2018年度地理B本試験[第5問]解説

<2018年地理B本試験 第5問 北ヨーロッパ比較地誌>

アイスランドとデンマークを除いた北ヨーロッパ3か国の比較地誌。北ヨーロッパの地誌は2002年度地理B本試験第1問で大きく取り上げられており、16年ぶり。ただ、今回は比較地誌ということで、なるほど、該当する3つの国の比較が意識されている。

3か国中、様々な点で異なっている国はノルウェーで、多くの小問においてノルウェーに関するデータの判定は比較的容易。それに対し、スウェーデンとフィンランドは自然環境や産業などに共通点が多く、こちらの判別は難しい。唯一、民族(言語)系統のみはノルウェーとスウェーデンが共通した性格を有し、フィンランドのみ例外的。この辺りが北欧3か国のおもしろいところかな。

問1は地形と気候だが、気候に絞って考えた方がスムーズだと思う。理論的に考えていけば正解に達する。

問2は発電方式について。ノルウェーはよく知られているが、問題はフィンランド、しかし2012年度地理B本試験で扱われたことのある内容なので、君たちはセンター過去問を分析することで、こうした問題にもしっかり対応できるはず。

問3は産業の問題であるが、資源産出がカギとなっている。ノルウェーの原油・天然ガスはよく知られているが、スウェーデンの鉄鉱石は知っているかな?

問4は民族(言語)が中心の問題。ただし、「バイキング」が決定的なキーワードになっている。難問だったと思う。

問5は社会保障に関する問題。ある程度、イメージで解いてしまっていいと思う。図の読解がちょっとややこしいけれど、そこは落ち着いて判読しよう。

例年、この比較地誌には難問(というか非常に解きにくい問題)が多く、今回も形式的には簡単ではないのだが、内容的には難しいことが問われているわけでもなく、比較地誌ジャンルとしては適度な難易度に収まっていると思う。1問ミス(問4が厳しいかな)で乗り切って欲しいな。

【25】【インプレッション】同緯度のいくつかの都市における最暖月と最寒月の平均気温が問われている。このパターンの問題は出題例が多いが、このような狭いエリアの中では数値に大きな違いがみられず、判定は微妙なところに注目する必要があるだろう。実は「標高200m以下の面積の割合」が大事なのかも知れないね。解いてみましょう。

【解法】「ほぼ同じ緯度にある都市」が比較されている。緯度が同じならば、太陽からの受熱量が同じなので、気温も同じになるはずなのだが、図を見る限り、最暖月と最寒月の平均気温において意外に大きな差がある。

では3都市の位置を具体的にチェックしていこう。最も特徴的な都市はベルゲン。3都市とも沿岸部に位置するものの、バルト海(フィンランド湾)に面する他の2都市とは異なり、ベルゲンは大西洋に面する。当然、暖流である北大西洋海流の影響が大きく、とくに冬の気温が高いはず。また大陸の西岸に位置し、偏西風の影響も強いはず。年間を通じて気温の格差の小さな穏やかな気候がみられることは十分に予想できる。図2を参照するに、ウは最寒月平均気温が0℃を下回らず、この緯度帯としては極めて高いことがわかる。ウがベルゲンである。冬でも凍らない不凍港を有する。

残った2つであるが、全体として(少しだけれども)イの気温が高く、ウの気温が低い。気温年較差の大きな大陸性気候であることは共通しているのだが(一応バルト海には面しているものの、極めて浅い海域であり水量が少なく、温度を一定に保つ効果は薄い)、それでは判定できない。そこで、多少強引ではあるが、緯度に注目してしまおう。緯度については「ほぼ同じ緯度」ではなかったかって? そう「ほぼ」なのだ。厳密には多少異なり、図から判断するにヘルシンキがやや高緯度、ストックホルムがやや低緯度。近接した地域で南北に並んでいるのだから、北のヘルシンキより南のストックホルムの方が気温が高いということはあり得ないだろう。例えば、北海道(北緯45度)よりシアトル(北緯50度)の方が暖かいといったように、遠隔地であるならば様々な気候因子の影響によって北が暖かく南が寒いといった逆転現象が生じる可能性もある。しかし、同じ地域において、風や海流などの気候因子も共通するならば(もっともバルト海においては海流の影響はないが)、シンプルに「北が寒く南が暑い」と決めてしまっていいんじゃないか。アがヘルシンキ、イがストックホルムとなる。その逆ということは絶対にないと思うよ。正解はアがフィンランド、イがスウェーデン、ウがノルウェーで⑥となる。

