2015年度地理B追試験[第4問]解説

2015年度地理B追試験

第4問 地誌問題。北極海沿岸とはずいぶん奇妙な地域がテーマとして取り上げられていると思いきや、意外にこの地域の出題例は多い。また特定の海域についてその周辺地域が地誌問題のテーマとなる傾向も一般的であり、今回が決して特殊な例でないことはわかる。内容もずいぶんオーソドックス。ある1問を除いては。

問1 正解は②。非常におもしろい問題。永久凍土の分布範囲は絶対に知っておくこと。冬季に極めて慣例となる地域においては、地下の氷が夏季も解けず。年間を通じて凍土層が存在することになる。これが永久凍土。問2のグラフが参考になるのだが、西ヨーロッパのアは冬季でも平均気温が0℃程度であり、凍結したとしてもすぐに解けてしまうだろう。それに対し、北極海沿岸のイは冬季の平均気温がマイナス20℃にまで低下し、これならばちょっとやそっとの高温では地下の凍土は解けない。シベリア内陸部のウも同様、っていうかもっとすごい!シベリアの内陸部では冬季の平均気温がマイナス50℃にまで低下するところがあるが、さすがにここまで寒冷となると地面は強く冷却され、地中の水分は凍結する。夏季はそれなりに高温となるが(ウのグラフをみると、平均気温が20℃近くに達していることがわかる。農業は十分に可能)、地表面付近の氷は解けるものの、融解は地下には及ばない。地下に夏季にも解けない氷の層が保たれるのだ。つまり永久凍土層。

ここでBの位置を確認しよう。東経60度の経線に沿って巨大なウラル山脈が走るのだが、これがヨーロッパロシアとシベリアを分ける境界。この西側はヨーロッパと同様の冬季でも比較的温暖な気候がみられるのに対し、西側のシベリアは冬季極寒の世界。最寒月の平均気温はマイナス20℃を下回る(先ほどの問2のウのグラフを参照)。Bではそこまで気温が低下することなく、地面が多少凍結したとしても、夏には解けてしまうレベル。これでは永久凍土とはいえないね。②が誤りとなるのです。

ここで一旦整理しておこう。温帯気候と冷帯気候の違いは「凍結するか、否か」。日本の本州以南は温帯で、北海道は冷帯。つまり北海道では地中の水分や湖沼、河川、そして港湾が凍結する。北海道で水力発電があまり行われていないこと(ダムが凍りつくのだ)や、果樹栽培がさかんでないこと(樹木が凍結する)、オホーツク海の流氷によって沿岸部が覆い尽くされることを考えよう。本州以南はそういった事象はみられない。

ただし、単に凍りつくことと、永久に凍り続けることは違う。夏季の気温は関係ない。冬季に「極端に」凍らせることで夏の気温がどれほど上がろうと、決して解けることはないのだ、と解釈しよう。その境界線はマイナス20℃である。

問2 緯度が近い3都市の気候グラフ判定。海洋性気候と大陸性気候の違いが重要。

Fはノルウェーの沿岸部に位置する都市。暖流である北大西洋海流、温暖な偏西風の影響を受け、冬季でも温暖な気候がみられる。湿った風が山脈にぶつかることによって降水量も多い。アが該当

Gはシベリア内陸部。シベリアはほぼ全域に永久凍土層がみられるが、これは冬季の気温が極端に低下するため。シベリア南部の都市イルクーツクで最寒月平均気温がマイナス20度になるなど、シベリアの範囲は1月マイナス20度の等温線以北とみていい。Gにおいては1月の平均気温はさらに低下するとみられ、アが該当。なお、大陸性気候であるため夏季の気温は比較的上昇する。これぐらいの気温ならば、大麦の粗放的な栽培ぐらいはみられるだろう。ウが該当。

Hの北極海沿岸はツンドラ地域。ツンドラとは極地や高山にみられる荒地で、秋から春にかけては雪氷に覆われている。短い夏季のみ融氷し、地表面は湿地となり、コケ類が繁茂する。農耕は不可能であり、一部でトナカイの遊牧が行われる程度。夏季の気温が10度に達せず、農業ができない様子を想像しよう。イが該当。

