2017年度地理B追試験[第4問]解説

2017年度地理B追試験第4問解説                  

地誌問題。センター試験では、必ず大問一つが地誌問題となっているのだが、本試験に比べ追試験ではマイナーな地域が取り上げられることが多く、今年もそれに倣っている。追試験ではロシアの出題率は高い。

問題内容として、とくに重要なのは問1の永久凍土。この範囲は確実に知っておく。問4も、よくあるパターンの問題なので、今後も類似した問題が登場する可能性は高い。しっかり理解しておくこと。

それに対し、問5や問6はよくある問題のように見えるが、ロシアという特殊な国を扱っているだけに難しい。というか、かなり変わった問題だと思う。

問2の都市名、問3の宗教についても、特殊な内容がピックアップされており、不正解であってもあまり気にしなくていいかな。

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[ファーストインプレッション] このネタって模試ではよく使っているし、実際のセンターでもこれに関連した話題は登場している。一見するとややこしい問題のように思えるけれど、確実に得点して欲しいですね。

[解法] 最初に考えて欲しいのは「北極圏」。北極圏というのは、北緯66.6°より高緯度側の地域。カッパの頭の皿みたいな感じでイメージしてくれたらいいですよ(笑)。地球が地軸を、公転面の垂線に対し23.4°傾けて自転しているため、夏至や冬至の日には、一日中太陽光線が当たりっぱなしのところ(白夜ですね)や、反対に全く太陽光線が当たらないところ(こちらは極夜)が生じる。北極圏と南極圏は、白夜や極夜になる最大範囲なのだ。なお、北緯66.6°の緯線を北極線、南緯66.6°の緯線を南極線と言ったりもする。北極を囲む円弧状に描かれているイが「北極圏」の南限となる。

さらにツンドラ。ツンドラとは、氷河の周辺にみられる荒れ地で、通常は氷雪に覆われているが、短い夏の間のみ地表面の氷が解け、一面に地衣や蘚苔が繁茂する。北極海周辺(ユーラシア大陸や北アメリカ大陸の北岸、グリーンランド沿岸部)や南アメリカ大陸南端、ニュージーランド南端などにみられる。

なお、ケッペンの気候区分(*)によると、ツンドラ気候は寒帯気候に分類される気候区で、最暖月(つまり夏だね)の平均気温が0℃以上10℃未満、最寒月(こちらは冬)の平均気温が−3℃未満となる地域のこと。どんなに暖かい月でも平均気温が10℃に届かないっていうのが実は大切で。これって農業が不可能ということなのだ。大陸内部では夏の気温は意外に上がるので農業ができたりするのだが(10℃以上っていうことだね)、沿岸部ではそこまで気温は上がらず、夏でもツンドラとなって、せいぜいトナカイの遊牧がみられる非農業地域となり、ほとんど人も住んでいない。範囲が北極海沿岸に限定されているアが「ツンドラ」の南限。なお、シベリア東部に「腕」のように食い込んでいる部分があるが、ここは標高が高いんじゃないかな。高山であるので、夏の気温が上がらず、やはり非農業地域となっている。

これに対し、冷帯ってどういうところなのだろう。ツンドラでさんざん「非農業」を強調していたからわかると思うんだけど、こちらは農業が可能。冬は極めて寒冷となり、地面や河川は凍結するが、夏は気温が上がり、粗放的ではあるが穀物栽培は十分に行われる。ケッペンの気候区分によると、最暖月の平均気温は10℃以上に上がり、最寒月の平均気温が−3℃未満に低下するのが冷帯の定義。そして、その冷帯地域に分布するのが針葉樹林。とくに大規模な針葉樹の純林(一面同じ種類の樹木が広がっている)をタイガと呼ぶ。針葉樹の分布域の南限に解答するのが本問の趣旨だが、ちょっとまだ焦る必要はない。次は「連続した永久凍土の分布域」について考察しよう。