参考までに「標高200m以下の面積の割合」についても確認しておこうか。

【参考問題】(2009年度地理B本試験第1問問3)

スカンディナビア半島の断面図が問われている。決して高峻な山地ではないが、ノルウェーは山岳国で全体が山地地形に覆われている。そこからスウェーデンにかけて傾斜地が広がっている。

なお、ベルゲンも何回か出題対象となっており、一つは2015年度地理B本試験第3問問1。「両側を急斜面に囲まれた入江に位置する都市で、国内有数の海運業拠点となっている」。フィヨルドに面する港湾都市であることが述べられている。

これよりもっとわかりやすいのが、ちょっと古い追試だが、2006年度地理B追試験第5問問6で登場。「冬季にも氷結しない海域に臨む港湾都市。かつては造船業と繊維工業が盛んであったが、現在は衰えている」とある。こちらは不凍港であることが強調されている。

【アフターアクション】ベルゲンが不凍港であることは絶対に確認しておく。緯度は極めて高いが、沿岸を流れる暖流の影響で冬でも凍結せず、年間を通じて使用可能な不凍港となっている。暖流については「冬の気温を上げるもの」というイメージ。お湯を氷の中に流し込むことを想像すればいい。緯度が高いので本来は凍ってしまうものの、暖流という「お湯」が流れてくることによって、沿岸は氷結から免れている。

ストックホルムとヘルシンキについては、解法でも触れたように、こちらは単純に緯度を考えればいい。暖流の影響が及ばず、シンプルに「北が寒く、南が暖かい」でいいと思う。

【26】【インプレッション】ずいぶんベタな問題だと思います。発電ネタは鉄板だね。ノルウェーはよく知られているけれど、他の2か国も非常に重要。

【解法】北欧3か国はそれぞれに特徴ある発電方式が取られている。

まずノルウェー。北海油田を有する原油および天然ガスの産出国であるが。それらは発電には利用されておらず、主に輸出される。暖流によって水温の高い大西洋は水蒸気が豊富で、それが偏西風によってノルウェーへともたらされることによって、ヨーロッパで最も降水量の多い地域となっている。急傾斜の多い地形は水力発電に有利であり、ノルウェーのほぼ全ての電源をまかなっている。キが「水力」である。

さらにフィンランドであるが、この国はバイオマス発電に特色がある。豊富な森林資源を利用し、木くずを燃料とした発電が行われている。フィンランドは火力発電がさかんな国であるが、これは化石燃料を使用したものではない。木くずを用いたものなのである。クが「火力」である。

残ったカが「原子力」。スウェーデンとフィンランドはいずれも原子力発電がさかんな国である。新期造山帯で地震や火山の多い日本とは異なり、スウェーデンとフィンランドは安定陸塊(バルト楯状地)に国土を広げ、地盤は何億年もの間、めだった動きはない。発電所の事故の可能性は低く、原子力発電に適した国といえる。

逆に、スウェーデンとフィンランドが恐れるのが化石燃料の使用による火力発電である。火力発煙は主に石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料を燃焼させることにより発電タービンを回す発電方式だが、この際に硫黄酸化物も大気中に放出することになる。化石燃料には不純物として硫黄が含まれているのだ(とくに石炭に多い)。硫黄酸化物が水分と化合し、硫酸を生じる。硫酸の混じった酸性度の高い雨が酸性雨である。これが土壌や湖沼に蓄積され、強酸性の水質や土質になることによって、水棲生物の死滅や森林の立ち枯れなどの被害が生じる。しかも、そもそも冷帯地域である両国の土壌は酸性のポドゾルである。多少の酸性雨でも強い酸性となりやすく、被害は拡大する。

とくに森林の立ち枯れは両国の経済にとって致命的である。スウェーデンとフィンランドは日本と同様に国土の60%以上が森林に覆われる国で、豊富な針葉樹資源を利用したパルプ工業および製紙業が国の経済を支えている。森林の喪失はすなわち国家財政の崩壊を意味するのだ。世界で最も酸性雨を忌み嫌う国であるからこそ、水力発電と原子力発電(さらに化石燃料を使用しない火力発電)が志向されるのである。

本問において、知っておくべきトピックは3つ。

・ノルウェーは水力発電の割合が高い。

・スウェーデンとフィンランドでは原子力発電が行われている。

・フィンランドではバイオマス(木くず)による火力発電が行われている。

【参考問題】(2012年度地理B本試験第5問問5)