問3 写真がどんなんか全然想像できへん(笑)。しゃあないでしょ。

とりあえず、文章はカがイヌイット(エスキモー)、キがサーミ。

写真は、おそらくイヌイットが氷の家イグルーなんじゃないかな。サーミは木工製品とか。それぐらいしか思い浮かばないわ。

問4 これ、難しいな。キャラクターの似た都市も混ざっているし、キーワードの選び方が難しい。

比較的容易なのが②。「国内最大の人口」とあるが、そもそもアイスランドには他に目立った都市はないのだから、レイキャビクが最大都市であるのは想像がつく(ちなみにアイスランドは人口約30万人。レイキャビクは首都)。しかも「温泉」という言葉が。アイスランドは大西洋中央海嶺の上に生じた火山島。地熱を利用して、温泉が設けられているということは十分に考えられるのだ。②がレイキャビク。

さらにナルビク。北極圏に位置するノルウェーの港湾都市。これはベタに知っておくべきことなんだろうな。スウェーデン北部にキルナとエリバレという鉄山がある。ただし、スウェーデンの港湾は冬季に凍ってしまうため(スウェーデンは冷帯気候なのだ)、大西洋に面した不凍港のナルビクまで鉄鉱石が鉄道で輸送され、そこから船舶によってルール(ドイツ)など他国の鉄鋼地域へと輸出されている。④がナルビク。

そしてアンカレジ。アメリカ合衆国アラスカ州の都市だが、実はアラスカ州というのはアメリカ合衆国最大の原油産出量を誇る州(*)。このことから「石油」がキーワードとなり、②がアンカレジ。とはいえ、アンカレジ周辺で原油が採掘されているわけではなく、北極海沿岸に油田が位置し、そこからパイプラインで送油されているのだが。「水産業」と「林業」は他の地域でもみられるので、ここではキーワードとならない。また、「国際空港をいかした旅客輸送の重要な中継基地」だったのはずいぶん昔の話なので、今さらこんな話題を出題するのはどうかと思うんだけどね。ソ連が存在していた1980年代までは日本からヨーロッパに向かう航空機はソ連上空を通過できないため、遠回りしてアラスカ州経由で飛行していた。その際に必ず立ち寄っていたトランジット空港が位置していたのがこのアンカレジだったのだ。昔の地理の問題では「アンカレジ=交通都市」という括りもあった。ただし、ソ連が崩壊し空路の制限がなくなると、日欧間の航空路はロシア上空を通過するようになり、アンカレジ空港は中継地としての役割を終えた。

以上より、残った①がムルマンスク。暖流(北大西洋海流)の影響によってノルウェーの沿岸部は不凍港であることがよく知られているが、実はその範囲はこのムルマンスクにまで及ぶ。北極圏に位置するため、冬季は太陽が全く昇らない極夜となるのだが、それで港湾が凍結しないのだから、違和感がすごい。第二次世界大戦中にはアメリカ合衆国からの支援物資がこの港にまで届けられた(第二次世界大戦ってアメリカとロシアが仲間だったって知ってるよね?)。なお、「トロール漁業」とは大規模な底引き網のことであり、大陸棚など浅い海域において行われる。北海で行われるカレイ漁が有名だが、北極海も大陸棚が広がり、水深が比較的浅いので、こうしたトロール漁法がみられるのだろう。とはいえ、これは特殊な知識。消去法で正解を導かないといけないので、かなり難易度の高い問題であることは間違いないね。

(*)アメリカ合衆国においては、面積上位3州が原油産出上位3州と重なる。1位アラスカ州、2位テキサス州、3位カリフォルニア州。アラスカ州には北極海沿岸に油田が位置し、そこからパイプラインで太平洋岸まで輸送され、タンカーで搬出される。テキサス州は北米最大の油田地帯であるメキシコ湾岸に位置し、ヒューストンなどで石油精製工業が発達。カリフォルニア州でも南部を中心に油田が位置し、ロサンゼルスで石油精製工業。

問5 今回のエース問題!凄い問題ですね。かなりのクセがある。原発ネタを扱っているから本試験では出題できないのだろうか。歴史に残る素晴らしい問題であることは間違いない。