まず永久凍土の定義から。凍土とは、地中の水分が凍結した状態のことだが、もちろん冷帯地域においては冬は地下から地表面までの広い範囲が凍結する。ツンドラ地域も同様。ただし、一年中氷雪に閉ざされる南極大陸やグリーンランド内陸部とは違って(こちらは地表面も永久凍土なのだ)、ツンドラや冷帯地域は夏は0℃以上に気温が上がるので、地表面の氷については融解する。泥々の地面になったりするのだが、しかし、この時、地下の深い部分の氷は解けずに、固まったままである。この「夏になっても融解しない地下の層」こそ永久凍土なのである。ツンドラ地帯では、夏は0℃以上になるとはいえ、10℃まで気温が上がらないのだから、地下は凍りついたままである。もちろん永久凍土。

これに対し、冷帯地域の場合、夏の気温はかなり上がるので、実は地下の氷まで融けてしまうのだ。例えば、北海道って冷帯気候なので、冬は完全に凍結してしまう。北海道にゴ◯ブリがいないっていうのは、地面が凍結してしまうので、卵が冬を越せないっていうのがあるんですよね(でも最近は暖房の効いた建物が多いので、そこで産卵することで種の保存をはかるのもいるみたいですが)。また、北海道は東北地方とは違って果樹栽培がさかんではないけれど、これも冬に地面が凍ってしまうことと関係がある。そういう意味では、針葉樹林っていうのは凍ってしまっても耐えるんだから、かなり寒さに強いってことになるよね。

ただ、そんな冷帯気候ではあるが、特殊な場合、地下に永久凍土層が維持されることになる。その条件とは「冬の極端な寒冷」。普通の冷帯は、冬に凍結するものの夏には解けてしまう。しかし、冬に極端に気温が低下した場合は、地中の水分は強烈に凍りつき、夏に多少暑くなったところで凍りついたままである。地表面は解けるものの、地下を掘り進んでいったら、そこに氷の層が存在するということである。氷の上に土が乘っている状態。

このことから、一般的な冷帯地域より、永久凍土がみられる範囲の方が限定されていることがわかる。範囲の広いエが、冷帯=針葉樹より「タイガ」、その高緯度側であるウが「永久凍土」の分布域となる。③が該当し、消去法で「針葉樹」は④が正解。

さらに詳しくみていこう。永久凍土層の南限のラインとほぼ重なるものが「1月マイナス20℃の等温線」である。要するに、冬にマイナス20℃より気温が低下すると、夏がいかに暑くなろうと、地面の下に解けない氷の層が維持されるということ。このような地域は、ウラル山脈より西側のヨーロッパではほとんどみられない。暖流の影響でノルウェーの北部まで冬でも温暖な気候がみられ、偏西風の影響によってモスクワのような内陸部でも極端に」気温は低下しない。

これに対し、ウラル山脈の東側のシベリア地域の広い範囲は、この「強烈な寒冷地域」に該当する。比較的緯度の低いバイカル湖周辺まで永久凍土層はみられるが、バイカル湖に接する都市イルクーツクでは最寒月の平均気温がマイナス20℃近くにまで下がる。「北半球の寒極」であるオイミャコン(最寒月平均気温はマイナス50℃!でも、夏の気温は10℃以上に上がるので、人が暮らすことはできる)もシベリアに位置する。冬に完全に地面が凍結し、夏には地表面は解けるけれど、地下を掘っていったら氷の層にぶち当たる。

(*)ケッペンの気候区分がセンターで問われることはないので、覚えなくていいですよ。あくまで参考程度に。ツンドラ気候は「夏になるとコケに覆われる」と覚えておいて、冷帯気候は「冬は凍るが、夏は暑いので農業可能」と覚えておこう。

[アフターアクション] 「永久凍土」の範囲は非常に重要。最近は温暖化によってその範囲は縮小しているといわれているが、とりあえず「シベリア」の範囲と一致すると覚えておこう。解法で触れたように「永久凍土の南限=1月マイナス20℃の等温線」であるので、シベリアも、1月の平均気温がマイナス20℃を下回る地域となる。その範囲は、ウラル山脈の東側、バイカル湖の北側となる。バイカル湖に接するイルクーツクは、最暖月(7月)平均気温20℃、最寒月(1月)平均気温マイナス20℃という、気温年較差の大きな大陸性気候がみられる都市。夏は比較的暑く、さらに降水量も多く、過ごしやすいが、冬はシベリア高気圧の影響で全く降水がみられない(雪も降らないっていうこと)。空気も大地も凍りつくのだ。

