2017年度地理B追試験[第5問]解説
2017年度地理B追試験第5問解説
一昨年よりスタートした、比較地誌。でも、問題に無理がありすぎて、やめたらいいと思う。今回もニュージーランドとフィリピンという、比較する必要すらない無関係な2か国が取り上げられているのだが、何か意味があるのだろうか。問題も、難しすぎるし、悪問だらけ。無理やりこのジャンルにテーマを押し込めているだけの印象。せめて簡単な問題にしてくれたら、まだマシやねんけどね。
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[ファーストインプレッション] かなり変わった出題パターン。センターっぽくないし、出来の悪い模試みたい???問われている内容も、かなり判定に困る。
[解法] 気温と降水量に関する問題だが、こうした問題の場合はグラフや表を使って欲しいと思うわけだ。さらに、降水量はともかく、気温に関しては判定が微妙すぎる。どうしたもんか。
とりあえず簡単な降水量の判定から。ニュージーランドは年間を通じ偏西風の影響を受け、変化の少ない気候がみられる。降水量も季節を問わず安定している。
それに対し、東南アジアのフィリピンはモンスーン(季節風)の影響が強く、季節ごとの降水量の違いが大きい。大陸からの季節風が卓越する冬(そもそもフィリピンは熱帯なので冬という概念はないが、北半球の冬に該当する1月を中心とした時期ということ)には降水量が少なく乾季となり、海洋からの季節風が卓越する夏(同じく7月を中心とした時期)には多雨となり雨季を迎える。
東アジアから東南アジアの広い範囲におけるモンスーンの影響を考えれば、降水量の判定は容易だろう。「最多雨月と最少雨月の降水量の差」については、フィリピンのマニラの方がニュージーランドのクライストチャーチの方が大きくなる。選択肢を②と④に絞ろう。
一応、ニュージーランドの降水について補足を。とにかく「偏西風」の影響が強いことが絶対的。風上側の斜面となる国土の西部においてとくに降水量が多く(年間1000ミリ以上)、風下側の斜面となる東岸においてやや降水量が少なくなる(年間1000ミリ未満。ただ、極端な少なさではないので、乾燥気候となるわけではない)といったように、地域による「年間の降水量」の違いは大きい。しかし、本問で問われているような「季節による降水量の差」は小さく、安定していると捉えていい。要するに、西岸の地域は一年中かなりの雨が降るし、東岸の地域は年間を通じとくに降水量が多くなる時期がないということ。クライストチャーチも実はあまり雨は多くない。しかし、やや雨が少ないぐらいの方が小麦栽培には適しているのだ。クライストチャーチの位置するカンタベリー平原は国内最大の小麦農業地域であるので、知っておいてもいいだろう。また、この地域は肉羊の飼育もさかんに行われている。穀物(小麦)栽培と家畜(羊)飼育を組み合わせた混合農業地帯なのだ。
では、ここからは気温について考えていこう。実はこれがかなり難しい。っていうか、正直なところ、あまり自信がないし、そもそも問題の意図がわからない。こんなことを答えさせて何の意味があるというのか。
上でも述べたようにニュージーランドは偏西風の影響が強い島なのだが、偏西風は低緯度方向から吹く(南半球の場合は北寄り)暖かい風であり、そのためニュージーランドは冬はかなり温暖。イメージとしては「雪の降らない北海道」といった感じ。さらに周囲は広く海に囲まれた「絶海の孤島」であり(地図で確かめてみるといいよ。オーストラリアとニュージーランドって、実はかなり離れているから。日本とユーラシア大陸のような「近さ」を想像してはいけない)。典型的な海洋性気候がみられ、「冷涼な夏、温暖な冬」が特徴である。気温年較差は、この緯度としてはかなり小さいと考えていいだろう。本来、緯度と気温年較差は比例する(緯度が高いところは季節による太陽からの受熱量が大きいので、夏と冬の温度差が大きい)のだが、ニュージーランドはその例外となる。
ただ、ここからが難しいんだわ。これだけの手がかりから「ニュージーランドの方がフィリピンより気温年較差が小さい」と断言していいのだろうか。ニュージーランドが緯度のわりに気温年較差が小さいのはわかった。では、フィリピンはどうなんだ?フィリピンは緯度10〜20度に位置する低緯度国。年間を通じての太陽からの日射量の変化が小さいのだから、気温年較差も当然小さくなる。フィリピンとニュージーランド、どちらが季節差が大きいんだ?この判定って実に難しい。