フィンランドのエネルギー供給が問われている。フィンランドでは木くずをつかったバイオマス発電が行われている。解法でも述べられているように、

森林資源が国内経済を支えているフィンランドが避けるべきは「化石燃料」を用いた火力発電。木くずについては硫黄酸化物を生じることはなく、また林業の廃材をつかえるという効率の良さもある。また植物性のバイオマスは、それが成長する際に光合成によって二酸化炭素を吸収するため、「カーボンニュートラル」の効果がある。我が国もバイオマス利用には積極的になるべきである。

2015年度地理B追試験第4問問5でもフィンランドのバイオマスが問われているので参照しよう。なお、こちらでは「エネルギーの生産」なので、ノルウェーについては石油と天然ガスが多い。

【アフターアクション】ノルウェーの水力はよく知られているけれど、他が難しかったかな。スウェーデンは「水力+原子力」、フィンランドは「原子力+火力」。

ここでは原子力発電に注目しよう。日本では原子力発電が推進されているが、むしろこれは例外的であり、欧米の先進国では「脱原発」が志向されていることをぜひ知っておこう。原子力発電の割合が極めて高いフランスでも新規の発電施設の建設には消極的であり、また原子力発電に依存する割合が50%を越えていたスイスにおいてもすでに原子量発電施設の全廃が決定している。最盛期には総発電量の30%を原子力が占めていたドイツでも、現在原子力による発電量は急減している。アメリカ合衆国では1970年代末のスリーマイル島の原発事故のあと、数十年にわたり新規の開発は行われてこなかった。近年、地球温暖化対策として原子力エネルギーの利用が見直されてきたが、それでも新規の原子炉の開発は1〜2基であり、限定的なものである。トランプ政権がむしろ化石燃料の使用を推奨しているため(アメリカ経済は石炭多消費による重工業に依存しているのだ)、将来的にも原子力発電が主流になることは考えにくい。

その一方で、韓国を始め、ロシア、そして新興工業国の中国やインドでは急増するエネルギー需要に対応するため、原子力発電所の建設がさかんに行われている。今や「原子力発電=発展途上国」といった括りで考えるべきなのかもしれない。

北ヨーロッパではスウェーデンとフィンランドで原子力発電が盛んであるが、両国とも将来的な全廃を計画している。安定陸塊であり、活断層や火山もなく、地震の可能性が低い地域であるので、原子力利用の安全性は保たれているはずだが、それでも原発にはネガティブな両国である。

また日本の場合は核燃料サイクルによる原子力開発を目標としており、原子力発電所から排出された使用済み核燃料については再処理してプルトニウムなどに変換してから、再度利用することを考えている。しかし、再処理施設の「もんじゅ」は事故続きであり、まともに可動しないまま既に解体作業が始まっている。日本の核燃料サイクルは崩壊し、そこには事故の高いリスクと莫大な予算の浪費が伴われた。

それに対し、スウェーデンとフィンランドの原発では、排出された使用済み核燃料についてはそのまま地下に廃棄し、それらの再処理は行われない。「使い捨て」ということなのだ。地下数百メートルの安定した岩盤層に使用済核燃料を格納し、やがてコンクリートで固めてしまい、完全廃棄する。事故の可能性も少なく、むしろこれがウランの理想的な利用法なのかも知れない。ウランの可採埋蔵年数は約70年。ウランが枯渇するまでの70年間はこの方法で乗り切り、その間に新エネルギーを開発する。それは決して無理な計画ではない。

しかし、その方針さえ転換され、両国ではより早い段階での原子力発電所の全廃を計画している。本当に原子力の怖さを知らないのは、むしろ原爆被害国である日本の方なのかも知れない。

ちなみに、同じ北欧ではアイスランドが「地熱+水力」であり、デンマークが「風力+火力(家畜の排泄物)」である。大西洋中央海嶺上に形成されたアイスランドでは、断層によって線状に火山が並び、地熱の利用がさかんである(発電以外にも暖房や野菜栽培など)。また国土の広い範囲が氷河で覆われており、融氷水を活かした水力発電もさかん。

デンマークは、大陸氷河に削られた平坦な国土を有する国で(山がない国なのだ!)、偏西風が吹き抜ける。沿岸部を中心に多くの風力発電施設が設置され、国内総発電量の30%は風力によって賄われている。また、火力発電もさかんな国だが、化石燃料では家畜(豚など)の排泄物が燃料として使用されている。新エネルギー大国であるのだ。日本だってできるんじゃないか?