永久凍土地域の暮らしは非常に独特。生活熱を地面に伝えないため、建物の底面は地面から離してつくられている(高床式)。地面を掘って、地下室が天然の冷凍庫となる。暑い夏でも地中は凍っているのだ。また、氷の層。つまり「壁」が地面の中にあるイメージ。夏は地表面が融解するのだが、水分は氷に阻まれ、地下に浸透しない。地面は泥土であふれ、シベリアの春は「泥の春」でもあるのだ。

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[ファーストインプレッション] うわっ、サンクトペテルブルクが出てる!ここって、一昨年に大きく地理Aの問題で取り上げられた都市で、たしかに要チェックだったんだよね。2007年にも地理B追試験で登場。3回も出題されたら、立派な最重要都市ですよ!

[解法] 都市に関する問題だが、気候など自然環境に注目しながら選択肢を絞っていった方がいい。

①について。「トナカイ」である。寒冷な地域であるのは間違いない。問1の内容とも重なるが、非農業地域のツンドラ地帯を考えるのがベターだろう。さらに「少数民族」ということで、(ウラル山脈以西の)ロシアのヨーロッパ地域ではないだろう。こちらの地域は人口規模が大きく、大都市も多数みられ、主要民族であるロシア系(スラブ系)が居住している。それに対し、人口が少なく、主に少数民族が分布するのがシベリア(ウラル以東の)であり、とくに冬季の低温が著しい北側の地域では、先住民族(実は彼らの多くはアジア系なのだが)が伝統的な生活を送るばかり。Cを①と考えていいのではないか。

ただし、そんなシベリアだが、南部には多くの都市が並び、比較的人口が多い。西部から移住したロシア系の人々が主に居住しているのだが、この地域を東西に走行しているのがシベリア鉄道である。シベリアの豊富な鉱産資源や木材資源を西部の人口が多い地域へと送り、また完成した年は日露戦争の時期と重なり、日本との主戦場である中国北部へと兵員や軍事物資も輸送されている。

その「シベリア鉄道」がカギとなる選択肢が②である。シベリア鉄道の起点・終点となるのだから、シベリアの東端か西端の都市がこれに該当するはず。シベリアの範囲は、ロシアの中部から東部に広がる広大なエリアで、具体的にはウラル山脈の東側。AやBはシベリアに該当しない。また、シベリア鉄道は、すでに説明したように、シベリア南部に沿っている。北極海に面するCも除外され、②はDが該当する。なお、ここはウラジオストクという都市。正確には、ウラジ・ボストークだが、ウラジとは「東方」、ボストークは「侵略」の意味で、つまり「東方を侵略せよ」という名前なのだ。東って日本のことだよね。「日本を侵略せよ」なんていう物騒な名前がつけられた都市なのだ。しかし、その名前とは裏腹に日本とは歴史的に深い交流がある都市で、戦前には日本からの移住者も多く、大きな「日本人街」もつくられていた。近年はビザの入国制限も緩和され、日本人墓地に眠る祖先をお墓参りする人々が毎年多く訪れている。

ロシアの東洋最大の軍港がある軍事都市とも知られるウラジオストクだが、冬季は凍結してしまう(緯度的に考えてみて、北海道と同じぐらいなので、寒冷なのは想像できるでしょう)ため、利用しにくいという欠点はある。

さらに④についても考えてみよう。ここで注目するべきは「リゾート」。とくにここでは「比較的温暖」って書いてあるよね。BとCは明らかに高緯度で寒冷であるだろう。先にも述べたように、Dも冬季は凍結する(つまり冷帯気候)で、決して温暖とはいえない。南部のAのみがこの条件に当てはまる可能性があるんじゃないか。④をAに該当。

なお、Aが面する海域は「黒海」なので必ずチェックしておこう。本図のように、ロシア(旧ソ連)全体を含んだ図においては黒海が縦長に描かれ、しかも図の外へと見切れてしまう場合が多く、なかなか判読が難しい。黒海北岸にはチェルノーゼムや豊かな鉱産資源のウクライナ、東岸には新期造山帯のカフカス山脈が走行し、キリスト教とイスラム教の入り交じる宗教構成の複雑な地域となっており、南西側には「海峡都市」イスタンブールが位置し、地中海へとつながる。黒海はこれらの重要な地域と近接しており、必ず地図帳でも位置と形状を確認しておこう。使えるぞ!

