2016年度地理B本試験[第6問]解説

たつじんオリジナル解説[2016年度地理B本試験第6問]      

<2016年度地理B本試験第6問問1>

[ファーストインプレッション]視線判定問題。手順を踏んでいけば絶対に解ける。

[解法]矢印によって視線が表されている。まず。ア〜エの矢印をそれぞれ延長してみて、視線を示してみよう。さらに①〜④の写真の中央に縦線を引いて、同じく視線を示す。図1中のア〜エのいずれかの視線が、①〜④の視線と一致しているというわけだ。

基本は中央(つまり視線の先に)何が見えるかということなんだが、そちらは後回しにして、左右を確認。つまり、視線の両側の地形を確認し、とくに山地に注目するといい。図1の地勢図はぼかしが入ったりしてちょっと読み取りにくいが、険しい地形すなわち山地については判別できないことはない。

アは視線の右側が山地、イは左側、ウは右側、エは左側。これらを①〜④にあてはめると、左側に険しい地形がみられる①と③がイとエ、右側にみられる②と④がアとウになる。エを判定する問題なので、選択肢を①と③に限定する。

本来ならイの視線の右側に市街地がみえるはずなのだが、この写真ではそれは省かれているので参考にならない。あくまで地形の起伏だけで判定しないといけない。ただし、エについては特徴的な地形がある。視線に対して、左から右に、三角形の谷が横断しているではないか。「宮坂」を頂点として、「土橋」や「中沢」付近を底辺とする三角形。これが確認できるのは、①だろうか。③だろうか。なるほど、①にそれっぽい地形がみえないかな。大きく山地へと食い込む、鋭角状の低地。①がエになるとみて間違いないだろう。

[アフターアクション]視線判定問題は視線を固定化すること。それから、問題用紙を持ち上げて、実際に視線に沿って図や写真を覗き込んでみること。エについては、手前側が山地となっており、その先に山地に切れ込む三角形の低地があり、奥には低地が広がっている。直感だけで解く問題ではないので、時間はかかるかもしれないけれど、丁寧に観察すれば絶対に解ける。こうした問題こそ、時間をかける価値があるというものなのです。手順を大切に!

<2016年度地理B本試験第6問問2>

[ファーストインプレッション]地形図問題(ちなみに問1は「地勢図」問題なのでちょっと違う)だが、長い会話文が付随しており、雰囲気が違う。さらに「南部藩」や「伊達藩」など歴史的なフレーバーも。こうした部分が将来的な「地理総合」を意識しているのだなと思う反面、実はそういった歴史的な語句は問題を解く上ではまったく関係がなく、やや無理やり感があるよね。とはいえ、おもしろい問題ではあるので、じっくり時間をかけて取り組んでみよう。

[解法]会話文が長い。まずはじっくり読み込む。「二つの矢印で示したところに史跡記号がある」ことを確認し、「この史跡記号の2か所を結んだ線」を設定し、北西側の「南部藩」領、南東側の「伊達藩」領を区分する。

なるほど、この境界を挟んで土地区画が異なっているようだ。北西側では「夏油川」という川が中央を流れており、この河川を灌漑に利用していたことが推測される。今は堤防で区切られて流路は直線化されているが、かつては堤防もなく、蛇行しており、周囲へと水をより供給しやすいかたちだったんじゃないかな。

さらに南東側に目を移し。こちらはでは「溜池」を探してみよう。本来なら水域はブルーで着色されているのだが、これは白黒印刷だから仕方ないね。一生懸命目をこらしてみて、それっぽいものを探してみよう。例えば、「伊吹」の北側、「上町」の西側、「金森」の北側に、グレーで塗られたエリアがみられ、これらを溜池と考えることは可能だと思う。カが「南部藩」、キが「伊達藩」である。

さらにクとケだが、今度は「植樹」がポイント。長方形の農地に沿って樹木が植えられている様子を観察するのだが、これが顕著なのは図の南西部。「遠谷巾」周辺。先ほどの境界より南東側ということで、こちらは「伊達藩」領となる。クが「伊達藩」となる。