気温年較差の考え方について、ヒントを提示するので、みなさんも考えてください。ニュージーランドは南緯40〜50°に国土が位置し、これって北海道とほぼ同じ。北海道の札幌は、最暖月平均気温は25℃(意外に暑いのだ)、最寒月平均気温は−5℃であり、気温年較差は30℃となる。
フィリピンよりやや高緯度に位置する沖縄県の那覇の場合、最暖月平均気温は25℃(北海道とさほど変わらないね)、最寒月平均気温は15℃。こうした日本の気候については数字でぜひ覚えておいてくださいね。最暖月平均気温が30℃を超えるところは、北アフリカや西アジアの乾燥地域(砂漠は夏の日中に極端に気温が上がるので、平均気温もそれに引きずられて高くなるのだ)以外にはありえないので、フィリピンの最暖月平均気温も30℃に達するわけはない。最寒月(つまり冬です)の平均気温については想像するしかないのだが、さて気温年較差はどれぐらいになるのだろう?
沖縄より暑いはずなので、最寒月平均気温は20℃ぐらいに達するのではないか。そうなると、気温年較差は10℃に満たないということになる。「常夏」の熱帯ならば、そんなもんなんじゃないかな。一年を通じて、気温の変化は極小である。例えば低緯度であっても内陸部ならば寒暖差は大きくなるだろうが、フィリピンは周囲を海で囲まれている。気温は安定しているとみていいだろう。蛇足ながら、フィリピンは熱帯気候に含まれる地域であるが、ケッペンの気候区分による熱帯気候の定義は「最寒月平均気温18℃以上」。すでに述べているように、いかに暑くとも最暖月平均気温が30℃を上回ることはほとんどないので、冬の気温が18℃を越えているならば、気温年較差も10℃程度となるはずである。
以上から、フィリピンとニュージーランドの気温年較差を考えてみよう。どうだろうか。全くのカンになってしまうのだが、ニュージーランドの方がフィリピンより気温年較差が大きいと考えてみていいんじゃないか。いかに「海洋性」で「冬でも暖かい穏やかな気候」であるとはいえ、北海道と同じ高緯度のニュージーランドにおいて、気温年較差が10℃に満たないということはありえないと思う。例えば、最寒月平均気温が5℃として(これは東京と同じ)、最暖月平均気温が15℃ということになる。15℃って沖縄の冬と同じ気温。さすがにこれはないんじゃないか。涼しいというか、寒すぎる。さらに緯度の高い(北緯50度ほど。北海道やニュージーランドは緯度40〜45度)ロンドンやパリにおいて、最暖月の平均気温は20℃ぐらいで、日本の5月ぐらいの気温と同じ。ニュージーランドもこれに準じて、最寒月平均気温5℃、最暖月平均気温20℃というのが、考えられる妥当な数字だと思う。すでに述べたように、フィリピンの気温年較差は10℃に達しないだろう。正解は②となる。
[アフターアクション] 力ずくで問いてしまったけれど、これが適切だったのだろうか。「解法」でも説明したように、できるだけ理論的には考えているのだけれども、最終的にはカンに頼ってしまっている。いや、これは難しいよ(涙)。
ただ、いわゆる「ケッペンの気候区分」が通用しないことはわかる。ケッペンの気候区分によるとニュージーランドは「西岸海洋性気候」であり、一年を通じて安定した気候がみられる。でも、そのことから「ニュージーランドの方が気温年較差が小さい」と判断してしまうのは早計なのだ。フィリピンが低緯度に位置することは絶対的なことなのだ。
いずれにせよ、本問は難しい。不正解でも仕方なかったんじゃないかな。この第5問全体に言えることだが、受験生に得点を取らせようという問題じゃない。間違ってこそ当たり前の問題になってしまっている。これはセンター試験としてはダメなんじゃないかと思うんだが。。。
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[ファーストインプレッション] 土地利用の問題というのは基本的に難問が多いのだが、これはとくに難しい!ニュージーランドは「牧場・牧草地」が広いことはイメージどおりとは思う。しかし、そこからの判定が困難すぎるのだ。最後はカンでやらんとどうしようも無いんちゃう???