Aの都市については知る必要はないけれど、これってソチじゃないのかな。2014年の冬季オリンピックの開催地。本来は本文にもあるように「黒海に面した避寒地」であるのだけれど、スキーリゾートとしての開発も進んでいるんだろうね。

以上より、正解は③となる。ここはサンクトペテルブルクという都市。帝政ロシア(20世紀初頭にロシア革命によって倒された)時代の都で、エルミタージュ美術館はヨーロッパ各地の財宝を集めた絢爛豪華さで有名。

実はサンクトペテルブルクは過去にも何回か取り上げられたことがあるので、紹介しておこう。

まずは2006年度地理B追試験ではこのような文章によって説明されている。「河川の河口部に位置する港湾都市。人口が400万人を超える大都市であり、内水面交通と海上交通をつなぐ拠点となっている」

さらに2013年度地理A追試験。ロシアの都市を取り上げた問題が、今回の問題と取り上げている都市がかなりかぶっている(サンクトペテルブルク、ソチ、ウラジオストク)ので、興味深い。銅版画による絵が示され、都市を特定する問題。「この都市は、帝政ロシア時代に建設された。フランスの都市計画と建築の様式が導入され、湿地帯に運河網が張り巡られた。銅版画の正面にはイギリス国旗を掲げた商船が描かれており、この都市がロシアの「ヨーロッパへの窓」としての役割を果たしたことを示している」。

いろいろ細かく説明されているけれど、個人的にはこの都市の重要性を感じない。センター作問者によほどのサンクトペテルブルクマニアでもいたのかな???とりあえず、「ロシア第2の都市」って覚えておいたらいいんはないかな。人口400万っていうのは、ローマやマドリード、ベルリンに匹敵するかなりの大都市だからね(でも、ロンドンやパリ、モスクワの1000万人規模には及びませんが)。

[アフターアクション] サンクトペテルブルクが登場しているが、この都市がそんなに重要か?とりあえず知っておこうかって感じ。

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[ファーストインプレッション] 大雑把な問題だなという印象だったが、よく見たらなかなり特殊なことを尋ねているではないか!これは難しい!

[解法] 宗教分布に関する問題。特殊な事例が含まれているので、注意して問いてみよう。

まずキリスト教から。ヨーロッパで広く信仰されている宗教であり、ヨーロッパの範囲に含まれるロシアでも信者が多いと考えて適当。モスクワやサンクトペテルブルク(Bの都市)など人口規模の極めて大きい都市が位置する西部にロシアの人口の大半が集中し、彼らはキリスト教の一派である東方正教を信仰する。クが「キリスト教」に該当。

さらにイスラームについて。イスラームは「商人の宗教」。東西世界を結ぶ交易路であるシルクロード沿いにアラブ商人たちによって広められた。中央アジア(*)の乾燥地域をシルクロードは貫き、イスラームの多い地域となっている。

このことを踏まえて考えるに、カの「ウラル山脈南部の西側」という言葉が気になる。図から判断するに、この地域は中央アジア諸国の一つであるカザフスタン(ロシアの南に位置する広大な面積を有する国)に接している。カザフスタンがイスラームであるので、ここがイスラーム地域であると考えることは自然なのではないだろうか。カを「イスラーム」とし、正解は②。

(*)中央アジアの定義をしっかりしておこう。「かつてソ連を構成していた国の中でアジアに含まれる国々」のことで、具体的にはカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタンが該当。かなりマイナーな国も含まれるので、君たちは「カザフスタン」と「ウズベキスタン」だけ知っておこう。いずれも「トルコ系」の民族(言語)からなる「イスラーム」国家。乾燥気候に含まれ、カザフスタンは広大なステップが広がる草原国。ウズベキスタンは砂漠の国であり、灌漑による綿花栽培がさかん。カザフスタンとウズベキスタンの間のアラル海はかつて世界有数の面積を誇る巨大な湖であったが、灌漑によって流入する河川の水量が減少し、湖面が縮小した。現在、ほとんど完全に湖は消滅している。