【27】【インプレッション】なるほど、これが比較地誌というものか。3問続けて3つ組合せ問題になっているけれど、徹底的に北欧3か国を比較している。ノルウェーはともかくとして、スウェーデンとフィンランドにそんなに違いがあるものか。その当たりは感覚で解かないといけないのかな。

【解法】「産業の違い」に注目すれば何とかなるんじゃないかな。ノルウェーが最も特徴的だと思う。北海油田を有する原油・天然ガスの産出国でありそれら資源の国内消費量は少ないので(例えば発電は水力主で化石燃料に依存しない)、輸出余力は大きくなる。「原材料と燃料」の割合が高いスがノルウェーとなる。

ただ、ここからが難しい。スウェーデンとフィンランドはいずれも森林国であり、パルプ・紙の生産が多い。産業は似ている。というか、そもそも図4のサとシのグラフがほぼ同じだね。これは判定しにくい。

サもシも「工業製品」の割合が高い。なるほど、これがパルプや紙に該当するのだろうか。ただ、これでは判定できないので、他の2つの割合で考えるんだが、これも微妙な数値。シが一応「食料品」が多いようだが、この両国って農業がさかんな国か?例えば、同じ北欧でも魚介類の輸出が多いアイスランドや肉類の世界的な輸出国であるデンマークが入っていれば食料品に注目するのも一つの手なんだが、スウェーデンとフィンランドではわからない。

よってサとシについては表1から判定していこう。サの貿易相手国はシが最大であるが、ロシアが入っているのが特徴的。貿易は基本的には近隣国との間(とくに国境を接する国)でこそさかんになる。わざわざ離れた国とはモノのやり取りはしたくないよね。かつてロシアはソ連の構成国であり、社会主義国として西側諸国との間に経済交流は少なかったが、ソ連崩壊により資本主義国となり、自由経済・市場経済化が進むことで、今や西欧諸国にとってロシアの経済的な存在感は極めて大きなものになっている。北欧3か国にとってロシアと最も関係が深いのはどこか。それは国土を直接接し、長い国境線を共有するフィンランドではないか。サをフィンランドとし、シをスウェーデンとする。

そう考えると、スウェーデンの最大の輸出相手国はノルウェーということになる。これは適切だろうか?ノルウェーは人口の小さい小国である(それをいえば、北欧はスウェーデンがやや大きいだけで全て小国なのだが)。スウェーデンはそんな小国に何を輸出しているのだ?

これ、なるほどって合点がいくよ。おそらく「鉄鉱石」なんだわ。スウェーデン北部の北極圏に近いところに、極めて高品質の鉄鉱石(鉄の含有量が多い)が採掘されるキルナ、エリヴァレという鉄山がある。ここで採掘された鉄鉱石は鉄道でノルウェーに輸送され、北極圏の不凍港であるナルヴィクから輸出され、ルール工業地帯などに送られる。もちろんスウェーデンは製造業の発達した工業国だから、機械類や紙類の輸出が原則として多い。しかし、鉄鉱石の輸出も少ないわけではなく(図4のグラフをみても、サやスには及ばないが、「原材料と燃料」の割合は10%を越えている。ここに鉄鉱石が含まれているのは間違いない)、そのほとんどがノルウェーに送られていることを考えると、スの最大の輸出相手国がシであることは納得の範囲なのだ。スウェーデンは実は自動車や航空機の生産も行っており、それらがノルウェーに輸出されていることも当然考えられる。スウェーデンにとって最も経済的なつながりが強いのは、実は非EU国であるノルウェーなのだ。

【関連問題】(2015年度地理B追試験第4問問4)

ナルヴィクが登場。「隣国で産出される鉄鉱石を運び出すために鉄道や港湾施設が整備され、積出港として機能している」とある。隣国とはもちろんスウェーデン。北極圏に位置する港湾だが、不凍港であることから鉄鉱石の積み出しに使用されている。スウェーデンの面するバルト海・ボスニア湾は凍結するため、船舶輸送が困難。