[アフターアクション]地理総合を意識した歴史的な要素を入れた問題になっているけれど、解法そのものにはまったく関係ない。最近の地形図問題ってあまりおもしろいものがなかったけれど、これはすごく興味深い問題だな。溜池や植樹の様子を読み取ることが必要で、本当にしっかり図をみないといけない。「歴史」はあくまで飾り付けに過ぎず、本質的には正統派の地形図問題なのです。

<2016年度地理B本試験第6問問3>

[ファーストインプレッション]最近よくみるパターンの問題。写真判定問題なので、写真をしっかり判読しないといけないが、そこまでややこしい写真にはなっていないと思う。

[解法]写真を利用した都市景観の問題。サは一般的な住宅地。手前に耕地が広がっているのもわかる。シは大きな道路が走り、これは幹線道路とみていいだろう。こうした幹線道路の脇にはいわゆるロードサイドショップとよばれる大規模な商業施設がみられるのが一般的だが、写真右側の建物はそれに該当するだろう。スは、シに比べ細い道路が走っており、両側はアーケードが軒をつらねている。高いマンションのような建物もみられるが、左側手前には普通の住居らしきものも。

図1の地勢図を参照。さほど難しくないと思う。Cの市街地では道路の幅も細く、古くからの商店街がみられるのではないか。スが該当。さらにBでは大きな幹線道路が南北に貫いている。これをシとみることは可能だろう。商業施設も多いはずだ。最後に遠方のAがサとなるが、郊外の特徴として住宅地がところどころにみられ、周囲には耕地(田の記号が確認できる)が広がっている。

[アフターアクション]この手の問題としては、解きやすかったと思う。建物だけではなく、耕地や道路(幹線道路)など写真の中のいろいろなものに注目することが必要。

<2016年度地理B本試験第6問問4>

[ファーストインプレッション]これはキツくないか(涙)。日本地理というか、中学までの内容をしっかり把握している者だけが得点できる問題になっているような気がする。僕はあまり好きな問題ではないが、逆にいえば、いかにセンター地理において中学地理が重要視されるかという証明でもある。

[解法]工業の一般的な問題でもあり、日本の工業の問題でもあり、そして岩手県(東北地方)の工業の問題でもある。

工業は、初期の段階は軽工業から始まり、やがて重工業へと移行していく。とくに付加価値の高い機械工業や知識型の産業へと移り変わっていくパターンは世界共通である。

3つの選択肢のうち、軽工業は「窯業・土石製品」。これには陶磁器やガラス(ケイ素を原料にしているよね)もあるが、一般的にはセメント工業を考えるべきだろう。石灰に水を加えたら固まる性質を利用して、セメント工業は興る。高い技術水準が必要とされない軽工業の代表例であり、初期の段階はこの工業から始まったと考えて妥当だろう。タが「窯業・土石製品」。

そこから高度経済成長(60年代が中心)を経て、1985年には日本全体が重工業化を果たし、とくに高付加価値の機械工業が発達する。チやツは機械工業と考えていいのだけれど、残った2つの選択肢である「電気機械器具」と「輸送用機械器具」のいずれもが機械工業なのだ。いずれも2010年には大幅な伸びをみせているが、東北地方は安価な労働コストや地価によって多くの機械工場が進出してきた地域(高速道路などの整備を進み、輸送が容易になったことももちろん重要だよね)。さぁ、果たしてチとツ、どうやって判定する?