[アフターアクション] 実は難問だった!とにかく「中央アジア=イスラーム」だけは絶対に知っておいて。人は平等であり、経済の概念を含むイスラームは商人に熱狂的に支持され、彼らが足しげく通った通商路にはイスラームが伝播していった。中央アジアを貫くシルクロード、南アジアから東南アジアの島嶼部へと至るスパイスロード(海野シルクロード)、そしてサヘル地帯の岩塩をヨーロッパ世界へと運んだサハラ砂漠の交易路。中央アジアや中国のウイグル自治区、バングラデシュやマレーシア、インドネシア、そしてセネガルやナイジェリア北部などサヘル地域など、アラブ世界にとどまらず、イスラームは世界宗教となったのだ。

なお、補足説明。これ以外にもイスラームは、バルカン半島(ユーゴスラビア)やスペイン南部などにも広がっている。これは、アラブ商人ではなく、トルコ人によるもの。中世、西アジアを中心に広がっていたオスマン帝国(オスマントルコ)がヨーロッパ南部地域を侵略し、その際にその一部がイスラームの勢力圏となった。ヨーロッパのキリスト教勢力とオスマン帝国との争いは激戦を極め、最終的にはキリスト教がイスラームを淘汰したのだが、ボスニア・ヘルツェゴヴィナやコソボにはイスラームを信仰する人々が残された。

ところで、ここまで全く存在を無視していたけれど、ロシアの「仏教」地域には驚いたんじゃないかな。ロシアの南東部、モンゴルに接するバイカル湖周辺に住む少数民族がブリヤート人であり、この地域の先住民族でもある。彼らは、仏教の一派であるチベット仏教を信仰し、隣接するモンゴルの人々と同じ特徴をもつ。シベリアは、ロシアに支配される前には我々と同じアルタイ系(モンゴルや日本、朝鮮などの民族・言語系統)の文化が栄えていたのだ。

なお、このブリヤート人なのだが、「日本人のルーツ」であるという説が近年強く主張されるようになった。今までは、米の文化として中国のユンナン地域、あるいはネパールやブータンなどの人々と日本人との類似性が指摘されてきたが、近年の研究により、日本に住む人々と生物的に最も近いのはブリヤート人であるという学説が支持されるようになった。日本人の起源に興味がある人は、ぜひブリヤート人に注目してみて欲しい。我々の祖先は、シベリアの奥深く、バイカル湖からこの東方の島国へとたどり着いたのかも知れない。

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[ファーストインプレッション] 一見すると社会主義をテーマにした問題と思えるが、実はそんな大げさなものではなく、「ありがち」な経済に関する問題。難易度は低いので、こうした問題をしっかり解くことが高得点につながるのです。

[解法] ロシアとかソ連とか、計画経済とか市場経済とか、難しそうな言葉が並んでいるものの、そんなに複雑な問題ではない。実にオーソドックスな経済原則が問われているのです。

社会主義が失われ、市場経済化が進む現代の社会において、「貧富の差」は拡大こそすれ、縮小するものではない。シンプルに③を誤りとする。

①;「ダーチャ」については知る必要はない。参考までに説明しておく。ロシアの都市生活者は、郊外に別荘を有していることが多く、その別荘は広い家庭菜園を有し、自給的な農業を行っている。これがダーチャ。家庭菜園なんか特別なものではないじゃないかと考える向きもあるかもしれないが、これが大間違い。例えば、アメリカ合衆国では農業企業の力が強すぎ、野菜や果実の種を一般人が買うことは不可能。穀物メジャー(企業)を中心としたアグリビジネス(農業関連企業)が国家の食料供給を支配し、市民は自分で食料をつくることは不可能。代表的な農業企業にモンサントがある。農業生産が企業によって支配されているアメリカ合衆国や西ヨーロッパに比べれば、ロシアはまだのんびりしていると言えるのかもしれない。