なお、2006年度地理B追試験第5問問3では、スウェーデン北部の鉄山が取り上げられている。

【28】【インプレッション】北ヨーロッパにおける言語の問題。フィンランドだけが違っているのだが、わかるかな?さらに「バイキング」がポイントになっている。

【解法】まず北欧3か国の言語に注目しよう。北西ヨーロッパは「ゲルマン系」が主であるが、フィンランドはアジア系の言語に含まれる「ウラル系」の言語が使用されている。

スウェーデン語とノルウェー語は同じゲルマン系なので、スウェーデン語に近いAが「ノルウェー」となる。「ヴァッ・コスタ・デッ?」と「ヴァ・コステル・デ?」だからね。残ったBが「フィンランド」。ウラル系なので全然違うね。

さらにチの「バイキング」に注目しよう。これは海賊だね。ノルウェーは沿岸にはフィヨルドの深い入江が連続し、天然の良港に適した地形となっている。さらに眼の前には大西洋が広がり、多くの人々がはるかな海洋へと乗り出していったことは十分に想像できるんじゃないかな。狭い海域であるバルト海やフィンランド湾に面するフィンランドとはこの点が異なっている。チを「フィンランド」と判定し、残ったタが「ノルウェー」。正解は②。

【関連問題】(2005年度地理B追試験第3問問3)

スカンジナビア半島最北部の、ノルウェー・スウェーデン・フィンランドそれぞれの北部にまたがる地域が示され、そこに住む人々について「ウラル系の言語を使用する人々がおり、その一部は伝統的なトナカイの遊牧を営んでいる」と説明されている。ツンドラ地域を含む非農業地帯であり「トナカイの遊牧」が最大のキーワードだったわけだが、ここでは「ウラル系」にも注目しよう。この地域はラップランドと呼ばれ、サーミと呼ばれる人々が住んでいる。フィンランドと同様にウラル系すなわちアジア系の人々であるが、北極海周辺にはシベリアのヤクート人、北アメリカのエスキモー(イヌイット)など、アジア系の人々が多い。モンゴル人の血の引く彼らは、厳しい自然環境に耐えて生活する能力を有しているのだろう。

【アフターアクション】ヨーロッパの言語(民族)系統について混乱している人はいないかな。ここでしっかり整理しておこう。

まず北西側が「ゲルマン系」。イギリスやドイツ、北ヨーロッパで多数派を占めている。ドイツの正式名称はジャーマンというけれど、これって読み方によってはゲルマンって読むことができるね。

南西側が「ラテン系」。ラテンって陽気で明るいイメージがないかな。国でいえばポルトガル、スペイン、フランス、イタリアが代表的なところ。

さらに東側が「スラブ系」。厳格なイメージで捉えたらいいんじゃないかな。チャイコフスキーに「スラブ行進曲」っていう交響曲がある。東ヨーロッパや旧ユーゴ、ロシアなど。

その上で、マイナーな言語系統について。まずイギリス北部やアイルランドに居住するのがケルト系。日本でも「蛍の光」などケルト系民謡がよく知られている。叙情的な民族だね。

さらにスペインとフランスの国境付近にはバスク系。他の言語と全く異なる謎の言語であり、これを使用するバスク人もちょっと変わっている。宣教師として戦国日本にやってきたザビエルがバスク人として有名。

そしてヨーロッパにもアジア系の言語を用いる民族がいる。アジア系のことを「ウラル系」というのだが、その主な国がフィンランドとハンガリー。とくにハンガリーは古い時代にモンゴル人の侵攻を受け、彼らによってこの地は支配された。その言語が使用された歴史があり、「アジアなまり」がハンガリー語には残されているのだ。例えばハンガリーは、ヨーロッパで一般的な「名+姓」ではなく、アジアで広く見られる「姓+名」の順に名前を表記する。

とりあえず以上のような形で覚えておけばいいんじゃないかな。表にもしておきますね。

三大言語(民族)ゲルマン系北西部イギリス・ドイツ・北欧

ラテン系南西部スペイン・ポルトガル・フランス・イタリア

スラブ系東部東欧・旧ユーゴ・ロシア

それ以外の主な言語(民族)ケルト系イギリス北部・アイルランド

バスク語スペイン・フランス国境

ウラル系フィンランド・ハンガリー

なお宗教は比較的民族(言語)分布に対応する傾向はあるが、厳密には重なっていない。しかし、北ヨーロッパ5か国については、信仰している主な宗教(宗派)はキリスト教プロテスタントで共通しているので、知っておいてもいいかな。いずれの国も国旗に十字架が描かれている。

さらに5カ国について政治・社会体制を比較してみた。どう?かなり違うでしょ?