統計は順位だけでなく、数字そのものにも注目するべきなのだ。伸び方でいえば、ツの方が赤丸急上昇といった感じなんだけれど、数字をみるとチが「41.8」、ツが「14.3」であり、やっぱりチが圧倒的であり、チこそ岩手県というか東北地方を特徴付ける工業種であることは間違いない。

「輸送用機械器具」って要するに自動車関係の工場ってことなのだ。どうかな、日本で自動車工業がさかんな県っていうのは、愛知県や神奈川県、静岡県といった東海道地域や、内陸部の群馬県、さらに広島県などが挙げられ、トヨタや日産、マツダなど自動車メーカーの本社の立地とも関係している(こういうのは中学地理の知識なんだわ。センター地理でも2008年度地理B本試験第6問で日本の自動車工場の立地が登場しているので、よかったら参照してみよう)。東北地方で自動車工場がメインになっているとは思えないよね。

一方、電気機械については、こちらも2002年度地理B本試験第6問で山形県の電気機械工場がテーマとして取り上げられたように(ちょっと古い問題なので入手が難しいかな。機会あれば参照してみよう)、こちらの工業種については東北地方は新たな生産地として注目されている。さらにいえば、「シリコンロード」なんていう言葉を聞いたことがあるんじゃないかな。東北地方の自動車専用道路のインターチェンジ付近や九州(こちらはシリコンアイランド)の空港近くにIC工場が多く立地し、ここで組み立てられた精密部品がトラックや航空機で大都市圏へ運ばれる。もちろん安い地価や労働力を利用してのもの。こういった状況を考えるに、電気機械工業こそ東北地方を特徴付ける工業種であることは間違いないと思う。チを「電気機械工業」と判定し、チに比べて数値の劣る(伸び率はすごいんだけどね)ツを「輸送用機械器具」とする。

[アフターアクション]中学地理は徹底的に勉強しといた方がいいわ。本問については、工業の一般的な問題ととらえる向きもあるんだろうが、僕はむしろ中学地理がダイレクトに出題された例と考えるわな。

<2016年度地理B本試験第6問問5>

[ファーストウンプレッション]今回、階級区分図を利用した問題が3つあるのだが、全部難しい(涙)。これ、キツイわ。本問も2つに絞ってからが異常に難しい。最後はカンになっちゃうわな。ただ、こうやって感覚的に解くスキルもセンター地理には大切ってことなんやけどね。

[解法]階級区分図を利用した問題。指標は3つ。「1㎢当たりの事業所数」をA、「1世帯当たりの自動車保有台数」をB、「通勤・通学者に占める他市町村への通勤・通学の割合」をCとする。

「岩手県の主な交通網」が示されているが、ここでポイントにすべきは県庁所在都市であり、人口最大である盛岡市(こういったことも日本地理を勉強する中で身につけておくべき知識である)とはいえ、地方においては自動車化が進んでいるので、通勤における鉄道の重要性は東京など大都市を比べたら低いだろう。またいくら自動車通勤が多いからといって、高速道路を使ってまで通勤というのもちょっと考えにくいかな。さらにいうならば、盛岡市の人口規模を考えた場合、せいぜい数十万人規模と思うのだが、「都市圏」すなわち通勤圏はさほど広いとは思われず、たとえば岩手県の周辺部から盛岡市に通勤するサラリーマンはいないだろう。通勤圏は近隣の市町村に限られるはず。以上のようなことを総合的に考えながら、問題を解いていこう。

その盛岡市に注目。マとムでは「低位」、ミだけ「高位」。なるほど、岩手県の中心である盛岡市では商工業が発達し、事業所も集中しているはずだ。ミがAとなる。

さらにBについて。自動車の保有率は、一般的に大都市で低く、地方で高い。地価が高いため駐車場代もバカにならず、鉄道やバスなどの公共交通機関も整備されているので自家用車に頼る必要もない。岩手県全体が「地方」とも言えるのだけれども、あえて「都心部」的な特徴を有するといえば、やはり盛岡市だろう。盛岡市で「低位」のマとムのいずれかがB。

そしてCについても同様。事業所が集まっているのだから、盛岡市民は市外へと通勤する必要がない。逆の言い方をすれば、盛岡市内の事業所に通勤しやすいように、盛岡市内に転居する人も多いだろう。やはり盛岡市が「低位」であるマとムのいずれかがC。