②;これ、ぜひ知っておいてください。1991年にソ連が崩壊し、ロシアが誕生したのだが、経済的混乱や社会的な不安の増大によって生産活動が停滞し、GDP(GNIと同じものと考えてください。経済規模です)は減少した。出生率も低下し、さらに死亡率も上昇(自殺者が増えたという花代があるが。。。)することで、人口も減少。このような状態が20世紀の間は継続した。21世紀に入り、原油や天然ガスの増産によってエネルギー大国としての地位を確立した現在は、GDPは上昇傾向にあるが、ソ連時代のような「重工業」国というわけにはいかないのである。

④;21世紀のロシアについては「資源国」という見方が正しいと思う。BRICs(*)とは言われるが、すでに世界最大の工業国となった中国、エコ先進国として世界をリードするブラジル、IT産業の発達については本家アメリカ合衆国をも凌ぐ勢いであるインドに比べると、ロシアは単に資源に依存するだけの国であり、経済基盤は弱い。原油や天然ガスの産出と輸出がこの国の生命線であり、その価格変動はロシア経済に大きな影響を与える。

(*)ブリックスという。近年、大きく経済成長を果たした国々のことで、広大な面積、莫大な人口、豊富な資源を有し、そして重工業化も著しい。BRICsで、ブラジル、ロシア、インド、中国であるが、現在はSを大文字とし、南アフリカ共和国を加えた5か国とすることが一般的。

[アフターアクション] 問題慣れしている人ならば、「貧富の差が縮小」というところにキチンと反応できるはず。実は地理が特異な人に限って国名にこだわってしまうので、「ロシア」の問題だと思って解くと逆に難しい。経済の問題であると割り切ることができるかな。

なお、他の選択肢では②が非常に重要なのでぜひ知っておいてくださいね。ロシア成立以降、経済は減退傾向にあったが、21世紀に入り、原油や天然ガスを基盤として、経済復興を果たした。ソ連からロシアへの流れの中で、「世界の超大国」から「資源供給国」へと大きな変化をした国なのである。

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[ファーストインプレッション] ずいぶん雑な階級区分図だな(笑)

[解法] 階級区分図を用いた問題。階級区分図は割合を表す際に用いられる統計地図。今回も「人口密度」、「人口1人当たりの農業生産」、「人口1人当たりの鉱工業出荷額」といずれも割合が表されることにまず注目しておこう。

人口密度は「人口÷面積」で人口に比例、人口1人当たり農業生産は「農業生産÷人口」、人口1人当たりの鉱工業出荷額は「鉱工業出荷額÷人口」で、こちらはいずれに人口に反比例。人口密度のみが性格の異なった統計指標であることがわかる。

ここで図を参照してみよう。色分けが似ているのがサとシ、仲間はずれがス。なるほど、スが人口密度となるのか!

と、一瞬考えてしまうのだが、でも、それじゃやっぱりおかしいんだわ。スはシベリア東部で「高」となっているのだが、こんな極寒の世界で人口密度が高いだなんてまさか考えられない。首都モスクワが人口1000万人に達する(ということはロシア全体の10分の1近くの人口がたった一つの都市に集中しているということ)ことを考えると、モスクワを含むエリアの人口密度こそ「高」となるべきなのだ。サを「人口密度」と考える。そもそも人口密度は面積に反比例する指標であり、狭いところで高く、広いところで低くなる。なるほど、サではそういった傾向がはっきり見てとれるね。これを人口密度と断定してしまって良さそうだ。

ただし、ここからが難関。シとスの判定は難しいぞ。ほとんどのエリアで高低が逆転していて、2つの指標が全く傾向の異なるものであることがわかる。人口が多い(と考えられる)モスクワを含むエリアはともに「中」になっていて、これで判定するのは不可能なのだが、先ほど取り上げたシベリア東部は、シで「低」、スで「高」となっており、これはヒントになりそうだ。果たしてこの地域は農業地域なのか、それとも高工業地域なのか。

