメリカ合衆国の支配に抵抗する若者たちが革命を指導し、やがてキューバ革命が勃発した。アメリカ人の資本家を追放し、プランテーションは国有化された。社会主義政権が成立し、同じ社会主義国であった当時のソ連と友好関係を結び、サトウキビから加工された砂糖がさかんに輸出されていた。
しかし、こうしたプランテーション農業の発展の陰には、モノカルチャー経済の進行により食料事情の悪化がある。商品作物の生産と輸出に過度に依存し、穀物など自給作物の生産が滞る。砂糖を輸出することで獲得された外貨により外国から穀物を買うという「歪んだ経済構造」がみられた。キューバは砂糖の国だからこそ、食料自給率は下がってしまうのだ。
【アフターアクション】 第1次産業従業者率については、1人当たりGNIと反比例することを大原則として、「先進国で低く、発展途上国で高い」と考える。その上で、ポイントになる国を具体的にチェックしていく。
先進国では、企業的な農業が行われている新大陸で値が低く、家族経営が中心の日本で高い。ヨーロッパでは、大規模化が進む北部で低く、大土地所有制が残存する南部では高い。
とくに低い イギリス(1.1%)
やや低い ドイツ(1.3)
アメリカ合衆国(1.6)
カナダ(1.6)
やや高い オーストラリア(2.6)
フランス(2.8)
とくに高い 日本(3.4)
イタリア(3.9)
発展途上国では、やはり1人当たりGNIとの関係を最優先で考えるべきだが、企業的農業が行われるラテンアメリカ諸国で低く、米作アジアで高い値になる傾向がある。
国名 1人当たりGNI 第1次産業従業者率
ラテンアメリカ メキシコ 9710 13.0
ブラジル 9850 10.2
米作アジア タイ 5720 32.3
インド 1600 47.1
アフリカ ナイジェリア 2820 30.6
エチオピア 590 72.7
最低限知っておくべきは、「アメリカ合衆国の方が日本より低い」ことと、「タイが工業国としては例外的に高い」こと。
また穀物自給率については、以下のことを知っておく。
・日本は30%。米は95%であるが、小麦とトウモロコシが低い。
・オランダも30%。園芸農業で穀物以外の農畜産物が生産され、小麦はフランスなどから輸入。
・先進国は概して高い。1005を越えるのは、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、フランス、イギリス、ドイツ。
・アフリカは概して低い。とくに世界最大の小麦の輸入地域はアフリカ。
・ブラジルも100%に達していない。アルゼンチンから小麦を輸入。
・(キューバのように)プランテーション農業が中心の国は、穀物を輸入に依存していると考えていい。
とにかく「先進国は農業がさかん、発展途上国は農業がダメ」とうイメージをしっかり作っておけば、さほど理解は難しくないと思うよ。
【24】 【インプレッション】 ベタな問題と思いきや、これも意外に難しいのかな。アラスカ州が大きく描かれているのが珍しいけど。これに注目したらかえって悩んでしまうかも。
【解法】 アメリカ合衆国の産業について。「コンピュータ・電子部品製造業」については、シリコンバレーを考えたらいいんじゃないかな。カリフォルニア州にはアップル本社もある。世界中から多くの優秀な技術者が集まり、最先端の技術開発をしている。太平洋岸南部のカリフォルニア州が着色されているシが該当。
さらに「石油・ガス採掘業」。アメリカ合衆国、というか北アメリカ大陸最大の油田地帯はメキシコ湾沿岸。ここに接するテキサス州(アラスカ州に次ぐ面積2位の州)が含まれるスが該当。
残ったサが「食品製造業」。コーンベルトのアイオワ州が含まれている点に注目。トウモロコシと大豆の生産が全米1位。というか、とアメリカ合衆国がトウモロコシと大豆の生産において圧倒的に世界最大のシェアを占めているということは、「世界最大の農業地域」と考えていい。
参考までに細かい部分にも注目。余裕がある人はどうぞ。
サ・・・ウィスコンシン州(酪農)、ネブラスカ州(小麦)。
シ・・・マサチューセッツ州(ボストン。ハーヴァード大学など研究施設)。
ス・・ウェストヴァージニア州(アパラチア炭田)。
なお、アラスカ州は本来、原油の産出が特徴的な州なのだが。本問では石油・ガス採掘業が外れて、食品製造業が当てはまっている。沿岸が漁場になっているので、水産加工業などかな。
【アフターアクション】 全体を大まかにみるのではなく、特定の州に注目するのがお薦め。「カリフォルニア=シリコンバレー」、「テキサス=メキシコ湾岸油田」も大事だけれど、ここはアイオワ州を覚えておくと得だと思うよ。
五大湖の南側に広がるコーンベルト。オハイオ州やイリノイ州(シカゴが位置)、アイオワ州が代表的なところ。とくにアイオワ州は、トウモロコシと大豆の生産、ブタの飼育頭数が全米1位であり、まさに混合農業が行われる代表的な地域。アメリカ合衆国の農業地域区分と合わせて、ぜひ知っておこう。