[解法] 土地利用に関する問題だが、最も大切なのは「牧場・牧草地」。いわゆる草原のことで、やや乾燥したステップ気候の国で広い割合を占めるのだが、他の主な牧草国にはケニア、イギリス、アイルランド、アルゼンチン、そしてニュージーランドがある。
その一報で、降水に恵まれた湿潤地域では一般的に牧場/牧草地の割合は低く、例えば日本でも牧場・牧草地はほとんどない。放っておいたら樹木が生えてしまうので、草原にならないんだよね。フィリピンも同じような状況と考えていいと思う。ニュージーランドの値が最大で、フィリピンがわずかであるAが「牧場・牧草地」である。
ただし、ここからが難しいのだ。「耕地」と「森林」はわからない(涙)。フィリピンの値は25.9と36.0であまり差がない。31.4と2.1で大きく異るニュージーランドで考えるしかないよ。
ここでポイントとなるのが、実はニュージーランドは森林国でもあるということ。問5の貿易品目に「木製品・コルク製品」があることに注目しよう。比較的林業がさかんで、木材やその加工品が日本にも輸出されているのだ。
このことからBを「森林」とし、残ったCを「耕地」とする。でも、ちょっと待てよ。2.1%とはさすがに少なすぎるんじゃないか!
僕も正直、これには困った。農業がさかんでない日本ですら、耕地率って国土の10%を占めているんだわ。ニュージーランドでそんなに耕地が少ないなんて!?
ただ、これには無理やり納得するしかないと思うよ。ニュージーランドの人口はわずか500万人で、1億人に達するフィリピンの20分の1。ニュージーランドとフィリピンの面積はそんなに変わらないから(図より。ちょっとフィリピンの方が大きい?でも小さな差でしょ)、ニュージーランドとフィリピンの耕地は、それぞれ「国土面積✕0.021」と「国土面積✕0.360」で、20倍ぐらい違うわけだ。人口が20分の1で、耕地面積も20分の1ならば、それはそれでおかしくないんじゃないか。もちろん、土地生産性(1ヘクタール当たりの収量)も違うだろうし、そもそもニュージーランドは穀物の輸出もしているから単純に人口と結びつけるわけにもいかない。それでも、この数値は許容範囲とは思うんだわ。一般に農地といえば、「牧場/牧草地」と「耕地」の両方を指すのだが、農業国ニュージーランドは畜産業こそさかんであって、国内の広い範囲が牧場として利用される反面、実は小麦畑の面積って限られているんじゃないか。無理やり「納得」することはできると思うよ。以上より、⑥が正解。いや、これ難しいわ。
[アフターアクション] 土地利用の問題については。牧場・牧草地面積割合の高い国を絶対に知っておくべき。これは丸覚え。以下に列挙する。
1)ステップ気候がみられる半乾燥国
とくに割合が高い(70%)のがモンゴル。他にはカザフスタン、オーストラリアなど。
2)ケニア
ケニアは赤道直下に位置するが、標高が高く気温が低い(常春)。熱帯雨林とはならず、草原が広がる。サバンナの国。
3)イギリス・アイルランド
イギリスとアイルランドは大陸氷河によって大きく土壌を削られてしまった国。岩石がゴロゴロしている荒れ地が広がり、ところどころ草が生えている程度。それを「牧場・牧草地」というのだ。
4)アルゼンチン・ウルグアイ
日本と同じ降水量の豊富な温帯国であるが、国土の広い範囲をパンパと呼ばれる草原が覆っており、そのため「牧場・牧草地」の割愛が高い。
5)ニュージーランド
温帯国であり、かつては国土のほとんどが森林だった。しかし、年間を通じ牧草が生育できる気候環境を有していたため、イギリス人によって森林が伐採され、広く牧草地が開発された。