ここまで整理できたら、今度は盛岡市以外に目を向けよう。Aであるミを参照するに、北上市を含む県南から盛岡市に至る鉄道・幹線道路沿いで人口当たりの事業所の数が多く、さらに県の南東部においても「高位」の部分がある。こうした市町村においては、周辺の事業所が少ない市町村からの通勤者が多くなっているのでないかという想像ができ、逆にここから市外へと通勤することは少ないだろう(わざわざ盛岡市に住んで、他の市町村へ通勤はしないんじゃない?)。AとCは相反する関係にある(反比例といってもいいかな)指標であり、Aがミであることはすでにわかっているので、ミと高位や低位がひっくり返っている関係にあるものを探し、それをCとする。

そうなると、マとムを比べた場合、マがそれっぽく思えるわけだ。盛岡市の北と西に接する市町村、北上市の南側の面積の広い市町村などがその最も分かりやすい例となるし、南東部に目を移すと、ミで「高位」である3市町村はマでは2つが「低位」、1つが「中位」となっているが、それらの北に接する市町村はマにおいて「高位」となっており、こちらから事業所が多い南側の市町村へと通勤している様子が想像できる。最北部の「高位」については、青森県側へと通勤する者が多いということではないだろうか。

以上より、マをCと判定し、④が正解となる。

[アフターアクション]いやぁ、手強い。時間がかかるだけじゃなく、確実に正解できるかどうかも危うい問題。とにかくがんばって解いてみたので、解法をしっかり読み込んでほしい。ところで、今回は「1世帯当たりの自動車保有台数」についてはあまり考慮しなかったのだが、実はこれってあまり参考にならない。上で説明したように、都市部では自動車の保有割合が低いので盛岡市だけは考慮して欲しいのだが、だからといって地方においてその値が高くなるかというと、必ずしもそうではない。参考までに以下にその説明を。

まず「所得水準」は絶対敵に必要。普通に考えれば、だだっ広い北海道や鉄道がほとんどない沖縄県で自動車の保有割合が高いと思いきや、全然そんなことはない。日本で極めて自動車保有率が高いのは群馬県や福井県など、「地方」であることに加え、工業が発達し、所得水準が高い(つまり自動車を購入する余裕がある)県が該当するのだ。

さらに言えば、今回のテーマとなっている東北地方だが、この地域は一世帯当たりの居住人数が多い。つまり大家族が多いっていうこと。都市部でも3世代同居が当たり前ならば、1世帯で2台や3台の自動車保有は当たり前となる。これに対し、東北地方の山間部などでは過疎地域も広く、そういったところは老夫婦だといったような1世帯当たりの居住人数が少ないところが比較的多かったりする。そうした世帯においては自家用車は複数もつことはないだろうし、もしかしたら全く所有しない場合もあるかもしれない。一般論としては「都心部で低く、地方で高い」自動車の保有割合だけれども、細かくみていくと必ずしもそれが当てはまらない部分もあるってことなのだ。理論が中心であるんだけれども、実情と重ね合わせて考えないといけないという、地理の難しさっていうのかな。

<2016年度地理B第6問問6>

[ファーストインプレッション]やっぱりこの手の問題は一つぐらい必ず入ってるよね。今回はどういったネタなのかな。

[解法]おっと、④が違いますね。流線図はいわゆる「矢印」を使った統計地図で、出発点と到達点がはっきりしている場合のみ有効。輸出先と輸入先が明確に示された貿易の図とかね。「駐車場収容台数」のような単なる数の大小は、適しません。

[アフターアクション]明らかに④が違うのだが、①〜③も読んでおいてください。③なんか結構おもしろいと思うな。ドットマップは「絶対分布」を表すもので、例えば人口分布を表す場合には「1点=1000人」のようになるんだけれども、この選択肢③については「1点=1店舗」みたく表したら、すごくわかりやすい図になるよね。