ここで注目はフィンランド。フィンランドはスウェーデンと同様に水力発電が行われている国であるが、冬季は河川や発電施設が凍結してしまう(冷帯の国なのだ。温帯のノルウェーとは違う)、不足する電源を補うために原子力発電が行われている。石炭を消費した火力発電がこの国の大敵であることはわかるよね。石炭の燃焼によって生じる硫黄酸化物によって雨水が酸性化する。土壌の強酸性化によって樹木が立ち枯れし、この国の重要な経済の柱の一つである林業の大きなダメージがあるのだ。原子力が比較的大きな割合を占めているQがフィンランドである。ただし、物語はここからで、Qについてはさらにバイオマスにも注目するべき。え、こんな寒冷な国でバイオマスって?一般にバイオマスは、アメリカ合衆国のトウモロコシ、ブラジルのサトウキビ、マレーシアの油ヤシ(パーム油)などがイメージされ、温暖な農業国でこそ精製量が多いと考えられている。しかし、実はフォンランドもバイオマスの生産がさかんな国だったりするのだ(国が小さいため、生産量自体も小さく、あまり統計に登場しないので知られていないが)。彼らが利用するバイオマスは「樹木」なのだ。パルプ工業や製材業の際に廃棄される枝葉や樹皮はそのまま燃料とされ、あるいは樹木そのものから油脂を採取することもある。国土面積の半分以上を占める森林資源がそのままエネルギー資源となっているのだ。

フィンランドはしばしば「森と湖の国」と称せられる。なるほど、国土の広い範囲は針葉樹によって覆われ、林業やパルプ生産が際立ってさかんである。バルト楯状地(*)の上に氷河の侵食と堆石の作用によって多くの湖が形成された。しかしこの「森と湖」はフィンランドのエネルギー政策においても重要な要素となり、湖が有する豊富な水資源によって発電が行われるほか、森林はバイオマス(生物燃料)の大きな供給源である。さらにいうならば、数億年にわたって変動していない大地(安定陸塊)ならば原子力発電所の安全な運転には理想的である。使用済み核燃料も安定した地盤を掘削し、地下に廃棄することもできる。オンカロという使用済み核燃料の処理施設はあまりにも有名である。

(*)安定陸塊に含まれる地形の一種。古代の岩盤が露出し、表面に凹凸のある大平原がひろがる。

さらにPはノルウェーはP。北海油田に面する国で原油(石油)と天然ガスの西ヨーロッパ最大の生産国である。ただしこれらの化石燃料は発電にはもちいられず、ノルウェー自体は豊富な降水量と傾斜の急な地形を生かした水力発電国である(**)。

最後のRはアイスランド。問4のレイキャビクでも説明されていたが、アイスランドの国土は火山島から成っているのである。「地熱」がキーワード。氷河の国でもあり、水には恵まれているのだろう、水力の割合も比較的高い。ただ、日射量が多い国とも思えないのに太陽光発電が行われていることについては疑問なのだが。

以上より、正解は④となる。

(**)今回の問題ではノルウェーの水力の値が小さく、ちょっと疑問なのだが、どういった計算なのだろうか。アイスランドの方が値が高い。もっとも、ノルウェーが人口約5000万人に対し、アイスランドは約30万人。人口規模が10倍以上違う。PとRのグラフだけから、「アイスランドの方がノルウェーより水力発電量が多い」と言い切ることはできないだろう。

問6 これ、やばいな。正直ちょっとわからない。おそらく④が正解なんだと思う(答えは見てません。違ったらゴメン)。

①について。ウランの産出で覚えておくべき国はカナダ。しかし、「沿岸」っていうのが引っかかるんだわ。ウランの産出値はもっと内陸部だったような。問4でも説明しているように、油田の開発は北極海沿岸でも行われているんだが。また、ノルウェーのスバールバル諸島には炭田もあったりして、これも「沿岸」とは言えるわけだが。しかしウランというとちょっと心当たりがないかなぁ。

②について。どこまでを「極地」というべきかは難しいのだが、上でも述べたスバールバル諸島やグリーンランドには普通の空港もあって、そこには観光客も押し寄せている。南極大陸の観光はかなり制限されているのだが(病原菌が持ち込まれないように、人間そのものだけでなく、荷物など全てが完璧に殺菌される。このため、一般の観光客にとっては実質的に上陸不可能になっている)、北極はそもそも孤立した大陸というわけでもないし、そういった決まりごとは聞いたことがない。オーロラや野生動物など観光資源にも溢れた地域でもあるし、そういったツアーが企画されていたとしてもおかしくはない。

③について。これは消せるでしょ。冬は北極海は凍りついてしまうので、さすがに「年間を通じて」は不可能。

以上、④が正文として残される。この文章についてはとくに否定すべきところが見つからないのだが。これが正解でいいと思うよ。