土地利用の問題は「牧場・牧草地」がポイントとなることが多いので、上の国を覚えておいて、問題を解く際に利用しよう。ただ、本問の場合はここからさらに「森林」と「耕地」を考えないといけないのだ。それが難しいんだけどなぁ。。。
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[ファーストインプレッション] ちょっとホッとした。これは簡単だわ。得点調整用の問題なのかな。とはいえ、重要知識も含まれているので、軽視してはいけません。
[解法] 誤りは④。東南アジア各地に中国からの移民(華僑)やその子孫である中国系の人々(華人)は多いものの、さすがに彼らが多数派になっているのはミニ国家であるシンガポールのみ。フィリピンで大半を占めるのは先住系の人々。
①;ニュージーランドはイギリスの、フィリピンはアメリカ合衆国の植民地であったので、いずれも英語が公用語の一つとなっている。
②;ニュージーランドは移住してきたイギリス系の人々が多く、彼らの宗教であるキリスト教プロテスタントが多数。フィリピンはスペインの植民地時代にキリスト教カトリックが布教された。
③;ニュージーランドの先住民はマオリ人。イギリス人によって迫害された歴史があるが、現在は保護され、彼らの伝統文化は尊重されている。マオリ語も公用語の一つ。
[アフターアクション] 選択肢②にある東南アジアの宗教は必須。下にまとめておくので、絶対に知っておこう。
・カトリック・・・フィリピン・東ティモール
フィリピンはスペイン、東ティモールはポルトガルと、カトリックを信仰するラテン国家によって植民地支配され、カトリックが布教された。
・仏教・・・ベトナム・カンボジア・ラオス・タイ・ミャンマー
ベトナム・カンボジア・ラオスはメコン川に沿い、タイはチャオプラヤ川、ミャンマーはエーヤワディー川が国内を貫く。河川沿いに開けた低地では米作がさかんで、豊かな農業基盤を背景に仏教が広まった。仏教は「托鉢」の習慣があるため、農業地域でこそ成立する。いずれもインドシナ半島の国々。
・イスラム教・・・マレーシア・ブルネイ・インドネシア
北緯10°以南の島しょ部。かつて香料交易のため、アラブ商人たちが訪れ、イスラム教が広められた。
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[ファーストインプレッション] いや、解けない問題ではないのだが、かなり難しい部類に入ると思うよ。人口規模に関する感覺がないといけないのだが、フィリピンやチリは知っとけっていうのが無理なんじゃないか。
[解法] 「最大の都市圏(*)人口」に注目。それぞれの国の総人口を考えることがヒントとなる。ニュージーランドは500万人程度の小国であり、「最大の都市圏人口」が500万人を越えることは物理的に不可能なので、①が該当。
また、④では2000万人という極端に大きな値となっているが、人口3億人を有するアメリカ合衆国ならば、それも考えられないわけではない。ニューヨークを中心とした巨大都市圏の規模は、東京のそれに匹敵するのはないか。④がアメリカ合衆国。
また、①と④は老年人口率が他に比べて高く(それでも15%程度なので、日本や西欧に比べればかなり低いのだが)、両国が先進国であることと結びつく。ニュージーランドとアメリカ合衆国のいずれかと考えてみていいだろう。総人口が500万人というミニ国家であるニュージーランドが①に該当し、3億人のアメリカ合衆国が④となる。