ちょっと農業がさかんな地域とは考えにくいのだ。「北半球の寒極」であるオイミャコン(1月の平均気温はマイナス50℃にまで低下する)も位置する寒冷地域であり、大陸性気候なのである程度は夏の気温が上がるだろうが、粗放的に大麦が栽培される程度。そもそも人口過疎地域であるので、農業を行う必要性すらないのだ。ツンドラ地域を中心にトナカイの遊牧が行われているだろうが、家畜飼育は牧業(牧畜)であり、「農業」ではないよね。シベリア東部が「低」であるシが「1人当たりの農業生産額」とみて大丈夫なんじゃないかな。

そうなると、スが「1人当たりの鉱工業出荷額」ということになる。これってどうなんだろう?南部のシベリア鉄道沿いにはウラジオストクなどの大都市はいくつもみられるが、そもそも工業が発達した地域なのだろうか。ただ、ここで気をつけて欲しいのは「鉱工業」となっているところなんだわ。旧ソ連時代は世界を代表する重工業国だったが(ただ、その工業についても国民の生活を犠牲にしたうえに成り立っていたのだが)、今のロシアは完全な資源国であり、鉱工業についても「鉱業」をクローズアップして考えるべき。シベリア東部は、レナ川流域に大規模な炭田が広がり、そもそもシベリア鉄道は資源を西方へと輸送することが重大な任務である。さらに、サハリン(北海道の北にある細長い島)には、油田がガス田が開発され、中国などでパイプラインによって原油や天然ガスが輸出されている。このような状況を考えると、シベリア東部は資源産出地域として非常に重要であることがわかる。ここが「1人当たりの鉱工業産出額」において「高」というのは決しておかしい話ではない。正解は①となる。

なお、スにおいては、図1におけるCを含む地域(ウラル山脈とその東側の地域)も「高」となっていることに注目。ウラル山脈は鉄鉱石資源が豊富な地域であり(これがちょっとややこしいんだけど、ウラル山脈は古期造山帯なんだが、石炭じゃなくて鉄鉱石が採れる。石炭は上でも述べているように、シベリア東部のレナ川流域)、また、Cを河口とする河川がオビ川というのだが、この流域の低地は世界最大の天然ガスの産出地域なのだ。チュメニという名称を地図帳で探してみよう。西シベリア低地の油田・ガス田の中心となる都市である。これを考えても、この地域が「高」となっているのは納得なんだわね。Bを含む地域も「高」となっていることについては、ちょっとわからない。

[アフターアクション] いやぁ、かなり難しい階級区分図の読解だった。本来なら「1人当たりの農業生産額」と「1人当たりの鉱工業出荷額」は、いずれも「1人当たり」ということで人口と反比例することから、似たような傾向(比例関係ってことね)をみせるはずで、それが問題を解くヒントになるはずだったんだが、実際にはそうなっていないからね。それから、ポイントとなる都市が実質的にモスクワだけだったのがやっぱり難しい。あえていえばウラル山脈もポイントになるんだが、こちらもすでに述べたように、古期造山帯でありながら石炭が産出されないというイレギュラーな地域であるので、判定は簡単ではない。とはいえ、ここには世界で最も高品質といわれる鉄鉱石が産出されるマグニトゴルスク鉄山があるので、そちらを知っていた人もいるかも知れないけどね。世界で最も重要な鉄山ですよ!

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[ファーストインプレッション] 非常におもしろい問題。よくもこんな問題を考えたものだと感銘を覚えるし、グラフも非常に工夫されている。選択肢の国々のセレクトのセンスも素晴らしいし、やっぱりプロのワザって違うな。カギは「原油」ですね。ロシアはパイプラインを使って原油を輸出していることが重要なのです。

[解法] 貿易に関する問題。こうした年代による変化が取り上げられた問題の場合は、最新のデータに注目するのがいいのだが、そもそもさほど極端に傾向が変わった国もない(実は大きなポイントが一つあるのだが、それについては後で述べます)ので、そこまで気にする必要はないかな。

とりあえず①がスゴい。ロシアからの輸出額は700億ドルとなるのだが、この国からロシアへの輸出額(つまりロシアの輸入額)は20億ドル程度で、極端な貿易不均衡がみられる。さて、ロシアからこの国に輸出されているものって何だ?