EU加盟ユーロ導入NATO加盟

アイスランド

デンマーク

ノルウェー

スウェーデン

フィンランド

アイスランドとノルウェーは共通していて、EUには加盟していないが、軍事同盟であるNATOには加盟。

スウェーデンは中立政策を敷く国であり、経済や政治を中心としたEUには加盟するものの、NATOには未加盟。

一方でフィンランドはとりたてて独自の政策を標榜しているわけでもなく、EUおよびNATOに加盟し、北欧で唯一共通通貨ユーロを導入している国である。なお、表にはないが、5か国中唯一の「共和国」である。他は全て「立憲君主国」。

【29】【インプレッション】グラフの読み取り方がちょっとややこしいかも。注意深く読解しましょう。問題そのものは北ヨーロッパのステレオタイプ的なイメージで考えてしまえばいいので、難しくはないと思う。

【解法】OECDは別名「先進国クラブ」。1人当たりGNIの高い高所得国を中心とした国際機構であり、欧米の先進国のほか、日本や韓国も含まれている。もちろん北ヨーロッパ諸国も加盟しているね。

それらの「GDPに対する公的社会支出」と「GNIに対する租税負担率」とが問われている。GDPとGNIという言葉が登場しているが、同じ意味なので、GNIに統一して考えればいい。要するに、国の規模に対してどれぐらいの金額が税収によるものであり、そして公的支出して用いられているかということ。

北ヨーロッパ諸国に関する一般的なイメージで捉えたらいいと思う。北ヨーロッパは福祉政策が充実している国が多い(というか全て)。税金は高いかわりに、社会保障や年金制度が整備されており、国民はその恩恵を十分に受けている。高額の税金を嫌って富裕層が外国に移住してしまうというケースもあるようだが、逆にいえば、金持ちからもしっかり税金を取っているということ。スウェーデンはほとんど貯蓄をしないそうだが、失業しても、定年になっても、十分な支援が国から保証されているのだ。

当然、「GNIに対する租税負担率」は高いだろう。税金が高いことは間違いない。しかし「GNPに対する公的社会支出」も当然のように高い。高い税金を取るけれど、それをしっかりと国民に還元している。正解は②。

【関連問題】(2010年度地理B本試験第4問問5)

OECDは初出ではなく、こちらの問題でも登場。とはいえ、あまり関係ないかな(笑)。参考までに。

【アフターアクション】おもしろい問題だったと思う。「知識としてはあいまいだが、グラフの読解は堅実に」といった感じ。このパターンって、意外に今まで少なかったんじゃないかな。まず北ヨーロッパについては「福祉政策が手厚い」というイメージはしっかり作っておく。そのうえで、その福祉を支える財源として税金が重要な意味を持っていることも理解する。

ちなみに、日本は消費税が8%(来年からは10%になるそうだが)で、ヨーロッパでは20%以上の高い割合であることをよく聞くんじゃないかな。でも、ヨーロッパの場合は消費税というよりむしろ「贅沢税」であり、生活必需品(スーパーやコンビニで売っているようなものね)については消費税低率もしくは無税であり、デパートで買うような高級品にこそ高い税率が適用されている。このため、低所得者層は消費税の負担が少ないが、富裕層は多くの税を払っている計算となる。いわゆる「累進課税」の形であるが、これは然るべき税方式といえる。日本の場合は前述のように生活必需品にも課税しているので、低所得層の税負担こそ感覚的には厳しくなる。逆累進課税ともいうべきものである。

グラフを参照すると、大まかに2つの指標は比例関係にある。「GNIに対する租税負担率」が低い国は、「GDPに対する公的社会支出の割合」も低い。GNIとGDPは同じものと考えていいので、要するに「租税負担が大きい国は、公的社会支出も大きい」ということ。高い税金をとって、それを国民に還元しているのだから、それは当たり前だね。

日本に注目してみると、平均値より「租税」は低く「公的社会支出」は高い。日本は税金をもっと取っていいと思う。ただし、それを取る対称がポイントで、低所得層は税負担を和らげ、高所得者からより高い税金を負担させるべきなんじゃないかな。低所得層は使うお金がなく、高所得層はお金を貯め込む。それにより購買活動が停滞し、やがて「経済が死ぬ」。うまくお金(経済)を流動させるシステムをいかにつくるか、が経済政策ってことなんだけど、それがうまくできてないのが日本という国なのです。