で、残ったのが②と③なんだわ。両国の人口を知っておけば簡単なんだが、それも無茶な話と思うんだよなぁ。結果から言えば、フィリピンの人口は1億人規模であり、それに対しチリは2000万人程度。チリに1000万人を超える巨大都市が存在するとは考えにくく、②がチリとなり、残った③がフィリピンとなる。マニラを中心とした大都市圏は1000万人規模で極めて巨大。
なお、老年人口率については、チリもフィリピンも低い。いずれも人口増加率の高い国であり、出生率が高いことから幼年人高率が高く、相対的に老人の数は少ない。両国とも、離婚と中絶の禁じられたカトリック国であり、出生率が高い一つの要因となっている。
(*)都市圏というのは都市の影響範囲ことで、いわゆる通勤圏と一致する。東京都特別区部を一つの「都市」とした場合、都市そのものの人口は900万人程度であるが、都市圏人口は数千万人規模に達する。
[アフターアクション] 「解法」では国の人口で考えてしまったけれど、フィリピンはともかくとして(人口が大きい国として覚えておくことは可能)、チリの人口を知っておくというのはさすがに無理。もちろん「フィリピン>チリ」という知識だけあれば解答は可能なんだが、それでも受験生の負担が大きいことには変わりない。
ここは、むしろ「人口1000万人規模に達する都市」を覚えてしまった方がいいのかもしれない。有名な都市が多いので、さほど困難ではないと思うがどうだろうか。
以下に(知っておくべき)「1000万都市」を挙げておくので、ぜひとも確認しておこう。
(アジア)東京・ソウル・マニラ(都市圏)・ジャカルタ・ダッカ・カラチ・イスタンブール
(アフリカ)ラゴス
(ヨーロッパ)ロンドン・パリ(都市圏)・モスクワ
(新大陸)ニューヨーク・メキシコシティ・サンパウロ
なお、中国とインドの都市は除外してある。いずれも莫大な人口を有する国であり、そもそも中国やインドの都市名が登場した瞬間に「1000万都市」と決めつけていい。
なお、おまけで「500〜1000万」の都市も挙げておきますね。アジアでは、ホーチミン、バンコク。テヘラン。アフリカではカイロ。ヨーロッパは無し。新大陸では、リマ・サンティアゴ(本問で取り上げられていますね)、リオデジャネイロ・ブエノスアイレス。
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[ファーストインプレッション] オーソドックスな貿易統計。さらにニュージーランドとフィリピンはいずれも輸出品目に特徴がある国。確実にゲット!
[解法] 酪製品の判定は容易。世界広しといえど、これが主な輸出品目となっている国はニュージーランドのみ。ニュージーランドは本当に変わっている国で、工業も無ければ資源もない。かといってプランテーション作物の生産がさかんな国でもなく、比較的自給的要素の高い農畜産物が輸出品目の上位にある。要するに、自分たちが食べるために農業や畜産を行うのだが、余った分を輸出しているということ。もちろん「新大陸」であり、農牧業そのものは商業的な側面が強いのだが、国内の自給を満たした上での輸出であるので、アフリカの国々(こちらは商品作物の生産に特化し、穀物など自給作物については輸入に依存している)とは異なっている。ニュージーランドにしか存在しないYを「酪製品」とする。
さて、ここからがポイント。機械類はそれ自体の価格が高く、少量であっても輸出「額」においては高くなる傾向がある。それに比べて、野菜や果実は第1次産業の生産物であり、価格はさほど高くない。Xはニュージーランドとフィリピンにあり、Zはフィリピンのみ。これだけみて、「なるほど、両国に含まれているXが機械類だ」と判断しがちなんだが。。。実はそこは落とし穴なのだ!