これ、わかるよね。この大問の他の問題でも繰り返し同じことを言いまくっているんだが、ロシアはとにかく「資源国」と考えること。世界中の多くの国で、最大の貿易品目は機械類など工業製品となっている。日本やアメリカ合衆国、西ヨーロッパなどの先進国はもちろん、中国や東南アジア、メキシコなども全てそう。農産物や鉱産資源が最大の貿易品目である国は少ない。しかし、そのレアな国に含まれるのがまさしくロシアなのだ。ロシアの主な貿易品目は原油や天然ガスであり、それらはパイプラインによってヨーロッパへと輸出されているのだ。

そもそもは、ソ連時代に、当時の友好国(というか支配していた国といった方が適切か)である東ヨーロッパ諸国へと原油を送るパイプラインが敷設されていた。これはドルージバ(友好)ラインと呼ばれ(繰り返すけれど、関係は「友好」というより「実質的支配」だからね)、ポーランドやチェコなソ連のウラル地方やシベリアからの原油供給を受けていた。

このパイプラインが延長され、現在は西ヨーロッパまで届いている。ドイツやオランダなどがロシアの輸出相手国の上位にランクインしてくるのはこれが理由。①は西ヨーロッパの国と考えられ、オランダもしくはドイツとなる。

問題はアメリカ合衆国である。しかし、ここまでわかれば大丈夫なんじゃないかな。貿易額は原則としてGNIに比例する。GNIは経済規模で、1人当たりGNIと人口の積である。1位アメリカ合衆国、2位中国、3位日本、4位ドイツの順。そして、貿易額(輸出額と輸入額の合計)は1位中国、2位アメリカ合衆国、3位ドイツ、4位日本。GNIに比べ、中国やドイツは貿易額が大きく、アメリカ合衆国と日本は少ないわけだが、「ベスト4」は変わらず、おおまかに比例関係があると思っていい。

ロシアについても、中国とアメリカ合衆国は重要な貿易相手国であるはず。中国については、「ロシアから中国への輸出額」が400億ドル、「中国からロシアへの輸出額」が500億ドルであり、貿易額は極めて大きい。ここで注目して欲しいのは②。「ロシアから②への輸出額」は400億ドル、「2からロシアへの輸出額」は300億ドルと、中国に次ぐ大きさ。2005年には、中国を上回る貿易額でもあった。これはかなりの経済大国に違いない。GNI世界1位、貿易額世界2位のアメリカ合衆国が②であると考えるべきだろう。正解は②。なお、アメリカ合衆国は世界最大の貿易赤字国であり、いずれの国や地域に対しても貿易は赤字となっている(アメリカ人は

③と④についてはよくわからない(っていうか、そもそも①もわからないんだけど)。とりあえずアメリカ合衆国だけ判定できたらいいよね。

[アフターアクション] ロシアの問題というより、貿易そのものに関する問題ととらえることができる。つまり「GNIと貿易額は比例する」、「アメリカ合衆国は貿易赤字国である」というこの2点から解いてしまえばいい。

正直なところ、①・③・④はよくわからない。普通に考えれば、ヨーロッパで最もGNIが大きいドイツが、最大の貿易相手国となり、①に該当すると考えていいのだが、実はそれも確実ではない。ある年次の統計で、ロシアの最大貿易相手が「オランダ」になっているものを見たことがあるんやなぁ〜。ロシアと経済的な関係性の薄い④がブラジルであることは間違いないと思うのだが、①と③については断言できません(涙)。ま、今回はこちらの判定は必要ないから、別にどっちでもいいかな。

{間違えました!} いや、難しい。。。まさか、③がアメリカだったとは。たしかに、言われてみれば、ロシアとアメリカの貿易額がそんなに多いわけはないんだわな。僕がかつてみた統計で、ロシアの最大貿易相手国が、ある年次が「ドイツ」になっていて、またある年次が「オランダ」になっていたのを思い出した。それを信用するべきだったよなぁ。ロシアの最大の輸出品目は原油であり、そしてその原油は主にヨーロッパに送られているのだから、当然「ドイツ」と「オランダ」が主要輸出相手国となるのだ。後から考えれば、まさにその通りなんだよなぁ。