とにかくニュージーランドに注意して欲しい。上でも述べたように、この国は「工業」、「鉱業」、「プランテーション作物」が存在しない国なのだ。酪農と企業的放牧、さらに混合農業が一部で行われ、その生産物である酪製品や肉類など第1次産業による品目が輸出品となっている。
そういった国において、第2次産業の品目である「機械類」が輸出されているのだろうか。別の言い方をすれば、ニュージーランドで機械工業が成り立っているのだろうか。一般的に先進国(1人当たりGNIの高い)で工業化が進んでいる。日本やアメリカ、ドイツは世界的な工業国であり、韓国もこれに加えていいだろう。しかし、君たちもよく知っているように、近年は1人当たりGNIの低い低賃金国(つまり発展途上国ですね)の工業化が著しい。中国や東南アジア、インド、東ヨーロッパ、メキシコなどいずれも機械類が主要輸出品目となっている。
これってどういうことなのだろう?昔は「垂直貿易」や「水平貿易」なんて言って、「先進国が発展途上国へ工業製品を輸出する」とか、「工業製品を先進国同士でやり取りする」なんていうのがスタンダードだったわけだが、これも過去の話だよね。「安価で豊富な労働力」を求めて、繊維工業や機械組立工業などは発展途上国へと進出しているし、または中国のようにマーケット(市場)の大きい国(GNIが大きいということ)では自動車の現地生産も行われている。輸出加工区では日本の衣料メーカーや電気機械メーカーが工場を設け、完成品を日本へと「逆輸入」している。あるいは日本の自動車メーカーが中国国内に日系企業を設立し、中国向けの自動車生産を行っている。そりゃ、中国が世界最大の(ダントツの!)工業国になるわけだよね。
さて、こういった状況をふまえた場合、果たして「ニュージーランドで工業が発達する」可能性があるだろうか。ニュージーランドは1人当たりGNIの高い先進国の一つであるが、人口規模は極めて小さく、GNIも当然小さい。1人当たりGNIが高いのだから、労動賃金水準も高く、外国から工場は進出しない。また、GNIが小さく、国内マーケットが小さいので、やはり外国から工場は進出しない。所詮は「小国」に過ぎず、ニュージーランドを本社とする電気機械メーカーもないだろう。この国が工業化する理由など一つもないのだ。そんなニュージーランドで機械類が輸出の上位品目になる可能性があるだろうか。
ニュージーランドと同じ条件(1人当たりGNIが高く、GNIが小さい)の国としてシンガポールがあり、この国は例外的に機械類の輸出が多いが、それは貿易に特化した商業国だという理由があるよね。機械類を輸入し、機械類を輸出する、シンガポール港は世界トップクラスの貿易額を誇る港湾であり、重要な中継貿易港である。「絶海の孤島」であるニュージーランドにそうした港があるとは思えない。
以上より、XとYはその候補から外れ、Zが「機械類」となる。フィリピンの貿易の半分近く(45.3%)を占めているわけだが、日本から多くの機会組立工場が進出している様子を考えて欲しい。フィリピンは、1人当たりGNIが極めて低い(3000ドル/人程度)であり、しかも人口が多い(1億人)のだから、安価な労働力が豊富に得られる。日系企業の進出により工業化が進んでいるとみて、実に妥当なのだ。以上より、正解は③。
両国で高い割合となっているXは「野菜・果実」であるが、これについてはどうだろう。フィリピンといえば、何と言ってもバナナだよね。南部のミンダナオ島には日本の企業が経営する大農園が開かれ、バナナがさかんに栽培されている。安価な労動賃金水準で、安いバナナが栽培される。
ニュージーランドはわかるかな。これは「かぼちゃ」だね。本来、痛みやすく保存が困難は野菜は、近郊農業で知られるように都市(消費地)周辺にて栽培されるのだが、固くて長期保存に適するカボチャはその限りではない。カボチャが収穫されるのは夏だが、冬でも日本の市場には出回っている。北半球と季節が反対になることを利用し、南半球においてカボチャがさかんに栽培され、日本へと送られているのだ。
[アフターアクション] あれっ、意外に難しかったな。結局この第5問という大問は異常なほど難易度が高かった。東南アジアが工業地域であることをどこまでイメージできるかって問題ではあるんだよな。「先進国は工業、発展途上国は農業」と考えると間違う。むしろ、「アジアは工業」って決めつけてしまっていいと思う。中国は世界最大の工業国であり(しかもダントツ!)、インドはコンピュータ大国、そして東南アジアもほとんどの国で最大の輸出品目は機械類であり、今やタイは世界的な自動車生産国である(日系企業だけどね)。
その反対に、「オセアニアは非工業地域」という決めつけも有り。センターに登場するオセアニアの国はオーストラリアとニュージーランドだが、オーストラリアの主な貿易品目は資源であるし、鉄鉱石や石炭を中国に大量に輸出している。ニュージーランドについては資源すらないので、農畜産物に輸出品が偏る。オーストラリアとニュージーランドは、いずれも1人当たりGNIが高い先進国で、人口が少ないことから、(豊富で安価な労動力を目的とした)外国からの工場進出がみられない。また、GNI(経済規模。1人当たりGNIと人口の積)が小さく、つまり国内マーケットが小さいため、この国で生産活動を行っても仕方ない。とくにオーストラリアなどは経済レベル(1人当たりGNI)は日本よりも高く、シドニーやメルボルンなどの巨大都市も存在するが、工業生産力は極めて低いので、違和感はあるかもしれないが、しっかり理解してほしい。
せっかくなので、発展編としてニュージーランドの農畜産物以外の輸出品目にも注目してみよう。本問の表では「アルミニウム」と「木製品・コルク製品」が登場している。アルミニウムは、一般的な工業大国だけでつくられているのではなく、アイスランドやノルウェー、そしてこのニュージーランドでも製錬が行われ、これら非工業国の主要輸出品目の一つとなっている。アイスランドは水産国であり魚介類の輸出が多いが、アルミニウムの輸出もみられる。ノルウェーは原油や天然ガスの産出が多い資源国だが、実はヨーロッパ最大のアルミニウム生産国である。農畜産国ニュージーランドでたった一つ存在する工業がアルミニウム製錬なのだ。この3カ国に共通するキーワード、それはもちろん「水力発電」だよね。ボーキサイトからアルミナを取り出し、それを電気分解することでアルミニウムが製錬される。「電気の缶詰」とも呼ばれるアルミニウムは極めて大量の電力をその製錬の際に必要とするので、できるだけ安価で安定した電力が得られる地域において、その工業が成り立つ。それが、アイスランドであり、ノルウェーであり、そしてニュージーランドなのだ。
なお、ニュージーランドのアルミニウム工業都市は、国土最南端のインバーカーギル。この付近はフィヨルド海岸が広がり、かつて存在していた大陸表によって削られた急崖が連続する。豊富な降水量(偏西風が吹き込むため、降水量が多いのだ)と険しい地形を利用して水力発電が行われ、アルミニウム工業と結びついている。
それにしても、ニュージーランド南端は緯度でいえば50°に達し、北海道より高緯度。それでいて冬でも凍らない(凍ってしまったら水力発電ができないよね。北海道は水力発電がさかんな地域ではありません)のだから、いかに偏西風や暖流がこの国の気候に大きな影響を与えているかがわかるよね。
さらに、「木製品・コルク製品」についても。ニュージーランドは「雪の降らない北海道」のイメージ。温暖な偏西風や暖流の影響によって冬でも温暖であり、温帯気候がみられる。現在はイギリスの支配によって国土の広い範囲が牧草地とされてしまったが、そもそも樹林に恵まれた森林国なのだ。木材の輸出も多く、それを利用した製品(木製品やコルク製品など)の輸出も行われている。